柚希礼音がシャンソンの世界に挑んだ一夜限りのリサイタル『REON et Chansons』オフィシャルレポート
を静かに歌いはじめる。僅かにハスキーでありつつ力強さもある柚希の声質が、新たなシャンソンの魅力を感じさせるオープニングだ。
ここから舞台は、柚希の大先輩に当たる、宝塚歌劇団が生んだ不世出の大歌手・越路吹雪の人生をゲストの俳優・市毛良枝が語り、場面、場面にあったシャンソンを柚希が歌っていく形で綴られていく。トップスターに上り詰めた宝塚時代から、退団後にミュージカルの舞台で主演をしつつ、本物の歌が唄いたいとシャンソンに傾倒していく越路と、彼女を生涯に渡りマネージャーとして、また訳詞・作詞家として支え続けた岩谷時子の盟友関係が、歌う柚希と語る市毛によって表現される構成の流れは滑らかだ。ただ、だからと言って決して舞台は音楽劇にはならない。それこそ場面、場面で華やかに着替え続けることも、越路吹雪としての台詞を発することも、しようと思えば造作もないはずのステージングのなかで、柚希は深紅のドレスのまま、無言で市毛の語りにうなづき、表情で応えるのみで、「枯葉」「ラストダンスは私に」「サン・トワ・マミー」等々、越路が得意としたレパートリーを歌い継いでいく。そのあくまでもこの舞台はシャンソンのリサイタルだとの、抑制の効いた小林の構成が潔いし、それでいて柚希の持つ芝居心が、迷い悩みながら自分の歌、自分のシャンソンを見出していく越路の人生に添って、歌い方もどんどん深く、豊かになっていく様が絶妙だ。