竹久夢二の幻の傑作《南枝早春》を新収蔵! 夢二郷土美術館60周年特別展で一般公開へ
大正浪漫を代表する岡山県出身の詩人画家・竹久夢二。その随一のコレクションを誇る、同県にある夢二郷土美術館が創立60周年を迎える。今年度、最晩年の夢二がドイツ・ベルリンで描いた絵画《南枝早春(なんしそうしゅん)》が新収蔵され、6月29日(月)に開かれたプレス発表会で初公開された。本作は9月4日(金)〜12月6日(日)、夢二郷土美術館で開催される『夢二郷土美術館創立60周年 特別展 夢二とドイツ』で待望の一般公開となる。
叙情的な美人画で一世を風靡した夢二は、1931年から2年間、より新しい画風を求めて欧米を外遊した。1933年にはベルリンに滞在し、画家・デザイナー・教育者のヨハネス・イッテンがバウハウスから独立して開校した画塾「イッテン・シューレ」で日本画の講師を務めた。《南枝早春》は、通訳をはじめベルリンでの展覧会や生活を支援した外務省の商務官、今井茂郎夫妻に、夢二が感謝を込めて贈った作品だ。読みかけの本を広げてもの思いにふける女性は、茂郎の妻・公子夫人をイメージしたと思われる。
本作は第二次世界大戦中に日本に持ち帰られ、その後も遺族によって門外不出として大切に保管されてきたが、今井家の息子夫妻から「ぜひ夢二の故郷にある夢二郷土美術館に」と寄贈を受け、90年を超える時を経て里帰りに至った。
6月29日に行われたプレス発表会にて。左から夢二郷土美術館の小嶋光信館長と、小嶋ひろみ館長代理画像提供:夢二郷土美術館
画讃には「千九百三十三年 南枝早春伯林 夢生」と制作年やタイトル、サインが墨書きされている。日本髪に赤い着物をまとった女性は、西洋風の瞳が印象的で、背景には雪がふんわりと積もった梅の枝が描かれている。日本画の画材を用いながら油彩画を思わせる重厚な色づかいや西洋的な画面構成などを取り入れた表現が特徴的だ。修復のために科学調査を行った結果、墨や胡粉、金泥などの日本画の画材に加えて、現地で調達したと思われるエメラルド緑やクロム緑などの画材が使用され、画材紙ではない厚みのある紙を4枚接合して彩色している可能性があることが明らかになった。「新しい画風でありながら夢二式美人の芯を持つ作品。ヨーロッパへ渡る前の滞米中、積極的に油彩画に取り組んでいた夢二が、ベルリンで日本画を教える中で、墨の線など日本画を再認識し、自らも新しい日本画に挑んでいたことがうかがえます」と小嶋ひろみ館長代理は語る。
また、西洋の生活空間に合わせた額装を前提とし、西洋と東洋の融合を目指して表現された晩年の境地ともいえる。
初公開のスケッチ1932-33(昭和7-8)年(正木不如丘旧蔵スケッチブックより)
1933年のベルリンはナチス政権下であり、夢二は日記の中でその不穏な動向を危惧している。『夢二郷土美術館創立60周年 特別展 夢二とドイツ』では、日本で夢二の最期を看取った医師、正木不如丘旧蔵のスケッチブックから《南枝早春》と同時期に描いたスケッチも併せて初公開される。夢二のドイツ時代に焦点を当てた展覧会は、歴史的・美術史的にも貴重な証言となることだろう。
杜の街グレースで開催中の夢二郷土美術館創立60周年特別イベント「YUMEJI POP-UP MUSEUM in 杜の街グレース」。ミュージアムグッズの販売(期間限定 8月30日まで)や夢二作品が空間を華やかに彩るフォトスポットも設置。画像提供:夢二郷土美術館
なお、現在、杜の街グレースでは9月27日(日)まで、夢二郷土美術館創立60周年特別イベント「YUMEJI POP-UP MUSEUM in 杜の街グレース」、夢二の木版画と現代アーティストの版画が出会う展覧会「HANGA 夢二と現代アート」が開催中だ。「YUMEJI POP-UP MUSEUM in 杜の街グレース」では、大判のタペストリーによるインスタレーションで夢二の世界観に浸りながら、美術館の軌跡をたどる60年のアーカイブなどが見られる。
「HANGA 夢二と現代アート」では、美術館所蔵の版木から手刷りで制作された復刻木版画50点を展示。肉筆画の代表作や夢二が装丁をした楽譜や雑誌、挿絵、さらに夢二が描いたねこをテーマにした「夢二のねこ」シリーズなどが並ぶ。これらはクリストやカバコフ、山本容子など現代アート作品とともに鑑賞できる。秋の《南枝早春》公開を待ちながら、ひと足早くこちらも楽しみたい。
「HANGA 夢二と現代アート」では、復刻制作した夢二の版画作品とともに、現代作家たちの多彩な平面作品が展示されている。
文:白坂由里
<開催情報>
「YUMEJI POP-UP MUSEUM in 杜の街グレース」
会期:2026年7月3日(金)~9月27日(日)
会場:杜の街グレース 杜の街プラザ2階
時間:11:00~18:00
※ショップエリアは11:00~15:00、月曜休、8月30日(日)までの期間限定開催
「HANGA 夢二と現代アート」
会期:2026年7月3日(金)~9月27日(日)
時間:11:00~18:00
会場:アートラウンジ [Le Metté Adeline (ルメテ アデリン)](杜の街グレース 杜の街プラザ2階)
『夢二郷土美術館創立60周年特別展 夢二とドイツ』
会期:2026年9月4日(金)~12月6日(日)
会場:夢二郷土美術館 本館