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手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中

ぴあ
手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中


ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』が12月12日、東京・シアタークリエにて開幕した。『あしながおじさん』のタイトルで広く親しまれている、孤児のジルーシャと若き慈善家ジャーヴィスの恋物語を、『レ・ミゼラブル』や『千と千尋の神隠し』を手掛けたジョン・ケアードの脚本・演出で創作した“二人芝居ミュージカル”。日本では2012年の初演以降、過去6度上演されている人気作品だ。長らく井上芳雄、坂本真綾の出演で上演されていたが、2022年には坂本の産休にともない上白石萌音が出演。3年ぶりとなる2025年版は坂本も復帰し、ジルーシャを坂本と上白石のダブルキャスト、ジャーヴィスは井上のシングルキャストという体制で上演する。初日に先駆け12月11日に報道陣に公開された、上白石ジルーシャバージョンのゲネプロをレポートする。

本をめくるように味わう、静謐なラブストーリー

手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中


物語は原作小説と同じく、ジルーシャがダディに宛てて書いた手紙の形をとって進行していく。孤児院に暮らす少女ジルーシャはある日、院の理事の一人から、大学へ進学するための奨学金を援助しようという手紙を受け取る。
条件は月に一度彼に手紙を書くこと。人となりのまったく見えないこの支援者にジルーシャの想像は膨らむばかり。一度だけシルエットで見た姿はまるで足長蜘蛛(ダディ・ロング・レッグズ)のように足が長く、ジルーシャは彼をダディ・ロング・レッグズと呼び慕っていく。一方でダディの正体であるジャーヴィスは、上流階級に育った青年で、ジルーシャの文学的才能を伸ばすために援助を申し出たものの、予想以上の才気を見せる彼女の手紙に夢中になり、やがてジルーシャ自身に惹かれていく。だが「きっと年寄りに違いない」というジルーシャの思い込みで作り上げられたダディ像と自身とのギャップに苦しみ、彼女に自分の正体を打ち明けることができない……。

手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中


まさに本のページをめくっていくような気分になる、大事にじっくり味わいたいミュージカルだ。舞台面には重厚感あるウッディな床や壁、背の高い本棚に囲まれた書斎、アンティークなトランクケース。セットもクラシカルでぬくもりがあり、穏やかな空気を運んでくれる。
その中で紡がれる、ジルーシャとジャーヴィスの心の交流。手紙はジルーシャからジャーヴィスへの一方通行だが、手紙を読みながら驚いたり笑ったり戸惑ったりするジャーヴィスの表情が、原作小説にはない「二人の物語」といったふくよかさを生み出すのは、舞台版ならではの面白さだ。今期の井上ジャーヴィスは、「自分はあなたに関心を抱かないし、自分のことも詮索しないよう」という無機質なメッセージをジルーシャに伝えておきながらも、最初から面白がっているような表情を隠さず、大人の余裕も感じさせる。その彼がどんどんジルーシャに惹かれ、時に子どものようなふるまいもしてしまうところがなんともかわいらしく、“大人の不器用な初恋”といったフレッシュな感情を瑞々しく見せている。

手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中

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上白石の演じるジルーシャは聡明さはあるがところどころ幼さも残る、純朴な少女。想像力の翼を広げているかのようなキラキラした大きな目が魅力的で、ジャーヴィスだけでなく誰もが愛さずにはいられないジルーシャだ。同時に、想像力は相手を思いやる優しさに直結するのだという、人間的大きさも伝わってくる。井上×坂本コンビと比べると“年の差カップル”だが、年上の井上ジャーヴィスを包み込むような包容力も感じさせる。
また上白石ジルーシャはダディへの感謝(と好奇心)を敬意をもって表現しているのだが、不思議と、過去に観た時より甘酸っぱく、恋の要素を強く感じたのが面白い。中でも卒業式に招待したダディが現れなかったジルーシャの失望は、失恋したかのような切なさでやるせなかった。

手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中

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舞台上には俳優が二人だけ、大きなセット転換もないが、非常に芳醇なものを舞台上から受け取ることができる作品だ。その中には、学ぶことの大切さや人間の成長、自立といった人生における大切なメッセージもしっかりある。音楽も穏やかで優しく、あたたかい。何よりも、ロマンチックだ。ジルーシャが新しい生活で出会っていく世界はキラキラとまばゆく、そんな輝かしい世界を客席で一緒に体験させてもらっているかのような、心の中の宝箱に大事にしまっておきたい宝石のようなこのミュージカルに今年も会えたことを幸せに思う。公演は1月2日(金)まで、同劇場にて。


手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中

井上芳雄、坂本真綾、上白石萌音再演を重ねて深まる作品への思い


同日、ゲネプロ終了後には井上芳雄、坂本真綾、上白石萌音による会見も行われた。以下、そのレポート。

――開幕を目前にした今のお気持ちは。

手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中

左から)上白石萌音、井上芳雄、坂本真綾
井上大好きな作品なので、とにかくいつでも、やれることが嬉しいです。さらに今回はジルーシャが二人いますので、豪華というか贅沢というか……申し訳ないなという気持ちでやっています(笑)。

坂本私にとってはちょっと久しぶり……5年ぶりなので、初演の時のような新しい気持ちで向き合えて、すごく刺激がいっぱいで楽しい稽古時間を過ごしてきました。ダブルキャストなので萌音ちゃんと一緒にステージに立つことができないのが残念なのですが、心の友がもう一人増えて、心強い気持ちでいっぱいです。

上白石今のお言葉を聞いて幸せな気持ちでいっぱいです。
私はお二人がずっと紡がれてきたこの作品の大ファンだったので、開幕するということが一番嬉しいですし、真綾さんのジルーシャにお客さまが会われるのは久しぶりだと思うので、それにもすごく興奮します。私もしっかりこの素晴らしい作品を、素晴らしい形でお届けできるように頑張ります。

――二人しか登場人物がおらず、出ずっぱりですが、演じていていかがですか?

井上年々集中力が下がり、大変なことをやっていたんだなと思うのですが、一方でラストシーンに至る喜びが回を重ねるごとに増していきます。幸せな作品だなと思っています。

――坂本さんは5年ぶりに演じていかがですか。

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坂本「関係ないよ」と言ってくださる人もいますが、やっぱり年齢を重ねたので、18歳に見えるかなという不安はありますが(笑)、それはさておき、今の自分にしかできないものもあると信じて頑張っています。井上いや、(初演の頃と)変わらないですよね。なんか不思議な薬でも飲んでるんじゃないですか、と思うくらい(笑)。


坂本やめてください(笑)。

井上でもやっぱり深みも増していますし、坂本さんとは同年代なので、同年代でやる喜びがあります。萌音ちゃんとは原作の設定に近い関係性でやる喜びがありますし、どちらも全然違う喜びがあります。

――上白石さんは坂本さんのファンだそうですが、一緒に演じていていかがですか。

手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中


上白石日々、真綾さんがたくさん考えていらっしゃること、その場で心に任せて生み出されるものが本当に魅力的で、すぐ真似したくなってしまうのをこらえるのが大変でした。なんとか自分のやり方を探してやらなきゃと思ってやっていましたが、本当は全部全部、真似したいくらいです。

井上幕が開いたら真似するって言ってました(笑)。

上白石(笑)。
やっているかもしれません(笑)。本当にそれくらい魅力的で、大好きなジルーシャを目の当たりにできて、本当に幸せです。たくさん勉強させていただきました。毎日「戻ってきてくださってありがとうございます」と、全国のファンの皆さんの声を代弁してお伝えしていました。

坂本稽古で私が出番を終えて席に帰ってくると「素敵でした」と言ってくれるんですよ(笑)。5年ぶりでただでさえ不安の中でしたので、褒めてくれる人がいるというのはすごく心の支えでした。本当に萌音ちゃんがいなかったら、ステージに立てなかったのではと思うくらい、感謝しています。

井上俺の立場は……(笑)。

坂本(笑)。

――改めて今回の再演に際して思うことは。

手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中


井上役や作品は自分のものではないと思っていますが、この作品に関してだけは、許される限りやりたい……(笑)。そう思うくらい、大好きなんでしょうね。二人も同じ気持ちかなと思いますが。

坂本本当に、改めてこの作品の素晴らしさ、役者にとってこの作品と巡り合えた幸運をラッキーだったなとありがたく思う日々でした。と同時にこの幸福感を、より多くの素晴らしい俳優の人たちに味わってほしいという気持ちもあります。

井上それはありますね。

坂本自分たちで独り占めしていいんでしょうかという気持ちも……。上白石私は、できる限り見続けたい作品なので……。

井上出演してるのに!

上白石必要な時に呼んでいただけたらいつでもやれますと言える状態にしておきたいと思います(笑)。

――手紙が重要なアイテムになっている作品ですが、最近皆さんは誰かに手紙を書きましたか?

井上僕は子どもの担任の先生に、息子のことを書きました。ちょっと怪我をしたので、その様子と「ご迷惑をおかけしています」ということを。

上白石私は文通している友だちがいて、伝えたいことがたまった時に便箋5・6枚書いて、切手を貼って、投函します。ネットでもつながっていますが、不思議と手紙を書くのと、メッセージでやりとりするのはまったく別なんです。より本音を書いたり、長さを気にせず書き殴ったりとか、自分のために書くような側面もあって。すごく大切な時間です。

坂本私は、芳雄さんにはお伝えしてなかったのですが、ちょっと萌音ちゃんと交換日記をはじめまして……。

井上えー、すごい蚊帳の外……。

坂本これから本番が始まるとなかなか会えなくなるので、同じ役を演じる仲間として、一言伝えたりしています。

上白石それを読むのが日々の楽しみです(笑)。

坂本あとは、3歳の子どもがいるのですが、将来子供が大きくなった時に読んで欲しいなって思って、手紙を書いてためています。年に何回かですが、1歳の時こういうことがあったよとか、こういうことができなかったよ、ごめんねとか。いつか読んでもらえたら、と。

井上めちゃくちゃいいね。

――最後に井上さん、楽しみにされているファンの方へメッセージを。

井上とにかく一人でも多くの方に見ていただきたい作品です。心をこめて毎回お届けします。今回は3人で届けられるのをとても嬉しく思っておりますので、ぜひ楽しみにして劇場にお越しください。

手紙が紡ぐ、静かで確かな愛の物語――ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』上演中


取材・文・撮影:平野祥恵

<公演情報>
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』

音楽・編曲・作詞:ポール・ゴードン
編曲:ブラッド・ハーク
翻訳・訳詞:今井麻緒子
脚本・演出:ジョン・ケアード

【キャスト】
ジャーヴィス・ペンドルトン役:井上芳雄
ジルーシャ・アボット役:坂本真綾/上白石萌音(Wキャスト)
2025年12月12日(金)~2026年1月2日(金)
会場:東京・シアタークリエ

公式サイト:
https://www.tohostage.com/ashinaga/

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