「生きる」こと自体が人間の存在意義なのだと肯定してくれる ―ミュージカル『ネクスト・トゥ・ノーマル』観劇レポート
写真提供/東宝演劇部
「終演後に客席からすぐに立ち上がれなかったのは後にも先にもこの作品だけ」――演出を手がける上田一豪が、初めて観た時のことをそう振り返る(公演パンフレットより)ミュージカル、『ネクスト・トゥ・ノーマル』がシアタークリエで上演されている。双極性障害を患うダイアナとその家族の葛藤をロックミュージックに乗せて描き、トニー賞の楽曲賞やピュリツァー賞にも輝いたブロードウェイ作品の、日本では9年ぶりとなる再演。2チーム制Wキャストのうち、まずは“安蘭家”(安蘭けい、海宝直人、岡田浩暉、昆夏美、橋本良亮、新納慎也)の回を観劇したところ、上田と同様に立ち上がれなくなってしまった。
ダイアナの病は何が原因なのか、どうすれば治るのか、家族や医者は彼女とどう向き合うべきなのか。そんな難しい問題に、ただ一つの正解など存在するはずがない。それでもミュージカルなら、何らかの正解を提示して希望や勇気、カタルシスを与えようとするのが定石というものだろう。だがこの作品は、それをしない。提示されるのは理想的な正解ではなく、登場人物それぞれが迷いながら、苦しみながら、疑いながらも選択する道の数々。
光を求めて迷い苦しむことこそ人生なのだ、「正しく生きる」「楽しく生きる」「希望を持って生きる」の前に、「生きる」こと自体が人間の存在意義なのだと、全力で肯定してくれるのだ。
実は筆者、ブロードウェイ版も日本初演版も観ているのだが、こんなにも心震えたのは今回が初めてだった。いやもちろん、テーマや演出の革新性には常々驚嘆していたが、何らかの正解を提示してカタルシスをもたらして欲しい思いがどこかにあったのだ。そうしないところにこそ独自性があると、ようやく気付けた理由として考えられるのは、まずは時代の変化。多様性の考え方が根付いたことで、本作を「双極性障害ってこういうことなんだ」ではなく、一口に双極性障害と言っても症状も向き合い方も百人百様ある中で、「この家族はこうなんだ」と受け止められるようになったのは、おそらく筆者だけではないだろう。
ミュージカル『ネクスト・トゥ・ノーマル』より、左から新納慎也・安蘭けい・海宝直人写真提供/東宝演劇部
そしてもうひとつの理由はやはり、上田を筆頭とするスタッフ・キャストが本作を尊び、自分の愛し信じるものが観客にも届くよう心を砕いていることではないだろうか。日本初演ではブロードウェイ版の演出がそのまま踏襲されたが、今回はセットも歌詞も動きも、すべてが“今の日本”の観客に届きやすいよう調整されている。その中でキャスト全員が痛切に役を生き――またそこに、とりわけ安蘭と新納が完璧な配分と方術で笑いをまぶし――、優れた作品が初演から時を経て再演されることの意義に満ちた緊密な舞台を作り上げていた。
取材・文:町田麻子
ミュージカル『ネクスト・トゥ・ノーマル』
2022年4月17日(日)まで東京日比谷・シアタークリエにて上演後、兵庫・愛知に巡演
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