2022年4月6日 12:00
「生きる」こと自体が人間の存在意義なのだと肯定してくれる ―ミュージカル『ネクスト・トゥ・ノーマル』観劇レポート
写真提供/東宝演劇部
「終演後に客席からすぐに立ち上がれなかったのは後にも先にもこの作品だけ」――演出を手がける上田一豪が、初めて観た時のことをそう振り返る(公演パンフレットより)ミュージカル、『ネクスト・トゥ・ノーマル』がシアタークリエで上演されている。双極性障害を患うダイアナとその家族の葛藤をロックミュージックに乗せて描き、トニー賞の楽曲賞やピュリツァー賞にも輝いたブロードウェイ作品の、日本では9年ぶりとなる再演。2チーム制Wキャストのうち、まずは“安蘭家”(安蘭けい、海宝直人、岡田浩暉、昆夏美、橋本良亮、新納慎也)の回を観劇したところ、上田と同様に立ち上がれなくなってしまった。
ダイアナの病は何が原因なのか、どうすれば治るのか、家族や医者は彼女とどう向き合うべきなのか。そんな難しい問題に、ただ一つの正解など存在するはずがない。それでもミュージカルなら、何らかの正解を提示して希望や勇気、カタルシスを与えようとするのが定石というものだろう。だがこの作品は、それをしない。提示されるのは理想的な正解ではなく、登場人物それぞれが迷いながら、苦しみながら、疑いながらも選択する道の数々。
光を求めて迷い苦しむことこそ人生なのだ、「正しく生きる」