King Gnuが見せた5年間の集大成、2日間で10万人が熱狂した初の東京ドーム公演オフィシャルレポート
(Photo:伊藤滉祐)
King Gnuが初となる東京ドーム公演を11月19日(土)・20日(日) に開催した。
本公演は、前身バンドSrv.Vinci(読み:サーバ・ヴィンチ)からKing Gnuへと改名し、初の楽曲「Tokyo Rendez-vous」をMusic Videoで発表した2017年4月27日からちょうど5年となる、2022年4月27日に開催が発表され、チケットは全席ソールドアウト。2日間で約10万人を動員した。当日はこれまでの集大成となるセットリストをメンバー4人のみで2時間以上にわたりパフォーマンス。本編ラストではサッカーワールドカップ開催と同時期に日本代表を応援する新曲「Stardom」がライブ初披露された。
以下、本公演のオフィシャルレポートをお届けする。
東京ドームの会場に入ると、眼前に拡がったのは廃墟のビルがそびえ立つ大きなステージ。LEDモニターの巨大さにも驚きを隠せない。
よく見るとビルはペイントされ、一つの巨大なアート作品と化している。2019年、『Sympa』ツアーのセットが東京ドームという会場に合わせて巨大に進化したようなセットだ。17時を過ぎ、会場に深遠なるシンセ音が鳴り渡る。沸き起こる拍手。突如暗転し、オープニング映像からスタート。
1曲目は、いきなりフルスロットルにギアを入れた「一途」からはじまった。縦横無尽にレーザーが飛び交うドーム空間。MC第一声は、常田大希(Gt.Vo.)による「King Gnuはじめるぞ!」とシャウト。
勢いそのままに、まさにこの日のためにふさわしいスタジアム・ロック「飛行艇」では、ダイナミックなビートに5万人の気持ちが早くもひとつとなった。ドームを沸かせるビートチューン「Sorrows」、「千両役者」が続き、疾走感溢れるアグレッシブなプレイで、会場の空気を沸点を超えてヒートアップさせていく。開始からたった数分、いきなりのハイライトシーンの連続に揺れる東京ドームの超満員の客席。
常田大希(Photo:川上智之)
2019年、メジャーデビューから3年で駆け上がった東京ドーム公演。しかも、二日間のチケットは即完だ。しかしながら、東京ドームだからといってKing Gnuは気負わない。注目すべきは、ライブハウス時代から変わらないオーディエンスとの関係性である。ドームやスタジアム公演でありがちな距離感は一切感じさせず、ポップチューン「BOY」における<君は誰より素敵さ>と歌うポジティビティ同様に、ハイレベルな音楽性でありながらも等身大に音楽と向き合う様にあらためて心揺さぶられた。
井口理(Vo.Key.)が開口一番に語りかけた「みなさん!こんばんはKing Gnuです。今ちょっと客電があがりましたけど、とんでもない人っすね……。上の方までぎっしり。全員、King Gnuが好きなんですよね?俺も好き。今日は、5万人も集まったので祭といきましょう。最後まで全力でついてきてください。よろしくお願いします!」。
井口理(Photo:川上智之)
ここからがすごかった。
ミディアムかつメロディアスなKing Gnuらしい世界観を表現する「カメレオン」、でかい空間が似合う「Hitman」、常田のピアノソロからはじまる名曲「The hole」で魅せていく、空間を支配する演奏力、そして没入感高いボーカリゼーションのヤバさ。ある種、今日1番の見どころとなった静かに熱いステージ。深遠なる雰囲気を漂わせるドラマティックなKing Gnuワールドの真骨頂を堪能させてくれたのである。
ここからは、King Gnuの4人が多彩な音楽センスに満ちた特異な音楽集団であることを証明するレパートリーのオンパレードが続く。照明ともども、サウンドに溶け合うようにたゆたう「NIGHT POOL」。そして、映像の浮かぶシアトリカルなポップセンスを堪能させてくれる「It’s a small world」。好きあらば、リズムを泳ぎだす新井和輝(Ba.)と勢喜遊(Drs.Sampler)によるテクニックに裏付けされたリズム隊によるズバ抜けた演奏力に、心が満たされていく。
火柱があがる中披露された新曲「Stardom」
十二分に会場が暖まったなか、国民的ヒット曲となった「白日」では、バラードから徐々にエモーショナルにロックする展開が絶品だった。
常田によるせつなきピアノ・メロディーから拡張するバンド・アンサンブルに鳥肌がたった。さらに、開かれたエモーショナルさを解き放つ「雨燦々」によるえもいわれぬ解放感。1億再生数を超えるナンバーが続く音楽のパワー。変わりゆく時代へのテーマソング。新境地の感動へと誘われる。
新井和輝(Photo:川上智之)
モニターに「PILLOW TOWN」とキャッチが映し出された幕間映像では、人形劇によるカオスな麻雀シーンが繰り広げられた。よくみると人形に紛れて井口が着ぐるみを着ていた。途中、勢喜によるドラムのアタック感強い響きから、「WAKE UP!」と現実へ呼び戻される。
そう、あの曲だ。
聴き手の心の目を開眼させてくれる「Slumberland」では、常田が拡声器片手にシャウト。ノイジーかつアバンギャルドなアレンジが、異様なほどに研ぎ澄まされたロック体験を刻みつける。歌詞における<Rock’n roller sing only ’bout love and life(訳:ロックンローラーは愛と人生しか歌えないんだ)>のフレーズが胸に響く。King Gnuというロックバンドのアイデンティティーの根幹だ。
勢喜遊(Photo:伊藤滉祐)
続く「どろん」では、ドープかつハードコアな展開へ。モニター映像も、グリッチ・エフェクトへとサウンドとともに変化していくからあらゆるシーンが見逃せない。常田がアコギを手にとり、井口とともに「破裂」をプレイ。
モノクロームな世界から色に溢れたドープな「Player X」では、サビで目の前の景色が開かれていく。新井によるシンセベースのうねりが勢喜のビートの鼓動とともに、ドーム空間へとダイナミックに響き渡る。
オーラスへの入り口は「Vinyl」だ。インディーズ時代のKing Gnuが注目を集めたきっかけとなった歌謡テイスト強めなナンバー。耳に残るキャッチーなフレーズの応酬、常田によるソリッドなギターが胸に響く。続いてトドメを刺す、ライブで欠かせないキラーチューン「Flash!!!」では、勢喜によるアップビートなドラミング、新井のスラップベース、左手でタンバリンでリズムを刻みながら右手でキーボードを弾きながら歌う井口。これでもかと盛り上がりが止まらないプレイの応酬で、会場のテンションがレッドゾーン最高潮へ。ラスト、セッション風にフリーダムに盛り上がるメンバー。そう、これぞ音楽の楽しさだ。
ここで井口が「ありがとう!あと2曲になりました。楽しい時間は早いですね。まだいけますかね?悔いを残さず帰りましょう!」とメッセージ。ここまで全18曲。King GnuのライブにしてはMC少なめ。ドーム公演初日含め、こんなにも楽曲に集中したライブはKing Gnu史上初めてかもしれない。
ラスト2曲は、「逆夢」によるせつなきメロディーが響き渡るナンバーからプレイ。高みへと昇り詰める高揚感。「新曲やります!」と、挑戦し続ける人のエネルギーに着火する「Stardom」では、文字通り炎があがりまくるステージ。ギリギリの精神状況で勝ちにいく人々を鼓舞するサウンドに一体感が生まれる会場。眩い光のなか、ラストを迎えるステージ。
Photo:伊藤滉祐
もっと広い会場でやりたいよね。ここがゴールじゃなくて。
アンコール、誰に指示されることなく自然発生的にオーディエンスによるスマートフォンのライトが光りだす。ゆらゆら瞬く光で埋め尽くされていく光景。
Photo:川上智之
再びステージに帰ってきた4人の勇姿。壮観な東京ドームの空間を見渡し、井口が感謝を述べた。「アンコールありがとう!昨日、帰りのタクシーでふと思い出したんだけど。僕らが、Srv.Vinciっていう前身バンドをやっていて、(覚えづらい名前だから)改名することになったときに下北沢で4人で飯を食いながら新しいバンド名どうする?って話をしたんですよ。(常田)大希がKing Gnuというバンド名を出してきて。意味も、ヌーの大群の王様ということで。この東京ドーム(の満員のお客さん)を目の前にすると、やっとKing Gnuになれたんじゃないかなと。今まで、名前負けしてました(苦笑)。いやほんと地道に4人で仲良くまじめにやってきて、この光景をみれて良かったと思います。じゃあ、昔から渋谷や下北でやっていた曲をやります」。
常田が爪弾くギターからはじまる、バンド初期から披露していたナンバー「McDonald Romance」が素晴らしかった。シンプルにメンバー4人が、メロディーと歌詞を噛み締めながらハモるライフソング。<もう財布の底は見えてしまったけど/それさえも笑い合った/それさえも恋だった>。そんなパーソナルな姿を5万人が見守るシーンに感情が揺さぶられていく。ああ、なんていい曲なんだ。なんて素敵なシチュエーションなんだ、と。
そして、4人の結束を確認したようにキラーチューン「Teenager Forever」へとなだれ込む本日数度目のハイライト。そう、会場の誰もが笑顔になるナンバーだ。途中、常田のマイクに井口が歩みより、ベースを弾きながら新井も近づいた。楽曲の決めポイントを3人一緒に<煌めきを探せよ>と歌い、それを笑顔で見守るドラマー勢喜という高まる構図。オーディエンスによる歓声があがる。忘れられないシーンだ。
Photo:伊藤滉祐
勢いそのままに、King Gnuはここからはじまったと言える大切な曲「Tokyo Rendez-Vous」で大団円を迎えるステージ。常田による感情むき出しのエモーショナルなギターソロが熱い。ここで井口が「ライブ楽しいね。次で本当に最後の曲なんでスマホライトを」と、5万人のスマートフォンが再び瞬きだす。
井口がラストにもう一言語りはじめた。「さっきね。やっと(名実ともに)King Gnuになれたって言いましたけど、もっと広い会場でやりたいよね。ここがゴールじゃなくて。5年でここまでいったんだから」。常田は「ちっちゃいライブハウスでやっていた曲を、(東京ドームでも)そのまま出来ているのがありがたいよね」。新井が「昔の曲も映えるよね」。勢喜が「でかい曲が多いんだよ」。井口が「良かったねえ」。常田が「良かったよ」という、一連のやりとりに和む5万人。
ラストは、ゆるやかな高揚感に酔いしれる「サマーレイン・ダイバー」で5万人がひとつの思いで通じ合った東京ドーム。まさに夢が叶った瞬間だ。あの日、ライブハウスで生まれた楽曲が、変わらずに東京ドームで鳴り響く感動。演奏後、ステージ前方にて肩を組み深々と頭を下げる4人。
キング率いるヌーの群れは、仲間を巻き込みどんどん大きくなってきた。5万人(二日間で10万人)が集まった東京ドームでの景色を一生忘れることはないだろう。バンド、オーディエンスにとって大切な時間となった夢の光景だった。どこにも属さない誰にも似ていない、オリジナリティーの高さ。King Gnuは変わることなく音楽を続けていく。ヌーの群れの旅は続いていくのだ。
Photo:伊藤滉祐
Text:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
<公演情報>
King Gnu Live at TOKYO DOME
11月19日(土)・20日(日) 東京・東京ドーム