w.o.d.×キタニタツヤ お互い切磋琢磨し合える仲間「『BLEACH』対バン」
(Photo:小杉歩)
Text:小川智宏Photo:小杉歩
w.o.d.が主催する東名阪対バンツアー「w.o.d. presents “スペース・インベーダーズ VI”」。名古屋公演に続いて7月12日に開催されたZepp DiverCityでの東京公演にはキタニタツヤがゲスト出演。ホストのw.o.d.とともにそれぞれのスタイルで熱いライブを繰り広げて見せた。その模様をレポートする。
「キタニタツヤです、よろしく!」という挨拶とともにけたたましくかき鳴らされたギターが熱狂の幕開けを告げる。先陣を切るキタニの1曲目は「スカー」。一心不乱に放たれるバンドのサウンドが会場の温度を一気に高めていく。そこにすかさず投下されるのが、まったく毛色の違う「次回予告」というのも憎い。
掴めそうで掴めない、数多の引き出しをもつ彼というアーティストならではの展開に、フロアも腕を上げて応戦する。
たった2曲でZepp DiverCityの空気を完全に掌握したキタニは、その後もライブの鉄板曲「悪魔の踊り方」にずっしりとしたリズムの中アンセミックなスケールで繰り出されるミドルチューン「永遠」と、幅広い音楽性でフロアを翻弄していった。
MCでw.o.d.のライブを初めて観たのが2021年に開催された『SPACE INVADERS 5.5』の東京公演(Age Factoryとのツーマン)だったというエピソードとともに出演できた喜びを語りつつ、ライブはさらに続いていく。
初期の名曲「芥の部屋は錆色に沈む」を鋭利なサウンドとともに披露すると、ダークなギターリフが不穏なムードを浮かび上がらせる「夜がこわれる」へ。言葉を吐き出して闇を暴き出すようなキタニの低音ボーカルが場内の空気をピリッと引き締める。先ほどまで手を振り上げて盛り上がっていたオーディエンスが一転みじろぎもせず聴き入っている姿がとても印象的だ。
そしてその闇をアッパーなビートとともに突き抜けるような「Moonthief」へ。ハンドマイクで体を揺らしながらフロアに歌いかけるキタニ。
今度はフロアに漂っていた張り詰めた空気が瞬時にして解れ、人並みがゆらゆらと動き出す。さらに「聖者の行進」を繰り出せば、オーディエンスから大きな手拍子が巻き起こる。持てる武器を駆使しながらひとつのストーリーを紡ぎ上げていくようなライブには堂々たる貫禄すら感じる。
「楽しいです、どうもありがとうございます!」と改めて感謝を述べつつ、「MVを観てw.o.d.を初めて知って。すぐにSNSをフォローして、DMして『ライブ観にいかせてくれ』ってお願いした」とw.o.d.との出会いを振り返るキタニ。
彼はそのとき「こんな時代に、自分と同世代でこんなピュアなバンドがいるんだなって感動した」のだという。「過去とか未来を考えさせる余地がないピュアさ。クソほど短い人生を、本質的じゃないものを全部捨てて『今を見ろよ』って思わせてくれる。
w.o.d.は現代のバンドとして珍しい、そういうピュアさを持っている」。w.o.d.というバンドを言い当てたそんな言葉にフロアから歓声が飛ぶ中、ライブは終盤へ向かっていく。
優しく広がるような「タナトフォビア」と力強い「Rapport」のコンボから5月にサプライズリリースされた「ずうっといっしょ!」を披露すると、ラストは「青のすみか」。代表曲で会場をひとつにすると「また会いましょう」と手を合わせて帰っていった。
そしていよいよw.o.d.の登場だ。広いZeppのステージの中央にぎゅっと集められたアンプや楽器が期待感を煽る。SEとしてヴァニラ・ファッジによるビートルズ「チケット・トゥ・ライド」のカバーが鳴り響く中登場したサイトウタクヤ(vo/g)、Ken Mackay(b)、中島元良(ds)の3人。思い思いに楽器の感触を確かめると、刹那、サイトウのギターリフが鳴り響いた。
オープニングを飾るのはいきなり「STARS」だ。ド派手に点滅するライトが瞬時に最高潮に達したフロアを照らし出す。元良の叩くタムの力強い響きが、暴れ回るKenのベースが、そしてサイトウのシャウトが、転換を経て少し落ち着いた場内のボルテージに火をつけていく。そのままサイケなボーカルのエフェクトが脳をぐわんぐわん揺らす「楽園」へ。けもの道をアメ車でガンガン突き進むような馬力と破壊力。さっきキタニが言っていた「ピュア」という言葉の意味がなんだか分かる気がする。脇目も振らず今ここで鳴っている音と格闘し、目の前のオーディエンスにぶつける、ただそれだけに命を懸けるバンド。だからその音は自然と熱を帯び、生命体のようなうねりを生み出していく。
ベースとドラムが重いリズムをぶん回す「Fullface」を終え、「『スペース・インベーダーズ VI』、どうすか?」とフロアに問いかけるサイトウ。当然フロアからは歓声が上がる。会場を見渡して「なんか、でかいっすね……そうでもないか」とひとりごとのように呟くと、MCもそこそこに「遊びましょう」と次の曲へ入っていく。
アシッドなグルーヴが冴え渡る「Kill your idols, Kiss me baby」へ。反復するリズムと螺旋を描くように上昇していくベースラインでオーディエンスをぶっ飛ばすと「lala」へ。〈lala〜〉のコーラス部分ではフロアに歌を預けるサイトウ。満足げに頷くと、バンドは怒涛のアウトロセッションに突入していった。それぞれの楽器と格闘するようにして音を鳴らすと、そこから一気に急旋回。
鳴り響いたのはシンプルに突き抜けるガレージ・ナンバー「1994」。元良が体全体で叩くエイトビートにのって、サイトウの歌うメロディが瑞々しく広がる。さらに一呼吸おいて「夏の曲やります」と「陽炎」へ。明るい光がステージに降り注ぐ中、爽快なギターと優しさを帯びた歌が最近のうだるような暑さとは違う、青くて美しい「夏」を連れてきてくれた。
3ピースのアンサンブルが塊になってこちらの体にぶつかってくるような「バニラ・スカイ」を経て披露されたのは「オレンジ」。タイトルどおりオレンジ色のライトに照らされたサイトウがギターを弾き歌い始める。あたたかくて柔らかなサウンドがじんわりと染み入ってくるようなパフォーマンスだ。
土臭かったり尖っていたりすることもあるw.o.d.の音だが、サイトウの歌とメロディにはいつもどこかに優しさがある気がして、それがなんとも心地よい気分にさせてくれる。
もしかしたらそれが「ピュア」ということなのかもしれないな、と思う。ベースを弾くKenもリズムに合わせてゆらゆらと体を揺らすオーディエンスに穏やかな眼差しを注いでいる。曲を終え「ありがとう」と口にするサイトウに、フロアからはあたたかな拍手が送られた。
ミディアムチューン「あらしのよる」を丁寧に届けると、ギターをチューニングしながら「キタニタツヤに大きな拍手を」とサイトウ。リハを観て「めちゃくちゃかっこよくてびびった」という彼は、この対バンが「『BLEACH』対バン」だと口にする。そう、キタニは「スカー」でTVアニメ「BLEACH 千年血戦篇」のオープニングを、w.o.d.は「STARS」でその続編である「BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-」のオープニングを務めたのだ。その縁もあってこの日の会場には『BLEACH』の原作者・久保帯人先生からの祝花も届けられていて、元良も「あのプレート持って帰りたいもんな」と無邪気に喜んでいた。
仲間と一緒に進んでいくという思いを込めたこのイベント。まだ打ち解けるところまではいっていない(サイトウ曰く「会話していても目が合わない」らしい)キタニも「仲間だと思ってます」と力強く語ると、ライブはいよいよラストスパートに突入していった。
6月に配信されたばかりの新曲「エンドレス・リピート」(渦を巻くようなベースリフが最高)に続いてアクセルをグッと踏み込むような「イカロス」でさらに出力を上げると、サイトウのリフが炸裂し「Mayday」へ。ジャンプするオーディエンスでフロアが揺れる。そのオーディエンスをさらに踊らせる「踊る阿呆に見る阿呆」をぶちかます3人。Kenがステージのいちばん前まで出てかき鳴らすベースと元良の打ち鳴らすカウベルの音がダンスパーティの合図だ。Zepp DiverCityにピークタイムを生み出すと、ラストは「My Generation」。果てるまで上げ切ると、「バイバイ!」と3人はステージを降りたのだった。
<公演情報>
『w.o.d. presents “スペース・インベーダーズ VI”』
2024年7月12日(金) 東京・Zepp DiverCity
出演:w.o.d./キタニタツヤ