【ライブレポート】戦慄かなのワンマンライブ「karma with you」
Photo:稲垣健一
セルフプロデュースにより様々な形でアイドル活動を展開している戦慄かなの。ソロでは2回目となるワンマンライブをZepp Shinjukuで行った。彼女のイメージは、名前だけ知っている人、グループ時代に見ていた人、現在のコアなファンなど層によって大きく違う。ライブではどんな姿を見せているのか。ニュートラルなところからレポートをお届けしたい。
戦慄かなのは、実妹の頓知気さきなとのユニット・femme fataleとしても活動するほか、自身のコスメブランドをプロデュースするなどの一面も持っている。
ソロでは今年1月に初のアルバム『Solitary』をリリース。水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミらのサウンドプロュースで、独自のポップセンスをより尖ったアプローチで昇華させた作品となった。
そして、今回のソロワンマンは1月に続き2回目。Zepp Shinjukuに集まったファンの9割は女性だ。それでも「今日はめちゃくちゃ男の人がいる」と、途中のMCで戦慄が話していた。
暗転した会場にピアノのSE。雨音やラジオのノイズ、鼓動が重なる。ステージの幕にライトが当たり、戦慄のスレンダーなシルエットが浮かび上がった。そのまま「broken」をアンニュイに歌い出す。
幕が落ちると、サバイバル風な衣装の本人がお目見え。
ショートバージョンで歌い終わるや、「ice blink」の扇動的なビートとサンプリングボイスに乗って、10人の女性ダンサー=戦慄ビッチーズが入ってくる。そのセンターでクールに踊り、刺すように歌う戦慄。ステージにはスモークが噴き上がり、レーザーも飛び交った。
重低音が響くジャージークラブの「drop」では、戦慄とビッチーズが腰を落としてヒップを振りまくるトゥワークを披露。戦慄は「お尻祭り」と呼んでいるそうで、11人でキレッキレな動きを揃えるのは刺激的だ。スタッカートを効かせる戦慄は、フロアに膝を立てて座ったり立ち上がったりと、カッコいいセクシーさを見せた。
煌びやかなショウを思わせた序盤。アイドルであれ、アーティストであれ通常の音楽ライブで味わうのとは少し違う、アミューズメントにワクワクするような高揚を覚えた。
ピンクのタイトなコルセット風の衣装に着替えると、新曲のチルアウト系ヒップホップ「Ride my wave」は、キャップを被った男性ダンサーふたりと共にパフォーマンス。ミディアムテンポに揺れながら、背中を向けて体をあてがうような絡みも見せた。
<あなたを迎えに遠くの星から来ました>で始まる人気曲「baby ufo」では、ビッチーズから4人がメイド衣装で入ってフォーメーションを組み、ファンタジー感を醸し出す。続けて、前日に自ら監督を務めたMVを公開したばかりの「karma with you」を浮遊感のあるラップで歌っていくと、トラックのループも相まって、夢うつつでまどろむような心地良さが感じられた。
「今日、変な夢を見たんです。シェフがニンジンを切っていて、半分は料理に入れて、半分はウサギにあげていて。夢占いで調べたら、動物に食べ物を与えるのは幸せになってほしい人がいるとか、みんなに対する愛が溢れているという深層心理らしくて。素晴らしい夢を見たと思って、みんなに言いたかったの」
気取りのないMCを挟み、イスに座って、ゲストのサクライケンタのエレアコ1本でのカバーコーナーに。
Original Loveの「接吻」を素朴に歌い上げ、間奏でおもむろにブーツを脱いで裸足になっていた。「暑くて脱いじゃった」と言うと、次は盟友かてぃとのユニット・悪魔のキッスのナンバー「unhappy birthday」。
冒頭からエレクトロサウンドにダンスをフィーチャーして、見せるステージを繰り広げてきたが、ここでは戦慄の柔らかい生身の声が全面に。歌心があるというのだろうか。飾り気はない中で胸に響いて聴き入らせた。
二度目の衣装替えで、キャミソールに蝶をあしらったデニムパンツのいでたちになると、ラストスパートへ突入。クールなテクノチューン「moist」はひとりで踊る。ステージの左右いっぱいに広がる2枚の布がユラユラと上下する間に立ち、ターンを繰り返し、フロアダンスも織り交ぜて。
しなやかに緩急を付けたムーブが美しい。
「撮影OKです」と告げると、ハンドマイクで「soda」を歌いながら、フロアへ降り立った。一斉にスマホカメラを向けられながら、もみくちゃの中で柵も越えて後方まで歩いていく。「動けないんだけど!」などと笑って叫んだり、戦慄も楽しそうだ。
ステージに戻ると間髪入れず、「unstable」を繰り出した。ハイテンポで言葉を乗せていきながらユルさが漂うのは、戦慄の歌声マジックか。ビッチーズと共に背中を向けて「ヘイ!ヘイ!」からの「distacne」では、トラップ風のサウンドにラップも織り交ぜ、流麗なダンスを見せていく。アタック感も強くガールクラッシュを思わせるが、戦慄が掲げ続ける“ファビュラス”の体現でもあるだろう。
「次は最後の曲。私、予定調和が大嫌いで、本当に最後の曲なんです。アンコールとかないんです、私のライブ」
ステージの床に座って、そう話し出した戦慄は、10分以上に渡り、自分の心情を語った。少し長くなるが引用する。
「戦慄かなのを実像として応援してくれる人の気持ちが、正直わからない。私の夢がみんなの夢ではなくて、『みんなを〇〇に連れていく』という気持ちで活動しているわけではないんですよね。それでも応援してくれると、その愛に報いたいと思うんですけど、どうやったらみんなを喜ばせられるのか、全然わからなくて」
「私は少年院にいるときから、こういうふうになる未来が見えていたんです。18歳で少年院を出てからずっと、今の私になるための努力を1日も怠ったことなく、生きてきました。
でも、外面だけが良くなって、昔の自分が取り残されてる。私が私を演じているみたいで、本当の自分がどこにいるのか、自分が誰なのかわからなくなるときがあって」
「女の子っていろいろ損していると思うことも多くて。でも、男の人を羨ましがって、女であることを憎むのは惨めじゃないですか。女の子であることを誇れるようになりたいと思って、今の私が表現していることになったんです」
「悔しいこと、理不尽なことが多すぎて、どう抗議してやろうかと思うけど、最近は諦めモード。だから、決めたことがあって。詳細は言えないんですけど、それまでは私であることを頑張ろうと思っています」
後半は涙まじりになっていた。泣いていた観客も少なからずいたようで、戦慄は「みんな何泣いてんの?」とも言っていた。こうした話をダイレクトにファンにしたのは初めてかもしれないが、楽曲や様々な活動から元より想いは伝わっていたのだろう。戦慄が女性に圧倒的な支持と共感を受ける一因が、そこにある気がする。
「みんなに何をしてあげられるか、私はまだわからないから、『みんなが幸せになりますように』と毎日祈ってます。それくらいしか、できることがないので。その気持ちを込めて、今日のワンマンはパーティーみたいにしたかったんです。ピッタリな新曲を用意してきたので、聴いてほしいなと思います」
そう言ってラストに歌ったのは「Pinky gang」というナンバー。おごそかなピアノのイントロで始まりながら、軽快で爽快。ステージにシャボン玉が飛んで、戦慄の透明感のあるボーカルがリズミカルに響く。<好きなことだけで生きていいんじゃない?関係ないもん>とのフレーズが耳についた。
曲の途中で「このライブに携わってくれた素晴らしい皆さん」と呼び込み、戦慄ビッチーズやメンズダンサー、「何故かここにいる」相棒のかてぃから、裏方のヘアメイク、制作スタッフ、振付師、マネージャーに至るまで、一人ひとりを紹介していった。
特効で蝶の形の銀テープが会場中に放射され、戦慄は笑顔で「来てくださって、ありがとう」と言いながら手を振り、投げキッスをしてステージを後にした。
エンタテイメント性に溢れたライブだったが、他のどこでも観たことがないものを観たように思った。会場が宇宙でひとつの別空間と化して、そこに戦慄かなのと共にいることが至福に感じられて。この感覚を一度味わうと、病みつきになりそうだ。終演後のスクリーンでは、9月の生誕イベントと今冬のソロで初の全国ツアーも発表された。
Text:斉藤貴志Photo:稲垣健一
<公演情報>
Kanano Senritsu One man live「karma with you」
6月28日(水) Zepp Shinjuku