the dadadadys、最高のロックをぶち上げた『EP RELEASE TOUR』東京公演をレポート
Photo:小杉歩
Text:小川智宏Photo:小杉歩
the dadadadysによる『憂さ晴らせ♪ EP RELEASE TOUR』東京公演が12月13日(金)、新宿LOFTにて開催された。EP収録曲はもちろん過去曲もふんだんに盛り込み、オーディエンスとともに最高のロックをぶち上げた一夜をレポートする。
実は今回のツアー、当初はオープニングアクトとしてdadadadys MK-IIなるバンドが出演予定だったのだが、来日中止に伴いキャンセル、結果としてthe dadadadysによるワンマンライブになった。MK-IIとはオフィシャルサイトのプロフィールによれば「2000年初頭あたりから、東日暮里を拠点に活動。関東のアンダーグラウンドシーンではカルト的人気を誇っていた」バンドで、長らく活動していたところに彼らから強い影響を受けたthe dadadadysの小池貞利から熱烈オファーを受けてツアーへの参加を決めたという。ふむ。ともあれ、伝説のバンドを観ることができないのは至極残念だが(小池のMCによれば来日中止の理由は「ビザが下りなかったから」らしい)、それを補ってあまりある熱量と勢いでthe dadadadysはライブを繰り広げ、新宿LOFTは最初から最後までとんでもない熱狂に包まれたのだった。
天気予報、ファンファーレ、チャイムや時報に万歳三唱などがミックスされたSEが鳴り響き、レザージャケットに身を包んだ小池をはじめ、儀間陽柄(g)、佐藤健一郎(b)、yucco(ds)、山岡錬(g)が登場、小池が絶叫して「嵐坊」を歌い始める。
前のめりなロックンロールが加速していくにつれてフロアも一気に沸騰する。「何も叶っちゃいない、何にも届いちゃいない。都会はちっとも暖かくありません!」と立て続けに「暖かい都会から」へ。フロアがぎゅっと圧縮され、シンガロングが巻き起こる。
小池貞利(vo/g)
儀間陽柄(g)
「奴隷の唄」ではドシャメシャなビートが鳴り響く中、小池も飛び跳ねながら歌い叫び、「安定なんて求めちゃいないぜ、安心なんて求めちゃいないぜ。俺はグレーな世界を攻めに行く! ギリギリの遊びをしよう!」と始まった「ROSSOMAN」では炸裂するツインギターのリフにのせてみんなで「ROSSOMAN」の大合唱。日常の憂さをビリビリに切り刻んで振り払うようなロックが無限に爆発を繰り返し、観ているこっちの脳みそと心をぶっ刺していく。
「まだまだこれから遊べるぞ!」という言葉にのせて、山岡がサイケなリフを弾き始める。
そのセッションがだんだん密度を高めスピードを上げていき、「かき鳴らせ、削れ、焦がれるほど恋をしろ!」という小池の言葉とともに「OS!」へ突入する。ステージの上も下も組んず解れつ、すでに会場は最高潮である。その後の「PUXXY WOMAN」でも「にんにんにんじゃ」でもそうだったが、どの曲にもちゃんとオーディエンスの居場所があって、少しも閉じていない。小池の叫びや歌は、彼自身の心の中から放たれていると同時に、ここに集まった同志たちの心の代弁のようだ。
佐藤健一郎(b)
パンクに突っ走る「トリーバーチの靴」ではメロディに潜む切なさがどうしようもなく心を揺さぶる。この曲にしても、あるいは「暖かい都会から」や「奴隷の唄」もそうだが、the dadadadysで演奏される過去の曲たちはどれも水を得た魚のように躍動し輝いている。改めて、小池が過去とはまったく違うメンタリティで音を鳴らしステージに立っていることがまざまざと伝わってきて、そのことがthe dadadadysが始動して4年が経とうという今もなお感動的だ。
そんな感慨をさらに強くする「Pain Pain Pain」が続けて繰り出された。
「どのくらい心の傷を抱えた人がいるのでしょう。ま、忘れて踊れ!」。小池の言葉に巨大なコーラスがフロアから生まれる。この曲に歌われている「痛み」が、小池だけでなくステージ上の5人とオーディエンス全員で等分されていく感じは、痛いけどとても幸福なものだった。
「オーイェー、dadadadysです!」。この日何度目かの名乗りは、まるで「おまえらもdadadadysだ」と言っているように聞こえる。どっしりとしたギターサウンドにのせて、「気づけば年末になり、またひとつひとつ歳を取っていくんですけど、やっぱり言いたいこともやりたいことも変わりません」というと「青二才」を披露し、そのまま「(許)」へ。さらに、yuccoの声と山岡のギターがユニゾンするイントロから「あっ!」に入ると、フロアから〈イケてない〉の声が上がった。
ステージとフロアの連帯感は、ライブが始まったときの何倍も濃く、強くなっている。
yucco(ds)
山岡錬(g)
ライブ後半に入ると、小池はさらにすべてを曝け出すようにして音楽を奏でていく。「メアリー、無理しないで」を終えて天を仰ぎ手を広げた彼は、「どうかdadadadysのジェットコースターに振り落とされないでください。だって、これは君に歌うために持ってきたんだもん」と言って「拝啓」を始める。文字通りジェットコースターのような2ビートにフロアが揺れ、コーラスを歌う声が溢れ出す。「俺は未来永劫信じてる、こんな日が続くと。だから歌ってみた」。そう叫んだ小池はステージを下り、フロアの中に分け入っていく。
ソファの上に立って歌う小池も、そこに群がるオーディエンスも、全員がこのライブの当事者にして首謀者。「ひとつになっている」とかの言葉では言い足りない、共犯者のような空気がLOFTに漂っていく。
「『憂さ晴らせ♪ EP RELEASE TOUR』ですが、それを聴いて来ているみなさんは、紛れもなく、世間から逸れた、イカれたセンスの持ち主です。俺はそんな、イカれた最高のセンスを持つみなさんが大好きです」というMCで拍手を浴びると、終盤では「じゃじゃ馬にさせないで」のカバーを皮切りに、ヒップホップテイストの「らぶりありてぃ」に丁寧なミドルチューン「忘れた」と振り幅の大きな楽曲を投下。「不透明恋愛」に当然のようにシンガロングが巻き起こった「高層ビルと人工衛星」といったteto時代の名曲を経て、『憂さ晴らせ♪ EP』収録の「しゃらら」で本編を締め括った。
アンコールでステージに戻ってきた5人は、まずEPの1曲目に入っている10曲のメドレーをその順番通りに完全再現。それを終えた小池は「アンコールありがとう!」と叫び、ついで彼がバンドを始めたときのことを話し始めた。ライブハウスのステージに立っている友達のバンドを観たときに湧いてきた感情を口にしながら、「セールスとか、何万人呼べますとかじゃなくて、あの感じのままでいたいな」という気持ちで選んだ曲を歌い出す。
アコギのストロークとともに始まったのは「コーンポタージュ」。〈真っさらなものを見れるまで怒られるギリギリで歌おう〉と歌われるこの曲がじんわりとフロアに染み渡ると、いよいよ最後の曲。一気にメーターを振り切るような「もしもし?もしもさぁ」がオーディエンスの歌声を誘発し、LOFTはお祭り騒ぎに。小池はカメラマンからカメラを借り受けてフロアを激写しまくっている。このバンドらしい狂騒のうちに、ライブは幕を下ろしたのだった。
<公演情報>
『the dadadadys 憂さ晴らせ♪ EP RELEASE TOUR』
12月13日(金) 東京・新宿LOFT