佐々木亮介主催×TOSHI-LOW『雷よ静かに轟け』 過去最多のセッション数となった第八夜をレポート
Text:森朋之Photo:新保勇樹
a flood of circle佐々木亮介が主催する弾き語りツーマンシリーズ『雷よ静かに轟け』の第八夜が、12月21日(土)に開催された。会場は、映画『浅草キッド』の舞台になった浅草フランス座演芸場東洋館。これまでに中田裕二、NakamuraEmi、奇妙礼太郎、古市コータロー、小山田壮平、詩人・御徒町凧、中村一義(Acoustic set with 三井律郎)との共演が実現し、全公演ソールドアウトとなっている。第八夜のゲストは、TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)。佐々木、TOSHI-LOWの弾き語り、そして、両者のセッションによる3部構成で、濃密にして自由な“歌”を心ゆくまで楽しめるステージとなった。
年の瀬感が溢れる浅草の街を抜け、数多くの芸人たちがしのぎを削った浅草フランス座演芸場東洋館へ。今年は本当にいろんなことがあったな......と思い返しながら会場に入ると、会場は既に多くのお客さんでいっぱい。BGMはチャック・ベリーのロックンロールで、賑やかな雰囲気だ。
19時半過ぎ、最初に登場したのはTOSHI-LOW。ステージにはアイリッシュブズーキとアコースティックギターが置かれている。まずブズーキを手に取ったTOSHI-LOW、ディレイを効かせてエキゾチックな音像を奏で、〈影はいつも 仲良しで/あの時も いつだって一緒さ〉と歌い始める。1曲目は「星の少年」。チバユウスケのソロプロジェクト“SNAKE ON THE BEACH”の楽曲だ。
TOSHI-LOW
「ここに立ってるのは、本当にうれしいよね。バンドマンも一種の芸人なんだよね。永井荷風が命名したフランス座。
ここのエレベーターのボタンを誰が押していたのか......あ、その歌やろう」と「浅草キッド」(ビートたけし)をカバー。冒頭、モノマネを混ぜるが「......似てねえな(笑)。いい歌なんで、最後まで歌います」と、浅草にちなんだ名曲を歌い上げる。「芸人さんもそうだろうけど、俺はこの歌を聴くと、辞めていったバンドマンが頭の中に浮かぶね」というつぶやきも心に残った。
「郷愁というかノスタルジーというか、昭和というか。そういうものをグッと感じてるし、そういう歌しか歌いません。亮介はパリピなんで、フォー! みたいな感じで来ると思うから(笑)。」というMCの後は、「50歳になって、初めてこの人が歌ってることの気持ちが分かるようになったというか」という言葉からフォークシンガー・西岡恭蔵の「五番街の恋人」。さらに平和への深い祈りを刻んだ「ダディ・ダーリン」(G-FREAK FACTORY)、〈何に変える痛みを/連れ去る惑いよ〉というフレーズが突き刺さる「ARRIVAL TIME」(BRAHMAN)を弾き語り。
濃密で力強い、TOSHI-LOWの歌を堪能できる時間が続いた。
「本当はここまでだったんだけど、もうちょい聴く? 普通さ、ここで“あれやって”とか声がかかるんだけど(笑)。」と語り掛け、女性客のリクエストに応えて「鼎の問」を披露。最後は「弾き語りの亮介、知らねえからな。楽しみなんだよな。今日も響く歌を歌ってくれると思うんで」「俺はいつだって、昨日や明日じゃなくて、今日、そして夜が好きだね」という言葉から、「今夜」。〈宝箱なくした 浅草に来よう〉と歌詞を替え、じんわりとした感動へと結びついた。
そして、佐々木亮介が舞台に上がる。椅子に座ってアコギをチューニングし、〈今夜 月に照らされて 言わないはずの言葉を喋っていました〉(「本気で生きているのなら」/a flood of circle)と歌い始めた。
“ホッピー通り”“煮込み”“浅草ロック”といった言葉を交えながら、この瞬間、この場所でしか生まれ得ない歌へとつなげていく。「俺にとって大事なのは、強くあることよりも、自分でいられるかってこと」という言葉を挟み込むトーキングブルースのような歌唱により、〈本気で生きているのなら/これでいいんだ〉という最後にフレーズへと辿り着いた瞬間のカタルシスは、まさに圧倒的だった。
さらに、恒例の「雷よ静かに轟けBlues」。「とっくに俺はデキあがってる」「紹介します、ギター俺!」とギターソロへと突入。心地よく揺れるギターフレーズに呼応し、客席からは手拍子が鳴り始める。“そこの水口食堂、二階の奥。焼き鳥、おしんこ、サッポロの中ビンを飲む。俺はまるでデートのように待ってた。
30分遅れで鬼がやってきた”という即興の歌も楽しい。
佐々木亮介
続けて「ひとさらい」を放った後、TOSHI-LOWに対する思いを語る。あのくらいになったらセレブになってもいいのに、まだ爆弾魔みたいな顔をしてる。暴力ではなく、世の中をひっくり返せる人だけがステージに立てるんじゃないか? という取り留めないトークを挟み、「D E K O T O R A」。〈半端に生きてるやつの歌を歌いにきたんだ〉と半ば自虐&逆ギレのような歌をぶちかまし、客席を唖然とさせつつ惹きつける。
「東北に行きたいんだけど、知られてる曲がないから、迷惑かもしれないなと思ってて。でも、TOSHI-LOWさんだけが行けって言ってくれて。(ライブハウス)千葉LOOKの店長(サイトウヒロシ氏)がやってるイベント『singing bar look』なんですけど、その中で出来た曲を歌います」と「singing barで待ってるぜ」を披露。
さらに『雷よ静かに轟け』第六夜に出演した御徒町凧の詩をもとにした「君にI LOVE YOU」を歌い、このイベントでしか体験できない音楽空間が広がった。
「水口食堂でTOSHI-LOWさんといい話をして。そのことはまだ言わないですけど、みなさんにはどうかふたりの行く末を見守ってほしい。もちろん、それぞれの人生が大事ですけど、ついでにね」と話しかけ、“夢を見て生きるふたり”の姿をまるで映画のように描き出した「Dreamers Song」へ。残り時間を確認した佐々木は、「Moon River」をオリジナルの日本語詞で歌い、そのまま「ファイト!」(中島みゆき)をカバー。そのまま「虫けらの詩」につなげる。全身を使ったシアトリカルな表現が、フランス座の舞台に映える。
ここで、「持ち時間 終了」と書かれた紙を持ってTOSHI-LOWが登場。
お揃いの法被を佐々木に渡し、まるで芸人のような恰好に。『雷よ静かに轟け』第八夜はここからが本番だった。これまではゲストと1~2曲ほどセッションするのが通例だったのだが、この日はなんと9曲を演奏したのだ。
「「帰り道」で俺が美しいハモを決めるところまで行きたいんで」(佐々木) 「おまえ、曲目まで言う必要ある? 夢を売ってんじゃねえのかよ(笑)。」(TOSHI-LOW) というやり取りで笑いが起きた後、まずは「東北道抜けて行きましょう。山が多いから」(佐々木)と「トンネルぬけて」(BO GUMBOS)。ふたりの歌声が重なる瞬間はもちろん、ブズーキとアコギの響きも素晴らしい。
ブルース・セッション的なイントロから始まったのは、「嫌んなった」(憂歌団)。「紹介します、オン・ブズーキ!」(佐々木)という紹介から、TOSHI-LOWがブズーキ・ソロ。今夜、ここでしか見られない場面ばかりだ。さらに「埼玉の不良たちの曲をやります」(佐々木)という「ノット・サティスファイド」(アナーキー)、歌い終わった後、TOSHI-LOWが「俺たちの主題歌みたいな感じだね」とつぶやいた「俺の声」(SION)、そして、チバユウスケの愛すべきエピソードを語り合ってから披露された「愛でぬりつぶせ」(The Birthday)。個人的に特に心に残ったのは、「満月の夕」(ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬、HEATWAVEの山口洋が阪神淡路大震災をきっかけに共作した楽曲)。TOSHI-LOWが「今年の正月に大変なことがあって、まだ冷てえメシしか食えない人たちがいて。本当に悲しいことだと思っています」と語ったことも記しておきたい。
最後は「露命」(BRAHMAN)、「屋根の上のハレルヤ」(a flood of circle)とそれぞれの楽曲をセッション。ここでいったん舞台袖にハケるが、すぐにステージに戻ってきて「帰り道」(OAU)を歌い上げ、“第八夜”はエンディングを迎えた。22時を過ぎて外に出ると、浅草の街はまだまだ賑わいの真っ最中。酔客たちの間をすり抜け、駅へと急ぐ。次回の『雷よ静かに轟け』第九夜は2025年3月28日(金)に開催。春の浅草で、誰と、どんな歌が奏でられるのか。その瞬間を心待ちにしていたいと思う。
<公演情報>
『佐々木亮介弾き語り興行 "雷よ静かに轟け" 第八夜』
2024年12月21日(土) 東京・浅草フランス座演芸場東洋館
出演:佐々木亮介(a flood of circle)、TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)