【レポート】サヨナラ 世田谷パブリックシアター青空天井 劇場ツアー
2026年3月20日、現在音楽劇『コーカサスの白墨の輪』を上演中の世田谷パブリックシアターで「サヨナラ 世田谷パブリックシアター青空天井 劇場ツアー」が開催された。〈青空天井〉は1997年4月の開場以来、この劇場のシンボルとして長年愛されていたが、今年4月から始まる約1年の改修工事により姿を消すことが決まっている。この日はその〈青空天井〉をじっくり見る最後の機会であり、同時に『コーカサスの白墨の輪』の舞台美術も間近で堪能できるとあって、抽選で選ばれた約20人の参加者が真剣な面持ちでツアーを楽しんだ。
〈青空天井〉が一番近くで見られる3階客席へ
集合時間にきっちり集まった参加者たちは、受付をすますと、劇場ロビーへ。まずは劇場の担当者からツアーの説明と注意事項が伝えられる。そののち、3階客席へ移動。ここで、世田谷パブリックシアターが1997年に開場したこと、3階構造で、座席数は約600席、馬蹄形の形状でどの席からも舞台からの距離が近く感じられる作りになっていることなど、劇場全体の説明が。また、作品によって舞台面の高さを変えることも、1階客席の角度(勾配)も変えることができ、『コーカサスの白墨の輪』でも舞台から3メートルほど客席にセットが張り出していて、舞台と客席が一体となる美術、演出になっていることなども説明される。
実際に座席に座って劇場全体と青空天井について説明を聞く参加者たち
そして頭上に広がる〈青空天井〉。これは「雲の神様」と称され、特撮映画の背景画で知られる島倉二千六さんによるもの。じっくり見ると、美しい青空と白い雲の繊細な濃淡は本当にリアルで、今にも雲が流れていきそうな錯覚におそわれるほどだ。3階客席は、一番近くで青空を味わえる場所とあって、参加者の皆さんもスマホなどで様々な角度から撮影をしている。このツアーの間も天井は明るい照明で照らされていたように、もともと照明が設置されているそうだが、『コーカサスの白墨の輪』ではこの空が作中で重要な役割を果たしていることもあり、さらに照明を増設したとか。
劇場には、青空天井を照らすための照明が設置されている
見ればみるほど、リアルな雲と青空
今にも流れていきそうな雲の絵は、特撮映画の背景画で知られる島倉二千六さんによるもの
また併せて『コーカサスの白墨の輪』の舞台美術の説明も。作品は1944年にドイツの劇作家、ベルトルト・ブレヒトが書いた戯曲で、第二次世界大戦末期から過去の戦争を振り返る構造の話だが、今回は戦争により人類が滅んだあとにAIだけが残った未来から、今私たちが生きている少し先の未来を振り返るという構造に置き換えている。その物語を象徴するような、高度な文明が朽ちたようにも見える舞台美術は二村周作さんの手によるもの。
舞台奥から客席に向け、湾曲しながら伸びるまるで高速道路のような道は、先端が破壊されている。また、道自体は甲板を貼り合わせたような、あるいは瓦礫のような無機質なもの。「道は人類が作り上げた文明であり、主人公のグルーシェが逃避行する道の象徴でもあり、戦争で住処を終われた難民たちが逃げる道でもあり、この芝居をおこなう旅一座がやってくる道でもあります。物語において道というものが象徴的であることを効果的に表す美術です」とのこと。
上演中の『コーカサスの白墨の輪』の美術についての説明も
その後、1階客席に移動し、また見え方の違う空を眺めたあと、参加者は2グループに分かれ、靴を脱いで舞台の上へ。舞台上では、傾斜のついた高速道路を実際に歩いてみたり、床の隙間を覗いてみたり(本番では、細い隙間から光が漏れる演出もあり、そのために道路にはわざと隙間が作られている)、舞台上から青空天井がどう見えるのかを確認したりする参加者たち。舞台の上空には、森や屋敷など、様々な場面を作る“吊り物”も見える。
1階席から撮影した青空天井
実際に舞台に上って『コーカサスの白墨の輪』の舞台美術を体験
さらに下手袖、舞台裏、上手袖と、客席からは見られない場所へも潜入。
多くの衣裳がラックにかかっているところや、小道具が棚などにわかりやすく整理され置かれているさま、早替え場などを静かに、しかし興味深そうに見る参加者たち。移動しながら担当者からは「このあと全国ツアーがありますが、会場によってはここまでの奥行きをとるのが難しいところもあるので、高速道路は何分割かできて、会場のサイズに合わせて作れるようになっています」という説明や、ところどころに置かれているパイプ椅子について「出演者は出ずっぱりでなかなか楽屋に戻って休憩できないので、着替えが終わったら次の自分のシーンまで座って待てるよう、色々なところに椅子が置かれています」というようなお話も。
舞台上からみる青空天井
ツアーの最後には改めて、開場以来劇場の象徴として存在していた〈青空天井〉が、4月から行われる大規模耐震工事に伴い撤去されるため、こういった形で一般客に公開されるのはこの日が最後となること、そして1年の改修工事が終わるとともに、世田谷パブリックシアターは開場30周年を迎えることが説明され、さらに「改修後、今の空はなくなってしまいますが、今度はまた違う、雲のない新たな青空が登場する予定です」というお話も。
改修後は、「雲のない青空」が登場する予定とのこと
さまざまな物語を見守った、現行の青空天井とはお別れになるが、1年後、どんな青空が世田谷パブリックシアターの客席の頭上に登場するのか。それもまた楽しみである。
『コーカサスの白墨の輪』は世田谷パブリックシアターでは3月30日(月)まで上演される。
取材・文:平野祥恵
<公演情報>
音楽劇『コーカサスの白墨の輪』
原作:ベルトルト・ブレヒト(東宣出版酒寄進一訳)
上演台本・演出:瀬戸山美咲
音楽監督:坂井田裕紀
出演:
木下晴香、平間壮一、sara、加藤梨里香
森尾舞、西尾友樹、武谷公雄、辰巳智秋、斎藤瑠希
大久保祥太郎、阿岐之将一、酒巻誉洋、浜野まどか
一路真輝、眞島秀和
【ミュージシャン】
Bass:
大林亮三
木村朋徳(2026年3月15日(日) 13:00、16日(月) 13:00/18:30、4月18日(土) 14:00、19日(日) 12:30のみ)
Guitar:
大舘哲太
鶴田伸雅(2026年3月22日(日) 13:00のみ)
Drums:
小牧佳那
【東京公演】
2026年3月12日(木)~30日(月)
会場:世田谷パブリックシアター
【兵庫公演】
2026年4月11日(土)・12日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■終演後ポストトーク
2026年4月11日(土) 15:00:木下晴香×sara×阿岐之将一
【岡山公演】
2026年4月18日(土)・19日(日)
会場:岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
■終演後ポストトーク
2026年4月18日(土) 14:00:木下晴香×平間壮一×大久保祥太郎
【佐賀公演】
2026年4月24日(金)・25日(土)
会場:鳥栖市民文化会館 大ホール
■終演後ポストトーク
2026年4月24日(金) 18:30:木下晴香×加藤梨里香×阿岐之将一
【愛知公演】
2026年5月2日(土)・3日(日・祝)
会場:春日井市民会館
公式サイト:
https://setagaya-pt.jp/stage/25041/