「七月大歌舞伎」出演の團十郎 取材会で『め組の喧嘩』の“江戸の粋”、『春興鏡獅子』での親子共演を語る
(撮影:田口真佐美)
2026年7月2日(木)、東京・歌舞伎座で開幕する「七月大歌舞伎」に出演する市川團十郎が取材会に出席、夜の部で演じる『神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)め組の喧嘩』の辰五郎、新歌舞伎十八番の内『春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)』の小姓弥生後に獅子の精について語るとともに、長女ぼたん、長男新之助との共演、自身や歌舞伎界の今後について、胸の内を明かした。
芝神明の境内で実際に起きた鳶と力士の喧嘩を題材とする『め組の喧嘩』は、江戸庶民の憧れであった粋でいなせな鳶と力士の姿が生き生きと描かれる人気作。團十郎は、「(5月に歌舞伎座で)助六(『助六由縁江戸桜』)を勤めさせていただきましたが、江戸の粋といえば、世話物の中ではこの辰五郎。その野暮でない男の生き方は、助六とは同じようで少し異なる部分があります。江戸を代表する粋な男性を続けて勤めさせていただけることはとてもありがたいことですし、現代を生きる自分としても勉強になります」と意欲を見せる。
『神明恵和合取組 め組の喧嘩』特別ビジュアル
一方の『春興鏡獅子』は、今年1月に東京・新橋演舞場で演じ、胡蝶の精を勤める長女ぼたん、長男新之助との共演が話題を振りまいた。それから半年後の歌舞伎座での上演に、当初團十郎は難色を示していたというが、「ぼたんさんが歌舞伎座に立てますから、ぜひ同じ配役で、と言われまして(笑)、やることになりました」と、父親の表情に。『春興鏡獅子』は、前半の可憐な舞、後半は獅子の精の荒々しい毛振りが見どころとなる舞踊作品。
明治26(1893)年、九代目市川團十郎が『鏡獅子』を歌舞伎座で初演した際、現行の胡蝶の精にあたる役柄を勤めたのは、実の娘、二代目市川翠扇(すいせん)と二代目市川旭梅(きょくばい)だった。
「九代目團十郎は、人生で 3回程しか勤めていないのですが、これは歌舞伎の未来を描いた舞踊劇だと思うんです。当時の時代ならではの背景がある中で、九代目團十郎は女性の活躍を考えたうえで、作り変えたのだろうなと推測します。それは、ぼたんが歌舞伎座に出るということにも繋がっていると思います」
團十郎が初めて『春興鏡獅子』に携わったのは、新之助時代の1988年。尾上丑之助(現八代目尾上菊五郎)とともに胡蝶の精を勤めた。
「思い出はたくさんあります。七代目の菊五郎のおじさまが弥生で、いまの八代目(菊五郎)さんと私とで胡蝶の精をやることになり、ふたりで半年ほど、当時六本木にあった藤間のご宗家の稽古場に通って稽古しました。まだ10歳くらいでしたが、青春でしたね。
学校から一緒にバスに乗って、稽古場に行き、帰りはふたりでラーメンと餃子を食べて。楽しかったと思います。胡蝶を演じる上で大変だったのは、音がきちんと決まっているということ。向き合ってふたりでシンクロするのは簡単ですが、背中を向くと、十歳の子がやるのはなかなか難しいものです」
ぼたん、新之助の指導については、「もう見ません。私も忙しいので(笑)」と言い放つが、「間に合うレベルに達しています。びっくりするのは、1月はぼたんのほうが高かった身長が、今はもう新之助のほうが大きい。私もすぐに抜かれそう」と、目元を緩ませる。「ぼたんは歌舞伎をやりたいと言っています。
こういう時代になり、世の中も変化している。それに対応し、お客さまと共有できる時代が来たらいいなと思いながら、娘の成長を見守っています」。
才能豊かな人たちに、光を当てる。
歌舞伎座で『春興鏡獅子』の弥生/獅子の精の二役を「市川團十郎」を名乗る俳優が上演するのは、九代目團十郎の初演以来133年ぶりのことだという。
「祖父・十一代目も父・十二代目も、團十郎時代にはやっていません。私歌舞伎十八番、新歌舞伎十八番は成田屋の家の芸ですので、お客さまが許してくださる限り、上演する義務を感じています」
九代目團十郎は、いまの歌舞伎を語るうえで欠かせない存在だ。「九代目團十郎がいたからこそ、現代の歌舞伎がある。我々はその中で歌舞伎を守り、伝統として伝えていく。これが文化であると言い切れるようになったのは、ある意味、九代目市川團十郎という人間の功績だと、私は思います」。
『め組の喧嘩』の話題で触れた “粋な人”とは?という質問には、「十二代目團十郎と、七代目菊五郎のおじさまです」と即答。「辰五郎は菊五郎のおじさまに習っているのですが、やはり、このふたりは粋ですね。父(十二代目團十郎)の大きさと、七代目の粋。おじさまに習っているものは江戸の風があり、親父に習ったものでは、大きさを感じます」と分析する。
また今回の昼の部『時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)』では、松本幸四郎が初役で武智光秀に取り組むが、團十郎はその家臣・四王天但馬守役を勤める。さらに、夜の部の幕開け、歌舞伎十八番の内『鎌髭(かまひげ)』では、修行者快鉄実は悪七兵衛景清を、中村福之助、中村鷹之資がWキャストで勤めることも注目される。
「福之助さんは次男ですし、いろいろと機会が回ってきにくい環境にいる。鷹之資さんは天王寺屋のおじさま(五代目中村富十郎)のご子息ですが、70歳のときのお子さまだったので、その後ご苦労が多かったのを拝見していました。
福之助さんは荒事気質があり、鷹之資さんは天王寺屋のおじさまのDNAを引き継いでいます。才能豊かな人たちに日の目が当たらないのは、歌舞伎界としてよくないこと。ですから、真面目に向き合い、私のできる範囲のことはやる。光を当てなければいけない人はいっぱいいます」
今回の『鎌髭』上演については、「ベースは同じですが、後半にアクティブな動きを入れて、私が演じたときとは違うものにしています」。これまで歌舞伎十八番、新歌舞伎十八番の復活上演を数多く手がけてきたが、自身だけでなく、他の人が演じることも大事にしているそう。「自分が手がけたもの、たとえば『七つ面』をやりたいと言ってくれる人もいて、非常に嬉しい。これは、コツコツと作って、伝統にしていくという作業だなと思っています」。
取材・文:加藤智子撮影:田口真佐美
<公演情報>
歌舞伎座「七月大歌舞伎」
【演目】
■昼の部
一、末広がり
二、時今也桔梗旗揚
三、御浜御殿綱豊卿
■夜の部
一、歌舞伎十八番の内 鎌髭
二、神明恵和合取組
三、新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子
2026年7月2日(木)~26日(日)
会場:東京・歌舞伎座
関連リンク
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2621778(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2621778&afid=P66)
公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/976