ルサンチマンが全国ツアーファイナルで明確に打ち立てたアイデンティティ【ライブレポート】
Photo:稲垣ルリコ
東京発の4ピースバンド、ルサンチマンが12月9日、1stフルアルバム『ひと声の化石 / rebury』のリリースを記念した全国ツアーファイナル公演を東京・下北沢ADRIFTで開催した。オルタナ、マスロック、グランジ、ポストパンクなどを反映したサウンド。そして、リアルと妄想を行き来するような独創的な歌の世界。この日のライブで彼らは、自らのアイデンティティを明確に打ち立ててみせた。
会場が暗転し、まずは中野(Gt)が一人で登場。憂いを帯びたフレーズを奏でるなか、北(Vo/Gt)、清水(Ba)、もぎ(Ds)もステージに上がり、「俗生活の行方」からライブはスタートした。緊張感に溢れたアンサンブル、生々しい感情を滲ませるボーカルが響き、観客は前方に押し寄せ、拳を突き上げる。
さらにマスロック的な要素を取り入れた「収束する未明」、「歌える人がいたら、歌ってください」(北)という言葉に導かれた「lares」――ライブハウスという“居場所”をテーマにした楽曲だ――を間髪入れずに放つ。
「ラル」でも観客の大合唱が発生し、北が笑顔を浮かべる。その表情からは、1stフルアルバム『ひと声の化石 / rebury』を携えた今回のツアーの充実ぶりが真っ直ぐに伝わってきた。
“中野が遅刻した”という実際にあった出来事をモチーフにした「滅茶苦茶怒鳴られた」を演奏した後、最初のブレイク。「ツアーファイナルです。ケガだけは気を付けて、最後までよろしくお願いします」(北)のシンプルな挨拶の後も、さらに楽曲が次々と披露された(ルサンチマンのライブは数曲を続けて演奏するのがデフォルトで、“メンバーがゆっくりトークする”みたいな場面はほとんどない)。
“君のことを教えてほしい”という思いを描いた「知りたい」、酷いことが起き続ける世界と暑い夜で眠れない自分を対比させた「ぼくのつぶやき」、“バンドでロックをやることについて”への懐疑をぶちまけるような「だっせ」、あまりにも不器用な恋愛感情を映し出す「たとえ下手でも」、〈今君のことだけを汗だくになって歌っているから、心繋がるかな〉と歌われる「大団円」。北が紡ぎ出す歌はあまりにも鋭く、ひとつひとつのフレーズがグサグサとこちらに突き刺さってくる。観客の多くは体を揺らしまくって盛り上がっているのだが、なかにはステージをじっと見つめて、しっかりと歌を聴き入っている人も。
北が放つ歌の言葉がはっきり聴き取れることも心に残った。
筆者がルサンチマンのワンマンを観るのはこれが3回目だが、これまでのライブでは興奮が先に立ち(?)、勢いにまかせて歌うあまり(それはそれでカッコいいのだが)、歌詞が聴き取りづらいことがあったのだ。おそらく彼は、今回のツアーを通し、“歌を伝えること”を改めて意識したのではないだろうか。声自体の状態も良く、ボーカリストとしてのポテンシャルをたっぷりと味わうことができた。
「自分たちは“ポップであろう”とか“尖ったことをやろう”ではなくて、やりたいと思ったことをやってます。たまに他のバンドの人から“自由にやってて羨ましい”と言われることがあるけど、そんなの知らない。自己表現は好きなようにやらないと。というわけで、ここから3曲インストやります」(北)と「uya」「tsukiochi」「not wrong」を繋げて演奏。
アルバム『ひと声の化石 / rebury』のDISC 2がすべてインスト曲で構成されていることからもわかるように、インストはルサンチマンの大きな魅力だ。変拍子を取り入れた実験的なアレンジの楽曲もあるのだが、難しいことをやっている雰囲気は微塵もなく、観客はさらにテンションを上げまくる。もともと演奏力のあるバンドなのだが、冷静かつ的確に演奏することと、生のライブならではの高揚感がしっかりと共存していたのだ。これもツアーを通して獲得した、ルサンチマンの新たな成長と言っていいだろう。
「忘れそう」も強く心に残った。10代の頃のネガティブな記憶をもとにしながら、〈想いも記憶も全部歌える〉というフレーズを響かせるこの曲は、北のリアルな体験がもとになっている。バラード的な曲調から始まり、徐々にテンポアップしていくアレンジ、そして、「この曲を歌うと50%の確率で声がつぶれる(笑)」(北)という言葉通り、強い感情を注ぎまくった歌。リリック、サウンドの両面で、ルサンチマンの魅力が凝縮された楽曲と言えるだろう。
「ツアーにぴったりな曲をやります」(北)と紹介された「どうしようもない」からライブは後半へ。「nihil」「lazy」といったインスト曲、結成直後からライブアンセムとして活躍し続けている「ニヒリズム」、〈変わらないで欲しい〉という大合唱が巻き起こった「なさけないうた」。そして、性急にして鋭利なアッパーチューン「荻窪」「十九」でフロアの高揚感は頂点に達した。
アンコールで“NO”を叩きつける「いやいやいやいや」、超アグレッシブなインスト曲「ikki」を放ち、ツアーはエンディングを迎えた。最後まで集中を切らすことなく、ヒリヒリとした緊張感と圧倒的なカタルシスを同時に感じさせる演奏を続けた4人。このツアーによってルサンチマンは、まちがいなく、ライブバンドとしての存在感をさらに高めたと思う。
2024年3月18日には、東京・渋谷 Spotify O-WESTでワンマンライブ『ONE VOICE』を開催。音楽性、歌詞の内容、活動スタイルを貫いたまま、バンドの知名度と活動規模を広げ続けているルサンチマン。
このバンドが本格的なブレイクを果たせば、日本のバンドシーンに大きな変化が訪れる。そんな期待を抱くほどに、今のルサンチマンはすごい。
Text:森朋之Photo:稲垣ルリコ
<公演情報>
ルサンチマン1st Full Albumリリース記念 ひと声ツアー
12月9日(土) 下北沢 ADRIFT