『西遊記』一行が再び神奈川県を巡る! 成河が語る、笑って考える“ひらかれた演劇”
(撮影:You Ishii)
KAAT神奈川芸術劇場の長塚圭史芸術監督が「ひらかれた劇場」を目指して実現した、同劇場で創作した舞台を神奈川県内各地で巡演する「KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト」。その第三弾が間もなく開幕する。上演されるのは、第一弾で誕生した、『冒険者たち 〜JOURNEY TO THE WEST〜』の再演と、新作『帰ってきた冒険者たち ~闇に落ちたカナガワを救え!~』の2作。いずれも長塚芸術監督による書き下ろしで、神奈川県に迷い込んだ『西遊記』の一行が活躍する奇想天外の物語だ。この2作で再び重要な役割を演じる成河に、本プロジェクトへの取り組み、その魅力を聞いた。
一見ふざけているようで、実はすごく真剣
開口一番、「僕はこのプロジェクトのコンセプト自体に強く惹かれ、ずっとその重要性を痛感していました」と、2022年に取り組んだ『冒険者たち』を振り返る成河。「劇場は文化のひとつの大きな拠点であり、そこにお客さまに集まってもらうということはひとつの正義ですが、それだけではなく、普段演劇に馴染みのない方たちにどうアクセスしてもらうかということを考えると、自分たちからもどんどん外に出て届けることが必要。生活の中に演劇が1ミリもないという方は山のようにいるけれど、そういう方々に届きやすい演劇とは、と考え、実際に劇場を飛び出したんです。
神奈川県はすごく広く、特に西に広い。横浜や川崎などに集中するのではなく、どんどん西の方に行こうという発想から、『西遊記』。長塚さんはそう話されていました」
2022年上演『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』より(撮影:宮川舞子)
西へ進むから『西遊記』!と大いに納得。同時に、このプロジェクトに寄せる成河の熱い思いに、心を動かされる。
「演劇は本来、誰でも観ることができるものだし、誰が観てもいいし、何なら誰が作ってもいい、というところまで立ち返り、誰もが自由な目線で観ることができるようなものを作る──。そう聞いて本当に素晴らしいなと感じ、参加させていただきました。ただ、そうした作品を作るのはすごく難しいこと。集まった俳優、スタッフは皆さん、それぞれの場で訓練された、すごい技術を持っている人たちですが、その技術を総動員して、いかに簡単で面白いものを作り、敷居を下げることができるかということに皆で注力しました。
『西遊記』のことは多くの方々がご存じですし、本当にたくさんのエピソードがあるので、神奈川県に迷い込んでしまった三蔵法師一行、ということをベースに、いろんなストーリーを作ることができる。『西遊記』に出てくる冒険奇譚や妖怪みたいなものと、神奈川県にまつわる逸話が混じったお話です」。
2022年上演『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』より(撮影:宮川舞子)
第一弾、『冒険者たち 〜JOURNEY TO THE WEST〜』で成河は、神奈川県のさまざまな存在を演じている。
「いろいろ──というより、神奈川県にまつわるすべて、です(笑)。妖怪だったり、係の人だったり、神奈川県の人をやったと思ったら、実は道祖神だった、ということなんです。道祖神というのは、道端にある、顔がすっかり擦り減ってしまった小さい石の像だけれど、実はいろんなところにあって、その土地の神さまとして、おおらかな存在として昔から受け入れられてきた。普段は見過ごされがちだけれど、いろんなところにいて、それぞれが独立しているようで、みんなひとつで、それが最後に大山の神さまという大ボスとして出てくるんです」
2022年の第一弾はコロナ禍の後半にあたり、予定していた巡演のいくつかが中止に。が、このプロジェクトのコンセプトの素晴らしさを皆が実感、いつかまた、という思いが残った。
「『西遊記』自体に膨大なエピソードがありますし、神奈川県の逸話、神話はまだまだ掘り起こせる。フォーマット自体とても優れていたので、やり続けたいとKAATの方々も長塚さんも考えていたそうです。それが実現したのでホッとしつつも、2本上演と欲張ってしまい、時間が足りなくてヒーヒー言っています(笑)。本当にさすがだなと思うのは、2作目がまた1作目と全く毛色の違う、見方によってはシリアスな、いまの日本のこと、国際情勢、地球規模で起こっているいろいろな人類の問題を孕み、すごく大きなメッセージも感じ取れたりするものになっている。一見ふざけているように見せて、実はすごく真剣、というのが長塚さんのお家芸です」
神奈川県が闇に落ちる新作は、魂が洗い流されるような終わり方
新作の展開について尋ねると、「分断と統合の話です」と言葉に力を込める。「個人と全体の話──まさしく“いま”、です。いま、分断について考えていない作り手はいないと思いますが、長塚さんも当然のように、考えることに責務を感じている。神奈川県が直面しているのは、東京、また日本が直面し、世界的に起こっている分断の問題ですが、一方で、皆で足並みを揃えてやっていくことに疲れてしまった。
足並みを無理やり揃えようとすることで周りを傷つけたり、権利を奪ってしまったりすることがある。分断しているほうが心地良くて、傷つかずにすむという人もいる。そんなふうに分断が加速し、カナガワ(劇中の神奈川県)は闇に落ちる──そう、新作では神奈川県が全体主義に陥るんです」と熱く語る。緩さが身上であると同時に、想像以上のスケール感。「長塚さんはもう筆が乗っていて、かなり直接的に際どい議論をすると思ったら、ちょっと煙に巻いて緩くして──。いろんな角度から観ることができると思いますが、しっかりと重量のある作品になるような予感がします」とも。
第一弾の手応えについて尋ねると、「第一弾、二弾、三弾くらいで判断できるようなものではなくて、もっともっと長く続け、これが当たり前になっていった時に、わかると思います。いまは実験段階です」と、見据えるのはさらに先だ。
「愛好家と実演家の間だけで固まってしまうと、作品は排他的で、入りにくいものになっていきますよね。このプロジェクトは、それをほぐして変えようとしています。演劇に全く馴染みのない人が観てくださることで、豊かになることはたくさんある。いつも劇場に来てくださるお客様はだいじです。それに加えて、何の興味もない人に振り向いてもらうということが“芸”ですし、子どもたちやその辺の商店街の方々がふらっと来て、“何やってんの?”って覗き込んでくれるかどうかにかかっている。そこをいかにやれるか、ということを、神奈川県が率先して実験、実践しているということを、いろんな人に知っていただきたいと思います」
もともと神奈川県に縁もゆかりもなかった成河だが、いまとなっては神奈川県に大いに愛着を感じるように。
「劇中に、とにかく神奈川県内の地名がたくさん出てきますし、各地の美味しいもの、美味しいお店、ものすごくローカルな具体的なデータが散りばめられているので、地元の方たちはとっても喜んでくださるでしょうし、神奈川県のディテールをどんどんインストールしていくことになる。もう、愛着どころではなく、“私そのもの”ですし(笑)」
仏典を求め、天竺を目指して長く厳しい旅を続ける三蔵法師一行。
長塚は、仏教を受け入れつつ古来の神々を大事にする、日本ならではの宗教観にアプローチしているという。
「神仏習合を描いてもいるんですね。そんな中で、神奈川県は闇に落ちちゃう──。こんなふうに一見緩いものは、中身がしっかりしてないと本当に見られたものでなくなるっていうことを、誰よりも知っている俳優、スタッフが集まっているので、皆、すごく危機感を持ってやっていますね。“え?全然わかんないんだけど”という、演劇を観慣れていない人しか持てない厳しさもあると思います。そこにちゃんとアクセスするのが目的。普通にゲラゲラ笑いながら、地元への愛着を一緒に味わいながら、おおらかに、日本の良さ、現代が抱えるいろいろなことを、皆でゆったりと考えながら観ていただける舞台になるでしょう。とくに新作は、すごくシビアなところに手を伸ばす分、ものすごくおおらかで、ある種、魂が洗い流されるような終わり方になると思います」
神奈川県の魅力、その奥行きを実感するとともに、あらためて、演劇の意味、価値を実感させられる場になるかもしれない。
「劇場に来るというのは、垢がついた日常を洗濯することだと思います。それは難しいことでも何でもない、誰にでもできること。今回は再演と新作の2作品の上演となりますが、一本一本独立した作品ですから、1本目だけ、2本目だけ観ていただいても全然構わないんです。技術の粋が詰まった緩い劇を、ぜひ、目撃してほしいと思います」
取材・文:加藤智子撮影:You Ishii
<公演情報>
KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト 第三弾
『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』
『帰ってきた冒険者たち ~闇に落ちたカナガワを救え!~』
●『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』(2022年初演)
上演台本・演出:長塚圭史(原作:呉承恩『西遊記』)
共同演出:大澤遊
音楽・演奏:角銅真実
●『帰ってきた冒険者たち ~闇に落ちたカナガワを救え!~』(新作)
作:長塚圭史
演出:大澤遊
音楽・演奏:角銅真実
出演:
柄本時生菅原永二佐々木春香長塚圭史成河
2026年2月11日(水・祝)~23日(月・祝)
会場:神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 <中スタジオ>
※公演日時により、演目が異なります。詳細は公式サイトにてご確認ください。
【神奈川県内ツアー公演】
■横須賀公演
2026年2月28日(土)16:00『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』
2026年3月1日(日)15:00『帰ってきた冒険者たち ~闇に落ちたカナガワを救え!~』
会場:ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
■川崎公演
2026年3月3日(火)18:30『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』
2026年3月4日(水)15:00『帰ってきた冒険者たち ~闇に落ちたカナガワを救え!~』
会場:川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
■鎌倉公演
2026年3月7日(土)16:00『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』
2026年3月8日(日)15:00『帰ってきた冒険者たち ~闇に落ちたカナガワを救え!~』
会場:鎌倉芸術館 小ホール
■海老名公演
2026年3月14日(土) 11:00『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』
2026年3月14日(土)15:00『帰ってきた冒険者たち ~闇に落ちたカナガワを救え!~』
会場:海老名市文化会館 大ホール
■藤沢公演
2026年3月20日(金・祝)16:00『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』
2026年3月21日(土)15:00『帰ってきた冒険者たち ~闇に落ちたカナガワを救え!~』
会場:藤沢市湘南台文化センター 市民シアター
関連リンク
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2564184(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2564184&afid=P66)
公式サイト:
https://www.kaat.jp/d/boken2026