【ライブレポート】“結成から11年目のライブ” 『Omoinotake SPECIAL LIVE 2023 “SUEHIROGARI”』
Photo:Daikichi Motouchi
Omoinotakeが4月28日、東京・Zepp DiverCity(TOKYO)でワンマンライブ『Omoinotake SPECIAL LIVE 2023 “SUEHIROGARI”』を開催した。4人編成のホーンセクションを取り入れ、今回だけの特別アレンジによる楽曲も披露。ゴージャズかつメロウな音楽空間を生み出した。
島根県松江市出身の藤井怜央(Vo/Key)、福島智朗(Ba)、冨田洋之進(Ds)の3人が東京・渋谷の地でOmoinotakeを結成したのは、2012年4月。つまり“SUEHIROGARI”(末広がり)とタイトルされたスペシャルライブの東京公演は、ちょうど結成11周年と重なっていた。記念すべきライブで彼らは、これまでのキャリアを代表する楽曲を次々と披露。この日だけの特別なアレンジを施した楽曲、リリースされたばかりの新曲も含め、Omoinotakeの過去・現在・未来を体現してみせた。
最初にステージに登場したのは、サポートメンバーの柳橋玲奈(Sax)をはじめとする4人編成のホーンセクション。
サックス、トランペット(×2)、トロンボーンによる華やかな音色、そして、鮮烈なブルーのライトに照らされるなか、Omoinotakeの3人とパーカッション・ぬましょうがオンステージ。オープニングナンバーは、メジャーデビュー曲「EVERBLUE」(アニメ「ブルーピリオド」オープニングテーマ)だ。心地よい高揚感に溢れたサウンド、解放感に満ちたメロディが広がり、観客はハンドクラップで応える。さらに「こんばんはOmoinotakeです!“SUEHIROGARI”にようこそ!」(藤井)という挨拶から「So Far So Good」へ。ゆったりとしたビート、ソウルフルな歌声、ノスタルジーと未来への思いが交差する歌詞が響き合い、オーディエンスの心と身体を揺らしてみせた。
藤井怜央(Vo/Key)
スペシャルライブ“SUEHIROGARI”は大阪、東京の2公演。「大阪は1カ月前なので、今日、久しぶりにラッパの音を聴いて、マジ最高だなって」(藤井)と笑顔で挨拶。さらに藤井は、「Omoinotakeは、2012年の4月の“どこか”で結成したんですよ。
自主制作のCDのリリース、初めてのワンマンもそうだけど、4月28日に縁がありすぎて。9年くらい経って、“4月28日って、渋谷って読めない?”って気づいて、この日を結成日にしました」と説明。「記念日にこんな最高なライブができて。たっぷり音を浴びてください!」という言葉に対し、客席からは大きな拍手が巻き起こった。
福島智朗(Ba)
爽やかで切ないメロディ、藤井の美しいファルセットが広がった「産声」。かけがえのない存在である“君”への思いを綴った歌、楽曲の主人公の心象風景を彩るようなホーンセクションが共鳴した「心音」。ライブが進むにつれて、このバンドの多彩な音楽性が重なり、美しい音のグラデーションへとつながった。
「路上時代から見てくださってる方の姿もあって。
ずっと応援してくださってありがとうございます」(福島)
「感無量ですよ。うれしいです、こんな素敵なところでライブができるのは」(冨田)
というトークの後は、「ここからしばし、ストイックな4人バージョンで楽しんでいただけたらと思います」(藤井)とOmoinotake+パーカッションの編成による演奏へ。巧みなリズムチェンジとコード進行とともに“歌”“音楽”に対する強い思いを描き出す「One Day」。藤井の弾き語りからはじまり、ダンサブルなサウンドへと移行した「彼方」。そして「今日はみんなで大きな声で歌える日だぞ!」(藤井)という言葉にリードされた「By My Side」では、曲の途中でシンセベースを取り入れるなど、エレクトロ・テイストの音像を表現。ルーツミュージックに根ざしつつ、現在進行形のポップスへと昇華させる彼らのセンスがはっきりと伝わってきた。
冨田洋之進(Ds)
サックスの柳橋玲奈が加わった5人編成のコーナーでは、切なさ、憂いを色濃く反映した楽曲が続いた。特に心に残ったのは、ピアノと歌、〈行き交う人々水溜まりに映る/ぼやけた信号赤色のままで〉というフレーズからはじまった「モラトリアム」。
どこにも行けない閉塞感と“君”に対する複雑な感情をダイレクトに映し出す藤井のボーカルはまさに絶品。Omoinotakeの音楽の軸にあるのは彼の歌だと、改めて実感させられた場面だった。
ここで再びホーンセクションが登場。「最初の4曲(「EVERBLUE」「So Far So Good」「産声」「心音」)はCD(原曲)にもホーンが入ってて、それを生でお届けして。ここからは小西遼さん(CRCK/LCKS・象眠舎)にアレンジしていただいた、特別バージョンです。ここから本番くらいの気持ちでやりたいと思います!」という説明を挟み、「Blanco」からライブは後半へ。ゴージャズでシックな管楽器のアンサンブルからはじまり、しなやかで奥深いバンドグルーヴへと結びつく。悲しみを滲ませるボーカルにも心を打たれた。
「惑星」では、なめらかなメロディとホーンの音色、洗練されたバンドサウンドが互いを高め合い、〈きっと二度と戻らない/僕らの引力〉というフレーズを際立たせる。
「終盤、バシッといきましょうね!」という藤井の言葉を合図に、ライブはクライマックスへと向かう。オーセンティックなソウル、R&Bのエッセンスをたっぷり注ぎ込んだ「Stand Alone」(アウトロのトロンボーンのソロ演奏も最高!)、藤井がハンドマイクで歌い、ポップで開放的な空気を生み出した「トロイメライ」。そして本編ラストは、彼らのライブアンセムとしても知られる「Never Let You Go」。ハンドクラップ、コール&レスポンスも取り入れられ、会場全体が気持ちいい一体感で包まれた。
アンコールでは3月に配信リリースされた新曲「オーダーメイド」をメンバー3人だけで演奏。NHK松江放送局開局90周年記念テーマ・ソングに起用されたこの曲は、島根の10代、20代の若者たちの"10年後の自分に宛てた手紙"をもとに制作。〈運命はオーダーメイド描いた僕になる旅〉というフレーズは“結成から11年目のライブ”とも強くリンクしていた。
ひとつひとつの言葉に思いを込めた、エモーショナルな歌声は、すべての観客の心に刻まれたはずだ。
「最高のメンバー、最高のミュージシャン、最高のお客さん、画面の向こうのみなさんと11年目を迎えられてうれしいです。これからもOmoinotake、突っ走っていくので、よろしくおねがいします!」(藤井)。
未来への決意を感じさせる言葉に続き、ホーン隊、パーカッションを加えた編成で「トニカ」へ。大らかなシンガロングが鳴り響くなか、ライブはエンディングを迎えた。
この日、Omoinotakeはメジャー1stアルバムのリリースを発表(リリース時期は“夏近辺”だそう)。さらにこのアルバムを携え、9月から10月にかけて初の全国Zeppツアー"Omoinotake ONE MAN TOUR 2023(仮)"の開催も決定。ツアーファイナルは彼らの地元・島根の松江テルサホールで行われる。
メジャー1stアルバム、そして、バンド史上最大規模のツアーによってOmoinotakeはまちがいなく、さらなる飛躍を果たすことになるだろう。
Text:森朋之Photo:Daikichi Motouchi
<公演情報>
『Omoinotake SPECIAL LIVE 2023 “SUEHIROGARI”』
4月28日(金) 東京・Zepp DiverCity(TOKYO)