JIGDRESS pre.『信念』盟友・時速36km、ルサンチマンを迎え、ついに実現「だいぶ前にDaisyBarで話をしてたことが形になっていてうれしい」
Photo:Furuya Haru
Text:ヤコウリュウジ
JIGDRESSによる主催イベント『信念』が8月19日、渋谷 WWW Xにて開催された。そこに名を連ねたのは盟友である時速36kmとルサンチマンであり、カウンター的なオルタナティブロックを鳴らしながらもその先にある光へしっかりと手を伸ばす3バンド。事前にそれぞれのフロントマンが集まって行われた鼎談で明かされたように、この3マンの構想自体は2年ほど前だったが、どのバンドもよりブラッシュアップされている今がベストなタイミングとも言えるはず。実際、胸を躍らせた無数の観客によりチケットはソールドアウト。3バンド共に自らの持ち味を存分に発揮し、どこまでも上り詰める一夜となった。
まず先陣を切ったルサンチマンは北(vo/g)がギターを軽く鳴らしながら絞り出すように歌い出す「スピードを上げなくちゃ」からライブをスタート。トップバッターとしてガツンと踏み出す幕開けという選択肢もあったであろうが、瞬間的な熱狂は求めない。タイトに疾走しながらグッと惹きつける。
今の自分たちの最上級をぶつける姿勢に観客も拳を突き上げ、序盤から素晴らしい一体感が生まれていくのだ。
ルサンチマン Photo:Ryohey Nakayama
ルサンチマンPhoto:Ryohey Nakayama
イントロのギターリフで歓声が上がり、フロアから大きなシンガロングも生まれた「荻窪」を投下した後、改めて北が気炎を上げて放ったのが清水(b)のプレイをフィーチャーしながら突入した「いやいやいやいや」。その轟音ぶりもさることながら、観客をより鼓舞する北のハイトーンボーカルも素晴らしい。<ギリギリスレスレで言葉にできる>との歌詞通り、歌い叫ぶというか泣き叫ぶように想いを爆発させていく。
「忘れられない一夜にしたい」と北が口にして「忘れそう」へ。4人の音が繊細に重なる中、呟くような歌声や絶妙なドラムのアタック感が沁みるスローバラードでありながら、最後は激しく覚醒するドラマティックな1曲。その余韻を残したまま鳴らしたノリの良いロックナンバー「きっとそう」もまた良かった。
ルサンチマンPhoto:Ryohey Nakayama
ルサンチマンPhoto:Ryohey Nakayama
スリルとポップネスが混じり合うインストナンバー「ikki」で勢いを増し、観客が波打つようにノリまくったのが「十九」。
もはや咆哮に近い歌声で感情を揺さぶりまくり、ラストは「lares」。抑揚のつけ方も秀逸で、溢れ出るスケール感はスタジアム級と言っていい。インスト的アプローチの中で突きつけられる<僕だってそうなんだずっと/救い合えて今を産んだ>という言葉はとんでもなくアンセミックな響きを誇っていた。
ステージ中央で呼吸を合わせ、アカペラで仲川慎之介(vo/g)がワンフレーズを高らかに歌い、「東京、江古田。時速36kmです。よろしくお願いします!」と絶叫混じりな大声を上げてフルスロットルな「ハロー」で駆け出していったのが時速36kmだった。オギノテツ(b/throat)や石井開(g/cho)がフロアを見渡し、いいじゃねえか、と言わんばかりの笑みも見せるほどフロアもぶちアガる。
時速36kmPhoto::Furuya Haru
時速36kmPhoto::Furuya Haru
仲川がのけぞりながらギターを荒々しくかき鳴らして始めた「動物的な暮らし」もド迫力。
落とすところはしっかり落としながらもギリギリのテンション感で攻めていき、押し寄せるのは歪みの海。そんな音に浸れる喜びを観客は爆発させ、両手を突き上げる。オギノから、後に言い過ぎたと訂正していたが、「JIGDRESSをぶっ殺しにきました」との発言もあったように、みなぎりまくる気合い。「助かる時はいつだって」では特に顕著だったが、感情が乗ってるというか、その曲の感情に支配されたような歌声の凄まじさも圧倒的だ。
力強い松本ヒデアキ(ds/cho)のプレイも印象的なミディアムバラード「化石」を鳴らした後、「(JIGDRESSとルサンチマンを)ライバルだと思っていて。音楽で殴り合える、打ちのめされることができる人たちだなと。それが対等な関係でやれる3バンド」と仲川がこのイベントへ懸ける想いを語り、新しい曲を、と「Happy」をプレイ。フワッと曲全体を持ち上げるギターフレーズ、大きく振りかぶりながらしなやかに響かせる歌を届け、大きく開けるサビに心を持っていかれる「優しい歌」、締めくくりはタイトルコールで会場中が沸き立った「スーパーソニック」。
ロック特有の緊迫感を漂わせながら仲川やオギノは叫びまくり、石井は飛び跳ね、松本はその勢いに拍車をかけるようなリズムを叩き出す。完全に振り切りながら決して破綻しない、ロックバンドの真骨頂を見せつけてくれた。
時速36kmPhoto::Furuya Haru
時速36kmPhoto::Furuya Haru
トリは本イベントの主催であるJIGDRESS。New Orderの「Ceremony」を背に登場した彼らはそれぞれの足元を確かめてからイセノ(g)がフィードバックノイズを響かせ、厳かさを漂わせるサウンドに彩られた「blue」をまずは放っていく。吐き捨てるようでありながら、ここぞというポイントではまっすぐに飛ばす山崎大樹(vo/g)の歌もいい。盟友の熱烈なパフォーマンスを受けて、逸る気持ちがないと言えばウソになるはず。だが、決して焦らない。自らの音を激情と共に会場全体へ確実に刻み込んでいくのだ。
JIGDRESSというバンドの色を染み渡らせ、そこから一気に駆け出していくのはバンドの強さ。興奮を誘うギターリフに大歓声も巻き起こり、高い推進力とグルーヴで飲み込んでいく「mother」から「5/0.6」、ワタナベカズタカ(b)のぶっといベースにイセノの浮遊感のあるギター、パワフルなヤマグチハヤト(ds)のドラムが加わり、観客をアジテートする山崎のザラついた歌声が絡み合うロックンロールナンバー「wack」と続けるのだが、これはもう行くところまで行く、という意思表示とも思える流れだ。少しでも彼らに近づこうとする観客によってフロアの密集度は限界まで上昇し、熱気も汗もそこら中でほとばしる状態になっていく。
JIGDRESSPhoto:Furuya Haru
JIGDRESSPhoto:Furuya Haru
ここで山崎がルサンチマンと時速36km、集まった観客へ謝辞を述べ、改めて本イベントについての胸の内を語っていった。
「今日、オレたちを手伝ってくれる人の中に、偉そうな、このおっさん誰だ?っていうヤツがひとりもいないんですよ。不思議なもんで、だいぶ前に(下北沢)DaisyBarで、デカいハコを電話1本で押さえられたらいいな、このまま行けたらいいな、って話をしてたことが形になっていてうれしいです。みんなのおかげでもあるし、本当にありがとうございます」――山崎大樹
誰かに寄りかかって実現するのは本末転倒。それこそ、『信念』というイベント名からかけ離れた話だ。
もちろん、規模が大きくなれば関わる人は増え、難しい問題に直面することもあるだろう。だが、そうであっても魅入られたモノに恥じぬよう、精神性としてのオルタナティブがブレないように歩みを進めてきた。その結果、渋谷WWW Xがこの3マンでソールドアウト。信念が壁を突き破った証でもある。この話の最後に山崎が付け加えた「誰とやってもいいもんじゃないっすよ、こういうのって」という言葉がすべてを物語っていたに違いない。
そんなスタンスを感じさせる佇まいで要所要所にエッジを効かせた「plan」、さらりとプレイしてるようでありながらにじみ出るロックンロール感がグッとくる「無重力」と続け、そこからさらにグッと腰を落として鳴らしたのが「orthodox」。巧みなフレーズを深く響かせ、クライマックスでは激しく覚醒。シルエットを活かした証明で表情こそ伺えないものの、瞬時に伝わってくる熱さ。
観客と共鳴してることを感じたのであろう、山崎が「ありがとう」と口にして「refill」へ入っていったのもまた印象的だった。
JIGDRESSPhoto:Furuya Haru
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そして、少し間を開けて、山崎が自らの信念について考え直すことがあったと口を開き、「やりたいことをやる為のバンドではあったけど、結構やりたいことができてしまった」、「凄いダサいことを言うけど、自分の為にやることが結構飽きてて、誰かの為にやりたいというのが出てきた」、「媚びるとかじゃない。誰かの支えじゃないけど、誰かの人生に関わることがしたい」と胸の内をさらけ出す。そこから初めて曲を作ったときのことを思い返し、「オレみたいなヤツのどっかに刺さって欲しい」という気持ちがあったと続け、そのころに作ったという「Goat」を思いっきり鳴らしていけば、観客は一斉に拳を突き上げて共に進もうと約束を交わす。とても美しい光景だ。
そして、そんな信念を共有したバンドと観客に余計な言葉はいらない。最終盤はまさに畳み掛け。爆発的なイントロ、せめぎ合うプレイにヒリヒリする歌声が合わさる「taog」から「P.I.D.」を投下。カオティックとも言える流れだが、それがいい。はみ出すぐらいじゃないと誰かの心には刺さらないのだ。
高いピークを保ったまま本編は幕を閉じたが、すぐに呼び戻された彼らはそうくるならば、とアンコールとして「狂ってる」と「ってか」をドロップ。互いに魂をぶつけ合い、リミッターを振り切る姿は何とも痛快。それぞれが磨き、考え抜いた信念が交錯した一夜はどこまでも輝かしかった。
JIGDRESSPhoto:Furuya Haru
<公演情報>
JIGDRESS pre.『信念』
2025年8月19日 東京・渋谷WWW X
出演:JIGDRESS / 時速36km / ルサンチマン