つきみ“永遠をまた続きから始めようツアー”ファイナル公演レポート「みんなのことはちゃんと見てるから」
Photo:佐藤祐紀
Text:吉羽さおりPhoto:佐藤祐紀
新曲「LOVE KILLER」をリリースし7月6日の仙台公演を皮切りに、福岡、愛知、大阪、東京の5大都市をめぐるワンマンライブ『「LOVE KILLER」RELEASE ONEMAN TOUR“永遠をまた続きから始めようツアー” 』を行なってきた、福島発の3ピースバンドつきみ。そのツアーファイナルが、8月1日東京・渋谷音楽堂で開催された。
今年に入り、ににちゃん(vo/g)の体調不良によりしばらくライブ活動を休んでいたこともあって、まさに待望のツアーとなった今回。「LOVE KILLER」リリース時のぴあでの インタビュー(https://lp.p.pia.jp/article/news/421314/index.html) でににちゃんは、「つきみのお客さんはライブ中に喜怒哀楽を見せてくれる子が多い。日常からつきみの曲をそばに置いてくれてるんだなとわかってうれしい」と語り、ににちゃんが日々を不器用に生きる自分をリアルに綴った曲に、ファンは自分自身を重ね、自分の歌として聴いてくれていると話してくれたが、久々のツアーを募る思いで迎えたファンが多かったのだろう。
満員のフロアは、開演前からエモーショナルな感じで、この日を迎えた高揚感と緊張感とがないまぜとなった空気で満ちている。女性の観客が多く、友人と連れ立ってというよりひとりで来ている子の姿も多い。この日のMCでににちゃんは、「今日、ここに辿り着いてくれてありがとう」と何度も観客に語りかけていたが、つきみのライブがとても大事で大切な場所になっていることが、会場の雰囲気からも肌で感じられるものとなった。
ピンクの豹柄に“TUKIMI”と記されたバックドロップやギャル度120%のいでたち(主に、ににちゃん)で派手な印象が強いが、その音楽は繊細で、やさしくて、力強い。「君の全てをもう全部壊してしまいたかった」で、のっけからフロア全体を抱きしめて“愛してるよ”と叫びながら、ににちゃん、しゅか(ds/cho)、りーたん(b/cho)のシンガロングで観客の心を揺さぶると、続く「強い天使も超吠える」へと馬力を上げていく。笑顔でパワフルにドラミングするしゅかと、「お呪い」ではフロントへと躍り出てアグレッシヴにベースをプレイするりーたんが、バンドアンサンブルの熱を上げる。
観客はコブシを掲げながら、一緒に歌い、また歓声を上げる。「ねー、ダーリン」では、気だるくクールに(装いながら)、相手を跳ねのける強さを観客と共に歌い上げる。《心底伝わる愛だったしね、よ》の“しね、よ”とハッとするようなフレーズをフロア一体となって高らかに叫べるは、ライブだからこその痛快さだ。
ここで改めて挨拶をし「ツアー・ファイナル、めちゃくちゃ愛し合って帰りましょう」(ににちゃん)と、「寝込むくらい」を続けると、ここから2曲はより感情的で、生々しい痛みのある曲を続ける。「大切な歌」だと紹介した「stay with me」、そして満たされない思いを吐露するようにギターを奏で歌う「空腹」。
今なおヒリヒリと痛むような吐息が混じる歌に観客は静かに息を飲む。フロアは、徐々に上がっていく演奏のボルテージと同期して、静かに熱を帯びていった。
中盤では、このファイナル公演でやろうと思っていたという曲のなかから、「とうきょうハイヒール」を披露。慣れぬ街で闘い暮らす儚さをを滲ませながら歌い、そこに続いた「さよなら春」では、何かになろうと必死に足掻いていた自分をも抱きしめるようにアンサンブルのボリュームを上げる。しゅかやりーたんもそうだが、ににちゃんがフロアを見つめる眼差しはとても穏やかで、優しい。
そしてこの中盤でのハイライトとなったのは、今回のツアーの全カ所で大切にしてきたという「微熱」。どっしりとしたビートや叫びを上げるギターに乗せ歌うこの曲は、絶望から生まれた曲だという。《これでいいのだ、これでいいのだ》と歌うこの曲はきっと、後ろ向きになりそうな自分自身を奮い立たせるように書いた曲だろう。
ライブを重ね、今こうしてステージから放つその歌は、誰かの日々を讃えるように響く。
「ここまで辿り着いてくれて、ありがとう。精一杯歌って帰って」(ににちゃん)と言って、たっぷりと歪みを効かせたギターでダイナミックにアウトロを聴かせると、会場には歓声や拍手がこだまする。「みんなが生きる理由だっていってくれたから、越えられた夜があるんです」というににちゃんの言葉が沁みる。
会場中がエモーショナルになったところで、ここからは再びパンキッシュにスピードを上げた曲で、観客に思いの丈を叫ばせる。いいツアーを走ってきたことが伺えるバンド・アンサンブルで観客にコブシを突き上げさせる「ワールドエンド」では、ににちゃんは“あなたが大丈夫という言葉で、自分を傷つけませんように”と友人に語りかけるようにつぶやく。また「きるゆーすたー」では、しゅかとりーたんと観客とが一体となって、《私と一緒に幸せにならないならしんでくれ》をシンガロング。はちゃめちゃなアンサンブルのパワーと、(歌う文言は痛烈だが)キャッチーなコーラスのパワーが会場を明るくする。
笑顔で歌ったり、全力で声を上げる観客を見ながら、胸にあった思いが溢れ出たのだろう。ににちゃんは、つきみの音楽が好きだと言ってくれる人は、きっと辛い思いをしながら、たくさん頑張ってきていると思うと、静かにその思いを話し出した。「誰にも愛されてないなんて思わないでほしい、そして少しでもゆっくりと眠れる夜が早くきますように。君たちの毎日が少しでも、少しでも輝きますように」と、その言葉に涙を滲ませながら観客一人ひとりに話をすると、その願いを「消えないで、天使」に込めて歌う。先ほどまで賑やかだった会場には、すすり泣く声が聞こえてくる。そこに続いた「えーる」では、抑えた思いを爆発させるように3人のシンガロングに観客の声が重なっていった。
後半では、新曲「KEY」を弾き語りで披露するというツアーファイナルならではのサプライズもあり、また10月からは3カ月連続の2MANLIVE企画『Mwah!』を開催することも発表した。「今日は来てくれてありがとう。
みんなの顔を見て歌うことが、本当に幸せです。本当に本当に、ありがとう」と告げたににちゃんは、「みんなのことはちゃんと見てるから」と晴れやかな笑顔を見せて、ここからラストまで全力で駆け抜けていった。
今回のツアーの冠となった『LOVE KILLER』は、早くもライブのキラーチューンとしてフロアを沸騰させる。また、バンドも観客もまだまだこんなにエネルギーが残っていたのかという勢いで「ミッドナイトセブンス」と「うそロック」で大暴れすると、ラストはショートチューン「WANT YOU」へ。アンコールはなし。何度も「WANT YOU」をリピートし、力の限りをここに注ぐような激しいベース&ドラムで観客の声をからし、途中ギターを置いたににちゃんはフロアへと乗り出していく。観客の手をぎゅっと握って歌って、「愛してるよ!」と叫ぶその表情は最高の笑顔だ。最初こそ、やや奥ゆかしく歌を口ずさんだり、体を揺らしていた人も、高く上で拳を突き上げて歓声を上げ、拍手する。
喜びと開放感とに満ちた会場内の空気感に、つきみというバンドの優しいタフさを感じるツアー・ファイナルとなった。
<公演情報>
『永遠をまた続きから始めようツアーファイナル東京公演』
8月1日(金) 東京・渋谷音楽堂