ROTH BART BARON が描いた“青”の軌跡 ーー 三船雅也が曝け出した現在地と真価を刻んだツアー最終公演をレポート
Text:沖さやこPhoto:Rintaro Miyawaki
ROTH BART BARONが9thフルアルバム『LOST AND FOUND』を携えて開催したリリースツアー『ROTH BART BARON “LOST AND FOUND” TOUR』。16公演にわたる同ツアーは、ホールやライブハウスだけでなく、築140年以上の酒造を改造した熊本の早川倉庫や、北海道・モエレ沼公園のガラスのピラミッドといった個性的な会場も選ばれ、さらにはストリングス、ソロ、バンドと異なる編成で展開されるという非常に多面的な内容となった。
ファイナルの会場はROTH BART BARONのホームとも言える渋谷Spotify O-EAST。これまで表現してきたファンタジー性に三船雅也(vo/g)の“現在地”を赤裸々に映し出した『LOST AND FOUND』収録曲を軸としたセットリストと、西池達也(key)、Zak Croxall(b)、工藤明(ds)、竹内悠馬(tp)、大田垣正信(tb)という気心の知れた盤石の布陣とも言うべきバンド編成で展開した同公演は、ROTH BART BARONの真価が表れた一夜だった。
会場が暗転するとステージの背景一面に広がるスクリーンが真っ白に光り、6人はその逆光のなか一曲目「ima.」でこの日の幕を開けた。穏やかで力強い演奏は、しがらみから解き放たれるような開放感や、いまここで息をしている喜び、始まりの高揚感を帯びる。柔らかい音色に乗せて三船が「今日は来てくれてありがとう。よろしくお願いします」と一言挨拶をすると「EDEN」「Kid and Lost」と立て続けに披露し、幻想的と言うには生々しく、現実的と言うにはロマンチシズムにあふれた音色で会場を満たした。
竹内と大田垣は様々な楽器を駆使して楽曲の世界を広げ、さらに竹内は工藤とともにコーラスでメロディを引き立てる。おおらかかつピュアでありながらも集中力や生命力が漲る一音一音から、ROTH BART BARONが有意義で濃密な時間を過ごしていることが感じ取れた。
深い水色で彩られた水泡の映像から「Crystal」に入り、たおやかなムードで包み込むと、「Kitsunebi」では憂いのあるメロディと緊迫感のある演奏で聴き手の感情を揺さぶる。内観的なムードが高まるなか、ノイジーなギターにピアノの不協和音が重なり「S.O.S (Song of Sinking)」へ。ゆっくりと毒が回るような危うさや閉塞感がありつつも、苦しみの淵で微かな光を捉えるような空気感は、かつて彼が抱えた心の痛みなのだろうか。並々ならぬ気魄とメランコリアが空間を支配した。
歓声と拍手が鳴りやむと、おもむろにギターを弾き始めた三船は、初期曲「静かな嵐」を歌い出す。<終わりを見に行こう>と呼びかける象徴的なフレーズが『LOST AND FOUND』の世界と交わることで、失くしたものと見つけたもの、何かが終わったがゆえに始まった何かといった境界線が曖昧になっていった。
するとスクリーンには荒廃する街と隆盛する自然物が融合した映像が映し出された。轡田創によるビジュアルアートとのコラボレーションである。「Falling Stars Over Burning City」の世界が可視化された映像演出は楽曲をより鮮烈に映し出し、観客一人ひとりを思考の海へといざなう。過渡期の渦中にあり、喜劇か悲劇か判断のつかない未曽有の現代で、我々はどのような生き方をしていくべきなのか。そんな現実を鋭く突きつけられるようで、ただただ息を呑むことしかできなかった。
三船はギターを弾きながら、2024年のメディア出演時に新曲として披露した楽曲に触れ、「最近、世界のいろんなところでいろんなことが起きちゃって。当時もそんな感じだったから、公共の電波なら気持ちが伝わるんじゃないかなと思って作った曲です」と紹介し、「Happy」を披露する。その後の「火魅蟲- Fly to a Flame」も含め、柔らかい歌と音は変わりゆく世界を注視するように、ささやかな幸せを願うように響いた。
ここからさらに空間の純度が上がる。エフェクティブかつアンビエントな導入を挟んで演奏された「けもののなまえ」は朝日が差し込むような雄大さに溢れた。続いてバンドメンバーが打楽器を叩き出すと、三船はギターテックから北海道土産にもらったという2本の鹿の角を高く掲げる。彼がその角を打ち鳴らすと観客もクラップをし、それに触発されるようにバンドメンバーの熱量も上がり、そのまま「Skiffle Song」へ繋いだ。打楽器のソロ回しなど、ひりついたプリミティブな演奏が会場を興奮させる。三船も無邪気にメンバーの奏でる音を楽しみ、会場全体がリズムの力で突き動かされる様子は非常に壮観だった。
それを追い風にライブはクライマックスへと駆け上がる。スケールの大きなメロディと確固たる意志が堂々と響き渡った「dEsTroY」、閃光を彷彿とさせる鮮やかなシンセで幕を開けたエネルギー漲るプログレッシブロック「King」、異なるもの同士が溶け合いひとつになって新しい何かが生まれるような未知なる可能性がほとばしる「赤と青」とたたみ掛けると、「バンドのみんなと作れて良かったという曲です」と告げ、「Goodnight」へ。
バンドで音を鳴らす喜びと夜特有のときめきが化合し、エモーショナルな空間を作り上げた。
弾き語りにバンドの音が重なり「薄明」を丁寧に歌い上げると、三船は「この2年ずっとメンタルがやばかったけど、みんなのおかげでもう大丈夫です。来てくれてどうもありがとう。これからも楽しいお祭りをたくさん作るので遊びに来てください」「この曲を皆さんに」と言い残し、本編ラストに「You’re the Best Person in This World」を届けた。観客に語り掛けるような歌声は優しくも頼もしく、言葉の一つひとつが澄み渡る。そんな彼の思いに共鳴するようにフロアも気持ちを歌に乗せた。互いに感謝とエールを送ると同時に、約束を交わすような、美しく純粋な光景だった。
アンコールで再びステージに登場した三船は、『LOST AND FOUND』のテーマカラーが“青”になった理由について、フィルムがなくなる前にカメラの裏蓋を開けてしまったところ、修復してスキャンすると青みがかった写真になったことから着想を得たという。
そしてコロナ禍に入った頃に制作した“青”がテーマの楽曲であり、A_oの「BLUE SOULS」や『極彩色の祝祭』の原型になったという「BLUE FALL」を披露した。夜明け前の海と空を想起させる、あたたかくも寂寥感のある音像がじっくりと胸に染み入る。爽やかさと仄暗さを併せ持つ青という色が、ROTH BART BARONにとって重要な位置にあることを痛感する、隅々まで濃密な音だった。
ギターのアルペジオに時計の秒針を模したビート、煌びやかなピアノの音色が重なり宝石箱のような音が広がると、溌溂としたドラムがカットインして「GREAT ESCAPE」へ繋ぐ。爽やかで晴れ晴れとした躍動感が生まれ、アウトロでのトランペットとトロンボーンのソロの爽快な掛け合いで、会場は大きな歓声と笑顔に包まれた。
すると三船は、夏恒例の自主企画ライブ「BEAR NIGHT」の意志を継いだ全国ツアー『ROTH BART BARON Summer Tour 2026』の開催を発表する。新たなサウンドシステムの導入や新しい試みもあるとのことで「夏、ちょっとざわざわします」と今後の活動に含みを持たせた。最後に「おかげさまですごく楽しいツアーでした。
これだけ一緒に回っているのに、新しい世界を見せてくれるバンドの皆さんにも本当に感謝しています」と告げ、アルバムのラストを飾る「花吹雪- Hanafubuki」で会場を耽美に彩った。
だが興奮冷めやらぬ観客は、先ほど以上に熱烈なクラップでダブルアンコールを求める。するとそれに応えて再びステージに現れ、「極彩|IGL(S)」を披露。ライブを観に来ていたRyu Matsuyamaも急遽コーラスで参加するというサプライズも起き、すがすがしく凛とした歌と演奏を繰り広げる。三船は歌い終わるや否や「ありがとう!」と叫んでギターを高く掲げ、「また夏にお会いしましょう」と再度感謝を告げて4カ月間にわたるツアーを締めくくった。
肩を組んで頭を下げる一同の笑顔も充実感に富み、今後の意欲も漲っていた。自身の心と向き合い、大切なものを一つひとつ確かめながら完成させたのが『LOST AND FOUND』ならば、このリリースツアーはそれを愛でながら育て、羽ばたかせる期間だったのかもしれない。ストレートなメッセージも、様々な思考や感情が複雑に絡まり合う胸の内ももれなく素直に映し出す姿は、陽に照らされた水面のように眩しかった。
<公演概要>
ROTH BART BARON『LOST AND FOUND TOUR 2026』
3月20日 東京・Spotify SHIBUYA O-EAST