ハルカミライ VS w.o.d. 大阪で迎えた最終日に見た「音楽」という奇跡
(Photo:小杉歩)
Text:早川加奈子Photo:小杉歩
w.o.d.主催の対バンツアー「w.o.d. presents “スペース・インベーダーズ VI」。東名阪3カ所を巡ったツアー最終日、大阪 GORILLA HALLでの対戦相手にw.o.d.が選んだのは、あらゆる世代から支持を集めるバンドヒーロー、ハルカミライだった。
「あれ?俺たちテンポ遅い?」1曲目に投下した「君にしか」を演奏中、一瞬で興奮の坩堝と化したフロアに向かい、須藤俊(b)がしれっと煽る。
「もっとやれると思ってたんだけどね」と、髪と同じ赤のラインを頬にペイントした橋本学(vo)が須藤の言葉に便乗して煽り、歓声をあげる客の頭上にダイブ。w.o.d.の物販グッズ(パジャマ)を着た橋本は大の字状態で観客に担ぎ上げられながら歌う。ステージサイドには、観客と視線を合わせて音を鳴らすギターの関大地の楽しそうな姿が見える。
「ここ2~3年、イケてるやつらがいるなーと横目で見てたんです、俺、w.o.d.のこと。対バンに呼んでもらってめちゃくちゃうれしいです。
ワケわかんないくらいぐしゃぐしゃにしていくんでー!」対バンへの感謝を告げた橋本は、観客に自分の両足を支えてもらい、観客の肩の上に立ちながら「ファイト!!」を歌う。そして「靴ヒモ結んでー!」と観客に頼み、結んでくれた観客と熱いハイタッチを交わす。
「音楽はわがままでいい、音楽は自分勝手でいい。出せるもん出して、おもっくそ発散して帰ってくれ」そう叫ぶ橋本に拳を突き上げて応える観客。MCと歌、ステージとフロア……全部の境界が曖昧になって熱く混ざり合うこの感じこそハルカミライのライブの醍醐味だ。
アカペラで始まった「世界を終わらせて」を歌っている途中、橋本がうれしそうに話す。
「今日の打ち上げ、焼肉なんだって。俺のいちばんの大好物」橋本にとっての焼肉や寿司のように、ここに集まった人それぞれに好きなものや譲れないものがある。
将来のことや夢、不安を抱える人もきっといるだろう。そんな互いの事情を知らない者同士が「音楽が好き」という共通項だけで集う「ライブ」という奇跡を讃える橋本。彼の言葉に聞き入っていた観客のひとりが、首に巻いたタオルで込み上げた感情を拭っている姿が見える。
全観客の心をわし掴みにし、ワンマン級の熱量を放つステージを繰り広げたハルカミライ。果たして、w.o.d.はこの熱気にどんな風に立ち向かうのか!?
サイケデリックな60’sロックのSEが鳴り響く中、ステージに登場したサイトウタクヤ(vo/g)、Ken Mackay(b)、中島元良(ds)。元良が座るドラムセットの前に全員で集い、互いに視線を合わせた直後、「STARS」の歪んだギターがフロアに鳴り響く。ベースのKen Mackayの躍動感ある演奏と動きに眼を奪われる中、「楽園」→「Fullface」と畳み掛けるように轟くバンドグルーヴに、オーディエンスそれぞれが利き手を突き上げ、思い思いに身体を揺らす。
「ハルカミライやばいな。
泣いてたもん、袖で見ながら。最高、ヒーロー、超カッコいい! 呼んで良かった!」歓声が沸くフロアに向かい、今日の対バンに本気で挑んだハルカミライについて、ボーカルのサイトウタクヤがうれしそうに話す。
ハルカミライのメンバーがステージ袖にいたのか、べースのKen Mackayとドラムの中島元良がステージ袖に向かって笑顔で手を振る。そんな和やかな空気の中、サイトウが言葉を続ける。「俺は俺のためだけに音楽をやってて。それがみんなに届くのが面白いと思うし、観に来てる人も自分のために聴きに来てるやん?それが重なり合うってことがヤバいんですよ。なんか今日はそういう日になる気がします」
そういえばさっきステージでハルカミライの橋本も、「音楽はわがままでいい、音楽は自分勝手でいい」と語っていた。例えば、世界中で愛され続けている名曲も、実は作者の個人的な思いや衝動から誕生したものがほとんどだ。
それが世に放たれた瞬間、会ったこともない多くの人の心を揺さぶる……だから音楽は面白い。サイトウはきっとそんなことを伝えたかったのだと思う。
「ハルカミライと同じフレーズがあってうれしいです。多分、ロックのいちばん優しいフレーズだと思います」そんなサイトウの言葉で始まったのは、<なあスタンドバイミー>というフレーズで幕を開ける「オレンジ」。ハルカミライの「世界を終わらせて」の中でも歌われる<スタンドバイミー……側にいて>というフレーズは、どちらの曲でも聞き手の心を切なく打ち鳴らす。
ヒリヒリした思いを歌う「あらしのよるに」を披露後は、サイトウが自身の「音楽」に対する思いをフロアに向かって話し出す。「俺は自分のために、自分を慰め、助けるために音楽をやっていて」「ビビるくらい音楽が好きなんすよね。これ以上楽しいことはないですね。
やのに、ずっとやってるとしんどくなることもあって。中学から俺ら(サイトウ&Ken)はこのバンドをやってて……けど、続けててよかった。音楽がある限りやり続けると思うんで、(ライブに)また来てください」
そして、「ライブしないと生きていけないバンドなんで、この後めちゃめちゃライブやります!」と、うれしいニュースを告知。10月発売予定のメジャー1stアルバム『あい』のリリースに伴い、全国24カ所に及ぶ『I SEE LOVE Tour』の開催を発表。場内からは歓喜の声が沸き起こる。
「新曲やります」というサイトウの声で始まったのは、メジャー1stアルバム『あい』からの先行シングル「エンドレス・リピート」。w.o.d.が持つロックンロール魂がダンサブルに疾走するこの曲では、ドラムの元良はヘッドフォンをつけて演奏。
「踊る阿呆に見る阿呆」のスリリングなロックンロールで観客をひとしきり踊らせた後、今回の対バンツアーの最後に披露されたのは、60’Sロックへのオマージュが色鮮やかなビートと共に弾ける「My Generation」だった。
時代も世代も超えたw.o.d.流のロックンロールに、楽しそうに身体を揺らすオーディエンスたち。w.o.d.の根底に流れるアナログ感溢れるオーセンティックなロックンロールの魂は、これからもこんな風に新境地を切り開き続けていくのだろう。
生きることが音楽になっていくハルカミライと、生きるために音楽を歌い鳴らすw.o.d.。彼らが「自分たち」のために生み出す音楽は、もうすでに多くの人の人生の糧になっている。アラサー世代のバンドマンの音楽と人生はこれからが本番だ。
<公演情報>
『w.o.d. presents “スペース・インベーダーズ VI”』
2024年7月15日(月・祝) 大阪・GORILLA HALL
出演:w.o.d./ハルカミライ