GLIM SPANKYが過去を起点に今を描く メジャーデビュー10周年記念ツアー最終公演オフィシャルレポート
Photo:上飯坂一
GLIM SPANKYのメジャーデビュー10周年を記念した東名阪ワンマンツアー『GLIM SPANKY 10th Anniversary Tour 2024』の最終公演が、8月30日に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)で開催。そのオフィシャルレポートが到着した。
愛と期待に満ちたフロア。BGMが止みSteeleye Spanの「Gower Wassail」が大音量で鳴る。トラッドな旋律の力強さに思わず息を飲む。場内には緊張が走るなか、松尾レミ(vo/g)、亀本寛貴(g)が登場すると大きな拍手と歓声が。幾度と味わってきた定番のオープニングに覚えるスリルと興奮も、“メジャーデビュー10周年”と聞くとひとしおだ。
1曲目はそのメジャーデビューEP『焦燥』よりタイトル曲を。
今日この日だからこその剛腕直球ストレートが炸裂する。亀本による荒々しく太いリフ、静かな始まりから眼光の鋭さを増していく松尾の歌とメロディにフロアの熱はぐんぐん上昇し、ボトムの低いビートがサビで倍速になり疾走した瞬間に爆発。無数の拳とダンスによる熱狂の渦が巻き起こる。さらに『焦燥』より「Flower Song」、『焦燥』に続くメジャーからのシングル「褒めろよ」と、10周年ツアーならでは、初期のアッパーなナンバーを惜しげもなく展開していく。
松尾レミ(vo/g)
続いては2016年の2ndアルバム『Next One』より「闇に目を凝らせば」を披露。GLIM SPANKYの作品リリースツアーやフェスでの姿とはまた違った、幻想的な世界観にフォーカスを当てたパーティー『Velvet Theater』を象徴する曲の一つ。英国ロックの森深く、トラッド~フォークロックやサイケデリックロックからの影響を感じるサウンドとメロディに引き込まれる。「レイトショーへと」はコロナ禍以降のポストジャンル時代において、90年代以降のR&Bやモダンなポップスなどにも目を向け新たな世界観を示した曲。
ギターを置いてハンドマイクでステージを駆ける松尾の、アクティブで開放的なボーカルにフロアが湧く。どちらもGLIM SPANKYのクリエイティブ面における起点になった曲という意味では同じだが、アウトプットは対照的で、そのコントラストがたまらない。
亀本寛貴(g)
再び『Next One』期に戻り、ロックならではの重量感はそのままに4つ打ちを採り入れたダンサブルなキラーチューン「いざメキシコへ」、異国情緒と物語性が躍動する曲「grand port」を演奏。新たな旅をテーマにトラディショナルとモダンを融合させたアグレッシブな曲が続き、フロアは再びアッパーなモードに。メジャーデビュー以前の曲でありながら、長きにわたりライブでのハイライトを演出し続けている「ダミーロックとブルース」は、亀本のギタープレイがいつも以上にてんこ盛り。ギターソロが求められなくなった云々といったSNSでの話題を吹き飛ばす手数、チョーキングやアームによって揺れる音は、やはりめちゃくちゃカッコいい。
その頃からの変わらぬブルースロック魂を、日本武道館公演を経てよりビッグなスケール感で鳴らしたような、2019年のナンバー「Breaking Down Blues」へと続く、“これぞGLIM SPANKY”な芯を感じる流れに、観客の心の底からの叫びが飛び交う。そして畳みかけるようにGLIM SPANKYの名前を広く知らしめた「怒りをくれよ」を放ち、圧倒的な一体感が生まれた。
後半の最初は、GLIM SPANKYのデビュー以前を辿るところから。メジャーデビューからは10年だが結成は17年前。初期にリリースされた曲の中には、ふたりがまだ長野県は松川高校に通っていた頃に原型ができていたものも多くある。田舎の田園風景が浮かぶ「ロルカ」、「さよなら僕の町」、「夜風の街」~決意のロックンロール「サンライズジャーニー」へ。インディー時代のEP『MUSIC FREAK』と2015年の1stアルバム『SUNRISE JOURNEY』からのセレクトによって描かれた上京物語にグッとくる。
そして「リアル鬼ごっこ」、「大人になったら」と、2024年に『SUNRISE JOURNEY』期に振り切った選曲を、望んでいた人は多くいたとしても、予想していた人はどのくらいいただろうか。当時からGLIM SPANKYを追いかけていた人々にとってはあの頃の衝撃が蘇る、当時を知らない新しいファンにとっては願っても叶わないと思っていたセットリスト。そこから2020年に生まれたニューアンセム「Circle Of Time」へ。
今年は先に最新アルバム『The Goldmine』のツアーで現在進行形のGLIM SPANKYを軸にしたセットリストを展開していたこともあっただろう。次はいつ見ることができるかわからない、過去を起点に今を描く貴重なライブの本編は幕を閉じた。
鳴りやまないアンコールの中、新作のTシャツを着た松尾、そのあとに亀本が登場。ふたりのライブを休むことなく支えてきたお馴染みの寡黙な男、栗原大(b)、GLIM SPANKYのライブサウンドの厚みと広がりに大きく寄与してきた中込陽大(key)、ふたりの愛するオルタナティブレジェンド、福田洋子(ds)のサポートメンバーを紹介し、3曲を披露した。今年4月にリリースされたNHK BS『ワースポ×MLB』のテーマソング「Fighter」でタイトルの如くフロアを熱いソウルで燃やしたかと思えば、この時点での最新曲「風にキスをして」でエバーグリーンなポップの風を吹かせ、最初期の曲「Gypsy」でプリミティブなガレージロックの衝動と熱狂を。この日の縮図のような流れで締めた。
GLIM SPANKYは現在ベストアルバムのリリースに向けて準備中で、ベストと謳ってはいるが新作のつもりで、新曲もしっかり収録するとのこと。そしてその先にツアーも予定していると、今までと変わらず活動しながら進化していくことを誓いステージをあとにした。
さまざまなジャンルとの融合や派生を繰り返し、ロックは進化を続けてきた。その歴史にリスペクトがあるからこそ停滞することなく前を見て進むバンド、GLIM SPANKYはこの先どうなっていくのか。ますます楽しみになった夜だった。
Text:TAISHI IWAMIPhoto:上飯坂一
<公演情報>
『GLIM SPANKY 10th Anniversary Tour 2024』
8月30日 東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)