2023年6月5日 11:10
「六月大歌舞伎」開幕 澤瀉屋の演出の『傾城反魂香』、松嶋屋の親子孫三代が共演の『義経千本桜』を上演
物語の始まりは、大和国にある吉野下市村の茶店。親切ごかしに若葉の内侍(孝太郎)と嫡子の六代君(中村種太郎)、家来の小金吾(千之助)に近づいた権太は、鮮やかに小悪党の本性をあらわし、金を巻き上げる。このように悪事を働く権太だが、女房の小せん(上村吉弥)と息子の善太郎(中村秀乃介)に見せる姿は愛情に溢れている。
本作で大切にしていることを「家族愛」と言う仁左衛門が「『木の実』で三人の家庭の温かみをお客様に伝えることで、後の『すし屋』での別れのつらさを、より感じていただけると思う」と話すように、この場面がのちに起きる悲劇の伏線となるところも見逃せない。
「小金吾討死」では、小金吾が大勢の捕手たちとの立廻りを勇ましく披露。そして舞台は、世事に翻弄される庶民の哀切が胸に響く名場面「すし屋」へと繋がる。仁左衛門が演じるいがみの権太が放つ表情や佇まい、ふとした仕草一つ一つには、ならず者でありながらどこか憎めない魅力が溢れ、観客の心を掴む。母お米に甘える姿には客席から笑みがこぼれる一方、ある決意をした権太がすし桶を抱えて花道を引っ込む場面は緊迫感が広がり、緩急ある展開で魅了する。
家を勘当された権太が父弥左衛門(中村歌六)