【ライブレポート】電気グルーヴ、28年ぶりのアリーナライブで完全復活!「イェイ、かっこいいだろう! 電気グルーヴだ!」
Photo:Masanori Naruse
2022年10月15日横浜・みなとみらいのぴあアリーナMMにて、電気グルーヴのワンマンライブ『and the ARENA〜みんなとみらいのYOUとぴあ〜』が開催された。
ピエール瀧の逮捕→復帰以降、電気グルーヴが客前でライブを行ったのは、2021年8月22日の『FUJI ROCK FESTIVAL 2021』、2022年5月14日の『SWEET LOVE SHOWER SPRING 2022』、7月19日リキッドルームのDGCC(電気グルーヴカスタマークラブ)会員限定ライブ、8月19日『SONICMANIA』の4本。今回は、それに続く5本目である。
(リキッドルームを除く)通常のワンマンライブとしては、瀧の逮捕により東京2デイズが中止になった『電気グルーヴ30周年“ウルトラのツアー”』の大阪公演(2019年3月10日、Zepp Osaka Bayside)以来、3年半ぶり。アリーナでの電気のライブ、としてカウントすると(※『WIRE』出演時は除く)、1994年12月26日横浜アリーナの『たんぽぽツアー』(5thアルバム『DRAGON』のツアー)以来なので、28年ぶりになる。
Photo:Masanori Naruse
コロナ禍で再始動を阻まれる中、2020年12月5日にはDGCC会員限定で『FROM THE FLOOR〜前略、床の上より〜』(リキッドルームで収録)、2021年6月26日には『ON THE STAGE〜恐怖!!町のブタイ』(Zepp Hanedaで収録)、と、電気グルーヴは、無観客配信ライブを二度開催している。
それに続く三部作のラストが、今回のぴあアリーナMM、という位置付けになっている。「床=客席」「ステージ」の次は「アリーナ」だ、という意味合いで、『and the ARENA』というタイトルが冠せられた。
石野卓球(Photo:Miyu Terasawa)
なお、タイトルの『みんなとみらいの』は、「みなとみらい」をもじったもの。『YOUとぴあ』は、2011年まで発行されていた情報誌、ぴあの人気コーナー『はみだしYOUとぴあ』(ページの隅に短文の読者投稿が載っている)が元ネタ。それから、当日販売されたグッズTシャツのイラストや、ライブ直前にアップされた公式ツイッターの写真などで、石野卓球とピエール瀧が取っているポーズは、1980年頃の漫才ブーム当時に人気だったお笑いコンビ、ゆーとぴあの挨拶ギャグ「よろしく〜ねっ!」のそれである。「YOUとぴあ」と「ゆーとぴあ」を掛けたわけですね。
というような解説をするほど野暮なことはないが、会場でも、行き帰りの電車でも、「あ、こんな子たちもこんなに来てるんだ?」とうれしくなるほど多くの若いファンを見かけたので、(雑誌の)ぴあも(お笑いの)ゆーとぴあも知りようがないであろう彼ら彼女らのために、書きました。
定刻の18:30を15分ほど過ぎた頃、電気グルーヴ復帰一発目の曲「Set you Free」で、ライブがスタート。2020年8月23日のオンライン版フジロックの大トリとして、楽曲とMVが初公開された曲である。
この曲ではみなとみらいの街、続く「Shangri-La feat.Inga Humpe」では横浜中華街、5曲目「Missing Beatz」では横浜マリンタワーとシュウマイ、11曲目「Fallin’ Down」では観覧車、など、ここ横浜をモチーフにしたCGが、卓球&瀧の姿と共に、ステージ後方の巨大LEDに描かれていく。
Photo:Masanori Naruse
6曲目「モノノケダンス」では、ロウソクと踊るオバケと墓、12曲目「B.B.E.」では「カニー!」のシャウトに合わせてカニが現れるなど、曲の内容に合わせた映像演出も、多数あり。というか、すべての曲がそうだ。映像制作/VJは、もちろんDEVICE GIRLSこと和田一基。
「Set you Free」を瀧とユニゾンで歌った石野卓球は、3曲目「いちご娘はひとりっ子」ではカウベルを叩き、5曲目「Missing Beatz」では機材の前を離れ、ハンドマイクでステージ前方へ。
4曲目「プエルトリコのひとりっ子」の後半のブレイクでは、瀧が「ひとりっ子のみなさんも!」「今度はお客さん全員で!」「さっきよりも高く!」「ラスト、もう一度!」と、オーディエンスを何度もジャンプさせ、そのままのテンポで「Missing Beatz」に入る。
その「Missing Beatz」から「モノノケダンス」へのつなぎの部分で、『VITAMIN』収録の「Happy Birthday」でサンプリングしている、スチャダラパー「Trio The Caps」のラップが、ブリッジとして使われる。12曲目「B.B.E.」は、『VOXXX』収録の「インベーダーのテーマ」の頭のジングルから始まる。というふうに、曲のイントロにかぶせたり、曲と曲の間を担ったりする形で、過去の曲のパーツが、セットリストのあちこちに散りばめられていく。
フェス/イベント出演時は、曲間もMCなしのノンストップで全曲やり通すのが常だし、今年7月のリキッドルームの時もMCは短かめだったが、今回のぴあアリーナは、本編中に二回、アンコールで一回、わりとしっかり、MCの時間が設けられた。
Photo:Miyu Terasawa
一回目は6曲目「モノノケダンス」終わりのタイミング。「今日は皆様、ようこそいらっしゃってくださいました。ありがとうございます」と瀧が感謝を伝え、「どうも、執行猶予が明けて初めてのアリーナ・ライブです」と卓球が続く。瀧、「皆様のおかげで執行猶予が明けることができました。今、執行猶予中のみなさん、もうすぐですよ?」とかぶせてから、メンバーを紹介。現在、アニメ『チェンソーマン』の劇伴を手掛けているagraph牛尾憲輔に、瀧は「よっ、チェンソーマン! おまえがチェンソーマンなんだろ」と叫び、卓球は「ハンバーグ!」と叫びながらビブラスラップ(井戸田潤のハンバーグ師匠が持っているあれ)を連打する。
この夏に公開になった映画『野球部に花束を』の主題歌である新曲「HOMEBASE」は、その一回目のMC明けの7曲目で披露された。
ビジョンには横浜スタジアムのCGが現れ、「電」マーク入りの硬球が飛び交い、MVと同じように瀧がヘッドスライディングで地を進む。
Photo:Miyu Terasawa
ここから13曲目の「Shameful」まで、「The Big Shirts」「Upside Down」など、復帰後の電気グルーヴのフェス/イベントでのステージのピークを担ってきた曲が続いた。「Shameful」の途中で、卓球、「イェイ、かっこいいだろう! 電気グルーヴだ!」と叫ぶ。
「前科者とは思えない盛り上がりで」(卓球)
「すいませんね、はしゃいじゃって」(瀧)
から始まって、この会場のスケジュールを見たらみんな2日間ずつやっている、1日なのはうちらだけ、物販を買ってくれ、というアピールに辿り着く二度目のMCを経ての後半ブロックは、インストゥルメンタル『WIRE WIRED,WIRELESS』からスタートする。
「“冠”協賛」を募り、「LEDビジョン付きシルクハット」を制作して瀧がかぶり、支援者の名前を表示する──というクラウドファンディングのリターンは、この曲で実行された。ビジョンの中では、横浜の街で卓球と瀧が戦っており、後半で卓球が瀧にスペシウム光線を浴びせる。
2010年代の「MAN HUMAN」「Baby’ s on Fire」と、卓球と瀧のふたりになって最初の2曲だった「Nothing’s Gonna Change」と「Flashback Disco(is Back!)」を経て、「We like the music we like the disco sound」のボイス・サンプルが鳴り響く。そして、瀧がひざまずいて額にマイクを立て、卓球が叩くベルの音を拾う。
Photo:Miyu Terasawa
「N.O.」だ。ライブの大詰めに来て、この曲。「Shangri-La」がさらっと2曲目でプレイされた(しかも卓球は生で歌わなかった)のとは、何か、対照的に感じた。
次は、2000年代の活動休止期間を終え、8年ぶりの新曲としてリリースされた(2007年12月5日)──つまり、ある意味、今の電気が始まった曲である「少年ヤング」。曲のアウトロで瀧が「バンザーイ!」のジェスチャー。4階席までびっしりのオーディエンスがそれに倣う。
本編ラストは、今のところの最新オリジナル・アルバム『TROPICAL LOVE』の収録曲であり、『SONICMAIA』でもラストに持って来たインストゥルメンタル「UFOholic」。すさまじい開放感がぴあアリーナを包む。
DEVICE GIRLSが描く卓球と瀧は、ぴあアリーナの前まで歩いて来て、会場を見上げている画だった。アンコールでは、なんと、年内にツアーを行うことを発表。卓球「東京と大阪と福岡でやるんですけど。今日、大阪から来た人、がっかりでしょ?」。
Photo:Masanori Naruse
そこから、物販で傘を作ったのに残念ながら雨が降らなかった、みなさんの普段の行いがよすぎたせいだ、とか、上から見た時の瀧の頭がすごいハゲてた、とか、さっき瀧が舞台袖でオバケを見たとか、転がり放題話が転がる。その末に、
卓球「みんなキョトンとしてるけど、それが正しい反応だよ、ほんとに」
瀧「こんなでけぇハコで何をきかされてんだ、っていう」
卓球「ここで話すことじゃないのもわかってるけど、これを話してる時にいた、きみたちが悪いっていうか。悪いってのは言いすぎだけど、自覚してほしい」
という、電気ファンが大好きな展開に。オーディエンス、笑顔と拍手でそれに応える。
瀧「何を黙ってきいてるんだ、って話ですよね」
卓球「それは大声出すと怒られるからでしょ」
瀧「あ、そうだ。でも、曲の25%までなら出していい、みたいなことになったんでしょ?」
卓球「あ、そう? 今からやる曲が、その25%ぐらいだと思うんですよ」
と、始まったのは「富士山」。TB-03を携えてフロントに出て来た卓球と、瀧の「富士山」コールとサンプラーの犬の声で、2時間・22曲のショウが締められた。
Photo:Masanori Naruse
アンコールで告知された、11月18日(金) Zepp Fukuoka、11月20日(日) Zepp Osaka Bayside、12月2日(金)・3日(土) Zepp Hanedaの4本のツアーのタイトルは、『みんなと未来とYシャツと大五郎』。
『みんなとみらいのYOUとぴあ』と、1990年に大ヒットした平松愛理の『部屋とYシャツと私』と、1990年代〜2000年代中盤まで放送されていた、大五郎という焼酎のCMソング「俺とおまえと大五郎」の合体形ですね。
というような解説をするほど野暮なことはないが(以下同)。
Photo:Miyu Terasawa
Text:兵庫慎司
<公演情報>
電気グルーヴ『and the ARENA ~みんなとみらいのYOUとぴあ~』
2022年10月15日(土) ぴあアリーナMM