歌って踊って笑顔全開! 超能力戦士ドリアンの史上最大規模のツアーファイナル
Text:梶原有紀子Photo:堤瑛史
超能力戦士ドリアンのバンド史上最大規模のワンマンツアー『きらめけ!マジカルキングダム』が、彼らの地元である大阪GORILLA HALLでファイナルを迎えた。意外なことにこれまで大阪は地元ながら苦戦が続いていたが、今回は初めてチケット最速先行発売の時点で会場の収容人数を上回る申し込みがあったという。そこに至るまでのバンドストーリーも噛み締めつつ、筋金入りの彼らのファンも、この日初めて超能力戦士ドリアンのライブに来た人も、マジカルな王国で歌って踊って笑顔全開のひとときを味わった大充実のツアーファイナルをレポート。
開演時刻になると、スクリーンに今回のツアータイトルになっているマジカルキングダムにある魔法学校の校長が登場。会場のみんなはマジカルキングダム魔法学校に入学した生徒で、校長はみんなを一人前の魔法使いにすると意気込む。さらに校長曰く、超能力戦士ドリアンは身振り手振りの指示が多いバンドだがゆっくり見たい人、やりたくない人はやらなくていい、やりたい人だけがやればいい、自分の一番楽しめるやり方で楽しもう!と言い残し、3人にバトンタッチ。
「大阪ー!」というやっさん(g/vo)の雄叫びで「鬼は退治せず話し合うべき」でライブがスタート。「手拍子!」という声にフロアの反応は素早く、大人も子供もみんなはじけるような笑顔。
おーちくん(vo)をお手本に、お客さんは両手の人差し指で鬼の角を作ってダンスしたり、赤鬼と青鬼がステージに現れステージ上はわちゃわちゃ。1階フロアで親と一緒にステージに手を振る子供もいれば、2階フロアのファミリーゾーンで歌って踊る親子連れもいて幅広い世代にドリアンが浸透していることを実感する。「ゾンビの噛ミニケーション」、「尊み秀吉天下統一」と開始早々曲の登場キャラが鬼、ゾンビ、豊臣秀吉といきなり濃くて面白い。やっさんは熱唱の合間にフロアに向かって「ソールドありがとうな!」と感謝の思いを伝えていた。
けつぷり(g)
最初のMCで改めてチケットが完売した感謝を伝えつつ、「チケットが売れてOKじゃなくて、来てくれた人全員が楽しめるいいライブにしたい」とやっさんが言う。彼らが考える“いいライブ”とは会場の一体感が高まることだと言い、やっさんが次のようにレクチャー。「僕がライブ中に『〜いいですか?』と聞いたら両手をグーにして『興味あるー!』って言いながら下から上げる。これめちゃくちゃ盛り上がるんで!」と、彼らのライブにおける「いいですか?」「興味あるー!」のコール&レスポンスを伝授。
ただしこれは、オープニングで校長が話していたようにやりたい人がやればいいということも伝え、「無理ない範囲で大丈夫。ひとつになるのはみなさんの心ですから」とよいことを言う。
おーちくん(vo)
「それを踏まえて、やれる人だけやってもらっていいですか?」とやっさんが会場に聞くと、すかさず「興味あるー!」と大音量。これぞまさしく一体感。ドリアンは初めての人や彼らの曲を知らない人でも楽しめるライブを大切にしているが、このMCのやり取りでも彼らのホスピタリティ精神の一端が知れる。曲を知らなくてもスクリーンに歌詞が出れば一緒に歌えるし、踊りたければおーちくんの動きを真似して踊ればいい。手拍子のタイミングでは、ほぼ必ずやっさんかおーちくんが「はい手拍子」と声をかけるし、じっと見ていたい人は「腕組んだまま、笑顔で見てて」(やっさん)。
それから魔法学校の生徒は課題をひとつひとつクリアし、「口から炎を吐けたら強い」ではスクリーンのろうそくに火をつける魔法を、「傘2」では雨を降らせる魔法を習得。
雨が降って苗が天まで届くほど大きく育ち、鳥人間もびっくり。ということで次は鳥人間にまつわる曲=「背中に翼が生えたら便利だけどジャマ」というあっぱれな展開。メタル風味のこの曲に限らずだが、流行りのライトノベルのように長いタイトルだけでほぼ歌の内容が想像でき、聴かなくてもわかった気になりそうな曲がドリアンにはいくつもある。だが、まさかこの曲がライブではみんなが手を狐の形にして踊って盛り上がる曲だなんて誰が想像できるだろう。曲中おーちくんが早口で「普通のバンドはヘドバンするだろうけど、もしひとりでも怪我人が出たらイヤな気持ちになるから狐さんを作ってGORILLA HALLを平和的空間に!」とまくし立てていたが、たしかに平和的空間でしかなかった。
やっさん(g/vo)
「おいでよドリアンランド」では、MCのタイミングを間違えたおーちくんが、箒にのって宇宙空間へひとっ飛びし、ドリアンのイベンターでもある清水音泉が主催するフェス『OTODAMA〜音泉魂〜』が今年開催されないことを嘆く思いが届くのか、「天保山」が魔法でタイトルを「音泉魂やれや」に変えられる事態に。
フロアをO、D、Yの3ブロックに分け、曲に合わせて人文字を作ったこの曲は、ライブ直後にSNSにアップされたのでご覧になった人も多いだろう。「ヤマサキセイヤと同じ性別」の曲中、次に歌う曲を普段あまり披露されない「おすもうさん」「魚じゃないのよイルカは」「相談風自慢遺憾」の3曲の中からパネルレースで選んだ結果、瞬殺といえるほどの強さで「相談風自慢遺憾」が優勝。
続いてレア繋がりで関西初披露&今回のツアーでも初披露となる「一部のコアなファンの間では名曲と言われているソング」を。フロアの盛り上がりに「思ったより踊れてます!」と3人も喜びを隠さない。
終盤のMCでやっさんが今回のツアーの史上最大規模=会場のキャパシティという点に触れ、「嘘をついてて」とこぼした。コロナ禍の入場規制があった時にドリアンは、GORILLA HALLよりも大きななんばHatchでライブをやり、その時の来場者は座席ありで200人。単純に今回の6分の1以下。「ごまかしきかんぐらい人がいなくて、ほんまにしんどくて。でもチケット代以上のライブをやれたしお客さんも笑顔になった。ただ僕たちがお客さんを呼べなかっただけ」「そういう挫折というかうまくいかなかったことがあって、いろんな人の応援や来てくれたみんなのおかげで今日この会場を埋めることができました」と感謝を述べた。
コロナ禍に作った大事な曲だという「今は曲の中やけど」を演奏する前、「曲を知らなくて大丈夫。なんとなくでいいし、声を出してもいい。でも帰る時に聴きたくなるように、一生懸命全力でぶつかります」と言った後、思い直したように、「今日ツアーファイナルだから、みんなも無理ない範囲の最大の、ちょっと先までいけますか?オイオイ言うだけでも、踊るだけでもいいし、ゆっくり見てる人は笑顔の口角をいつもよりちょっと上げて」と。その頃の映像や歌詞がスクリーンに映され、おーちくんは最後の一節を「ライブハウスはみんな自由だから」と歌詞を変えて歌った。
胸の奥深くに火を灯すような演奏の後に、「もっと大きい声出るよな?」となぜここでその曲をと思うが「ドラゴンの裁縫セット(笑)」を投下。けつぷり(g)のドラゴンギターソロもバキバキにキマり、続く「いきものがかりと同じ編成」では魔法学校のひと騒動で光が奪われた中、次の「ヤバイTシャツ屋さんと同じ人数」でお客さんのスマホライトと会場中の大合唱により会場に光が戻る。ラストの「焼肉屋さんの看板で牛さんが笑っているのおかしいね」まで見事なまでに高い熱量のまま全力疾走した。
アンコールの掛け声をお客さんより早く影アナウンスで3人が言い出したのも、ドリアン初心者にとっては優しい試みではないだろうか。
「恐竜博士は恐竜見たことないでしょ」を恐竜の着ぐるみ姿で歌うおーちくんに子供達も沸く。最後の曲に行く前に秋からのツアーをいち早く発表し、初日が大阪なんばHatchと告げた時は今日一番の大歓声。「リベンジしに行きます!」と3人が口々に語り、「ずっと苦しかった大阪が前に進めたのは、今日ここにいるみんなと残念ながら落ちてしまったけど申し込んでくれたみんなのおかげです!」と改めて深い感謝の思いを伝える。「2年後は日本武道館をやる」と決意を新たにし、最後はめちゃくちゃキラーチューン(byやっさん)の「カフェかと思ったら美容院だった」できらめくテーマパークの幕が下ろされた。
歌い終えた3人が「焼肉屋さんの看板で牛さんが笑っているのおかしいね」が流れる中、ステージを去ってからも、鳴り続ける曲に合わせてお客さんがついさっきやったばかりの振り付けを踊って歌って、曲の最後には大拍手&大歓声が場内を包んだ。なんて愛されているバンドなんだろう、ドリアンは。秋のツアーを前に各地のフェスにも出演が続々と決まっている。今この記事で初めて彼らを知ったあなたも、誰もが120%の「楽しい!」を味わえる彼らのライブにぜひ触れてみてほしい。
『きらめけ!マジカルキングダム』
2025年4月12日 大阪GORILLA HALL