2022年12月1日 11:00
【アジアのノーベル賞 マグサイサイ賞受賞】眼科医 服部匡志 著『人間は、人を助けるようにできている』 ”はじめに”を公開【治療にかける思いとは】
だから僕も人生を懸けて手術に挑む。結果、患者さんの眼に光が戻り、笑顔がよみがえる。
心からあふれる最高の笑顔。けっしてお金では買うことのできない、その笑顔が僕に生きる勇気と力を与えてくれる。
ベトナムでの無償の医療活動を続けて八年になる。
僕は現在、開業せず、どこの大学や病院にも属さないフリーの眼科医だ。一カ月の半分は、北は盛岡から南は鹿児島まで約十カ所の病院を渡り歩いて診察と手術を行う毎日。
残りの半分はベトナムの首都ハノイと地方へおもむき、貧しい人たちへの無償の活動をしている。
自宅で丸一日過ごせるのは年に一日か二日。忙しい毎日だ。
日本で得た収入で家族の生活とベトナムでの活動費用をすべてまかなう。
ベトナムでは、患者さんからはいっさいの金銭を受け取らず、渡航費、滞在費、医療品代などもすべては持ち出しで活動を続けている。
僕の生き方に疑問を持つ人や、いぶかしがる人もいる。「なぜ、そんなことをしているのか?」とよく聞かれるが、なぜだろう、その答えは僕にもいまだにわからない。
ただ、目の前に困っている人たちがいる。
失明の危機にさらされているのに手術を受けられない人たちがいる。