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ジョナサン・ノーランに聞く『フォールアウト』はなぜ“ゲームを知らない人”もひきつけるドラマになったのか

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ジョナサン・ノーランに聞く『フォールアウト』はなぜ“ゲームを知らない人”もひきつけるドラマになったのか

Prime Video独占配信作品『フォールアウト』製作総指揮を務めるジョナサン・ノーラン(C)Amazon MGM Studios


終末後の世界を描いた大人気ゲームを実写化し、世界的ヒットを記録したドラマシリーズ『フォールアウト』。その待望の新シーズンとなるシーズン2が、動画配信サービス「Prime Video」にて独占配信中だ。

本作のプロモーションのため、ロサンゼルス、シドニー、ロンドン、サンパウロなどを巡るワールドツアーが行われ、最後の地として東京でジャパン・プレミア(12月11日)が開催された。来日したのは、主人公ルーシー役のエラ・パーネル、その父ハンク役のカイル・マクラクラン、そして製作総指揮を務めるジョナサン・ノーラン。滞在中、ジョナサンへのインタビューを通して、『フォールアウト』の実写ドラマが世界を熱狂させた理由を探る。

■「気分転換」のはずが――夢中になったゲーム体験

ジョナサンが「フォールアウト」と出会ったのは、2008年に発売された『Fallout 3』だった。当初は“気分転換”のつもりで始めたというが、その圧倒的なスケールと独特のトーン、予測不能な展開に完全に魅了された。

「夢中になりすぎて、2年間も映画の脚本を書かなかったほどです」と笑うノーラン。
兄クリストファー・ノーランが監督した『ダークナイト ライジング』の公開が少し遅れたのも、このゲームのせいかもしれないと冗談交じりに振り返る。

それから約10年後、ゲーム開発元ベセスダ・ゲーム・スタジオのトッド・ハワードと出会い、互いの作品への敬意を通じて意気投合。「いつか必ずこの世界を実現しよう」という約束から、本作の映像化プロジェクトは動き出した。

■ゲームを知らなくても楽しめる理由を探る

「フォールアウト」を映像化するにあたり、ゲームをそのまま再現することではない、ファン向けの内輪作品にもしたくない、初めて触れる人をどう迎え入れるか、「それが“アダプテーション(翻案)”の核心です」とジョナサンは語る。

「すべてのゲームがドラマに向いているわけではありません。私たちが『フォールアウト』を選んだのは、この作品のトーンがとてもユニークだったからです」
そしてトッドたちが大切にしてきた考え方を、ドラマ版でも踏襲しているという。それは、「どの作品も“初めて触れる人”のための物語である」という哲学だ。

「原作ゲームの各作品は、それぞれが独立したオリジナルストーリーで、直接つながってはいません。
でも、どれも“初めて体験する人”のために作られている。トッドはその点にとても強いこだわりを持っていて、どの作品も“最初の一本”になり得る、という姿勢を貫いています。

ドラマシリーズも同じです。できるだけ多くの人を歓迎するスタート地点が必要ですし、実はシーズン2も、“シーズン1を観ていなくても物語に入っていける”ことを意識しました。もちろんシーズン1は素晴らしい出来なので、ぜひ観てほしいですが(笑)、視聴者が自然に入り込める“入口”を見つけられるようにしています。観客にそっと手を差し伸べ、この世界へと導いていく──そんな感覚ですね」

■実写への徹底したこだわりが生む“本物感”

一方で、ゲームの世界観を再現することには徹底的にこだわった。ニューヨークのスタジオに作られた冷たいVaultのセットから、ナミビアにある砂で埋め尽くされた廃墟のダイヤモンド鉱山コールマンスコップやスケルトンコースト(ナミブ砂漠に広がる荒涼とした海岸線)など、複数の大陸で撮影を敢行。

中でも、実際の廃材を使って作り上げた“廃品置き場の町・フィリー”のセットは圧巻。
高さ約14.6メートルの構造物を熟練の溶接工が組み上げ、ドアや窓、看板、さらにはジェット機の胴体まで本物の廃材で構築された。ゲーム開発者のトッド・ハワードも現場を訪れ、「見た目も質感も完璧だ!」と感嘆したという。

「できる限り、カメラの前に“現実”を置きたい」とジョナサンは語る。「兄と一緒に映画作りを学び始めた頃から、そういうやり方で育ってきました。『フォールアウト』のような作品では、使える技術はすべて使います。ただし、その中でも最も効果的なのは、実際に“そこにあるもの”を撮ることだと考えています。フィルムで撮影している理由のひとつも、そこにあります」

LEDウォールやVFXも駆使しつつ、「35ミリフィルムという古い技術と、最新技術を組み合わせたほうが、むしろ良い結果になると信じていました。デジタルはシャープすぎて、時に技術そのものが前面に出てしまうことがありますが、フィルムには光が全体に行き渡るような質感がある。
さまざまな技術をフィルムに通すと、不思議と一体感が生まれ、まったく違うものに変わる。だから、雰囲気づくりのためにフィルムを使っているわけではありません。本当に“うまくいく”から使っているんです。ただし、これを成立させるには多くのスタッフの力が必要です。VFXチームも非常に優秀ですが、私たちとしてはできるだけ彼らの仕事を減らしたいと思っています(笑)」

■“やりすぎ”だからこそ成立する暴力表現

「フォールアウト」といえば、過激でユーモラスな暴力表現も大きな特徴だ。

「初めて『Fallout 3』を遊んだとき、最初はVaultの中で、どこか奇妙でレトロフューチャーな世界を体験するんですよね。ところが、20〜30分ほどプレイして初めてウェイストランドで戦闘に入った瞬間、画面がスローモーションになり、頭が吹き飛ぶ(笑)。“なんて暴力的で、なんてやりすぎなんだ”と思いましたが、それこそがこのゲームの個性でした。


だからこそ、ドラマでもこの“パンクでコミック的な暴力”を抜きにして、『フォールアウト』を語ることはできません。マカロニ・ウエスタンや、クエンティン・タランティーノ、サム・ペキンパー、そして東洋の武術映画──。暴力的だが、どこか詩的で、踊るようで、観ていて不思議と楽しい。そんな表現の系譜にあるものだと思っています」

■文明の崩壊と変化を描き続ける理由

文明の崩壊や、移行期にある世界を描くテーマは、『ウエストワールド』など、ジョナサンの過去作とも深く通じ合っている。

「確かに、私の作品には一貫したテーマがあると思います。10年以上前、『ウエストワールド』のパイロットを開発していた頃、ある俳優に“なぜこの作品が重要なのか”を説明しようとしたことがありました。そのときは、“何が起きるのか”を明確な言葉で説明することはできなかった。でも今振り返ると、“大きな変化の前にいる”という感覚が、確かにあったんだと思います。
そして今は、その変化の“途中”にいるように感じています。秩序が揺らぎ、価値観が書き換えられていく――そんな移行期にある世界を描くことは、ずっと私の関心を引きつけてきました」

『ダークナイト』三部作や『インターステラー』など、兄クリストファー・ノーラン監督作品の脚本を数多く手がける一方で、自身も『パーソン・オブ・インタレスト』や『ウエストワールド』といった人気ドラマシリーズを世に送り出してきたジョナサン・ノーラン。映画とドラマ、その両方を熟知する彼だからこそ語れる視点がある。

「映画では、必ず“入れたかったけれど入れられなかったシーン”が出てきます。実際、『バットマン ビギンズ』でカットした場面が、『ダークナイト』では重要なシーンとして生きたこともありました。ドラマシリーズは、その逆なんです。小さな瞬間や、細かな感情を掘り下げていく余地がある。

映画はビジュアルが大きく、物語は比較的短い。
だから監督のメディア。一方でドラマシリーズは、物語が長く、キャラクターを深く描けるので、より“作家的なメディア”だと思っています。私は映画では脚本家、ドラマシリーズでは監督をやってきましたが、キャリアの組み立て方は完全に逆でしたね(笑)」

ドラマシリーズの最大の魅力は、物語の中心から少し外れた存在にも光を当てられることだという。

「『ウエストワールド』シーズン2で、ネイティブアメリカンのキャラクターたちを前面に描いた回がありますが、ああいう“少し変わった回”が、実は一番好きだったりします」

世界の隅を覗き込み、そこにある物語を深く掘り下げていく──それは「フォールアウト」というゲーム体験そのもの。「映画としても成立するスケールはありますが、本質は長く、深く潜っていく物語。だからこそ、ドラマシリーズという形が最適だと考えました」と語るジョナサンの言葉の中に、『フォールアウト』が世界的ヒットを遂げた理由があった。

シーズン2は、Prime Video にて独占配信中。最終話となる第8話は2026年2月4日に配信。すでにシーズン3への更新も決定している。

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