サンリオ流“やさしすぎる地方創生”とは? 急進的開発とは真逆、地元から「支えられる」大分ハーモニーランド大逆転の軌跡
開園35周年を迎えたハーモニーランド(C)2026 SANRIO CO., LTD. TOKYO, JAPAN 著作 株式会社サンリオ
昨年、株式会社サンリオエンターテイメントが大分県日出(ひじ)町で運営するテーマパーク『サンリオキャラクターパーク ハーモニーランド』(以下、ハーモニーランド)が“エンタメリゾート構想”を発表。大規模投資には注目が集まったが、よくある急進的な観光開発とは一味違うらしい。経営難や老朽化を乗り越え、開園35周年を迎えたハーモニーランドには、非常に強い地元やファンとの絆があった。サンリオグループらしい「やさしすぎる地方創生」とは? 愛され続けるハーモニーランドの軌跡と本質を施設長・柳内和子氏に聞いた。
■大雨の記念日に予想外の光景、ファンと地元住民が「心配だから」と駆けつける
株式会社サンリオエンターテイメントと株式会社サンリオは、ハーモニーランドの次なる未来に向けた“エンタメリゾート構想”を発表したのは、2025年12月のことだった。さらに2026年6月には、周辺のリゾート化対象土地約30.85ヘクタール(周辺の駐車場およびハーモニーランドと認識されているパーク部分の約3.8倍)を取得したというニュースが飛び込み、大きな話題を呼んだ。施設の改修やホテル建設も予定され、初期投資はコンソーシアム方式で100億円にのぼると見られている。
大規模投資という文字面だけを見て、「地方によくある、威勢のいいベンチャーや外資系ファンドの観光開発か」「インバウンド狙いのリゾート投資か」と思った人もいるだろう。
だが、その内実を紐解くと、そこにあるのは効率主義の真逆をいく、35年間地元と紡いできた温かい地方創生の物語だった。
4月26日の開園記念日。35周年の節目を迎えたハーモニーランドでは、豪華22キャラクターが一堂に会する35周年開園セレモニーが企画されていた。しかし、当日はあいにくの大雨。屋外型であるハーモニーランドのスタッフの間には不安がよぎっていた。通常であれば、客足が遠のいてしまうシチュエーションだからだ。
しかし、いざ開園すると、そこには予期せぬ光景が広がっていた。
「バケツをひっくり返したような大雨なのに、開園前から1,000人以上のファンの方が集まってくださいました。
『お祝いの日に誰もいなくて、キャラクターたちが寂しい思いをしたらかわいそうだから』って、皆さんで盛り上げにきてくださったんです」と柳内氏は振り返る。
さらに、驚いたのはそれだけではなかった。
「普段はパークの中まで足を運ばないような近所のご高齢の方までもが、わざわざ大雨の中に駆けつけてくださったんです。『雨がすごくてセレモニーが大変なことになってるんじゃないかと思って、心配で顔だけ出しにきたよ』って。ここは本当に、地元とファンの方々に『支えてもらっているテーマパーク』なんだなと、涙が出るほど感慨深かったです」
一朝一夕の投資やマーケティングでは絶対に作ることができない、35年という歳月が育んだ「地域との深い絆」がそこには確かに存在していた。
今でこそ全国、そして世界から注目を集めるハーモニーランドだが、その歩みは決して平坦なものではなかった。
1991年、大分県が提唱した「一村一品運動」のクラフト公園「ハーモニーパーク」として、自治体や地元企業などが出資する第三セクター方式でスタート。当時は大分の大自然や地域の特色をPRする部分も強かった。
バブル崩壊後の不況に伴い、数年後には経営的に非常に厳しい「冬の時代」に直面。第三セクター特有の難しさもあるなかで、「それでも、サンリオエンターテイメントとしてこの大分の地で頑張り抜くんだ」とスタッフたちが覚悟を決めたのが、最初の大きな転換期だった。
その後、2019年に小巻亜矢氏が株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長に着任。スタッフの「人づくり」を重視した改革を進めるも、直後にコロナ禍が直撃し、苦境が続いた。
そんな暗雲を払った大逆転の契機が、大分県との包括協定、そして「大分ハローキティ空港」の誕生だった。これをきっかけに「なぜ大分にサンリオグループのテーマパークが?」という認知が全国へ拡大。さらに、長年の課題だったアクセス面についても、実証実験を経て直通バス「ハーモニーライナー」の運行が実現。最大の壁だった「認知」と「アクセス」がクリアされ、来場者数はここから一気に急成長を遂げることになる。
■サンリオピューロランドとは異なる、“屋外型”の強みとは?
同社が運営する東京都多摩市にある屋内型テーマパークの『サンリオピューロランド』との違いを指摘されがちだった歴史もあるが、柳内氏は「サンリオピューロランドとハーモニーランドは、お互いの強みを生かし合う大切なネットワーク」だと言い切る。「都市に近く、日常の延長線上で癒しを届けるのがサンリオピューロランド。それに対して、私たちの価値は大自然の開放感です。自然の中で旅行気分を味わいながら、無邪気に自分を解放できる。それがハーモニーランドならではの強みなんです」
その特徴をポジティブに昇華させたのが、2026年7月3日から始まった夏イベント『はちゃめちゃサマーパーリー!』だ。ハローキティやディアダニエルに加え、サンリオエンターテイメントのテーマパークとしては史上初となるポムポムプリン、シナモロール、クロミ、あひるのペックルが日焼けをした姿で盛り上げる。
「大分は夏の日差しが本当に強い。それを『キャラクターたちとアツい夏をいっしょに楽しんでもいいよね!』とポジティブに変えたのが、今回のイベントです」と柳内氏は笑う。
もちろん、この“攻め”の演出の裏には、屋外型ならではの徹底したリスクマネジメントも存在する。水かけショー『南の島の!?はちゃめちゃスプラッシュパーリー!』では、使用する水を昨年から大幅に増量して暑さを和らげる工夫も施されている。また、涼める屋内休憩所も新設され、快適に過ごせる環境を整えている。さらに、スタッフを守るため、園内の温度・湿度を厳密に測定して給水所やエアコン付きプレハブを設置するなど、現場目線での熱中症対策がハーモニーランドの安全を支えている。
昨今、多くの企業が謳う「地方創生」。しかし、一過性のブームを作って数字が上がったら引き揚げるような、都市型のスピード感を押し付ける開発とは、ハーモニーランドのあり方は真逆だ。
「何十年もじっくり時間をかけて、地元の皆さんとコミュニケーションを取っていく。皆さんの歩調に合わせる。
これこそが、私たちが大分に実在する意味だと思います」という柳内氏の言葉通り、そこにはサンリオグループの企業理念である「みんななかよく」が息づいている。
それを象徴するエピソードが、ポムポムプリンを巡る、地元の生産者との心温まるやりとりだ。
「近隣の養鶏所さんの商品を使用し、ポムポムプリンの特製プリンを販売したところ大ヒットしました。養鶏所さんからも『ハーモニーランドをきっかけにお客さんが訪れるようになった』と喜びの声をいただけて。単なるキャラクタービジネスを超えて、地元の農業を守り、子どもたちの食育を支えながら、お互いの企業価値を一緒に高めていける循環を作れたことが本当に嬉しいですね」
地域とファンに愛され続けた結果、テーマパークの枠を超えた現象も起きている。なんと、ハーモニーランドに魅了され、東京都から大分県へ「移住」したファンが現れたのだ。
「サンリオピューロランドのファンで東京都に住んでいた方なのですが、ハーモニーランドに一度来たらハマってしまって。大分県に移住して、今では毎朝、自転車で坂道を登ってハーモニーランドにやってきては、スタッフに『おはよう!』って声をかけてくださるんです。
ここでエネルギーをチャージして、リモートワークに戻っていく。実は今、ほかにも移住検討者の方もいらっしゃるんですよ」と、柳内氏は嬉しそうに語る。
■台湾からのファミリー層需要も視野、「みんななかよく」で繋ぐ次の35年
35年が経ち、施設の老朽化という現実的な課題に直面するなか、サンリオ本社と出した答えは、守りではなく「この先も、ハーモニーランドを続けていく」ための攻めのエンタメリゾート構想だった。
大規模投資には確固たる勝算もある。アジア圏に近い九州という立地的なアドバンテージに加え、近年ニュースを賑わせている熊本の台湾の半導体大手進出に伴う、「国内在住の台湾出身ファミリー層の九州内観光需要」という、最先端の経済トレンドも視野に入れている。
そして、こうした世界を見据えたビジネス戦略を力強く支えるのが、実は社内に深く根付いたサンリオのDNAにある。
柳内氏が施設長として着任した際、スタッフたちが柳内氏の巨大な似顔絵を描いて迎えてくれたのだという。単なるアットホームな美談に聞こえるかもしれないが、全従業員が企業理念「みんななかよく」を綺麗事ではなく体現できる組織だからこそ、ハーモニーランドは強いのだ。行政や地元の生産者など、対外的なビジネス交渉の場であっても、この「みんななかよく」の姿勢で臨むからこそ、相手も信頼して心を開き、ブレない長期的な関係が作れているそうだ。
「だからこそ、ハーモニーランドはまだまだすごいテーマパークになると信じています。皆さんに来てよかった、関わってよかったと言っていただけるようにお迎えしたいので、ぜひ一度遊びにきていただけたら嬉しいです」
総投資額や敷地面積という数字の裏側にある、圧倒的な「やさしさ」。このブレない理念がある限り、大分のハーモニーランドは次の35年も、地域と世界をなかよく繋ぎ続けるはずだ。(C)2026 SANRIO CO., LTD. TOKYO, JAPAN 著作 株式会社サンリオ
(文:於ありさ)