まもなく終焉?タイで活躍する日本のブルートレイン
日本では「あけぼの」「北斗星」「カシオペア」など夜行列車の廃止が相次ぎ、現在、客車タイプの定期夜行列車は運行されていない。以前は「ブルートレイン」もしくは「ブルトレ」の愛称で親しまれ、鉄道少年たちの憧れの存在であったが、今はその姿を見ることはできない。
しかしその車両たちは今、タイに渡り、タイ国鉄の夜行列車として活躍している。チェンマイに旅行する際は、往路は飛行機でも、帰路は日本では体験できないブルトレを選択してみるのもよいだろう。
ただ、問題はそのブルトレがどの列車で使用されているかである。ブルトレはある程度決められた列車に使用されているようだが、定員数がほぼ同じ韓国製の車両に変更になる場合もあり、最後は「運」に頼るしかない。
そのなかでバンコク発チェンマイ行13列車(バンコク発19:35)とチェンマイ発バンコク行き14列車(チェンマイ発17:00)はブルトレが充当される確率が比較的高いようである。事前に駅で購入した乗車券には車種の欄に「JR」と印刷されていたが、それでも別の車両に変更になることもあるようなので、実際に見てみるまでは安心できない。
チェンマイでの用事を終え、街外れにあるチェンマイ駅へ向かう。駅に近づくと、タクシーの中からバンコク行き14列車が停車しているのが見えた。どうも前4両がブルトレ、食堂車を挟んで後ろ4両が韓国製の車両のようだ。
現在、ブルトレはタイ国鉄カラーの紫色に塗られているが、他の車両とは形が異なるので、遠目でもブルトレかどうかは見分けがつく。駅に到着し、早速、自分の指定された車両を確認すると、運よくブルトレの方だった。よかった、よかった。
バンコク行き14列車は、タイ国鉄でもエース級の夜行特急列車で、食堂車を除きすべて寝台車となっている。今回乗車するのは、その中で1両だけ連結されている1等個室寝台車。
ひとりで個室を独占できる贅沢な車両である。この個室寝台車は、以前は東京発のブルトレのみに連結され、大阪発の夜行列車には連結されていなかかったため、私のような大阪在住の鉄道少年にとっては、乗りたくても乗れない羨望の車両だったのである。この車両にタイで乗れるとはまさしく夢のようである。
列車はチェンマイ駅をほぼ定刻通りに出発、バンコクへと向かう。この路線で最も景色がよいのはランパーンあたりまでの山岳区間だが、幸いこの列車は日没までにその区間を通過する。まずはしっかり車窓を楽しみたい。
ランプーンを過ぎ、途中駅で坂道を上るための補助機関車を連結した列車は、いよいよ山岳区間へと入る。ブルトレで山の景色を楽しんでいると、まるで日本の列車に乗っているような錯覚に陥る。
エンジンを唸らせて坂道を上り、峠の駅、クンターン駅に到着。ここはタイで最も高いところに位置する駅で、補助機関車もこの駅で切り離す。この駅を出ると、いよいよタイ国鉄最長のトンネル、全長1352mの「クンターントンネル」に突入し、一気に坂を下っていく。
だいぶ日が暮れてきたので、そろそろ夕食としたい。列車には食堂車が連結されているが、個室寝台には食堂車の係員が注文に応じて食事を届けてくれる。決して豪華な食事ではないが、車窓を楽しみながら暖かいご飯がたべられるのは最高の気分である。但し、タイ国鉄は酒類の持ち込みは全面的に禁止されているので、ビールで一杯、という訳にはいかない。
食事が終わった頃を見計らい、今度は車掌がやってくる。
車掌はマットレスを敷き、テキパキとベットメイキングを行う。日本のブルトレは乗客が自分でやるのが基本だったので、タイならではのサービスである。
ナコーンランパーン駅に到着した頃にはすっかり日も暮れていた。あとは暗闇の中を走るので、眠くなるまでぼんやり外を眺めるだけである。タイの夜行列車はどの列車も冷房が強くとても寒い。個室は冷房が調整できるようになっているが、それでもやはり寒い。夜行列車に乗る際は、防寒対策を忘れないようにしたい。
いつしか眠りに落ち、ふと目覚めると列車はドンムアン空港の近くを走っていた。
ほどなく車掌が各個室の乗客を起こし回り、併せてシーツなどを片付ける。バンコク・ファランポーン駅には定刻から約20分遅れで到着。とても名残惜しい気分で「ブルトレ」に別れを告げ、地下鉄で自宅に戻った。
2004年に日本からタイに譲渡され、タイの地にもすっかり馴染んだブルトレであるが、残念ながら、この雄姿が見られるのはもうあまり長くない可能性が高い。というのも、今年、タイ国鉄は中国製客車115両の導入を発表、そのうち一部はすでにタイに到着しており、近々、バンコク、チェンマイ間の列車で営業運転を始める予定となっているからである。ブルトレに乗るのは今がラストチャンスかもしれない。
(text & photo : 井上毅)
バンコクから見る、東南アジア鉄道の楽しみ方
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