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ドイツ・ベルリン発。日本の生地を魅せるブランド・SUSUMU AIにインタビュー

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ドイツ・ベルリン発。日本の生地を魅せるブランド・SUSUMU AIにインタビュー


世界の気になるファッショントピックを紹介する新連載。クリエイティブな分野で活躍する人々にインタビューし、彼らの独創性、美学に迫ります。今回お話を訊いたのはベルリン発のファッションブランド・SUSUMUAIのデザイナーでありクリエイティブディレクターのアリサ・メンクハウスさん。日本とドイツにルーツを持つアリサさんは東京で生まれ育ち、日本とドイツを行き来したのちドイツ・ベルリンへ渡りました。アリサさんが弟のケイホ・メンクハウスさんと共に手がけるSUSUMU AIでは日本の伝統的な生地や柄をモダンにブラッシュアップしたアイテムを多く展開しており、その独自のデザインはヨーロッパを中心に世界的にも注目を浴びています。そんな彼女にブランドのこだわりや日本のデザインを世界に伝えることについて聞いてみました。

進愛でContinuous love
ドイツ・ベルリン発。日本の生地を魅せるブランド・SUSUMU AIにインタビュー
アリサ・メンクハウスさん。
SUSUMU AIというブランド名は私の祖父の名前である「進」(すすむ)と私自身の名前・アリサを漢字で書いた時の最初の一文字である「愛」(あい)から名付けました。
日本の生地を使い、伝統を引き継いだモノづくりをしているからこそ、日本の名前を使うことに意味があると思ったのです。「進愛」は英語だとContinuous love-つまり、絶え間ない愛。それが日本の伝統やクラフトマンシップを引き継いでいくという私たちの想いと繋がると感じています。

ブランドを始めて以来、多くの人からポジティブな反応をもらいました。私たちはよくデザインフェアに参加していてアイテムを実際に手に取って見てもらう機会を設けているのですが、私たちのブースはいつも賑わっています。遠くからでもパッと目を惹く色と柄に興味を持ってくれるみたいですね。

実際に購入してくれるお客さんの中には日本に対して思い入れを感じているという人も少なくありません。日本旅行をした人や仕事でしばらく滞在していたことがある人など、日本にまつわるストーリーを持つ人たちが私たちのアイテムに興味を持ってくれています。


つい最近(2023年10月下旬)、ニューヨークのデザインフェアにも参加しました。ニューヨークの人々はすごくオープンで街中でも「そのブラウス、どこで買ったの?」と話しかけられることも多く、人々との会話がとても楽しかったですね。ドイツだと知らない人にいきなり話しかけることは滅多にないことだから(笑)街のリアルな雰囲気を感じて、お客さんの新たな可能性について多くを考えるきっかけになりました。

SUSUMU AIのおこり
ドイツ・ベルリン発。日本の生地を魅せるブランド・SUSUMU AIにインタビュー
ベルリン・ヴェディング地区にあるSUSUMU AIのアトリエ兼ショールーム。
SUSUMU AIを会社として始動したのは2018年。私アリサ・メンクハウスと弟のケイホ・メンクハウスの2人で手がけています。それまで私は他のブランドでシニアデザイナーとして働いていましたが、毎日のように朝早くから深夜まで仕事に明け暮れだんだんとバーンアウトしてしまい、疲れた日々が続いていました。そんなときに弟が「何故いつも他の人のために疲れ果てるまで働いているの?自分のデザインを売ってみなよ。
手伝ってあげるから、コレクションを作ってみるべきだよ」と言ってくれたことをきっかけに一緒にブランドを立ち上げ、日本の素晴らしい生地を使って美しいモノを作ろうと決意しました。彼の言葉に背中を押されましたね。それ以前には自分のブランドを持つことなんてまったく考えていなかったのです。

私の過去の経験をふまえ、とにかくエシカルで持続可能な生産環境を作ることに力を入れています。私たちの会社では残業はしないと決めていて、9時に始業して18時には会社のみんなが帰れるようにしています。チームみんなの生活の状況などに合わせて勤務体系も変えることもあります。そういうように、みんなが働きやすい環境を率先して作り上げることでよいファッションブランドの会社になれると思っています。

 日本の生地の魅力
ドイツ・ベルリン発。日本の生地を魅せるブランド・SUSUMU AIにインタビュー
桜、絞り、縞模様の3つのパターンから成る藍染の羽織り。
(画像提供:SUSUMU AI)ジャケットのようにシャツやTシャツの上から着ることができます。
生地はいつも日本から買い付けています。やっぱり素材が格別にいいのです。ドイツにもよい素材はありますが、日本のパートナーシップは驚くほどスムーズな上にすべてが丁寧であると感じています。日本の人たちと協力しながら働くことに感謝しているし、なにより一緒に仕事をしていて楽しいです。

最近では日本に行って買い付けをするだけではなく、すでに取引のある生産元とオンラインでやり取りすることも多いです。見本用の生地をすべてドイツに送ってもらうことはサステイナブルの観点から私たちの考え方には合わないのでデジタルスキャンされた生地の色と柄を見て、次に欲しいモノを選んでいます。私たちのチームはみんな素材の品質や質感を知っているからこそ、できることだと思います。


使用している生地は全部デットストックです。時には1.5メートルしかないような短い生地もありますが、気に入った柄であれば手に入れるようにしています。そういう生地はアトリエで保管しておき、お客さんがそれを気に入った場合にオーダーメイドの一点モノを作ることもありますね。

 私たちの生地は絶対に余らない。
ドイツ・ベルリン発。日本の生地を魅せるブランド・SUSUMU AIにインタビュー
ハギレ生地を使用した小物。ポーチ、アイマスク、ヘアアクセサリー、スリッパ、ブックマーク、トラベルタグなどさまざまなアイテムがあります。
生地のロスをなくすことは私たちが真剣に取り組んでいることのひとつです。もし生地が余ったら、そのなかでできることを考える。
今までルームシューズ、ペンケース、アイマスクなど多くの小物アイテムを製作してきました。そういう小物もどのみち私たちの生活に必要なものなのだから、ハギレ生地で作り出せるならそれに越したことはないですよね。

そしてハギレがさらに小さなピースになったら、つまみ細工(和装のアクセサリーや髪飾りに使われる手芸技術)に使用します。コインくらいの小さなサイズのハギレでもつまみ細工に使うことができるので、ドイツ国内でコネクションのある作家の方に生地を送っています。時には私たちのスタジオにいるアーティストがハギレをキルトのように組み合わせてオリジナルの生地にすることも。とにかく絶対に生地は余らないのです!

また私たちはスタジオですべて手作業のモノづくりをしているので、セールは絶対にしないです。ストックを持たずにメイド・トゥー・メジャーで完璧にピッタリなものを作ることができるので大量の在庫を抱えることがないからです。セールでいきなりプライスダウンすることでアイテムに対する感謝の気持ちがなくなってしまう気がします。
愛着を持って長く着てもらいたいからこそ、お客さんにはお気に入りのアイテムを手に入れた時の特別感を感じて欲しいです。

 
ドイツ・ベルリン発。日本の生地を魅せるブランド・SUSUMU AIにインタビュー
アイボリー色のちりめん生地を用いたブライダルコレクションのルック。上下セパレートの2ピースになっています。(画像提供:SUSUMU AI)
私たちのブライダルコレクションもサステイナブルなコンセプトから始まりました。ことの発端はコロナのタイミングです。ロックダウンを含めた活動規制の影響で私の友人を含めた多くの人々が結婚式を延期したり、式の規模を縮小しなければならないという状況になり、豪華なドレスを買う意味について考え直した時期でした。私自身もコロナ以前の生活では「結婚するならいずれはブライダルドレスを買うのだろうな」と当たり前のように思っていたけれど、改めてその存在について考えてみると、一回しか着ないものに大量の生地を使うというのはもっともサステイナブルから遠いものなのではないかと感じたのです。なので、私たちのブランドではブライダルの後もジーンズと組み合わせたりTシャツと重ね着できたりするような、何回でも着ることができるアイテムを作りました。

 We are what we create. どこから来たかなんて関係ない。
ドイツ・ベルリン発。日本の生地を魅せるブランド・SUSUMU AIにインタビュー
タートルネックのベースに着物の襟がレイヤードされたロングコート。ヨーロッパ的なテーラリングと和のデザイン要素が共存する、ユニークなアイテムです。(画像提供:SUSUMU AI)
私は人生の半分以上を日本で過ごしていましたが、自分のルーツを知るためにドイツへ留学することにしました。東京育ちなのでドイツに住むにしても大きな都市の方が想像しやすかったこともあり、ドイツのどの都市に住むことができるのかを考えていました。

ベルリンはドイツの中でもっともオープンな街で、インターナショナルな人々がたくさんいるしファッションやデザインのシーンも活気があるので「ここは、私の次のおうちになるかもしれない」とすんなりイメージすることができました。「私が私らしく生きていられる場所だな」と感じることができたのです。

これまで自分のアイデンティティを表明することは私にとって簡単なことではありませんでした。自分が生まれ育ったホームである日本にいても周りの人からは外国人のように見られることがあったからです。ドイツにいるときは私はアジア人に見えるのでドイツ人からすると外国人でもありますが、それでも今は居心地がいいと感じることができます。

結局どこで生まれて、どこにいて、そしてこれからどこに行くかに関係なく、常に自分自身が心地よいと感じながら過ごせるようも努力すること、そしてそんな自分自身に対して心地よさを感じられることがもっとも大切なことだと感じています。常にオープンで、前を見ていられればどこにいてもそこがホームであると感じられるし、友達、家族、そして愛する人を見つけることもできる。

またいつか、もう一度日本に住むことももちろん考えられます。人生はいつも多くの可能性が広がっていると思うし、そのことを前向きに捉えています。「we are what we create」ー私たちが作り上げるものが私たちそのものなのです。

 SUSUMU AIアトリエ/スタジオ
Lindower Strasse. 18, 13347, Berlin GERMANY

月〜金:9時〜18時

※土日祝日休業

※原則として事前予約制

Senior Writer:Yuko K

提供:

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