アーセナルはなぜ格下相手に苦戦するのか?カラバオ杯クリスタル・パレス戦から見る課題
カラバオカップ準々決勝でアーセナルがクリスタル・パレスとPK戦の末に勝利。90分を1-1で終え、8-7という緊迫のPK戦でようやく決着がついた。
優勝候補が格下相手に90分で決着をつけられなかった事実は、タイトル争いをするチームの課題を浮き彫りにしている。
ボール保持率68.7%、シュート25本を放ちながらも得点はオウンゴール1つのみ。主力のサカ、ウーデゴールを途中投入してもゴールを奪えず、土壇場の90+5分に同点弾を許す展開となった。
この試合が示すのは、アーセナルが長年抱える決定力不足という構造的問題である。
試合の流れー何が起きたのか
アーセナルはボール保持率68.7%で試合を支配した。シュート25本(枠内7本)に対し、クリスタル・パレスはわずか8本(枠内1本)。
しかし、チャンス創出は多数あったものの、GKベニテスの好セーブに阻まれ続ける。特にチーム全体でビッグチャンスを4回逃し、ジェズスのヘディングシュートも連続でベニテスに防がれた。
大幅なターンオーバーによる先発メンバーの連携不足も露呈。控え組中心のスタメンは、攻撃のリズムが作れず、最後の局面での精度を欠いていた。
試合中盤、アルテタ監督は状況打開のため主力を投入する。67分にサカとウーデゴールを同時投入すると、攻撃の質は向上した。80分、サカのコーナーキックから混戦となり、ラクロワのオウンゴールでようやく先制。
両チーム合わせて15本連続成功という異例の展開。8本目でサリバが成功し、続くラクロワのキックをケパが止めて、8-7でアーセナルが勝利を収めた。
ターンオーバーが生んだチーム連携の課題
12月から1月にかけて過密日程が続くアーセナル。アルテタ監督は、サカ、ウーデゴール、ガブリエウらを先発から外す大胆なローテーションを敢行した。
狙いは明確だった。プレミアリーグとチャンピオンズリーグでの戦いを見据え、主力の疲労を軽減すること。カラバオ杯も重要だが、リーグ優勝という最大の目標のためには選手の温存が不可欠である。
67分にサカとウーデゴールを同時投入すると、チームの攻撃は明らかに変化した。サカの右サイドからの正確なクロスが何本も供給され、ウーデゴールのスルーパスがゴール前に届く。攻撃の質は向上したものの、決定機を逃し続けた。サカの右サイドからのクロスは多数供給されたが、中央で合わせる選手の精度が足りない。
ジェズスは約1年ぶりの先発出場。
試合後の記者会見でアルテタ監督はコメントを残している。大幅なターンオーバーを行ったチームの質とエネルギーに一定の満足感を示しつつも、「もっと大きな差がついているべきだった」と結果には不満を表明。
32年ぶりのカラバオ杯タイトル獲得へのモチベーションは高いものの、主力温存とカップ戦優先度のバランスは難しい選択だった。
現地報道によると、アルテタ監督は失点を許したことに感情的な辛さを語った。勝利は収めたものの、チーム全体の課題認識は明確である。
クリスタル・パレスの徹底した守備戦術
クリスタル・パレスは5バックに近い守備陣形でゴール前を固めた。
ボール保持率31.3%という数字は、彼らの戦術が完全に守備重視だったことを物語っている。しかし、この低いブロックは効果的に機能した。アーセナルが中央を固められると、攻撃の選択肢は限られる。サイドからのクロスに頼らざるを得ず、パレスの守備陣はそれを読んで対応していた。
カウンター時の縦への速さも脅威。ワートンの60分のミドルシュートがわずかに外れるなど、何度かチャンスを創出している。
この試合の真のヒーローはGKウォルター・ベニテスである。
特に前半の一対一を含む複数の決定機を防いだパフォーマンスは圧巻。ジェズスのヘディングシュートからの連続セーブも、チームを救う決定的な働きだった。
パレスは直近で過密日程に苦しんでいた。それでも粘り強く守り抜いたベニテスの存在が、アーセナルに「簡単には勝たせてもらえない」という現実を突きつけたのである。
PKでもラクロワを止めることはできなかったが、それまでの90分でチームを支え続けた功績は大きい。
アーセナルの決定力不足という構造的課題
統計データが示す数字は厳しい。
クロスの本数は多いものの、ゴール前で決定的な仕事をする選手が不在だった。ビッグチャンスを4回逃し、ジェズスも長期離脱明けで本来のキレを取り戻せていない。
チャンス創出力は間違いなくトップクラスである。しかし、最後の局面でのフィニッシュ精度が課題となっている。
ベニテスの好守も大きな要因だが、それを差し引いてもアーセナルの決定力不足は明らか。得点がオウンゴール1つという事実が、全てを物語っている。
サカ投入後、右サイドからの攻撃が大幅に増加した。クロスの精度は高く、何本も危険なボールがゴール前に供給される。
しかし、中央で合わせる選手の質と量が不足していた。クロスに対する反応が遅れ、ボールがゴール前を素通りする場面が何度も見られた。
中央を固められた際の代替案が乏しいことも問題である。ウーデゴールのスルーパスも供給されたが、受け手のタイミングが合わず、チャンスを逃している。サイド偏重の攻撃パターンは、相手の守備を読みやすくする。中央突破の選択肢が限られることで、守備側は対応しやすくなる構造的問題を抱えている。
この試合だけの問題ではない。今シーズン全体で決定力不足が続いている。
リーグ戦でも類似の事例があった。ウルブス戦では2-0で勝利したが、そのうち2得点がオウンゴール。創出したチャンスに対して得点が少ない傾向が続いている。
冬の移籍市場での補強の必要性が高まっている。ストライカー不在という長年の課題が、今シーズンも継続しているのだ。
シーズン序盤から指摘されてきた問題が、ここまで改善されていない。これは一時的な不調ではなく、パターン化している構造的課題である。
80分に先制したにもかかわらず、90+5分に失点した。集中力の欠如とゲームマネジメントの甘さが露呈した瞬間。
グエイの同点弾は、レルマのヘディングからのこぼれ球を押し込んだもの。セットプレーからの失点だったが、リードを守り切る局面での集中力が足りなかった。
今シーズン、同様の失点パターンが複数回見られる。試合終盤にリードを守り切れず、勝ち点を落とす展開が繰り返されているのである。
リードを守り切れない精神的脆さは、タイトル獲得を目指すチームとして致命的な弱点。最後の10分間をどう戦うか、ゲームマネジメントの改善が急務となっている。
カラバオ杯準決勝に向けた展望
準決勝の相手はチェルシーである。第1戦は2026年1月14日にスタンフォード・ブリッジで開催され、第2戦は2月3日にエミレーツ・スタジアムで実施される。
チェルシーとの力関係は拮抗(きっこう)している。直近の対戦成績を見ても、どちらが勝ってもおかしくない状況だ。
32年ぶりのカラバオ杯タイトル獲得へ、アーセナルにとってラストチャンス。1993年以来、このタイトルから遠ざかっているだけに、モチベーションは高い。
両チームともプレミアリーグ上位を争うチーム。2戦合計での戦いは、お互いの実力が如実に表れることになるだろう。
1月の過密日程が、アルテタ監督の選択を難しくしている。プレミアリーグ、FAカップ、チャンピオンズリーグの試合日程が重なる中で、カラバオ杯準決勝も戦わなければならない。主力を酷使するリスクと、控え組の質の問題。今回の試合が示したのは「ローテーションの限界」だった。
控え組では格下相手にも苦戦し、結局主力を投入せざるを得なくなる。それでは温存の意味がない。タイトル獲得のための難しい選択が迫られている。複数のタイトルを目指すチームのジレンマが、ここに集約されているのである。
準決勝のチェルシー戦は、2026年1月14日の第1戦から始まる。2月3日の第2戦を経て、2戦合計スコアで決勝進出チームが決まる。
この重要な一戦に向けて、アルテタ監督は主力起用とローテーションのバランスという難題に直面している。主力温存を図れば今回のような苦戦を招き、主力を酷使すれば怪我のリスクが高まる。いずれにせよ、32年ぶりのタイトル獲得という目標達成には、この難しい選択を乗り越えなければならない。
優勝候補が格下相手に90分で決着をつけられなかった事実は、タイトル争いをするチームの課題を浮き彫りにしている。
ボール保持率68.7%、シュート25本を放ちながらも得点はオウンゴール1つのみ。主力のサカ、ウーデゴールを途中投入してもゴールを奪えず、土壇場の90+5分に同点弾を許す展開となった。
この試合が示すのは、アーセナルが長年抱える決定力不足という構造的問題である。
試合の流れー何が起きたのか
- 前半から支配も得点奪えず
アーセナルはボール保持率68.7%で試合を支配した。シュート25本(枠内7本)に対し、クリスタル・パレスはわずか8本(枠内1本)。
統計上は圧倒的な優位。
しかし、チャンス創出は多数あったものの、GKベニテスの好セーブに阻まれ続ける。特にチーム全体でビッグチャンスを4回逃し、ジェズスのヘディングシュートも連続でベニテスに防がれた。
大幅なターンオーバーによる先発メンバーの連携不足も露呈。控え組中心のスタメンは、攻撃のリズムが作れず、最後の局面での精度を欠いていた。
- 主力投入も効果限定的、PK戦へ
試合中盤、アルテタ監督は状況打開のため主力を投入する。67分にサカとウーデゴールを同時投入すると、攻撃の質は向上した。80分、サカのコーナーキックから混戦となり、ラクロワのオウンゴールでようやく先制。
しかし、90+5分にグエイのゴールで追いつかれ、緊迫のPK戦へ突入した。
両チーム合わせて15本連続成功という異例の展開。8本目でサリバが成功し、続くラクロワのキックをケパが止めて、8-7でアーセナルが勝利を収めた。
ターンオーバーが生んだチーム連携の課題
- 主力温存の狙いと実際の影響
12月から1月にかけて過密日程が続くアーセナル。アルテタ監督は、サカ、ウーデゴール、ガブリエウらを先発から外す大胆なローテーションを敢行した。
狙いは明確だった。プレミアリーグとチャンピオンズリーグでの戦いを見据え、主力の疲労を軽減すること。カラバオ杯も重要だが、リーグ優勝という最大の目標のためには選手の温存が不可欠である。
しかし、結果は皮肉なものに。控え組の連携不足で攻撃のリズムが作れず、予想外の苦戦でPK戦までもつれ込んだ。結果的に主力も67分以降プレーすることになり、疲労軽減効果は限定的という結末。
- 主力投入後も決めきれず
67分にサカとウーデゴールを同時投入すると、チームの攻撃は明らかに変化した。サカの右サイドからの正確なクロスが何本も供給され、ウーデゴールのスルーパスがゴール前に届く。攻撃の質は向上したものの、決定機を逃し続けた。サカの右サイドからのクロスは多数供給されたが、中央で合わせる選手の精度が足りない。
ジェズスは約1年ぶりの先発出場。
長期離脱明けで完全なコンディションには程遠い状態だった。100試合目の節目となったこの試合だったが、ゴールを奪うことはできなかった。
- アルテタ監督の采配は正しかったのか
試合後の記者会見でアルテタ監督はコメントを残している。大幅なターンオーバーを行ったチームの質とエネルギーに一定の満足感を示しつつも、「もっと大きな差がついているべきだった」と結果には不満を表明。
32年ぶりのカラバオ杯タイトル獲得へのモチベーションは高いものの、主力温存とカップ戦優先度のバランスは難しい選択だった。
現地報道によると、アルテタ監督は失点を許したことに感情的な辛さを語った。勝利は収めたものの、チーム全体の課題認識は明確である。
クリスタル・パレスの徹底した守備戦術
- 低い守備ブロックとカウンター狙い
クリスタル・パレスは5バックに近い守備陣形でゴール前を固めた。
中央のスペースを消し、アーセナルの攻撃をサイドに誘導する明確な戦術。
ボール保持率31.3%という数字は、彼らの戦術が完全に守備重視だったことを物語っている。しかし、この低いブロックは効果的に機能した。アーセナルが中央を固められると、攻撃の選択肢は限られる。サイドからのクロスに頼らざるを得ず、パレスの守備陣はそれを読んで対応していた。
カウンター時の縦への速さも脅威。ワートンの60分のミドルシュートがわずかに外れるなど、何度かチャンスを創出している。
- GKベニテスのスーパーセーブが試合を決めた
この試合の真のヒーローはGKウォルター・ベニテスである。
25本のシュートに対し7本のセーブを記録。アーセナルの猛攻を一人で跳ね返し続けた。
特に前半の一対一を含む複数の決定機を防いだパフォーマンスは圧巻。ジェズスのヘディングシュートからの連続セーブも、チームを救う決定的な働きだった。
パレスは直近で過密日程に苦しんでいた。それでも粘り強く守り抜いたベニテスの存在が、アーセナルに「簡単には勝たせてもらえない」という現実を突きつけたのである。
PKでもラクロワを止めることはできなかったが、それまでの90分でチームを支え続けた功績は大きい。
アーセナルの決定力不足という構造的課題
- チャンス創出はできるがゴールに結びつかない
統計データが示す数字は厳しい。
シュート25本のうち枠内はわずか7本。決定率の低さが際立つ。
クロスの本数は多いものの、ゴール前で決定的な仕事をする選手が不在だった。ビッグチャンスを4回逃し、ジェズスも長期離脱明けで本来のキレを取り戻せていない。
チャンス創出力は間違いなくトップクラスである。しかし、最後の局面でのフィニッシュ精度が課題となっている。
ベニテスの好守も大きな要因だが、それを差し引いてもアーセナルの決定力不足は明らか。得点がオウンゴール1つという事実が、全てを物語っている。
- サイド攻撃への依存と中央突破の少なさ
サカ投入後、右サイドからの攻撃が大幅に増加した。クロスの精度は高く、何本も危険なボールがゴール前に供給される。
しかし、中央で合わせる選手の質と量が不足していた。クロスに対する反応が遅れ、ボールがゴール前を素通りする場面が何度も見られた。
中央を固められた際の代替案が乏しいことも問題である。ウーデゴールのスルーパスも供給されたが、受け手のタイミングが合わず、チャンスを逃している。サイド偏重の攻撃パターンは、相手の守備を読みやすくする。中央突破の選択肢が限られることで、守備側は対応しやすくなる構造的問題を抱えている。
- シーズン通じて続く課題ーなぜ改善されないのか
この試合だけの問題ではない。今シーズン全体で決定力不足が続いている。
リーグ戦でも類似の事例があった。ウルブス戦では2-0で勝利したが、そのうち2得点がオウンゴール。創出したチャンスに対して得点が少ない傾向が続いている。
冬の移籍市場での補強の必要性が高まっている。ストライカー不在という長年の課題が、今シーズンも継続しているのだ。
シーズン序盤から指摘されてきた問題が、ここまで改善されていない。これは一時的な不調ではなく、パターン化している構造的課題である。
- 土壇場での失点癖
80分に先制したにもかかわらず、90+5分に失点した。集中力の欠如とゲームマネジメントの甘さが露呈した瞬間。
グエイの同点弾は、レルマのヘディングからのこぼれ球を押し込んだもの。セットプレーからの失点だったが、リードを守り切る局面での集中力が足りなかった。
今シーズン、同様の失点パターンが複数回見られる。試合終盤にリードを守り切れず、勝ち点を落とす展開が繰り返されているのである。
リードを守り切れない精神的脆さは、タイトル獲得を目指すチームとして致命的な弱点。最後の10分間をどう戦うか、ゲームマネジメントの改善が急務となっている。
カラバオ杯準決勝に向けた展望
- チェルシー戦の重要性
準決勝の相手はチェルシーである。第1戦は2026年1月14日にスタンフォード・ブリッジで開催され、第2戦は2月3日にエミレーツ・スタジアムで実施される。
チェルシーとの力関係は拮抗(きっこう)している。直近の対戦成績を見ても、どちらが勝ってもおかしくない状況だ。
32年ぶりのカラバオ杯タイトル獲得へ、アーセナルにとってラストチャンス。1993年以来、このタイトルから遠ざかっているだけに、モチベーションは高い。
両チームともプレミアリーグ上位を争うチーム。2戦合計での戦いは、お互いの実力が如実に表れることになるだろう。
- 主力起用かローテーションかー選択を迫られるアルテタ
1月の過密日程が、アルテタ監督の選択を難しくしている。プレミアリーグ、FAカップ、チャンピオンズリーグの試合日程が重なる中で、カラバオ杯準決勝も戦わなければならない。主力を酷使するリスクと、控え組の質の問題。今回の試合が示したのは「ローテーションの限界」だった。
控え組では格下相手にも苦戦し、結局主力を投入せざるを得なくなる。それでは温存の意味がない。タイトル獲得のための難しい選択が迫られている。複数のタイトルを目指すチームのジレンマが、ここに集約されているのである。
準決勝のチェルシー戦は、2026年1月14日の第1戦から始まる。2月3日の第2戦を経て、2戦合計スコアで決勝進出チームが決まる。
この重要な一戦に向けて、アルテタ監督は主力起用とローテーションのバランスという難題に直面している。主力温存を図れば今回のような苦戦を招き、主力を酷使すれば怪我のリスクが高まる。いずれにせよ、32年ぶりのタイトル獲得という目標達成には、この難しい選択を乗り越えなければならない。