【元懐刀が語る森保一の眼】第3回:「いつものやり方は崩せなかった」──伝説の2013年逆転優勝の夜、元分析官にかかってきた1本の電話|ワールドカップ2026

グループステージ2試合を終えた日本代表は、オランダと2-2で引き分け、チュニジアを4-0で粉砕。結果、2試合で勝ち点4を積み上げ、首位オランダ(同4)と並ぶ2位で最終戦を迎える。引き分け以上で2位以上でのグループ突破が決まる状況で、日本は6月25日にスウェーデンと激突する。

本連載では、サンフレッチェ広島でリーグ連覇(2012・2013年)を達成した当時の分析官・久永啓氏(現・岡山理科大学准教授)に事前に取材を行った。グループ突破が目前に迫った今、久永氏が語った「土壇場での森保一」の言葉を改めて振り返る。


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2試合を振り返る


オランダ戦(2-2)

前半を0-0で折り返した後、50分にファン・ダイクのヘディングで先制を許す展開に。しかし日本は57分に久保建英のパスを受けた中村敬斗がすぐさま同点。64分にサマーフィルに勝ち越し弾を浴びながらも、88分に伊東純也のコーナーキックから小川航基のヘディングが鎌田大地に当たって劇的な2-2。
2度追いかける展開でドローに持ち込んだ。

チュニジア戦(4-0)

わずか4分で中村敬斗の折り返しを鎌田大地が詰めて先制し、日本のW杯最速記録を更新。31分に上田綺世のミドル、69分に伊東純也のGKとの1対1、83分に上田のヘディングと、終始主導権を握った。W杯1試合における日本史上最多得点となる4-0の快勝で、グループ突破へ大きく前進した。

なお同日、オランダはスウェーデンを5-1で下した。第1節でチュニジアに5-1と大勝していたスウェーデンを圧倒しただけに、最終戦の相手として侮れない一方、オランダの強さも改めて印象づけられる結果となった。

スウェーデン戦「まず失点しないように」は変わらない


引き分け以上で2位以内での突破が決まる状況でも、久永氏は「森保監督のアプローチは変わらない」と見る。

「森保監督は、たとえ3点差以上で勝たなきゃいけないとなったとしても、キックオフと同時にフルスロットルで攻撃に行けっていう話にはならないと思うんですよ」

オランダに2度追いつき、チュニジア戦でも開始直後から組織を崩さず追加点を重ねたのは、久永氏が言う「着実に地味に勝つ」森保流そのものだった。
スウェーデンはオランダに1-5と大敗したものの、第1節ではチュニジアを5-1と爆発的な攻撃力で粉砕している。「まず守備から」の姿勢は変わらないはずだ。


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第3戦のキーマンは「ギラギラした」若手


チュニジア戦の大勝で勢いに乗る中、久永氏が第3戦のキーマンとして期待を寄せていたのは若手FWだ。

「この辺で塩貝に期待したいところですよね。第3戦は90分の中でいろんな試合展開がコロコロ変わる気がするんですよ。得失点の関係上、1点で全然状況変わるわけですから。そういうところで勢いのある選手が重要で……塩貝選手のギラギラ感はめっちゃ好きなんですよ。苦しい試合展開でそういう選手に発破をかけるのは、森保さんは結構得意なんじゃないかな」

この感覚は、久永氏が現場で目撃してきた事実に裏づけられている。


「広島時代も浅野(拓磨)がチームに入りたての時だったりとかで、そういう若手をうまく組み込むのは意外と得意なんですよね。元々アンダーカテゴリーの代表のコーチもやられてたんで、その辺の爆発力に期待するのは元から持ってると思います」

2013年最終節の舞台裏——「できること」に集中させた言葉の力


引き分けでも突破できる今の状況は、一見「守りに入りやすい」環境でもある。だが久永氏が語った2013年最終節に森保監督率いるサンフレッチェ広島が優勝を決めた際のエピソードは、どんな状況でも森保監督が「周囲のことにとらわれず、目の前の試合に集中する」ことを物語っている。

2013年のJリーグは横浜FMが残り2試合で1勝すれば、自力優勝が決まる立場だったが、33節・新潟戦で敗北。一方で広島は勝利し、残り1試合となった時点で順位は勝ち点62の横浜FMが首位、60の広島が2位となっていた。そうして迎えた最終節、あれだけの優位を保っていた横浜FMがまさかの敗戦。一方で広島は3位・鹿島との直接対決に勝利し、逆転優勝を飾り、連覇を達成した。

「森保さんが前から『自分たちが(目の前の試合に)勝てば優勝できると思ってるから、自分たちのやるべきことをやるだけ』ってずっと言い続けていたんですよ。
そしたら選手もそういう風に言うようになってくるんですよね。青山(敏弘)とかが最終節前のインタビューで『あんまり他は関係なくて、自分たちが勝てば優勝できると思ってる。それだけです』って答えていて。(森保監督の言葉が)もうチームとしての本心に変わっていたと思うんですよね。それで実際に勝って優勝した。やるべきことをしっかりやるっていうのを本気でご本人が信じていて、それが選手にも伝わって、結果に繋がるっていう」

今大会も、「引き分けでいい」とは恐らく言わない。「自分たちが勝つことだけを考える」というメッセージが、チームを動かす燃料になるはずだ。


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他会場の情報は「悪影響になるなら、自分にも入れない」


スウェーデン戦と同時刻でオランダ対チュニジアが行われる。
他会場のスコアが突破順位に影響する展開も考えられるが、久永氏が語っていた森保監督の判断は意外なものだった。

「情報自体はベンチに入るように準備はすると思うんですけど、それが森保さんの耳に入るかどうかはちょっと分からないですね。2012年の優勝のとき、同時刻でやっていた仙台が負けたら広島が優勝という状況だったんですけど、森保さんは優勝が決まったことをまだ知らなかった。仙台の情報は全く入っていなかったようで、試合後にコーチングスタッフが抱きつきに行って初めて優勝を知ったみたいな感じで」

「選手も気にしながらプレーすると思うんですよ。森保さんに入った情報を通じて選手たちがそれを感じ取ることを、森保さんはめっちゃ気にするから。それで選手に悪影響を及ぼすんだったら、自分にも入れないっていう判断もされるかもしれないです」

「いつものやり方崩せんかったわ」——日本一の夜にかかってきた電話


森保監督の凄みは戦術の枠を超えた、スタッフへの気配りにもある。久永氏が今も鮮明に覚えている、2013年最終節の夜のエピソードだ。

鹿島でのアウェイ最終節、久永氏はチームに帯同せず、次の天皇杯の対戦相手(甲府)のスカウティングへ向かっていた。
チームとして「いつものやり方」を守った、森保監督の決断だった。

久永氏が甲府からの帰りの電車に乗っていると、森保監督から電話がかかってきた。

「優勝が決まった後に、『ごめん、久』って言ってきて。『チームに帯同させることも考えたんだけど、やっぱいつものやり方崩せんかったわ』って。アイデアとしては色々あっても、最終的に今まで積み重ねてきたものを大事にする、っていうことをやられる監督でしたね」

日本一になったその夜、多忙を極める中でわざわざ裏方のスタッフに電話をかけてきた指揮官。「飾らない、チームの全員を一員として大切にする」その姿勢が、土壇場でのチームをひとつにまとめる力の源泉なのだろう。

「監督のスタンスと選手の成長が、今ぴったりはまってる」


連載の最後に、久永氏の言葉で特に印象的だったものを紹介したい。広島時代から変わっていない指揮官と、大きく成長した選手たちの「噛み合い」についての言葉だ。


「森保さん自身が何かを大きくアクションを起こして勝利を引っ張ってくるというタイプじゃないと思うんですよね。ただその分、選手たちが自分たちでどんどんプレーできるようになってきた。ヨーロッパで活躍しているのもあるし、ワールドカップでドイツやスペインに勝ったりして、選手たちがさらに自分たちで色々できるようなチームになってきてる。森保さんのやっていることが、選手たちの力をさらに引き出す形にはまってきてるかな、という気はしてます」

広島でリーグ連覇を達成したときから変わっていないその「幹」が、13年の時を経て世界の舞台でいよいよ花開こうとしている。6月25日、スウェーデン戦が始まる。


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(聞き手・文:スポーツブル編集部 坂東 岳)

※インタビューは2026年6月9日(W杯開幕前)に実施。グループステージ第2戦終了時点の状況を踏まえて加筆しています。

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