【マッチプレビュー】19番から10番へ。メッシとヤマル、新旧バルセロナの王様が交差する夜|W杯2026 決勝 スペイン vs. アルゼンチン

決勝を前にして、スペインについて予想することは、それほど多くない。

左ウイングにアレックス・バエナが入るのか、ニコ・ウィリアムズが入るのか。中盤ではペドリが先発するのか、ファビアン・ルイスが選ばれるのか。

人選によって、選手の立ち位置やボールの運び方には多少の違いが生まれる。だが、誰が出てもスペインのやることは、基本的には変わらないだろう。

ロドリを中心にボールを動かし、両ウイングがピッチを広げる。インテリオールがハーフスペースに立ち、サイドバックが外側から前進を補助する。相手を片側へ寄せれば逆へ展開し、外を警戒させれば中央へ差し込む。


そして、ボールを失った瞬間には、相手が攻撃へ移る前に奪い返す。

フランスとの準決勝でスペインが見せたのは、美しいパスワークだけではなかった。強力なアタッカーを擁する相手に、攻撃へ移るための時間と空間を与えない。フランスがボールを奪っても、その次のパスがつながらない。

スペインは、保持するだけのチームではない。相手に保持させないチームでもある。

スペインは、おそらく変わらない。だからこの決勝の戦術的な論点は、アルゼンチンがどう出るかに集約される。


メッシを右に置けば、ククレジャが空く

今大会のアルゼンチンは、4-3-3と4-3-1-2を使い分けてきた。

4-3-3ではリオネル・メッシが右から中央へ入り、フリアン・アルバレスが最前線を走る。4-3-1-2では中盤の人数を増やし、メッシを中央から右寄りの自由な位置でプレーさせる。

相手の特徴に応じて姿を変えながら、メッシの攻撃力を最大化し、その守備負担を周囲が引き受けてきた。

しかし、スペイン戦で従来通りメッシを右ウイングに置くのは、あまりに危険ではないか。

メッシが右サイドの守備に戻らなければ、スペインの左サイドバック、マルク・ククレジャが自由になる。

アルゼンチンの右サイドバックは、スペインの左ウイングを見なければならない。右のインサイドハーフがククレジャへ出れば、その内側が空く。
そこへスペインのインテリオールが入り、ロドリやセンターバックから縦パスを受ける。

右サイドに生まれた小さな穴が、中盤全体のずれにつながっていく。メッシがそこにいる限り、アルゼンチンは右側のどこかに守備上の負債を抱えることになる。もちろんメッシには、その負債を上回るだけの価値がある。それでも相手は、世界で最もボールを動かすことに長けたスペインである。

ククレジャをフリーにすることは、単にひとりの選手を空けることではない。スペインが得意とする左サイドの三角形を、最初から完成させてしまうことを意味する。

イングランド戦の4-3-3は使えるか

準決勝のイングランド戦で、アルゼンチンはメッシを中央に置いた。
右にジュリアーノ・シメオネ、左にフリアンを配置する3トップである。

右サイドには運動量のあるシメオネを置き、メッシを中央で自由にプレーさせる。メッシをサイドの守備から解放しながら、右側の強度を確保する。理にかなった配置だった。

この形をスペイン戦でも採用する可能性はある。守備時にシメオネが右サイドハーフまで下がれば、ククレジャと左ウイングに対して人数をそろえられる。

フリアンを最前線へ動かし、メッシをその下に残せば、守備陣形は4-4-1-1になる。

問題は、そのとき左サイドを誰が埋めるのかということだ。
おそらくアレクシス・マクアリスターが左へ移動することになる。

保持時には左インサイドハーフ、非保持時には左サイドハーフ。フリアンも左ウイングから最前線へ移る。複数の選手が、攻守の切り替わるたびにポジションとレーンを入れ替えることになる。

通常の相手であれば成立するかもしれない。しかしスペインは、アルゼンチンの守備陣形が整うまで待ってくれない。

ボールを失った瞬間の即時奪回と、奪い返した直後の展開が速い。配置転換の途中で生まれる数メートルのずれを、彼らは見逃さない。


右にシメオネを置くことは、ククレジャへの対策としては魅力的だ。それでも、そのためにチーム全体の守備構造を複雑にするべきなのか。リオネル・スカローニが決勝で選ぶには、やや変形の負荷が大きいように思える。

メッシを除く9人で、ピッチを埋める

最も無理が少ないのは、4-3-1-2をベースに、中盤4枚を置く構成ではないか。守備時には4-4-2へ移行する。

最前線にフリアン。その横、あるいは少し下の右寄りにメッシ。中盤には左からマクアリスター、エンソ・フェルナンデス、レアンドロ・パレデス、ロドリゴ・デ・パウルを並べる。


フリアンがスペインのセンターバックへ限定的にプレッシャーをかけ、メッシはロドリへのパスコースを消す。右のデ・パウルがククレジャを管理し、右サイドバックはスペインの左ウイングへの対応に集中する。左側はマクアリスターが埋める。

重要なのは、メッシを守備者として無理に機能させようとしないことだ。

メッシを除く9人のフィールドプレーヤーで、4バック、中盤4枚、最前線のフリアンという均等な守備陣形を作る。

メッシに求めるのは、相手を追い回すことではない。ロドリの近くに立つ。中央への縦パスを、立ち位置で消す。そしてボールを奪った瞬間には、最初の受け手になる。その役割に絞る。

スペインのセンターバックには、ある程度ボールを持たせてもいい。スペインの保持をすべて止めることはできない。ならば、危険度の低い場所で持たせ、ロドリ、インテリオール、ハーフスペースへの前進を阻む。

センターバックがボールを持って運んできたときだけ、エンソかマクアリスターが前へ出る。常に追い回すのではない。アルゼンチンのブロックへ入ってきた瞬間だけ、奪いに行く。

王者が選ぶとすれば、そのような忍耐を必要とする守備になるだろう。

それでも、スペインが勝つ

アルゼンチンにも勝機はある。

フリアンの走力が、スペインのビルドアップを狂わせるかもしれない。エミリアーノ・マルティネスが、再び大舞台でゴールを守るかもしれない。セットプレーもある。

そして何より、メッシがいる。

メッシに必要なのは、90分間の支配ではない。一瞬でいい。ほんのわずかな時間と空間があれば、彼はひとつのプレーで試合の意味を変える。

だからアルゼンチンを断言で切り捨てることはできない。

それでも、予想はスペインだ。

アルゼンチンが考え得る最適解は、スペインを完全に止めるための戦術ではない。メッシをピッチに置きながら、致命的な穴を作らないための戦術である。

一方のスペインには、自分たちを変える必要がない。中央を閉じられれば外へ動かす。サイドへ出てくれば、その内側を使う。アルゼンチンが低い位置でボールを奪っても、メッシへ届ける前に即時奪回を仕掛ける。

攻撃、守備、トランジション。フランス戦のスペインには、そのどこにも大きな隙が見当たらなかった。

19番から、10番へ

この決勝が、メッシとラミン・ヤマルのどちらが優れた選手かを決める試合ではない。比較するには、2人が立っている時間軸が違いすぎる。メッシはすでに、サッカーという競技の歴史そのものに近い場所まで到達した。ヤマルはまだ、その歴史を書き始めたばかりである。

それでも、この2人の間には、偶然と呼ぶにはあまりにも出来すぎた物語がある。

2007年、バルセロナ財団などによる慈善カレンダーの撮影で、当時20歳だったメッシは、ひとりの赤ちゃんを腕に抱いた。

写真の中でメッシは、即席のベビーバスに入った赤ちゃんの体を洗っている。その赤ちゃんが、ラミン・ヤマルだった。

当時のメッシは、まだバルセロナの10番ではない。トップチームに現れた当初の30番を経て、メッシが背負っていたのは19番だった。

ロナウジーニョが退団した2008-09シーズン、メッシは19番から10番へと進み、やがてバルセロナの象徴になった。

ヤマルもまた、バルセロナで19番を背負った。その番号で自らの価値を証明し、2025-26シーズンから10番を託された。

そして今、スペイン代表の19番として、ワールドカップ決勝に立つ。

かつて19番から10番へと進み、バルセロナの歴史を塗り替えた男。同じように19番を経て、現在のバルセロナの10番となった少年。

約19年前、メッシの腕に抱かれていた赤ちゃんが、今度はピッチの反対側に立っている。

2人はともにラ・マシアで育った。右サイドから中央へ入り、左足で試合を変える。

だが、ヤマルはメッシの複製ではない。メッシの後ろを歩くだけの選手でもない。

メッシが残した王冠を、ただ拾ったのではない。19番を背負い、自らのプレーでチームの中心となり、バルセロナに新しい10番が必要であることを証明した。

それでも、ひとつのクラブを長く照らした光と、これから照らしていく光が、世界最高峰の舞台で向かい合う光景には、何か特別なものがある。

アルゼンチンにも勝機はある。決勝という舞台では、合理性だけでは説明できないことが起きる。メッシが最後にもう一度だけ、時代を自分の側へ引き戻す可能性も残されている。

だが、フランス戦でスペインが見せた完成度を前にすると、予想は変えられない。

スペインが勝つ。

この試合は、メッシの時代が終わることを告げる試合ではない。

19年前にメッシの腕の中にいた少年が、バルセロナの19番を経て10番となり、世界の頂点で彼と向かい合う。それは継承というより、ひとつの円環が閉じる瞬間なのかもしれない。

そして同時に、ヤマルの時代がすでに始まっていたことを、世界が知る試合になる。

スポーツブル編集部 Y.I

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