注目の公演がいよいよ開幕。11月15日(日)に新国立劇場で初日を迎えた《アルマゲドンの夢》は、いま世界で最も注目されている日本人作曲家である藤倉大の新作オペラだ。原作は「SFの父」と呼ばれる英国の作家H.G.ウェルズの『世界最終戦争の夢』(短編ですぐ読めるのでオペラを見る前に一読をおすすめ。電子書籍でも入手可能)。列車のなかで出会った男が未来戦争の悪夢を語るという筋書きで、原作のリアルな登場人物は二人だけだが、藤倉と台本作家のハリー・ロスは、設定を少し変え、原作にない役も加えるなど、巧みにオペラ的にふくらませた。藤倉の音楽は美しく幻想的で、そして雄弁だ。彼のオペラはこれが3作目だが、つねに「メロディ」へのこだわりを感じさせる藤倉の音楽には、オペラこそがふさわしいのかもしれない。「現代音楽だから…」と怖れている人がいたら、それは杞憂。19世紀的な和声の上で展開する旋律でこそないものの、(個人の見解だが)耳に残るメロディのあるアリアや重唱が書かれている。オーケストレーションは多彩でも、巨大な音塊が歌を飲み込んでしまうような場面はなく、歌は終始、言葉まではっきりと聴こえてくる(歌詞は英語。日本語+英語字幕が何気に役に立つ)。当たり前かもしれないが、オペラの主役は歌なのだ。その意味でも、主要役を演じるピーター・タンジッツ(テノール)、ジェシカ・アゾーディ(ソプラノ)、セス・カリコ(バリトン)の3人の外国人歌手たちが、予定どおり出演できたのは大きい。10月の入国制限緩和も幸いし、演出のリディア・シュタイアーら演出チームも含めた海外勢全員が、到着後14日間の自主隔離を受け入れて来日した。加納悦子(メゾ・ソプラノ)と望月哲也(テノール)の二人の日本人歌手もじつに優れた歌唱を聴かせ(望月は赤いハイヒールの女装も熱演)、キャストの水準は相当高い。そして独唱陣に負けない存在感を示しているのが合唱だ。そもそも作品冒頭から、数分におよぶ無伴奏合唱で始まるという型破りなオペラ。作曲の藤倉も演出のシュタイアーも絶賛する新国立劇場合唱団がその実力を存分に発揮する。現在は、歌劇場からアマチュア活動に至るまで世界のすべての合唱に、感染を危惧する逆風が吹くなか、日本でのこの快演は誇らしい。指揮は芸術監督の大野和士(管弦楽:東京フィルハーモニー)。劇場の動画コメントなどからも、大野がこの作品に注ぐ愛情、そしてこの状況下でのオペラ上演にかける熱意がひしひしと伝わってくる。動画だけでも確実に一見の価値あり。ラスト・シーン。ボーイ・ソプラノの澄んだ歌が音楽的なカタルシスをもたらすが、ドラマとしてはそれは暗示的。私たちの前途にあるのは救いか絶望か。その答えの判断は、ぜひ直接ご自身の目と耳で!《アルマゲドンの夢》は残り11月18日(水)、21日(土)、23日(月祝)の3公演。新国立劇場オペラパレスで。(宮本明)
2020年11月16日「日本オペラ振興会(藤原歌劇団・日本オペラ協会)」の来年度シーズン・ラインアップが発表された。日本のニュープロダクション(新制作)及びイタリア・オペラの名作中の名作を揃えたラインナップからは、2021年に設立40周年を迎える日本オペラ振興会の意気込みが伝わるようだ。コロナ禍の中、ステージにも客席にも新たな対応が求められる中、伝統に培われた老舗の技と施策に期待したい。詳細: そして、これらのオペラ公演を更に楽しむための試みもすでにスタートしている。オペラオンデマンド講座「オペラびとの時間」は、自宅にいながらにしてとっておきのオペラトークが楽しめる素敵な時間。クラシック界の第一線で活躍する「オペラびと」たちが披露する、あんな話、こんな思い出、とっておきのエピソードの数々が、貴重な写真や歌の映像とともに披露される60分。毎回ステキなゲストを迎えて開催されるイベントのナビゲーターは、コンサートソムリエ朝岡聡。これを体験すればオペラが100倍楽しめるに違いない。■日本オペラ振興会(藤原歌劇団・日本オペラ協会)2021/22シーズンラインアップ・2021年4月:池辺晋一郎:『魅惑の美女はデスゴッデス!』&プッチーニ:『ジャンニ・スキッキ』(ニュープロダクション)・2021年6月:プッチーニ:『蝶々夫人』・2021年9月:ベッリーニ:『清教徒』(ニュープロダクション)・2022年1月:ヴェルディ『イル・トロヴァトーレ』(ニュープロダクション)・2022年2月:伊藤康英『ミスター・シンデレラ』(ニュープロダクション)
2020年10月29日「5年前より良くなっていると、はっきり書いてくれていい」そう手応えを語るのは指揮者の井上道義。総監督を務める、野田秀樹演出のモーツァルト《フィガロの結婚》の再演ツアーが始まっている(東京公演は10月30日&11月1日・東京芸術劇場)。2015年の初演時に大きな話題を呼んだ衝撃的な《フィガロ》だ。理屈抜きに、とにかく楽しい。「前回は僕も病み上がりだったけど(編注:2014年に咽頭がんの治療のため半年間休養した)、今度は元気。それに野田さんが真にオペラを愛するようになった。斜に構えたところがなくなったから、僕も楽になって、お互いの良いところが出ていると思う」物語の舞台を幕末の長崎に設定しているのがこの野田版の一番のポイント。伯爵夫妻とケルビーノは海を渡ってやってきた外国人で、その使用人たちが日本人の「フィガ郎」や「スザ女」たちなのだ。庶民と貴族の対立構造を、幕末の日本人と外国人の関係に落とし込んでいてわかりやすいし、設定に合わせて原語のイタリア語と日本語混在で演じられるのも特色だ。その演出プランをリアルなものにするために、外国人役には外国人歌手を配役することが前提だった。しかしコロナ禍により海外からの入国が不能に。一時は舞台裏で歌う歌手に外国人俳優が口パクで当てぶりする方法も真剣に検討されたというが、最終的には伯爵にヴィタリ・ユシュマノフ、伯爵夫人にドルニオク綾乃という、日本在住の外国人とハーフの歌手を起用した。とくにドルニオクは、抜擢と言っていい。「新しいスターが出てきたことを喜んでほしい。初演からのメンバーは前回みっちり稽古を重ねたので自由自在。新しく入ったメンバーもそれに合わせることができる。とくに大山大輔君(フィガ郎)と小林沙羅さん(スザ女)が中心にいることで、野田さんも安心していた。この二人がいなかったらできなかった」もう一つ、野田の「言葉」へのこだわりも大きなポイント。歌詞や台詞はもちろん、字幕まですべての日本語訳が野田の書き下ろし。単純な直訳ではないから面白い。しかも表面的なウケ狙いでなく、そこにはダ・ポンテの台本を深く読み込んだ結果が反映されているのだという。その野田=ダ・ポンテの世界にモーツァルトの音楽を吹き込むのが指揮者・井上道義の役割。話題が演出に集中しがちなことをどう感じているのだろうか。「構わない。とくに記事にするときにはそれが勝つと思うけど、野田さん自身も『オペラの中心は音楽でしょ』と言っている。オペラの感動は演出ではなく音楽で起きる。それは良い歌手たちとの、その場その場のほんの一瞬の積み重ねでしかできないこと。演出が良いぶん、こっちも頑張らなきゃ」手直しが重ねられ、どんどんパワーアップしているという再演の舞台。初見の人はもちろん、リピーターの人にも思わぬ驚きが待っているはずだ。マエストロも「見ないと取り残されるよ(笑)」と誘う。必見。(取材・文:宮本明)
2020年10月21日CHAiroiPLINの踊る戯曲シリーズ『三文オペラ』が、現在、三鷹市芸術文化センター星のホールで上演されている。ダンサー・振付家のスズキ拓朗を中心に結成され、ダンスと演劇が融合した、エンタテインメント性の高い舞台を繰り広げるCHAiroiPLIN。オリジナル作品を生み出す一方で、童話や文学作品など、幅広い題材を下敷きにした作品の上演も続けてきた。
2020年10月20日10月4日(日)、新国立劇場のオペラ2020/21シーズンが幕を開けた。コロナ禍により結果的に2月で終了を余儀なくされた前季からおよそ7か月ぶり、待望の劇場再開だ。新制作のブリテン《夏の夜の夢》は20世紀の現代オペラだが、音楽も物語も、明るく、また幻想的な、シェイクスピア原作の喜劇。世界の第一線で活躍するカウンターテナー藤木大地の出演が、発表時からの大きな話題だった。入国制限によって海外勢が来日できないため全役が日本人キャストに交代。演出も感染症対策を施して変更し、「ニューノーマル時代の新演出版」と銘打っての上演。しかしそこに「応急」とか「代替」とかのネガティブな疑念をはさむ余地は皆無の、完成されたプロダクションに仕上がった。月に照らされた神秘的な森の中。そこに妖精たちの住む屋根裏部屋のような空間がある。注目の藤木は妖精の王オーベロンを演じて期待に違わぬパフォーマンス。繊細で丁寧な歌唱で存在感を示した。その妃タイターニアの平井香織、妖精たちに翻弄される2組の人間カップルの但馬由香と村上公太、大隈智佳子と近藤圭らの主要役も、海外勢の不在を微塵も感じさせない好演。日本声楽界の充実ぶりを証明した。この舞台はもともと、2004年にベルギーのモネ劇場で制作されたデイヴィッド・マクヴィカー演出のプロダクション。今回はそのオリジナル演出に基づいて、女性振付家レア・ハウスマンが演出を担当した。彼女自身は来日せず、稽古場をオンラインでつないで演出を指示したのだそう。飛沫感染への配慮から歌手同士の距離を空けた「新演出」だが、オリジナル演出からの最も大きな変更は、狂言回し役の妖精パックの演技だ。歌のない台詞役で、オリジナルではデイヴィッド・グリーヴスというアクロバット俳優が演じた。今回も出演予定だった彼は空中ダンスのスペシャリスト。演出もいわば彼への当て書きで、パックが文字通り飛び回る設定だったので、当然そこは変更せねばらなかった。代わって演じたのは若手バス歌手の河野鉄平。飛ばないまでも、台詞だけの役なのだから俳優のほうが適切などと考えたら大間違い。この起用が大当たりだった。23年間アメリカで暮らしたという英語力もさることながら、不気味な怪しい動きの大熱演で、いたずらな妖精を演じ切った。声援を規制された現状の客席ルールさえなければ、間違いなく大きなブラヴォーが飛んだはずだ。また、妖精の合唱の少年たち(FM東京少年合唱団)も、歌だけでなく動きも目を見張るクォリティ。このあたりに、身体表現のプロであるハウスマンの仕事が光っているのだろう。ピットには、急きょ代役を委ねられた飯森範親が指揮する東京フィル。美しく研ぎ澄まされた、でもどこかいびつで不条理な響きが印象的なブリテンのオーケストレーションを、鮮やかに描き出していた。劇場再開を祝うになんら不足がない舞台。新国立劇場が帰ってきた。(宮本明)
2020年10月05日鈴木優人プロデュースのオペラ《リナルド》(ヘンデル)が10~11月に横浜と東京で上演される。9月下旬、鈴木と出演者たちが出席してオンライン会見が行なわれた。2017年のモンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》に続く、鈴木とバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のオペラ・シリーズ第2弾。前回の《ポッペア》は演奏会形式だったが、今回は一歩進んでセミ・ステージ形式。若手演出家の砂川真緒が抜擢された。砂川「バロック・オペラをいかに楽しめるか。エンタテインメントとして考えている。今回、リナルドは現代に生きている少年という設定。鈴木さんが、囚われの身のアルミレーナがピーチ姫みたいだと言っていたことから発想が膨らんだ」題名役は、世界が認めたカウンターテナー藤木大地。鈴木とは20年来の友人で、二人は「死ぬまでにヘンデルのオペラを全部やる」と誓い合った仲。藤木「ちょうど10年前、カウンターテナーに転向する時も優人君に相談した。その頃日本でバロック・オペラの上演は考えられなかった。それがどんどん変わってきて、歌える人も聴きたい人も増えたことに感謝したい。困難な状況のなか、2020年の日本でしか聴けない国際的な《リナルド》をお楽しみに」ヒロインのアルミレーナは、バロックでも卓抜な歌唱を聴かせる美しきプリマ・ドンナ森麻季。森「古楽のスペシャリストのBCJのみなさんとのオペラ全幕を上演できるのは大切な機会。コロナ渦の制約のある演出も、私には楽しみのひとつ。初共演の若い歌手のみなさんからも学びながら、心をひとつにして頑張りたい」そして、プロデューサー・指揮者として公演を束ねる鈴木優人。鈴木「歌と言葉と器楽が融合してドラマを作るのが、ヘンデルのオペラを演奏して楽しいこと。いかに美しく楽しく作れるか。観客に予習なしで楽しんでもらえることが私たちの使命。その創意工夫にすべてを捧げることができるチームであるかどうか。今回のスタッフ、キャストの思いは、きっと舞台で輝くと確信している」エンタテインメントとしてのバロック・オペラ。じっさい《リナルド》は、ファンタジーの要素も強いし、2組の男女の恋のドタバタ劇のようなところもあって、屈託なく楽しめる作品。だからぜひ、音楽史を学ぶような気持ちでなく、大ヒットした300年前のロンドン初演の観客たちと同じように虚心坦懐に楽しみたい。《リナルド》は、のちにイギリスに帰化するヘンデルが、26歳で最初にロンドンを訪れた際に作曲した全3幕のオペラ。舞台は11世紀末のイスラエル。十字軍の英雄リナルド(藤木)は司令官の娘アルミレーナ(森)と恋人同士。ところが敵将アルガンテがアルミレーナに、その愛人の魔女アルミーダがリナルドに一目惚れして、話はもつれる。第2幕で、言い寄るアルガンテを拒絶して歌うアルミレーナのアリア〈私を泣かせてください〉は有名。本公演は、10月31日(土)に神奈川県立音楽堂(木のホール)にて上演。チケット発売中!文:宮本明
2020年10月05日米・ニューヨークのオペラの殿堂「メトロポリタン・オペラ(MET)」は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため3月中旬より閉館され、2020-21年シーズンの開幕も今年の大晦日まで延期することを発表していた。しかし、欧米におけるコロナウィルス感染拡大は衰えるどころか、益々感染者が増えている状況となっている。この状況を踏まえ、メトロポリタン・オペラは、2020-21の全シーズンのキャンセルを発表した。今後の予定としては、2021年秋にフルラインナップで2021-22年シーズンを開幕予定。新演出6作を含むエキサイティングなシーズンとなる見込みだ。現地ニューヨークでの観劇はもちろん、 METの最新公演を映画館で楽しむ「METライブビューイング」を楽しみにしていたファンにとっては残念な状況となったが、盛り沢山な企画が予想される2021-22シーズンの開幕に期待したい。
2020年09月26日新型コロナウィルス感染拡大の影響によって公演から遠ざかっていた東京・初台の新国立劇場オペラ公演が、前回の『セビリアの理髪師』以来約8ヵ月ぶりに再開される。新たなシーズン開幕公演は、20世紀イギリスを代表する作曲家ベンジャミン・ブリテン(1913-1976)のオペラ『夏の夜の夢』だ。公演は、感染対策を講じ、イギリスの演出家とのリモートによる共同作業で、”ニューノーマル時代の新演出版”として上演される。出演する日本人歌手陣のほか、急遽登板となった指揮者飯森範親が描き出す新国立劇場オペラの新たな開幕や如何に!大いなる希望を胸に会場を訪れたい。●2020/2021シーズンオペラ『夏の夜の夢』/ベンジャミン・ブリテンA Midsummer Night’s Dream / Benjamin BRITTEN全3幕〈英語上演/日本語及び英語字幕付〉ニューノーマル時代の新演出版New Production in the time of "A New Normal"2020年 10月4日(日)14:00オペラパレス2020年 10月6日(火)14:00オペラパレス2020年 10月8日(木)18:30オペラパレス2020年 10月10日(土)14:00オペラパレス2020年 10月12日(月)14:00オペラパレス予定上演時間:約3時間15分(休憩含む)公式サイト:
2020年09月25日9月3日、新国立劇場でのベートーヴェン《フィデリオ》で2020/2021シーズンの幕を開けた東京二期会オペラ劇場。初日前日には、早くもその次の2021/2022シーズン(2021年9月~2022年7月)のラインアップが発表され、6月に新理事長に就任したばかりの清水雅彦氏(経済学者/慶應義塾大学名誉教授)らが出席して記者会見が行なわれた。【チケット情報はこちら】新シーズンのテーマは「誘惑の綾」。さまざまな誘惑が綾なす人間模様に注目だ。各演目ともキャストなど詳細の発表は後日。[2021/22シーズン・ラインアップ]2021年9月●モーツァルト《魔笛》大きな話題を呼んだ2015年宮本亞門演出が待望の再演。リオネル・ブランギエ指揮。2021年11月●J.シュトラウス《こうもり》ベルリン・コーミッシェ・オーパーとの提携で制作したアンドレアス・ホモキ演出のプロダクション(2017年)。川瀬賢太郎指揮。2022年2月●R.シュトラウス《影のない女》(新制作)現代屈指の演出家ペーター・コンヴィチュニーと二期会の6作目のコラボ。ボン歌劇場との共同制作だが、東京がワールド・プレミエとなる。アレホ・ペレス指揮。2022年4月●プッチーニ《エドガール》(新制作/セミ・ステージ形式上演)東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ。上演機会の少ないレア作品。指揮はイタリア・オペラの紹介を使命とする鬼才アンドレア・バッティストーニ。2022年7月●ワーグナー《パルジファル》(新制作)開幕の《魔笛》に続いて再び宮本亜門登場で、こちらは新演出。フランス国立ラン歌劇場との共同制作で、すでにフランスでは今年1月に初演されて好評を得ている期待のプロダクションがいよいよ日本で見られる。セバスティアン・ヴァイグレ指揮。なお、感染症拡大の影響で延期された、今年4月上演予定だったサン=サーンス《サムソンとデリラ》(東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ/セミ・ステージ形式)と、7月予定だったベルク《ルル》(カロリーネ・グルーバー演出による新制作)は、それぞれ2021年1月と8月に上演される。これに加えてこの日、公演動画の無料インターネット配信の開始も発表された。当面は、9月の《フィデリオ》以下の数演目を、YouTubeで配信する。これは経済産業省が文化コンテンツの海外展開を支援する助成金「J-LOD」を活用した事業で、英語字幕をつけ、感染予防対策の紹介なども盛り込んだドキュメンタリーとすることで、海外の劇場関係者への情報発信の意味合いも含めたプロジェクト。海外向けではあるが、もちろん国内でも視聴可能だろう。新しい試みに期待したい。なお会見には、今年11月の《メリー・ウィドウ》(沖澤のどか指揮)のハンナ役のソプラノ嘉目真木子と、来年7月の《ファルスタッフ》の題名役に起用されたバリトン今井俊輔も出席。抱負を熱く語って花を添えた。取材・文:宮本明
2020年09月11日東京二期会オペラ劇場の新シーズンが9月3日(木)に開幕した。演目は生誕250周年のベートーヴェン《フィデリオ》。感染症の影響が続くなか、関係者全員の努力と創意による新シーズンのスタートに感謝したい。初日前日、最終の舞台稽古を取材した。【チケット情報はこちら】《フィデリオ》は、政敵に捕らえられた夫を救う妻の救出劇。演出の深作健太はこれを、20世紀以降のさまざまな政治の対立構造によって自由を奪われた人々とその解放の歴史の軸の上に配置した。キーワードは「壁」だ。オペラ全編が「壁の物語」として描かれる。ナチの強制収容所の壁。冷戦体制下のベルリンの壁。そして現在進行中のイスラエルの分離壁。しかしそうした、いわゆる「読みかえ」が台本やベートーヴェンの音楽を飲み込んでしまうことはなく、オペラの物語自体はそれらと絶妙な距離感を保って自立している。ネタバレになるので詳細は避けるが、最後には、ベートーヴェンらしい「苦悩を突き抜けて歓喜へ」の気分を、客席と舞台一体となって劇場全体で共有できる仕掛けも施されている。指揮は、鋭い着眼点でいつも聴き手の先入観を一新してくれる大植英次。いきなり来た!最終稿の序曲でなく、序曲《レオノーレ》第3番で開始。ベートーヴェンはこのオペラのための序曲を全部で4曲書いており、これは(ちょっとややこしいが)第2稿のための音楽。オペラ本編の音楽素材を先取りして用いる伝統的な作法で書いているので、本編中で、「ああ、序曲で出てきたあの旋律か」と、有機的な繋がりを感じる面白さに、あらためて気がつかせてもらった。もちろん、オペラ上演にも「ニューノーマル」が必須で、随所に感染症対策の工夫。客席への飛沫感染のリスクを最小にするため、舞台最前面には常時紗幕が下がっている。通常時のオペラ演出でもしばしば使われる、光が透過する薄いカーテンのこと。いわば舞台全体に巨大なマスクをつけたような状態だし、多用される映像を映すスクリーンも兼ねる。そして、『フィデリオ』で重要な合唱は、ほとんどの部分を舞台裏で歌う(二期会、新国立劇場、藤原歌劇団の合同)。でもそのぶん、フィナーレで(十分な距離を保って)姿を現す合唱団の存在感は圧巻だった。オーケストラ(東京フィルハーモニー交響楽団)は通常同様にピット内で演奏するが、「密」を避けるため、客席側の仕切り壁を撤去。初めて見る光景だ。さまざまな苦心が察せられるものの、それによる不自由さを感じることはほとんどなかった。通常時と同じ、本格的な上演に限りなく近い、オペラの醍醐味十分のプロダクションと言えそうだ。オペラの復活が心に滲みる。二期会《フィデリオ》は新国立劇場オペラパレスで9月3日(木)~6日(日)の4日間。出演はダブルキャストで、レオノーレに土屋優子/木下美穂子、フロレスタンに福井敬/小原啓楼、ドン・ピツァロに大沼徹/友清崇、ロッコに妻屋秀和/山下浩司、ほか。取材・文:宮本明
2020年09月04日世界最高峰のオペラハウス「メトロポリタン・オペラ(通称:MET)」の最新映像をスクリーンで楽しむ「METライブビューイング」は、ダイナミックな音響と多彩なカメラワークに加え、生の劇場でも観られない舞台裏や歌手へのインタビューも収録されたゴージャスな時間を提供する新しいスタイルのエンタテインメントだ。そして、これまでの全ラインナップの中から、テーマに合わせて約10~30作を一挙上映する「アンコール上映」は、毎夏恒例の人気企画。今年は「この夏、オペラで世界を旅しよう」と第して、世界各国を舞台にした作品が、その国や地域ごとに上映されるというから楽しみだ。予定されるプログラムの中には、伝説の時代の中国で冷酷な姫の謎に挑む流浪の王子の姿を描いた『トゥーランドット』や、古代エジプトを舞台に王女の禁じられた恋を描く『アイーダ』などの超有名作品はもちろん、神秘の巫女と2人の男の三角関係の物語『真珠採り』(スリランカ・セイロン島)、アメリカ南部・港町の片隅に生きる黒人たちのドラマを〈サマータイム〉などの名曲で綴る『ポーギーとベス』など、世界各地の異国情緒あふれる名作も多数登場。アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)やヨナス・カウフマン(テノール)など、世界のトップ歌手が勢ぞろいする華麗なステージを楽しみたい。なかなか海外に行きづらい今だからこそ、スクリーンの中での世界旅行に注目だ。*上映詳細は ●METライブビューイングアンコール2020東劇 (東京/東銀座) 8/7(金)~10/1(木) *32作上映神戸国際松竹(兵庫/三宮) 8/7(金)~9/17(木) *18作上映なんばパークスシネマ(大阪/なんば)8/21(金)~9/17(木)*13作上映ミッドランドスクエアシネマ(愛知/名古屋)8/21(金)~9/17(木) *13作上映
2020年07月21日ニューヨークのメトロポリタン・オペラ(MET)が、現在の健康危機に関する情報に基づき、2020-21年シーズンのスタートとなる秋公演を中止すると発表した。新シーズンは2020年12月31日に開幕する予定で、特別なガラパフォーマンスを含む企画の詳細は後日発表される予定だ。MET総裁ピーター・ゲルブは、「メトのスケジュールは組織が非常に複雑であることを考えると、秋シーズンをキャンセルせざるを得ない。お客様と劇場の職員の健康と安全は私たちの最優先事項であり、社会的距離を保つことが依然として求められている中、9月にメトロポリタン歌劇場でオープニングに向かえるのは不可能だと判断致しました」と語っている。詳細はMETのHP( )参照。また、今後の聴衆の行動の変化を見越して、可能な限り夕方の開幕時間を午後7時に繰り上げ、パフォーマンスの上演時間の短縮を試みるという。例えば、ヘンデルの『ジュリアス・シーザー』は2回の休憩を含む上演時間4時間半から1回のみの休憩の3時間半になる予定。シーズン短縮に伴い、「METライブビューイング」のシーズンも短縮され、『魔笛』、『ロメオとジュリエット』、『ドン・ジョヴァンニ』、『デッド・マン・ウォーキング』、『影の無い女』、ヴェルディの『ナブッコ』、ベッリーニの『海賊』の7演目がライブ配信される予定だ。日本における「METライブビューイング」2020-21シーズンの上映に関しては配給会社の松竹株式会社より後日発表予定。最新情報は、 参照。
2020年06月04日開館65周年を記念した神奈川県立音楽堂の室内オペラ・プロジェクト公演、ヘンデルのオペラ『シッラ』が開催される。全く耳慣れないこのタイトルにもかかわらず、おそらく多くのオペラファンが興味津々である理由は、このオペラを手掛ける団体が、ファビオ・ビオンディとエウローパ・ガランテだからではないだろうか。“世界最高峰のバロック・バンド”とでも言うべき彼らの演奏は鮮烈の極み。過去に体験した圧倒的な名演奏を思えば、今回の公演への期待感も当然。どんな刺激を与えてくれるのか楽しみでならない。一方、『シッラ』とは一体どんな作品なのかといえば「ヘンデルの美しい音楽がぎっしりつまったオペラ」という言葉がピッタリの誰にでも楽しめる作品だ。日本初演となる今回の公演によって、バロック・オペラの新た魅力に出会えることを期待したい。●公演概要2月29日(土)、3月1日(日)神奈川県立音楽堂ヘンデル『シッラ』全3幕ファビオ・ビオンディ指揮エウローパ・ガランテ●ファビオ・ビオンディFabio Biondi(音楽監督:指揮・ヴァイオリン)イタリア、パレルモ出身。1990年、イタリア・バロック音楽アンサンブル「エウローパ・ガランテ」を結成。ソリスト、指揮者としても数多くのオーケストラと共演。ノルウェー・スタヴァンゲル交響楽団のバロック音楽のための芸術監督。サンタ・チェチーリア音楽院学芸員。バレンシアのパラ・ド・ラ・アルテオーケストラ音楽監督。2015年、フランス文化省から芸術と文学の国家学術員に指名されるなど、世界の古楽界を牽引し続けている。●エウローパ・ガランテEuropa Glante(管弦楽)1990年、音楽監督であるファビオ・ビオンディによって設立された古楽アンサンブル。パルマのドゥーエ劇場を活動拠点として、バロック、古典の作品を当時の楽器で演奏しイタリア国内のみならず世界中に招かれている。バロックの器楽曲のほか、ヴィヴァルディ作曲『バヤゼット』『テルモドンテ川のエルコレ(ヘラクレス)』『メッセニアの神託』ほか、ヘンデル作曲『アグリッピーナ』『イメネオ』等、バロック・オペラやオラトリオもレパートリーとしている。ローマのサンタ・チェチーリア音楽院とは共同で、アントニオ・カルダーラ『キリストの受難』、レオナルド・レーオ『カルヴァリオの丘の聖エレナ』等、18世紀以前のイタリア・オペラの再発掘や復元に尽力し、CDのリリース、受賞歴も多い。
2020年02月21日11年ぶりの新制作となる東京二期会の《椿姫》。初日が1週間後に迫った2月12日、公演の指揮者ジャコモ・サグリパンティによるプレトークが開かれた。赤丸急上昇中の若きオペラ指揮者はこれが初来日。詰めかけた約100人の熱心なファンを前に、軽妙に、しかし誠実に語った(自由学園明日館講堂)。【チケット情報はこちら】1982年生まれのサグリパンティは、目下世界の主要歌劇場を次々と制覇し続ける逸材。今回もバイエルン国立歌劇場でアンナ・ネトレプコ主演の《トゥーランドット》を指揮してきたばかりだ。2016年には英国の「オペラ・アワード」最優秀若手指揮者に選出されている。自らの正式なオペラ・デビューを、2010年イタリア南部の街マルティナ・フランカのヴァッレ・ディートリア音楽祭でのドニゼッティ《パリのジャンニ》と答えたサグリパンティ。この音楽祭は、知られざるベルカント・オペラを多数上演することで知られるが、彼自身、これまで40以上のベルカント・オペラを指揮しており、ヴェルディとベルカント・オペラには密接な関係があるのだと語った。「(ベッリーニの)《ノルマ》と(ヴェルディの)《ナブッコ》を、知らずに聴いたら、作者が逆だと思うほど似ています。ベッリーニをヴェルディが発展させたのです」《椿姫》でも、音楽的に難しいヴィオレッタ役に比べて他の役はシンプルで、たとえば有名なジェルモンの〈プロヴァンスの海と陸〉が平凡(!?)なのは、古い社会の象徴として(古い)ベルカント風に書いているからだと教えてくれた。《椿姫》の人気の理由として、どの時代にも起こりうる普遍的なテーマとメロディの美しさを挙げたサグリパンティ。なかでも聴きどころは「ワルツ」だという。「当時ヴェルディがパリで聴いたワルツがさまざまな場面に出てきます。有名な〈さようなら過ぎ去りし日々〉もワルツですね。私が1番泣ける美しいワルツが(第2幕でヴィオレッタがアルフレードに別れを告げる)〈私を愛してね。私があなたを愛しているのと同じくらい〉です。なぜ泣けるかといえば、あそこで初めて本当のヴィオレッタが描き出されるから。魂をえぐられるようなシーンです」ちょっとしたアクシデントもあった。トークの途中で震度1の小さな地震。すぐに収まったが、サグリパンティは「ちょっと怖かった」とお茶目に告白。「イタリアだったら全員が外に逃げたと思うよ!」と笑わせた。最後はソプラノの柴田紗貴子とテノールの澤原行正のふたりが《椿姫》から3曲を歌うミニ・コンサート付き。今回の《椿姫》では、宝塚歌劇団の新鋭演出家・原田諒を起用し、ダンサーとして元タカラジェンヌらが出演することもオペラ・ファンの話題だ。ヴィオレッタ役は日本を代表するプリマ大村博美と、初の大役に抜擢された新星・谷原めぐみのWキャスト。大きな注目を集める二期会《椿姫》は、2月19、20、22、23日の4公演。東京文化会館大ホールにて。チケット発売中。取材・文:宮本明
2020年02月17日オペラ史上最高の人気作が、ビゼーのオペラ『カルメン』であることに異論を唱える人は殆どいないのではないだろうか。スペインの港町セビリアを舞台にしたこの作品は、オペラ史上屈指の“悪女”カルメンとドン・ホセを軸にしたドロドロの物語を、「ハバネラ」「闘牛士の歌」「アラゴネーズ」などの美しい名旋律で包み込む不滅の名作。まさに人がオペラに求める要素が全て盛り込まれたあたりが人気の秘密と言えそうだ。この名作を、世界の名だたるオペラハウスで名を成してきた巨匠チョン・ミョンフンが指揮するとなれば見逃せない。今回の上演が“オペラ演奏会形式”ときいてがっかりする方がいたとしたらそれは大きな間違いだ。舞台がないことによって、より演奏に集中できることはもちろん、物語の内容をいかに聴衆に伝えるかという演出上のちょっとした工夫が楽しめるのも“オペラ演奏会形式”の楽しさだ。“これからオペラに親しみたい”と言う方には特におすすめしたいステージがここにある。カルメン役:マリーナ・コンパラート●公演概要・2月19日(水)東京オペラシティ コンサートホール「東京フィルハーモニー交響楽団 第131回東京オペラシティ定期シリーズ」・2月21日(金)サントリーホール 大ホール「東京フィルハーモニー交響楽団 第932回サントリー定期シリーズ」・2月23日(日)Bunkamuraオーチャードホール「東京フィルハーモニー交響楽団 第933回オーチャード定期演奏会」
2020年02月13日イタリア・オペラといえば、“ドロドロの色恋沙汰”か、“抱腹絶倒のドタバタ喜劇”を極上の歌と音楽で包み込む、といった趣が多く、物語と音楽のギャップの凄さもある意味癖になる魅力になっているようにも思えなくない。今回、新国立劇場で上演されるロッシーニのオペラ『セビリアの理髪師』は、まさに後者の代表作。抱腹絶倒のラブコメディを、ロッシーニならではの素晴らしい音楽とともに楽しむ時間は、非日常の極地と言えそうだ。用意される舞台は、1960年代のスペインの港町セビリア。ここで展開されるコミカルでスパイスの効いた恋の物語は、バカバカしくも可笑しく楽しいシーンの連続。いつのまにやら物語の中に入り込んで楽しんでいる自分に気づくに違いない。それこそがオペラの醍醐味なのだろう。もちろん字幕付きなので、オペラ写真車でも楽しめること請け合いだ。新国立劇場『セビリアの理髪師』2016年公演より 撮影:寺司正彦●あらすじ(第1幕)アルマヴィーヴァ伯爵はマドリードで見かけた美女ロジーナを追ってセビリアへやって来た。ロジーナに向かって窓辺でセレナーデを歌うが反応なし。落ち込む伯爵の前に現れたのは、バルトロ家の理髪師で何でも屋のフィガロ。伯爵は彼にさっそく協力を頼む。ロジーナは、後見人バルトロの監視が厳しくて自由に動けないのだが、隙をみて伯爵への手紙を窓から落とす。それを読んだ伯爵は、自分は貧しい学生リンドーロだと身分を隠して自己紹介する。バルトロはロジーナとの結婚を目論んでいたが、音楽教師兼結婚業ドン・バジリオから、伯爵が彼女に迫っていると聞き、すぐに結婚契約書を作成しようとする。フィガロはロジーナに、リンドーロは君に夢中だと伝えると彼女は大喜び。フィガロのアイディアで伯爵は兵士に変装し、宿泊許可証を持ってバルトロ家に入る。バルトロには寝耳に水の話で、本物の兵士も来て大騒ぎの中、伯爵とロジーナは初めて会い、手紙を渡す。(第2幕)伯爵はバジリオの弟子ドン・アロンソに扮し、体調の悪いバジリオの代わりだと言いロジーナの音楽のレッスンをする。フィガロの協力でバルトロをかわした隙に、伯爵は、夜中に迎えに行くとロジーナに伝える。その後アロンソが偽物だと分かり怒り心頭のバルトロは「リンドーロはおまえを伯爵に売るつもりだ」とロジーナに告げる。ショックを受けたロジーナはバルトロとの結婚を承諾してしまう。嵐ののち伯爵とフィガロがロジーナを迎えに行くが、彼女はリンドーロの裏切りを非難して、その場を動こうとしない。そこで伯爵は自分の正体を明かす。驚き喜ぶロジーナ。バルトロが呼んだバジリオと公証人がちょうど来たので、フィガロの機転で伯爵とロジーナの結婚契約書を作成。伯爵の素性を知り驚いたバルトロはついに観念し、伯爵とロジーナはめでたく結ばれる。●公演概要2月6日(木)、8日(土)、11日(火・祝)、14日(金)、16日(日)新国立劇場オペラパレス新国立劇場オペラ『セビリアの理髪師』
2020年02月01日日本オペラ界を代表するソプラノ佐藤美枝子と、人気と実力を兼ね備えたテノール西村悟の初めてのデュオ・リサイタルが、この春、横浜みなとみらいホールで実現する。「実は、ずっと前から美枝子さんと共演したいと熱望していたんです」と胸の内を明かした西村は、今回のリサイタルにかける意気込みをこう語る。【チケット情報はこちら】「美枝子さんは教科書のような声の持ち主で、共演するということはいちばん近くでそのすべてを体験できるわけですからとても勉強になります。と同時に、僕にとっては大きなチャレンジであることも間違いない。このリサイタルが僕自身のステップアップにも繋がると思っています」一方の佐藤も、今回の西村との共演については並々ならぬ意欲を持っているようだ。「初めて彼の歌を聴いた時から、聴衆を惹きつけるカリスマ性に驚きました。華があると同時に、ほとばしる音楽性を持ったテノール。そんな西村さんと私の音楽のいちばん良いところが合わさることで、さらに完成度の高いものをお届けできるのではと考えています」プログラムは、誰もがどこかで1度は耳にしたことのあるようなおなじみの曲が並ぶ。佐藤いわく、「お客様がどれだけ楽しんでくださっているのか、という空気がとても大切なので、皆さんにお耳馴染みのある曲を選びました」と話す。前半は日本歌曲やカンツォーネ、後半はオペラ・アリアが中心で、その中でも白眉はラストに置かれたヴェルディの歌劇『リゴレット』からの二重唱「あなたは私の心の太陽」だろう。「美枝子さんとだったらこの曲をやりたいと思っていた」という西村の熱望が実現した形だ。他にも、最近ミュージカルに興味を持っているという西村による『ウエストサイド・ストーリー』からの「マリア」、そして実は佐藤のレパートリーだという『キャンディード』からの「着飾ってきらびやかに」という2曲のミュージカル・ナンバーも楽しみだ。「曲の間にはざっくばらんにMCを入れたい」と佐藤がいえば、「突然無茶ぶりをして美枝子さんがタジタジになるところが見てみたいかも」と西村が笑うなど、早くも2人の息はぴったりのようだ。日本を代表するトップ歌手ふたりが、名アリアやデュエットなどを次から次へと歌ってくれるこのコンサート。「オペラ・ファンだけでなく、色々な人に気軽に来ていただきたい」というふたりの熱のこもった言葉を聞きながら、たくさんの人の心を幸せな気分で満たしてくれるリサイタルになるに違いない、と確信した。公演は3月20日(金・祝)に神奈川・横浜みなとみらいホール 大ホールにて開催。チケットは発売中。取材・文室田尚子
2020年01月17日イタリア・オペラの歴史に巨大な足跡を残した作曲家プッチーニの数多くの名作の中でも、ひときわ評価が高く愛され続けてきた作品『ラ・ボエーム』。19世紀のパリを舞台に、詩人ロドルフォとお針子ミミの儚い愛と、明日の成功を夢見る若き芸術家たちの貧しくも自由な生活を描いたこのオペラは、まさにクラシック史上屈指のラブストーリーだ。今回、新国立劇場で上演されるこの名作『ラ・ボエーム』には、圧巻の美貌と表現力、そして豊な声を持つソプラノ、ニーノ・マチャイゼが登場する他、辻井亜季穂(ソプラノ)にリッピ(テノール)など、期待の若手歌手も参加。名匠カリニャーニの指揮とともに要注目の舞台となりそうだ。パリの街を俯瞰するかのような粟國淳の演出と、「冷たき手を」「私の名はミミ」の名アリアに代表されるプッチーニの甘美な旋律が紡ぎだす素敵な時間をご堪能あれ。● ●公演概要1月24日(金)、26日(日)、28日(火)、31日(金)、2月2日(日)新国立劇場オペラハウス
2020年01月17日イミュが展開する化粧品ブランド「オペラ」は、1月23日(木)に「リップティント N」と「シアーリップカラー RN」のバレンタイン限定色を、各1色発売いたします。伝説の“恋カラー”復刻&オペラ初のブラウンリップです!■“a Little Bitter Sweet”くちびる、苦くて甘いブラウンリップ今回のテーマは「a little bitter sweet」。恋をした時の、甘美なムード。そして、苦くてぴりっとした瞬間。苦しくも楽しいフィーリングと、それを受け止めるしなやかな意思の強さを秘めた、特別な限定色です。「リップティント N」限定色の“ピンクフレイズ”は、過去にバレンタイン限定色として発売した際、数時間で完売し、SNS等で幻と言われたカラー。お客様からのご要望にお応えし、限定復刻カラーとしてラインナップしました。甘くフレッシュなフレイズ(苺)の赤みを閉じこめた、きゅんとせつない赤ピンクは、大人っぽさとピュアな可愛さが共存して、好きと言わなくても、好きと伝わる色。「シアーリップカラー RN」限定色の“カカオキス”は、深みのあるカカオに、ほのかな赤をしのばせた、レッドニュアンスのブラウン。ビタースイートなチョコレートのように甘くて、シックな魅力を兼ね備えたカラー。苦くて甘い、特別な時に。ロマンティックで意思のある、恋の色です。■「オペラ リップティント N」製品説明オペラ リップティント N限定色 106「オペラ リップティント N」・限定全1色・1500円限定色106ピンクフレイズ(復刻カラー)甘くフレッシュなフレイズ(苺)の赤みを感じるベリーニュアンスのピンク。大人っぽさに、ピュアな可愛さが覗く、好きと言わなくても、好きと伝わる色。製品特長01.美しく発色するのに、ピュアな質感ひと塗りで美しく発色するのに、決して“濃く”感じさせない、透ける質感。オイルをブレンドする事で、生まれたてのようにピュアな質感が生まれ、柔らかく、洗練された印象に。ふわっと柔らかそうなセミマットな唇は、思わず触れたくなるような、見つめずにはいられない仕上がり。02.自然な血色感が、落ちずに続く唇の水分に反応して、血色感を引き出すティント処方。唇に色を“乗せる”のではなく、唇そのものが内側から色づいたような、自然な血色感が続きます。03.リップクリームのようにスルスルと伸び、ストレスフリー。ひと塗りで潤い続くまるでリップクリームのように、乾燥した唇にもスルスルとなめらかに伸び、ストレスのない塗り心地。サラサラのリップケアオイルをベースとした処方で、ひと塗りするだけで、潤いをキープします。唇に極薄にフィットし、ムラにならないため、鏡を見ずに塗れるほどストレスフリーな使い心地です。■「オペラ シアーリップカラー RN」製品説明オペラ シアーリップカラー RN限定色 104「オペラ シアーリップカラー RN」・限定全1色・1200円限定色104カカオキス深みのカカオに、ほのかな赤をしのばせた、ビタースイートなチョコレートブラウン。くちびるから目が離せない、ロマンティックで、意思のある、恋の色。製品特長01.きちんと発色するのに、潔いほどの透明感美しいカラーと、水面を思わせるような清いツヤ感。ひと塗りでしっかり色づくのに、素の唇の質感が透けるほどの透明感で、軽やかな仕上がり。透けながら肌に馴染み、表情を多彩に彩ります。02.薄膜で軽やかなのに、上品な立体感唇に薄く均一に、溶けるように広がり、唇を包み込むようなテクスチャー。グロスをスティック状に固めた独自処方(※スティックグロス構造)により、なめらかな塗り心地が叶います。唇にさりげない奥行き感を与え、動く度に可憐さと女性らしさがあふれる、上品な仕上がり。※スティックグロス構造とは液状のリップをスティック状に形成する“メルティフィクサー”を配合する事で、ミクロ単位の均一なネット状になって広がり、液状の分子を抱え込んで連結。体温に触れると再び連結が解け、唇に溶け込むように、均一に、なめらかになじみます。03.潤いたっぷりの唇にそのまま直塗りするだけで、たっぷりの潤いに包まれた唇に。乾燥した唇にもスルスル伸び、ムラになりません。保湿成分ハチミツ、スクワラン配合。
2020年01月17日新国立劇場2020/2021シーズンラインアップの発表会見が開かれ、オペラ部門は、芸術監督として3シーズン目を迎える指揮者・大野和士が出席した(1月8日)。新制作上演は次の4本。●ブリテン《夏の夜の夢》(2020年10月)●藤倉大《アルマゲドンの夢》(2020年11月)※世界初演●ストラヴィンスキー《夜鳴きうぐいす》/チャイコフスキー《イオランタ》(2021年4月)●ビゼー《カルメン》(2021年7月)大野が芸術監督就任時に掲げた施策には、隔年で行なうプロジェクトが含まれており、来シーズンはその1年目の企画枠が戻ってくることになる。そのひとつが日本人作曲家への創作委嘱シリーズ。今回大野は、いま世界が最も注目する作曲家である藤倉大に狙いを定めた。《アルマゲドンの夢》は、20世紀初頭の「SFの父」H.Gウェルズの『世界最終戦争の夢』が原作。藤倉のオペラ3作目だが、日本で演出付きで舞台上演されるのはこれが初めて。指揮は大野和士。演出は2018年ザルツブルク音楽祭の《魔笛》が注目を浴びたアメリカの女性演出家リディア・シュタイアー。英語台本なので海外上演の可能性も含めて注目される。上演順が前後するが、シーズン開幕を飾るのはブリテンの《夏の夜の夢》。大野は「20世紀オペラは難解で敷居が高いと思われがちだが、底抜けに明るい喜劇、幸せになる現代オペラもあることをアピールしたい」と意図を述べた。プロダクションは2004年にベルギーのモネ劇場で初演され高評価を得ているデイヴィッド・マクヴィカー演出の舞台。新国立劇場が権利を買い取った。今後は他劇場へのレンタルも含めて、新国立劇場の所有レパートリーとなる。指揮はイングリッシュ・ナショナル・オペラ音楽監督でブリテンのスペシャリスト、マーティン・ブラビンス。2021年4月の《夜鳴きうぐいす》と《イオランタ》の2本立ても、隔年プロジェクトであるダブルビル第2弾。「童話」つながりの2作品だ。さらに今回は、これも大野が掲げる「ロシア・オペラの充実」という方針の一環でもある。新国立劇場として4度目の新制作となる《カルメン》の演出を手がけるのは、スペインのアレックス・オリエ。昨年の新国立劇場と東京文化会館共同制作の《トゥーランドット》では、スケール大きな舞台装置と、姫が自ら命を絶つショッキングなラストシーンが大きな話題となった。大野は「オリエは、室内楽的、内面的な精神の変化を描きたいと言っている。昨年の《トゥーランドット》とはまったく視点の異なるビジュアルの演出になるはず」と語った。レパートリー作品も、臼木あいのスザンナ、脇園彩のケルビーノと、日本人歌手の活躍に期待が募る《フィガロの結婚》や、わが国のワーグナーの第一人者で前芸術監督の飯守泰次郎が指揮する《ワルキューレ》はじめ、充実のラインアップ。取材・文:宮本明
2020年01月09日令和元年も残り1か月を切った東京で、見逃せない画期的なプロジェクトが注目を集めている。芸術総監督ワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー・オペラとそのオーケストラ「マリインスキー歌劇場管弦楽団」による『チャイコフスキー・フェスティヴァル』(11月30日~12月7日/東京文化会館、サントリーホール)。【チケット情報はこちら】オペラと管弦楽曲の両輪で本場ロシアの大作曲家の魅力を味わい尽くすことができるという、ありそうでなかった本気のオール・チャイコフスキー・プログラムだ。オペラのほうは、代表作の《スペードの女王》のフル演出上演と、上演機会の少ない秘曲《マゼッパ》をコンサート形式上演の2演目。そして管弦楽コンサートのほうでも、交響曲第4~6番やピアノ協奏曲第1番、ヴァイオリン協奏曲などおなじみの名曲はもちろん、なかなか実演を聴くことができない前期交響曲の第1~3番や、ピアノ協奏曲第2番、第3番も含め、まさにチャイコフスキーの全貌を見せてくれるうれしい企画。この記事の配信時点で、すでに《スペードの女王》は終了したが、その舞台リハーサル直前のつかの間、演出を手がけたアレクセイ・ステパニュクに話を聞いた。「《スペードの女王》と《マゼッパ》は、どちらもロシアの最も優れた詩人であるプーシキンの原作によるオペラです。ただし《スペードの女王》では、原作とオペラでは多くの点が異なります(オペラ台本の執筆はチャイコフスキーの弟モデストによる)。それをプーシキンの原作に近づける演出も少なくないのですが、私の演出は、マエストロ・ゲルギエフの音楽と補い合うようにして、チャイコフスキーの構想に合致した作品になっていると思います。私が音楽の作り方に関して感じるのは、あくまでも主観でしかありませんが、まだレニングラード音楽院の学生だった頃に観たユーリ・テミルカーノフ指揮の《スペードの女王》は、非常に強い印象を残すものでした。彼はすべての間や余白を拡大していました。ゲルギエフの指揮は、それよりさらに、オーケストラの重さや暗さを強調しています。これがサンクト・ペテルブルグのスタイルだと思います。荘厳な間や、宇宙的な規模にまで達するかと思うようなクレッシェンド、そしてまったくの静寂。ゲルギエフはそれを鋭く感じ取っています」そんな壮大なスケールのゲルギエフの音楽が、チャイコフスキー作品のさまざまな側面を振幅大きく描き出す。《マゼッパ》では、劇場アカデミー出身の若い歌手たちも中心を担って劇場としての底力を見せつけるし、コンサートでは協奏曲のソリストに、五嶋龍(ヴァイオリン)、辻井伸行(ピアノ)という、頼もしい日本、そしてロシアの俊英が顔を揃える。ロシアを代表する劇場の誇りが薫るチャイコフスキー・フェスティヴァル。後半戦も大いに盛り上がるはずだ。取材・文:宮本明
2019年12月02日各地の複数の劇場やホールがオペラを共同で新演出上演する「全国共同制作オペラ」(文化庁助成)。2020年2月には白河文化交流館コミネス(福島県白河市・9日)、金沢歌劇座(石川県金沢市・16日)、東京芸術劇場(東京都・22日)の3館がヴェルディ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》を上演する。演出家・出演者らが都内で会見を開いた(11月18日)。【チケット情報はこちら】このプロジェクトの特色のひとつが、演出に、演劇やダンス、映画など、ふだん他ジャンルを中心に活躍する才能を積極的に起用してオペラに新たな可能性を模索していること。これまでにも森山開次や河瀬直美、野田秀樹、笈田ヨシら、世代やジャンルにこだわらず、さまざまな大物たちに演出を委ねてきた。今回の演出を手がけるのは、ダンス・カンパニー「ニブロール」を主宰する振付家・演出家の矢内原美邦(やないはら・みくに)。オペラ初演出だ。会見冒頭、「わくわくドキドキしている。でも私がやるからには、普通のオペラでなく、未来につながるような新しいオペラを」と、いきなりオペラ界に宣戦布告。とはいえ、もちろん対決姿勢はゼロ。具体的な手法としては、「映像をふんだんに使う。そのスクリーンは美術セットでもあり、そのセット自体も固定せずにどんどん自由に動かす。予算の許す限り大掛かりに(笑)」その映像を作るのは、ニブロールでもずっと矢内原とコンビを組んでいる映像作家の高橋啓祐だ。ダンサーや役者ら助演(歌わない役)にも大きく重点が置かれ、そこに歌手や合唱団も加わるという。「突っ立って歌わせるつもりはない」と語るが、この日が初顔合わせだった歌手一同からは、「われわれも踊るのか?」という質問が次々に飛んで来るので、それには「答えない」という作戦に出たと会場を笑わせた。でも、「たぶんみなさんがちょっとびっくりするようなことがあると思います」朝から晩までずっと稽古しているような小劇場の世界で育った矢内原にとっては、最初の打ち合わせで聞いたオペラの稽古時間の少なさは衝撃的だったそう。「でも今日会って、ひとりひとりにとても興味を持った。全員がいい舞台を作りたいと思っているのはまちがいない。そういう舞台にしたい」と抱負を語った。主役のヴィオレッタには、円熟期を迎えた名ソプラノのエヴァ・メイ(この日の会見は欠席)。華やかな高音の技巧から内面的な重い表現まで、要求される声の演技が幕ごとに異なるこの役には、彼女のように経験を積んだコロラトゥーラ・ソプラノは適役だ。恋人アルフレードに宮里直樹、その父ジェルモンに三浦克次。ベルリン・フィルのヴィオラ奏者出身という異色の経歴の指揮者ヘンリク・シェーファーがタクトをとる。すでにさまざまなアプローチが尽くされてきた名作オペラに、気鋭の演出家がどんな光を新たなに当てるのか。2月まで首を長くして待とう。チケットは各地の公演ともすでに発売中。取材・文:宮本明
2019年11月27日東京二期会のオペレッタ《天国と地獄》(オッフェンバック)が11月21日(木)に幕を開ける。本番を翌週に控えた稽古場では、ピアノ伴奏による通し稽古が行なわれていた(11月12日・東京都内のリハーサル・スタジオで)。【チケット情報はこちら】これ、めちゃくちゃ面白い。誤解を恐れずにいうなら、同じオペレッタでも、《こうもり》や《メリー・ウィドウ》のような、こじゃれた喜劇ではない。体を張った全力勝負の吉本新喜劇の世界。出演者全員が迷いなく振り切った演技と歌で笑わせにかかるからたまらない。これをしかめっ面で見ることができるのはよほどの精神力の持ち主にちがいない。その証拠に、すでに細部までネタを知っているはずの制作スタッフや出番を待つ歌手たちを含めて、稽古場にいる全員が、つねに笑顔がデフォルトになっていた。日本語上演が効いていて、笑いの反応速度がちがう。そのうえ歌唱部分には日本語字幕も出るから、予習なしで聴いてもまったく問題なく理解できる。(でもじつは日本語の歌詞もとても聴きやすい。)セリフ部分には、ラグビーW杯の日本チームの活躍で流行語になった「ワン・チーム」など、直前まで台本に改訂を加えているからこその時事ネタも組み込まれている。かなり楽しい。公演はWキャストで、この日は初日・3日目のキャストによる通し稽古。ヒロインのユリディスに愛もも胡。神々を虜にする色気と高音の鮮やかな超絶技巧は魅力たっぷり。持ち前の甘いテノールに、今回ばかりは相当な暑苦しさも全開の又吉秀樹のオルフェ。あらわな下心のもと、輝かしいバリトンの美声が最高神としての威厳を示す大川博。そして超高いテンションの上原正敏のプルートが、このプロダクションの喜劇の性格を象徴していた。芸達者たちが多士済々。1858年にパリで初演された『天国と地獄』(地獄のオルフェ)は、グルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』(1762年)のパロディ。原作はギリシャ神話で、17世紀初めのオペラ誕生期から、何十人もの作曲家がオペラ化してきた人気の題材だ。オッフェンバックはこれを徹底的に茶化して喜劇に作り変え、命がけの美しい夫婦愛は、倦怠期の夫婦の化かしあいにすり替わった。地獄の王プルートと浮気して、全能の神ジュピターの誘惑にもなびく多情な妻ユリディス(エウリディーチェのフランス語よみ)。彼女を救いに行くオルフェも、世論に負けてしぶしぶ地獄へやってきただけなので、「いとしさのあまり彼女を振り向いて地獄へ逆戻り」という有名な結末も、彼にとっては願ったり叶ったりの大喜びでめでたしめでたしという具合。でも、実際の世の中は案外こんなものかもと思わせる風刺に満ちている。東京二期会の《天国と地獄》は11月21日(木)から24日(日)まで東京・日比谷の日生劇場で全4公演。指揮:大植英次。演出:鵜山仁。オーケストラは東京フィルハーモニー。理屈抜きにオペラを楽しむ絶好の機会。取材・文:宮本明
2019年11月20日「ドン・パスクワーレ」舞台写真よりじつに楽しく、面白く、そして素晴らしい、出色の出来栄えの上演だ!【チケット情報はこちら】新国立劇場の《ドン・パスクワーレ》が11月9日に初日を迎えた。ドニゼッティ晩年のオペラ・ブッファ(喜劇オペラ)。人気や知名度でこそ、《愛の妙薬》や《ルチア》に一歩譲るかもしれないが、魅力的な旋律が、これでもかとばかりに惜しげもなく次々に繰り出される、完成度高い音楽。ドニゼッティの作品のなかでも破格の傑作なのだ。「悪人」はひとりも出てこない。大金持ちだが家族のない老人ドン・パスクワーレは、主治医のマラテスタが連れてくる花嫁候補を待ちかねている。甥のエルネストに、高貴で裕福な女性と結婚するのなら財産を譲ると申し出ていたのだが、ノリーナという若い未亡人の恋人がいるエルネストが拒んだため腹を立て、自分で結婚して跡継ぎを作ることにしたのだ。ところがマラテスタが自分の妹と称して連れてきたのが、そのノリーナ。若いふたりの恋を成就させるためのマラテスタの計略だ。貞淑な女性を装うノリーナにたちまち夢中になったパスクワーレは結婚を即決。しかしその途端、ノリーナは贅沢三昧の浪費を始めるわ暴力をふるうわ、挙句は浮気するわの悪妻に豹変。これはたまらぬと、彼女を追い出すため、パスクワーレがふたりの結婚を認め、正体を明かしたノリーナも許して、めでたしめでたし。悪女となったノリーナに振り回されるパスクワーレは、気の毒なのだけれど抱腹絶倒の喜劇の見せどころ。歌手たちはいずれも水準が高い。そしてそれだけでなく、キャスティングの巧みさに唸らせられる。パスクワーレ役のロベルト・スカンディウッツィのノーブルで深いバスは、ちょっと頑固だけれど悪意はない金持ち老人の孤独な悲哀を巧みに表現する。まじめな人がまじめに騙されるからこそ喜劇。コケティッシュな魅力を振りまきながら、高音の超絶技巧をこともなげに繰り出す新星ハスミック・トロシャンのノリーナには誰もが夢中になるはず。そしてエルネスト役のマキシム・ミロノフの甘いベルカント・テノール、マラテスタ役のビアジオ・ピッツーティの輝かしい声と切れ味ある演技。主要人物たちのキャラクターが声質でも明確に描き分けられているから、各アリアはもちろん、重唱の魅力や面白さが際立って聴こえてくる。ステファノ・ヴィツィオーリの演出は、1994年にスカラ座で初演された定評あるプロダクション。機械仕掛けの舞台転換を目の前で見せる趣向で、ノリーナの登場シーンで、彼女が座るソファが音もなく迫り出てくる仕掛けはイリュージョン。細部まで念が入っている。第3幕で、戸外から(つまり舞台裏から)聴こえてくるエルネストのセレナータのギター伴奏のひとりは、なんと人気ギタリストの村治奏一。ほんの5分ほどの、しかも舞台裏での出番に、なんて贅沢な起用!いいなあ。新国立劇場の《ドン・パスクワーレ》は11月17日(日)まで。絶対におすすめ。取材・文:宮本明
2019年11月11日イタリアを代表するオペラ作曲家ドニゼッティ(1797-1848)が最晩年に手掛けたオペラは、なんと抱腹絶倒の結婚大作戦!物語は、大金持ちの老人ドン・パスクワーレが、甥エルネストの恋人ノリーナと医師のマラテスタに一泡吹かされるドタバタ喜劇だ。しかし笑いの中に散りばめられたアリア「あの騎士の眼差しは」や「遥かなる土地を求めて」などの美しさは破格。まさにドニゼッティならではの名旋律が楽しめる素敵な作品の登場だ。オペラ好き、特に“美しい歌”を意味するベルカント・オペラに興味がある方にとってはたまらないひとときとなるに違いない。意外なことに、新国立劇場初登場となる本作品の演出は、イタリアをはじめ多くのオペラハウスで上演され続けてきたステファノ・ヴァツィオーリによる決定版と言える名舞台。指揮には、ベルカント・オペラでの高評価を得ているコッラード・ロヴァーリスを迎え、ハスミック・トロシャン(ソプラノ)や、ロベルト・スカンディヴィッツィ(バス)ほかの素晴らしいキャストによるステージに注目したい。Photo: Fabio Parenzan●物語【第1幕】裕福な独身老人ドン・パスクワーレは主治医マラテスタに花嫁探しを依頼した。実はパスクワーレの甥エルネストの親友でもあるマラテスタは、妹を薦める。エルネストの恋人ノリーナを自分の妹と偽わってパスクワーレと結婚させ辟易させて、逆にエルネストとの結婚を認めさせようという魂胆だ。エルネストが伯父の勧める結婚話を断ると、パスクワーレは自分が結婚して子を設けると宣言。エルネストは財産を相続してノリーナを迎える夢が破れ嘆く。ノリーナが小説の中の騎士に寄せ恋心を歌っていると、エルネストからローマを去るという手紙が届き驚く。マラテスタが来て計略を説明し、ノリーナをパスクワーレ好みのうぶな娘に仕立て上げる。【第2幕】パスクワーレのもとへ、マラテスタがヴェールで顔を覆った女性を連れて登場、修道院出の妹ソフローニャと紹介する。パスクワーレはすっかり気に入り、結婚式を執り行う。ノリーナが結婚の署名をする瞬間エルネストが入って来るが、マラテスタが素早く言いくるめノリーナ、そしてエルネストも証人として署名する。式が終わった途端ノリーナの態度が豹変し、あれこれと注文を始め、大騒ぎとなる。【第3幕】パスクワーレ家はノリーナが買い物をした請求書の山。ノリーナが着飾って劇場へ行くと言い出し、止めようとする夫を平手打ちする。ノリーナはわざと逢引の手紙を落としていき、パスクワーレは大憤慨する。夜、庭でセレナーデを歌うエルネストの前にノリーナが登場。パスクワーレとマラテスタがノリーナを捕らえる。逆上したパスクワーレが離縁を命じ、エルネストの結婚を許すと告げると、マラテスタがノリーナはここにいると言う。驚くパスクワーレにマラテスタは自分の計略を明かし、パスクワーレも許して若い二人を祝福する。Photo: Fabio Parenzan●公演概要11月9日(土)、11日(月)、13日(水)、16日(土)、17日(日)新国立劇場指揮:コッラード・ロヴァーリス合唱:新国立劇場合唱団管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団ドン・パスクワーレ:ロベルト・スカンディウッツィマラテスタ:ビアジオ・ピッツーティエルネスト:マキシム・ミロノフノリーナ:ハスミック・トロシャン公証人:千葉裕一ロベルト・スカンディウッツィ452527e8-e4bb-48d0-b430-590001d2e317ハスミック・トロシャン
2019年11月05日オペラ(OPERA)の人気リップ「リップティント N」と「シアーリップカラー RN」のバレンタイン限定カラーが、2020年1月23日(木)より発売される。“苺ピンク”の「リップティント N」色持ち長持ちな「リップティント N」の“苺ピンク”106 ピンクフレイズが復刻。フレッシュなストロベリーを想起させるベリーニュアンスのピンクは、大人っぽいのにピュアな可愛さを秘めた、女子が大好きなカラー。106 ピンクフレイズにチェンジするだけで、いつものメイクも乙女な表情が楽しめる。もちろん「リップティント N」なのでリップクリームのようなストレスフリーなつけ心地。ひと塗りでスルスルと広がって美しく発色。透けるような質感でやわらかな発色を楽しむことができる。ティントタイプなので、唇そのものが内側から色付いたような自然な血色感がつづく。チョコレートブラウンの「シアーリップカラー RN」一方、きちんと発色するのに素の唇を透かしたようなクリアなカラーが楽しめる「シアーリップカラー RN」には、チョコレートブラウン104 カカオキスが仲間入り。深みのあるカカオ色にほのかな赤を忍ばせて、ロマンティックなブラウンを完成させた。唇に塗布すると薄く均一に広がって、唇を優しく包み込む。グロスをスティック状に固めた独自処方で作られているので、直塗りするだけで唇にたっぷりの潤いをプラス。乾燥しがちな冬の唇でもスルスルっと広がって、ムラにならずにキレイに発色してくれる。【詳細】オペラ バレンタイン限定リップ・リップティント N 限定1色 1,500円+税・シアーリップカラー RN 限定1色 1,200円+税発売日:2020年1月23日(木)【問い合わせ先】イミュ株式会社TEL:0120-371367(フリーダイヤル)
2019年11月04日恒例の秋のリサイタル「夜会」を、今年も開催する熊本マリ(10月8日・東京文化会館小ホール)。今回は「ちょっと早いバースデーパーティ」というテーマが掲げられた。じつはこの「夜会」、毎年彼女の誕生日(10月15日)前後に行なわれるので、つねにバースデーパーティではあるのだけれど、今回あえてそう銘打った理由は、ふたりのゲストの存在。カウンターテナーの米良美一と、ギターの荘村清志という、やや異色の顔合わせでバースデーを祝う。【チケット情報はこちら】「このふたりと同時に共演できるなんて、今までにないぐらい、弾くのが自分自身でも楽しみなコンサートです」。ともに長い付き合いの音楽仲間だが、じつは米良との共演は今度が初めてなのだそう。「レコード会社の担当ディレクターが同じだったのでデビュー前から知っていて、ずっと仲がよかったんですけど、なかなか一緒に演奏する機会はなくて」つまりこの初共演が、特別なバースデー・プレゼントだ。もちろんおなじみの《もののけ姫》も聴かせてくれるが、音楽通にはモンポウの歌曲《君の上には、ただ花ばかり》も大きな注目ポイントだろう。熊本マリといえば、日本にモンポウを紹介した伝道師的存在でもある。「以前、モンポウの歌曲を彼と録音しないかという話があったのですが、結局実現しなかったんです。今回は1曲ですが、彼の声でそれを披露できるのがなによりもうれしいです。彼の繊細でやさしい声はモンポウにぴったりなんです」一方、荘村清志とはもう20年以上の共演歴がある。「何度も伴奏していますから、荘村さんの息づかいがわかります。一緒に弾いていて安心できますね。東京文化会館の小ホールは、ギターにもとても適した広さだと思います。ホールが大きすぎると、ギターの生の音の良さをちゃんと受け取ることができませんから。米良さんのモンポウも、サロンのような、小ホールの親密な空間で歌ってほしい。ふたりの音色をじっくり味わうには絶好のシチュエーションだと思います。おふたりにも、ぜひ自由に楽しくやっていただきたいです」プログラム全体は、叙情的なしっとりとした音楽を軸に、最後はお得意のスペインものも交えて賑やかに盛り上がる。リラックスした気分で楽しめる、まさに夜会、まさにパーティ。でも、慣れ親しんだ有名小品の数々のなかに、たとえばドビュッシーの《バラード》など、比較的聴く機会の少ない佳曲もさりげなく滑り込ませる。「美しい曲を楽しく聴いていただくなかにも、本物を味わってもらいたい。いつもそう意識して選曲しています」その絶妙なバランス感覚が、クラシック初心者からベテランまで、すべての聴き手の気持ちをつかむ熊本マリ流だ。もちろん二次会(=アンコール)にもじっくりと趣向を凝らしている模様。例年どおり、ヒロココシノのあでやかなドレスもパーティを花を添える。秋の夜長の華やいだ夜会。ピアニストのおもてなしに、あたたかい拍手で応えたい。取材・文:宮本明
2019年09月27日1979年の初来日以来、これが6度目となる英国ロイヤル・オペラの日本公演がまもなく始まる。今回の演目は、2004年に新制作されたグノー《ファウスト》(デイヴィッド・マクヴィカー演出)と、2017年新制作のヴェルディ《オテロ》(キース・ウォーナー演出)。奇しくもゲーテとシェイクスピア、二人の文豪の作品を原作とするオペラでもある。9月6日に都内で開かれた開幕会見に、音楽監督・指揮者のアントニオ・パッパーノと主要キャストが出席した。「英国ロイヤル・オペラ日本公演」のチケット情報「日本公演はロイヤル・オペラ唯一の海外公演。素晴らしい場所で、素晴らしい2作品を観ていただけるのは幸せです」と、パッパーノ。「歌手が充実していないと実現できない演目」として、それぞれの作品に出演する歌手たちへの期待と信頼を語った。2002年からロイヤル・オペラの音楽監督を務めるパッパーノ。すでに昨年、契約を2023年まで延長することが発表されている。その長いパートナーシップの秘訣を「オペラを愛し、歌を愛し、言葉を愛し、劇場を愛すること」と語る。「歌い手を心から愛し、理解して、真摯に音楽作りをすれば、聴衆も信頼してついてきてくれます」今回、その「愛」で結ばれた歌手陣には実力派が揃った。本格的なオペラ出演としてはこれが日本デビューとなるヴィットリオ・グリゴーロは、ファウスト役を十八番とするスター・テノール。「パッパーノは、信頼してすべてをまかせることのできる指揮者。人々に喜びを与えるという喜びを私たちに教えてくれる。私たちは彼のマジックの駒のひとつでもまったく構わないのです。指揮者はF1でいえばタイヤのようなもの。どんなに優れたドライバーが良いエンジンを操っても、性能の高いタイヤがなければマシンは正しい方向に進みません」と、大好きだというF1になぞらえてパッパーノへの信頼を熱弁した。この絶妙なたとえに思わず「そのとおり!」と膝を叩いたグレゴリー・クンデは、今年だけでも5つの劇場でオテロを歌う予定があるという、現在最高のオテロ歌いだ。今回のキース・ウォーナーのプロダクションにも、2017年の初演時に出演している。「テノールにとってオテロは夢のような役。テノールの目指す頂点にある役のひとつだと思っています」と語る。会見には他に、《ファウスト》のメフィストフェレス役のイルデブランド・ダルカンジェロ、《オテロ》のヤーゴ役のジェラルド・フィンリーの2人の「悪役」、そして《オテロ》のデズデモナ役のフラチュヒ・バセンツも出席。パッパーノが「私自身が家長のようなものなので、自ら模範を示さなければなりません」と語ったのに呼応するように、みな口々に「家族同然」「素晴らしい仲間」と、チームとしての結束の強さをうかがわせた。世界トップレベルの実力に信頼という「鬼に金棒」。今回もまた充実の舞台を繰り広げてくれるはずだ。文:宮本明
2019年09月10日「オペラ」のリップに秋の限定色登場2019年9月12日(木)、イミュ株式会社が展開するコスメブランド「オペラ」は、人気シリーズ「リップティント N」および「シアーリップカラー RN」より、秋の限定色(各2色)を発売する。遊び心のある秋カラーを楽しもう限定色のテーマは”Romantic Edgy(ロマンティックエッジー)”。心地よい秋の空気感をイメージした計4色だ。秋の新カラーを楽しめるよう、ほんのりエッジを効かせた遊び心も面白い。キーワードは深みと透明感軽やかで透明感あふれる仕上がりが特徴的な、スティック状のグロス「シアーリップカラー RN」(税抜1,200円)からは、秋の夕暮れのグラデーションをイメージした2色が登場。琥珀を思わせるテラコッタカラーの「101 レッドアンバー」と、透き通るブルーに夕焼けのグラデーションのように、ブルーにピンクを重ねたニュアンスカラー「102 クリアカシス」だ。また厚塗り感なく、自然に血色感をプラスする「オペラ リップティント N」(税抜1,500円)からは、透明感と深みを両立させたレンガ色の「103 ガーネットジェム」と、ほんのりピンクをまとうクリアパープル「104 クリアアメシスト」が登場する。(画像は「オペラ」公式サイトより)【参考】※「オペラ」公式サイト
2019年09月07日秋のクラシックシーズン突入早々の9月に、英国の誇る名門「ロイヤル・オペラ」が来日公演を行う。「ウィーン国立歌劇場」「ミラノ・スカラ座」「パリ・オペラ座」「ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場」と並んで、“世界5大歌劇場”のひとつに数えられる「英国ロイヤル・オペラ」の華やかさはまさにファン垂涎。イタリアの名匠アントニオ・パッパーノが、2002年の音楽監督就任以来、17年の歳月をかけて手塩にかけて築き上げてきた完成度の高さは特筆モノだ。今回の日本公演のために用意された演目は、グノーの『ファウスト』と、ヴェルディの『オテロ』の2本立て。望みうる最高のキャストを揃えたこの2作品のどちらを観るかはお好み次第。どちらを選んでも外れのないところが伝統の力と言えそうだ。近年の充実ぶりから“今最も勢いのあるオペラハウス”と言われる「英国ロイヤル・オペラ」公演で、非日常な時間と空間を満喫したい。『ファウスト』(C) ROH 2019. Photograph by Tristram Kenton◆公演概要・英国ロイヤル・オペラ『ファウスト』全5幕9月12日、15日、18日東京文化会館大ホール9月22日神奈川県民ホール大ホール指揮:アントニオ・パッパーノ演出:デイヴィッド・マクヴィカー・英国ロイヤル・オペラ『オテロ』全4幕9月14日、16日神奈川県民ホール大ホール9月21日、23日東京文化会館大ホール指揮:アントニオ・パッパーノ演出:キース・ウォーナー
2019年09月06日