『「不思議な会社」に不思議なんてない』(荒木恭司著、あさ出版)の著者は、島根県松江市に本社を構える島根電工株式会社の代表取締役社長。営業エリアである山陰は、は所得・人口ともに最下位。しかも業種は、不況型産業の建設業。にもかかわらず同社は躍進を続けており、業界活性化を目的としてフランチャイズを全国展開しているのだそうです。根底にあるのは、徹底した社員教育。その結果、ひたすら「お客さまのために」と自発的に考えて行動(考動)する社員と、彼らの姿勢に共感するお客さまとの間でコミュニケーションが好循環しているのだといいます。つまり本書は、パナソニック、東芝などナショナルカンパニーからも注目されている同社の姿勢を明らかにしたもの。■コンセント1個から小口の工事を受注島根電工グループは2001年から、一般向けに「住まいのおたすけ隊」という取り組みを展開しているそうです。コンセント1個から、小口の工事を引き受けるというサービス。2006年からは島根県と鳥取県の一部限定でテレビCMを流しはじめ、その認知度が高まったことから、受注は年々うなぎのぼりなのだとか。注目すべきは、驚くべきその実績です。■7割が5万円以下なのに年間70億円小口工事件数の7割が5万円以下の受注であるにもかかわらず、現在では小口工事と、お客さまにとってプラスになる「ご提案工事」だけで年間70億円を超え、グループ全体の総売上155億円の45%を占めるまでになっているというのです。多くは個人宅の工事であるわけですから、一般家庭からのニーズがいかに多いかがわかるはず。つまり同社は、なかなか注目されにくいそのニーズをキャッチしたからこそ成功できたのでしょう。一般家庭から請け負う工事であれば、中間業者が入らないため、確実に利益が上がることになります。しかも、最初はコンセント1個の小口工事で訪問したとしても、結果的に「ついでにこれもお願いしよう」「今度リフォームするときはお宅に頼むわね」「よくしていただいたから、お客さんを紹介するわ」というように、派生的に仕事が増えていくメリットもあるといいます。■スタッフは常に最高の顧客満足を追求ただし、そうなるためには、お客様から「次も頼もう」と思ってもらえるサービスを提供しなければなりません。そこで「住まいのおたすけ隊」のスタッフは、常に最高の顧客満足を追求しているのだとか。「お客さまのために、お客さまが幸せになってもらうために、お客さまが本当に欲しがるものを、お客さまが気づく前に提案する。そこに感動が生まれる」そう考えることが、「おたすけ隊」のアイデンティティなのだといいます。■高品質なサービスでリピート率90%「おたすけ隊」はリピート率90%を誇っているのだそうです。一度依頼をしたお客さまは、90%の確率でまた仕事を依頼するということなのですから、これは驚くべき数値だといえます。なぜ、そんなに高いリピート率が維持できるのかといえば、前述したとおり、お客さまの期待を超えるサービスを提供しているから。お客さまが困っていたら、すぐさま飛んでいって対応。ときにはお題を受け取らないこともあるといいますが、そうした親身の対応に感動してもらえることがリピートにつながっているわけです。■些細なマナーでお客様の信用が変わるそして、高いリピート率を支えるもうひとつの要因が、社員に対するマナー研修の徹底。お客さまと直接接するのは現場の社員だからこそ、その印象で島根電工に対するイメージも大きく変わることになります。そして一般家庭向けの仕事では、そうしたことがとても大切だというのです。それは、靴の脱ぎ方と揃え方だったり、座布団を出されたときの座り方だったり、さまざま。しかし、そんな些細なことでも、お客さまの信用はまったく違ってしまうというのです。■社員みんな相手の目を見て明るく挨拶同じく、あいさつの仕方も重要。具体的にいうと、島根電工グループでは「まいどー、こんちは!」ではなく、相手の目を見て、「こんにちは」「おはようございます」といってから頭を下げるように教育しているのだそうです。そうすればお客さまは、「若いのになかなかしっかりしている」「真面目そうだ」「これなら工事をしっかりやってくれそうだ」などと感じるわけです。照明器具をちゃんとつけたり、コンセントをまっすぐに取りつけたりすることは、どの工事業者でもできること。でも、さわやかに挨拶できる、お行儀のいい若者が来たら、そちらに頼みたくなるのは当然だということです。*こうしたエピソードからは、驚異的な実績を裏づけているものは「人の力」だということがわかるはず。山陰が叩き出した小さな会社の大きな数字には、企業経営についての大きなヒントが隠されているといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※荒木恭司(2016)『「不思議な会社」に不思議なんてない』あさ出版
2016年09月22日『新版小さな会社★儲けのルール』(竹田陽一・栢野克己著、フォレスト出版)は、2002年以来のロングセラーを30ページ以上増補し、内容当時の成功事例を最新版にしたリニューアル版。おもに中小企業を対象としたものではありますが、将来的に独立起業する人などにも適しており、活用範囲の広い内容だといえます。基盤となっているのは、「ランチェスター法則」。「戦略」と「戦術」の違いを知ったうえで商品・客層・エリアを絞り、小さい部分で1位をつくり、シェアを徐々に拡大していくという考え方です。それは、中小・零細企業が生き残るために重要なメソッドだといいます。別な表現を用いるならばそれは、「大企業に競合しない戦略・戦術を打ち立てることで、顧客に忘れられないような戦術を行っていくという『勝つための法則』だということにもなります。事実、現在までに5,000社以上が実践しており、そのなかには創業期のソフトバンクやセブンイレブン、旅行業者のH.I.Sなども含まれるのだそうです。そんな本書のなかから、スタート時点で知っておきたい基本的な考え方を確認してみましょう。■日本にいる大人の14人に1人は社長大企業に就職し、部長や支店長、取締役などになるのは、たしかに楽なことではありません。実力に加え、派閥や上司に対する処世術なども必要になるため、長く辛抱する必要があるからです。しかし現実的に、「社長」になるのは簡単なこと。その証拠に日本には法人企業が200万社近くあり、個人事業主も同程度いるそうです。つまり企業と個人商店を合わせると、約400万人の社長が存在するのです。日本の労働人口は約5,400万人なので、大人の14人に1人は社長だということになります。■独立後10年続くのはたった2割だけしかし問題は、「続ける」ことの難しさ。2011年の「中小企業白書」によると、独立して1年で約4割が廃業し、10年間同じ会社を経営している人は2割弱しかいないのだとか。つまり、独立した人の大半は失敗しているということです。また別のデータによれば、3年以内に取扱商品や業種が8割以上変わっているのだそうです。コピー機の販売をしていた会社の扱い商品が、2年後には健康食品に変わっていたりすることは、決して珍しくないわけです。いってみればそれほど、独立・開業は思うようにいかないということ。■倒産は「富の再循環」システムである著者は東京商工リサーチという企業調査会社に16年間勤め、約3,500社を実際に取材、調査してきた実績を持っているといいます。また、それとは別に約1,600社の「倒産した企業」も取材してきたのだとか。倒産取材を1,600件も行うことは精神的にもつらいでしょうが、その過程において、ある意味では倒産・廃業も当たり前なのだと気づいたのだそうです。人と同じように、法人もいつかは死ぬということ。もちろんそれは、当事者にとっては大事件。しかし、会社の倒産後に従業員型の企業へ転職し、お客様も他の会社へ流れていくと考えると、それは単なる「富の再循環」であるというのです。■成功も失敗もその理由の90%は同じまた著者はおよそ1000社から個別の経営相談を受けているそうですが、そのなかでわかったことがあるといいます。成功も失敗も、その理由の約90%は共通しているということ。いまも昔も、経営の3分の2は江戸時代から変わらないルールに基づいたもの。3分の1は時代とともに変わるものの、根本の経営原則あるいは経営戦略は変わらないというのです。だから、「この基本さえ知っていれば倒産することもなかったのに」「この原則さえ守れば、もっと成功したのに」と、失敗事例を目の当たりにするにつけ、著者自身も悔しさを感じるのだそうです。しかし、だとすれば、その原則を先に学んでおくことによって、不必要な倒産を避けることは可能だということにもなるはず。そこで本書では、そのメソッドを開設しているのです。■情報の9割はビジネスに適用できない大学生は3年生くらいから就職活動をはじめますが、こんな時代であっても、依然として変わらないのが「大企業志向」。優秀な大学になればなるほど、いまだに「どれだけ大企業・上場会社に就職したか」が競われるわけです。そもそも、多くの人の価値観に影響を与えるマスコミ自体が大企業。その情報やCMを集める記者や営業マンも、大企業志向で入社した人たち。そして大企業のCMが集まらないと、マスコミ自体が成り立たないような仕組みができあがってしまっている。そのため大企業のマスコミからは、中小企業にとって本当に価値のある情報は流れてこないわけです。いってみれば世の中で紹介されている情報の9割は大企業のためのもの。大企業経営者でない人は、それを自身のビジネスに活用しようとしてもムダ。そこで、自分に役立つ情報は、自分で集めなくてはならないということです。当たり前のことじゃないかと思われるかもしれませんが、実のところこれはとても大切なポイントではないでしょうか?*このような、「大切なのに、なかなか気づきにくいこと」を再確認したうえで、本書では「小さな会社の成功法」が緻密に解説されていきます。成功事例も豊富に収録されているため、その要点を無理なく理解できるでしょう。中小企業経営者や起業を目指す人、ひいては未来を見据えて経営を真剣に考えている人、あるいは「社会で会社が成り立っていく仕組み」を理解したい人にとっても、必読の書といえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※竹田陽一・栢野克己(2016)『新版小さな会社★儲けのルール』フォレスト出版
2016年09月22日『世界ナンバーワンの日本の小さな会社』(山本聖著、クロスメディア・パブリッシング)は、日本が誇る世界ナンバーワン企業の「ニッチ・トップ戦略」を徹底的に取材し、そこから「小さな会社がすべきこと」を探った書籍。世界的に注目されているジャパニーズ・ウィスキー『イチローズモルト』を生んだ埼玉県秩父市のベンチャーウイスキーや、宮内庁御用達・日本唯一の馬具メーカー・ソメスサドルなど、小さいながらも大きく成長した企業の成功例が紹介されています。しかし気になるのは、小さな会社になぜ世界ナンバーワンを目指せるのかということ。著者によれば、地元に愛され、独り立ちするブランドづくりに必要な10か条があるのだそうです。■1:ニッチ・トップ戦略ニッチ・トップ戦略とは、「比較的規模の小さい市場において圧倒的なシェアを誇る企業」のこと。ただし、どれだけニッチな市場であれ、大企業や海外企業の参入は世の常。そこで、「圧倒的なシェアは永遠に続かない」「或る日突然競合が参入してくることはあり得る」ということを前提に、ニッチ・トップ戦略に肉づけをしていくことが重要だといいます。そこで、中小企業事業者の強みを加えて3つの定義づけをしたうえで、このニッチ・トップ戦略を推奨しているのだとか。(1)【一般的定義】比較的小さい市場において圧倒的なシェアを誇る事業の創造(2)【新定義】事業者と消費者がお互いに顔の見える「圧倒的な超特定顧客」の獲得(3)【新定義】事業者の都合で成り立つ「のれん商売できる屋号」の確立■2:アイデンティティー注目が集まっているクラウドファンディングがそうであるように、「まだ商品は影も形もない」状態であっても、思い描いている情熱や夢をしっかりとプレゼンテーションできれば、応援してくれる人が現れる可能性があるということ。■3:社会貢献法政大学大学院の坂本光司氏のベストセラー『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)の中には、企業の社会貢献についての次のような記述があるそうです。「会社の社会的貢献とは、お客様にとって、社員にとって、そして地域にとって存在価値のある、なくてはならない会社になることです。地域社会に住んでいる方々が幸せを感じられるような存在になる使命と責任が、会社にはあるのです」地域内で愛されない企業は、地域外から愛されることはないもの。実際に愛されるための努力をしている企業こそ、地域外からも応援されるようになり、結果的にそれが会社の成長につながるということです。■4:団体戦市場展開に際しての中小企業のネックのひとつは、商品の数で勝負ができないこと。そのため生産量やマンパワーの弱点を補える可能性がある戦術が必要になるわけで、それが「団体戦」だというわけです。具体的には、特定のテーマに合わせて複数の企業を集め、統一のブランド戦略(共通の屋号)のもと、商品開発と流通を行っていくことが大切だという考え方。■5:メイドインジャパン全国で注目されているのが、地域特性を活かしたブランディング手法。かつては首都圏のマーケットに商品を合わせて売り込む一方通行のスタイルが定石でしたが、いまは地域色を出したほうが支持される時代になったということ。そして、そうだとすれば当然のことながら、「メイドインジャパン」であることが大きな力になるわけです。■6:マーケティング経営者にとっての重要な能力は、“市場を読み解く肌感覚”。そのためにも日ごろから現場に出て市場を知り、本物を体験し、時代を感じることが欠かせないと著者は主張します。そしてカルチャー&クオリティの消費マインドへのシフトは、「上質かつ普遍的な商品」の領域での競争となるため、日本全国の地域ブランド、ファクトリーブランド、中小の製造業にとって勝機がある分野だといいます。■7:ターゲティング「この商品、誰が買うんだろう」と思ってしまうような、ターゲットがぼやけた商品は、バイヤーにも消費者にも注目されることはないもの。しかし、あえてターゲットを狭く定めると売り場や売り方のイメージが湧いてくるため、逆算して商品開発をするのが理想的なものづくり。端的にいえば、ターゲットは狭くてよいわけです。■8:品質とデザイン消費者は、常に新しいものを求めているもの。だからこそ注目されやすいのは、「日本唯一の馬具メーカーが手がけるバッグ」「戦後日本で初めて認可された小規模蒸留所でつくられる個性的な国産ウイスキー」など「意味」をもたせた新しい商品。「新しいデザイン」と「新しい商品」は、複眼的・多層的なものとして注目に値するそうです。■9:シーズンディレクション「できたときが売りどき」では、なんの計画性もなし。「売りたいとき」を定め、そこに生産計画や販売計画をあらかじめ細かく想定しておく「シーズンディレクション」が重要だといいます。■10:成長戦略自社ブランドを立ち上げたら、いきなり東京に直営店を構えるようなやり方はリスクが大きすぎるもの。むしろ自社ブランドを立ち上げようとしている中小企業の方に対して著者は、「まずは工場にショールームをつくってはどうですか?」とアドバイスしているそうです。商流を整備するときは、地に足をつけた成長戦略を描くことが望ましいということ。*具体的な成功事例が豊富に盛り込まれているため、大企業主導型の従来的な手法によってではなく、「自分たちにできる範囲で」成功を望んでいる小さな会社にとっては、とても役に立つ内容。企業人のみならず、「地方から発信していきたい」という意思を持つ個人に取っても、参考になる部分が多いと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山本聖(2016)『世界ナンバーワンの日本の小さな会社』クロスメディア・パブリッシング
2016年09月05日簿記の資格を取りたいと思っている人も多いことでしょうが、その一方に「簿記の勉強をはじめてみたものの、難しくて挫折してしまった」という人が少なからずいるのも事実ではないでしょうか?しかし結論からいえば、簿記の基本ルールは、100円のパンを買ったら、ノートの左側に「パン100円」と書いて、右側に「現金100円」と書く。ただこれだけだと断言するのは、『これだけは知っておきたい「簿記」の基本と常識』(椿勲著、フォレスト出版)の著者です。■手に入ったものは「左」と覚えようもし、ひとりひとりが好き勝手に右側に「パン」と書いたり、左側に「パン」と書いたりしたら、統一されていないだけにわかりにくくて当然。だから、「パンと書くときは、みんな同じように左側に書きましょう」と決めたのが簿記だということ。だから、手に入ったものは「左」、出ていったものは「右」と単純におぼえておけばいいそうです。そもそも「簿記」とは、「帳簿の記録」のこと。帳簿の「簿」に記録の「記」で簿記だというわけで、ルールに従って帳簿を記録すること。別な表現を用いるなら、「お金やモノの出入りを記録する方法」です。■個人的なお金の管理なら単式簿記で「お金やモノの出入りを記録する」といえば、身近なところですぐに思いつくのは、こづかい帳や家計簿ではないかと思います。しかも著者によれば、こづかい帳や家計簿も、簿記のルールでお金の出入りを記録しているのだそうです。このルールが、「単式簿記」と呼ばれるもの。単式とは、1万円借りたら、「現金が1万円増えた」という部分だけを記録する方法。個人でお金を管理する場合は、給料が入ってきて、そのお金で必要なモノを買ったり、貯金をしたりと作業は単純であるはず。そこで、単式簿記でも十分だというわけです。■会社でお金の管理するなら複式簿記しかし会社の場合、「商品を渡したけれど、お金はあとで払ってもらう」という場合もあるものです。また、取引先に小切手を渡すなど、複雑なやりとりも多くあります。当然、これらの記録は、単式簿記では間に合わないことになります。そこで必要になってくるのが「複式簿記」。複式簿記では、1万円を借りた場合、「現金が1万円増えた」という面と、「借金が1万円増えた」という両方の面を記録しておくわけです。そうすれば、お金の出入りをはっきりさせることができるから。いわば、お金の出入りを二面的に考えるのが複式簿記だということ。一般に簿記といえば、この複式簿記を指し、企業などで使われているのもすべて複式簿記だそうです。■500円のお弁当を買った場合は?ここで例題をひとつ。昼食に500円のお弁当を買ったとします。さて、これを二面的に考えるとどうなるでしょうか?答えは、「500円のお弁当を手に入れた」という面と、「現金が500円減った」という面の2つ。そして冒頭で触れたように、これをノートに書くときは、ページの左側に「500円のお弁当を手に入れた」、右側に「現金が500円減った」と記入するということ。このように左と右に分けて記入するのが、簿記の基本だということです。■ゲームソフトを人に売った場合は?もう一例。いらなくなったゲームソフトを友だちに5,000円で売った場合はどうなるでしょうか?ここには「現金が5,000円増えた」という側面と、「ゲームソフトがなくなった」という側面があるわけです。だからこのときにも、ノートの左側に「現金が5,000円増えた」と書いて、右側に「5,000円のゲームソフトがなくなった」と記入すればいいわけです。これが簿記の基本だというわけで、なるほど、身近な話題に当てはめて考えれば、とてもシンプルだということがわかります。■簿記を身に付けて得られるメリットでは、実際に簿記を身につけたとき、具体的になにができるようになるのでしょうか?ビジネスパーソンとしての最大のポイントは、会社の「経営状況」と「儲け」を知ることができることだといいます。たとえばA社の金庫には現金500万円が入っていて、B社の金庫には1000万円が入っている場合、どちらの経営状態がいいかといえば、単純に考えればB社です。しかし、もしB社には借金が800万円あり、A社は借金ゼロだったとしたら?この場合、答えは金庫を見てもわかりませんが、帳簿を見ればわかるわけです。B社の帳簿には、「借金(負債)800万円」ときちんと書いてあるから。つまり正確には、A社のほうが経営状態がいいということ。帳簿を全く知らない人はB社のほうが儲かっていると考えてしまうけれども、簿記を理解している人は、A社のほうが経営状態がよいことにすぐ気づけるのです。なるほど、そう考えると、簿記の重要性が分かる気がします。*簿記の入門書である本書のもうひとつの強みは、簿記に無関係な人にも理解できる点。いわば「資格を取る気はないけれど、簿記の基礎くらいは頭に入れておきたい」という方にも最適だというわけです。ここに書かれているような基礎知識をストックしておくことによって、将来的なビジネスチャンスを広げることもできるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※椿勲(2016)『これだけは知っておきたい「簿記」の基本と常識』フォレスト出版
2016年08月31日そのタイトルからもわかるように、『ひとり社長の経理の基本』(井ノ上陽一著、ダイヤモンド社)は「ひとり社長」が知っておくべき、経理の基本を解説した書籍。つまり基本的には経営者が対象になっているわけですが、すべてのビジネスパーソンにとっても有効な内容だと断言できます。なぜなら経理の基本を知っておくことは、どんな仕事をするうえでも欠かせないから。そこで今回は第1章「9割の社長が知らない『経理のホント』」のなかから、経理についての基本的な考え方を抜き出してみたいと思います。■経理とは「経営管理」の略称である経理は、「税務署や銀行のためにやるもの」だと考えてしまいがちかもしれません。しかし著者は、その考え方をきっぱりと否定しています。なぜなら、それは自分のため、自社のためのものだという考えを持っているから。経理とは「経営管理」の略称で、いわば経営の舵取りをするもの。決して“作業”などではなく、イメージとしては「経理=お金、会計、税金のバランスをとる仕事」なのだというのです。お金を貯めるには、支払う税金を減らす、つまり「節税」が不可欠です。また税金を減らすには、会計の仕組みを知っていることが必須。そして会計の仕組みがわかれば、お金の効果的な使い方がわかるというわけです。■経理がわからないと会社は潰れる!経理は毎日、毎月やるものですが、決算は通常の場合、年に1回行うものです。決算書をつくり、1年の業績を確定させ、税金を計算するわけです(各会社の決算月に応じ、時期は変わります)。そして税金を確定させたら、決算の日(事業年度終了の日)の翌日から原則として2か月以内に、税務署へ税金を支払うわけです。これが、「決算・申告」。なお、ここで重要なのは、決算・申告の土台となるのが経理だという事実。経理をないがしろにすると、決算の仕事が大変になり、作業に追われることになってしまうのです。また、経理の状況が適当だと税務署に目をつけられることになり、経理が間違っていたら「本来なら払わなくていい税金」を払ってしまうこともあるといいます。いわば、経理がいいかげんだと、決算・申告もボロボロになってしまうということ。■手間いらずの方法は3ステップ経理術しかし、そもそも経理とはなにをすることなのでしょうか?この問いに対して著者は、「ひとり社長の経理でやるべきことは、『1.集める、2.記録する、3.チェックする』だと主張しています。ITの発達によって簡略化が進んだとはいえ、いまだに「手書きの伝票を扱う」と言った古い考え方がはびこっているだけに、経理の仕事をまともにやったら大変。そこで、手間をかけない新しい経理の方法として、この「3ステップ経理術」が力になるというのです。[ステップ1]集める「集める」は、レシートや領収書、あるいは請求書などを集めるステップ。スタートラインであるわけですが、実はもっとも重要なステップでもあるのだそうです。なぜなら、この「集める」という作業をおろそかにしてしまうと、極端な話、「余計な税金を払う」「税務署から税務調査に入られる」といったことが起こる可能性があるから。そして、ここで決め手になるのが「証拠と理由(ストーリー)」。たとえば「本を書くための資料として、専門書を買った」とします。この場合、「本を買ったときのレシート」が証拠、「本を書くための資料として買った」が理由になるわけです。つまり、証拠と理由をしっかり集めておかなければ、「なにに、どれだけのお金を使ったか」「なにをやって、どれだけ儲けたか」がわからなくなってしまうもの。すると正しい経理ができず、決算・申告の際に税務署から「この会社は怪しい」と目をつけられてしまうというのです。だからこそ、最初のステップである「集める」が重要なのだということ。[ステップ2]記録する「記録する」は、集めたレシートや領収書、請求書などをデータとして記録するステップ。ちなみに、昔はこの作業を手書きで行っていましたが、現在はPCで簡単にできるそうです。[ステップ3]チェックする「チェックする」は、記録した数字(売上、経費など)に問題がないかを確認するステップ。「売上は順調か」「経費はどれくらいかかっているのか」「税金はどれくらいかかっているのか」といったことをチェックし、問題があれば修正していくわけです。この作業は、最低でも毎月1回はやることが大切。手間なく効率よく集計し、毎月の業績をできるだけ早く把握するためです(業種によっては、毎日把握すべきものもあるのだとか)。毎月のチェックを適当にやっていると、「1年が終わって計算してみたら、大きな赤字だった」「経費を使いすぎた」ということになりかねないというわけです。■1日5分の「習慣」を身につけるべし大まかにご説明すると、これが3ステップ経理術。なお、「集める」が重要だと書きましたが、それはいちばん大変なことでもあるそうです。ただし、きちんと資料を集めて整理していれば、経理はそれほど難しくはないと著者はいいます。ポイントは、「毎日やること」「毎月やること」「1年に1回やること」を頭に入れておくこと。そして書類をためてしまわないように、まずは「毎日やること」を続ける「1日5分の習慣」を身につけることが大切だといいます。*実際に携わっている仕事とは直接関係なかったとしても、経理の基礎を頭に入れておくことは決して無駄にはならないはず。本書を教科書として活用すれば、いつか必ず役に立つと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※井ノ上陽一(2016)『ひとり社長の経理の基本』ダイヤモンド社
2016年08月31日こんにちは。接客コンサルタントの樋口智香子です。周囲から愛され信頼される、魅力的なビジネスパーソンを育成する人材教育をしています。これまで一般社員だった人がリーダーになった場合、すぐにはリーダーとしての役割をうまく勤められないとよくいわれています。習慣化した仕事の仕方をなかなか変えられないこと、さらに、初めて持つ部下とのコミュニケーション方法に迷うことが原因のようです。リーダーは、部下からどんなスキルが求められているのか?オウチーノ総研が20~59歳の男女851人に「リーダーに必要な力はなんだと思いますか?」と質問したところ、43.0%の人が「行動力・決断力」と回答し、37.0%の人が「コミュニケーション能力」と回答しています。つまり、リーダーに求められているスキルの8割は、「行動力」「決断力」「コミュニケーション力」という3本柱で占められているのです。それでは、初めてリーダーになった人が、この3つの力を高めていくにはどうしたらよいのでしょうか?以下から、それぞれの力ごとのアドバイスをお伝えします。■1:「行動力」:自分が率先して動くことではない行動面ではまず、「部下に仕事を任せること」を心がけてください。「行動力」とは必ずしも、自ら率先して動くことではないのです。リーダー職に就くほどの人は、職務遂行力が高く、質のよい仕事を、人より早く進めることができるでしょう。そのため、つい「自分がやったほうが早い」と、なんでも自分でしてしまいがち。しかし、それでは部下が育ちません。リーダーに求められる行動とは、やるべき仕事を、誰にどのように振り分けるかを判断し、適切な指示を出し、部下がうまく仕事を進められるように助言・サポートをすることです。自らがプレーヤーになるのではなく、チームがうまく動くよう、統制をとること。ここに行動の照準を合わせてください。■2:「決断力」:はっきりとした行動基準を持つリーダーの決断力の有無は、不測の事態の際、顕著に表れます。誰も予測がつかない出来事、たとえばトラブルやクレームが発生したときに、どう指示を出し、どう動けるか。ここにリーダーの手腕が問われるのです。そこで、不測の事態に的確な判断ができるようになるために、初めてリーダーになる人は「仕事の核となる行動基準」を頭に叩き込んでおくことが重要です。たとえば東京ディズニーリゾートでは、「SCSE」という行動規準を定めています。「SCSE」は、Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)の頭文字を取ったもので、全キャストの行動基準であると同時に、その頭文字の並びが、優先順位を表しています。リーダー自らが、「なにを優先順位にするか」の基準を徹底していれば、決断に迷うことはありません。■3:「コミュニケーション力」:部下に腹を見せられるリーダーが慕われるコミュニケーション力の高いリーダーは、部下との関係が良好です。仕事人としても個人としても固い信頼関係を築けるので、指示を素直に受け入れてもらうことができ、業務がスムーズに進むのです。初めてリーダーになる人が、コミュニケーション面においてまず心がけるべきは、ありのままの自分を部下に見せることです。“リーダー”という肩書きを背負うと、つい「自分を大きく見せよう」と気負いがち。しかし、気負いや無理は周囲に伝わるものです。「速いリーダーは背中を見せ、遅いリーダーは腹を見せる」これは『仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』(明日香出版社)の著者、石川和男氏が著書内で述べている言葉です。取り上げられているのは、急な仕事の手なおしを短期間で終わらせなければならないという緊急事態に、リーダー自ら、部下に頭を下げて助けを求めたエピソード。部下を、主従関係ではなく、同じ志のもとに働く“仲間”ととらえる。腹を割って、なんでも話せる人間味のあるリーダーほど、人がついていくものなのです。(文/樋口智香子) 【参考】※樋口智香子のきらりと光るオトナ磨き※社員の接客力を高める、ビジネスマナーDVD講座※石川和男(2016)『仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』明日香出版社
2016年08月02日『今いる仲間で「勝手に稼ぐチーム」をつくる』(池本克之著、日本実業出版社)の著者がいう「勝手に稼ぐチーム」とは、メンバーひとりひとりが自分で考えて行動できるチームのこと。リーダーが常に仕事の進捗状況を気にして、チームにあれこれ指示を出しているようでは、たとえ売り上げがアップしても「勝手に」稼いでいるとはいえません。リーダーがチームの状況を気にすることなく、自分がやりたいことに時間を使えるようになって初めて、「勝手に」稼ぐチームだといえる。そして、それこそが企業に求められるべきものだという考え方です。ところで「2:6:2の法則」をご存知でしょうか?組織内で優秀な人は2割、普通の人は6割、仕事のできない人が2割という割合に分かれているという法則。どんなに優秀な人を採用しても、この割合は変わらないのだとか。だとすれば、2:6:2のメンバーで「勝手に稼ぐチーム」をつくるしかないわけです。難しそうにも思えますが、著者はどんなチームでも勝手に稼ぐチームにレベルアップできると確信していると断言します。そのために必要なのが、チームの「課題発見力」を高めること。そしてチームの課題発見力を高めるには、次の5つの要素が不可欠だと主張します。■第1の要素:鳥の目を持つ「鳥の目、虫の目、魚の目」が重要だといわれることがあります。「鳥の目」とは、ターゲット全体を高い位置から見渡す視点。「虫の目」とは、近づいてターゲットをあらゆる角度から細かく見る視点。そして「魚の目」とは、ターゲットを時代や社会の傾向といった「流れ」に照らし合わせて見る視点。リーダーは当然、すべての目が揃っているのが理想ですが、メンバーにもそれを強いるのが難しいのも事実。そこで、ひとつだけ選ぶとしたら、部下には「鳥の目」を持足せるべきだといいます。メンバー全員が「鳥の目」を持っていないと、リーダーはずっと鳥になって監視していなければならず、それでは勝手に稼ぐチームになれないから。そして大切なのは、全体思考。会社全体の業務を把握し、すべてが自分とつながっているのだと考えられるようになると、全体思考ができるようになるそうです。■第2の要素:チーム全体で学ぶ力をつけるこの場合の「学ぶ」とは、「課題を発見して解決するようなチームのつくり方」を学ぶこと。そしてそのためには、チームのメンバー全員でチームシップ学習をするのがいちばんだといいます。簡単なことで、つまりは社長から幹部、チームのリーダー、新入社員までが同じことを理解し、学ばなければ「勝手に稼ぐチーム」にはなれないから。具体的には、実際にそのチームが抱えている課題を洗い出し、解決策を考えて実施する。そのプロセスを全員で話し合いながら進めるうちに、チームはひとつになっていくというわけです。■第3の要素:メンバー個人の自己成長力を育てる課題発見力を養うためには、ひとりひとりの「個」の力を伸ばしていくのも重要なポイント。自分がそのチームでなにをすべきかを考え、行動する。仲間が困っているときは一緒に解決策を考える。それがチームシップで大切な「個」。そして「個」を育てるためには、次の3つの方法が意味を持つのだとか。(1)自分事にさせる:他人事だった仕事を自分事として考える(2)学ぶ精度を上げる:習慣化し、学ぶ精度を高める(3)発信させる:自分の考えを自分の言葉で発振する力を養う■第4の要素:チームメンバーがお互いを理解しあうメンバー同士がわかりあえないということは、往々にしてあるもの。しかし重要なのは、わかりあえなかった問題をそのままにしておかないことだといいます。ただし「相手の立場に立って考える」ことは、実際にはなかなか困難。そこで著者は相互理解を深めるためのトレーニングとして、「ストーリーテリング」を勧めています。・まずはテーマや目標をつくり、それを実現するまでの未来を、参加者に自由に描いてもらう。・次に参加者を何人かのグループに分け、描いたストーリーを持ち寄る。・そしてそれを1本のストーリーにまとめる作業をしてもらい、配役や小道具をつけて、即興で演じてもらう。このプロセスを形にすることが大切だというのです。突拍子もないように感じても不思議はないかもしれませんが、きちんと根拠があるようです。それぞれがまったく違う目的で同じ会社にいることを認識し、お互いの立場、相手の考えを受け止められるようになることが目的だというのです。■第5の要素:全員で同じ方向を向く会社やチームで一体感を持つためには、セクショナリズム(縄張り意識)は最大の敵。そしてセクショナリズムをなくすためには、会社が向かう方向性をひとつに定めることが大切。そして、そのために必要なのは・ミッション:企業が社会に対して果たしたい使命・ビジョン:「こうなりたい」という将来像・バリュー:社会に提供し、貢献する価値この3つを共有することだといいます。ミッション・ビジョン・バリューを共有すると、リーダーがそばにいなくても、それぞれのメンバーが「うちの会社ではこれが大事だ」と判断しながら行動できるようになるというのです。*ここでご紹介したのは、あくまで一部、しかしこれだけでも、著者の意図するものが伝わるのではないでしょうか? 「勝手に稼ぐチーム」のつくり方をさらに深く知りたい人は、ぜひ手にとってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※池本克之(2016)『今いる仲間で「勝手に稼ぐチーム」をつくる』日本実業出版社
2016年07月22日キレイなオフィスやトイレは、従業員のモチベーションを上げてくれます。では、キレイになりさえすれば、掃除は誰がやっても同じなのでしょうか。今回ご紹介する一冊は、『掃除と経営 歴史と理論から「効用」を読み解く』(大森信著、光文社)です。大阪商工会議所が行った「企業経営における『清掃、整理・整頓、清潔』に関するアンケート」では、掃除を自前で行っている企業と外注している企業を比較した場合、すべての項目において自前企業の方がモチベーションは高い、という結果になったそうです。「売上が向上した(新規顧客・取引先の獲得など)」にいたっては、外注1.3%であるのに対し、自前12.7%と、なんと1ケタも違う結果だというのですから驚きです。古くて新しい、21世紀の「掃除と経営」論を、著者の大森さんに詳しくお聞きしてきました。■掃除は「必要なムダ」である!現代のビジネスシーンでは、ムダは嫌われ者です。特に、経営学の主流とされるアメリカ型の企業においては、本来の業務に直結しない掃除など、ムダの最たるものだといえるでしょう。大森さんの持論はこうです。「掃除は“必要なムダ”だと考えています。たとえば企業が新しいビジネスにチャレンジしようとします。が、『余裕がないとできない』という理由から、チャレンジしないことにします。その結果、さらに余裕がなくなっていき、じり貧の状態に陥ってしまいます。そんなとき、掃除は企業に余裕を与えるひとつのきっかけになりうるのです」もう少し具体的にお聞きしてみました。「自前掃除を導入してすぐは、反発も出るでしょうし、かなりバタバタすることが考えられます。それでもやらなくてはならないとなると、掃除の時間の捻出方法を従業員は考えはじめます。そのためには、いままでの仕事のやり方の見なおしをせざるを得なくなり、その結果、仕事のやり方が改善されるのです」「掃除ができない理由は、ビジネスのできない理由と似ている」という大森さんの指摘も興味深いものでした。■掃除の導入で社員の離職率低下本来の仕事でないことをやらされると、人は思索をはじめる、と大森さんはいいます。効率ばかりに目が向いていると、掃除なんて時間とお金のムダだと早急に判断してしまいがちですが、大森さんは次のように指摘します。「あまりにも早くムダとムダでないものを切り分けてしまって、本当はムダでないものを捨ててしまう危険があります」いってみれば掃除は、ビジネスに即効性はないものの、長い目で見て必要なことを育てるのに適したツールということかもしれません。実際に、大森さんが見てきた地方の企業は、掃除を導入することで、若手社員の離職率が下がったそうです。掃除は決して楽しいものではありませんが、仕事と違って、成果が出やすいという利点があり、そこにおもしろさを感じる若手社員は少なくないようです。入社してすぐに仕事で成果を出すことは至難の業ですが、その点、掃除は気軽なもの。いったん掃除に楽しみを見出すと、仕事で使っている道具にも愛着がわいてきますし、会社そのものにも愛着がわき、その結果、会社に貢献したい気持ちが出てくるのですね。■掃除を重視する企業は海外にも掃除と経営を結びつけた考えは、日本以外では受け入れられないのでしょうか。掃除に重きを置いている海外企業はないわけではありません。たとえばアメリカ発祥のディズニーランドには、掃除に特化したスタッフがいます。ただし、この掃除の目的は、「ディズニーランドという夢の国にはゴミひとつ落ちていない」というコンセプトに基づくものであり、掃除による自分磨きという側面はまったくありません。ベルギー発祥のゴディバも、掃除に関しては並みならぬ教育と指導をするそうですが、食品販売の場である店舗の清潔さを保つこと以外に、掃除の目的はないといいます。また、日本の歴代の名経営者のように、トップが自ら掃除をするということは、欧米の企業ではまずありません。大森さんによると、欧米企業の掃除が「目的重視」であるのに対して、日本企業のそれは「手段重視」といえる、ということでした。では欧米以外の企業ではどうでしょうか。近年、海外産業人材育成協会(HIDA)が、日本企業が大切にしてきた掃除と経営の関係性についての講義を、新興国の企業経営者向けに行ったそうです。初めは行動主導の掃除に対して冷ややかな受講生もいるそうですが、講義が終わる頃には多くの受講生が自社でも取り組んでみる、と宣言したそうです。なかには、宿泊施設内のトイレの掃除をさっそくはじめた人までいたとか。■掃除活動は人をつなげてくれる思想や宗教によって人々が結びついていた時代は終わりをつげ、多様性(ダイバーシティー)が重んじられる時代が到来しています。企業という枠組みのなかで、出自も宗教も性的指向も異なる人たちがのびのびと実力を存分に発揮するには、彼らをつなぐなにかが必要で、ダイバーシティー教育を始めている企業も少なくありません。大森さんはいいます。「ある程度のダイバーシティーの進んだ企業には、思想による連帯は可能かもしれませんが、今後、さらに大きなレベルのダイバーシティーになると、ひとつの思想で人々を縛ることは難しいのではないでしょうか。掃除は活動で人々をつなぎます。掃除に代わるプラクティスも探しているのですが、掃除を超えるものはなかなか見つからないのです」*実は「ビジネスの現場に自前掃除なんて古臭いのでは?」と思っていた筆者ですが、本書を読んで、すっかり考えが改まってしまいました。これからの時代、持続可能な企業になるためには、「これをすれば大丈夫」ということはないかもしれません。けれど、掃除ならばたいしたコストもかかりませんし、職場はキレイになるのですから、損はないですよね。(文/石渡紀美) 【取材協力】※大森信・・・1969年大阪府生まれ。日本大学経済学部教授。上智大学経済学部非常勤講師。2001年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(経営学)。東京国際大学商学部助教授などを経て現職。著書に『トイレ掃除の経営学』(白桃書房)、『そうじ資本主義』(日経BP社)などがある。大阪紹介会議所「掃除でおもてなし研究会」座長。 【参考】※大森信(2016)『掃除と経営 歴史と理論から「効用」を読み解く』光文社
2016年07月16日2017年3月卒業・修了予定の就職活動スケジュールが6月にスタートしました。しかし大手有名企業の採用は、6月時点で既に終了しています。採用関連事業にたずさわっている人には周知の事実として認識されていますが、多くの学生はこの事実を知りません。学生向け採用サイトや就職情報誌では、内定を取るための秘訣がていねいに披露されています。しかし、残念ながらその多くはムダな情報です。■学歴差別の存在を理解しなければいけない新卒採用関連の媒体には、各社の採用意欲が高まっている記事がならびます。ところが、企業にとってもっとも大きな関心事は学歴です。特に最近は、「学力重視採用」への回帰が発生しています。面接で見分けられない人物素養よりも、大学、成績、SPI等の検査で数値化できる学力に重きを置くのはむしろ当然の流れかも知れません。企業が学力を重視する理由は主に3つ挙げられます。まず、有名大学の学生には、原則的に外れが少ないことが挙げられます。入社試験をやらせても高得点者は有名大学出身の学生のほうが多く、受験競争において勝ち残ったことが、実績として評価されています。次に、企業におけるこの共通項のひとつが学閥になります。特に大手企業には学閥が存在することが多く、学閥=採用実績校となるため、採用実績校ではない学生は事前にふるいにかけられることが多くなります。3つめが、「採用がうまくいった」という本質的な理由は、「有名大学の学生が何名採用できたか」にあります。たとえば、みなさんが採用担当者で今年の採用の成果を上司に報告をしたとします。おそらく上司は、「どこの大学の学生が何名採用できたか」について報告を求めるはずです。有名大学でなかったり、採用実績校ではない学生では、仮に人物的に優れていたとしても上司は評価することが難しくなります。■ES作成に時間をかけることは時間のムダ大学のキャリアセンター(就職課)では、採用の専門家を講師として招き、学生向けの自己分析講座を開設しています。自己分析とは、過去の経験から価値観などを整理し志向性を明確化させて、自分の強みや弱みのたな卸しをしながら、自分自身の軸を発見すること。多くの学生の目に、自己分析は新鮮に映ることでしょう。しかし「企業の採用と学生の就活」の双方にたずさわった経験から申し上げるなら、学生が自己分析に力を注いでも、就活にはほとんど役立ちません。むしろ、「自己分析で見つけた強み」は単なる思い込みであって、誇大妄想になりかねません。誰もが実績として認めて数値化できるようなものでない限り、自己分析が他者と一線を画するほどのオリジナリティに溢れていることはありえません。また、「エントリー数を絞って、1社あたりの力の入れ方を変えなさい」と指導をしている就活講座や就活本が多いですが、エントリー数を絞ることは自らの可能性を狭めることと同じです。エントリー期間を過ぎてしまったら、二度とエントリーができません。発車してしまった電車に飛び乗ることはできないのです。エントリー数を絞ることは選考の機会を逸することを意味します。就活において受験する企業数をある程度確保することは大切です。志望したい企業には、片っ端からエントリーをしなくてはいけません。そのため、エントリー段階で必要とされる、エントリーシート(以下、ES)は業界別に数種類を用意してください。昨年、ESを手書きにするかPCで作成するかが話題になったことがあります。基本は企業名を変えるだけで使用可能なコピペのESで充分です。ただしコピペは、一から丹念におこなってください。コピペミスは決定的なダメージとなって跳ね返ってくるからです。また間違っても自筆では書かないことです。効率性を重視してPCで作成してください。■就職活動で自己分析をするのは愚の骨頂!先ほど、自己分析が時間のムダであることを申し上げました。自己分析の最大の問題点は「自分は何者かを探し求める」あまりに、自分を勝手に型にはめてしまうことにあります。事業で成功して社会的に地位のある人でも、自己分析ができていない人はいます。自分の軸がブレている人もたくさんいます。それ自体が悪いことではありません。軸を持たずに、自分のやりたいことを目まぐるしく変化させるのは、好奇心が強く柔軟性があるためです。決してマイナスではありません。また就活の結果で、その後の人生が決まるわけではありません。就活に人生の大切な時間をかけるよりも、他にやるべき大切なことを見つけて時間を費やすほうが、はるかに意義があると思いませんか。(文/コラムニスト・尾藤克之)
2016年07月14日『新入社員から社長まで ビジネスにいちばん使える会計の本』(安本隆晴著、ダイヤモンド社)の著者は、30年以上にわたって経営コンサルティングの仕事に携わってきたという人物。ユニクロ(ファーストリテイリング)、アスクル、UBICなど、複数の上場企業の社外役員を上場前から勤めてきてもいるのだといいますが、そうした活動のなかで気づいたことがあるのだそうです。多くの人は自社のビジネスの話は熱心に語るのに、会計の話になった途端に逃げ腰になるということ。会計数字の裏づけがないため、事業の内容を聞いてもまったくピンとこないというわけです。だから「会計」や「簿記」に自分から壁をつくってしまっていて、そのあたりは経理担当者や顧問税理士に任せっきりになっている人が少なくないというのです。そこで、多くの人が敬遠しがちな複式簿記の内容にはできるだけ触れず、決算書や会計の考え方が理解できるように解説しているのが本書だということ。しかし、「そうはいっても、やっぱり不安」だという方もいらっしゃるはず。そこできょうは、基本中の基本に部分に触れた「算数がわかれば『会計』は理解できる」に注目してみましょう。■会計は算数がわかればOK!世の中のすべての組織の活動を、ひとつの観点から説明するのは現実的に不可能。ところが、どんな会社の活動であっても、決算書でほとんど説明することができると著者は断言しています。会社で人が動けばお金が動き、お金が動けば会計がその動きを記録する。正しいルール(会計基準)に基づいて記録された数字(会計数字)は、絶対にウソをつかないというのです。端的にいえば、会計とはビジネスの行動指針になるとともに、事業の関係者に活動成果を報告するための道具。そして、それは決して難しいものではなく、小学校で習った加減乗除(+—×÷)がわかれば理解できるのだといいます。だとすれば、算数がわかりさえすれば会計は理解できるということになります。本当なのでしょうか?■会計の役割は舵取りと成績表そもそも社会に役立つようなビジネスにおいては、商品の品質や価格がお客様に受け入れられれば、必ず儲け(利益)が出るもの。そして儲けが出れば、少しずつ現金も貯まっていくことになります。しかし逆に、それが社会に役立たないビジネスで、お客様に受け入れられなかったとしたら、当然ですが儲けは出ません。やがて会社を立ち上げたころの元手資金も底をつき、いつかは倒産ということになるわけです。そのため経営者は、最初からきちんと儲けが出て、その儲けをどう使えば事業が続けられるのか、しっかり考えなくてはならないということ。そんなとき、「いけるぞ!」「このままだと危ない!」などのセンサーの役割を果たすのも会計なのだと著者は主張しています。大工さんが家を建てるのにノコギリやカンナを使うのと同じで、経営者は会社の舵をとるために会計という道具を使うという考え方です。そして会計のもうひとつの役割は、お金を出資してくれた株主や、お金を貸してくれた銀行などに対して「事業はこんな状況になっています」と説明するときの資料。言葉だけで説明するよりも、成績表のような数字の裏づけがあるほうが説得力は高まるということです。■会計の種類は覚える必要なしところで会計の本を読むと、「財務会計」と「管理会計」の違いが書かれていることがよくあります。「財務会計」とは株主、銀行、税務署などの社外関係者に情報を伝えるための会計。貸借対照表、損益計算書。キャッシュフロー計算書などの決算書、会計方針・注記など、法律で決められたルールをもとに書類がつくられているのだそうです。対する「管理会計」は、原価計算書や事業部別損益表などのように、経営者や管理者などの車内関係者に情報を伝えるための会計。法律で決められたルールではなく、自由な形式で資料がつくられているのだといいます。そしてビジネスの現場では、財務会計と管理会計の区別なく資料をつくったり、会計用語を使ったりしているのだといいます。また上場会社などでは、決算書の目的によって金融商品取引法会計、会社法会計、税務会計、国際会計など、いろいろな制度の会計があるのだとか。名称を並べられただけで頭が痛くなりそうですが、実際のところ、どこからが○○会計でどこからが別の会計だと定義しても難しくなるだけ。著者はそういい切ってくれるので、それだけでも少し気が楽になります。もっといえば、そのような観点に立っているからこそ、本書には一般的な会計の本のような堅苦しさ、難しさがあまりないのかもしれません。*以後も全体的に、会計の基礎をビギナー目線で手取り足取り教えてくれるようなスタンスが貫かれています。だからこそ本書を利用すれば、少なくとも会計についての“覚えておくべきこと”は頭に入れておくことができそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※安本隆晴(2016)『新入社員から社長まで ビジネスにいちばん使える会計の本』ダイヤモンド社
2016年07月08日メジャーリーグ・マーリンズでプレーするイチロー選手が15日、メジャー通算2,979安打、日本のプロ野球・オリックス時代と合わせて4,257本目のヒットを放ち、ピート・ローズ氏が持つメジャーリーグ最多安打記録、4,256本を超えました。100年以上の歴史を持つメジャーリーグでの偉業に、日本中が喜びに沸きましたね。メジャーリーグといえば、プレーに関するニュースだけでなく多額の報酬、そして破格の待遇もしばしば話題になります。しかし、じつはその傾向、プロスポーツ界だけでなくアメリカ資本など外資系の企業全般に見られることなのです。元国税調査官の著者が書いた『知らないと損する給与明細』(大村大次郎著、小学館)の「外資系企業が報酬よりも待遇を手厚くする理由」の項から、その裏側を覗いてみましょう。■メジャーリーグは選手に豪邸も用意するメジャーリーガーの待遇には、度胆を抜くようなものが少なくありません。昨年も、イチロー選手が昨年の再契約の際に球団側から「いたいだけいてほしい」と“終身雇用”を保証されたことや、ヤンキースで活躍する田中将大投手の妻・まいさんのために費用すべて球団持ちの“セレブ出産”が用意されたことが広く報道されました。広大な豪邸や高額のマンションを球団が用意するとか、ファーストクラスでの帰国費用を年数往復分支給する、といった話もよく聞きます。一方、日本のプロ野球界では、年末の契約更改で年俸額の交渉が行われるものの、こうした待遇面での要望を挙げる選手の話はほとんど聞きません。■外資系企業にはジムがありランチは無料では、一般企業に目を移してみましょう。著者は、「外資系企業の場合、福利厚生が行き届いていることが非常に多い」といいます。育児関連サービスを受けられたり、契約スポーツジムを社員が自由に使えたり、家族旅行に補助金が出たりと、多種多様な福利厚生が用意されているのです。なかでも有名なのが米Google。社内のカフェテリアでランチを無料で食べられたり、社員が参加できる格闘技などのクラスがあったり。その点、日本ではアメリカほど福利厚生を重視しません。就職・転職の際、報酬は気になっても「どんな福利厚生があるか」を決め手にする人はほとんどいないでしょう。いま務めている会社に、どんな福利厚生があるのかを把握していない人も少なくないのでは?この違いについて著者は、「根底に報酬や税金に対する考え方の違いがある」と指摘します。アメリカでは、報酬をお金で受け取ると「その分多く税金もかかる」という意識が強いといいます。お金ではなく福利厚生を充実させてもらうことは「経費」の範囲内になるので、個人が税金をかけられることはほとんどありません。さらに、会社側も福利厚生にかかる費用は福利厚生費として“損金”(法人税を計算する時に税制上差し引ける費用)計上できるため節税になり、両者にとって得になる、というわけです。合理的なアメリカらしい考え方といえます。■中小企業社員でも福利厚生を充実できるそうはいっても、個人が会社に対して待遇改善を要求することは現実的ではありません。大企業であれば財形貯蓄制度や家賃補助、託児施設などといった福利厚生がある場合もありますが、中小企業ではあまり期待できません。そこで著者が提案するのが、「中小企業勤労者福祉サービスセンター」で“自分で福利厚生を充実させる方法”です。これは、厚生労働省が支援して市区町村単位で設置する福利厚生団体のこと。会費は市区町村によって違いますが、だいたい400~500円ほど。たとえば埼玉県川越市が設置する「川越市勤労者福祉サービスセンター」では、周辺の映画館や水族館、遊園地などさまざまなレジャー施設が大幅割引になったり、人間ドック利用に最大8,000円の補助が出たり、各種教養講座の補助が受けられたり、冠婚葬祭資金の融資を受けられたりできます。この施設は従業員300人以下の企業が対象で、企業単位でも個人でも加入可能。「全サラリーマンの8割ほどが従業員300人以下の企業で働いているので、つまりは、サラリーマンの8割が該当する」と著者はいいます。*本書では、給与明細の基本的な読み方から、サラリーマンなら認められるが現実には利用している人の少ない「手取り額を増やす裏ワザ」、スポーツジムの年会費や子どもの学校への寄付金も取り返せる「控除」の賢い使い方などを、税制を知り尽くした元税務調査官が詳説。「給与計算は会社がしてくれるもの」と思っていると、もらえるハズのお金を逃してしまう可能性があります。でも、本書で給与明細のカラクリを知って裏ワザを使えば、手取り給与の増額や将来の年金支給額アップも夢ではないかも?(文/よりみちこ) 【参考】※大村大次郎(2016)『知らないと損する給与明細』小学館
2016年06月18日『最強経営者の思考法』(嶋聡著、飛鳥新社)の著者は、松下政経塾2期生にして、元ソフトバンク社長室長。つまり松下幸之助からの影響を受け、孫正義の参謀としてソフトバンクを飛躍させたという、なかなかできない体験をした人物だということ。そして本書では稀有なキャリアをもとに、20世紀と21世紀それぞれを代表するふたりの名経営者に共通する思考法を公開しているわけですきょうはそのなかから、第1章「松下幸之助と孫正義に見る6つの成功法則」に焦点を当ててみましょう。■1:未来を予測し、予言する松下幸之助がカリスマ的なリーダーとなる結果を出せたのは、自転車から電気という馬に乗り換える選択をしたから。一方、デジタル情報革命の到来を確信したのが孫正義。そこで、綿密な調査をしたうえで、30年後のどまんなかに焦点を当てて馬に乗り、情報産業に対して確信的な姿勢で挑んでいったというわけです。そして同じように、誰にでも乗るべき馬があるはずだと著者。しかし、乗る馬を間違えれば、未来を失うことにもなるでしょう。だからこそ未来を予測し、どの馬に乗るべきかを慎重に見定めなければならないわけです。■2:大風呂敷なビジョンを提示する日本は不言実行が美しいとされますが、「リーダーは有言実行でなければならない」と主張するのは孫正義。そして公言するときは「絶対にやり遂げる」と決意し、「絶対にやれる」という自分なりの方法の見込みをつけなければならないといいます。人は追い詰められてこそ、本当の力が出せるもの。リーダーを目指す人は、大風呂敷を広げたビジョンをつくり、公言すべきだと著者はいいます。■3:超長期を語り、人づくりをする遠い将来を予言する、あるいは予見するためには、過去を見てみることが大切。なぜなら物事は、過去があって現在があって未来があるから。産業革命、工業革命がはじまったのは300年くらい前。機械や動力が生まれ、人類の生き方が変わり、パラダイムシフトが起きたわけです。しかし、孫正義はこういってもいいます。「これから300年間で、本当の意味での情報のビッグバンが起きるのではないか。いまはまだほんのその入口である」「これから300年、人類はこれから人類史上最大のパラダイムシフトを体験することになる」300年先を見通し、超長期の計画を語る。そして人づくりをしていけば、松下幸之助や孫正義を超えることができるかもしれないということです。■4:最速で目標を達成する著者がここで提案しているのは、目標達成までの時間を、3割短縮すること。1か月なら3週間、1年の予定なら4月からはじまって12月末には達成することを目標とするという考え方です。重要なのは、たとえ1時間でも早く目標が達成できるように全力を尽くすこと。それが1週間、1か月、ときには1年も早く目標に到達することにつながるといいます。そのためには、まず自分自身のやろうとすることが「いつまでにできる」と確認し、孫正義のように「なんでそんなにかかるのか」と自問することが重要。そして、自分なりの機嫌短縮の目標を決めるわけです。■5:「思考の三原則」を身につける著者が松下政経塾の塾生だったときに教わった「思考の三原則」とは、次のとおり。(1)目先にとらわれないで、できるだけ長い目で見ること。(2)物事の一面にとらわれないで、できるだけ多面的に、できれば全面的に見ること。(3)何事によらず技葉末節(しようまっせつ)にとらわれず、根本的に考えること。しかし現場で現実の対応に直面していると、どうしてもこの三原則の反対になってしまうものだといいます。長期的な利益よりも短期的利益の方をとろうとし、多面的・全面的に考えず一面的に決断し、根源的な問題よりも枝葉末節な問題を重視し、その結果、飛躍できなくなるわけです。しかしリーダーは重要な問題と対峙したとき、「思考の三原則」に常に戻り、決断し、実行しなければならないもの。■6:成功を信じ、やり抜く人や資金を集めるものは、リーダーへの期待感。だからリーダーは、やり抜くという「持続する意志」を持たなければならないと著者。逆に、困難に直面すると「もうダメだ」とすぐにあきらめてしまう人がいます。でも、あきらめてしまってはそこで終わり。失敗したとしても、それは成功のための準備であると考えるべき。成功の要諦は、成功するまで続けるところにあると信じ、持続する意志を持って成すべきを成す。それこそが、唯一の成功のコツだそうです。*実際に見聞きしたことがらを軸にしているだけに、本書での著者の主張には強い説得力があります。経営者に限らず、なんらかのリーダーであれば読んでおきたい内容であるといえます。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※嶋聡(2016)『最強経営者の思考法』飛鳥新社
2016年06月16日「EMBA」(エグゼクティブMBA)という名称を耳にしたことがあるという方は、決して少なくはないはず。いうまでもなく、現役のビジネスエリートが通う教育機関です。そして『世界の最も野心的なビジネスエリートがしている 一流の頭脳の磨き方』(山崎裕二、岡田美紀子著、ダイヤモンド社)のふたりの著者は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とシンガポール国立大学(NUS)が共同で行っている「UCLA-NUS」のEMBAの同窓生なのだそうです。なにしろ名門中の名門ですから、クラスメイトも豪華絢爛。グローバル企業のゼネラルマネージャーやCFO(最高財務責任者)クラスから、経営者や投資家、政府関係者、医学博士までが揃っているのだとか。ところで興味深いのは、世界のトップクラスのビジネスエリートたちが、「どのように学んでいるのか」についての記述です。というのも、彼らの「学び方」には、ビジネスを成功させる大きなヒントが潜んでいるというのです。■異常に強い「時はカネなり」意識彼らのスタイルを一言で表現するなら、「学びと実践を同時進行させる」ということに尽きるのだと著者はいいます。ビジネスエリートたちにとって、「仕事をしながら学び続ける」というのは至極当たり前のスタンスだというのです。そして、最大のポイントがここにあります。すなわち、彼らは「時はカネなり」の意識が異常なほど強いということ。新入社員ならともかく、上に行くにつれて競争が激しくなるので、自分が停滞することに焦りを感じるものなのだそうです。しかし使える時間は少ないので、必然的に、学びと実践が常に同時進行になるということ。そして、そんな彼らの学び方については、「MBAとEMBAの違い」という観点から説明するとわかりやすいそうです。■MBA取得は最低でも1年かかるフルタイムのMBAを取得するためには最低でも1年、多くの場合は2年程度、仕事を休まなければならないのだといいます。仕事をいったんストップして勉強するというかたちになるわけです。しかし、20代の若者なら不可能ではないかもしれませんが、すでに第一線で活躍しているビジネスエリートにとって、2年間のブランクを空けることなど現実的ではありません。しかしEMBAの場合は、もちろん各校によって期間こそ違うもの、通常の仕事をしながら集中的に授業を受けられるというのです。著者の通ったUCLA-NUSのEMBAは、約1年半の間に2週間のプログラムを6回受けるというスケジュールだったそうです。授業の行われる2週間は凝縮された学びの時間が続き、宿題、課題の連続で寝る間もないほど。しかしその2週間を終えると、それぞれが学びを携え、ビジネスの現場へと戻っていくことに。そして、それから3か月後にまた戻ってきて授業を受けるわけで、まさに学びと実践を同時進行していくスタイルだということです。■EMBAで学んだことは即実行!だからこそ、彼らと学んでいると、インプットからアウトプットまでのスピード感に驚かされるのだといいます。実際、彼らはEMBAで学んだことを即座に現場で実行し、新たな成果と課題を持ってふたたび学びの場に帰ってくるというのです。その高速反復のサイクルが当たり前になっているので、EMBAでは彼らが実践した生の事例を題材として取り上げながら、教授や講師、生徒たちと議論を重ね、さまざまな意見交換をするのだそうです。いってみれば、学問だけでも得られず、経験だけでも得られない「自身の実体験に教授やクラスメイトたちの暗黙知を加味し、経験値と知見を倍速で得る」というサイクルを、1~2年のあいだ回転させる、ということです。■EMBA後に収入が変わったか?ちなみにEMBAの世界ランキングは、「EMBAへ来る前と、来た後で、どのくらい収入が変わったか」というところで順位付けされるのだといいます。だからこそEMBAサイドも、「ここでの学びをどんどん現場で実践し、大きな成功を収めてほしい」と強く願っているのだそうです。当然、そのためのカリキュラムが用意されており、生徒同士がネットワークを広げ、新たなビジネスチャンスが生まれるように、さまざまな工夫、考慮がされているということ。実際に、クラス内でビジネスが生まれることもあるのだといいます。*この記述を目にしただけでも、ビジネスエリートたちの強い野心を実感することができるのではないでしょうか?そしてこうした考え方を軸として、以後も頭脳を効率的に磨いていくためのメソッドがパワフルな筆致で展開されています。ビジネスをレベルアップさせたい人にとっては、必読の一冊だといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山崎裕二、岡田美紀子(2016)『世界の最も野心的なビジネスエリートがしている 一流の頭脳の磨き方』ダイヤモンド社
2016年06月13日『社長! すべての利益を社員教育に使いなさい』(大西雅之著、あさ出版)は、日本最大規模のインドア型テニススクールである「ノアインドアステージ」(以下ノア)の代表取締役による著書。同社はいまも右肩上がりで成長を続けているそうなのですが、注目すべきは、社員教育に関するユニークな考え方です。というのも、「社員教育にはできるだけ時間や人を投資する」ということが基本的なスタンスだというのです。事実、同社は2015年に、年間3,000万円を社員教育に費やしているのだといいます。ただし、最初からそういった考えを持っていたわけではなく、それ以前はむしろ正反対の方向性を目指していたのだとか。端的にいえば、かつては成果主義にとらわれすぎていて、従業員の仕事を「成績」だけで評価し、「社員の幸せ」=「給料」と割り切っていたというのです。しかしその結果、幹部社員6人が示し合わせて退社するという事態に。■働きがいのある会社ランキング7位に!いうまでもなく、これは企業にとって大事件以外のなにものでもありません。そこで、ここから考え方を方向転換。社内外の研修に多大な投資を行って、積極的に人材育成をするようになったというわけです。その結果、「従業員の離職率は7%、「働きがいのある会社ランキング」(GPTWジャパン)では、中小企業部門で7位(2013年度)にランクインしたというのですから驚き。トップの考え方次第で、部下はいくらでも可能性を伸ばせるということを立証してみせたといえるでしょう。■「よい人材はなかなか集まらない」事実手が回らない、採用をしても育てる自信がないなどの理由で、新卒採用に二の足を踏んでいる中小企業は少なくないはず。また著者によればテニススクールの業界でも、新卒の定期採用をしている会社は限られているそうです。そんななか、ノアが新卒採用をスタートしたのは2011年のこと。積極的な出店のため人材の確保が急務なのだそうですが、新卒の定期採用に取り組んでみてわかったことがあるといいます。それは、「よい人材は、なかなか集まらない」という事実。そこで著者は、採用の基準を次の2つに変更したのだといいます。■ノアインドアステージの2つの採用基準(1)「おもてなしの心を感じられる人材」であれば、テニス経験は問わないノアが重視しているのは、テニスのスキル以上に「人間性」なのだそうです。このことに関するポイントは、「テニスのレベル」と「接客レベル」は必ずしも比例するものではないということ。だとすれば、テニスのコーチングスキルは入社後に教えればいいのであって、採用時にはさほど重視する必要がないという考え方です。逆に、いくらテニスが上手でも、「教えてやっている」と思い上がっていては、サービス業が務まるはずもありません。だからこそ、「スポーツを通して、お客様に笑顔になっていただく」というビジョンに共感し、価値観を揃えることのできる人なら、テニスの経験はゼロでも構わないということ。「テニス経験ゼロ」の大学生を採用の対象にして門戸を広げれば、それだけ可能性が広がるという発想なのです。(2)「ほどほどの人材」を採用して、社員教育で育てるノアでは「おもてなしの心を感じられる人材」を求めているといいますが、おもてなしの心を「持っている人材」ではなく、「感じられる人材」としたことには理由があるのだそうです。おもてなしの心というものは、入社時には持っていなかったとしても、社員教育によって身につけることが可能だから。ここで引き合いに出されているのは、「人とホスピタリティ研究所」の高野登さん(元ザ・リッツ・カールトンホテル日本支社長)の言葉。「地下鉄の優先席だけが空いていたと記、『いいや、座っちゃえ』という人たちをグループA、『必要な人がいないなら、とりあえず座ろう』という人たちをグループB、『ここは優先席だから立っていよう』という人たちをグループCとします。リッツ・カールトンは、グループCの感性を持った人や、それに近い感性の人たちを集めたい」というものです。たしかに理想は、グループCの感性を持った人たちを集めることでしょう。しかし中小企業には、感度の高い人材は集まらないのが実情でもあります。そこでノアでは、グループBの人材でも採用するのだそうです。優秀な人材を採用できないなら、社員教育によって優秀な人材に変えていけばいいということ。いまはおもてなしの感性が低かったとしても、継続的な社員教育を続けることによって、「サービス業に必要な感性を高めることができる」と考えているというのです。*大胆にも思える著者の考え方は、しかし理にかなったものでもあります。だからこそ、「従来の常識を、別の角度から捉えてみる」という意味でも、読む価値があると思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※大西雅之(2016)『社長! すべての利益を社員教育に使いなさい』あさ出版
2016年06月12日『職場を幸せにするメガネ ~アドラーに学ぶ勇気づけのマネジメント~』(小林嘉男著、まる出版)は、東証一部上場の半導体製造装置メーカーである株式会社ディスコの経理部長による著作。ディスコといえば、ここ数年は「働きがいのある会社」ランキングで、グーグルや日本マイクロソフトと並んでトップ10にランクインし続けている会社。ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。■かつてはギスギスした雰囲気だったそんな話を聞くと、さぞ雰囲気がよく心地よい会社なんだろうなと感じるかもしれません。ところが著者が就任したころの経理部は、心地よさとは正反対の環境だったのだとか。経営陣からの評価も厳しく、社内的にも影響力を発揮できていなかったというのです。だからスタッフの多くも、「自分たちは社内で評価されていない」というような負い目を感じながら働いていたのだとか。しかも毎年のように部員が退職し、そのたびに中途採用で補充するという不安定な状態。どこかギスギスした雰囲気が漂っていたそうなのです。■「メガネをかけ替える」という概念そんな状態でありながらも改善を成功させることができたのは、著者が「アドラー心理学」を通じて「メガネをかけ替える」という概念を知ったから。ご存知のとおり、アドラー心理学とは、オーストリア生まれの心理学者であるアルフレッド・アドラーの提唱した心理学。そのなかにある「誰もが自分のメガネを通してモノを見ているのだ」という考え方(認知論)に衝撃を受けたというのです。これは、「世の中にあるのは主観的な解釈だけだということをいい表したもの。そのコンセプトを導入してみたところ、結果的には職場の雰囲気が大きく改善されたというわけです。■幸せ職場をつくる4つのキーワードつまり本書ではそこに至るプロセスを細かく解説しているのですが、なかでもとりわけ印象的なのは、「幸せ職場」をつくる仕組みのなかに組み込みたいという4つのキーワード。その「感謝」「寛容」「楽しむ」「Yes, and」には、果たしてどのような思いが込められているのでしょうか?(1)感謝私たちは、お互いに支え合いながら生きているもの。そのことに気づき、感謝できる「謙虚な人」でありたいと著者は考えているそうです。リーダーになると周囲から持ち上げられる機会が増えるため、自分が偉くなったと勘違いしがち。その結果、いつの間にか上下関係ができあがってしまう。けれど、つくりたいのは「横の関係」。上司が日々の部下のがんばりに対し、感謝の気持ちを伝える。これは、もっともシンプルで、もっともパワフルな、部下の心のコップを水でいっぱいに満たす行為だといいます。感謝からはじまるマネジメントこそが、幸せな職場への第一歩だということ。(2)寛容この世に完全な人など存在しません。どんな人でも、優れたところがあれば欠けているところもあるのですから。だから、その不完全さを受け入れたいと著者はいうのです。「寛容」とは、不完全さを受け入れる勇気。そして、人の不完全さを受け入れるために大切なのは、まず自分の不完全さを受け入れること。リーダーに昇格する人の多くは、自分にストイックな面があるもの。しかし、それと同時に心の余裕も必要。心に余裕ができた分だけ、人に優しくなれるわけです。(3)楽しむ仕事や働くことを楽しもうとするから楽しくなる。笑顔でやるから仕事が楽しくなる。「リーダーは幸せの専門家」というメガネをかけて、著者は初めて気づいたそうです。仕事が楽しく職場が楽しいと、「もっとがんばろう」という気持ちになれるもの。そして楽しいから気持ちに余裕ができ、自分にもまわりの人にも優しくなれる。日々、生きること、働くことを楽しむーー。それが幸せな職場につながっていくということです。もちろん仕事なので、成果が求められるのは当然。しかし成果が上がるのは、組織の成功循環のグッドサイクルが回っているときなのだといいます。(4)Yes, andかつての著者は常に否定する鬼上司だったそうですが、振り返れば、それがバッドサイクルを引き起こす最大の原因になっていたのだといいます。つくりたいのは、否定しあう文化ではなく、認め合う文化。その土壌があるからこそ、グッドサイクルが回り続けるというわけです。そこで第一声は、「Yes(そうだね)」ではじまりたいのだそうです。しかし、ここで陥りやすいのが、「Yes」で受けたにもかかわらず「But(でもね)」で否定してしまうこと。そこで、「Yes(そうだね)」で受け、「And(そして)」で展開する「Yes, and」の習慣を身につけたいと提案しています。*「もとは鬼上司だった人が心を入れ替えた」というストーリーが背後にあるだけに、本書で展開されている考え方はひとつひとつが説得力抜群。リーダーとしてのあり方について悩んでいる人にとっては、大きな参考になるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小林嘉男(2016)『職場を幸せにするメガネ ~アドラーに学ぶ勇気づけのマネジメント~』まる出版
2016年06月08日『日本でいちばん大切にしたい会社5』(坂本光司著、あさ出版)は、2008年の『日本でいちばん大切にしたい会社』から続くシリーズ第5弾です。著者は過去40年以上にわたり、企業の現場研究に携わってきたという人物。そんななかで経験法則として知ったのは、短期の業績や勝ち負けではなく、継続を第一義に、関わる人々の幸せを追求し、努力している企業は例外なく、業績が安定的に高いということなのだとか。つまりそのようなファクトに基づき、本書では、人をとことん大切にする「いい会社」を世の中に広めようとしているわけです。さらに思いの根底には、「そのような正しい経営を一途に実践する会社を1社でも多く増やしたい」という思いがあるということ。きょうはそのなかから、「世の中の役に立つ」ための会社としてNo.1の地位を保ち続ける福岡の明太子メーカーについてのエピソードをご紹介したいと思います。■「元祖」とも「本家」とも名乗らない姿勢福岡県の博多にある「ふくや」は、いまや国民食といっても過言ではない明太子を、日本でいちばん最初につくった会社。しかし、そうであるにもかかわらず、「元祖」とも「本家」とも名乗っていないのだそうです。それどころか、明太子の製法特許や商標登録さえとっていないというのですから、ただただ驚くしかありません。「いろいろな会社があったほうがお客様が喜ぶから」ということがその理由。心が広いとしかいえないこの会社の原点は、「社会貢献」「地域貢献」にあるのだそうです。現在、「ふくや」を引き継いでいるのは創業者の2人の息子。しかし、創業者が築いた精神はしっかりと受け継がれているのだといいます。製造のすべてを自社で行なっているのはもちろんのこと、お客さまアンケートを実施し、日に200件、年間6万件におよぶアンケートに全社員が目を通したり、全社員に販売士の資格を取らせたりするなど、顧客サービスや商品開発を徹底しているというのです。■利益の20%にあたる1.5億円を寄付!しかも「ふくや」の姿勢について、著者にはそれら以上に感銘を受ける部分があるのだといいます。それは、社会貢献にかける“尋常ならざる姿勢”。なにしろ、現在「ふくや」は、イベントやスポーツ支援、文化支援など大小合わせて150もの事業に対して寄付活動を行なっているというのです。それだけのことをしていれば、当然のことながら寄付に使うお金も膨大。金額は年間1.5億円は下回らないそうです。2015年の「ふくや」の利益は7億円だといいますから、1.5億円の寄付は利益の20%に相当するわけです。大手企業あるいは社会貢献に対する意識が進んだ会社でも、寄付金額は「利益の1%程度」が常識的な数字。そう考えても、「ふくや」が寄付のために支出するお金が常識をはるかに超えていることがわかるのではないでしょうか?■働く人の雇用を守るために合併したこともしかも寄付活動だけではなく、つぶれかかったホテルと酒造会社の2社を有効的なM&Aで合併し、2社の社員の雇用をすべて守っているというのです。事業拡大のための“欲”で合併したのではなく、働いている人の雇用を守るため、経営再建を頼まれたから引き受けたのです。2社は1人のリストラを行うこともなく、現在では見事に再建しているといいますから、見事というしかありません。経営再建といえば、すぐに思い出すのは日本航空です。会社更生法の適用からわずか2年で営業利益2,000億円というV字回復を実現した稲盛和夫氏の経営哲学あっってこその成功だったわけですが、それが厳しいリストラのうえに実施されたことも事実。ところが「ふくや」の現社長である川原正孝氏は、社員の雇用を守るというしっかりとしたビジョンと見識を持って再建を引き受け、それを成功させてみせたわけです。その根底にあるのは、「少しでも世の中の役に立ちたいという思いで『ふくや』をつくった」という創業者の口癖。いわば創業者の思いが、十分すぎるほどに生かされているということなのです。■愚直にひたすらおいしさを追求している!明太子を製造販売している会社なら、全国にいくらでもあるでしょう。しかし「ふくや」はひたすら世の中のため、お客さまのため、原点をブレさせることなく、愚直においしさを追求しているということ。いわば心がこもっているわけで、「元祖」「本家」とことさら強調しなくても長く愛され続ける理由も、そのあたりにありそうです。*他にも「ふくや」同様、さまざまな思いを軸に会社を経営している人たちの姿が、本書には映し出されています。忘れかけていた原点を再確認するという意味で、働くすべての人が共感できそうな内容です。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※坂本光司(2016)『日本でいちばん大切にしたい会社5』あさ出版
2016年05月12日人工知能(AI)とビッグデータ分析が飛躍的な進化を遂げていることは、いまや周知の事実。だからこそ、改めて強調する必要はないかもしれません。しかし『人工知能×ビッグデータが「人事」を変える』(福原正大、徳岡晃一郎著、朝日新聞出版)の著者は、私たちの思いを上回るような事実を明かしています。米国をはじめとする海外において、AIとビッグデータが人事評価制度に大きな影響を与えているというのです。つまりAIとビッグデータを活用することによって、企業の人事評価が、より客観的で正確なものへと進化しようとしているということ。■基本的に人事の情報は明かされないでは、人事の先進企業は、具体的にどのようなことを行っているのでしょうか?残念ながら、この答えに明確に答えてくれる情報はいまのところほとんどないのだとか。なぜなら、求職者に自社の魅力をアピールするため、人材育成カリキュラムなどの制度的枠組みが公表されることはあったとしても、ノウハウや具体的な施策の内容は秘匿されるものだから。公表して他者が模倣したとすれば、自社の採用活動に不利に働いてしまうわけですから、当然といえば当然の話かもしれません。■グーグルの人事情報は唯一の例外!しかし、そんななかでも唯一の例外といえる企業がグーグルなのだそうです。というのも、グーグルの人事担当上級副社長であるラズロ・ボック氏が、『ワーク・ルールズ!』(東洋経済新報社)という本のなかで、グーグルの採用、育成、評価について詳細に明かしているから。でも、なぜそれを明かしてしまうのでしょうか?それはグーグルにとって、デメリットとはならないのでしょうか?そんな疑問について、著者は「他社がグーグルの人事施策のなかから参考になりそうな一部を模倣することはできても、世界最高の職場だといわれるグーグルの人事すべてを模倣することはできないという自信があるからだろう」と分析しています。■一流エンジニアには300倍の価値ちなみに、そんな同書の印象的なエピソードとして紹介されているのは、グーグルのナレッジ担当上級副社長であるアラン・ユースタス氏の次の言葉。「一流のエンジニアは平凡なエンジニアの300倍以上の価値があるーーひとりの並外れた科学技術社を失うよりも、工学部大学院生の1クラス全体を失うほうがましだ」たしかにここには、優秀な人材の採用と、その能力を引き出す職場環境作りに力を注ぐグーグルの風土がよく表れていると著者もいいます。優秀な人材を獲得するためにじっくり時間とコストをかけ、グーグルは客観的な採用活動を行ってきたわけです。そうであるだけに同社が今後、AI×ビッグデータ活用を積極的に行うであろうことも十分に予測されるはず。ある意味において、効率化とコスト削減に注力する日本の人事とは正反対のことをやっているわけです。著者はそんな状況を確認したうえで、どう考えてもいまの日本企業が、グーグルよりも優秀な人材を勝ち取れるとは思えないと記しています。いまやAI×ビッグデータはそれほど、人事に欠かせないツールになりつつあるということ。■AIとビッグデータの研究が進行中著者は本書の執筆に先立ち、世界の最新動向を確認するため、アメリカへの取材旅行を敢行したのだそうです。いうまでもなくアメリカといえば、IT(情報技術)の本場。そうであるだけに、AI×ビッグデータの活用に取り組むベンチャー企業が続々と登場しているという実感を受けたといいます。たとえばそれは、各個人が自らに合ったキャリアを構築するために最適な企業の紹介、語学学習、クリティカル・シンキング力のテストなど、事業内容も各社さまざまで多岐にわたっているのだとか。「彼らはこうしている間にも、着々と研究開発を進めている。ファンドからの投資により、事業資金の潤沢さも日本とは比較にならないくらいである」というセンテンスにも、強い説得力があります。重要なのは、アメリカのそうしたベンチャー企業が、他のアメリカ企業から受け入れられ、着々とユーザー数、クライアント数を伸ばし続けていること。サービスを提供する側と受け入れる側が両輪として動きはじめており、AI×ビッグデータ活用が、事業として確実に根づきつつあるということ。*各社がどのような取り組みを行っているのかについては、以後さらに細かい解説がなされています。そんなこともあり、本書を読み込むことによって、読者はAI×ビッグデータと人事との新たな関係性をリアルに感じ取ることができるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※福原正大、徳岡晃一郎(2016)『人工知能×ビッグデータが「人事」を変える』朝日新聞出版
2016年05月02日以前、「フレッシュパーソンのためのあたらしい教科書」として創刊された『やるじゃん。』ブックスシリーズのなかから、『社会人1年目からの「これ調べといて」に困らない情報収集術』(坂口孝則著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)をピックアップしたことがあります。きょうご紹介する『社会人1年目からの仕事の基本』(濱田秀彦著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)も、同シリーズのなかの一冊。タイトルどおり、仕事の進め方、人間関係、ビジネスマナー、企画力・問題解決力、人間力などなど、社会人に求められる38種の「仕事の基本」を取り上げているわけです。■仕事の力は5つの要素で構成されるどんな仕事に就こうとも、ビジネスマンとしての基礎は身につけることができるもの。そして、そこで身につけた基礎こそが、自分自身の将来を決定づけるのだと著者はいいます。ちなみに基礎を身につけるための期間は3年間。その3年間でついた差は、なかなか埋まらないものだといいます。研修の講師として16年間で2万5千人以上のビジネスマンを見てきた結果、著者にはそう断言できるのだそうです。そんな著者は本書において、仕事の力は5つの要素で構成されていると述べています。しかもそこには、「3つの柱」が含まれているというのです。それは、「コンセプチュアルスキル」「ヒューマンスキル」「テクニカルスキル」。ひとつひとつを確認してみましょう。(1)コンセプチュアルスキルコンセプチュアルスキルとは、ひとことでいえば「考える力」。たとえば計画立案能力、企画力、問題解決力などがこれにあたり、職位が上がるにつれて重要度が増してくるといいます。(2)ヒューマンスキルヒューマンスキルとは、その名称から想像できるとおり「対人関係力」。話す力と聞く力を使って、説明、説得、交渉をする力だというわけです。いうまでもなくヒューマンスキルは、新入社員から経営トップに至るまで、変わらず求められるもの。(3)テクニカルスキルそしてテクニカルスキルは、「業務に必要な知識・技術」。たとえば営業なら商品知識、経理なら財務の知識、製造なら加工技術など。特にはじめのうちは重要度が高く、これらがなければ仕事にならないといいます。また、この3つの柱に加え、成果を出すために必要なのが「人間力」だとか。目標達成意欲やストレスに耐える力、粘り強さなどマインド系のもので、当然のことながらすべてのビジネスマンに求められるわけです。そして、これらすべての土台になる最後のひとつが「ビジネスマナー」。これは新入社員だけではなく、あらゆるビジネス活動の土台になるもの。■優先順位は「重要度」を意識しようところで著者がかつて働いていた建設業界では、「段取り八分」が合言葉になっていたのだそうです。仕事の出来の8割は段取り、すなわちPDCA(計画=Plan、実行=Do、確認=Check、改善=Action)におけるPlanで決まるということ。そして、これはどんな仕事にもあてはまるのだそうです。そのPlanのなかでも、もっとも重要なのがスケジューリング。多くの場合、仕事は同時進行で進めなければなりませんが、やりたいことから手をつけたり、手当たり次第にやったりしていたのでは、納期に間に合わなくなるなどの問題が発生するもの。そこで大切なのが、優先順位を決めること。なかでも特に強く意識すべきは「重要度」だといいます。そして重要度は、職場の業績への影響度で測るべきもの。業績に大きく影響を与える案件は、たとえ緊急度が低かったとしても優先する必要があるということ。だとすれば、ここで問題になるのが、A「重要だが緊急ではないこと」とB「緊急だが重要ではないこと」をどう両立させるか。Aを優先させるからといって、Bを放置することはできないからです。■締め切り間際に仕事をしてはダメ!そこで著者が提案しているのは、Aの仕事に「フロントローディング」という方法を活用すること。わかりやすくいえば、「着手を早くする」ということです。たとえば、顧客向けの提案書の作成という仕事があって、納期までに1か月あるとします(なお、これは職場の業績に影響する重要な仕事だと考えてください)。完成までに3日かかるとしたら、まだまだ時間があったとしても早めに着手し、(ファイルと目次だけつくるなど)できることをしておくべき。そうすることで、意識が働くからだといいます。つまり、その時点で「完成までになにが必要なのか」を意識することができるので、残った時間を有効に使いながら、人に聞いたり自分で調べたりすることが可能になるのです。そして結果的には、仕事の質も上げることができるということ。逆に避けるべきは、締め切り間際のギリギリに3日かけること。それまでなにもやっていなかったのでは意識もそちらに向けにくく、人に聞いたり自分で調べたりする時間もないので、よい結果を生み出すことはできないのです。*『社会人1年目からの「これ調べといて」に困らない情報収集術』と同じく本書も、新社会人のみならず、中堅ビジネスパーソンにとっても便利な内容。忙しい日常の中で忘れていた基本を、改めて目の前に提示してくれるような魅力があります。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※坂口孝則(2016)『社会人1年目からの「これ調べといて」に困らない情報収集術』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年04月28日新入社員研修も一段落、各企業ではそろそろ新人が配属されてくる時期になりました。フレッシュな彼らを見ていると気持ちが新たになって、自分が新人だったころのことを思い出す人もいるのではないでしょうか。研修でビジネスマナーを習いたての新入社員と一緒に、ビジネスマナーを再確認するのもいい機会です。たとえば、相手との関係を座席や立ち位置で表現する「上座・下座」など、どれだけおぼえているでしょうか。または、どれだけ実践できているでしょうか。『マイナビニュース』の調査では、「打ち合わせのとき、席次に気を使う」というビジネスマナーを実践しているか否かの質問に対して、「実践している」と答えた人は 56.7%、「実践していない」が43.3%で、実践できている人は約半数にとどまりました。そこで、最大手の人材教育会社で、数社の新入社員が合同で参加して行われる80人規模の新入社員研修公開コースを8年にわたって担当している、研修講師の鈴木さんに教えていただきつつ、基本的なことから確認してみましょう。■もっとも偉い人は3人掛けのいちばん奥にまずは基本中の基本。応接室での座る位置について確認しましょう。応接室は3人掛けの長ソファ1つと1人掛けのソファ2つ、そしてテーブルで構成されていることが多いと思いますが、目下の者は1人掛けのソファに掛けるのが基本です。というより、入り口のドアからいちばん遠い席が、いちばんの上座だと覚えるといいでしょう。「つまり、入り口にいちばん近い席が、いちばん目下の者の席。万が一のことがあって入り口から暴漢が入ってきたときに、えらい人がいちばん入り口から遠い席にいれば、目下の者が守ることができる、というのがその根拠とされています」(鈴木さん)なるほど。では、円卓の場合はどうしたらいいのでしょう?「円卓の場合も同じ考え方です。入口からいちばん遠い席が最も上座で、入り口にいちばん近い席に最も目下の者が座ります」(鈴木さん)■5人乗りで3人乗りでも「ルールは同じ」続いて、車のシートにおける上座・下座です。これも新入社員研修で習った記憶がある人は多いのではないでしょうか。運転席の後ろがもっとも上座で、助手席がいちばん下っ端の席でしたよね?「はい、それが基本です。5人で乗る場合でも、3人で乗る場合でも、基本はその形です。ただし車のシートは基本ルールに縛られることなく、相手を思いやる心を大切にして柔軟に考える必要があります」(鈴木さん)タクシーなどのように、外部の運転者がいる場合は運転手の後ろ、つまり、左側から乗った場合の後部座席のいちばん奥がいちばんの上座。「入り口からいちばん遠いところ」と考えると、これも応接室での上座下座と同じルールと言えそうですね。しかし、たとえば取引先の車で送迎してもらうときなどに、本来上席に座るはずの方が運転するというケースもあります。そんなときは、助手席にいちばん目上の方が座る、ということも、新入社員研修ではよく話題になります「そういった基本を押さえたうえで、さらに柔軟になっていただきたい、というのが最近のビジネスマナーの考え方です。たとえば、もっとも上位の方が高齢で足が悪いという場合はどうでしょうか。上位席だからといって、運転手の後ろの席まで進んでいただくのは大変そうですよね」(鈴木さん)確かに。ではそんなときにはどうしたらいいのでしょう?「乗り降りが楽なように入り口近くにお座りいただきたいときは、代わりの者が奥に入ることになります。その際にひとこと『お先に失礼します』と断ってから進めば問題ありませんよ」(鈴木さん)教科書通どおりの規則に縛られることなく、こうしたさりげない思いやりを表すことこそがマナーの基本である、と鈴木さんは強調しています。■偉い人をエレベーターにご案内するとき最後に、エレベーターでの上座・下座を確認しましょう。「基本は、操作盤の前に最も目下の者が立ち、その奥に目上の方が位置取ります。操作盤が両側にある場合は、基本的には、右側の操作盤の前がいちばん目下の場所とされています」(鈴木さん)ところで、エレベーターに乗り込む順序でいつも悩んでしまうのですが……。えらい人に先に乗ってもらうのが正しいのでしょうか?それとも、自分が先に乗ったほうがいいのでしょうか「これには様々な説があるのが現実ですが……」と前置きしたうえで、鈴木さんは、実際に研修でレクチャーする際に根拠としている説を話してくださいました。「実はこれも、いちばん偉い人を最も安全な場所にご案内する、という考えで解決します。エレベーターは、宙づりの不安定な箱と考えます。その不安定な場所に、お守りするべき上座の方をお一人にするのは危険です。目下の者が先に乗って安全であることを確認したのちに、目上の方に乗っていただく、というのが基本です。降りるときも、目上の方に先に降りていただいてから最後に目下の者が降りるようにします」(鈴木さん)「上座・下座」については、基本的な考え方がわかればあとはそのバリエーションと考えてよさそうです。いざというときに困らないように、マナーの基本をおさらいしておくといいかもしれませんね。(文/宮本ゆみ子) 【参考】※どの位気にしてる?「打ち合わせの上座と下座」現場のビジネスマナー-マイナビニュース
2016年04月23日「Ameba」や「Ameba FRESH!」を筆頭とするインターネットメディア運営、インターネットの広告事業などを推進しているサイバーエージェント。『成長をかけ算にする サイバーエージェント 広報の仕事術』(上村嗣美著、日本実業出版社)は、そんな同社において、実に13年にわたり広報事業に携わっているキーパーソンによる著作です。大成功を収めた同社は現在、社員数3,500以上の規模。しかし著者が同社で広報の仕事をはじめたときは、まだ30人そこそこの会社にすぎなかったのだそうです。つまり、30人の会社の広報から、3,000人規模の会社の広報まであらゆる広報戦略に携わってきたということになります。30人程度の社員数なら、社員全員がなにをしているのか、どこに行っているのかを実感として把握できる規模だといえます。しかし3,500人となると、すれ違った人が社員なのかどうかさえわからなくても当然。そして著者の感覚からいえば、社員全員のことがわかり、「なにを誰に聞けばよいのか」を把握できるのは、社員数が300人くらいまでの規模なのだそうです。事実、サイバーエージェントでは、300人を超えた2002年に「社員の顔を伝える」ことを目的として社内報を立ち上げたのだとか。そして多くの場合、ステークホルダーも事業の幅も、社員数に比例して変わっていくもの。つまり、社員数が変われば、広報の活動も変わってくるわけです。■1:社員数30人のときの広報活動社員数が30人のときのサイバーエージェントの広報は、完全に社長中心の活動だったそうです。理由は、このくらいの会社規模のときは、会社の顔といえば経営者だから。名もない会社だからこそ、社長が語るビジョンや会社の将来性に価値があるということです。会社のトップである社長がどんどん表に出て行かないと、なかなかメディアに取り上げてもらえない規模なのです。また取り上げてくれるメディアも、トップがチャレンジャーであるスタートアップ企業には好意的なことがほとんどなのだそうです。■2:社員数300人のときの広報活動サイバーエージェントが300人規模になったのは、設立から5年経ったころ。経営者が象徴的な存在であることには変わりがないものの、なんでもかんでも「経営者頼み」という広報活動から脱却するタイミングです。会社の成長を現場で見てきた著者の実感は、「300人くらいの規模は人数がたしかに増えてきたけれど、まだある程度社員の顔や人柄はわかる。でも、少人数だった昔のような一体感は失われつつある」というものだったといいます。つまり300人とは、組織としても少しずつ一体感が失われていく規模だということ。また企業としてそれなりの社会的責任や影響力も出はじめてくるため、広報としてもそれを踏まえつつ、企業ブランドをつくっていく必要があったそうです。そこで、このときにサイバーエージェントの広報として著者が取り組んだのが、「経営者依存による広報露出からの脱却」。そこで社長以外に、会社のスポークスパーソンとなりうるスター社員を何人か発掘したのだといいます。その結果、それまではすべて社長が受けていた取材の一部を、そういった社員に振り分けて取材慣れさせることで、「必ずしもいつも社長がメディアに出なくてもいい」という体制になってきたというのです。社員を出すことは、会社で働いている人の姿を見せること。その積み重ねから、働く社員の姿を通じて共感を得たり、企業イメージが形成されたりしていくというわけです。■3:社員数3,000人のときの広報活動ベンチャー企業としてスタートしたサイバーエージェントも、現在ではグループで社員数3,500人。より企業としての一体感やメッセージの発疹が重要な局面に来ていると著者はいいます。そして急成長してきたいま、広報の現場づくりにも必要になってくるものがあるとも主張しています。社員の意識が取り残されてはいけないだけに、いま取り組まなければいけないことは、「社格」を高める企業ブランドづくりだというのです。そのために欠かせないのは、「自分たちの言動や行動が会社のイメージに関わってくるんだ」といった社員の意識。また、事業が多岐にわたり、どうしても縦割り組織になってしまうからこそ、改めて社内広報が重要になってきたともいいます。そこで現在は、社内報やプロジェクト史などを通して、社員の啓蒙活動を強化しているのだそうです。常に新しいことをしなければ、企業イメージは衰退の一途をたどってしまうことになるため、広報としても常に自分の取り組みを見なおす必要があるということ。会社の規模が大きくなったいま、サービス広報の観点では、サービスの認知向上や利用価値促進はもちろん重要。しかし企業広報という観点では、会社として常に新しいイメージを保つこと、さらに企業ブランドを高めることが重要になっているということです。*短期間で急成長を遂げた会社の歴史を紐解けば、広報活動のあり方を確認できるはず。ぜひ一度、手にとってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※上村嗣美(2016)『成長をかけ算にする サイバーエージェント 広報の仕事術』日本実業出版社
2016年04月09日いまの時期、自営業やフリーランスのかたは、やっと確定申告が終わってホッとしているのではないでしょうか。領収書を保管するなどの地道な苦労があるので、2~3月はなにかとバタバタしがちですよね。一方、会社勤めのかたはどうでしょう?交通費や出張費、仕事に使う備品などは、会社に経費申請することができます。しかし、仕事のための出費でも、経費申請経費に認められないものは意外とたくさんありませんか?そんなサラリーマンの隠れた経費について明らかにした調査が、このほどイギリスで行われました。なんと、仕事に関連する出費が年収の6分の1にあたるというのです。グローバル化の進むいま、会社員のお財布事情は日本も大きくは変わりません。イギリスの事例を参考に、家計を直撃する会社員の仕事関連支出について考えてみましょう。■イギリスでは交通費と保育費が悩みの種!調査は、ヨーロッパ最大級の金融機関・サンタンデール銀行がイギリス国内で行ったもの。企業や組織に勤める人々は、年収の16%にあたる平均3405£(約55万4千円)を通勤費や同僚との食事、通勤服などにあてているのです。おもな項目を、金額の大きい順にご紹介します。いずれも2015年1年間にかかった金額の平均値です。(1)交通費もっとも多かったのは通勤交通費。平均1,087£(約17万7千円)。イギリスでは通勤手当が支給されないケースが多く、家計を直撃しています。ちなみに独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によると、日本の正社員の通勤手当の平均は月に1万2,447円。単純に12倍すると14万9,364円となり、イギリスよりも若干少なめ。ただし、日本の場合は民間企業の約9割が通勤手当を支給しています。(2)子どもの保育関連費用平均960£(約15万6千円)。しかも、全体の4人に1人はこの4倍、4,000£(約45万5千円)以上を支払っているといいます。イギリスには公的保育サービスがなく、保育費が高額になりがちだという事情もありますが、日本でもいま、都市部で子どもを預けて働くために多くの夫婦が苦労していることが、国会で論争を巻き起こしています。■飲食費や電話料金も意外とバカにできないさて、ここまではイギリス特有ともいえるものですが、注目したいのはこのあと。プライベートな支出に埋もれて見えにくい出費についてです。(3)飲食費見えにくい仕事関連費のうち最大だったのは意外にも飲食費で、年間553£(約9万円)。外回り中のコーヒー休憩、デスクワークの際の飲み物などは1回ごとの金額は少なくてもちりも積もれば山となるもの。経費として会社に申請するのは難しいものの、かかってしまう出費でもあります。(4)電話料金平均240£(約4万円)。会社から携帯電話を支給されていない場合、経費として請求するのは面倒で、つい自腹にしてしまっている人も多いのでは?業務での携帯電話使用が多い場合など、きっちり申請できれば認められる可能性の高い経費です。(5)身だしなみにまつわる支出女性にとって無視できない化粧品などの支出。それも仕事に使う目的のものに限っての金額で、年間平均228£(3万7千円)。調査は男女合わせて行われているので、女性だけに限れば金額はもっと跳ね上がると想像できます。(6)同僚や取引先にかかわる出費140£(約2万3千円)。同僚とのランチ会議や、部下を連れての飲みニケ-ションなどが考えられます。日本の場合はこれにつきあいのご祝儀や送別会費などが加わることもしばしばで、金額はさらに大きくなりそうです。(7)通勤服スーツなどの通勤服は104£(約1万7千円)と、意外に低め。スーツ着用を求められる職場がある一方で、制服があったり普段着で出勤できたりするなど、職場によって条件が違うため、平均値が低めに出たようです。通勤服関連で女性にとって無視できないのがストッキング代。早ければ1~2回の使用でストッキングがほころぶ伝線が起こり、使えなくなる場合も。*こうしてみると、会社員でも働くなかで少なからず負担を負っていることがわかります。「ムダ遣いをしているつもりはないのに、お金がどうしても貯められない」という人は、こうした仕事関連支出を見直してみるといいかもしれません。場合によっては、経費と認められるものが紛れていることも。お金のわだかまりはできるだけなくし、職場では気持ちよく働きたいものです。(文/よりみちこ) 【参考】※British employees ‘spend 16pc of salary on work’―The Telegragh※企業の諸手当等の人事処遇制度に関する調査―独立行政法人労働政策研究・研修機構
2016年03月16日ビジネスの現場では、人に「教える」機会は少なくないもの。また、面倒だからといって、それを避けるわけにもいかないでしょう。とはいえ現実的に、それはなかなか困難なことでもあります。そこでぜひ読んでおきたいのが、『たった1日でできる人が育つ! 「教え方」の技術』(齋藤孝著、PHP研究所)。大学教授として若い人と20年以上つきあってきた著者が、新入社員もできない人も「戦力」に変えるためのメソッドを公開した書籍。本書で著者は、誰もが「教師」になる必要性のある時代において、上司・先輩は必要なことをより短時間で部下や後輩に伝えなければ、仕事が回らなくなってきていると指摘しています。■最低限のことは教えよう大きな要因として考えられるのは、職場にパソコンが普及したこと。その結果として生産性が大きく向上したわけですが、そのぶん個人の仕事量は大きく増えることにもなりました。しかもいまは時代の流れが速いので、新しい仕事もどんどん増える一方です。ではそんな状況下、職場に新しい人が入ってきたとしたらどうなるでしょうか? それは新卒の場合もあるでしょうし、異動で他部署から移ってくる場合も考えられるはずです。しかしどうであれ、たとえその人がどれだけ優秀だったとしても、経験知がなければ力を発揮することは不可能。そこで、最低限のことは部署で教える必要性が生まれます。■見て覚える時代ではないそうはいってもインストラクターがいるわけではありませんから、誰かが自分の仕事と並行して教えなければなりません。ただでさえ忙しいのに仕事が上乗せされるわけですから、かかるエネルギーもプレッシャーもかなりのものであるはず。そしてもうひとつの問題は、いまはもう新人が「見て覚える」時代ではないことだといいます。職人や芸の世界ならともかく、一般的な職場においては、上司や先輩の言動を見て主体的に判断・行動できるタイプは減っているわけです。だから、「見ていれば覚えるだろう」では、新人にとってはストレスになるだけ。「なんも教えてもらえない」と上司や先輩への不満を募らせるばかりだということです。重要なのは、「まずは基本的なことをていねいに教えてほしい。そうすれば、ちゃんとできるようになる」というタイプが多いこと。この点について著者は、「最近の若い人は真面目なので、うまく教えれば順調に成長するものだ」と断言しています。つまり仕事の種類が増えたうえに、「ていねいに教えてほしい」という若者が増えた。そんな状況下では、この2つの要素をクリアする必要があるということ。上司や先輩は、効率よく、細やかに教えることが求められるというわけです。■2つの基本的な「心構え」そしてそんな観点に立った場合、職場で「教える」ということについては、持つべき2つの基本的な“心構え”があると著者はいいます。まずひとつ目は、「教える」ことは「業務の一環」であると覚悟を決めること。部下や後輩が入ってきたり、その指導係を任されたりすることを「面倒だ」と感じる人は少なくないでしょう。たしかにそれは時間を必要としますし、大きなストレスの原因にもなります。まして上の世代は、「自分が新人のころはそんなに教えてもらわなかった」と、ていねいに教えることを「不必要」と考えがちでもあります。(1)伝承し続けることしかし、その根底にあるのは「教えることは業務外のサービスである」という意識なのではないかと著者は指摘します。そして、「だとすれは、明らかに時代を読み違えている」とも。以前がどうであれ、いまはかなり変わってきているのです。会社組織のなかで重要なのは、毎年のように人が入れ替わるなかで、ノウハウや技術などを伝承し続けることにほかなりません。そうでなければ組織の意味がないわけなので、そこに費やすエネルギーを惜しんではいけないわけです。(2)教える循環をつくることただし、特定の誰かが教育の全責任を負う必要はなく、大切なのは全員が役割を分担し、「教える循環をつくる」ことだといいます。つまり、これがふたつ目の“心構え”。たとえば学校の部活には、3年生が2年生に教え、2年生が1年生に教えるという循環があるものです。会社でも同じように、入社2年目の時点で新入社員の教育係を務められるようになれば、3年目以上の社員の負担はかなり軽減されるはず。このように「教える」という行為を血液のように循環させることが、組織にとっての生命線になるという考え方です。*経験に基づく著者の言葉には、強い説得力があります。そんなこともあり、教え方で悩んでいる人にとっては、大きく役立つ内容だといえそうです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※齋藤孝(2015)『たった1日でできる人が育つ! 「教え方」の技術』PHP研究所
2016年03月08日『1万人が実践している 売れる店長の全技術』(丹羽英之著、かんき出版)の著者は、船井総合研究所の経営コンサルタント。商業施設のテナント活性化のプロフェッショナルとして、ショッピングセンターの集客プロモーションから開発・リニューアルまでを積極的に支援してきた実績の持ち主です。入社してから23年間で1万店舗の店長と出会ってきたそうで、その1万人から教わったことがあるのだとか。それは、成果を出している店長には共通したキーワードがあるということ。また同時に、誰にでも簡単に真似できるコツもあるといいます。だとすれば店長さんだけでなく、販売に携わっているすべての人は、ぜひ応用したいところです。■1:「おかげさまで」を口ぐせにする相手がお客様でも取引先でも、なにか聞かれたら「おかげさまで」と最初に返すようにするといい。著者はそう主張しています。なぜなら「おかげさまで」が口ぐせになると、自然に否定的な印象ではなくなるものだから。例をあげてみましょう。たとえば「最近、ご商売はいかがですか?」とたずねられたとします。そんなとき、「いやぁ、よくないですねえ」と答えてしまったら、そこで会話は終わってしまいます。それどころか、たずねた相手もそれを聞いていたスタッフも、「悪いんだ」という印象を持つだけです。でも、「おかげさまで……」と先にいえば、「売り上げはちょっと厳しいんですけど、お客様は増えていまして」と肯定的に締めくくることが可能。つまり「おかげさまで」が口ぐせになると、ポジティブになり、人あたりも変わってくるということ。また対応もよくなり、感謝の気持ちも伝わるというわけです。■2:休憩に入る際、「ついで」に声をかける休憩に入るとき、気が利く人は「休憩に行きます。なにか帰りに買ってくるものはありますか?」と同僚に聞けるのだといいます。そして店長を含めた全スタッフが、日ごろからこうしたことを実践しているお店は、チームワークを感じさせるもの。実際のところ著者も、長年続いている老舗には、そのような文化が根づいていることが多いと感じるそうです。口先だけでなく、店長自ら率先してやる。そうすることで、スタッフが自然と真似するようになるわけです。■3:スタッフに「教えて、助けて」と素直に聞く部下の力を借りるためには、本気で褒めて、感謝することが大切。また、それに加えて最強の店長は、スタッフに「教えて」と素直に頼ることができるのだといいます。本当はわかっていて、できることであったとしても、「私と違うやり方もあると思うから助けて」とスタッフに軽くアドバイスを求める。そんなことができる店長には、力量があるということ。そういうことがいえる人は、どこかのタイミングで「こうすることでいちばん人が育つ、こうすることで現場のモチベーションが上がる」ということに気づいたのだろうと著者は分析しています。■4:気配りで、女性によく働いてもらう流通・小売業で働く人には、店長を筆頭として女性が多いもの。そこで、彼女たちにいかに気持ちよく働いてもらうかが重要だといいます。しかし現実的には多くの店長が、女性スタッフを使うことに苦手意識を持っているものだというのも事実。また女性店長にはバリバリ働いて昇格した人が多いため、「普通」の女性の気持ちがわからないことがあるのだとか。だとすれば、女性特有の気持ちや事情がわからない男性店長にとって、それはなおさらわからないことであるはずです。なお女性に対して特に気をつけるべきは、次の2点。・オンリーワンであることを認めて、順序はつけない・マメに気づくことで、関心を持っていることを伝える特に2つ目の「関心を持っている」ことが伝わるのは、男性にとってもうれしいことではないでしょうか。■5:女性スタッフには順序をつけない女性のほめ方は難しいもの。あまり露骨にやってしまうと、波風が立つこともあるからです。また女性には横並びを好む傾向があり、そうでなくとも順序をつけるようなほめ方はよくないと著者。変に評価されてしまうと、逆に「まわりからいじめられるのでは?」と気にして、ドキドキしてしまう人もいるのだといいます。つまり大切なのは、順序をつけないこと。順序でほめるのではなく、「これは◯◯さんだからできるんだね」「さすが◯◯さん!」というように、行動や成果をほめることが大切だというわけです。*店長をターゲットにしているとはいうものの、このように販売の仕事に携わっている多くの人が活用できる内容。売れる店をつくるために、店長もスタッフも、ともに読んでおきたい一冊だといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※丹羽英之(2015)『1万人が実践している 売れる店長の全技術』かんき出版
2016年02月28日職場の人間関係が原因で離職や転職を決意する人は多く、厚生労働省がまとめた「個別労働の紛争に関わる相談件数」の内容のトップは、いじめや嫌がらせでした。2010年度に約32,000件だった相談件数は、2015年度には約59,000件にまで増加しています。せっかく手に入れたポジションを、人間関係のために離れなければならなくなったら大変です。アメリカのビジネスサイト『Entrepreneur』の紹介する、職場の人間関係を良好にしたければしてはいけない9つのことを知り、いじめや嫌がらせから距離を置きましょう。■1:噂話をする噂話は風邪のウイルスのように職場を駆け巡り、あっという間に会社じゅうに広まります。人々の仕事の質を下げ、下手すると会社の利益に関わってくることさえあります。職場の噂話を止めさせるのはたやすいことではありませんが、まず噂を聞いた自分自身が、それを広めるのを防ぐことです。もしかしたら、噂を流した張本人に止めさせることもできるかもしれません。いずれにせよ、早いうちに手を打つことが肝心です。■2:信頼を失うことをするどんな職場にも必ずひとりは、遅刻の常習犯や会議の出席をドタキャンしたりする人がいるもの。こういう人がいるだけで、仕事を最後までやり抜く上での障害になります。チームワークを崩さないためには、自分の能力以上の仕事を引き受けるときや、締切前に間に合わないと思ったときにはきちんと同僚に伝え、アドバイスを受けるなどコミュニケーションを怠らない努力をすることが大事。これができれば、同僚の信頼を得られるだけでなく、自分の仕事を広げるチャンスにもなります。■3:仕事を先延ばしする会社はひとつのチームです。ひとりが仕事を先延ばしするだけで、多くの人を慌てさせ急がせることになります。同僚は不必要なストレスだけでなく、あなたに対する大きな失望も感じるはず。そうならないために、仕事に優先順位をつけましょう。そして、大変な仕事を1日の早いうちに済ませてしまう習慣をつけるのです。そうすれば、やり残しはなくなります。■4:パワハラをするパワハラとは、職場で優位に立つ人が、下位の人に身体的・精神的苦痛を負わせること。子ども時代でいう「いじめっ子」と「いじめられっ子」の関係です。子どものいじめと一緒で、パワハラははじまってしまうと、それを止めさせるのは簡単ではありません。日ごろからのコミュニケーションも大事ですが、もしパワハラがはじまってしまったら、企業のパワハラ相談に行くなど、誰かに相談しながら解決していくのが効果的です。■5:嘘をつく私たちはときどき他愛ない嘘をつくことがあります。しかし嘘をつくと、重大な問題になることもあります。職場では、地位争いで相手に痛手を負わせるために嘘をつく人もいて、これは深刻な影響を与えます。企業の最高幹部に、病的に虚言癖のある人がいたら、企業全体の統一感を揺るがせることになるでしょう。■6:口でいうことと、実行することが違う同僚のなかには自分の仕事をちゃんとやらない人もいて、まわりを苛立たせます。たとえば、ウェブサイトの立ち上げが完了していつでも稼働できるのに、ひとりの同僚の書類作成が間に合わずに待たされているときなどは特にそうです。職場の平和を守るためには、約束を果たすことでチームの信用を維持することが大切です。■7:人の功績を横取りするこういうことをする人は、相当に自己中心的な人です。結果的には信用を失い、敵対する同僚を増やしてしまうことでしょう。ですから、いい仕事をした人がいれば、その人にはちゃんとした功績が与えられるように見守るべきです。■8:1日に4回以上SNSを見るみなさんは1日に何回ぐらいSNSを見ていますか?1回だけと答えた人でも、おそらくその4倍の4回は見ているもの。SNSにハマってしまうと、メールの返信を後回しにする人が多いそうです。メールは仕事上の大切な要件が多いので、見る優先順位は必ずメールからにしましょう。■9:チームの和を乱す1匹狼になる大勢の職場で働く時は、「1匹狼」になってはいけません。チームで働くということ自体が、いろんな意味で人を成長させます。また個人の目標よりも、チームの目標を達成できたときのほうが、企業にとっても、個人にとっても大きな利益をもたらします。チームプレーは、個人の信用を築くだけでなく、互いをサポートし合うことで、やる気も起きて、プロジェクトをまとめやすくします。*どれも、当然だと思えることばかりですが、実行するのは難しいもの。長年の慣れから周囲に対してルーズになってしまったり、最初は小さかった問題が気づかないうちに大きくなったりしがちです。職場の同僚への感謝や尊敬の気持ちを忘れずに、チームの一員としての自分という立場を常に意識して行動しましょう。(文/スケルトンワークス) 【参考】※10 Habits That Destroy Workplace Relationships-Entrepreneur※平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況-厚生労働省
2016年02月28日社会の情報化により、ネット環境さえあればオフィスに行かなくても仕事ができるようになりました。自宅で仕事をする人が世界中でもっとも多いのはインドで、「週に1回か2回は自宅勤務」という企業も含めると、なんと80%が出勤せずに仕事をしています。働き方が多様になることはいいことですが、実はこれには問題もあるのです。■自宅勤務でエネルギー消費が20%も増えるイギリスの大手ブロードバンドプロバイダーのBTグループの調査から、在宅での仕事は環境に悪影響を与えることが判明しました。もし、すべての人が自宅で仕事をすると、エネルギー消費量が20%も増加するという計算になったのです。照明や冷暖房など、オフィスで共用していたエネルギーがすべて個人の家で消費されると、エネルギー消費は大幅に増えてしまいます。■車より電車のほうがエネルギー消費は少ないとはいっても、オフィスへ行くとなると、移動するためにエネルギーを消費しなくてはなりません。人が移動しないほうがエネルギーは節約できるのではないでしょうか?実は、人の移動に使われるエネルギーは、公共の交通機関を使えばさほど多くはありません。それよりも、個人がそれぞれの家庭で消費するエネルギーのほうがずっと多いのです。特に冬場の暖房は大きなエネルギーを消費します。自宅がオフィスから遠く、移動手段が車しかない場合には、自宅から動かないほうがエネルギー消費は少ないのですが、公共交通機関がある地域に住んでいる人は、オフィスに出勤したほうがエネルギーの節約になります。なんと、車で23キロ走るよりも、電車で51キロ移動するほうがエネルギー消費はずっと少ないのです。*調査では、世界中の企業の35%が少なくとも週に1回から2回、従業員を自宅で勤務させていることがわかっています。企業側としては負担する光熱費が減らせるので、自宅勤務させたいという気持ちもわかります。しかし地球のことを考えると、みんなでオフィスで仕事をしたほうがよさそうです。これからの勤務環境がどうなっていくか、注目です。(文/スケルトンワークス) 【参考】※Working from home can cost the earth-the straits times
2016年02月26日書店に足を運んでみれば、あるいはアマゾンでビジネス書をチェックしてみれば、「起業」に関する書籍はいくらでも見つかります。そしてそれらは、起業の素晴らしさをアピールし、読者をその気にさせようとやっきになっているようなものが大半。でも、起業したら本当に、その先にあるのはバラ色の未来なのでしょうか?そんなことはあり得ないと考えるほうがいいのではないでしょうか?そう思わずにはいられないからこそ強い説得力を感じさせるのが、きょうご紹介する『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』(大賀康史、苅田明史著、ソシム)。著者は、「本の要約サイト」として知られる「フライヤー」の代表取締役と取締役。(1)「筆者の経験にもとづいた起業ノウハウ」、(2)「先輩起業家からの生々しいアドバイス」、(3)「起業家必読といえる名著の要約・紹介」という3つの要素で構成されています。■起業家は「天才」ばかりではない起業には特別な人にしかできないことのようなイメージがあり、最近の起業家は、ロックスターのようにも見えるもの。しかし、起業とはごく一部の天才だけが行えるものではないと 著者はいいます。起業家の世界に身を置いてみると、たしかに天才的な人もいるそうです。たとえば大学生時代に起業して、20代後半でベテラン社長としての風格を身につけ、特有のオーラを放つような人など。しかし決して、そのような人がすべてだというわけではないということ。起業家同士で話をしてみると、その多くは悩みを山ほど抱える普通の人間だというのです。数々のトラブルに直面しながら努力を重ねるなかで、名声を手に入れて行っているわけです。だからこそ、「遣り抜くという覚悟さえ決められるなら、起業家には誰でもなれる」と著者はいいます。■起業がしやすくなった3つの理由昔の起業のイメージは、「一世一代の大博打」というようなものだったかもしれません。しかしいま、起業環境は大きく前進したといいます。誰にとっても起業をすべきかどうかについては、もちろん簡単にいい切れない部分はあるでしょう。しかしそれでも、さまざまな要因から、起業にチャレンジしやすい環境へと変化しつつあるのは事実だというのです。そして最近の起業環境については、次の3つのポイントがあるのだとか。(1)借入金の融資の際に、必ずしも連帯保証を求められなくなってきたかつてスタートアップが借入をする際には、ほぼ例外なく社長の連帯保証が入り、万一資金が返せなくなった場合には、個人資産で返すか自己破産しか道がなかったそうです。もちろんいまでもその慣習は残っているものの、日本政策金融公庫の制度融資など、一部のローンは無担保・無保証(連帯保証人なし)で提供されるようになっているのです。(2)投資家に厚みが出てきており、資金の調達手段が広がってきた投資家は、数・質ともに、いままでになく充実してきているといいます。たとえば過去にベンチャーを成功させている「エンジェル投資家」、アイデアとメンバーだけの状態のスタートアップを育成する「ベンチャーアクセラレーター」、小規模から大規模のファンドを運営する「ベンチャーキャピタル」、新規事業の種を探してスタートアップへの投資に積極的な事業会社などがそれにあたるそうです。(3)スタートアップを支える支援組織が充実してきた最近はスタートアップと大企業をつなぐイベントが盛況。経済産業省も近年、『TOKYO イノベーションリーダーズサミット』というイベントで、スタートアップと大企業がマッチングできる機会を提供しているのだそうです。他にも、証券会社、監査法人の組織や、スタートアップと大企業のマッチングを担う企業が主催するイベントも増加傾向。大企業との事業提携の機会が得やすい環境になってきているというわけです。また、テレビや新聞などのメディアもスタートアップに注目しており、サービスの露出の機会も増加傾向にあるといいます。■起業家は金銭的な困難に直面するこのような企業環境のなか、誰もがうらやむような大企業から転じて企業したり、スタートアップに転職したりする人が増えているということ。そして著者は、こうもいいます。もしも起業のアイデアがあって、それは何度検証しても有効だと思え、自分がやり遂げたい「志」にも沿っている。そして、一緒に起業してくれそうな仲間もいる。だとすれば。起業に必要なのは、腹を決めて一歩を踏み出すことだと。ただし冒頭でも触れたとおり、本書ではやみくもに起業を勧めているわけではありません。それどころか、「起業すると、ほとんどの起業家は金銭的な困難に直面する」という、多くの人が触れたがらない現実にもしっかりと目を向けています。単なる机上の空論ではないからこそ、強い説得力が生まれているわけです。*起業を本気で考えている人にとって、とても意義ある内容。また「要約サイト」の著者であるだけに、読む価値のある多くのビジネス書も紹介しています。密度の濃い内容であるだけに、ぜひ読んでおきたい一冊だといえるでしょう。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※大賀康史、苅田明史(2015)『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』ソシム
2016年02月26日