簿記の資格を取りたいと思っている人も多いことでしょうが、その一方に「簿記の勉強をはじめてみたものの、難しくて挫折してしまった」という人が少なからずいるのも事実ではないでしょうか?しかし結論からいえば、簿記の基本ルールは、100円のパンを買ったら、ノートの左側に「パン100円」と書いて、右側に「現金100円」と書く。ただこれだけだと断言するのは、『これだけは知っておきたい「簿記」の基本と常識』(椿勲著、フォレスト出版)の著者です。■手に入ったものは「左」と覚えようもし、ひとりひとりが好き勝手に右側に「パン」と書いたり、左側に「パン」と書いたりしたら、統一されていないだけにわかりにくくて当然。だから、「パンと書くときは、みんな同じように左側に書きましょう」と決めたのが簿記だということ。だから、手に入ったものは「左」、出ていったものは「右」と単純におぼえておけばいいそうです。そもそも「簿記」とは、「帳簿の記録」のこと。帳簿の「簿」に記録の「記」で簿記だというわけで、ルールに従って帳簿を記録すること。別な表現を用いるなら、「お金やモノの出入りを記録する方法」です。■個人的なお金の管理なら単式簿記で「お金やモノの出入りを記録する」といえば、身近なところですぐに思いつくのは、こづかい帳や家計簿ではないかと思います。しかも著者によれば、こづかい帳や家計簿も、簿記のルールでお金の出入りを記録しているのだそうです。このルールが、「単式簿記」と呼ばれるもの。単式とは、1万円借りたら、「現金が1万円増えた」という部分だけを記録する方法。個人でお金を管理する場合は、給料が入ってきて、そのお金で必要なモノを買ったり、貯金をしたりと作業は単純であるはず。そこで、単式簿記でも十分だというわけです。■会社でお金の管理するなら複式簿記しかし会社の場合、「商品を渡したけれど、お金はあとで払ってもらう」という場合もあるものです。また、取引先に小切手を渡すなど、複雑なやりとりも多くあります。当然、これらの記録は、単式簿記では間に合わないことになります。そこで必要になってくるのが「複式簿記」。複式簿記では、1万円を借りた場合、「現金が1万円増えた」という面と、「借金が1万円増えた」という両方の面を記録しておくわけです。そうすれば、お金の出入りをはっきりさせることができるから。いわば、お金の出入りを二面的に考えるのが複式簿記だということ。一般に簿記といえば、この複式簿記を指し、企業などで使われているのもすべて複式簿記だそうです。■500円のお弁当を買った場合は?ここで例題をひとつ。昼食に500円のお弁当を買ったとします。さて、これを二面的に考えるとどうなるでしょうか?答えは、「500円のお弁当を手に入れた」という面と、「現金が500円減った」という面の2つ。そして冒頭で触れたように、これをノートに書くときは、ページの左側に「500円のお弁当を手に入れた」、右側に「現金が500円減った」と記入するということ。このように左と右に分けて記入するのが、簿記の基本だということです。■ゲームソフトを人に売った場合は?もう一例。いらなくなったゲームソフトを友だちに5,000円で売った場合はどうなるでしょうか?ここには「現金が5,000円増えた」という側面と、「ゲームソフトがなくなった」という側面があるわけです。だからこのときにも、ノートの左側に「現金が5,000円増えた」と書いて、右側に「5,000円のゲームソフトがなくなった」と記入すればいいわけです。これが簿記の基本だというわけで、なるほど、身近な話題に当てはめて考えれば、とてもシンプルだということがわかります。■簿記を身に付けて得られるメリットでは、実際に簿記を身につけたとき、具体的になにができるようになるのでしょうか?ビジネスパーソンとしての最大のポイントは、会社の「経営状況」と「儲け」を知ることができることだといいます。たとえばA社の金庫には現金500万円が入っていて、B社の金庫には1000万円が入っている場合、どちらの経営状態がいいかといえば、単純に考えればB社です。しかし、もしB社には借金が800万円あり、A社は借金ゼロだったとしたら?この場合、答えは金庫を見てもわかりませんが、帳簿を見ればわかるわけです。B社の帳簿には、「借金(負債)800万円」ときちんと書いてあるから。つまり正確には、A社のほうが経営状態がいいということ。帳簿を全く知らない人はB社のほうが儲かっていると考えてしまうけれども、簿記を理解している人は、A社のほうが経営状態がよいことにすぐ気づけるのです。なるほど、そう考えると、簿記の重要性が分かる気がします。*簿記の入門書である本書のもうひとつの強みは、簿記に無関係な人にも理解できる点。いわば「資格を取る気はないけれど、簿記の基礎くらいは頭に入れておきたい」という方にも最適だというわけです。ここに書かれているような基礎知識をストックしておくことによって、将来的なビジネスチャンスを広げることもできるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※椿勲(2016)『これだけは知っておきたい「簿記」の基本と常識』フォレスト出版
2016年08月31日銘柄の選び方、食事との合わせ方、マナーなどなど、お酒を選ぶ際にはなにかと知識が必要になるもの。しかし、それらはなかなか人に聞きづらくもあります。そこで参考にしたいのが、『世界で一番わかりやすい おいしいお酒の選び方』(山口直樹著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。著者は高級フランス料理店、一流店でのバーテンダーなどを経験したのち、日本酒業界に貢献できる仕事をしたいと一念発起したという人物。現在は、銀座の日本酒専門店「方舟」を運営する会社で支配人を務めています。「日本酒学講師」「酒匠(さかしょう)」「FBO専属テイスター」「調理師免許」「ワインソムリエ」などさまざまな資格をも持つという、いわば酒文化・食文化のプロフェッショナル。そんなキャリアに基づき、お酒について知っておきたいことを指南してくれているわけです。きょうはそのなかから、ワインに関する豆知識をご紹介したいと思います。■「誰々がほめた」は無視して大丈夫近年は輸入食品を扱っているお店も増え、スーパーやコンビニなど、ワインを買える場所も格段に増えてきました。とはいえ、そのなかから「これ!」と思えるワインを選ぶのは難しいことでもあります。「〇〇賞受賞!」などの謳い文句もよく見かけますが、ワインには数え切れないほど多くの賞があり、そのレベルもピンキリ。著名な評論家が勧めているといっても、好き嫌いは人それぞれ。それだけでは、自分の好みに合うかどうかはわからないわけです。だからますますわかりにくくなるのですが、基本的には受賞歴や「誰々がほめた」というような要素は除外して考えるべきだと著者は断言しています。ヴィンテージも、よほどの玄人でなければ混乱するだけなので、まずは無視して構わないのだとか。■大切なのは品種とシチュエーションでは、なにを重視すべきかといえば、大事なのは品種。また、宅飲みワインを選ぶときには、シチュエーションにも注目すべきだともいいます。簡単にいえば、「どんな仲間と飲むのか?」「先輩の人がいるのか?」などを考慮することが重要だということ。「飲み慣れている人が多いのか少ないのか」に注目すると、宅飲みワインはグッと選びやすくなるというのです。そしてここでは品種ごとに、2,000円の予算内での選び方を紹介しています。■予算内でおいしいワインを選ぶコツ(1)スパークリングワイン「モエ・エ・シャンドン(Moe & Chandon)」「ヴーヴ・クリコ(VEUVE CLICQVOT)など有名なものは予算オーバーですが、「カヴァ(cava)」と書いてあるものであれば、1,000円前半からいいものがあるのだそうです。「カヴァ(cava)」はスペイン語で、「瓶内二次発酵しているスパークリングワイン」という意味。つまり、炭酸がしっかり溶け込むように、「シャンパンと同じつくり方をしたスペイン産のスパークリングワイン」だということ。だからこそ、予算2,000円以内でスパークリングワインを選ぶのなら、「カヴァ」で決まりだといいます。(2)白ワイン白ワインと赤ワインを選ぶとき、まず注目すべきはボトルの形。なで肩は渋味(タンニン)が少なくて柔らかく、いかり肩はしっかりとタンニンを感じるタイプ。そして白ワインを選ぶとき、普段あまりワインを飲まない人がいるなら、シュッと細長いドイツの白ワイン「リースリング」がいいそうです。理由は、クセがなく、嫌いな人が少ないから。そして女性が多いのなら、「甘口」と書いてあるものを選ぶほうがいいとか。逆に先輩の方やワインを飲みなれている人が多そうな場合は、少し予算をオーバーして3,000円以上のフランスワインを選んだほうがいいかもしれないといいます。なぜなら、年配の方にはまだまだ「チリワインなんて三流」という先入観を持っている人も多いから。無難なところではフランス産のシャルドネ、やや値段は上がるものの3,000円程度のニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランはほぼ間違いなくおいしいそうです。とはいっても、最近は特に輸入食品店では目利きがバイヤーを務めているため、1,000円代でも大きく外すことはないはず。(3)赤ワイン赤ワインの場合も、飲みなれていない人がいるなら「なで肩」ボトル。ピノ・ノワールあたりがいいと著者はいいます。飲み慣れていない人は多くの場合、渋味が苦手なので、香りが華やかでスルスル飲めるワインを選ぶほうがいいという考え方。カリフォルニアのピノ・ノワールは、コスパがいいそうです。一方、飲み慣れている人が多い会であるなら、「いかり肩」ボトルにすべき。少し予算に余裕があればフランスの黒ワイン、別名「カオール(CAHORS)」がおすすめだと著者。色の濃さから想像できるとおり、渋味が十分で玄人受けするのだそうです。コスパ重視でいくのなら、お店で飲むときと同じくフランスやイタリアなどの旧世界を外し、ニューワールドもの(オーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチン、アメリカなど)を。うまくいけば、予算3,000円で2本買えるかもしれないといいます。*ワインや日本酒だけでなく、カクテルの選び方、頼み方、飲み方なども解説されているので、それほどお酒に強いわけではないという人でも楽しめる内容。お酒とともに心地よい時間を過ごすために、目を通してみてはいかがでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山口直樹(2016)『世界で一番わかりやすい おいしいお酒の選び方』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年08月31日そのタイトルからもわかるように、『ひとり社長の経理の基本』(井ノ上陽一著、ダイヤモンド社)は「ひとり社長」が知っておくべき、経理の基本を解説した書籍。つまり基本的には経営者が対象になっているわけですが、すべてのビジネスパーソンにとっても有効な内容だと断言できます。なぜなら経理の基本を知っておくことは、どんな仕事をするうえでも欠かせないから。そこで今回は第1章「9割の社長が知らない『経理のホント』」のなかから、経理についての基本的な考え方を抜き出してみたいと思います。■経理とは「経営管理」の略称である経理は、「税務署や銀行のためにやるもの」だと考えてしまいがちかもしれません。しかし著者は、その考え方をきっぱりと否定しています。なぜなら、それは自分のため、自社のためのものだという考えを持っているから。経理とは「経営管理」の略称で、いわば経営の舵取りをするもの。決して“作業”などではなく、イメージとしては「経理=お金、会計、税金のバランスをとる仕事」なのだというのです。お金を貯めるには、支払う税金を減らす、つまり「節税」が不可欠です。また税金を減らすには、会計の仕組みを知っていることが必須。そして会計の仕組みがわかれば、お金の効果的な使い方がわかるというわけです。■経理がわからないと会社は潰れる!経理は毎日、毎月やるものですが、決算は通常の場合、年に1回行うものです。決算書をつくり、1年の業績を確定させ、税金を計算するわけです(各会社の決算月に応じ、時期は変わります)。そして税金を確定させたら、決算の日(事業年度終了の日)の翌日から原則として2か月以内に、税務署へ税金を支払うわけです。これが、「決算・申告」。なお、ここで重要なのは、決算・申告の土台となるのが経理だという事実。経理をないがしろにすると、決算の仕事が大変になり、作業に追われることになってしまうのです。また、経理の状況が適当だと税務署に目をつけられることになり、経理が間違っていたら「本来なら払わなくていい税金」を払ってしまうこともあるといいます。いわば、経理がいいかげんだと、決算・申告もボロボロになってしまうということ。■手間いらずの方法は3ステップ経理術しかし、そもそも経理とはなにをすることなのでしょうか?この問いに対して著者は、「ひとり社長の経理でやるべきことは、『1.集める、2.記録する、3.チェックする』だと主張しています。ITの発達によって簡略化が進んだとはいえ、いまだに「手書きの伝票を扱う」と言った古い考え方がはびこっているだけに、経理の仕事をまともにやったら大変。そこで、手間をかけない新しい経理の方法として、この「3ステップ経理術」が力になるというのです。[ステップ1]集める「集める」は、レシートや領収書、あるいは請求書などを集めるステップ。スタートラインであるわけですが、実はもっとも重要なステップでもあるのだそうです。なぜなら、この「集める」という作業をおろそかにしてしまうと、極端な話、「余計な税金を払う」「税務署から税務調査に入られる」といったことが起こる可能性があるから。そして、ここで決め手になるのが「証拠と理由(ストーリー)」。たとえば「本を書くための資料として、専門書を買った」とします。この場合、「本を買ったときのレシート」が証拠、「本を書くための資料として買った」が理由になるわけです。つまり、証拠と理由をしっかり集めておかなければ、「なにに、どれだけのお金を使ったか」「なにをやって、どれだけ儲けたか」がわからなくなってしまうもの。すると正しい経理ができず、決算・申告の際に税務署から「この会社は怪しい」と目をつけられてしまうというのです。だからこそ、最初のステップである「集める」が重要なのだということ。[ステップ2]記録する「記録する」は、集めたレシートや領収書、請求書などをデータとして記録するステップ。ちなみに、昔はこの作業を手書きで行っていましたが、現在はPCで簡単にできるそうです。[ステップ3]チェックする「チェックする」は、記録した数字(売上、経費など)に問題がないかを確認するステップ。「売上は順調か」「経費はどれくらいかかっているのか」「税金はどれくらいかかっているのか」といったことをチェックし、問題があれば修正していくわけです。この作業は、最低でも毎月1回はやることが大切。手間なく効率よく集計し、毎月の業績をできるだけ早く把握するためです(業種によっては、毎日把握すべきものもあるのだとか)。毎月のチェックを適当にやっていると、「1年が終わって計算してみたら、大きな赤字だった」「経費を使いすぎた」ということになりかねないというわけです。■1日5分の「習慣」を身につけるべし大まかにご説明すると、これが3ステップ経理術。なお、「集める」が重要だと書きましたが、それはいちばん大変なことでもあるそうです。ただし、きちんと資料を集めて整理していれば、経理はそれほど難しくはないと著者はいいます。ポイントは、「毎日やること」「毎月やること」「1年に1回やること」を頭に入れておくこと。そして書類をためてしまわないように、まずは「毎日やること」を続ける「1日5分の習慣」を身につけることが大切だといいます。*実際に携わっている仕事とは直接関係なかったとしても、経理の基礎を頭に入れておくことは決して無駄にはならないはず。本書を教科書として活用すれば、いつか必ず役に立つと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※井ノ上陽一(2016)『ひとり社長の経理の基本』ダイヤモンド社
2016年08月31日「1日2時間かかっていた作業を5分で終わらせる時短のコツ」というキャッチフレーズからもわかるとおり、『絶対残業しない人がやっている 超速Excel仕事術』(奥谷隆一著、あさ出版)は、Excelで時間短縮するためのコツを明かした書籍。著者は、クライアント先の外資系企業でExcelを利用したシステムを構築・運用するプロジェクトに従事したことをきっかけに、現在まで20年以上にわたり、Excelを活用した業務の効率化を推進しているという人物です。しかし、なぜExcelで時短が可能になるのでしょうか?■少し工夫するだけで大幅な時短が可能企画書や提案書、さらには決算書類まで、ひと昔前まではデスクワークのほとんどは紙の作業で行われていました。いまは、それら多くの作業がExcelに置き換えられたわけです。しかし、紙で手書きしていたことを、単純にExcelへの入力に置き換えただけでは、まだまだExcelを有効活用できているとはいえないと著者は主張します。もともとExcelとは、仕事の作業効率をアップするための「道具」。にもかかわらず多くのビジネスパーソンは、Excelのことをわかったつもりでいながら、「Excelを使う」ことにばかり気持ちを奪われてしまいがちだというのです。その結果、平気で延々と手作業で入力したり、データのコピペを繰り返したりして何時間も浪費することになってしまうということ。しかし、それらの作業のほとんどは、Excelの使い方を少し工夫するだけで、数分で片づくようになるといいます。■Excelの作業に共通するプロセス著者によれば、Excelを学ぶ最大のメリットは「時間が手に入る」こと。入力作業にやたらと時間がかかったり、コピー&ペーストをしたら罫線まで消えてしまってなんども罫線を引きなおしたり、似たような表をたくさんつくった結果、どのデータが正しいのかわからなくなってしまったり……。そんな経験のある方も少なくないと思いますが、そうしたムダな1~2時間が、たった数分で済むようになるわけです。作業時間を短くできない人は、「時間がない」といいながらいつまでも作業をやっているもの。その結果、知らず知らずのうちに家族と過ごす時間や趣味の時間などを失い続けることになります。でも、そういう人たちは、Excel業務になぜそんなに時間がかかってしまうのでしょうか? そのことを解き明かすためには、Excelの作業に共通する仕事の流れを把握することが大切だといいます。1.ファイルを開く(あるいは新規作成する)2.数字、文字、図(グラフを含むオブジェクト)などの編集作業をする3.書式設定で形を整える4.印刷する5.ファイルを保存して閉じる印刷しなかったり、図形を使わなかったりする場合もあるとはいえ、それ以上のプロセスが発生することはないわけです。■時間短縮の鍵は「ピボットテーブル」なお、このプロセスを時間がかかっている順に並べ替えると、2.[編集] → 3.[書式] → 4.[印刷] → 1.&5.[ファイル操作]の順になります。そしてExcelをうまく活用している人は、特にこの上位2つのプロセス[編集]と[書式設定]に関する操作を上手にこなしているというのです。そして、この[編集]と[書式設定]の役割を同時に行う最強の機能が「ピボットテーブル」(データをさまざまな形に加工、分析する機能)。ピボットテーブルをうまく活用することが、「残業をしない人」への近道になるということ。現代の企業においては、スピードが最優先されるもの。会議で質問が飛んできたときにも、迅速な対応が求められます。だからこそ、そんなとき、映していたパワーポイントからサッとExcelのデータに切り替え、ピボットテーブルで大量のデータをまとめなおし、リアルタイムに回答できれば評価も高まるはず。また、会議前に自分でデータ分析をする際にも、ピボットテーブルは役立つそうです。切り口を一瞬で変更しながら情報を見ることができるので、短時間で臨機応変なチェックが可能。■使いこなして圧倒的な結果を出すべししかもピボットテーブルは、決して難しい作業ではないといいます。それどころか、難しい数式や関数を使うことなく、マウスのドラッグ&ドロップだけで直感的に扱えるため、Excel初心者でも積極的に活用できるというのです。もちろん、Excelをうまく使ったからといって、それ自体が評価されるわけではないでしょう。しかし、Excelを使いこなして圧倒的な結果を出せば、楽に時短ができ、周囲からの評価もアップするというわけです。*こうした考え方を軸とした本書では、ピボットテーブルの機能を中心に、Excel業務効率化のカギとなる[編集]と[書式設定]における時短のワザが紹介されています。それらをここでご紹介するわけにはいきませんが、図版も豊富も盛り込まれていてわかりやすい内容。デスクサイドに置いておけば、いざというとき役に立ってくれそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※奥谷隆一(2016)『絶対残業しない人がやっている 超速Excel仕事術』あさ出版
2016年08月29日『図解 ダイエットは運動1割、食事9割』(森拓郎著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、シリーズ15万部突破のベストセラーとなった『ダイエットは運動1割、食事9割』のイラスト図解本。イラストをふんだんに盛り込み、文章を簡潔にまとめることにより、オリジナル版のエッセンスをわかりやすく伝えています。大ヒット作であるだけに、もうご存じの方も少なくないとは思いますが、まだ読んだことがないという方に向け、きょうはカロリーについての基本的な考え方を抜き出してみたいと思います。■とにかく「運動すれば痩せる」はウソいうまでもなくダイエットでは、摂取カロリーを消費カロリーが上回る状態をキープする必要があります。つまり運動をしても痩せられない人は、食べている分を運動量で超えることができていないということ。もちろん原因は「食べすぎ」です。しかし、そうであるにもかかわらず、多くの人は「消費カロリーを稼いで帳尻を合わせよう」とするのだといいます。ところが、食のことには目を向けず、おなかがすくまで運動すれば痩せるというほど、エネルギー代謝の仕組みは単純ではないと著者は断言しています。痩せたいと考える人は短期間で結果を出したがる傾向があるため、運動の量や強度を極端に増やしてしまいがち。しかし運動の問題点は、たいして消費カロリーを稼げないにもかかわらず、達成感だけは大きいということなのだそうです。■運動してもカロリーはさほど減らない通常、体重50キログラムの人が時速8キロで30分間ランニングをした場合、消費できるのは200キロカロリー程度。毎日がんばったとしても、1か月で6,000キロカロリーしか消費できないということです。しかし体脂肪は、1キログラムあたり7,200キロカロリーのエネルギーを持っているといわれているので、1か月で1キログラムも減らないということになるわけです。しかも、大きな問題は「達成感」だといいます。運動して汗をかくと達成感が得られるため、ご褒美として「少しぐらい多く食べても大丈夫」と思ってしまいがちだということ。これはとても納得できる話ではないでしょうか?■30分泳ぎ続けても効果はあまりなしそして、さらにダイエットの失敗に拍車をかけるのが、「ダメなら運動の種類を変えようとする」発想なのだとか。たとえば「ランニングよりも水泳のほうが消費カロリー多い」という情報を得ると、水泳に変えるというようなことです。でもクロールで30分泳ぎ続けたところで、消費できるのは約250キロカロリー。ほとんど変わらないのです。にもかかわらず、水泳をすると、ランニングとは比較にならないほどおなかがすくもの。これは、運動強度が上がり、カロリー消費が増えたぶん、食への欲求が増してしまうからなのだそうです。その結果、食べれば食べるほど、食べたいという欲求はさらに大きくなることに。運動が、痩せるために抑えている食への欲求を、つらい方向に導いてしまうという悪循環です。■有酸素運動は「時間効率が悪すぎる」ところで脂肪燃焼のための運動といえば、酸素を利用して体内のエネルギーを消費する「有酸素運動」が有名です。この運動は、長い時間をかけて行うことのできる強度の低い運動であればあるほど、酸素を使う効率(有酸素性)が高まるのだそうです。たとえばウォーキングとランニングでは、ウォーキングのほうが運動強度が低く長い時間行えるので、有酸素性の高い運動となるわけです。しかし、だからといって、ランニングよりウォーキングのほうがダイエットに適しているというわけでもなさそうです。なぜなら、運動の強度が低ければ、そのぶん運動量は減ってしまうから。効果を出すためには、運動時間を長く取る日強があるということです。また、体脂肪が燃えやすいといわれる有酸素運動でさえ、消費するカロリーの約半分は糖質なのだとか。ランニング30分で200キロカロリーを消費するうち、脂肪は100キロカロリーしか消費されないわけです。いわば有酸素運動は、ダイエッターにとってかなり時間効率が悪いということ。■痩せたいなら食事コントロールが大切ちなみに運動した直後に体重を計ったら2キロ痩せていたりして、うれしくなることがあります。が、それは水分量の変化であり、体脂肪が2キログラム燃焼されたわけではないのだといいます。だからこそ、そんな現実を踏まえたうえで著者は、体の痩せるメカニズムを考えると、食事のコントロール以上に効率的なダイエット方法はないと主張しているのです。「食事のコントロールに、必要なぶんの運動を足す」という考え方こそが適切だということ。*フィットネストレーナー、ピラティス指導者、整体師、美容矯正師として活躍する著者は、ファッションモデルや女優などの著名人に対してもボディメイクやダイエットを指導していることで有名。そんな実績があるからこそ、本書の主張にも強い説得力があります、一項目1見開きで読みやすくもあるので、ダイエットを真剣に考えている方は、ぜひ一度チェックしてみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※森拓郎(2016)『図解 ダイエットは運動1割、食事9割』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年08月29日『短時間で「完全集中」するメソッド』(佐々木正悟著、大和書房)の著者は、20代後半から30代にかけてアメリカに留学し、実験心理学を専攻してきたという心理学ジャーナリスト。その際、「ブラック・ルーム」という無音で真っ黒な部屋に被験者を閉じ込め、自分にお好きなことを徹底的に考えてもらうという実験をしてみたことがあるのだそうです。その結果としてわかったのは、どんな人でも、その気になればわずか1分で極端な集中状態に入ることができるということだったのだとか。そこで本書においても、「ブラック・ルームほど大がかりではないけれど、しかし『たった1分』で自分を変えられる集中法」を紹介しています。■まずは1分だけ集中してみるべしこの話題について語るにあたり、著者は、ある瞑想の指導者が「1分間瞑想法」というものを提唱したときのエピソードを引き合いに出しています。いうまでもなく「1分間だけ瞑想してみましょう」ということで、それだけでも効果があるというのです。しかし当然のことながら、彼のセミナー参加者からは「たった1分の瞑想で効果があるわけがない」という疑問が出たのだといいます。すると、その瞑想の指導者は、次のような説明をしたのだそうです。「瞑想の習慣を持っていない人に対して、『毎日30分、1時間瞑想しましょう』といったところで、そんな習慣はつきっこない。だったら、全然やらないよりは、1分間でも毎日やったほうがいい」このエピソードを通して著者が訴えようとしているのは、「瞑想をしない人は、『瞑想なんて、たいして意味がない』と思っていること。そして、同じことが「集中」にもいえるというのです。つまり「集中力」も、くだらないと思われがちなのです。だからこそ、「1分間だけ」集中してみることをおすすめしたいというわけです。1分間だけであれば、その内容がどうであれ、集中することはさほど難しくはないはず。しかも、特別な技能やツールも必要ないわけです。たとえ1分だけでも、毎日「集中しよう」と思って実践するなら、そこには大きな意味があるということです。■次は1分プラスして2分集中するさて、「1分だけ集中する方法」に続き、本書では集中を続ける時間を2分にしてみることも心がけてみようと提案しています。そして、ここで興味深い指標として紹介されているのが、ブログやオンラインマガジンを「文章を読ませたい」と思っている人たちが調べている「直帰率と滞在時間」。読者はそれらの文章を読むか読まないかを一瞬で判断し、わずかな時間を割いて情報を汲み取っていくということです。しかしじっくり読んでいる時間はないので、約8割の人は一瞬記事を眺めただけで読まずに他へ移動してしまうもの。これが直帰率ですが、直帰率はよくても70%、悪ければ90%を超えるというのです。つまり大半の人は、インターネット使用時に集中などしていないわけです。■直帰率と平均滞在時間が示すものでは、直帰しなかった人は、どのくらいの間、文章を読んでくれるのでしょうか?これは、「平均滞在時間」で計ることができるといいます。具体的には、1記事につき2分読まれれば「非常によい」といわれているというのです。インターネットは比較的新しい技術環境ですが、人間の自然な欲求をかなり満たしてくれるものでもあると著者はいいます。私たちは、よほど自分にマッチしたものでない限り、自然に集中して取り組んだりはしない。そのことを、「直帰率と平均滞在時間」という統計が教えてくれるということ。そして、それはおそらく新聞や雑誌についても同じだろうと著者は推測しています。■2分間だけ集中することに価値がしかし、そこで重要な意味を持つのが「2分間」です。つまり逆にいえば、2分間だけ同じものに集中していられるのであれば、それは「集中力が持続している」と考えることができるわけです。著者が「1分間」と同時に「2分間」にもこだわるのは、そんな理由があるからです。なんに対しても一瞬でどんどん目移りしてしまう習慣になんとか歯止めをかけ、「2分間だけ」集中して読んだり書いたりすることができるのであれば、それが意味を持つということ。集中力に関してはそこから一段階、新しいゾーンに踏み込むことができるというわけです。*本書で著者がその重要性を強調しているのは、「時間を忘れるほど没頭してしまうこと」の意味。そこにはたしかに、短時間で完全集中するためのヒントがありそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※佐々木正悟(2016)『短時間で「完全集中」するメソッド』大和書房
2016年08月29日『走れば脳は強くなる』(重森健太著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、脳科学とリハビリテーションの分野で研究を重ね、現在はおもに運動の視点から「脳を鍛える、若返らせる」ことをテーマに活動しているという人物。つまり本書では、そんな実績を軸として、脳科学の知見からランニングの効能と賢い走り方を明かしているわけです。■人は1日何km走れば痩せられるのかところで、太ってしまったとき、「走って痩せよう」と思うことがありますよね。あるいは、「太らないために走ろう」と考えることもあるでしょう。しかし実際のところ、どの程度の距離を走れば同じ体重を維持できるのでしょうか?その点を解き明かすために、本書ではアメリカでの研究結果が紹介されています。BMI(体重と身長の関係から肥満度を示す体格指数)が25以上の中高年(40~65歳)260名を、運動量と運動強度の違いから、次の4グループに分けて分析したというのです。(1)とくに運動をしないグループ(2)運動の量は少なく、強度が中程度のグループ(週に12マイル(19.2㎞)のウォーキング/ジョギング、最大酸素摂取量の40~55%の強度)(3)運動の量は少なく、強度が高いグループ(週に12マイル(19.2㎞)のウォーキング/ジョギング、最大酸素摂取量の65~80%の強度)(4)運動の量が多く、強度の高いグループ(週に20マイル(32㎞)のウォーキング/ジョギング、最大酸素摂取量の65~80%の強度)■1日2km以上走れば体重は増えない8ヶ月間におよぶ実験の結果、(1)のグループは体重が増加し、運動をした(2)と(3)と(4)のグループでは、運動量と運動強度の多い順に体重が減少したそうです。そして、同じ体重を保持できるのは1週間に8マイル(12.8㎞)のウォーキングかジョギングを余分にする必要があると結論づけられているのだといいます。8マイルを1日に換算すると2㎞程度。つまり、2㎞程度余分に運動していれば、体重が増えることはない。さらにいえば、それ以上に実施すればそれだけ減量できるわけです。とはいえ、同じ運動をしたとしてもその効果には個人差があるもの。そこで普段から体重を管理し、効果を測定することが必要。■1万歩あるけば肥満の防止につながる次に、「歩く」ことについての話題にも触れてみましょう。ここで紹介されているのは、歩数計を使って、肥満との関係を調査した研究です。この実験は、80名の平均年齢50.3歳の女性に、7日間歩数計を装着してもらい、1日の平均歩数を算出するというもの。まず参加者を、歩数によって次の3グループに分けたそうです。(1)6,000歩未満(2)6,000~9,999歩(3)1万歩以上さて、結果はどうだったのでしょうか?まず体脂肪率で見てみると、(1)のグループ44.2%(2)のグループ35.1%(3)のグループ26.4%と、明らかに1日あたりの歩数の少ないグループのほうが高いことがわかったそうです。BMIでも、歩数の少ないグループのほうが高く、(1)のグループでは、30に近い平均値だったとか。つまり、1万歩という大台を目指して歩くことは肥満の防止につながるわけです。また、ウォーキング雑誌購読者3,578名への郵送調査で、歩数と肥満の関係について調べた研究結果も紹介されています。1週間に歩く距離別にBMIを見てみると、年齢にかかわらずBMIは1日の歩数とともに曲線的に減少することがわかったといいます。要するに、そこからも1万歩という大台を目指して歩くことは肥満の防止につながるということがわかるわけです。■生活のなかで歩く機会をつくるべし!そして、これらの結果を踏まえたうえで著者は、「前向きに考えれば、わざわざ運動する機会をつくらなくてもいい」と主張しています。つまり、歩いて行けるところへは電車を使わずに歩いたり走ったりしてみたり、あるいはエレベーターを使わずに階段を使う。そんなふうに生活のなかで歩く機会をつくるだけで、健康につながるということ。たしかにそう考えたほうが、長続きしそうではあります。*他にも体を鍛えることについて、さまざまな角度からの検証がなされています。しかもアプローチが柔軟で読みやすいだけに、無理なく知識をつけ、脳を強化していくことができそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※重森健太(2016)『走れば脳は強くなる』クロスメディア・パブリッシング
2016年08月26日「最近法律が変わって、海外資産にも課税されるようになった」と聞く機会がよくあります。しかし実際には、以前から海外の資産から生じる所得などについては、課税の対象となるケースがほとんどだった……。このように主張するのは、『海外資産の税金のキホン』(信成国際税理士法人著、税務経理協会)の著者です。詳しくいえば法律が変わったのではなく、日本の税務当局が海外資産に対する課税を強化・把握するようになったということなのだそうです。また、パナマ文書のように、ペーパーカンパニーを利用した資産隠しも明らかになるケースが増えているのだとか。2018年からは海外の金融講座情報なども日本と海外の税務当局間で交換されることが想定されており、「海外に資産を移せば日本の税務当局に把握されない」という時代は終わりを告げようとしているというのです。そこで本書では、個人で注意しなければならない国際税務の基礎を開設しているわけです。■世界の税務当局の動きが変わってきている個人が国境を飛び越えて経済的に活動することは珍しくなくなりましたが、かといって、一国の税務当局がすぐにそうした活動を把握できるというわけではありません。そこで税務当局はこれまで、課税漏れを見逃す、あるいは税法の制約を逆手にとった個人の租税回避行為を許してしまうことがあったのだそうです。そのため近年、世界の税務当局は、個人の経済活動や財産の状況をきちんと把握し、課税漏れや租税回避行為を防止しようとしているというのです。もちろん日本も例外ではなく、近年は「国外送金等調書制度及び国外財産調書制度」の創設や、相続税法の改正、出国税の導入などにより、個々人の財産の動きをチェックし、適切な課税を行おうと全力を挙げているのだといいます。また、富裕層の行きすぎた節税行為に対し、世界各国の税務当局が共同で、不透明なお金の流れについて情報開示を行うことも予定されているといいます。つまり海外移住や海外投資を検討している人は、こうした世界的な流れを把握し、納税について知り、対策を講じる必要があるわけです。■他にも海外資産の税制について知る意義がそして、海外資産の税制について関心を高める意義がもうひとつ。それは自国や他国の税制についての知識を蓄え、理解を深めることにより、ムダな納税を防止することです。事実、自国と他国の税制や租税条約を知らなかったために、税金の申告や農夫の場面で次のような損をするケースも。(1)外国税額控除という制度を知らずに損をしているケース海外に所有している不動産を賃貸に出している場合、その所有者が日本在住の人なら、その不動産がある国と日本の両方で、その不動産に課せられる税金を納めなくてはなりません。海外と日本とで、1つの所得に対して2つの税金を納めているわけで、これを二重課税と呼ぶそうです。しかし二重課税は、「外国税額控除」という制度を用いれば過払いを防ぐことが可能。なのにこの制度を知らず税金を納めていたのでは、不動産投資が財産を食いつぶすことになってしまいかねないということ。さらに国によっては、不動産収入から税金を直に源泉徴収する場合もあるとか。税金が源泉徴収されていると、個人のお財布や口座から出ていく痛みを伴わないので関心が向かず、自分の損失に気づきにくくなってしまうというのです。(2)税務対策を取らずに損をするケースいまは国外送金等調書制度や国外財産調書制度などにより、海外資産から生じる所得についての無申告や申告漏れは容易に発覚するそうです。そして税務署はいったん把握すると、納税者に対して「お尋ね」という事実確認の信書を出すもの。納税に関心の高い人なら、この時点で税理士などの専門家に相談するのですが、そうでない人の場合、そのまま税務署に足を運ぶことに。そして後日、税務調査を受け、本税のみならず、無申告加算税や過少申告加算税、延滞税といった「そもそも適正に申告納税をしていれば、払わなくて済んだ税金」ををムダに払う羽目になってしまうというのです。■「海外に投資をすれば大丈夫」は過去の話冒頭の話題にもかかわることですが、かつて海外投資を普及させるための謳い文句として、「海外に投資をすれば日本の税金はかからない」というものがありました。けれど、もうすでにそんな時代は終わっているということ。つまりは日本にいる以上、海外資産についてもなんらかの税金をきちんと申告し、納税しなくてはならないということ。そして税務署が海外の税務当局と連携し、対策を取っている以上、「知らなかったのだから仕方ない」では済まされなくなっているのです。*税法の知識がない人でも理解できるようにと、わかりやすく説明されているところが本書の魅力。そのため、「数字のことは苦手」という方でも無理なく基礎を学ぶことができるでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※信成国際税理士法人(2016)『海外資産の税金のキホン』税務経理協会
2016年08月24日『マッキンゼーで25年にわたって膨大な仕事をしてわかった いい努力』(山梨広一著、ダイヤモンド社)の著者は、世界最高のコンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーのトップコンサルタントとして25年にわたり活躍してきた人物。ほんの数年勤務しただけで「マッキンゼー出身」を謳う人も少なくないだけに、このキャリアには特筆すべき価値があるのではないでしょうか?ところでそんな著者は本書において、「努力」の本質的な意味をとらえなおしています。一般的に「努力することはいいことだ」と思われているし、もちろんそれはよいことなのだけれど、「努力をすればいい」と思った瞬間に大事なことを見失ってしまうというのです。つまり「努力をすればいい」のではなく、努力の質が重要だということ。同じ時間をかけるのであれば、すべて「いい努力」に転換したほうがいいという考え方です。たしかにそのとおりですが、だとすれば「いい努力」とはどのようなものなのでしょうか?著者によれば、それは7つあるそうです。■1:「成果」につながるものたとえば3年の再月をかけ、手塩にかけてリンゴの木を育てたけれども、ひとつも実らなかったとしたら、それは「いい努力」ではないと著者はいいます。「いい努力」とは、その努力をした結果、成果が出るもの。リンゴの木を育てるのなら、リンゴを実らせるのがいい努力だということです。■2:「目的」が明確なもの成果とは結果であって、すぐに出るものではありません。「なにをすれば成果につながるのか?」、そんなこと100%はわからないのが当たり前だということです。その状態で努力をするのだから、大切なのはいちばん先に目的を意識し、明確にすること。つまり、目指す成果がどんなものであるか、それを明確にすることだというわけです。いってみれば「いい努力」とは、目的が明確なもの。「自分はなんのために努力をするのか?」と、常に考える必要があるのです。■3:「時間軸」を的確に意識しているもの目的がはっきりしていても、「いつまでに」が漠然としていたのでは意味がありません。「5年以内に県内ナンバーワンのリンゴ農家になる」ことが目的なのか、「来年、リンゴを100個つくる」ことが目的なのかによって、努力の仕方は変わってくるということ。目的を達成する時間軸を的確に捉えていない努力は、「いい努力」とはいえないわけです。■4:「生産性」が高いもの「成果が出ることは出るけれども、そのためには膨大な時間と労力を要する」という努力も、「いい努力」とはいえないと著者はいいます。同じ成果を導けるのであれば、かかる時間やコストは小さいほうが望ましい。より短い時間と小さな労力で高い成果を出せるほうが、よりよい努力といえるわけです。■5:「充実感」を伴うもの「いい努力」をしている最中は、フラストレーションや挫折感を意識することは少ないもの。逆にいえば、「悪い努力」の場合、やってもムダなことをしたり、本当は必要のない障害を乗り越えるためにエネルギーを費やしたり、進んでいた道が行き止まりで戻るはめになったりするので、ネガティブな感情が生じてしまうということです。しかし「いい努力」には、余計な動きが少ないと著者はいいます。ムダなことに振り回されることなく、手応えを感じながら進んでいる状態になるのだということです。■6:「成功パターン」が得られるもの「いい努力」を続けていると、「高い成果を出すには、このパターンの努力がいい」ということが自然にわかってくるもの。「いい努力」をすればするほど、その蓄積によってたくさんの成功パターンを会得でき、さらにいい努力ができるようになっていくということ。また、自分自身の経験のほかに、うまくいっている人から学んで真似ることによって、成功パターンを増やしていくことも大切だといいます。■7:「成長」を伴うもの生産性が高く、高い成果が出るというだけで、それは十分に「いい努力」。しかし「いい努力」のあとには、「成長」といううれしい副産物がついてくるものだというのです。明確な目標に向かって、期限を意識し、生産性を高める「いい努力」をすれば、自分自身も身のまわりの環境も進化、成長するもの。「いい努力」をする人は、試行錯誤しながら成果に結びつくパターンをつかんでいけるし、まわりの環境がその人の働きかけによって変わっていくということです。成長した人が進化した環境で働けば、次はさらに高い成果を出すことができるという考え方。1年間でリンゴを5万個つくるパターンをつかんだ人が、そのパターンを使ってさらにいい努力をすれば、翌年には7万個生産できるようになっていくというわけです。*こうした“基本”をもとに、本書ではさらに奥深く「いい努力」のあり方を考えています。先にも触れたとおり、努力は有形無実になりがちなもの。だからこそ、その本質を見逃さないためにも本書を読んでおくといいと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山梨広一(2016)『マッキンゼーで25年にわたって膨大な仕事をしてわかった いい努力』ダイヤモンド社
2016年08月24日『伝説の算数教室の授業』(宮本哲也著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者が経営する「宮本算数教室」への入塾方法は、「無試験先着順」。にもかかわらず、毎年、生徒の大半が開成、麻布、栄光、筑駒、駒東、桜蔭、フェリスなど首都圏の最難関校に進学するという実績を叩き出しているのだそうです。本書は、小3~小6、中学受験直前までの授業の実況中継に加え、これまで明かされることのなかった問題を含め、実際に同教室で使われているパズル、テスト問題を全種類網羅したもの。2006年の『超強育論』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を再編集して刊行した『宮本算数教室の授業』(同)に、『超強育論』の理論編から一部抜粋したものを加え、再々編集したのだそうです。では著者は、算数を教えることについてどう考えているのでしょうか?「はじめに」から、基本的な考え方を確認してみましょう。■子どもが算数を学ぶ目的はなにか著者は本書の冒頭で、「子どもに算数をやらせる目的はなんでしょうか?」と読者に問いかけています。もしも「いい中学に入れるため」と答えたとしたら、残念ながら0点なのだとか。なぜなら算数をやる目的はただひとつ、「賢くなるため」だからだというのです。では、なんのために賢くなるのでしょうか?それは「よりよく生きるため」。これは、「自分に合った生き方を見つける」ここといいかえることもできるそうです。当然ながら、自分に合った生き方は本人にしか決めることができません(著者は、親がかわりに決めるなどもってのほかだと主張してもいます)。だとすれば、そのために必要なのは「情報を取捨選択する力」と「条件を整理する能力」。そしてこの2つの能力は、算数によって高めることができるというのです。そして著者は、これ以外の目的を持つべきではないともいいます。中学受験の成功など、ささやかな副産物にすぎないもの。なのに、そちらにばかり気を取られて本質を見失うと、間違った方向に進んでしまいかねないから。■大切なのはやはりバランスである人生は二者択一の連続。「どっちに進むべきか?」という岐路に立ったとき、後悔しないためにはあらゆる情報を集め、優先順位を決めることが必要です。いうまでもなく自分にとって優先順位の低いものから消していくことになるわけですが、そうすればおのずと方向は決まるということ。このことを踏まえたうえで著者は、「私の授業の目的は子どもを賢くすることにあります」と断言しています。たとえばピアノの国際的なコンクールで入賞するためには、実績のある先生について、ひたすら練習をする以外にありません。水泳でオリンピックに出て優勝するためにも、実績のあるコーチのもとで、ひたすら練習する以外に方法はないでしょう。しかしどちらも、やればやるほど上達するというわけでもありません。大切なのは、健康であることと、自分の意思で練習に臨むこと、そのふたつのバランス。■算数のできる子はどんな子なのかこの考え方を算数に当てはめてみた場合、練習は計算練習ということになります。では、「算数のできる子」とは「計算が速い」「難しい問題をすらすら解く」子どもでしょうか? それは違うと著者。大切なのは、「どれくらい深く考えられるようになるか」だというのです。計算は正確でありさえすれば、それほどスピードは必要ないそうです。また、本当に難しい問題は、誰がやってもすらすらとは解けないもの。70ページの「究極の数理パズル」など、誰がやっても10分以内に解くことなど不可能なわけです。もちろん繰り返し練習すれば速く解けるようにはなるでしょうが、初見では無理。■大切なのは計算の速さではない!そして重要なのは、すらすら解ける問題を解いているだけでは、学力は向上しないということ。著者が教室で、できる子を見ていて感じるのは「集中力の高さと考える深さ」だそうです。そういう子は、いったん問題を解きはじめると決して顔を上げず、ノートの上で問題と壮絶な戦いを繰り広げるというのです。しかも、答えを出したとしても、そこで終わらないのだとか。むしろ勝負は、答えを出してから。つまり、自分が出した答えに誤りがないかどうか、あらゆる方法を駆使して確認するのです。これが、「大切なのは計算の速さではなく、考える深さ」ということの意味。■自分なりの価値観を持つのが大切事実、最近の中学入試算数では、レベルの高い学校ほど問題数が少ない傾向にあるそうです。だから速さなど必要なく、粘り強く問題に取り組み、時間がある限りひたすら見なおしをする。計算の速さは有効な武器にはならず、無理にスピードを上げようとすると、雑になるだけだということです。「算数の上達=賢くなる」。そして賢くなることとは、計算が速くなることではないという考え方。ましてや算数の点数が上がることでもなく、レベルの高い中学の入試問題が解けることでもなく、そういう中学に受かることでもないといいます。大切なのは、ものを考えることができるようになること。つまり、自分なりの価値観(=判断力)を持てるようになることが大切だというわけです。*こうした考え方に基づいた本書には、説得力のある考え方がぎっしりと詰まっています。「たし算パズル」「お楽しみテスト」「思考力アップ問題」「推理パズル」「ラストスパート問題」など、掲載されている問題もオリジナリティ豊か。子どものいる方であれば、一度、手に取ってみる価値はあると思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※宮本哲也(2016)『伝説の算数教室の授業』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年08月24日タイトルからわかるとおり、『働きながら60歳で慶應義塾大学を卒業した私の生涯学習法』(大森静代著、合同フォレスト)の著者は48歳で慶應義塾大学に入学し、12年かけて卒業したという異例の経歴の持ち主。本書ではその稀有な経験に基づき、誰にでもできる「生涯学習」の重要性を説いています。でも、なぜ年齢を重ねてから大学に進学しようと思ったのでしょうか? そこには、さまざまな事情があったのでした。■中学・高校在学中に大病を患った1945年に東京で生まれた著者は、中学・高校在学中に大病を患ったため学校を長期欠席したのだそうです。一時期は、病院から高校へ通学していたこともあったのだとか。しかしそのような状況では、勉強に遅れが出てしまっても無理はありません。事実、欠席によって勉強は大きく遅れてしまい、成績はガタ落ちしてしまったのだとか。ところが通っていた高校の進学率は90パーセントだったため、劣等感に悩まされたといいます。とはいえどうすることもできなかったため、仕方なく大学進学を断念し、出光興産に就職することになります。■48歳の時に慶應義塾大学に入学そして、その後結婚したものの、12年で離婚。その後はシングルマザーとして女手ひとつで2人の子どもを育てたそうです。子どもの手が離れたことを契機に大学進学を目指したのは、一度は諦めた進学の夢を叶えたかったから。そこで48歳で慶應義塾大学に入学し、通信教育課程で学ぶことにしたのだといいます。とはいっても、勉強と仕事、家事を並行して行うことはそうそう楽ではないはず。事実、何度も失業、再就職を繰り返すことに。とはいえ折れることなく、キャリアアップのため職業訓練校に入学し、50歳で簿記や電卓の資格を取得したというのですから、そのバイタリティには驚かされるばかりです。しかも、もちろんその間も大学は継続していたわけです。そのため、卒業率3%の難関を乗り越えて卒業したときには60歳になっていたわけです。■何歳でも遅いということはない!さて、さまざまな事情によって大学に進学できなかったという方、あるいは中退してしまったという方もいらっしゃるでしょうが、「できれば大学に行きたかった」という思いが残っている方には、ぜひ本書を読んでいただきたいと思います。なぜなら著者は本書のなかで、大学の通信教育課程の可能性について解説しているから。しかも自身がそれによって卒業資格を得ているだけに、強い説得力があるのです。大学通信教育は、社会人でも仕事と両立しながら学べるところが最大の魅力。誰でも学べる生涯教育の場として、各大学で開かれているそうです。在学生の年齢は、たとえば慶應義塾大学通信教育課程の場合、~29歳:19.2パーセント30歳~:26.3パーセント40歳~:26.0パーセント50歳~:15.7パーセント60歳~:12.8パーセントだそうです(「データで見る通信教育部2014年度」慶應義塾大学通信教育課程より)。つまり、何歳になっても遅いということはないのです。■通学課程と通信教育は同じレベルところで通信教育には、「通学課程とくらべればレベルが低いんだろう」というようなイメージがあるかもしれません。しかし大学通信教育は、学校教育法に定められた大学。平成11年には、大学院で修士過程の通信教育がはじまり、平成15年には博士課程の通信教育もはじまったのだそうです。そして、もっとも注目すべきポイントがあります。通信教育課程は通学課程と形態こそ異なるものの、授業も試験もレベルは同じだということ。教員も、通学過程の方があたるのだといいます。また大学にもよりますが、一定の単位を修得したら、通学課程への編入試験を受けることも可能。卒業できれば学位記が授与されますが、それも通学課程と同様のもの。卒業したら、履歴書に書くのは「○○大学△△学部卒業」。成績証明書には「通信教育課程」の文字が入るものの、卒業証明書には入らないのだそうです。つまり、一般的なイメージ以上に、通信教育課程には可能性があるわけです。*本書が教えてくれるのは、「やる気さえあれば年齢なんか関係ない」ということ。「それを成し遂げた」という前提のもとで書かれているため、強い説得力があるのです。なお著者は現在、「生涯学習アドバイザー活き活きLifeアドバイザー」という肩書きのもと、ボランティアでの清掃をはじめとする多くの活動を通じ、人と人のコミュニケーションづくりに尽力しているのだとか。まだまだ、やるべきことはたくさんあるようです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※大森静代(2016)『働きながら60歳で慶應義塾大学を卒業した私の生涯学習法』合同フォレスト
2016年08月22日『子どもが変わる 運動能力を伸ばす育て方』(伊藤一哉著、フォレスト出版)の著者は福岡を中心として、全国的にも珍しい「自信を育むための運動教室」を展開している、「グラッチャ子ども運動トレーニングセンター」代表。これまでサッカー、体操、空手、テニス、スポーツ家庭教師などさまざまな運動教室の運営に携わってきたという人物で、指導してきた生徒は1,000人を超えるのだとか。本書では子どもたちと一緒に汗を流した経験を軸として、子どもの運動能力を伸ばすコツや、子どもを運動好きにする方法を明かしているわけです。■12歳までに運動神経は決まる!運動が好きになり、運動で身につく能力を高めることには、さまざまなメリットがあると著者は主張します。また、運動を経験することで身につく力には、大きく「体」と「心」の成長があるのだそうです。そして著者が注目している年齢は、「ゴールデンエイジ」と呼ばれる一生のなかで唯一、動作の習得に特化した時期。ゴールデンエイジとは3歳から12歳までの時期にあたり、つまりは幼稚園から小学校にかけての年齢です。この時期に多くの動作の経験をしていることが、一生の運動神経を決めるといっても過言ではないというのです。また、同じように忘れてはいけないのが「心の成長」。運動が上達していく過程において、「運動にハマる」「相手との競争や仲間との協同」「反復練習による習得」など、子どもは日常生活にはないさまざまなことを経験します。そしてそれらを通じて、集中力や忍耐力、集団のなかでの行動、適切な選択など、大人の社会を生き抜くために必要な力を身につけるということ。■習得と集中の力で勉強力も変わる運動することで得られるさまざまな効果のなかでも、著者は「習得の力」と「集中する力」に注目しているのだそうです。少し意外な気もしますが、「習得の力」と「集中する力」によって、「勉強の力」も劇的に変わるというのです。習得する力が身につくと、子どもはさらにレベルアップしたくなるため、「習得の連鎖」が起こるから。それは、どんな能力を高めるうえでも最高の循環だといいます。さらにいえば、習得をするために欠かせないのが「集中する力」。子どもは習得することが楽しくなると、そのために想像以上の集中力を発揮するもの。いわば運動を習得する喜びが、集中力を養う力になるというわけです。■運動は自信をつけるためにも有効そしてもうひとつ、大切な力として特筆すべきが「自信」。自信がつくと、クラスでリーダーシップを発揮できるなど、さまざまなメリットが生まれるのです。自信を身につけるためには、「できた!」という、その子自身の気づきが必要。自分でやってみて、「やれた」という感覚をつけることが自信につながっていくということです。また、お父さんやお母さん、学校の先生、体育教室の指導員、習いごとの先生などからほめられることで、自信をつける子どももたくさんいるそうです。そういう意味でも、そのきっかけとなりやすい「運動」を経験することはとても大切だというのです。■いつから運動をはじめればいいかでは具体的に、いったいいつから運動をはじめればいいのでしょうか?このことについてはさまざまな意見があるそうですが、著者は「早ければ早いほどよい」と考えているのだといいます。時期に多少の違いはあるものの、子どもには神経系の発達が盛んな時期があります。そのとき、一生のうち一度だけ、そして生まれてからこの時期までに、神経系の95%程度の発達が終わってしまうというのです。その時期とは、生まれてから第二次性徴(小学校高学年~高校生くらいに起こる、大人の体になる時期)まで。細胞分裂が盛んに起こり、体の発達が激しい時期に、神経系の発達もピークを迎えるわけです。イメージしやすい例を挙げましょう。幼少期までに自転車に乗れるようになれば、大人になっても乗ることができます。たとえ久しぶりだったとしても、体が記憶しています。つまり神経系での習得とは、このような現象のこと。しかし大人になってからでは習得に時間がかかり、また、すぐに忘れてしまいます。なぜなら体に身につくのではなく、頭に記憶として残っているだけで、体がついてこないから。神経系での習得と、そうでない場合とではこれだけの違いがあるからこそ、少しでも早く、たくさんのことを体感することが大切だというわけです。*本書にはこうした基本的な考え方から、子どもの運動能力を伸ばすためのエクササイズまでが網羅されています。そのぶん、子どもの運動能力と、それを伸ばすためのメソッドを効率的に身につけることができるでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※伊藤一哉(2016)『子どもが変わる 運動能力を伸ばす育て方』フォレスト出版
2016年08月22日「過去の栄光」をよりどころにして、現在の自分を過大評価しているため、目の前の現実をきちんと認識できなくなる。その結果、独善的で横暴になってしまう……。そんな「傲慢」な人が増えていると指摘するのは、『オレ様化する人たち あなたの隣の傲慢症候群』(片田珠美著、朝日新聞出版)の著者。精神科医として臨床に携わりながら、犯罪心理や心の病の構造を分析しているという人物です。精神分析的な視点で、社会問題にも積極的に携わっているそうですが、そんな立場上、どうしても傲慢な人たちのことが目についてしまうというのです。■よく「お金は怖い」といわれる理由本書では傲慢な人たちのことを、「傲慢症候群」と呼んでいます。これは政治家であると同時に精神科医でもある、イギリスのデービッド・オーエン元外相が提唱したものだそうです。オーエン氏は「傲慢症候群」について、病気ではなく、「権力の座に長くいると性格が変わる人格障害の一種」だと考えているのだといいます。たしかに、「権力を握ってからおかしくなった」といわれるような人はどこにでもいるもの。同じように、お金に関連した「傲慢な人」の話もよく聞きます。そもそも「お金は怖い」と、よくいわれていますよね。いうまでもなくそれは、「お金を持った途端に人が変わったようになる」とか、「お金を手に入れるためならどんなことをする」というようなケースが少なくないからです。また、期せずして大金を手にしたとたん、それまでとは別人のごとく傲慢人間に変貌するというようなことも往々にしてあるでしょう。事実、本書においても、その典型というべき事例が紹介されています。■豹変してしまった傲慢症候群の女性「お店で値切らない人は馬鹿」「外車なんて、成金の乗り物」「日本人はメイド・イン・ジャパンが常識」「清貧こそ美しい」ある女性は、ことあるごとにそう吹聴していたといいます。そして、お金や地位のある男性と結婚した知り合いの女性たちに対しては、「あんた、玉の輿狙いね」などと揶揄し続けてきたというのです。ところが、あるとき、この女性の状況が一変します。母親が病死し、思いもよらず遺産相続で大金を手にすることになったというのです。すると一転、まず彼女は外車を買い、次いでタワーマンションの高層階の部屋を2戸買い、娘夫婦に1戸を与えたのだそうです。さらに孫には、ヨーロッパ製のおもちゃをたくさんプレゼント。そして娘の夫に向かって「あなたに甲斐性がないからと言って、娘にみじめな暮らしはさせられない。だから私が買ってあげるの」といい放ち、自分の夫に対しても「あなたが安月給だから、私は苦労している」というようになったそうです。さらには以前とは別人のように、「国産車しか買えない人はかわいそう」「スーパーは民度が低いから、食材はデパ地下でしか買わない」「娘はしょっちゅうパリに買い物に行く」というようなことを、わざわざ周囲にいって回るようになったのだとか。しかも、まわりから呆れられているにもかかわらず、本人は悪びれる様子がまったくなし。■豹変する女性は元々金銭欲が強め!つまり、この女性はいきなり大金を手にしてしまったことによって、お金の力を過信するようになり、その結果として傲慢になってしまったというわけです。考え方も行動も以前とは一変したわけですから、驚かざるを得ません。しかし著者は、「この変貌ぶりを見る限り、この人は過去の言葉とは裏腹に、もともと金銭欲が強かったのかもしれない」と分析しています。つまり、親の遺産を相続するまで清貧を過度に美化していたのは、お金がほしくてたまらなかったのに、お金に縁がなかったから。そのため、自己正当化せざるを得なかったからだということ。だからこそ、大金が入った途端に豹変したのだというわけです。ちなみに、散財しまくり、それを周囲にも自慢し、お金のない人を見下すというこの極端なあり方は、成金にしばしば見られる兆候だと著者はいいます。ひとことでいえば、品がないのです。しかも、これだけ派手に消費していたら、いくら大金でも遅かれ早かれ底をつくのは火を見るより明らか。いつまで傲慢な振る舞いを続けられるかは、はなはだ疑問だといいます。*他にも本書では、さまざまなタイプの傲慢人間の事例が紹介されています。つまり、「そんな人たちと対峙したとき、私たちはどうすべきなのか」が本書の論点となっているわけです。なにしろ傲慢な人たちを題材としているわけですから、決して気持ちのいい話ばかりではありません。しかし、現実的に傲慢な人が増えているのであれば、彼らから身を守る術を心得ておく必要はあるはず。そういう意味で、本書には大きな価値があると感じます。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※片田珠美(2016)『オレ様化する人たち あなたの隣の傲慢症候群』朝日新聞出版
2016年08月18日日本勢が大活躍していることもあり、リオ五輪が連日盛り上がりを見せています。そんなときだからこそ読んでおきたいのが、『メダリストに学ぶ 前人未到の結果を出す力』(松原孝臣著、クロスメディア・パブリッシング)。スポーツ総合誌『Number』編集部に10年間勤務したのちに独立し、以後はノンフィクション、スポーツをメインとしたライター兼編集者として活躍している著者が、多くのスポーツ選手や指導者50名の言葉を選び抜き、その背景とともに紹介した書籍です。「スポーツはあらゆる要素が凝縮された世界であるだけに、そこで生きている彼らの言葉には、あらゆる体験や心情が凝縮されている」という著者の主張には、とても力強いメッセージが込められています。きょうはそのなかから、数字に関わる印象的なストーリー「10の力が、20、30にもなる」を抜き出してみたいと思います。■不利な条件「低長差」を団結力で克服ロンドン五輪でのバレーボール全日本女子の銅メダルは、実に28年ぶりのオリンピックのメダルでした。でも、なぜ28年もの歳月が経過してしまったのでしょうか?理由は明快です。バレーボールは、身長差が競技の優劣につながりやすい競技だから。つまり全日本がメダルから遠ざかっていたのは、平均身長が低いという不利な条件を克服できずにいたからだということです。ロンドンでも参加12チーム中、下から3番目の平均身長だったため、その差を克服しての銅メダルだったというわけです。ちなみに大会のあと、勝てた理由として選手たちの口から出たのは「チームワークのよさ」だったのだとか。また眞鍋政義監督自身も、「団結力」が強みだったと語っているそうです。そして、そのチームワークが築かれた背景には、「ぶれないチーム」強化の方針が関わっているというのです。■目指す方向が一致するからまとまる!試合中にiPadを片手にしていたことから、眞鍋監督は「データの駆使」を特徴として挙げられていました。しかも漠然とデータを用いるのではなく、「日本のチームにとってなにが必要か」という観点から利用していたというのです。それが指し示すように、「どのような戦い方をしてメダルを目指すか」について明確な戦略があり、そのうえで戦術を立て、データも利用したということ。当然のことながら選手にも、「どのようなプレーを重点的に行うか」を明示したそうです。つまり、一貫した方針があり、「なにをすればいいのか」がはっきりすることで、選手には迷いがなくなるということ。みんなで目指す方向が一致するからこそ、まとまりが生まれるというわけです。■方針ひとつで真のチームワークが発生そして眞鍋監督はそのうえに立って、情熱を持って個々の選手と接していったのだとか。それが必要不可欠なことだということは誰にでもわかりますが、ここにも見逃せないポイントがあるようです。つまり、その姿勢が効果を発揮したのも、あくまでもチームの方針がはっきりしていたからだということ。だからこそ、単なる「まとまろう」というような精神面での協調ではなかったし、本当の意味でのチームワークが生まれたということです。■ビジネスでも応用できる3つの考え方しかしそれは、スポーツチーム以外の組織についても応用できることだと著者は主張しています。会社の一組織であれ、プロジェクトであれ、「目指す方向とそこに至る方針」がはっきりしていなければ、構成員はバラバラな方向を見てしまい、まとまりが生まれることはないということ。いってみれば、情熱を説くよりも前に、それがあるかどうかが重要な鍵になってくるという考え方です。そして、このことに関連して、著者は次の3点を読者に対して投げかけています。(1)目標と方針は明確か(2)精神論でごまかしていないか(3)目標と方針を周囲と共有できているか私たちにとっても、非常に重要な意味を持つ言葉だといえるのではないでしょうか?*ここにも明らかなとおり、アスリートたちの真実の姿を浮き彫りにした本書には、もうひとつの側面があります。単なる「すごい人たちの名言・ドラマ集」ではなく、彼らがやってきたことを、ビジネスの現場に応用させようという意図が込められていること。しかも、成功も失敗もくぐり抜けてきた人たちの言葉だからこそ、ひとつひとつが心を打つはず。なんらかの理由で落胆していたり、仕事で壁にぶつかったりしている人にも、強い力を与えてくれる一冊だといえます。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※松原孝臣(2016)『メダリストに学ぶ 前人未到の結果を出す力』クロスメディア・パブリッシング
2016年08月17日『まんがでできる 営業の見える化』(長尾一洋著、久米礼華イラスト、あさ出版)は、「どうすれば売れるのか」についての仕組みをマンガで解説したもの。その根底にあるのは、営業で「なにか問題がある」「思うようにいかない」ということがある場合には、それを「見える化(可視化)」することが必要になるという考え方です。そこで、製菓会社に勤める「営業女子」の奮闘を通じ、営業を可視化するためのポイントを紹介しているわけです。しかし残念ながら、まんがをここで紹介することはできませんので、そのストーリーを補足した「おさらい」の部分から、要点を抜き出してみたいと思います。■営業マンの活動が気になってしまう理由営業の可視化とは、「営業マンをチェックする」ということだと考える人がいるかもしれません。営業マンは客先に行くのが仕事であり、基本的にその活動は上司や同僚から見えなくなってしまうもの。そのため、「可視化したい」というニーズが高くなるということです。早い話が、「サボッていないか」が気になるということですが、それはなぜでしょうか? 簡単な話で、会社は営業マンに固定給を払っているから。業績に連動する歩合部分が多少あったとしても、固定部分の給与を払っていれば、「給与分、働いているのか?」「同じ給料で何件回ったのか?」ということが気になってしまっても無理はないということです。■アメリカの営業マンは成果報酬型が多いところで、「セールスレップ」と呼ばれるフル・コミッションの営業マンが多い米国では、日報もないのだといいます。売れた分だけ報酬を支払うわけなので、「何件訪問したか」「何本電話をかけたのか」「何時から何時までなにをしたのか」というようなことはどうでもよく、見込み先の情報だけがあればいいということ。日本でもフル・コミッションの形式をとる営業では日報はほとんど書かれていませんが、それでも固定給部分を支払うことが少なくないのだとか。そのため、日報を行動管理に使っていることが多く、「営業の可視化」=「営業マンの行動の可視化」と考えてしまうのだといいます。しかし問題は、行動管理を目的として日報を書かせても、都合の悪いことは書かず、ごまかすようになるということ。これを「行動管理日報の悪循環」と呼ぶそうですが、これでは日報が形骸化してしまい、営業の可視化も進まないわけです。つまり、営業マンの行動管理をするだけでは、継続的に業績を伸ばすことはできないということです。■営業の進め方の「標準プロセス」作成を営業を可視化するためには、まず見るための「ものさし」や「尺度」を決めなければならないといいます。それが、「標準プロセス」。これによって営業活動の基本的な進め方を統一し、それを基準にして「自分の商談がどこまで進んでいるのか」を測るというわけです。標準化したものがないと、営業マンが日報を書いても、「訪問したかどうか」「そこでなにがあったか」を羅列しただけのものになってしまうため、「ものさし」をつくるという考え方です。■標準プロセスがあれば進捗度もわかる!標準プロセスを決定するためにまず必要なのは、検討するメンバーを選出すること。具体的には営業力の高い成績優秀者、いろいろな顧客や商品を知っているベテラン営業、そして営業をマネジメントする立場の営業管理者で構成し、5~7名程度で検討会議を行うというのです。そこで標準プロセスをつくるわけですが、難しいことではないとか。ホワイトボードに営業の手順・進め方を、意見を聞きながら書き出していく。あるいは付箋を使って貼っていく。そんな作業を続けていると、「おおむね、これが標準パターンだな」といえるものが見えてくるというのです。企業によっては、案件種別ごと、商品カテゴリーごとに進め方が違うというケースがあるので、必要に応じて検討することが大事。このとき、ベテラン営業マンが我流でやっているようなことは無視していいのだとか。無理してベテランを標準プロセスに従わせる必要もないといいます。あくまで尺度をつくることが目的なので、まずは標準プロセスを確定させることが大切だということです。そしてできあがったら、その標準プロセスに従って若手や部下の指導を行うようにする。これには、ベテランが我流を若手に教え込まないようにするという効果もあると著者はいいます。標準プロセスが決まれば、商談の進捗度も明確になり、どのプロセスで商談が滞留しているのかというようなことも可視化されるというわけです。*このように営業マンに欠かせない大切なことを、まんがでわかりやすく解説しているため、無理なくノウハウをつかめるはず。営業マンは、手に取ってみるといいかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※長尾一洋(2016)『まんがでできる 営業の見える化』あさ出版
2016年08月17日人は、ゴールがあるとがんばれるもの。だから、ゴールが遠い人生だったとしても、要所要所にゴールを設定すれば、メリハリが効くことになる。仕事にしても同じで、「とにかく長く仕事をする」のではなく、「何時」とゴールを決めて、そこで終わらせるために努力をすることが重要。間に合わなければ、翌朝早くからやる。そういう姿勢が大切なのだと訴えかけるのは、『こいつできる! と思われる いまどきの「段取り」』(野田宜成著、日本実業出版社)の著者です。日産車体のエンジニアを皮切りとして、以後は船井総合研究所でコンサルティングに携わり、まぐまぐ事業開発室長を務めたのちに独立し、「継続経営コンサルタント」として活躍しているという人物。そんな華々しい実績と経験を軸として、本書では段取りのよい人と悪い人との差を解説しているのです。きょうはそのなかから、時間についての考え方を抜き出してみたいと思います。■必要な時間とムダな時間の見極め方当然のことながら、時間は限りあるもの。そしてコンピュータが発展した現代においては、その限られた時間のなかで、たくさんのことをやっている人と、そうでない人の間に大きく差が出るようになっていると著者は指摘しています。「業務は人に任せてもいい」と考えている人と、「業務は依頼を受ける指示待ち」という人とでは、大幅に時間の使い方が変わってくるもの。「なにをすべきか」を考え、コンピュータや機械、他の人に任せ、自分は考える側になると、仕事が早くなるわけです。そしてこれからの時代は、ガムシャラに働くのではなく、上手に時間配分ができ、時間をコントロールできる人が優遇されるようになるといいます。そこで重要な意味を持ってくるのが、「必要な時間か、ムダな時間か」を見極められるかどうか。必要な時間とは、・自分にしかできないもの・未来から見ていま必要なことムダな時間は逆で、・誰もができるもの・未来から見て必要のないことだといいます。■一見ムダな気がするけど必要なものそして、必要な時間とムダな時間を見極めるにあたっては、「一見ムダに見えて必要なもの」がいちばん厄介なのだそうです。それは3つあるといいます。1つ目は、誰でもできる単純作業だけれど、それをやることにより、改善が見つかるなどの効果があるかもしれないもの。現場に入ってみることなどが、これにあたるといいます。2つ目は、積極的休養。休みは一見ムダに見えますが、人間は機械と違って、ときどき休まないと動けなくなってしまうもの。そこで、必ず余裕を持って時間を設定することが大事だということです。たとえば1週間のなかで、1日は予定を入れない日をつくる。あるいは1日のうち1、2時間はなにも入れないようにする。そうした時間には、人と会う、本を読む、旅をするなど、未来への投資にあてるわけです。3つめは、過去について向き合うこと。現在から見て過去はすでに終わったことですが、未来を生み出すためには、過去と向き合うことがとても大切なのだと著者は感じているのだそうです。お墓参りに行くとか、親孝行をするとか、祖父母に先祖のことを聞くとか、生まれ育った土地を知るなど。それらが必要だという因果関係を明確に言葉にはできないものの、多くの成功者たちを見ると、確実にこの領域を大切にしていると著者はいいうのです。また著者自身も、お墓参りの回数を増やしたときから、ムダな時間がなくなってように感じているのだとか。しかしこれは、決して霊的な意味ではありません。著者は、こう解釈しているのだそうです。お墓に行くと、誰もが手を合わせます。本当はそこには誰もいないのに、いるような気にもなるし、いるつもりで、お礼や報告、お願いごとをするわけです。すると、なぜかピリッとした気持ちにはならないでしょうか?著者によればそれこそが重要で、「誰もいないときにも誰かが見てくれている。だからちゃんとしよう」と、だらけたころにピリッとすることが出来る癖づけをしているように思うのだというのです。つまりそういう意味において、過去を振り返ることもまた必要なのではないかという考え方です。■うまく時間配分するためのポイントいずれにせよ、このように時間配分は重要。まとめてみると、○よい段取り:必要な時間を意識し、ムダな時間も必要な時間にしてしまう△惜しい段取り:必要な時間とムダな時間をきっちりと分け、いつも余裕がない×悪い段取り:ムダな時間を過ごし、自分しかできないことをしていないということになるのだとか。「忙しい忙しい」と言葉にするだけになってしまわないように、心がけておきたいものです。*全体を通し、段取りのよい人と悪い人とをシチュエーション別に、しかも具体的に比較しながら説明が進められていくためとてもわかりやすい内容。段取り上手になるためには、読んでおくべきかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※野田宜成(2016)『こいつできる! と思われる いまどきの「段取り」』日本実業出版社
2016年08月15日『人望が集まる人の考え方』(レス・ギブリン著、弓場隆訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、「よい人間関係とは、自分が求めているものを手に入れるのと引き換えに、相手が求めているものを与えること」だと主張しています。そこで本書では、相手が求めているものを与えることによって、自分が求めているものを手に入れるための方法を説いているのです。それは、きわめてフラットな考え方。自分が求めているものを相手から奪い取るのではなく、ましてや与えてもらうために媚びを売るのでもなく、あくまでもギブアンドテイクの精神で「公平な交換を行う」ということなのですから。心理カウンセラーで、なおかつ累計500万部突破ベストセラー作家でもある著者は、よい人間関係を築くためには、人間の習性についてしっかり学ぶことが大切だとも主張しています。そして、そのためには人間の理想の姿を追求するのではなく、人間の現実の姿を究明する必要があるのだとも。人間の習性をよく理解して初めて、成功と幸福を手に入れるきっかけをつかむことができるということなのかもしれません。たとえばそのひとつが、「人々を引きつける3つの条件」。あるいは、「友情をはぐくんで相手を味方につけるための3つの条件」といいかえてもいいのだといいます。その内容をよく理解したうえで活用すれば、多くの人のことを引きつけることができるというのです。それぞれを確認してみましょう。■人々を引きつける3つの条件とは?(1)相手を受け入れる人間は誰しも、あるがままの自分を受け入れてほしいと強く思っているものです。しかしその一方、現実的には人前で自分を曝け出すだけの勇気を持っている人はほとんどいません。そこで私たちは、一緒にいて自分らしくいられる相手を求めるものだというのです。なぜなら、そういう人といると、ありのままの自分を受け入れてもらえるように感じるから。逆にいえば、絶えず人のあら探しをし、そればかりか欠点をなおすためのアドバイスまでするような人は、親友を見つけることができないわけです。だから、「他人がどう振る舞うべきか」について厳格な基準を設定してはいけないと著者はいいます。大切なのは、自分らしく振舞う権利を相手に与えること。その人が少し変わっていたとしても、それは否定すべきではない。むしろ、相手が自分と同じように振る舞い、自分と同じものを好きになるように主張してはいけないといいます。そこで一緒にいるときは、相手がくつろげるように気を配るべきだというのです。相手をあるがままに受け入れて好きになる人こそが、相手の行動を改善するだけの影響力を持つのだと著者はいいます。他人を変える力を持っている人はいないけれども、相手をあるがままに受け入れると、自分を変える力を相手に与えることができるというのです。(2)相手を認める当然ですが、すべての人が自分を認めてほしいと強く思っています。人はみな、「承認願望」を持っているものだから。そして相手を認めることは、相手を受け入れることよりもさらに進んだものだと著者は主張しています。相手を受け入れることは、「欠点があるけれども受け入れる」という意味なので、ややネガティブ。一方、相手を認めるということは、相手の欠点を辛抱することを超え、積極的に長所を見つけることだからポジティブなのだという考え方。誰にでも相手のなかに「認めるべきもの」を常に見つけることができるし、「認めるべきでないもの」も見つけることができるもの。そして、それは「なにを探し求めるか」によるといいます。もしネガティブな性格なら、相手の欠点を絶えず探し求めるだろうし、ポジティブな性格であれば、相手の長所を常に探し求めるということ。ネガティブな人は相手の欠点に焦点を当てるため、相手のなかにある最悪のものを引き出してしまいがち。しかしポジティブな性格の人は認めるべきものに焦点を当てるので、相手の長所を引き出すことが可能。そして人々は他人に認めてもらうと気分がよくなり、さらにいい気分になるために他の資質も伸ばして「もっと認めてもらおう」と努めるものだといいます。(3)相手を尊重するすべての人は、自分を尊重してほしいと強く思っているもの。この「尊重する」とは、相手の価値を高く評価するという意味だといいます。だからすべての人は、自分の価値を高く評価してくれる人を常に探し求めているというわけです。だからこそ、相手の価値を高く評価していることを伝えることはとても大切。相手に感謝し、相手を待たせず、相手を特別扱いすることが大切だというのです。■相手を尊重していることを示す方法このような考え方を軸に、著者は「相手を尊重していることを示す方法」についてまとめています。(1)できるかぎり相手を待たせない(2)すぐに面会できない場合、来訪を確認していることを知らせ、なるべく早く面会する(3)相手に感謝する(4)相手を特別扱いする人がもっとも「軽んじられた」と感じるのは、ぞんざいな扱いを受けたとき。繰り返しになりますが、すべての人は自分の価値を認めてもらい、自分を特別扱いしてほしいと思っているもの。そこで、これらを踏まえて相手と接すれば、関係はよりよいものになっていくというわけです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※レス・ギブリン(2016)『人望が集まる人の考え方』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年08月15日世界には、資産10億ドル保有者である「ビリオネア」が数多く存在します。しかし、彼らがなぜ成功したのか、その理由については、あまり明かされることがありませんでした。そこで注目したいのが、『10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか』(ジョン・スヴィオクラ、ミッチ・コーエン著、高橋璃子訳、ダイヤモンド社)。ロンドンを拠点とする世界的コンサルティングファームである「PwC」が、16カ月の徹底的な調査を行うことにより、ビリオネアたちについての真実を示してみせた興味深い内容です。■ビリオネア共通点はマインドビリオネアには、人生の早い段階で、なんらかの環境や経験に出会っているというようなイメージがあるのではないでしょうか?たとえばハンディキャップを抱えていたとか、不運な出来事を経験したとか、あるいは逆にとても恵まれた環境にいたのだろうとか。ところが調査の結果、意外なことにビリオネアに共通する結果は特に見られなかったというのです。それどころか、さらに深くデータを精査した結果、おもしろいことが見えてきたのだと著者はいいます。どうやらビリオネアの共通点は外的な要因ではなく、その人の内面、すなわち「マインド」にあるらしいということ。たとえば多くのビリオネアに顕著なのは、普通の人がバラバラに考えるものごとを、ひとつにまとめて考える能力なのだそうです。矛盾する考えや行動を排除することなく、自分のなかでうまく共存させることができるというのです。だから正反対のものを抱えながら、それでも思考が混乱しないということ。そしてビリオネア・マインドには、次の5つの特徴があるといいます。■ビリオネア・マインドの特徴(1)共感力と想像力で未来を描くーアイデアビリオネアは、現実の顧客が抱えているニーズを読み取る共感力を持っているもの。それは実際の体験や出会いを通じて、人々が潜在的に求めているものを感じ取る能力なのだとか。同時に、誰も思いつかないような製品をイメージする想像力も持ち合わせているそう。共感をベースに、「その先」を思い描く能力です。いわば共感力と想像力の融合が、爆発的な大ヒットを生み出すということなのでしょう。(2)最速で動き、ゆっくりと待つー時間ビジネスはタイミングが命ですが、新製品の発売や事業投資の適切なタイミングを正確に予測できる人はいません。だからビリオネアは、複数の時間軸を同時に意識するのだそうです。タイミングが予測不可能であることを知っているので、「短気」と「気長」の両面を同時に持ち合わせているということ。チャンスをつかむために最速で動く一方、気は熟すのを誰よりもゆっくり待つということ。(3)創造的にルーティンワークをこなすー行動クリエイティビティと現実的な能力は相反する物だと考えられているため、クリエイティブ部門とオペレーション部門が分かれている企業も少なくありません。しかしビリオネアは、クリエイティブなアイデアを考えるのと同じくらい熱心に実務をこなしているもの。普通の人ならルーティンワークと捉えるような日々の仕事においても創造性を発揮し、新たな価値を生み出すことができるというのです。(4)現在の金銭的損失よりも将来の機会損失を恐れるーリスクビリオネアにはリスクを好むかのように思われがちですが、それは誤解だと著者は断言します。むしろ、ビリオネアはリスクをあまり好まないというのです。ただ、普通の人とはリスクの選び方が違っているだけ。投資で損をしたところで、ビリオネアは特に気にしないといいます。なによりも気にするのは、いまあるお金を失うリスクではなく、将来の可能性を逃すリスクだということ。だからこそ、たとえ失敗しても、彼らは未来のために何度でもチャレンジをするのだそうです(実際、ビリオネアの多くは初期の事業であまり結果が出せなかったり、手痛い失敗をしていたりするのだとか)。(5)自分とは正反対の人を仲間にするー仕事相手ビリオネアには、孤高の天才のイメージがつきまといます。しかし現実がそうではなく、決して孤独ではないのだそうです。当然のことながら、並外れた成功を手に入れるためには、あるとあらゆる才能が必要となります。クリエイティブであるだけでなく、ときには退屈な作業をこなすことも必要であるわけです。だからビリオネアは、自分にないものを持った人を仲間に引き入れるのだといいます。正反対の人とコラボレーションすることによって、ビジネスの限界を突破するわけです。*このようにビリオネアの傾向を客観的に取られてみせた本書は、読み物としても十分に楽しめる内容。また当然ながら、ビジネスにおいてのブレイクスルーの手段を模索している人にとっては、大きな参考となるでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※ジョン・スヴィオクラ&ミッチ・コーエン(2016)『10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか』ダイヤモンド社
2016年08月14日『世界一受けたい心理学×哲学の授業』(嶋田将也著、ワニブックス)の著者は、やや重たい過去の持ち主です。なにしろ中学生時代にいじめられたことが原因で、うつ病を発症してしまったというのですから。しかし、それは可能性をも切り開いたようです。具体的にいえば、その経験をきっかけとして「心」の問題に関心を抱くようになり、高校では独学で心理学を学びはじめたというのです。さらに大学では哲学に出会い、さまざまな見方や考え方を身につけ、最終的には心理学と哲学を掛け合わせた独自の思考法を開発したのだといいます。そして、「昔の自分のように人間関係で悩む人の手助けがしたい」という思いから、『世界一受けたい心理学×哲学の授業』というブログを開設することに。読者は約8ヵ月で2,000人を超え、人気ブロガーになったのです。本書は、そのブログを書籍化したもの。そんな著者いわく、私たち人間は、外部の状況に関係なく自分の心をよい方向に持っていける「三種の神器」を持っているのだとか。それは「言葉」「表情」「態度」であり、魅力は次の2点に集約されるといいます。(1)才能のあるなし・年齢・男女差を問わず、万人が持っていること(2)いかなる場所でも使用可能であること自分の心を操ることができる人は、間違いなくこの三種の神器を持っているそうです。■1:心の三種の神器~言葉~話をするとき、言葉を選ぶときに大切な事があると著者はいいます。それは、自分の心がよい方向に向かう言葉を、自分で決めるということ。「大丈夫」「リラックス」「がんばらなくてもいい」など、今後の日常生活でよい気分になれる言葉があれば、それらをピックアップしてみるのもいいといいます。逆に、「よい気分になる言葉」がひとつもあげられないとしたら、それは普段“言葉を選べていない”証拠なのだそうです。しかし現実的に、自分にとって有意義な言葉を選ぶことはとても重要。たとえばイチロー選手はインタビューにおいて、言葉を選びながら話しています。それも、「自分の心の状態をいつもよい状態」にするために、どんな言葉を使えばいいか考えているから。ところで「食べたもので体がつくられる」いわれますが、著者は「発した言葉で心がつくられる」とも考えているのだそうです。だからなんにせよ、「自分の発言によって心はどうなるのか」を考えてほしいのだといいます。しかしそれは特別なことではなく、自分が発言する言葉を選ぶことは、「ダイエットをする人が肉を食べるか、野菜を食べるか」を選ぶのとなんら変わりはないのだそうです。■2:心の三種の神器~表情~感情がなんであろうと、その主導権を握っているのは表情。たとえば笑顔のまま怒ることはできないわけです。車でいえば、「感情」は目的地で、「表情」はハンドル。目的地があっても、ハンドルをそちらの方向に動かさない限り、いつまで経っても到着することはありません。当然の話です。でも感情=目的地を「喜び」にしたいのであれば、表情=ハンドルを「笑顔」の方向に回す。そうすることで初めて、実際に心が喜ぶのだといいます。しかし、ここで誤解されやすいのが、「だったら、嫌なことがあっても笑顔になればいいのか?」ということ。しかし、それは単なる「無理やりポジティブシンキング」でしかありません。そうではなく、普段から「自分がいい気分になれる表情」を選ぶ習慣をつけるということ。嫌なことがあってから無理に笑顔をつくるのではなく、普段から笑顔を心がけておくことが大切だという考え方です。■3:心の三種の神器~態度~「態度」も「表情」と同じで、“感情のハンドル”の役割があるといえるそうです。だからこそ「態度」も無意識に出すのではなく、普段から意識して選ぶようにすることが大切だという考え方。そうすることで、「態度」によってよい気分を引き出せるようになると著者はいいます。そして、態度に関連してもうひとつ大事にすべきなのが「呼吸」だそうです。悪気分のとき、人は浅く速い呼吸になってしまうというのです。そして、その浅い呼吸のせいで、余計に悪い気分になってしまうというスパイラルに陥るのだとか。しかし、普段から深呼吸をするように呼吸を整えておくことで、リラックスして自分のパフォーマンスをあげられるようになるということです。*先に触れたとおり、この三種の神器はいつでも、どこでも使える万能な存在。1日、2日で使いこなせるようになるものではないかもしれませんが、結果を焦らず、毎日少しずつ練習すれば、やがて思いどおりの感情が呼び起こせるようになるといいます。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※嶋田将也(2016)『世界一受けたい心理学×哲学の授業』ワニブックス
2016年08月13日きょうご紹介したいのは、『自分を操る超集中力』(メンタリスト DaiGo著、かんき出版)。いうまでもなく、著者は人の心を読み、操る技術を駆使する日本唯一のメンタリスト。テレビなどでもすっかりおなじみです。そしてタイトルからもわかるとおり、本書のテーマは「集中力」。自身の実体験を踏まえたうえで、集中力を科学的に高める方法を明らかにしているのです。集中力は持って生まれた才能ではなく、トレーニングによってさらに強化することができるといいます。いいかえれば、集中できる人とできない人との差は、集中力を発揮する方法を「実践しているか・していないか」にあるという考え方なのです。ところで著者は本書のなかで、「集中力の高い人は、実は長時間集中していない」という意外な主張をしています。■集中力は30分ぐらいしか持続しない「集中力=ずっと続くもの」という捉え方は間違っていて、それは単なる思い込みだというのです。それどころか、そもそも人間の脳は集中を持続させないようにできているとも。最新の研究によれば、集中力の持続時間は、充分に鍛えられている人で「120分」なのだとか。また大人でも子どもでも、椅子に座って同じ姿勢のままひとつの作業に没頭できる時間は、長くて30分だそうです。そして集中力は、勉強などの作業をはじめると徐々に高まっていき、ピークを過ぎるとぐんと下降していくものだといいます。なお集中力がずっと持続しているように見える人ほど、うまく休憩を挟み、短時間の集中状態を繰り返しているもの。短時間だから疲れない。疲れていないからこそ集中状態を繰り返せるわけです。■仕事や勉強は時間を区切って打ち切るそんな「集中力は長く続かない」という性質を逆手に取り、集中できる時間を効果的に使っていく方法があるそうです。それは、あらかじめ時間を区切り、「もうちょっとやりたかった」「もう少しやれたかな」というところで仕事や勉強を打ち切ってしまうというもの。このメリットは、次の3つだそうです。(1)ウィルパワー(思考や感情をコントロールする力)を使いすぎる前に終わるので、疲れがたまりにくくなる(2)15分なら15分、30分なら30分と短時間で区切ると、時間管理がしやすくなる(3)途中で終わった感覚が残るので、「早くあの続きがしたい」と思えるとくにメリットが大きいのは、3つめ。あえて休憩を取ることによって、休んでいる間も「もうちょっとやりたい」というモチベーションを保つことができるというわけです。つまり、そういう状態で仕事や勉強を再開すると、スムーズに集中できるだけではなく、それを持続させられるということ。これを「焦らし効果」と呼ぶそうです。仕事や勉強のスピードを速くしたいのなら、自分のやりたい気持ちを上手に焦らせばいいということです。■時間は無限にあると勘違いしてはダメ集中力がいつまでも続くと勘違いしてしまう理由は、時間と同じように「目に見えない資源」だから。人は目に見えないものについて、「無限にある」と思い込みがち。そしてその勘違いが、集中力をうまく活用できない原因になるということ。人は「時間が十分にある」と勘違いしてしまうと、目の前の仕事に対してさまざまな選択肢を考え、試行錯誤を重ねようとするもの。しかし集中力という観点から見ると、デメリットばかりが増していくというのです。なぜなら人は選択肢が増え、決断する機会が増えるほど「迷い」が生じ、ウィルパワー(意志の力)を失っていくから。■そもそも集中力は制限があると高まるちなみにイギリスの歴史学者シリル・ノースコート・パーキンソンは1950年代に、こうした事態を避けるための対応策を提示しているのだそうです。それは、仕事や勉強の時間を短く区切ること。先の「焦らし効果」と同じ考え方ですが、やはり集中力は、自由なときよりも制限のある状態のほうが高まっていくということなのでしょう。時間を区切る、たとえば「定時に帰る」というようなデッドラインが定まると、そこまでに片づけなければならない仕事量と処理にかかる時間を意識するようになるため、発想が変わるといいます。取り組む仕事が決まり、使える時間が定まると、選択肢が絞られるためにウィルパワーの浪費が減り、集中が増すということ。だから、短時間で高い成果を得ることができるわけです。■集中力を高めれば3分の1も時短可能集中力が高まった状態での仕事や勉強は、費やした時間が同じでも、より質の高い成果へとつながるといいます。あるいは集中力を高め、処理できるスピードを2倍、3倍にアップできれば、所要時間を2分の1、3分の1へと圧縮することが可能。「重要な仕事ほど忙しい人に頼め」といわれますが、これは忙しい人ほど集中力を活かすリズムを身につけているから。集中して作業することが習慣化されているため、同じ時間でも人の2倍、3倍の量をこなせるということ。つまり、「仕事力=集中力×時間」という公式が成り立つというのです。そしてそれは持って生まれた才能ではなく、努力や習慣化、環境の変化によって身につけていくことが可能なのだそうです。*著者自身が集中力を活用できているだけに、ここで提示されている考え方には説得力があります。「どうも集中できなくて……」と悩んでいる方は、読んでみるといいかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※メンタリスト DaiGo(2016)『自分を操る超集中力』かんき出版
2016年08月12日『「プレゼン&資料作成」のプロが明かす! 3秒でOKがもらえる「伝え方」の基本』(天野暢子著、大和出版)の著者は、豊富なプレゼンテーション経験を持ち、プレゼン資料、企画書、プレスリリース、広告コピー、記事など、用途に応じた資料を作り分けてきた実績の持ち主。またテレビのニュース番組の校閲にも長年関わってきたため、テレビにおける一瞬での見せ方、伝え方等の演出手法にも長けているそうです。そして、そんな実績を軸に本書で訴えかけているのは「伝え方」の重要性。ポイントは3つあるといいます。■伝えるときに意識すべき3つのこと(1)伝えるだけではダメまず1つ目は、「伝えるだけではダメ」だということ。ただ伝えさえすれば、それで完結するというものでは決してないというのです。つまり、「こうしたほうがいいですよ」「こうしませんか?」とアピールしたうえで、相手から「イエス」を引き出し、行動に導かなければいけないという考え方。だからこそ「伝え方」とは「プレゼンテーション」そのものであり、「プレゼン力」とは「イエスを引き出す力」だと考えているというのです。ちなみにプレゼンという言葉には、広告業界やマスコミ、外資系企業に働く人たちのためのものであるようなニュアンスがあるかもしれません。しかし、実際には営業職はもちろんのこと、「新しい就業規則を全社員に徹底したい」と考える総務や経理などの管理系から、「次の製品の開発費を獲得したい」という研究や開発などの技術系に至るまで、すべてのビジネスパーソンに必要なスキルであると著者は断言します。プレゼンが「伝える」という行為である以上、それは理にかなった考え方だといえるでしょう。(2)人は3秒以内に判断する2つ目のポイントは、「人は3秒以内でものごとを判断している」ということ。実際、著者が働いてきたテレビの世界においても、「3秒で伝えろ!」は基本中の基本。だからこそ、徹底的に叩き込まれたと当時を振り返ります。ちなみにこの「3秒」にはきちんとした根拠があるのだそうです。テレビの視聴者がリモコンを片手に「見たい・見たくない」の判断をし、チャンネルを変えるまでの時間が3秒だというのです。人はそんな一瞬で、“その先”につきあうかどうかを判断しているということ。極端なように思えるかもしれませんが、ご自身の行動に当てはめてみれば、納得できる部分は少なからずあるのではないでしょうか?いいかえれば、「長い時間をかけてたくさんの情報を伝えてほしい」という人は少ないわけです。多くの人が、結論を1秒でも早く知りたいと考えているというのです。「誠意を持って時間をかけて伝えれば、うまくいく」という考え方は、理想論でしかないのかもしれません。だからこそ「短く伝える」ことは、「サービスのよい点をお客様に知ってほしい」「取引先にシステムを導入してもらいたい」「新商品をマスコミに取り上げてもらいたい」というような目的を叶えるうえでの必須条件になるといいます。(3)相手から「イエス」を引き出すそして3つ目のポイントは、「人はどんなことに心を動かされ、イエスというのか」という点。そしてこのことを考えるにあたり、著者は「プレゼンテーション」の語源にまでさかのぼっています。ご存知の方も多いかと思いますが、プレゼンテーションという言葉は、プレゼント(贈り物)に由来したもの。いうまでもなくプレゼントは、相手が喜ぶ顔を思い浮かべながら選ぶはず。つまり相手から「イエス」を引き出す基本は、「相手がなにを欲しがっていて、なにをプレゼントしたら喜ばれるのか」をとことん考えることにあるわけです。■相手の求めるものを考えて伝えようでも現実的に、相手の気持ちはお構いなしに、自分のいいたいことだけを主張している人は少なくないもの。そのことを理解するため、ここで著者は「ガラスのコップを買ってほしい」ということを目的とした商談についての考え方を引き合いに出しています。ある人は、収納のしやすさや持ちやすさ、お手頃な価格という観点から「直径7cm、高さ10cm、容量は200mlで、1つ300円」などのスペック(仕様)でアピールします。当然ながら、これもプレゼンのひとつのスタイル。一方、別の人は、「この道30年の職人に頼み込んでつくってもらった、限定50個の商品です」という伝え方をするかもしれません。ここで重要なのは、「どちらが正しい」という答えはなく、「どちらも正しい」こと。性能や価格が決め手となる相手ならスペックで伝えるべきですし、商品が持つストーリーに心を動かされる相手であるなら製作の背景を伝える。それが正解だということです。いわば、相手の心が動くように、「相手の求めるものはなにか?」を考え抜いて伝えることがもっとも重要なポイントだという考え方です。つまり、必ず持っておかなければならない視点は、以下の2つ。(1)相手はどう感じるか?(2)その交渉やプレゼンで重要なことはなにか?この2つは、どんなケースであっても、交渉やプレゼンのどんな段階においても、必ず持っておかなければならない視点だと著者は主張します。*このように基本的な考え方を軸として、本書では「伝え方」の極意を徹底的に解説しています。なんらかの手段によって伝える必要があるという人は、読んでおくべき内容だといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※天野暢子(2016)『「プレゼン&資料作成」のプロが明かす! 3秒でOKがもらえる「伝え方」の基本』大和出版
2016年08月10日『大切なことだけやりなさい』(ブライアン・トレーシー著、本田直之監訳。片山奈緒美訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の原書は、アメリカでもっとも著名なスピーカーのひとりであると同時に、ビジネスコンサルタントの権威としても著者が2001年に出版したベストセラー。そして本書は、2009年に実業家・本田直之氏の監修のもとで刊行した翻訳版を、さらに新装改題版として刊行したものです。展開されているのは、「半分の労働時間で生産性と収入を倍にできる」という考え方。きょうは「シンプルであること」の重要性を説いた第3章「すべてをシンプルにせよ」から、「シンプル化のための7つのR」をご紹介しましょう。■1:「よく考える(Rethinking)」やるべきことが山積しているのに、あまりにも時間がなくて途方にくれることは誰にでもあるものです。そんなときは手を休め、「もっといい方法がないだろうか?」と自問しようと著者は提案します。どんな仕事でも、まわりからの抵抗や圧力を感じたり、問題点に気づいたりしたとき、それを無視して前に突き進んではいけないというのです。だから大切なのは、社外コンサルタントとして雇われたつもりで、現状を査定してみること。客観的に見て、どんな処置をアドバイスしたらいいのかを考えてみるわけです。広い視野で、なんでも受け入れる心を持つ。そして、いまのアプローチ法が間違っている可能性を真摯に受け止めるべきだといいます。■2:「再評価する(Reevaluating)」新しい情報を手に入れたときに大切なのは、「いまのやり方で間違いがないか」を見つめなおすこと。ゼネラル・エレクトリック社の元会長兼CEOであるジャック・ウェルチは、これを「真実の原則」と呼んでいるそうです。そして「真実の原則」によれば、「自分自身に100%正直でいること」「いつでもその瞬間から現状に合ったやり方で行動すること」、この2つを守る必要があるのだとか。「以前はこうだった」とか、「こんなはずではない」などと考えてはいけないわけです。■3:「再編成する(Reorganizing)」投入した資金や労力に見合う結果を得るためには、人生や仕事を組み替えることも重要。社会が目まぐるしく変動する時代には、絶えず物事を再編成しなければならないということです。そこで、まずは職場環境の洗いなおしをし、1日のすべての予定をもう一度組み立てるべき。仕事の順番や優先順位を見なおし、いま進めている方法よりも、もっとその仕事に適した方法が見つかる可能性に目を向けるべきだというのです。■4:「リストラする(Restructuring)」著者によればリストラとは、「自分の時間やエネルギー、資金、手段のほとんどを上位20%の行動に集中させること」。なぜならそれらの活動こそが、大部分の成果と大きな利益を生み出しているから。そして自分自身の人生をリストラする場合にも、多くの成果を生み出す行動に、時間とエネルギーを集中させることが大切。つまり、いちばん価値のある業務に注意を集中させなくてはならないということです。■5:「改良する(Reengineering)」シンプル化するためには、現状の欠点を改良することがもっとも実際的で効果的。まずは重要な仕事について、業務の開始から終了まで、段階を踏んでリストにまとめる。そしてはじめは、リストにある作業段階全体のうち、30%を削減する目標を立てるといいそうです。実践してみれば、この削減作業がいかに簡単で、素晴らしい効果をもたらすかがわかるといいます。そして著者は、以下の「人生と仕事の『改良』の6つの方法」を実践することを勧めています。(1)ばらばらに進めている幾つかの仕事をひとつにまとめる。(2)複数の仕事をひとりに任せる。ひとりの裁量範囲を広げると同時に、責任を増やす。(3)特定の仕事を外注する。その分野を専門にしている他企業や第三者に外注する。(4)他の人や他の部署に委託する。(5)必ずしも必要とはいえない仕事をやめる。(6)仕事をやり遂げるための障害を減らして効率を高めるために、仕事の順番を変える。■6:「最初からつくりなおす(Reinventing)」激動する時代においては、6カ月から12カ月ごとに自分自身と自分の仕事を更新していかなければならないのだとか。すべてを白紙に戻してから考える癖をつけることが大切で、まずは自分にこう尋ねてほしいと言います。「もう一度ゼロからはじめるなら、同じ手順で取り組むだろうか?」生涯を通じてさまざまな仕事や地位につくからこそ、しっかり前を見つめ、自分がやりたいことを考えるように心がけてほしいと著者はいいます。そして、次のように自問することも大切。「私の次の仕事はなんだろう?」「専門にする仕事はなんだろう?」「自分はなんになりたいのだろう?」こうした質問を自分に投げかけ、自分で答えを見つけなければならないということ。■7:「コントロールを取り戻す(Regaining Control)」この段階までくれば、新しい目標を定め、新しい計画を立てているはず。そして、あらゆることに自分で責任を持つことによって、自分の人生を自分でコントロールしはじめているはず。「いいことが起こりますように」などという受け身の姿勢ではなく、自ら行動し、自分の力で「いいこと」を起こすようになるということ。それは自分で、自分の時間と人生に責任があると理解したからなのだといいます。*著者の主張はシンプルかつ実用的、そしてパワフル。人生に勢いをつけたい人にとって、大きな力となってくれるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※ブライアン・トレーシー(2016)『大切なことだけやりなさい』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年08月10日『1%の素敵な人だけが実践している 「なりたい自分」になる方法』(冨山真由著、あさ出版)の著者は、「一般社団法人行動科学マネジメント研究所」において、行動習慣コンサルタントとして活動しているという人物。おもに銀行、生命保険会社、建設会社、IT企業など、多くの企業で社員研修に携わり、セルフマネジメントのセミナーを通じ、個々人が仕事のうえで望む「結果」の出る習慣づくりをサポートしているのだそうです。でも、そもそも行動科学マネジメントとはなんなのでしょうか?■ベースは「結果は行動の集積」である著者によれば行動科学マネジメントとは、アメリカで「行動分析学」「行動心理学」をベースに開発されたマネジメント手法を、日本のビジネスパーソン向けにした手法。日本の多くの大企業や教育機関では、行動科学マネジメントの手法を取り入れることにより成果を上げているのだといいます。行動科学マネジメントのベースにあるものは、「結果は行動の集積」であるという考え方。「いい行動を繰り返したから、いい結果が出た」「悪い行動を繰り返したから、悪い結果が出た」というように、意思や性格ではなく、人の「行動」に注目し、それをコントロールする働きかけをしているというのです。つまり、「いつ、どこで、誰がやっても同じ成果が期待できる、再現性を重視した手法」だということ。■理想実現のために行動をコントロールそして行動科学マネジメントの観点からいうと、「なりたい自分」になるためのいちばんの近道も「行動」に着目することなのだそうです。意思や性格、考え方などの内面はまったく無関係なのだとか。意志の力には頼らず、行動のための条件や環境を整え、行動をコントロールすればいいということです。仕事にしろプライベートにしろ、自己否定という負のスパイラルから抜け出すには、「行動変容」(行動を変えていくこと)することが大切。そしてその際にポイントとなるのが、「小さな行動を積み重ねていくこと」だといいます。小さな行動ができると、「できた」という達成感が得られます。すると自己肯定感も高まるため、「またやってみよう」とさらに行動することに。これが、行動習慣の仕組みだというのです。■結果を得られない理由は「たった2つ」!ところで行動科学マネジメントでは、人が望んだ結果を得られない理由は「たった2つ」だとされているのだそうです。(1)「やり方」を知らない(2)「やり方」は知っているが、「続け方」を知らない逆にいえば、この2つさえ理解すれば、望んだ成果を手に入れることが可能。そして、その点を踏まえたうえで重要なのは、行動を続けて習慣化すること。習慣化する方法がわかれば、「三日坊主で終わってしまった」「苦手だったからついつい先延ばしにしてしまった」ということも少なくなるということです。それどころか、そこまで到達できれば、行動を続けることが楽しくなり、「気づけば行動していた」「習慣になっていた」ということが増えてくるといいます。行動のための条件や環境を整え、行動のコントロールの仕方もわかっていれば、「続ける」ことが無理なく可能になるというわけです。■理想実現のためには数値化することが大切たとえば朝と晩に体重を計り、「○キロ痩せた!」「○キロ太った……」と一喜一憂した。あるいは、やめようと決意したことを○日以上続けることができたので自信が持てたなど、人は自分が思っている以上に、「数字」の結果に注目するもの。人が行動するうえで、「数字」は大きな影響力を持っているということです。そして行動科学マネジメントにおいては、こうした数字による計測を「メジャーメント」と呼ぶのだそうです。行動を具体的に計測できないと、それは「行動」とは呼べません。「昨日より○キロ増えた?いや、ちょっとだけ減ったのかな」という曖昧な計測では意味がないというわけです。つまり計測は、数値化して「誰が見ても同じ評価が出せる」ということが重要だということ。■決めた「回数」と「時間」をこなすべし!たとえば「ジョギングで痩せる」と決めても、すぐに数字で結果が出るわけではありません。しかし「痩せること」ではなく「ジョギング」に焦点を当てて計測していけば、「週何日走ったか」「何分走ったのか」「何キロ走ったのか」など、望ましい行動が「数字」で現れるわけです。同じように仕事であれば、「売上高」よりも「訪問回数」に、「企画の内容」よりも「企画の提出頻度」に着目して計測すればいいということ。いってみれば習慣を仕組み化するためには、誰が見てもわかる「数字」に着目し、毎日自分で決めた「回数」と「時間」をこなすことが重要だという考え方です。*本書が教えてくれるのは、「なりたい自分になるのは、それほど難しいことではない」ということ。読んでみて、その内容をライフスタイルに組み込めば、気づけることがありそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※冨山真由(2016)『1%の素敵な人だけが実践している 「なりたい自分」になる方法』あさ出版
2016年08月08日2016年の1月29日、日銀が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を発表し、日本全土に衝撃が走りました。低金利の時代はこれまでもずっと続いていたわけですが、それどころか金利がマイナスになってしまったということです。「といわれても、理解しづらい……」という方もいらっしゃるでしょうが、それも仕方のないことです。いったい、これはなにを意味するのでしょうか?しかも、さらに実態をわかりにくくしているのは、実は世界の4分の1の国がすでにマイナス金利を導入しているという事実。そうなると、なにがどうなっているのかがますますわかりにくくなります。そこでぜひ読んでおきたいのが、『金利が上がらない時代の「金利」の教科書』(小口幸伸著、フォレスト出版)。過去40年間にわたり、投資マーケットの長期トレンドを見つめてきた元シティバンクの為替ディーラーが、マイナス金利時代の「金利」をやさしく解説した書籍です。ところで、そもそも金利の機能とはどのようなものなのでしょうか? きょうは本書から、そんな基本の部分を引き出してみたいと思います。■そもそも金利とは何なのか?金利は株価や為替レートと同様に、基本的には市場での需要と供給によって動くもの。資金需要が高まれば金利は上昇し、資金供給が高まれば金利は低下するわけです。ちなみに資金需要が高まるとは、資金を借りる(調達する)額が多くなることで、資金供給が高まるとは、資金を貸す(運用する)額が多くなること。一般的に、景気がよくなれば資金需要が高まり、金利の上昇圧力になるといいます。逆に景気が悪化すれば、資金需要は後退し、金利低下圧力になるわけです。ただ、金利が需給によって決まるといっても、為替レートや株価などとくらべると変動の程度は限られているもの。なぜなら、中央銀行の影響が強く及ぶからです。特に短期の金利にはそれがいえるそうです。それだけ金利の変動は経済の基本的な部分に大きく作用するため、中央銀行の役割と影響も大きくなっているということ。そして金利には、大別して次のような2つの機能があるといいます。■金利の2つの大きな機能とは(1) 景気調整機能景気がよくなれば資金需要が高まり、金利は上昇することになります。金利が上昇していけば資金コストは高まるので、資金需要は押さえられて好況にブレーキがかかります。つまり金利にはこうして、景気の行き過ぎを調整する働きがあるということ。ですから逆に不況では資金需要が低下し、金利は下落します。そうなると資金の借り入れをしやすくなり、資金需要の減少にも歯止めがかかり、不況にブレーキがかかるのです。もちろん、これだけで語り尽くせるほど単純な問題ではないでしょう。しかし、これがあくまでも金利の「基本」だと著者は説明しています。(2)資金分配機能資金は一般的に、低い金利よりも高い金利のほうに向かうもの。そのため、高い金利のほうに資金が集まるわけです。こうした2つの機能が働くためには、金利が資金の需給関係によって自由に動くことが前提になるといいます。自由に動く市場がないと、こうした金利の機能は働かないわけです。経済の規模が拡大して構造が複雑化するにつれ、行政による指導や帰省では経済を効率的に運営するのが困難になってくるもの。そこで、金利にその機能を発揮してもらう。そのために規制緩和や自由化が進行するというのです。実際に欧米に続き、日本でも1980年代に預金金利などの自由化が進みました。近年まで行政指導が資金配分などに強い影響力を持っていた中国でも、規制緩和や金利自由化の進行とともに金利の機能が働きはじめるようになったといいます。経済に与える金利の変動の影響が、以前よりも強くなったということです。■マイナス金利政策は正しいかところが、もっとも金利の自由化が進んだ欧米や日本など先進諸国の多くでは、金利低下が進行。ゼロ金利になっても資金需要は増えず、景気の低迷が続きました。金利の機能が働かない事態になってしまったわけです。米国はようやく利上げ可能な状態になりましたが、その他の国は政策金利の一部をさらに下げ、マイナス金利にすることに。こうしたなか、中央銀行は金利の機能を信じ、なんとか働かせようとしているというのです。つまり金利を下げて資金需要を高め、景気を浮揚させることと、市場の資金を日銀の当座預金から、より金利の高い金融商品(市場)へ向かわせるということ。短期から長期へと資金を向かわせ、イールドカーブ(利回り曲線)の水準を下げることです。この点においてはマイナス金利政策は、金利の機能の基本に沿った政策だということです。*基礎的な部分から個人投資家の心構えまで、金利についてさまざまな角度から解説した内容。読んでみれば、いろいろな疑問を解消できるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小口幸伸(2016)『金利が上がらない時代の「金利」の教科書』フォレスト出版
2016年08月08日『図解 使える心理学』(植木理恵著、KADOKAWA)の著者は、東京大学大学院教育心理学コース修了後、文部科学省特別研究員を務めて心理学の実証的研究を行ってきたという人物。日本教育心理学会においては、最難関といわれる「城戸奨励賞」「優秀論文賞」を史上最年少で受賞した実績も持っているのだそうです。現在は慶応義塾大学理工学部講師であり、都内の総合病院で心理カウンセラーをつとめてもいるのだとか。本書ではそんな実績に基づき、「毎日の生活をより楽しく豊かにする」という観点から、心理学の知識とテクニックを紹介しているわけです。きょうは「元気になる心理学」のなかから、「15人に1人」がかかるといううつ病についての記述をクローズアップしてみたいと思います。■うつとは「大うつ病性障害」のことご存知のとおり、かつて「うつ病」や「躁うつ病」は「気分障害」としてまとめて語られていました。しかし現在では、うつ症状だけの「うつ病性障害」と「躁」「うつ」が交代する「双極性障害」とは、まったく違う独立した病状だと考えられるようになっているのだそうです。一般的に「うつ」と呼ばれているのは、「大うつ病性障害」のこと。具体的な症状としては、気分が落ち込んで、すべてのことに興味や関心がわかず、集中力が低下してしまうわけです。それどころか自責の念や罪悪感が強くなり、自殺したいという強い考え(自殺念慮)が浮かんできてしまうことも。疲れやすく、食欲も減退し、睡眠過多や不眠に。そして時間的には、特に朝方に憂鬱感に襲われ、夕方からは軽減するという日内変動が認められるのだそうです。■うつは決して珍しい病気ではない!なお、よく指摘されることではありますが、特に「うつ」になりやすいのは、几帳面で完全主義、責任感が強く、人に対して過剰に気配りをするようなタイプ。つまり、真面目な人だということになるでしょう。また、親しい人の死、あるいは失業といった、なんらかの喪失体験があると発症しやすいのだといいます。そして特徴的なのは、決して珍しい病気ではないということ。うつの症状が出てきたら絶望的な気持ちになってしまうかもしれませんが、100人中約6人、つまり15人に1人の割合で発症しているというのです。よくある病気だということで、そんなこともあって最近では薬物治療もかなり進歩しているのだとか。だからこそ、もし「うつ病かもしれない」と思ったら、早めに受診することが大切だと著者はいいます。さて、では一方の「双極性障害」とはどんなものなのでしょうか?これは憂鬱で無気力な状態と、活動的で高揚した状態を繰り返すもの。かつては「躁うつ病」と呼ばれ、「うつ」の一種だと誤解されてきたのだといいます。そのため同じ気分障害に分類されていたそうですが、遺伝子的にも統合失調症と共通因子が見出され、いまは別の病気とされているのだそうです。■確認すべき「うつ病自己評価尺度」なお、うつ病かどうかを判断するために、CES-D(うつ病自己評価尺度)という質問票が紹介されています。「最近、気分が落ち込んでいるな」と思ったら、チェックしてみてほしいと著者。その内容を確認してみましょう。・なにをするにも億劫・面倒くさい・物事に集中できない・なかなか眠れない・なにか恐ろしい気持ちがする・いつもより口数が少ない・家族や友だちから励まされても気が晴れない2つ以上あてはまるようであれば、要注意。ストレスがたまりはじめているといいます。そんなときは普段の生活を振り返ってみて、ストレスの原因となっていることを避け、できるだけ気分転換を図るようにすることが大切だといいます。■今話題の新型うつ病とうつ病の違いしかし近年は、こうした従来のうつ病とはまったく異なる「新型うつ」(非定型うつ病)というものが話題になっているのだそうです。先に触れてきたような従来のうつ病とは違い、症状は次のようなもの。・責任が生じることはしたくない・なんでも人のせいにする・自分がうつ病だとアピールする・仕事などは憂鬱で嫌だけど、好きなことは積極的にやれる・気分の浮き沈みが激しい・過食気味で体重が増えてきている・夕方から夜にかけて具合が悪くなる・何時間寝ても寝足りない気がする「逃避型うつ病」「ディスチミア型うつ病」とも呼ばれ、周囲からは、わがままや詐病ではないかと疑われがち。本人はつらい思いをして悩んでいるのに、病気だとは思われず、「嫌味で独善的な性格になった」と誤解されて孤立し、病状が悪化することもあるのだそうです。こちらも抱え込まず、おかしいなと思ったら、早めに医師に相談してみるのがいいのかもしれません。*他にも職場での人間関係から恋愛、トラブルの対処法まで、扱われている内容は幅広く実践的。きっと役立つと思いますので、ぜひ手にとってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※植木理恵(2016)『図解 使える心理学』KADOKAWA
2016年08月07日『緩やかな糖質制限 ロカボで食べるとやせていく』(山田悟著、幻冬舎)は、無理なく自然にやせられるダイエットとして話題を呼んでいるロカボの実践書。著者は、北里研究所病院の糖尿病センター長。『ロカボバイブル』『糖質制限の真実』などのヒット作も持つ、ロカボの第一人者です。ロカボが普通の糖質制限と異なるのは、“穏やかな”糖質制限であること。「一食あたりの糖質量を20~40グラムに抑え、それとは別に間食として1日10グラムまでのスイーツも食べ、1日の糖質摂取量をトータルで70~130グラムにしましょう」というような考え方なのだそうです。■糖質の数字をある程度は意識すべきまず、現在の日本人が平均的に摂っている糖質は、一食あたり平均90~100グラム、1日では270~300グラム程度。しかしロカボ食だと、普通の食事の半分弱になるまで、糖質を抑えるという感覚になるといいます。そこでロカボを行うときは、この数字をある程度は意識すべき。とはいえ毎食、厳密に数値を守らなければいけないというわけではないとも著者は説明します。多少オーバーしたとしても、それでダイエットが台なしになるということではないのです。■糖質の摂取量に下限を決めるべし!ちなみにロカボが普通の糖質制限と違うのは、糖質の摂取量に下限を決めていること。糖質を完全に抜いてしまうのではなく、毎食、ある程度は食べてほしいというのです。ここが、“穏やかな”という表現の裏づけかもしれません。逆によくないのが、下限を決めない極端な糖質制限を行ってしまうこと。そうした場合、血糖値こそ低くなるものの、飢餓状態に入ったと認識した体が安全弁的な機能を働かせ、ケトン体という物質をつくり出すようになるというのです。ケトン体は脳のエネルギー源になるものですが、つくられることによって、血管に障害が起きる可能性もあるといいますから注意が必要。極端な糖質制限推奨派のなかには、「胎児はケトン体を主たるエネルギー源にしているのだから、問題ない」と主張する人もいるのだとか。しかし発育の悪い胎児と普通の胎児とを比較した先行研究によると、発育の悪い子は血糖値が低く、ケトン体が高いということがわかるのだそうです。そもそも、ケトン体を産生する食事の際、どんなことに注意すべきかは、「国際ケトン食研究グループ」から医療従事者に勧告されているもの。にもかかわらず、一般の人が医療従事者のモニタリングを受けることなくそうした治療を受けるのは、控えるべきだと著者は主張します。■おいしく楽しく食べて健康になれる極端な糖質制限を行うことには、他にもデメリットが。食べられるものの幅が狭くなってしまい、食事の楽しみが減ってしまうというのです。単純なことではありますが、これはたしかに大きな問題であると考えるべきでしょう。しかしロカボの定義に従えば、食べられるものの幅はぐんと広くなるといいます。なにしろ、ロカボの定義をわかりやすい表現に置き換えたとしたら、「おいしく楽しく食べて健康になれる食事法」ということになるというのですから。いくら健康になるといっても、食べるものを我慢してばかりでは人生がつまらないものになってしまいます。しかもそれ以前に、続けること自体が困難になってしまうはず。■ごはんやパンは半分~3分の1だけ先ほどロカボの定義について、「一食あたりの糖質量を20~40グラムに抑えて食べる」とご説明しました。ざっくりいうと、ごはんを通常の盛りの半分、あるいは3分の1程度にしたうえで、おかずをおなかいっぱい食べれば、それだけでロカボの基準値内の食事になるというわけです。パンにしても同じで、食パンであろうとロールパンであろうと、全部食べるのではなく、半分~3分の1だけ食べるようにするということ。お米やパンを半分しか食べられないと、すぐにおなかが空いてしまうのではないかと心配になるかもしれませんが、その心配もないと著者。ロカボの食事では、お米やパンを半分~3分の1に減らしたら、それで終わりにするのではなく、他のものでおなかをいっぱいにすべきだから。サラダでも肉でも魚でも、なんでもしっかり食べて大丈夫で、たんぱく質や油の量を気にする必要もないそうです。パンにはバターをたっぷり塗っても問題なし。それどころか、塊のまま、パンの上に乗せるような意識で食べてもかまわないというのですから驚きです。■ロカボなら健康的にやせていける!いわばロカボの食事法は、これまでの食事からなにかを完全に抜いたり、食事全体の量を減らしたりするものではないということ。食事とおかずのバランスを変え、お米やパンの量を減らしたぶん、おかずの量を増やして食べましょうという考え方であるわけです。しかもロカボでは、基本的に食べられないものはなし。だから食事の楽しみが削られることもなく、健康的にやせていくことができるというのです。*無駄なものを減らし、食べたいもので補うというロカボの考え方は、非常に現実的。本書に目を通してみれば、その有効性を実感できるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山田悟(2016)『緩やかな糖質制限 ロカボで食べるとやせていく』幻冬舎
2016年08月06日すでに多くのメディアが取り上げているのでご存知かと思いますが、2016年4月から、電力自由化がスタートしました。簡単にいえば、これまでとは違い、一般家庭でも電力会社を自由に選ぶことができるようになったわけです。ただ、「そこでなにが変わるのか?」については、詳しいことがわからないという方も少なくないはず。そこで目を通しておきたいのが、『電気の選び方-わが家の電力自由化ガイドブック-』(電気新聞著/編集、日本電気協会新聞部)。一般家庭を対象に、失敗しない電気の選び方を紹介した書籍です。電気を選べるようになったのだとしたら、いちばん気になるのはやはり料金。そこで本書から、電気料金について覚えておきたいことを抜き出してみましょう。■電気料金が規制料金から自由料金へ!2016年3月まで、一般家庭の電気料金は、国のチェックを受けた料金だったのだそうです。これは一般的に「規制料金」と呼ばれているもの。一方、電力小売全面自由化が決まった2016年4月以降、新しい電力会社や、地域の電力会社から提供される電気料金は、国の規制を受けない「自由料金」。自由料金の特徴は、料金を上げるのも下げるのも電力会社次第で、国のチェックが入らないということ。そのため、多くの会社が参入し、さまざまな電気料金メニューをアピールしているわけです。■とくに切り替えない場合は従来のままでは、2016年4月以降も電力会社や電気料金メニューを変更しなかったとしたら、どうなるのでしょうか?その場合は、自由化前まで地域の電力会社と契約していたメニュー(従量電灯Bなど)が、自動的に継続されることになるのだといいます。なお自動的に継続される自由化前の電気料金メニューのうち、従量電灯などの標準的な規制料金メニューは、競争が進むまでしばらくの間は維持されることになっているのだそうです(正確には、地域の電力会社の「特定小売供給約款」に記されたメニュー)。これらのメニューでは新たに電気を使いはじめるときに選ぶこともできますし、電力会社を切り替えたあとで、再度戻ることも可能。ただし特定小売供給約款には、自由化前にあったオール電化住宅用の料金メニューや、季節別時間帯別料金メニューなどはないそうです。自由化前に契約していた人はそのまま継続利用できるものの、新たに契約を結ぶ場合は、自由化後にできた電気料金メニューのなかから自分の使い方に合ったものをチョイスすることになるわけです。■把握しておきたい電気料金の基本とはところで新しい電力会社の多種多様な料金メニューも、実は従来の電気料金をベースに設計されているのだといいます。そこで、まずは電気料金の基本的なしくみを把握しておくことが大切。月々の電気料金は、地域によって使用する電気の容量(アンペア=A)で決まる「基本料金制」か、一定の使用量まで定額の「最低料金制」に分かれます。一般に電気料金は、この「基本料金(最低料金)」と、電気の使用量(kWh)によって計算される「電力量料金」との組み合わせで計算されるのだそうです。電力量料金は、使用する電力量に応じて料金単価が3段階に分かれ、使用量が多くなるにつれて単価が高くなっていきます。つまり、経済的に余裕のない人でも電気を利用できるようにしているわけです。なお電力量料金では、使用量に応じて「燃料費調整額」が加算または差し引かれるのだといいます。さらに、使用量に応じた「再生可能エネルギー発電促進料金」も加算されることに。■新しい電力会社の多種多様なサービスまた電力自由化後に登場した電気料金メニューではまったく同じしくみのもののほか、電力量料金単価が2段階になっているものや、基本料金がないものなど、異なるしくみのメニューも登場しています。他業種の参入や企業間の提携により、多種多様なサービスも生まれているとか。安さで勝負する電気料金メニューはもちろんのこと、セット割引、ポイント付与などのメニューが豊富に揃い、新しい体系の電気料金も登場。それだけでなく、ガス、通信、石油元売りなど異業種の参入により、各社の強みを生かした「セット割引も。さらには「Tポイント」「Ponta」「dポイント」など各種のポイントカードと提携し、電気料金の支払いによってポイントを貯められるサービスも登場しています。当然のことながら、ポイントの還元は電気料金の割引とも考えられるので、意識しておいて損はないかもしれません。いずれにしても、ライフスタイルを振り返ったうえで、自分に適した電力会社およびメニューを選ぶことが重要だということです。*他にも電気の選び方や使い方について覚えておきたいことがコンパクトにまとめられているため、きっと役立つはず。電力自由化のメリットを得るためにも、ぜひ読んでみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※電気新聞(2016)『電気の選び方-わが家の電力自由化ガイドブック-』日本電気協会新聞部
2016年08月06日どんなオフィスにも、「仕事が速い人」と「仕事が遅い人」がいるものです。しかし、その差はどこから生まれるのでしょうか?あるいは、自分自身の仕事のスピードを上げるためにはどうしたらよいのでしょうか?その答えを見つけるため参考にしたいのが、きょうご紹介する『仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか?』(木部智之著、KADOKAWA)。著者は、ITエンジニアとして日本IBMに入社し、14年間のキャリアの大半をシステム開発のプロジェクトに費やしてきたという人物。現在は大規模で困難なシステム開発プロジェクトで、数百人の開発チームのプロジェクトリーダーとなっているそうです。つまり本書では、そのような経験を軸として、仕事が速くなるためのコツを紹介しているわけです。■仕事を速くこなすための3つの要素「仕事が速い人」と聞くと、「手の動きが速い」というようなイメージを抱くかもしれません。「デキる人」=「次から次へと猛烈なスピードで仕事を処理する人」とでもいうように。しかし、必ずしも本質はそれだけではないのだと著者はいいます。仕事の速さには「速くやる」「ムダを省く」「確実にやる」という3つの要素があり、仕事が速い人はそれらを兼ね備えているというのです。(1)速くやる「速くやる」とは文字どおり、「動き」を速くすること。たとえばマウスを使わずにショートカットで操作をしたり、あるいは手の動きそのものを速くするというような動きのことです。そんなことかと思われるかもしれませんが、1回1回がほんの数秒の違いであったとしても、そのテクニックを「知っているか、知らないか」「やるか、やらないか」でどんどん差が開いていくということ。だからこそ、いろいろなテクニックを覚えさえすれば、誰にでも速さを追求できるわけです。(2)ムダを省くムダな時間とは、著者の言葉を借りるなら「やらなくてもいい作業をしてしまった時間」。ひとりでやる作業、誰かとのやりとり、考えることなど、どんなことについても、仕事が速い人はムダなことをしていないというのです。しかし対照的に、仕事が遅い人はそれらの「ムダ」に気づいていないことが多いもの。だとすれば「どんな作業がムダなのか」を見極め、それらを取り除けば仕事が速くなるという考え方です。(3)確実にやる確実にやろうとすれば、逆に時間がかかってしまいそうです。しかし、それが速さにつながるのだと著者は主張するのです。理由はシンプルで、もしもやったことが間違っていたとしたら、やりなおさなければならなくなるから。厳密にいえば、「どこからやりなおすか」を考えること自体にも時間がかかってしまうということ。つまり、速くやってミスを増やすよりは、ゆっくり確実に進めて間違いのない状態にしたほうが、最終的には時間を短縮できるという考え方です。■2回目までは力技で様子を見るべしビジネスパーソンは、この2つのタイプに分けられると著者は分析します。・あまり深く考えず、とにかく行動して最後に帳尻を合わせる「力技タイプ」・事前にいろいろ作戦を練って、計画どおりに実行する「頭脳タイプ」そして自身は、最速で仕事を終わらせるために、この2つの人格を自分のなかに持つようにしているのだといいます。1回しかしない仕事で、かつ1時間で済むようなものは、あれこれ考えたり、効率的な方法を調べたりしてから着手するより、力技で1時間で片づけてしまったほうが速い場合も。たとえば「テキストを打ち込むだけ」「ひたすらホチキス留めをするだけ」と言ったような作業です。こういう作業については、「どうやったら効率的にできるか?」「ムダな作業はないか?」などと考えている時間それ自体がムダだということ。そういう仕事は力技でこなせばいいので、1時間でやってしまうのがいちばん効率的だというわけです。しかし、1回だけだろうと思って受けた仕事を、「もう1回やって」とふたたび頼まれることもあるでしょう。そんなときは、2回目までは力技で様子を見るべき。しかし、さらに「もう1回やって」と頼まれて、同じ仕事を3回やらなければならなくなった場合は、以後も4回、5回と繰り返す可能性が高くなるはず。そこで、3回目になった時点で、以後の効率化を考えることが重要。効率化するにあたっては調べる手間がかかることもありますが、その手間は先行投資と考えるべきだと著者はいいます。*このように、効率化についての徹底した視点を備えているところが著者の強み。そして、こうした考え方に基づいて、メールやエクセルのショートカット、ものの考え方や伝え方、任せ方、果ては思考法までを効率化する方法が紹介されているので、とても実践的な内容。すぐに使えるアイデア満載です。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※木部智之(2016)『仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか?』KADOKAWA
2016年08月05日『なぜ、お客様は「そっち」を買いたくなるのか?』(理央周著、実務教育出版)の著者は、コンサルタントや研修講師として多くの企業を見てきたという人物。そのなかには、毎年過去の業績を上回る収益を上げている企業もあれば、うまくいかずに事業を縮小する企業もあったのだといいます。そして、数多くの企業を見てきた結果、売れない企業には理由があることを発見したのだそうです。それは、「売ろう」とするから「売れない」ということ。つまり、お客様も“売るための広告”に慣れているからこそ、「買ってください」と売り込むよりも、お客様のほうから「そんなにいいものならほしい」「行ってみたい」と思ってもらえるようにすることが大切だという考え方です。ちなみに、成果を出しているお店のオーナーや企業経営者に共通しているのは、「熱心」「素直」「早い」の3つなのだそうです。知らなかった重要なことを「熱心に」聞き、思い込みや過去の成功体験などにとらわれることなく「素直に」受け止め、市場のスピードやお客様に置いていかれないように「すばやく」動くということ。そこで本書では、身近な事例をもとにして「なぜ売れるのか?」をマーケティングの考え方によって解説しているわけです。きょうはそのなかから、ロールケーキの値段についてのクイズをご紹介したいと思います。■フルーツケーキが売れないとき値下げするべきか?【クイズ】ご自分が、都心にあるケーキショップのオーナーパティシエだったとします。目玉商品としてフルーツロールケーキを開発し、まわりの店の相場と同じく、1本1,500円で売り出しました。ところがまったく売れなかったため、価格変更を検討しています。さて、このとき、お求めやすく1,000円に値下げするか、いっそのこと値上げするか、どちらにすべきでしょうか?この問いへの答えを導き出すにあたって著者は、ファンに愛されるブランドを形成する5つの資産を紹介しています。(1)ブランドへの「忠誠心」があること(2)ブランドが「認知」されていること(3)ブランドが消費者に「価値があると見られている」こと(4)ブランドのイメージが「れんそう」できること(5)その他の知的所有権のある無形資産(特許、商標、取引関係など)この5つの資産があればあるほど、強いブランドになるのだといいます。「認知」されていることは必須の条件で、「見た目の価値」が高ければ買ってもらう理由に直結。ブランドが「連想」されればポジティブなイメージを持ってもらうことができ、「忠誠心」が強ければ長く買ってもらえるというわけです。顧客はブランドの資産価値が高まれば自信を持って買うことができ、満足度もアップするもの。企業は高いブランド価値をつくり出すことができれば、徐々に広告を出さなくてもよくなり、効率よくマーケティング活動ができるということです。■4倍に値上げしてから売れはじめたガトーショコラそして、ここで引き合いに出されているのが、東京・新宿のガトーショコラ専門店「ケンズカフェ東京」。オーナーシェフである氏家健治氏の著書『1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるワケ』によると、このガトーショコラの価格は次のように変遷しているのだそうです。500グラム1,300円で販売↓半分の250グラムにして1,500円に値上げ↓250グラムで2,000円に値上げ↓250グラムで3,000円に値上げ最初とくらべると半分のサイズになっているので、実質約4倍の値上げ。それでも、3,000円に値上げしてからは飛ぶように売れているのだとか。当然のことながら、ただ価格を上げるだけではなく、素材やレシピを含めた味を最高級のものにするための努力をしていることが大前提ですが。■自分だけの製品をブランド化することで利益を得るどちらかといえば、ビジネスの調子が落ちるとすぐに値下げして、買いやすさをアピールしようというのが一般的な考え方かもしれません。しかし「戦略なき値下げ」をすると、営業利益と「見た目の価値」が同時に落ちてしまうことに。ケンズカフェ東京の例でいえば、お客様にとっては1,500円のガトーショコラよりも3,000円のガトーショコラのほうが「ありがたみ」があり、よりおいしく感じられるということ。もちろん、必ずしも高価格に設定することが正しいわけではないでしょう。ただし、「ライバルよりも安ければより多く売れる商品」とは、どこでも買えて、独自化されていない製品やサービスだけ。少なくとも中小企業や個人事業主がすべきことは、自分だけにしかできない質の高い製品をブランド化することによって価格を設定し、十分な利益を確保することだといいます。よって、この問題の正解は「いっそのこと値上げする」になるわけです。*このように身近な話題を題材にしているだけに、マーケティングの本質を無理なく理解できるはず。「売り方」で悩んでいる人には、特にオススメです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※理央周(2016)『なぜ、お客様は「そっち」を買いたくなるのか?』実務教育出版
2016年08月04日「たとえ無一文になっても、自分はいつでもお金を生み出すことができる自信がある」と語るのは、『大人女子のお金レッスン』(五丈凛華著、フォレスト出版)の著者。和菓子職人から料理教室運営会社の営業に転職し、独自のマーケティング理論を確立して年間売り上げ全国1位を獲得したという人物です。独立後は、起業家育成コンサルタントとして、500人に対し500 種類の起業モデルを提供し、独立をサポートしているのだとか。つまり本書では、著者が15年におよぶ経験によって培った知恵や知識を明かしているわけです。■5年後にリッチになれる人となれない人「想像してみてください。5年後のあなたはなにをしていますか?」著者はよく、この質問をクライアントにするそうです。そんなとき、男性よりも女性のほうがはるかに早く答えることができ、しかも、その描写はリアルなのだといいます。「白い高級タワーマンションで夜景を見ながら、優雅にワインを飲んでいます」というような感じで、想像しているときも、とても楽しそうなのだそうです。ところが、現実に戻ったとき「落差」に直面し、大きなダメージを受けてしまうのも、イマジネーション力が高い女性ならではの特徴。年収1,000万円を夢見ていても、現実は300万円だったとき、「やっぱり私には無理」と簡単に結論を出してしまうことが往々にしてあるというのです。特に、夢に描く自分ははっきりしていても、資金・環境・時間などの「現実的な制約」が立ちはだかったときに夢を諦めてしまいがち。たとえば天然酵母パンのお店を開きたくて、味にも自信はあるのだけれど、場所がそもそも人のあまり通らない田舎で、しかも資金が足りない……というようなケースです。イマジネーションの世界では空を飛ぶこともできるけれど、現実の世界では、道をまっすぐ歩いているだけでも石ころや電柱に当たってしまうもの。■魔法のフレーズ「じゃあ、どうする?」しかし、ここで著者は真っ当な指摘をしています。つまり、「現実とは“制約”があって当たり前」だということ。起業とは、制約がある現実と向き合っていくこと。だとすれば、それをクリアできさえすれば、夢はどんどん実現していくというわけです。とはいっても、想像力あふれる女性の思考は、理想と現実のギャップに耐え切れず「やっぱり無理」とフリーズしてしまいがち。しかし、そんなときにオススメの「魔法のフレーズ」があると著者はいいます。しかも、それは驚くほどシンプル。なにしろ、「じゃあ、どうする?」だというのですから。試しに、自分に対してこう問いかけてみましょう。「お金はいまより欲しいけれど、方法がない。じゃあ、どうする?」たったこれだけのことを考えるだけで、なんらかの映像が頭に浮かんだのではないでしょうか?「会社で役職についている姿」「起業するためにセミナーに参加している姿」など、不思議とポジティブな映像が“答え”として出てくるものだというのです。■イマジネーション力をプラスに活用する女性がビジネスをするときに、思わぬところで足を引っぱるのが「イマジネーション力」なのだと著者は指摘します。なぜならイマジネーション力は、ネガティブなことすら存分に映像化してしまうから。しかし、「じゃあ、どうする?」と前向きな言葉を投げかけることによって、その力を“別の方法”を探し当てるために使えばいいということ。たとえば、先ほどの天然酵母パンのお店の件、「田舎だし、お店を開く資金もない」という状況下で「じゃあ、どうする?」と考えてみれば、「お店を開かずに、通信販売をする」というアイデアに行き着くことも可能であるわけです。■シンデレラは超ポジティブ思考だった?ところで、どん底から成功への階段を一気に駆け上がることを「シンデレラ・ストーリー」といいますが、このことについて著者が興味深いことを書いています。本当のシンデレラは、普段から超ポジティブ思考だったのではないかと推測しているのです。義理の姉たちにいじめられながらも、前向きに生きてきたからこそ、舞踏会で王子様に見初められたのではないかということ。そして、こうも記しています。「じゃあ、どうする?」は、魔法使いのおばあさんが見すぼらしいシンデレラをお姫様に変身させた魔法の呪文「ビビディ・バビディ・ブー」と同じ、夢を現実にする力を備えたフレーズだと。だからこそ、理想と現実の狭間で夢を諦めそうになったら、「じゃあ、どうする?」と自分を前向きにする魔法の呪文をかけるべきだといいます。そうすれば、現実でなにをすればいいかがわかるようになり、「リッチな5年後」が近づいてくるというのです。*実際に「月給13万円」の現実から抜け出してきた人だからこそ、著者の言葉には強い説得力を感じるはず。いまよりお金を稼ぎたいという女性は、ぜひ読んでみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※五丈凛華(2016)『大人女子のお金レッスン』フォレスト出版
2016年08月02日