俳優・鈴木亮平を主演に迎え、6月よりWOWOWの連続ドラマW枠で放送される「宮沢賢治の食卓」。この度、“ヤング宮沢賢治”に扮する鈴木さんの場面写真が初解禁となった。大正10年。青年・宮沢賢治(鈴木亮平)は、岩手・花巻の裕福な実家から東京へ家出していた。8か月に及んだ東京暮らしの間も、 心を捉えて離さないのは最愛の妹で女学校の教師を務めるトシのことだった。夏の終わりのある日、実家からトシの大病をほのめかした電報が届く。急ぎ帰郷するが、大したことがなさそうなトシ。賢治は家業の質店を継がせたい父・政次郎の策略に引っ掛かったのだった。久々に帰郷したものの、打ち込むべきものが見つからない賢治。そんな中、手作りしたコロッケを家族に振る舞い喜ばれたことをきっかけに、“幸せを分かち合うこと”こそが自らの理想とする生き方だと気付く。そして、その具体的な形として、教師になり 子どもたちに幸せを分かち合うことを教えたいと思うように。トシの陰日向からの尽力もあり教師になれた賢治。だがその一方で、トシの体が病魔に侵されていることを賢治はまだ知らなかった――。「銀河鉄道の夜」「雨ニモマケズ」などで知られる、国民的作家・宮沢賢治。彼は、孤高の存在として語られる印象とは裏腹に、実はユーモアに溢れた好奇心の人だった。一体彼はどんな人物で、如何なるものを食したのか。本作は、若かりし頃の天真爛漫な宮沢賢治の青春時代を、彼の愛した食やクラシック音楽を通して、家族や親しい人たちとの関わりを描いた感涙物語。監督には『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』『泣き虫ピエロの結婚式』の御法川修、「アルジャーノンに花束を」「砂の塔~知りすぎた隣人」の池田奈津子が脚本を担当する。この度、主演の鈴木さんが演じる宮沢賢治の場面写真が初公開。これまでの映像作品ではなかなか描かれなかった、泣いて笑って躍動する、瑞々しい“宮沢賢治の新たな一面”を感じさせるビジュアルに仕上がっている。また本作を制作するにあたり、「宮沢賢治=岩手県を愛する人たちにぜひ応援していただきたい!」という番組スタッフの想いから、本編エンドロールで紹介する岩手県の風景写真の公募企画も決定。岩手県の“いま”を、番組で紹介していく。「連続ドラマW 宮沢賢治の食卓」は6月、毎週土曜日22時~WOWOWにて放送予定(第1話無料放送)。(cinemacafe.net)
2017年04月08日「天皇の料理番」や『俺物語!!』など、演じる役柄でストイックな肉体改造を行い、様々な役どころを演じ分けてきた俳優・鈴木亮平が、今度は宮沢賢治を演じることが決定。本作は、「思い出食堂」より魚乃目三太の「宮沢賢治の食卓」を原作に、6月よりWOWOWの連続ドラマW枠にて放送される。大正10年、若き青年・宮沢賢治は裕福な実家を飛び出して、東京へ家出してきていた。自活の道を歩みながら8か月に及んだ東京暮らしの間も、心をとらえて離さないのは最愛の妹・トシのことだった。夏の終わりのある日、ふいに届いた電報には「トシ ビヨ ウキ スグ カエレ」とある。大慌てで帰郷する賢治を待っていたのは、元気な様子のトシ。賢治の身を案じた父・政次郎の目論見にまんまと騙されたのだった。久々に帰郷した賢治は、自分の胸を熱くする“何か”を見つけられずにいた。そんな中、東京で味わったコロッケを手作りし、家族と“分かち合う”ことから気づきを受け、“幸せを分かち合うこと”を自らの理想であると自覚し始める。それは、賢治の代表作「銀河鉄道の夜」の一節にある、「ほんとうのさいわい」であり、賢治の思想の根幹にあった「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」に通じるものだった。そして賢治はトシの志を受け継ぎ、新設され たばかりの稗貫農学校で教職に就くことを決心する――。本ドラマは、賢治が愛した食や音楽を切り口とする“ヤング宮沢賢治、愛と青春の旅立ちの物語”。特に傑作詩篇「永訣の朝」にうたわれた最愛の妹・トシとの死別に描かれる兄妹愛の行く末は、涙なくして観られない。いままでの映像作品ではなかなか描かれなかった、泣いて笑って躍動する、瑞々しい宮沢賢治が描かれる。そして今回、主人公・宮沢賢治を演じるのは、これまで執事役、刑事役、高校生役、うさぎの着ぐるみを着た死神役、西郷隆盛役と幅広い役柄を演じてきた鈴木さん。宮沢賢治には朴訥(ぼくとつ)としたイメージを勝手に持っていたと話す鈴木さんは、「当時の資料を調べていくと、とても熱くて人間臭い人だったようで驚きました。時には周りをも巻き込んでしまう、子どものように豊かな感受性と情熱を持った”宮沢賢治”という一人の人間を、まるでいまそこに生きているかのようにのびのびと演じられたらと思います」と持っていたイメージとは違ったと語る。また、「いわゆるグルメドラマの枠をはるかに超える濃厚な感動作」と脚本を読んだ印象を明かし、「“宮沢賢治”の詩の世界と、当時の東北の人々の暮らしと、素朴で美味しい料理が混じり合って、絶妙なマリアージュが生まれています。この企画、この脚本に巡り会えたことに感謝しています」とコメント。さらに「宮沢賢治のファンはもちろん、宮沢賢治の作品を全く知らない方でも存分に楽しん でいただけるドラマです。“生きる”とは。“人を想う”とは。ただ泣けるだけでなく、心の深い場所まで揺さぶられる感動作になりそうです」とアピールした。「連続ドラマW 宮沢賢治の食卓」は6月より毎週土曜日22時~WOWOWにて放送予定(第1話無料放送)。(cinemacafe.net)
2017年03月15日間もなく開催がスタートする第38回PFFぴあフィルムフェスティバル。今回の映画祭でひとつの目玉企画となるのが“8ミリ・マッドネス!!~自主映画パンク時代~”だ。この特集は、現在第一線で活躍する映画監督の原点となった8ミリ自主映画の傑作を集めたもの。『雨女』は矢口史靖監督が1990年に発表し、同年PFFでグランプリに輝いた一作だ。その他の画像矢口史靖監督の名から浮かぶ、作品イメージはどんなものだろう? 出世作となった『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』など、いずれにしても“明快なエンターテイメント”というイメージはあるのではなかろうか。そのイメージをもって矢口監督が自主映画として発表した『雨女』を観ると、ちょっと驚くかもしれない。表面だけでみると、あまりに“明快な娯楽”とは映像も内容も程遠いので。ただ、それはあくまで表層上に過ぎない。『雨女』のひとつひとつをつぶさに見ていくと、実は矢口監督ののちにしっかりとつながる優れた“エンターテインメント性”がこの時点で随所に発揮されていることに気づくはずだ。『雨女』は簡単に説明すると、本作の翌年、奇しくも公開される『テルマ&ルイーズ』と重なるような、ふたりの女の子が暴走する物語。傍若無人な行為に走るふたりの日常が描かれる。ただ、その表現手法はよく言えばジャンル・ミックス、悪く言えばもうはちゃめちゃ。近年の映画でいえばデヴィッド・フィンチャー監督の『パニック・ルーム』を思わせるような室外から室内へと導くオープニングのショットからはじまり、あるシーンは女性の足先を執拗に追った官能ロマン、あるシーンは女の子のかわいさをきっちりとらえた当時、流行していたアイドル映画、あるシーンは身も凍るようなホラー、あるシーンは1発勝負のドキュメンタリーと、映画のカラーがこちらも驚くくらいころころと変わっていく。それはある意味、バラバラでまとまりがない。でも、一方で混然一体となってこちらに向かってくるようなパワーも不思議と宿る。そのパワーの源は、何かといえば、矢口ワールドの真骨頂といっていい“エンターテイメント性”にほかならない。巻き込まれた素人ははた迷惑だったと思わずにいられない過激なアプローチで撮られたドキュメンタリー映像、今だったら許されないかもしれない炎上シーン、四谷怪談を想起させるおどろおどろしさが漂うホラーの場面など、いずれの映像も驚きや面白さが溢れ、一喜一憂させられる。とにかく映画のひとつの大きな醍醐味である“娯楽”を体感できるといっていい。それは同時に矢口史靖という才能のスタートに出会うことでもあるといえるだろう。第38回PFFぴあフィルムフェスティバル9月10日(土)から23日(金)まで東京国立近代美術館フィルムセンター(月曜休館)文:水上賢治
2016年09月07日NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」などの出演で脚光を浴びる森岡龍と、auの三太郎シリーズのCMで話題の前野朋哉。今、にわかに注目を浴びるふたりがW主演を務める『エミアビのはじまりとはじまり』が公開を迎える。劇中で彼らが演じたのは人気漫才コンビ“エミアビ”の実道(森岡)と海野(前野)。両者ともに「見ているのとやるのと大違い。笑いをとる以前の問題で、お互いがかみ合わない」(森岡)、「自分がテレビで慣れ親しんだ漫才のようにならない。稽古をしてもしっくりこない。そんな日が何日も続いて。このときはさすがに先が見えなかった(苦笑)」(前野)と、難役だったことを明かす。その他の画像そんなふたりは自然と帰り際、反省会と称する飲み会へ(笑)。結果、このことが漫才コンビとなる近道になったそうだ。「同じ時間を共有して信頼関係がより深まると、自分たちの漫才の問題点がすぐ洗い出せ、改善できるようになった。実は試行錯誤していた期間は、お互いを相方と認めていく時間でもあった気がする」(前野)「互いをより知ることで僕らならではのオリジナルの漫才のスタイルがだんだんと見いだせたんだよね」(森岡)その苦労の甲斐あって、劇中では絶妙なかけあいの漫才を披露。と同時に、突然の死に直面した人間たちの再生を見つめた物語において、森岡は相方を突然失った人間のやるせなさ、虚しさ、そして自分なりの弔いを実道を通して見事に体現し、前野も残された者の記憶に焼き付く愛らしく切ない人物として海野を演じきっている。そんな熱演を見せてくれた彼らだが、実は旧知の仲。ほぼ同年代でお互い俳優で映画監督の顔も持つということで、互いをライバル視してきた。それだけに今回の競演は感慨深いものがあったという。「いつか前野君とはがっつり組んでみたいと思っていた。今回、それが叶ってひとつ夢が実現したところがある」(森岡)「僕も同じで、森岡君と主演でこの舞台に立てたことがうれしい。また、ライバルなので刺激も受けた。今は、この互いの主演作がひとりでも多くの人のもとに届いてくれたらと願うばかり」(前野)そしてもうひとつ報告が。実は、“エミアビ”は役を超えて本物の漫才コンビとして現在、M-1グランプリに挑戦中。先日、1回戦を見事突破した。「とりあえず1回戦を突破できてほっと胸をなでおろしています(笑)。今は新たな戦いに向けて猛練習中です」(前野)「ここまできたら、もう、いけるところまでいきたい」(森岡)作品はもちろん“エミアビ”の活躍にも注目したい!『エミアビのはじまりとはじまり』9月3日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー!取材・文:水上賢治撮影:源賀津己
2016年08月31日これからの活躍が期待される若手映画作家の映画製作をPFF(ぴあフィルムフェスティバル)がサポートする育成プロジェクトとして続くPFFスカラシップ。PFFが製作から劇場公開までをトータルプロデュースするこのプロジェクトによって、これまで園子温、矢口史靖、石井裕也ら現在第一線で活躍する監督たちが劇場用映画監督デビューを果たしている。その最新作『過ぐる日のやまねこ』は、PFFアワード2012でグランプリとジェムストーン賞に輝いた『くじらのまち』の鶴岡慧子監督作品。弱冠26歳の彼女は今後の飛躍が期待される新鋭だ。その他の画像現在のPFFスカラシップは、その年のPFFアワードでグランプリなどを受賞した監督たちから企画を募り、うちひとりだけが権利を手中にする。この過程について鶴岡監督はこう振り返る。「PFFでの受賞が9月で、企画の提出期限が12月。正直言うと、そのとき、なにも企画を持ち合わせていなかったんです。ですので、まさか自分が最終的にスカラシップの権利を手にできるとは思っていませんでした。あまり背伸びしてもボロが出る(笑)。とにかく自分がいまできることを全部出してみようと臨んだのがよかったのかもしれません」こうして彼女が作り上げたのは、失業を機にかつて暮らした田舎町に戻った21歳の時子と、兄同然の青年の死を受け入れられない高校二年の陽平の偶然の出会いからの交流を見つめた物語。セリフに頼ることなく若いふたりの心情を表出させる堂々たる演出で、実は大きな喪失を抱える彼らの心の再生と新たな人生の旅立ちが描かれる。「脚本を書き始めたときから主題としてあったのは、他者への思いやりと自然への畏敬の念。どこか見返りばかりが求められるいまの世の中や、たとえばやまねこの存在といった人知が及ばぬ領域や存在、人の死、地方コミュニティなどに対しての自分なりの考えが出ている気がします」撮影は故郷である長野県上田市で行った。また、メインのスタッフにはこれまで一緒に映画を作ってきた大学の同期や先輩と組んでいる。「田舎の風景を考えたとき、やはり頭に浮かんだのは故郷の上田でした。生まれ故郷の人たちの協力のもと映画を作れたことは、自分にとってかけがえのない時間になりました。同時に自分のルーツを実感する時間でもありました。これまで一緒にやってきたメンバーと組んだのは、ここから一緒にステップアップしたい気持ちがあったからです」劇場映画監督デビューとなる本作について今こう感じている。「私自身が学生から社会人になった時と、この作品の製作期間がちょうど重なるんです。ですから、大学から始めた映画作りのひとつの区切りであり集大成になった感触がすごくある。ひとつの節目でここからが新たなスタートというか。それと、“自分はこの世界でやっていくんだ”と、決意表明できた気がしています」『過ぐる日のやまねこ』9月19日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開取材・文:水上賢治写真:源賀津己
2015年09月15日ヴェネチア映画祭金獅子賞(グランプリ)に輝いた『悲情城市』などで知られ、世界的な名声を得ている台湾の巨匠、ホウ・シャオシェン監督。2007年に発表した『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』から待つこと実に8年、同監督から久々の新作映画が届けられた。その他の画像まず、前作から随分と間があいたことについて聞くと、苦笑まじりにシャオシェン監督はこう明かした。「私自身も8年も新作を撮らないことになるとは思っていませんでした(笑)。映画祭のディレクターや映画賞の審査員など断れない仕事が続き、なかなか作品作りに集中する時間がとれなくて。気づいたらこんなに時間が経っていたというのが間の空いた理由です」今回の『黒衣の刺客』は自身初となる時代劇アクション。この挑戦は以前から考えていたという。「小さいころから武侠映画が好きでよく観ていました。また、藤沢周平など日本の時代小説も好き。そういうこともあって、ずっと思っていたんです。“いつか自分も武任映画というアクションに挑戦できたら”と」物語は8世紀後半の唐の時代が舞台。ある過酷な任務を命じられた暗殺者・インニャンの孤独な戦いと苦悩と葛藤が静謐なタッチで描かれる。注目のアクションもまたしかり。静寂の中で刀の振る音だけが響くような研ぎ澄まされたアクション演出に仕上げられている「派手なワイヤーアクションを使ったりするのはちょっと僕の好みではない。それで今回の映画では日本の時代劇の斬り合うリアルさを取り入れています」その手腕はまたも世界で高く評価されカンヌ映画祭では最優秀監督賞に輝いた。「私の新たな挑戦がどう受け止められるのかわかりませんでした。ですから、この受賞は素直にうれしかったです」主演を務めたのはスー・チー。彼女を主演に迎えるのは3度目になる。「私は映画において何よりも役者が大事だと思っている。スー・チーは何度でも組んでみたいと思わせる女優。今回もインニャンの役そのものになってくれました」また、日本の妻夫木聡と忽那汐里も出演している。「ふたりとも大きな可能性を秘めた役者です。特に忽那はまだ若いのに今回の映画でもすばらしい演技を見せてくれました。今後の成長をすごく期待しています」近年はプロデュースを手掛けるなど、若手育成にも力を入れているホウ監督。60代後半を迎え、今後についてこう語る。「できれば自分の作品作りに専念したいというのが本音。でも、映画界の発展させるためにも自分が次の世代にできることはしないといけない年齢だから、そこは避けられない。その中で極力、自作に力を注ぎたいと思っています」『黒衣の刺客』9月12日(土)より全国ロードショー取材・文・写真:水上賢治
2015年09月10日世界遺産で知られている古都・アユタヤの新名所として人気を集めているのが水上マーケット。2010年に登場した「アヨダヤ水上マーケット」は、運河を使った交通手段が一般的だった古き良き時代を再現したテーマパーク。外国人のみならず、地元タイ人にも人気の観光スポットで、週末となればバンコク等周辺エリアから訪れるファミリーや学生グループで賑わう。「ワット・マヘーヨン」近くに造られた人工池の周りには、タイの古い街並みが再現され、施設の名称もあえて伝統的な「アヨダヤ」とネーミング。大きな池を囲むように、土産店や飲食店等たくさんのお店がずらり軒を連ね、ショッピングやちょっとしたランチ、軽食が充実している。初めて訪れるなら、船で広い敷地内を巡る約15分の遊覧コース(大人20バーツ、子ども15バーツ)もおすすめ。もちろん水上マーケットならではの、水路に浮かぶ小舟のお店から気に入った品を買うという体験も楽しい。隣接の「エレファントビレッジ」では象に乗って遺跡見物することが可能。象の他にもトラやヘビ等の動物と間近で触れ合えることが出来る。「アヨダヤ水上マーケット」は入場無料で、タイの伝統的生活の雰囲気を気軽に味わうことが出来るので、アユタヤの遺跡巡りついでに立ち寄ってみては。アヨダヤ水上マーケット&エレファントビレッジ(Ayothaya Floating Market & Elephant Village)・住所:Phai Ling, Phra Nakhon Si Ayutthaya District, Phra Nakhon Si Ayutthaya, Thailand<水上マーケット>・利用時間:8:00~18:00・利用料金:無料<エレファントビレッジ>・利用時間:8:00~17:00・利用料金:20分で1人400バーツ©all photos to Tourism Authority of Thailand
2015年09月01日回を重ねて12回目の開催となった“SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015”が先月26日に閉幕した。新進監督の発掘を掲げる長編コンペティション部門で今年も存在感を見せつけたのは海外のディレクターたち。今回審査委員長を務めたユーロスペース代表でプロデューサーの堀越謙三氏も総評で海外作品のクオリティの高さを称賛した。その他の画像/SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015その中でも際立ったのが見事に最優秀作品賞に輝いた『ビヘイビア』だ。キューバのエルネスト・ダラナス・セラーノ監督が手がけた本作は、すでに報じられているように、堀越氏をはじめとする審査員を務めた4人全員が最高点を与え、文句なしの受賞であった。しばしば賞と観客の評価は相容れないものだが、今回の受賞に限っては納得。というのも2回での上映での観客の評価も群を抜いて高かったからだ。監督自身の境遇でもあり、主人公チャラを演じた少年自身のバックグラウンドも反映させられたドラマは、キューバの国内事情をさりげなく盛り込みながらドラッグ中毒の母親を支えて日々を懸命に生きる少年の成長をリアルに描写。社会の底辺に眼差しを注ぎながら、人の偏見や思い込みに対する痛切かつ普遍的なメッセージが浮かび上がる。さらに注目すべきは決して恵まれた制作環境やバジェットで撮られたわけではないこと。おそらく登場人物も場所も予算もかなり限られたものと見受けられる。ところが人間を深く掘り下げた秀逸な脚本としっかりとしたビジョンが感じられる力強い映像で、それらのハンデを見事に克服している。この確かな力量とアイデアへの探究は、日本の若いインディペンデント作家たちは大いに参考になるに違いない。一方、監督賞を受賞した『絶え間ない悲しみ』も賞賛に価する力作だった。ひとりの男の子供を宿した二人の女性の物語。メキシコの片田舎を舞台に、未来の選択を迫られる二人の女性の心情が描かれる。セリフを排除した前半から只ならぬ緊迫感が漂う独特の演出力と、メキシコの広大な荒野を存分に生かした映像美が目に焼きつくほど印象的だ。アレハンドロ・ゴンザレス・イリャニトゥを筆頭に近年、世界で活躍する才能を輩出しているメキシコ。新たなメキシコの新鋭としてホルヘ・ペレス・ソラーノ監督の名は覚えていて損はないだろう。ほかにもレバノン生まれのアミン・ドーラ監督がダウン症の子を持った父親が社会の目を変えようと奮闘する様を描いた『ガーディ』、ハンガリーのカーロイ・ウッイ・メーサーロシュ監督の異能が弾け、日本映画へのオマージュも随所に登場するコメディ『牝狐リザ』など、海外勢は独自の色がある作品ばかりで大きな存在感を示した。それに対して、残念ながら日本勢は圧倒された形。来年の巻き返しに期待したい。取材・文:水上賢治
2015年08月05日世界の新鋭監督が顔を揃えた“SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015”が26日に閉幕し、同日に各部門の受賞作が発表された。注目の長編コンペティション部門は、キューバのエルネスト・ダラナス・セラーノ監督が手がけた『ビヘイビア』がグランプリに輝いた。その他の画像今後の活躍が期待される監督たちの作品がしのぎを削った長編コンペティションで最高賞を受賞した『ビヘイビア』は、薬物中毒の母親を抱える過酷な環境下を生き抜く少年と、彼を見守り続けるベテラン女教師の交流を主軸とした人間ドラマ。残念ながら会場には不在だったセラーノ監督はコメントを寄せ、「私はこの映画で描かれているような環境で育ちました。また、ここに登場する子供たちの多くは映画で描かれた通りの人生を送っています。演技経験のない中で頑張ってくれた彼らの存在なくしてこの作品は成立しなかった。彼らに感謝したい」と喜びを語った。この作品について審査委員長を務めた堀越謙三氏は「今回の審査員4名全員が最高点をつけていて議論をする必要さえなかった」と審査員全員の意見が一致したことを明言。「かつて小津安二郎監督が“人間は品行は悪くてもいいが、品性が悪くてはいけない”と言った言葉を残している。その言葉を思い出す内容だった」と作品を絶賛した。また、堀越氏は総評で海外作品がいずれも高いクオリティであったのに対し、日本映画は厳しいクオリティであったことを指摘。「この映画祭に限らずに言えることだが、いまの若い日本の作り手は非常に個人的なテーマが多く、内容がドメスティック。そういった作品が海外で評価させることは難しい。フィクションの物語をきちんと描いて観客を納得させられる、そんな作品を作ることを若い監督たちには目指してほしい」と日本人監督たちの奮起に期待した。また、監督賞はメキシコのホルヘ・ペレス・ソラーノが手がけた『絶え間ない悲しみ』が受賞。結果として中南米の作品が大きな存在感を発揮する本開催となった。なお、各賞は以下の通り。●長編部門(国際コンペティション)最優秀作品賞:『ビヘイビア』(エルネスト・ダラナス・セラーノ監督)監督賞:『絶え間ない悲しみ』(ホルヘ・ペレス・ソラーノ監督)脚本賞:『君だってかわいくないよ』(マーク・ヌーナン監督)SKIPシティアワード:『あした生きるという旅』(内田英恵監督)●短編部門(国内コンペティション)最優秀作品賞:『わたしはアーティスト』(藪下雷太監督)奨励賞:『オンディーヌの呪い』(甲斐さやか監督)/『空っぽの渦』(湯浅典子監督)●アニメーション部門(国内コンペティション)最優秀作品賞:『夢かもしれない話』(朴美玲監督)奨励賞:『女生徒』(塚原重義監督)/『息ができない』(木畠彩矢香監督)審査員特別賞:『幕』(水尻自子監督)取材・文・写真:水上賢治
2015年07月27日テレビ朝日は7月15日~8月23日、「水上プレミアムビアガーデン presented by The PREMIUM MALT’S」を「六本木ヒルズ」(東京都港区)にて開催する。同イベントは、六本木ヒルズ内「毛利庭園」の池に水上デッキを設置して行うビアガーデン。「テレビ朝日・六本木ヒルズ夏祭り SUMMER STATION」の一環として開催される(夏祭りの開催期間は、7月18日~8月23日)。銘柄豚、ブランド地鶏が楽しめる「プレミアムBBQセット+120分飲み放題(ラストオーダー30分前)」は、1人5,000円。セット内容は、「三重県産 松阪豚プレミアム」「秋田県産 比内地鶏」「新鮮焼き野菜」「新鮮巻き野菜」「特選熟成ソーセージ」「特製スパイス枝豆」「香草マリネのフライドチキン」「カリッと揚げたてフレンチフライ」の8品となっている。平日16時~17時59分の間にスタートすればハッピーアワーとして、1人4,500円で利用できる。土日祝には、ランチビアガーデンセットとして「プレミアムBBQセット+90分飲み放題(ラストオーダー30分前)」が1人3,800円(11時~16時59分に入場)。プレミアムBBQセットは、公式サイトで事前予約が必要。また、アラカルトメニューでは「スパイシーフライドチキン」(800円)、「特製スパイス枝豆」(600円)、「特選熟成ソーセージ」(850円)などがある。テレビ番組『林修の今でしょ! 講座』とコラボレーションした、「サテ(インドネシア風焼鳥)」(1,000円)も登場。ドリンクメニューは、「ザ・プレミアム・モルツ」(600円)、「ザ・プレミアム・モルツ<香るプレミアム>」(600円)、「~ザ・プレミアム・モルツ~マスターズドリーム」(750円)に加え、「ラドラー」(500円)、「角ハイボール」(500円)なども取りそろえている。営業時間は、平日16時~23時、土・祝前日11時~23時、日祝11時~22時(ラストオーダーは30分前)。※価格は全て税込
2015年06月22日テレビ朝日は7月18日~8月23日、六本木エリア(東京都港区)を中心に「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り SUMMER STATION」を開催。「水上プレミアムビアガーデン」などを行う。「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り SUMMER STATION」は2014年にも行われ、今回はエリアと演目を大幅に拡大して展開。東京・六本木を「メディアシティ」と位置づけ、街全体とコラボレーションした「ミライの都市型夏祭り」をテーマに開催するとのこと。期間中は、「66プラザ」にてほぼ等身大サイズの「ドラえもん」を展示するほか、「大屋根プラザ」でバラエティー番組『アメトーーク! 』やアニメ『クレヨンしんちゃん』などとのコラボレーションメニューも提供。また、毛利庭園の毛利池に特設デッキを敷き、「水上プレミアムビアガーデン」もオープンする。地鶏や銘柄豚などを使用したBBQスタイルでメニューを提供するとのこと。ほかにも、体験型スポーツコンテンツや番組とコラボレーションした展覧会も予定している。
2015年06月15日ブラッド・ピットが妻のアンジェリーナ・ジョリーの誕生プレゼントに水上機を購入したようだ。毎年6月が近づくと、ブラッド・ピットからアンジェリーナ・ジョリーへの誕生プレゼントが話題になるが、ブラッドが来月4日に40歳を迎える愛妻に贈るのは、ヴィンテージの水上機だという。イギリスの「Sunday Mirror」紙によると、夫妻はすでにヨーロッパのディーラーを訪れ、南フランスのシャトー・ミラヴァルにある自宅で保管する予定だという。2008年に購入したシャトー・ミラヴァルの敷地は1,000エーカー(約4,047,000平方メートル)があり、夫妻の名前をつけたロゼワイン用のぶどう畑などがある。アンジェリーナは飛行訓練を受けたことはあるが、着水の技術はまだ学んだことがないので、ブラッドは彼女が飛行機を存分に使うことができるよう、新たな飛行訓練の準備も整えているそうだ。(text:Yuki Tominaga)
2015年05月25日昨年のヴェネチア映画祭で栄誉金獅子賞を受賞したドキュメンタリー映画の巨匠、フレデリック・ワイズマン監督。これまで精神疾患の犯罪者たちの矯正施設からパリの老舗ナイトクラブまで撮影してきた重鎮は、新作『ナショナル・ギャラリー~英国の至宝~』でターナーやレンブラントなどの絵画を所蔵する世界有数の美術館の世界へと足を踏み入れた。その他の画像毎回、通常は扉の閉ざされた場所へカメラを入れるワイズマン監督。聞くと美術館は1度トライしたかった場所だった。「あまりに昔のことでもう忘れてしまったけど(笑)、初めて美術館を訪れたのは中学生のころ。誰かの絵画が好きになったとかではなく、あの空間が好きでよく行くようになった。今も地元のボストン美術館にはよく行くし、海外を訪れた際も近くにいいミュージアムがあれば必ず足を運ぶ。それで実は1度、ある美術館に撮影を申し込んだことがあるんだ。でも、撮影料を要求されてね。私はそういう形で撮影や取材を一切したことがないから断ったんだ。それ以来、話はなく、もう縁がないと思いかけていた」その遠ざかっていたチャンスはふいに訪れる。「何年か前、旅先で偶然ナショナル・ギャラリーの職員に出会ってね。館長やキュレーターを紹介してくれて、彼らに私の過去の作品を見てもらったら、OKが出たんだ。私の作品は、ほとんどがこんな偶然の出会いから始まっている。人生って不思議だよね。撮影も偶然の積み重ねだ。狙って撮れるものなんてない」撮影は約12週間、1日12時間も美術館にはりついた。こうして出来た作品は、ミュージアムのスタッフから一般客、開館時間帯から閉館中、ギャラリー内から舞台裏までをくまなく記録。一連の作品同様にナレーションも音楽も使用せず、多角的な視点で捉えた映像のみでナショナル・ギャラリーに流れる時間、人とアートの関係、そこで働く人々の情熱といった美術館の日常そのものを静かに浮かびあがらせる。「私が常に作品のテーマに置くのは“場所”と“そこに集う人々”。そこから見えてくる何かがある。今回もそのテーマに変わりはない」85歳となった今も新作をコンスタントに発表しているワイズマン監督。今後について100歳を超え現役を続けるマヌエラ・オリヴィエラを例に聞くと「ああいう形で創作を続けられたら理想だ」と語り、力強くこう続けた。「どこまで続けられるかわからないけど、体の続く限り創作を続けていくつもりだよ」『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』1月17日(土)よりBunkamuraル・シネマほかにて公開※取材・文:水上賢治
2015年01月15日『髪結いの亭主』『仕立て屋の恋』などで知られる恋愛映画の名手、パトリス・ルコント監督。前作『スーサイド・ショップ』ではアニメに挑んだ彼だが、新作『暮れ逢い』では大人の恋愛映画に回帰した。その他の写真今回の物語は『マリー・アントワネット』などの歴史小説で知られるオーストリアの作家、シュテファン・ツヴァイクの短編小説がベース。鉄鋼業で成功を収めた実業家ホフマイスターの若き妻シャーロットと、そのホフマイスターに見初められ個人秘書に抜擢された若き青年フリドリックという許されぬ恋に落ちたふたりの純愛が描かれる。再び“愛”を主題にしたことをルコント監督はこう明かす。「今の時代、メイク・ラブの扱いがとても軽い気がしてならない。その風潮に対して、一石投じたい気持ちがどこかにありました」作品はルコント監督の過去の恋愛映画にも通じる、秘めたる恋の物語。互いの立場や気持ちを想うふたりは最後の一歩に踏み出せないながら、それゆえ愛は高まる。その心の葛藤を、『アイアンマン3』などハリウッド大作への出演が続いているレベッカ・ホールと、ディズニーの新作、実写版『シンデレラ』で王子役に抜擢されたリチャード・マッデンが見事に体現している。「僕の演出はシンプル。カメラの後にたって、役者を見つめるだけ。すると役者は自然とすべてを僕に差し出してくれるんだ。今回のレベッカとリチャードも作品にすべてを捧げてくれたよ」一方、結果的にふたりの愛の大きな障害となるシャーロットの夫ホフマイスターを演じたアラン・リックマンも忘れがたい印象を残す。「気難しい役者という噂があるけど、なぜそう言われるのかわからない。役に全身全霊を注いでくれ、こちらの要望を聞くと瞬時にそれを表現してた。彼の演技が今回の作品に重みを与えてくれたことは間違いない」監督デビューして40年がたった今も創作意欲は衰えていない。今後も我々の胸を焦がすような恋愛映画を作り続けていってくれそうだ。「恋している男女の姿を描くことこそ僕は映画的と思うんだ。また、『髪結いの亭主』が完成したとき、ある著名な監督を試写会に招待した。すると試写後に彼が涙を流していてね。理由を聞くと“この映画を見て、僕の妻への愛がまだまだ足りないことに気づいた”とのこと。この言葉は今でも僕の心の大きな支えで、今も恋愛映画を作り続ける自信になっている。今後もいろいろな愛の形を描きたいと思っているよ」『暮れ逢い』12月20日よりシネスイッチ銀座にて公開取材・文・写真:水上賢治
2014年12月17日この男、いま世界で最も特異な才能を発揮しているフィルムメイカーかもしれない。スペインの鬼才として名を馳せる監督、アレックス・デ・ラ・イグレシア。唯一無比のオリジナルが存在する彼の作品は世界に多くの熱狂的なファンを持つ。まだ知名度の低い日本でももっと注視したい存在だ。その他の写真ヴェネチア映画祭で監督賞を受賞するなど、数々の受賞歴を持ち、輝かしいキャリアを誇るイグレシア監督だが、そんな自身のステータスや名声にはまったく興味なし。いわゆる作家主義やアート系とはまったくの対極をいくサービス精神溢れる作品を一貫して発表している。その点について本人はこう明かす。「僕としては自分から生まれたアイデアをひとつひとつ形にしているだけ。僕としてはただ自分の作りたい映画を作っているだけだよ」今回同時公開となる2作品でも彼のスタンスは変わらない。『スガラムルディの魔女』では人食い魔女の聖地に迷い込んでしまったドジな強盗団ご一行の必死の逃亡が、『刺さった男』では頭に鉄筋が刺さり動けなくなった元エリート広告マンの運命がとてつもないテンションで描かれる。一見すると奇想天外にして荒唐無稽。でも、そこに現代社会への警報ともとれる痛烈なメッセージが隠されていたりもする。このイグレシア監督ならではの独自の世界観について、彼のミューズにしてパートナーでもある女優のカロリーナ・バングはこう語る。「彼のイマジネーションが反映された脚本には毎回驚かされるわ。役者として言わせてもらうと、彼の脚本は読んだとき、実際に演じているとき、出来上がったものをみたときの3度ともまったく印象が変わるの。だから演者としては役作りをどうとかではなくて。もう彼に身を捧げるしかないのよ(笑)。『スガラムルディの魔女』ではパンクな魔女を、『刺さった男』では主人公を取材しようとする女性記者を演じたけど、どちらも“私はどこに連れて行かれるの?”といった感じだったわ(苦笑)」。一方監督はこう語る。「今回、カロリーナは2時間もワイヤーに吊られっぱなしでいたことがあった。このようにね、僕の作品の撮影はハードで無茶な要求もするから(苦笑)。信頼できる俳優じゃないととてもじゃないけど任せられない。だから毎回同じような顔ぶれが揃うんだ」あのクエンティン・タランティーノも絶賛する才人、アレックス・デ・ラ・イグレシア。その作品世界は体感しないともったいない!『スガラムルディの魔女』『刺さった男』11月22日よりヒューマントラストシネマ渋谷にて上映取材・文・写真:水上賢治
2014年11月20日デビュー作『カケラ』が国内外から高い評価を受けた新進監督の安藤桃子と、出演作ごとに圧倒的な存在感を放つ女優の安藤サクラ。実の姉妹であるふたりは“いつか一緒に映画を”との想いを互いに抱いていたという。その姉妹の想いがこのたび結実した。その他の写真安藤桃子監督の長編第二作にして主演に安藤サクラを迎えた『0.5ミリ』は、監督自身が書き下ろした同名小説の映画化。自身の介護経験に着想を得た物語は、当初から妹を想定して書き上げたという。「私がひとつなにか物語を創作しようとなるとき、いつも主人公はサクラなんです。実はデビュー作の『カケラ』もそう。ですから、小説の段階から“映画化したときの主人公はサクラで”と思っていました」(桃子)「そのことを姉から聞いて、小説はすぐに読みました。以前から姉は“次は一緒に映画を撮る”と決めていたので、それがついに実現できるのがうれしかったです。それにこの主人公は俳優としてもすごく憧れる主人公像。全力で“サワ”という人物を表現して、この作品で姉妹最強タッグを組みたいと強く思いました」(サクラ)安藤サクラ演じるのは、情の厚い介護ヘルパーの山岸サワ。“冥土の土産におじいちゃんと一緒に寝てもらえないか”との依頼を断りきれなかったばっかりに仕事もお金も家も失ってしまった彼女は生活のため、今度は困っている老人宅に居候する“おしかけヘルパー”となる。作品は、そんな彼女と老人たちの織り成す笑いあり涙ありの人情ドラマから、高齢化や格差といった現代日本の問題が透けて見えてくる。「姉はいろいろなところにアンテナを張っている。改めてすごい人だなと思いました」(サクラ)ただ、そういった社会風刺の効いたドラマである一方で、実に魅力的なヒロイン映画でもあるといいたい。196分の長さなど気にしないでほしい。なぜなら、おそらく山岸サワ=安藤サクラから目が離せなくなるから。今まで見たことがないチャーミングな安藤サクラがここに存在する。「私は生まれたときからサクラをずっと見てきた。彼女にはまだ隠された魅力がたくさんある。今回、その一端は引き出せたかなと思っています」(桃子)父・奥田瑛二、母・安藤和津という両親と同じようでいて重ならない、独自の道を歩み始めた安藤桃子とサクラの姉妹。今後のさらなる飛躍が期待されるふたりの互いの感性が存分に発揮された1作に注目したい。『0.5ミリ』公開中※取材・文・写真:水上賢治
2014年11月12日最近、頭で瓦割りをする少女のCMに眼が釘付けになった人は多いに違いない。あのヒロインを演じたのが現在本格アクションの出来る俳優として注目を集める武田梨奈だ。アクション映画を中心に出演してきた彼女だが、好評を呼び追加上映の決定した『リュウグウノツカイ』では新たな役柄に取り組んだ。その他の写真寉岡萌希とともに主演を務めた本作は映像ディレクターとして活躍するウエダ アツシ監督が自主体制で作り上げた意欲作。アメリカの漁村で実際に起きた“女子高生集団妊娠事件”に着想を得た脚本の内容に最初は驚いたという。「“少女たちが集団で妊娠ってどういうこと?”と。はじめは正直言うと“ありえない”と思いました」その物語は寂れた日本の小さな漁村が舞台。閉塞感の漂う町の状況に何の希望も見い出せない女子高生グループが、謎の深海魚“リュウグウノツカイ”との遭遇に触発されるように自らの未来を切り開こうと妊娠計画を思いつく。となると噂や憶測が飛び交うスキャンダラスなワイドショー的内容に思われがちだが、決してそうではない。ウエダ監督が丹念に掬いとるのは、何をもってしても解明できないであろう思春期の少女たちの心模様。10代の少女特有の危うさや純粋さが浮き彫りになるドラマは世界に届く普遍性を得ている。武田も「彼女たちのような行動へは至らなかったけども、私自身も同じような年代のころ、周りが見えなくなるほどあることに一直線に走ってしまったり、目に見えない不安に駆られたことがある。演じる中で、そういうことを感じたとき、すごく彼女たちの存在が近くに感じられました。おそらく彼女たちのような心境にいる少女は世界中にいるのではないでしょうか」と語る。劇中で演じた幸枝はグループのムードメーカー的存在。アクションを求められることが多い武田だが、ここではどこにでもいる女の子を自然に演じている。「等身大で挑めた役でした。制服は少し恥ずかしかったですけど、これも女優ならではの特権かなと(笑)」「これからもアクション演技にはこだわっていきたい。でも、私が目指すのは“アクションもできる女優”ではなくて、“どんな役柄も表現できる演技者”。今回のような匿名性の求められる役をきちんと今後も演じられるようになりたい」と語る彼女。ウエダ監督も「投げかけたことに対して即座に反応する演技能力がある」とその才能を高く評価する。誰にも真似できない我が道を進みつつある彼女に注目を!『リュウグウノツカイ』11月8日(土)より大阪・第七芸術劇場、11月29日(土)より東京渋谷アップリンクにて上映取材・文・写真:水上賢治
2014年11月06日“MoMA”の通称で知られるモダンアートの殿堂“ニューヨーク近代美術館”が所蔵するのは絵画や彫刻といったアート作品だけではない。実は映画部門もある同ミュージアムのフィルム・コレクションは2万2000作品以上と世界最大級。この度、その貴重なフィルム・コレクションを目にできる特集上映が開催される。その他の画像コミュニティシネマセンター、東京国立近代美術館フィルムセンター、東京国際映画祭、MPA、日本国際映画著作権協会の共催企画『MoMAニューヨーク近代美術館映画コレクション』は、MoMAの膨大な映画アーカイヴから厳選した作品の数々をフィルムで上映する試み。実現した経緯をコミュニティシネマセンターの岩崎ゆう子事務局長はこう明かす。「ここ数年、映画は撮影及び上映方法もデジタル化が進み、フィルムでの上映が消えつつあります。ただ、これまで多くの作品がフィルムで保存され、デジタル化されているものはごく僅か。この現状を踏まえ、コミュニティシネマセンターでは“Fシネマ・プロジェクト”として、フィルム文化を伝え守ることに力を注ぐ活動をしてきました。今回はその活動の一環でようやく実現した企画です」ラインナップを見ると今年生誕120周年を記念して『駅馬車』『静かなる男』のデジタル・リマスター版が上映され好評のジョン・フォード監督の初期作品『香も高きケンタッキー』や、そのフォードの盟友であるジョン・ウェインの初主演作『ビッグ・トレイル』などの映画史に名を残す作品がずらり。また、19歳の時、ウォルト・ディズニーが制作したアニメ『ニューマン劇場のお笑い漫画』やアンディ・ウォーホールが監督した『スクリーンテスト|アンディ・ウォーホールの最も美しい女性たち(4人版)』など、世界のカルチャー史においても貴重なフィルムも登場する。「作品の選定には悩みましたが、最終的には映画草創期の短編から映画史に輝く名作、そこにMoMAということで、例えばマーティン・スコセッシ監督が両親を撮影したドキュメンタリー『イタリアン・アメリカン』のような “ニューヨーク”がキーとなる作品も加わって、今までにない個性的なプログラムが組めたのではと思っています」なお、10月26日(日)にはニューヨーク近代美術館映画部のケイティ・トレイナー氏の講演会も行われる。これだけのフィルムが集まることはめったにないこと。この機会に貴重な名画の数々をいまや希少となったフィルム上映で味わってほしい。『MoMAニューヨーク近代美術館映画コレクション』開催:10月24日(金)~11月9日(日) ※10月27日及び11月3日は休館開催場所:東京国立近代美術館フィルムセンター取材・文・写真:水上賢治
2014年10月22日東京水辺ラインは12月10日と11日、水上バスによる周遊とさまざまな企画を組み合わせたイベントを開催する。同イベントは、12月14日の赤穂浪士吉良邸討ち入りの日を前に、「忠臣蔵」の歴史を座学と現地の散策で学ぶ内容となっている。「吉良邸討ち入り編」「泉岳寺編」の2つのプランで、いずれも日本全国の歴史・文化財・城郭に詳しい小林祐一さんを招いて実施する。12月10日は、『水上バスで行く・小林祐一の忠臣蔵歴史散歩「吉良邸討ち入り編」』を開催する。当日は、水上バスでミニクルーズを楽しんだ後、忠臣蔵ゆかりの地「明石町」で浅野家屋敷跡や、築地本願寺に葬られた浪士の墓を見学する。募集人数は40人。参加費は大人3,300円、小学生2,990円。12月11日は、『水上バスで行く・小林祐一の忠臣蔵歴史散歩「泉岳寺編」』を実施する。水上バスでミニクルーズを楽しんだ後、浜離宮から泉岳寺まで討ち入りを果たした赤穂浪士が歩いた道のりをめぐる。泉岳寺見学や四十七士の墓参りもできる。募集人数は40人、参加費は大人3,600円、小学生3,050円。申し込みは、往復はがきにて。締め切りは11月14日必着となっている。※価格は全て税込
2014年10月16日1986年にフランスで発表され話題を呼び、40以上の言語に翻訳されるに至った小説『悪童日記』。日本でもベストセラーとなった同小説は、トマス・ヴィンターベアら名だたる監督による映画化の話が幾度も浮上しながら消えるなど、様々な要因が重なり、いつからかこういわれていた。“映像化不可能”と。その難題といえる映画化をハンガリーのヤーノシュ・サース監督がやり遂げた。その他の写真映画化が頓挫してきた原作への挑戦。まず、この試みに臨んだ理由を監督はこう明かす。「とにかく僕はリスキーなテーマや題材に挑むことが好きなんだ。また、両親がユダヤ人強制収容所からの生還者で。一度、戦争にきちんと向き合いたかった。『悪童日記』はそのふたつのテーマにトライできる。だから、いつか自分にチャンスが巡って来ると信じていたんだ」ハンガリー出身の亡命作家、アゴタ・クリストフの原作は舞台となる町の名も主人公の出身地も特定されていない。その中で、監督はハンガリーが舞台のハンガリー人の物語として描いた。「アゴタが自身の体験が基になっていることは明確。だから、アゴタ本人に会ったとき、僕はこう切り出した。『これはあなたの記憶と体験を綴った物語。ですから、ハンガリー語でハンガリーを舞台に描きます』と。そのとき、彼女は『そのとおりよ』といってね、すごく喜んでくれたよ」物語の主人公は第二次大戦末期、首都ブタペストから田舎町の祖母宅に疎開した双子の兄弟。ナチスの侵攻、ユダヤ人差別、貧困など、国が混迷を極める中、彼らが身を持って体験する過酷な現実が描かれる。中で鮮烈な印象を残すのが双子を演じた子役の二人。実は演技経験のない素人を起用した。「死と隣り合わせの戦時下を生き抜く兄弟を体現できる子役を現代から探し出すのは至難の業で。ハンガリーのすべての学校に電話して、奇跡的に出会ったのがアンドラーシュとラースローのジェーマント兄弟だった。実際に彼らは貧しい村の出身で。劇中の兄弟同様に肉体労働の経験もあった。ありのままでいてほしかったからあえて演技指導はしなかったよ」作品はチェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でグランプリを獲得など世界各国で高い評価を得ている。「各国ともに若い人たちがこの映画を支持してくれね。“この兄弟の境遇は他人事ではない”と現代の社会に重ねて語る若者がすごく多い。僕は受賞よりもそのことがうれしい。日本の若者にもぜひ観てもらいたいね」『悪童日記』10月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテほかにて公開取材・文・写真:水上賢治
2014年10月02日第11回を迎えた“SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014”は『約束のマッターホルン』が最優秀作品賞に輝き、27日に閉幕した。開催を通じて感じたのは、長編部門にノミネートされた海外作品のレベルの高さ。中でも映画に関して日本ではあまり馴染みのない国の新人監督たちの豊かな才能と世界を見つめる鋭い眼が印象に残った。その他の写真惜しくも受賞を逃したが『青、そして少しだけピンク』は同性愛者でありながら息子を持つ父である男性と彼を取り巻く人々の人間模様を描いたドラマ。手掛けたベネズエラのミゲル・フェラーリ監督は「中南米の多くの国でまだ根強く残るゲイや同性愛への偏見を少しでも変えたかった」とのこと。その想いは届きベネズエラでは異例のロングランヒットになったそうだ。同じく受賞を逃したがセルビアのミロシュ・プシッチ監督が手掛けた『帰郷』も印象深い1作。若者の海外流出、村の過疎化といった自国の問題から今の世界で起こりつつある事象につなげる視点が鋭い。監督は「権力を持つ者ではなく、名もなき人々の視点に立って物事を見つめていきたい。ケン・ローチ監督のような社会にコミットした作品を今後も目指したい」と語る。一方、脚本賞を受賞した『彼の見つめる先に』はブラジルのダニエル・ヒベイロ監督が10代の高校生の初々しい恋を見事なストーリーテリングで描き出す。「自分が目指すのは世界の人々の心に響く普遍的な作品」と語る彼は過去に発表した短編2作が国際映画祭で100以上の受賞を重ねた才人。今後の動向が注目される。また、『ラブ・ミー』は今混迷の中にあるウクライナから届いた。トルコの男性とウクライナ人の女性の愛の物語は、トルコとウクライナとロシアという国同士の力関係までが見えるほど深い。オリーナ・ヤーショバプロデューサーは「ソ連邦の崩壊後、ウクライナではほぼ映画製作がストップした。自国を語る映画がないことほど不幸なことはない。厳しい状況は続くが、あきらめずにウクライナでの映画製作を模索していきたい」と語る。ここに上げた作品の国の映画製作状況は決して恵まれていない。その中にあって監督たちは世界の人々に届く普遍性のある作品へと仕上げている。この彼らの確かなビジョンとクリエイター力を見た審査委員長の新藤次郎氏は、日本の3作品に対して敢えて苦言を呈した。今年の本映画祭が、映画大国以外にも存在する世界の新たな才能に出会う機会になったことは間違いない。取材・文・写真:水上賢治
2014年07月30日現在の40~50代の男性にとってこの人は時代のアイコンとして存在しているに違いない。モデルから女優に転じ、“2時間ドラマの女王”として名を馳せ、現在に至るまで様々な作品に出演してきた女優の夏樹陽子。40年に迫る長きキャリアを積んできた彼女が久々に映画の主演を務めた。その他の画像今回の主演作『あいときぼうのまち』は、福島出身の菅乃廣監督をはじめスタッフとキャストが一丸となり、鎮魂の想いを込めて“福島”を描き切った力作だ。ただ、今震災を描くことはいろいろな意味で難しい。社会にコミットするということで出演する俳優も決断が迫られる。でも、躊躇はなかったと彼女は明かす。「この作品で描かれるような問題に私はきちんと向きあいたい。なので、ひるむことはありませんでした」。むしろ、どこかで待ち望んでいた作品だった。「震災後、被災地に救援物資を送るなど、自分なりにできることをずっとしてきました。ただ、私はやはり女優なので演じることで何かお役に立てれば本望で。今回はふたつ返事でお引き受けしました」。映画は東電に翻弄された四世代の家族を主軸に、70年に渡る福島の歩みを日本の歩みと照らし合わせながら描く。特筆すべきは原発問題を点で捉えていないことだ。長き歴史という線で捉えられたドラマは、原発問題の本質に肉薄。同時に単に“福島で起きたこと”では片付けられない日本で繰り返される悲劇の構造までもが浮かび上がる。「原発事故を福島で起きたことで済ましてはならない。日本で起きたことと考えなくては。福島の人々に想いを馳せ、日本人の歩んできた過去と現在を見つめたとき、みえてくることがたくさんある。その上で、これからの未来を考えていかないといけない気がします」。劇中で、演じたのは原発建設に最後まで反対した父をもち、不遇な少女時代の記憶が今も甦る愛子。還暦で“あの日”を迎えた彼女と孫娘の怜子に訪れる突然の別れと切れることのないつながりにもまた深い意味が隠されている。「東日本大震災では多くの人が深い悲しみに直面されたと思います。でも、誰のせいでもない。自分自身を責めないでほしい。私はそんなことをふたりが互いに抱く愛情から感じとりました」。最後にこうメッセージを贈る。「悲しいけど人は忘れやすい。だから、こういった作品を通し、震災を後世に伝えなくては。この作品が福島の人々及び震災で傷ついた方々の心に小さな希望の火を灯すものになってくれたらうれしいです」。『あいときぼうのまち』6月21日(土)よりテアトル新宿ほかにて全国公開取材・文・写真:水上賢治
2014年06月20日数々のテレビドラマや映画などで確かな存在感を放ってきた俳優の大森南朋。近年、缶コーヒー“BOSS”のCMを代表するように、どこか“いい人”というイメージの役柄が多かった彼が、最新主演作『捨てがたき人々』では久々に一転ともいうべき危うい男役に挑んだ。その他の写真「アシュラ」など賛否ある問題作で知られる漫画家、ジョージ秋山の原作をもとにした本作は、脚本を実の息子である秋山命が手掛け、俳優としても活躍する榊英雄監督が映画化した。聞くと榊監督とは長い付き合いだそうだ。「出会ったのは確か2000年に公開された『忘れられぬ人々』の現場。年齢も近く、馬が合いまして。お互いまだ役者では食べていけてないころ、この業界に人脈を作ろうと関係者を集めての宴会をふたりで企画して開いたりもしました(笑)」。そういう間柄というのもあって、出演はふたつ返事だったという。「監督と秋山さんからまず会おうと。まだ脚本もない構想の段階でしたが、秋山さんには親父さんの作品を今の時代に届けたい気持ちが、監督には過去の作品とは違う人間の業と欲望に迫る人間ドラマを作りたいという意志が話からひしひしと伝わってきました。僕自身、監督が映画監督を始めたときから、“いつかがっつり組んでみたい”という気持ちもあったので断る理由はなかったです」。演じたのは社会の底辺で愛など知らずに生きてきた狸穴勇介。作品は、三輪ひとみ演じる京子との出逢いを機に変化する彼の心の遍歴を通し、人間の“性”と“生”の本質を見据える。「体重を5キロほど増やしたりといった下準備は幾つかしたのですが、それよりも人間のむき出しの本能や本性が出せるかどうか。芝居うんぬんではなく、生身の人間になれるかが勝負でした」。その演技の凄みは観て確認してほしい。ただ、ひとつ言えるのは大森の役者としてのダーク・サイド的魅力が全開で出ている。「三輪さんに暴力をふるうシーンとか演技とはいえ本気でいかないとダメで、良心の呵責にさいなまれるというか。撮影中はずっと嫌な気分で、これほど肉体的にも精神的にも負担の大きい役は今までなかったかもしれないです。最近、こういう汚れ役というか危うさのある人物を演じていなかったので、自分に今こういう役をぶつけてきてくれたことにすごく感謝しています」。こうして公開を迎えた今こう語る。「インディペンデント体制でスタッフも役者も一丸となって挑んだ作品。ひとりでも多くの人に届いてくれたらうれしいです」。『捨てがたき人々』公開中取材・文・写真:水上賢治
2014年06月09日あらゆる創作活動が波風の立たない、無難な内容に収まる傾向が強くなっている気がする昨今の日本。その中で、この局の存在は際立つ。常に賛否ある題材に挑むことを恐れず、ドキュメンタリー作品を生み出し続ける“東海テレビ”。『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』に続き同局から届いたテレビドキュメンタリー劇場第6弾『ホームレス理事長~退学球児再生計画~』もまたまたチャレンジングな1作だ。その他の写真本編でも触れている2009年のデータでは、高校野球連盟の調査によると約6万人が野球部の門を叩きながら、うち約9000人の生徒が様々な事情で中途退部しているという。今回、東海テレビの取材クルーが追ったのは、そんな高校をドロップアウトし、甲子園への夢破れた高校球児たちに「再び野球と学びの場を」と創設されたNPO法人“ルーキーズ”だ。このチームとの出会いを今回がドキュメンタリー番組初挑戦となった土方宏史監督はこう明かす。「ルーキーズを取材したのは夕方のニュース番組でのこと。グランドを訪れると、人気漫画「ルーキーズ」と変わらない、やんちゃな元球児(笑)が懸命に白球を追っている。指導する池村英樹監督も暴力問題で野球界を追放され、ここが再出発の場となっていて。今後も彼らの活動を追ってみたいと思いました」。作品はなかなかチームに馴染めないひとりの少年を機軸にしながら、山あり谷ありのルーキーズの活動の日々を記録する一方で、資金難で金策に奔走する山田豪理事長の姿を追う。この山田理事長だが抱く理念はすばらしいが交渉下手。にっちもさっちもいかず、闇金に手を出そうとするは、あろうことか取材クルーに金を無心するはと、危なっかしい。「いまだに理事長が何を考えているのかわからない(笑)。でも、とにかく子供たちのためにルーキーズを絶対に守らなくてはならないと思っているのは確か。そのためなら、自宅の水道・電気・ガスが止められても構わない。これは真似できそうでできない」。また、作品中には池村監督が選手に9発ものビンタをあびせるシーンが収められている。これは物議を呼び、東京での放送は見送られた。でも、考えてほしい。このシーンをカットして伝えることが果たして正解なのか? と。土方監督はこう投げかける。「“命”に関する重要なシーンでしたからカットは考えませんでした。暴力を肯定しているわけではありません。このシーンの何が問題なのかを皆さんと考えられたらと思います」。『ホームレス理事長~退学球児再生計画~』公開中取材・文・写真:水上賢治
2014年02月17日“若手女性監督たちに上映の場を”との声から始まった女性監督たちの製作・上映グループ“桃まつり”。参加監督が企画から製作、宣伝、公開までを手掛けてたどり着く彼女たちの上映会は、回を重ねるごとに反響を呼び、現在では女性映像作家たちが才能を開花させる場となっている。今回も百花繚乱、個性豊かな女性監督の作品が揃った。その他の写真今年のテーマは“なみだ”。『へんげ』の主演女優としての熱演が記憶に新しい森田亜紀が『先生を流産させる会』の宮田亜紀を迎えて作り上げた初監督作『雨の日はしおりちゃん家』や、女吸血鬼が成人童貞の純血を求める加藤麻矢監督の異色のヴァンパイア・ムービー『貧血』など、今回は例年以上に多様なラインナップだ。中でも注目したいのは昨年のぴあフィルムフェスティバルで『水槽』が入選した新鋭、加藤綾佳監督の『サヨナラ人魚』。年上の男性と密会を重ねる女の子を主人公にした作品は、不安定な女性の胸中を生々しく描き切る。そこから垣間見えるリアルな女性心理は、特に男性はドキリとさせられるに違いない。また、そこからは女性ならではの感性が立ち昇る。「女性の生々しい感情が出るのは恋愛だと考えている。そこを追究していきたい気持ちはある」と加藤監督は語る。一方、仙台短編映画祭プロジェクト作品『明日』で、その一編である『ちょうちょ』を発表した新進映像作家、朴美和監督の『いたいのいたいのとんでいけ』は、両親の仲を元に戻そうとする少女の心に寄り添ったドラマで心が揺さぶられる1作。どこかノスタルジックなタイトルと重なるように温かさと哀しみが全体に漂う作品は、言うなれば表には現れない裏に隠れた真意を鋭く射抜き、ひとりの孤独な少女を襲うさまざまな傷、心の中から溢れ出る悲痛な叫びを見事に映し出している。「絵空事ではない自分の身に寄せて考えられる作品をこれからも創っていきたい」と朴監督は力強く語っている。ほかにも、8ミリフィルム素材をもとにした実験的映像表現が新鮮な印象を残す小口容子監督の『愛のイバラ』、渡辺あい監督による現世とあの世の想いが交差する人間ドラマ『MAGMA』、日常から垣間見える人の生と死を見つめた糠塚まりや監督の『葬式の朝』、かかしとゾンビの恋を描いた岡田まり監督の異色作『東京ハロウィンナイト』など、多士済々。次なるステージを目指す才女たちがそれぞれの感性を爆発させる作品の数々に触れてほしい。『桃まつりpresents なみだ』公開中取材・文・写真:水上賢治
2013年05月13日“韓国のゴダール”“エリック・ロメールの弟子”など、ヌーヴェルバーグの巨匠たちを引き合いに出されるほど世界で評価されるホン・サンス監督を特集した『ホン・サンス/恋愛についての4つの考察』が、11月10日(土)より公開される。特集では、日本劇場未公開だった近作4作がうれしいことに一挙上映。今回、そのうち3作に出演した、ホン・サンス作品の常連俳優で、韓国で“夫にしたい男NO.1”にもなったユ・ジュンサンが、監督との映画作りについて語ってくれた。ホン・サンス監督のトークショー情報ホン・サンス作品で一貫して描かれるのは男女の“恋愛”。どこにでもいるような男と女のごくごくありふれた日常の中から生まれる恋愛の機微が、時にリアルすぎるほど生々しく、時に煙に巻いたようにファンタジックに映し出される。今回上映される4本『よく知りもしないくせに』『ハハハ』『教授とわたし、そして映画』『次の朝は他人』も同様。普通の男女が交わすたわいのない会話や、やりとりから、ムクムクと人間の真理や本性が浮かび出てきて、いつしか映画から目が離せなくなる。ところがその映画に「脚本はない」と、ユ・ジュンサンは笑顔で明かす。「実は1冊という形での台本はないんです。撮影当日の朝、その日やる分の台本が渡される。その連続なんです。一度、監督に尋ねたことがあります。“俳優に渡さないだけで台本は出来上がっているんですよね?”と。すると、監督は“いや、出来ていない。常に、撮影前日の夜から朝にかけて翌日撮る脚本を考えるんだ”と言っていました(苦笑)」ただ、そういった即興的な手法を用いながら、演出は緻密。アドリブは一切なく、綿密なリハーサル、本番も納得いくまでテイクを重ねるという。「例えば、『次の朝は他人』のバーで偶然と必然について語り合うシーンは、確か60テイクを重ねました。もう現場から逃げ出しかったですよ(笑)」ドラマに舞台、アート作品から大作まで、さまざまなジャンルの作品に出演するメジャー人気俳優のユ・ジュンサンだが、その苦労を知ってもなお、今後もホン・サンス作品に出演したいという。「撮影中はつらい事だらけ。でも、出来上がった作品を観ると、その苦労がいつも吹っ飛びます。類稀な才能を持った監督ですよ」世界で今最も脚光を浴びる韓国の天才監督が描く世界と、韓国で大活躍の続く実力派俳優ユ・ジュンサンの勇姿をこの機会に触れてほしい。『ホン・サンス/恋愛についての4つの考察』は11月10日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにてロードショー。なお、ホン・サンス監督と俳優の加瀬亮によるトークショーが、11月25日(日)に東京・シネマート新宿で行われる。チケットは11月17日(土)10時より一般発売開始。チケットぴあでは、11月10日(土)11時より先行抽選「プレリザーブ」を受け付ける。取材・文:水上賢治
2012年11月08日弱冠24歳の新鋭、森岡龍監督の『ニュータウンの青春』が11月3日(土)より渋谷ユーロスペースでレイトショー公開される。浦安を舞台に、悪友3人組のほろ苦い青春を描いた本作は昨年の<第33回ぴあフィルムフェスティバル>のPFFアワード2011でエンタテインメント賞を受賞。その後、釜山国際映画祭にも正式出品された。手掛けた森岡監督は映画作家としてはもとより俳優としても才能を発揮する日本映画界注目の逸材だ。これまでに森岡監督は自主制作した『つつましき生活』『硬い恋人』がPFFに入選。早くからその才能に注目が注がれていた。今回の『ニュータウンの青春』は多摩美術大学の卒業制作作品で、冴えない男子3人組が社会へと旅立つ、言うなれば大人への通過儀礼が描かれる。時に空回りする3人の青春に失笑しながらも、二度と帰れない日々が自分の若き頃にも重なり胸がじんとする場面も。笑いあり涙ありのエンターテインメント性に富んだ本作は、“暗い”“ひとりよがり”という自主映画について回るイメージを大きく覆す。新世代の青春映画の誕生を感じさせるといってもいい。森岡監督自身は「自主ではあるけれども、劇場公開を当初から視野に入れて作った作品。ほかの一般公開作品と並んだとき、どういう反応があるのか? 気になるところです」と語っている。また、彼は石井克人監督の『茶の味』で俳優デビューを飾り、その後も『色即ぜねれいしょん』『見えないほどの遠くの空に』など、数々の作品に出演。今後の待機作にも石井裕也監督の『舟を編む』があり、役者としても大きな注目を集めている。これについては「俳優をやることで監督としての自分の財産になることがいっぱいあるし、またその逆もある」とのこと。「いまはいろいろな経験を積むという意味でも、監督も俳優も続けていきたい」。「最後、主人公の3人がそれぞれの道を歩んでいくように、この作品は僕にとってもひとつの大きな区切り。大学を卒業して、ここから新たなキャリアがスタートした気がしている。これからが勝負だと思っています」と本作を位置づける森岡監督。次のステップへと踏み出した彼には、今後の飛躍が大いに期待される。まずは本作で、その若き才能を感じてほしい。『ニュータウンの青春』11月3日(土)より渋谷ユーロスペースにてレイトショー公開取材・文・写真:水上賢治
2012年11月02日デジタルシネマの祭典として国内外の新進監督が集結した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」が22日にフィナーレを迎えた。最終日は各コンペティションの受賞作が決定。メインの長編部門の最高賞となる最優秀作品賞には、オーストリアを拠点に活動するウムト・ダー監督の『二番目の妻』が輝いた。その他の写真見事に栄冠を手にした『二番目の妻』は、ウィーンのトルコ人家庭に嫁入りした若き女性の物語。意味深な題名が示すようにトルコ人の風習を切り口にした衝撃的なドラマが展開する。「(クルド人移民としてウィーンで育った)自身の生い立ちやトルコの伝統を反映して出来上がった作品」とまず明かしたダー監督は「当事者でないと理解しづらいところが多々あるはず。それがここ日本で認められたことは大きな自信になる」と語り、「まさかの受賞。心から感謝したい」と喜びをかみしめた。世界的巨匠、ミヒャエル・ハネケに師事した経歴を持つダー監督の今後の活躍に目が離せない。一方、監督賞は、日本の中野量太監督が手中にした。受賞作『チチを撮りに』について中野監督は「幼くして父を亡くし、母子家庭で育った影響か“家族”に興味がある」と語り、「これからも笑いと涙が同居する僕にしかできない家族ドラマを作っていきたい」と将来を見据えた。なお同作はSKIPシティアワードとW受賞。さらに国内上映が確約されるSKIPシティDシネマプロジェクト作品にも選出された。ニュージーランドのプロデューサー、マーテン・ランバーツ審査委員が「独創的な作家性がある」と評したように、彼はユニークな感性の持ち主。日本映画の未来を担う存在に成長することを期待したい。現在、日本には数々の映画祭が存在するが、実は世界の最新作が上映されている映画祭は少ない。その意味で世界の新作を集めた本映画祭は貴重な場であり、存在意義の高まりを感じる。本映画祭が注目した世界の才能が今後どう飛躍するのか注目したい。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012●長編部門(国際コンペティション)最優秀作品賞『二番目の妻』監督:ウムト・ダー監督賞『チチを撮りに』監督:中野量太脚本賞『旅の始まり』監督:マルヒン・ロハール審査員特別賞『ノノ』監督:ロメル・トレンティーノSKIPシティアワード「チチを撮りに」監督:中野良太●短編部門(国内コンペティション)最優秀作品賞『ユメのおと』監督:角川裕明奨励賞『小さなユリと第一章・夕方の三十分』監督:和島香太郎『トゥルボウ』監督:多田昌平取材・文・写真:水上賢治
2012年07月23日現在では主流となった、デジタルで撮影・制作された映像作品にいち早く焦点を当てた「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」の開催が14日に迫った。新たな映像作家を見い出すメイン・プログラムの長編コンペティション部門には、将来が嘱望される世界各国の新進監督の12作品がスタンバイ。日本人監督は3名が名を連ね、今回各人が取材に応じてくれた。その他の写真『Heart Beat』でノミネートされた浅沼直也監督は、弱冠19歳で脚本家デビューを果たしている20代の新鋭。バスケットボール部に所属する幼なじみの男女3人が体感する青春の光と影を瑞々しく描き出した本作は、今年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」でも話題を呼んだ。中でも作品のクライマックスとなるバスケットのゲームシーンは「役者に3ヶ月間の特訓を課して挑んだ」とのこと。また、今後については「今回もそうですが、人間だからこそ感じる心の痛みや、そのときに抱く感情の揺れを描いた作品を作っていきたい」と語る。一方、『月の下まで』を手掛けた奥村盛人監督は新聞記者から転じた異色の経歴の持ち主だ。作品は「郷里の岡山と同じぐらい愛着のある第2の故郷」と監督が語る高知の港町を舞台に、漁師の父親と知的障害を持つ息子が互いの信頼を取り戻すまでを描出。東京を基準にしない監督のある意味、地方に根ざした独自の視点が印象深い。「逆境に負けない人間の強さと逞しさを描くと同時に、土佐の風土や伝統、町の人々の気概までも伝えたかった。世界の作品が揃う中、地方の小さな町を舞台にした自分の作品がどう受けとめられるのか楽しみ」と先を見据える。また、『チチを撮りに』を作り上げた中野量太監督は、過去に発表した短編作品で数々の賞を獲得している実力派。「母子家庭で育ったからかも」と本人が語るように、家族をテーマにした悲喜劇を作り続けている。実力派女優、渡辺真起子を主演に迎えた本作も同様。元夫の死に直面した母とその娘2人の心の軌跡がユーモラスに綴られる。「目指すは、喜びと悲しみが表裏一体となった本当の意味での“笑い”が存在する重喜劇。一生懸命生きる人間の持つ愛しさや切なさ、輝きを描きたい」と意気込む。今年はミヒャエル・ハネケに師事した監督など外国勢も多士済々。その中で、彼ら国内組がどんな結果を出すのか注目したい。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012期間:2012年7月14日(土)~7月22日(日)会場:SKIPシティ(埼玉県川口市) *映画祭期間中はJR京浜東北線川口駅東口より無料バスを運行問合せ:048-263-0818(映画祭事務局)取材・文・写真:水上賢治
2012年07月12日昨年の夏、2011年8月11日夜7時、被災地10か所で同時開催された「LIGHT UP NIPPON」。“東北を、日本を、花火で、元気に”をスローガンに実施された本花火大会が、今年も同日同時刻に開催される。「LIGHT UP NIPPON 2012」の詳細震災からわずか5か月で実現した、昨年のこの花火大会のはじまりは都内在住の会社員、高田佳岳氏の呼びかけだった。東京湾花火大会の中止で、使用するはずだった花火が宙に浮いていることを知った彼は、その花火を使った追悼花火大会の実施を、震災で被害を受けた東北の町や市に打診。“東北に元気を”との思いで実現に奔走したという。「時期尚早と思いましたがいてもたってもいられず、4月10日には東北各地を訪れ、観光課の方などに話しをしてみました。そうしたら意外にも“やろう”と言ってくれる方が多くて。その言葉に勇気づけられ実現に向けて一気に動き出しました」想いは見事に結実。震災で亡くなった人の追悼と鎮魂の思いを胸に、彼をはじめとする有志と地元の人々の心がひとつになって開催された花火大会は、被災地で生きる4万2000の人々が訪れた。「花火がパッと咲いた瞬間、周囲にいた子供たちが笑顔で花火の上がった方向に駆け寄っていったんです。この瞬間、“やってよかったなぁ”と。ほんの少しですけど、東北に勇気と希望を届けられたのではないかと思っています」その昨年を経た今年は“東日本大震災を絶対に風化させない”が重要なテーマ。高田氏は「東京にいると震災の記憶が薄れつつある気がします。でも、東北はまだ復興の道半ば。いまだに多くの人が苦境の中にいることに思いを馳せる機会になればと。昨年より各町も受け入れ体制が整ってきているので、ぜひ現地を訪れ、地元の人と交流をもって、各会場で一緒に花火を観てください」と語る。8月11日に先立ち、7月7日(土)からドキュメンタリー映画『LIGHT UP NIPPON日本を照らした奇跡の花火』が劇場公開となる。ナレーションを女優の黒木瞳が担当し、音楽を坂本龍一が務めたこの作品は、まさに昨年、高田氏のたどった花火大会開催実現の軌跡の一部始終が収められている。この映画の収益は今年開催される花火代になるので、映画を観ることでも支援に繋がるとのこと。また、映画の公開にあわせて、7月7日(土)、8日(日)に、六本木・東京ミッドタウンにて「LIGHT UP NIPPON 七夕まつり」が開催予定だ。「この機会を通して、『LIGHT UP NIPPON』の活動をもっと皆さんに知っていただきたいです。もし賛同いただけるようなら、ご支援いただけるとうれしいです。震災の記憶をとどめるためにも、末永い花火大会にしていきたいのです。花火は1発約3000円。これで被災地に笑顔を届けられますので、ぜひご参加をお願いします!」という熱いメッセージを預かった。興味をもたれた方はぜひ温かい支援を。(取材・文水上賢治)
2012年07月06日