育児や家事に追われる限界ギリギリの日常に忍び寄る「心の病」。ちょっとしたボタンのかけ違いが、家族の運命を大きく変えることがあります。今回は実母の心の病を娘目線でつづった『母とうつと私』から、「家庭の問題」と読者から届いた体験談をお届けします。■心を病んだ母親…背景にあったのは「夫婦のすれ違い」『母とうつと私』は作者めめみさんの実体験に基づくストーリー。母親が心を病んでしまうきっかけは、決して他人事とは思えない「ささいな出来事」から始まります。「夫の単身赴任」によって、子育て・家事の負担はさらに増大し、セーブしていた夫への愛情も火が消えかけたロウソクのような状態に…。夫婦関係は悪化の一途をたどり、ついには「好きな人ができた」と嘘をついてまで、父親に離婚を切り出します。その頃から、まるで狂ったように氷ばかりを食べる「氷食症」の症状があらわれていた母親、すでに異変を伝えるサインを発していたのでした。■一方、父親もまた精神的に追い詰められていた…しかし父親もまた、仕事と家庭の悩みに押しつぶされそうな日々を過ごしていました。そして仕事でも家庭でもストレスを抱えた父親は、母親に対して態度を激変させます。父親からの心無い言動により身体的にも精神的に蝕まれていく母親。原因不明の不調におかされ、寝込むことが増えていきます。そんな最悪な状況のなか届いた「単身赴任終了」の知らせ。夫婦関係は泥沼化しているにも関わらず、同じ屋根の下で暮らすことにーー。そのことが、さらに母親を追い詰め、精神崩壊までのカウントダウンが始まります。■ついに心が限界に! 別人と化す母親5年間の単身赴任を終え、本社勤務に戻った父親は昼休憩も自宅に帰るようになります。週1でよかった食事の用意も本社勤務に戻ったことを機に毎日3食分が必要となり、母親の体調は悪化の一途をたどります。しかし父親は母親の不調に理解を示そうとせずーー。ついに限界に達した母親は、突然の過呼吸に襲われ、知り合いに助けを求めるのでした。そして最後の力を振り絞って、父親に連絡を入れる母親。しかし父親の手荒な対応が、ついに崩壊へのスイッチを押してしまうのでした。異変に気づいた父親はすぐさま自宅に帰ると、そこには、いつもとは違った様子の「妻」の姿がありました。その後、興奮状態に陥った母親は暴れまわり、子どもたちの前でも異常な行動を繰り返します。さらに被害妄想にとりつかれ、子どもたちをも巻き込んだ騒動を起こしたり、病院から逃亡したりと家族の手に負えない状態にーー。うつ病は日ごとに深刻さを増し、母親は精神病院に入院するまでに至ります。こちらは2021年7月10日よりウーマンエキサイトで公開された漫画です。漫画に集まった読者からのコメントをご紹介します。■人には言えない家庭の問題 読者からの告白が続々!本作では夫婦関係の悪化が引き起こした心の病について描かれるなかで、読者からも夫婦関係の不和によるストレス・心の病についてさまざまな声が寄せられました。・すごく気持ちがわかります。主人が帰ってくる時間が嫌で嫌で仕方なかったです。主人が「今日夜ご飯いらない、外で食べるから」言われると嬉しくて仕方ありません。・夫がうつ病で何度も休職を繰り返していました。公務員なので、なんとか休業中も生活できたけど、生活を維持するために影で借金をしていて、ショックでした。・夫が大変な部署へ単身赴任になってから、夫の性格が荒くなりました。私が反撃できるタイプなので、子どもに矛先が向かうようになりました。夫は元々優しい穏やかな人柄だったのに、口の悪い人が周りに多いと感化されるのか八つ当たりなのか、厳しくなります。・うつ病、罹った人しか辛さはわかりませんよね。自分も軽度のうつ病を患っています。妻の母親からのプレッシャー。休みの日は、買い物の運転手か自宅に訪ねて来られ、朝から晩までずっといます。勝手に訪ねてきながら、帰りは車で送るのが当たり前。当事者にしかわからない辛さを、周りはわかってくれません。主人公の女性の気持ちがすごく良くわかります。・夫が発達障害である。人の気持ちに寄り添ったり理解することが苦手なため、家族とのコミュニケーションがとれない。それに加えてモラハラ、パワハラは当たり前で、人とズレた考えなのでどうしようもなく、私はうつになった。・私自身に困っています。 夫婦仲が悪く、イライラすることが普通になって、子どもにもイライラして怒鳴ったり当たり散らして、子どもに嫌われてこれでは良くないと思って病院に行って薬を飲んでも、カウンセリング受けても、自分を変えたくてもコントロールできなくて苦しいです。どんな家庭にも大なり小なり夫婦の問題はつきものです。しかし小さなボタンのかけ違いが夫婦関係の溝をさらに広げ、心の病に至るケースもーー。特に子育て中はただでさえストレスがかかりやすい時期。夫婦関係と子育ての悩みは一気に加速して、家族の歯車が大きく狂い出すこともあるでしょう。そのため育児中のうつは決して他人事ではありません。ウーマンエキサイトでは、夫婦間の問題や母親の闘病記などさまざまなエピソードを紹介しています。▼「母とうつと私」
2022年04月15日家族が心の病におかされ、幸せな日常が一変する様子を描いた笹川めめみさん作『母とうつと私』。壊れていく母親の姿を娘目線で描いた壮絶な内容は、読者から大きな反響を集めました。小さなボタンのかけ違いから始まった母の異変。当たり前と思いがちな家族の幸せについてあらためて考えさせられる作品です。■家族の運命を変えたあの日の記憶このお話は冒頭から母親が暴れる衝撃的なシーンから始まります。当時小学5年生だった作者のめめみさんは、いつも通り習い事を終えて、弟と帰宅。すると彼らの目に飛び込んできたのは、いつもとは違う、衝撃的な母の姿でした。まるで悪魔に取り憑かれたように、おぞましい言葉を叫びながら暴れる母。めめみさんは恐ろしさを感じると同時に、すべてが失われていく絶望感に襲われます。優しくて、いつも愛してくれる両親。お金にも不自由しない豊かな暮らし。当たり前だと思っていた幸せが、ガラガラと音を立てて崩れていくのでした。■誰も気づかなかった母のSOS冒頭の事件を起こす以前から、すでに異常行動を繰り返していた母。異常に氷ばかりを食べる「氷食症」を発症し、その数は多い日には1日100個以上に及ぶこともあったそう。「氷食症」は貧血やストレスが原因で起こるとされるもの。しかし母が最初出したSOSに家族の誰もが気づくことなく、症状はますます悪化の一途をたどるのでした。氷食症を発症した母はその後、右肩の激痛で眠れなくなったり、手がこわばり自由に動かせなくなったり、さまざまな不調が一気に押し寄せます。そこで友人に心療内科を紹介してもらい病院を受診するも…。処方された抗不安薬によって起き上がることさえままならないようになります。■大騒動を起こした母、ついに精神病院へ冒頭の事件の後も、母親はある妄想にとりつかれ、大騒動を引き起こします。病院から逃走を図り、ついに捕らえられた母は精神病院に入院することになるのですが…。その姿を目撃した子どもたちには、一体何が起きているのかさえもわからない状況。深い悲しみに襲われながらも、めめみさんは「お母さんは大丈夫」と自らを奮い立たせます。一方、母親はガラス張りの監察室に入れられ、それでも抵抗を繰り返します。暴れた末、注射によって意識を失った母は、目を覚ますと、漠然とした不安に襲われるのでした。「このまま私は一体どうなってしまうのだろう」絶望感を抱えたまま、母の入院生活は始まってゆくのでした。その後、入院生活の様子や残された家族の日常など、母親と家族がいかにしてうつ病を乗り越えていくのかが克明に描かれていきます。 ■家族の心の病と向き合った読者の声今回読者の方々からも、家族の心の病についてのさまざまな実体験が寄せられました。・私の母も中学時代、うつ病で自殺未遂、家出、入院、離婚し元気になり、また再婚しました。乗り越えたというか、その流れに慣れるしかなかった。 母が少し元気になる→嬉しい→また悪くなる→落胆し暗くなった母を見るのが前より辛くなる…の無限ループなので心を閉ざしてとにかく傷つかないようにしてました。・昨年、受験生だった子どもが統合失調症になりました。 毎日が地獄のようにとても辛かったです。・夫がうつ病で何度も休職を繰り返してました。公務員なので、なんとか休業中も生活できたけど、生活を維持するために影で借金をしていて、ショックでした。・精神疾患は本当にに家族が大変なのはわかります。子供時代は世界が狭くこの生活が当たり前だと思ってわからないけど、大人になりいろいろわかってくると、自分が普通の家庭ではなかった事に気がつく。・息子が中3の受験期に起立性調節障害をきっかけに部活・勉強に対し挫折することが次々と重なり、睡眠障害、不登校、最終的にはネット依存(ゲーム障害)に至った。優しく明るい息子が暴言暴力を、また学年上位の成績で勉強好きだった子が、全く勉強をしなくなった。部屋に閉じこもり、話も交わさず、食事もまともにとらず、体重も減少…。(途中省略)ある新聞の記事の医師の話が息子の症状に当てはまり、嫌がる息子を無理やり連れていき診てもらった。入院をし、回復も見られたが学校へ行けず通院。しかし、病院、学校、身内の助けにより、学校に行けるようになった。 進学校であったが、勉強は全くせず学校生活を楽しむ息子に口は出さなかった。 高校3年の夏、急に「弁護士になりたいから法学部にいく」と猛勉強始めました。そして、今年の春から一人暮らしを始め大学の法学部で頑張っています。(途中省略)まさに私の息子も「悪魔に取り憑かれた様な」状態だった。 夢なら覚めてほしい、これが現実なら誰か助けて、最悪の事態を考えるまで追い込まれていたので、苦しみが凄くわかった。周りの家族も最初の頃は、がんばろう! と思っていたが、長く続くと疲弊し、少しづつ気持ちが壊れていくのが見えた。息子の場合もうつ病から始まったものだと思うので、この家族も、辛かっただろう。寄り添う家族の苦しみは果てしないものだと、共感した。思わぬ家族の心の病により、崩れていく平穏な暮らし。しかし、うつ病を患った当事者は家族が知らない場所で思い悩み、病に至るケースも少なくありません。本作では、母親がうつ病を発症した他人事とは思えない経緯についても描かれています。なぜ母親は心の病になったのか、そしてその病をどのように乗り越えていったのか、最後に巻き起こるどんでん返しの展開にも注目です。気になる物語の結末は、ウーマンエキサイトに掲載されています。▼漫画「母とうつと私」
2022年03月10日※画像はイメージです人気バンドSEKAI NO OWARIのボーカル、Fukaseさんが閉鎖病棟に入院していた過去をテレビで告白した。自身のインスタグラムでは、医者に無理やりズボンを脱がされて筋肉麻酔を打たれたことや、時計のない部屋で昼も夜もわからず閉じ込められていたという話を公表。センセーショナルな話題として一気に拡散した。■暗く怖い「閉鎖病棟」のイメージ厚生労働省の発表によれば、令和元年の精神病床における1日あたりの入院者数は1000人を超え、精神科受診者数は年間5万8000人以上となっている。重度のうつ病で入院を経験した漫画家、錦山まるさんは、「精神科や精神科病棟はみんながイメージするような場所ではない」と話す。実際のところはどうなのか?漫画家の錦山さんはうつ病を発症し、26歳のとき自殺未遂を起こして精神科病棟に入院することになった。錦山さんの話によれば、入院から4日間は重い鉄のドアのついた部屋に入れられ、外から鍵をかけられた。部屋にはプラスチックの椅子に穴があけられその下に容器が置かれた簡易トイレとベッド以外、何もなかった。私物は一切持ち込めないし、人との接触は日に数回まわってくる看護師とだけ。できることは何ひとつなく、ただ時間だけが過ぎていった。壁際の天井近くには監視カメラがついており、ナースステーションなどから四六時中見張られている。Fukaseさんも書いていたとおり「監視下の中で排泄までせざるをえない」環境に置かれるのだ。「最初はとにかく寂しくて、人間の生活をしているように思えなかったんです」この4日間の経験が今までの人生でトップ3に入るほどつらかったという。来る日も来る日もただひたすら時間をつぶすしかなかった。これまでのこと、これからのこと、どうしてうつ病になってしまったのか、うつ病を治した後のこと、漫画家としての自分など見つめなおした。病院によるとはいえ、閉鎖病棟の病室にあるのは基本的にベッドと簡易トイレのみ。洗面台やテーブル、椅子もない。扉は重い鉄のドアで外側からしか開けられない。どうしてこんな目にあわないといけないのか。錦山さんは入院当初、「病院に入院させられるほど自分は落ちぶれてしまったのだ」という屈辱感に支配されたという。そこにはやはり、精神科や精神科病棟への大きな負のイメージがあった。かつては、精神疾患患者は人目につかないところに隔離することも行われていた。1950年に精神衛生法が施行されるまではそんな患者にとっては厳しい状況が当たり前だった。しかも、精神衛生法でも一定の条件下での監視は認められていたため、その後も多くの患者が病院での非人道的な環境に耐えなければならなかったといわれる。’54年に薬物療法が導入される以前は、催眠療法や電気を脳に流したり、インシュリンやカルジアゾールなどの薬物を用いる療法が多かったのだ。「精神科病棟といえば、人里離れた山奥にあって病室の窓には鉄格子。入院患者は薬を打たれたり拘束されたりする」──インターネットのそんな情報や体験談を錦山さんも信じていたひとりだ。■患者のために徹底された安全管理精神科病棟への入院は所かまわず暴れたり、周囲に暴力を振るったりする患者を隔離するため、と思われがちだがそれは間違い。実際には患者自身が自らを傷つけたり、自死したりしないようにするための保護措置であることがほとんどだ。実際、錦山さんが入院することになったタイミングも自殺未遂の直後。部屋はシンプルな造りで、靴ひもタイプの靴や、携帯電話、割ると凶器になる可能性があるものを持ち込ませないようになっていた。入院中の差し入れなども患者の症状によって制限がかけられる。次ページ冒頭の漫画は、錦山さんの著書『マンガでわかるうつ病のリアル』からの抜粋である。架空の人物であるうつ病患者の夢が友人の璃杏に「死にたい」という気持ちになることがある、と打ち明けているシーンだ。「うつ病の人の死にたい気持ちは、病気でない人とは違うのだ」とあるが、平成27年の厚生労働省の調査でも自殺の2割はうつ病によるもので、職場や学校のトラブルによる自殺の約2倍にも達する。さらに、自殺未遂を起こす人の約3分の1までが、うつ病に限らず精神科にかかっていたり、精神疾患があることもわかっている。そして、精神疾患のある人の実行率が圧倒的に高いというデータは見逃せない。実は、閉鎖病棟とは入院患者にとって徹底的に安全な環境を提供する場所。「身体的拘束」も同じで、法律に基づき、開放的な環境では生命を危険にさらす可能性のある患者を守るためのものであり、基準が定められている。現在は「本人に危険が及ぶ場合」や「自殺企図または自傷行為が切迫している場合」などでしか許されず、さらに適用のルールが細かく決められている。以前とは異なるのだ。とはいえ、いくら病院側が細心の注意を払い、患者の安全のために拘束という手段をとっていたとしても患者の感覚は違う。錦山さんには入院時、身体拘束をされていないが、ベルトをきつく締められた経験を苦しげに語る患者と話したことがあるという。「30代の男性患者さんだったのですが、最初、ベルトがゆるくて暴れたらはずれたため、きつく締められたんだそうです。動きが制限されてイヤだったし、拘束中はトイレをおむつですることにするのに慣れなかったので、不快だったと言っていました。こういった体験が、今も根強く残る『精神科病棟は怖い』の理由かもしれません」■他科と変わらない入院生活個室の閉鎖的な空間はつらかったものの、意外にも錦山さんにとって精神科病棟は「普通の場所」だった。「たしかに、個室から出て病棟内を歩き回れるようになってからは叫び声を上げる人や机を蹴る人なども目にしましたが、そんなことばかりではありません。物にあたったり、ほかの患者さんに迷惑をかける人がいたらすぐに看護師さんが駆けつけ、落ち着くまで個室に入れたり、入院患者の安全を守っていました」第一印象は、病院がきれいだということ。窓に鉄格子などもなかった。「許可が出れば、院内を動き回ることもできました。売店に行ったり、外部へ電話したり、ロビーにあるテレビで番組を見たり、自販機で飲み物を買ったり。食堂には給湯器もあるので自由にお茶などを飲むこともできたんです」錦山さんの病院にはロビーと食堂にテレビがあった。漫画や雑誌、新聞、トランプやオセロなどもあり、個室に持ち込まなければ自由に利用できた。ただし、すべてが一気に許可されるわけではなく、それぞれ段階を踏んでの許可となるのは患者の状態に応じて安全のレベルが異なるから。だから、事前申請で許可が出れば外出も可能だ。■回復すれば、充実した生活もお風呂は予約制だったそうだが「ロビーなどまで出られるほど回復すれば、患者さん同士の交流もあったし、シェアハウス感覚でした」と話す。1日1回、ヨガや楽器演奏、習字など何かしらのレクリエーションがあり、行動制限がかかっていなければ自由に参加できた。食事の時間や消灯時間は決まっているものの、通常の入院生活と変わりがない。むしろレクリエーションが毎日行われているぶん、充実しているかもしれない。「強制参加ではないので、気が向いたときに参加してひとりで楽しんだり、ほかの患者さんと一緒に遊ぶことができます。私はこのレクリエーションのヨガが特に楽しみで、開催されない祝日は本当に退屈でした」閉鎖病棟は世間のイメージとは違い、患者が元気になるためにたくさんの工夫がされていたと話す。患者の症状に応じて病室は個室ではなく共同部屋に入ったり、ナースステーション内にある特別な個室に入ったりとさまざまだ。また、入院当初の「魔の4日間」にも大きな救いがあった。日に数回、部屋に顔を出してくれる看護師が、必ず時間を見つけては声をかけてくれたのだ。そのときほど人の温かみを感じたことはなかった。看護師との会話が錦山さんにとって大きな励みになった。「私は『どうせまた同じことを繰り返す』と訴えたら『ずっと繰り返しじゃない、いつかそうじゃなくなる日が必ずきます』と言われて。絶望感や屈辱感でいっぱいだった私が、このとき初めて元気になれると希望を持てたんです」それまでの多忙だった生活リズムが入院で落ち着いたこともあり、症状は劇的に回復した。もともと、3か月程度の入院が想定されていたが、長ければ半年くらいかかると思われていたところを、2か月弱で退院となったのだ。ほかにも社会復帰の練習のために、週に何回か、別の階や棟に移動して普段会わない患者と、1つのテーマについて話し合ったり、薬や病気についての勉強会をすることもあった。「私にとって、こうしたプログラムは病気を治すのに絶対必要な過程だったと考えています。閉鎖病棟は安全に過ごせ、少しでも早く元気になれるようにたくさんの工夫や配慮がされた“患者が元気になるための場所”です。振り返ってみると、トータルではとても過ごしやすい環境でした」新型コロナによる「コロナうつ」もニュースとなった。日本うつ病学会によれば、コロナの自粛によって人との接触が極端に減り、会社や学校などにも行かず、さまざまな我慢を強いられたストレスが積み重なり、引き起こされるという症状だ。「人と会わなくなったから」「外に出なくなって興味を向けるものが減ってしまったから」などもっともらしい理由があるせいで、症状に気づけていないことも多いという。右の漫画のように、何かがおかしい気がしても「たまたま失敗が続いているだけ」「疲れているだけ」と自分をごまかし、「ほかの人はできているのだから自分が悪いんだ」と思い込んでしまうことがある。心療科を持つ多くの病院が「該当する症状が一定期間続くのであれば一度受診を」「悪化する前に専門家へ相談を」とホームページで警鐘を鳴らしている。しかし、違和感を感じても病院に行かない理由は、自分がうつ病であることに気づかない、だけではない。これまで話してきたような精神科、精神科病棟へのマイナスのイメージが二の足を踏ませている可能性がある。「私もうつ病の疑いがあると感じながらも病院へかかることを避けていました。このくらいの仕事量はプロの漫画家ならこなして当たり前だ、と自分に言い聞かせて頑張る毎日。うつ病は弱い人間がなるただの“怠け病”だという偏見を持っていましたし、病院に行くこと自体に大きな抵抗があったのです」その後、後で結婚する当時の恋人から背中を押され、ようやく精神科を受診。通院と服薬による治療を受けることとなったが、「うつ病を治しても元の自分には戻れない」という絶望感にさいなまれ、自殺を図るほどまでに悪化してしまったのだった。退院してからは約2年で薬がゼロになり、その後も約2年、通院を続けた錦山さん。治療開始から通院終了までトータル5年半かかったという。「『たいしたことない』という自己判断で悪化させるのは、うつ病に限ったことではないかと思いますし、『うつ病は心の風邪だ』と表現する医者もいますよね」つまり、そのくらい誰でもかかる可能性があること。「悩んでいるなら、まずは病院に行ってほしいですね。そもそも病気なのか、治療が必要なのかは医師が教えてくれますから」と、錦山さんは力強くそう言う。うつ病に限らず、精神科のドアを開けることでそれまで何となく引っ掛かっていた悩みの問題が明確になるかもしれない。何より、自分自身との折り合いをつけるきっかけにもなるはずだ。■閉鎖病棟の病室を細かく説明!【部屋全体】物を引っ掛けられる出っぱりがなく造られている。【窓】はめ殺しではない。ビルのトイレなどにある、片側の端っこをほんの少し外側に向けて開けられるタイプの窓と同じ構造。鍵がかかっているのか開けることはできない。窓はガラスではなく強化プラスチックと思われる。窓自体のサイズは軽自動車のドアの窓くらい。窓の真ん中が床から170cmくらい。景色は見えるが少し位置が高い印象。【扉】小窓がついている。小窓の真ん中が床から160cmくらい。強化プラスチックらしき素材がはめ殺しになっていて小窓自体は開けられない。小窓には普段はふたがしてあり、外側(廊下側)からしかふたを開けられない。このふたはのれんみたいに上だけ固定されており、下の端に付いているツマミを持ってめくり開けるような簡易的なもの。たまに看護師が中の様子をのぞく。【扉のドアノブ】普通のドアと違い、物が引っ掛けられないようにドアノブが扉に斜めに刺さっており、鍵を掛けると画像のようにドアノブが下を向くようになっている。普通のドアノブのようなデザイン製はなく凹凸がないツルツルした造り【棚】ひもやガラスなど自傷他害に使えそうな物以外は好きに物を置ける。部屋の外に自由に出られるようになるまでは棚にトイレットペーパーだけが置かれていた。部屋の外に自由に出られるようになるとトイレットペーパーは回収された。【簡易トイレ】プラスチック製。便座部分にふたが付いており、トイレ時にはふたを開けて座って使う。ふた付きのゴミ箱のふたの周りに便座がくっついて座れるようになったような構造。便座もふたもはずすと中のバケツを取り替えられる。バケツ交換の時間まで便はそのまま。部屋の外に自由に出られるようになると簡易トイレは回収された。【ゴミ箱】中に袋などはつけられない規則になっている。100均のゴミ箱をそのまま置いてある状態。■錦山まる基準「こんな精神科病院・閉鎖病棟は注意!」【病院内部の情報がわからない】事前に少しでも情報が公開されている病院のほうが安心して行くことができる。ホームページやSNSなどで内部情報が集めやすく、わかりやすい病院に。【フィーリングが合わない】錦山さんの場合、親近者が通院する病院や入院する病院を選んだが、そのとき「ここにしよう」「ここはやめておこう」と思ったポイントは「対応の印象がよかったか」。受診のために電話をしたときの対応、入院前に病院に行ったときの診察の様子などから「しっかり向き合ってくれそうだ」「きちんと診てもらえそうだ」と感じた病院に決めたという。逆に患者さんの様子をほとんど見ない、患者さん本人に質問をほとんどしないなどの対応をされた病院はすぐに行くのをやめたとのこと。教えてくれたのは……●錦山まるさん●1988年、千葉県生まれ。プロの漫画家を目指して19歳で上京。24歳で初の単行本を出版するが、次回作の準備中にうつ病と診断されドクターストップがかかる。医師よりうつ病の「完全寛解」宣告を受け、うつ病に関する啓蒙活動に力を入れる。著書に『マンガでわかるうつ病のリアル』(KADOKAWA)がある。[取材・文/オフィス三銃士(松本一希)]
2021年08月31日体のどこかが痛い、心が苦しい…そんなとき、どの診療科に行けばいいのか、その指針を専門医に尋ねる「この不調、何科へ行けばいい?診療科ナビ」を連載しています。前々回からは「精神科」について、京都大学大学院医学研究科准教授で精神科指導医・専門医の田近亜蘭(たぢか・あらん)医師に尋ねています。第1回「うつのときは何科を受診すればいい?精神科と心療内科の違いは?」、第2回「精神科で扱う病気は?」(第1回・第2回とも文末のリンク先参照)に続き、今回・第3回は身近な病気であるうつ病について、精神科ではどのように治療するのかなどを尋ねます。田近亜蘭医師うつ病の診断基準は——第1回では、うつ病を専門的に扱うのは精神科だということ、また第2回では精神科の患者数でもっとも多い病気はうつ病だということでした。では、うつ病は具体的にどのように診断をするのでしょうか。田近医師:まず、うつ病の診断基準は「気分の落ち込み、気力の減退、不眠などの抑うつ症状がほとんど毎日、2週間以上続いているために日常生活や社会生活に支障をきたしていること」です。誰しも、「今日は憂うつだなあ」ということはありますが、それが極めて強くて自然な回復が難しい場合を指します。詳細な問診で症状を聞き取って診断します。その際に補助的に、質問紙票という、例えば、うつ病の診断基準の9つの症状をチェックするシートなどを用いることもあります。うつ病の治療の柱は薬とカウンセリング——では、うつ病と診断された場合、治療はどうするのでしょうか。田近医師:主に、抗うつ薬などを内服する薬物療法、認知行動療法をはじめとするカウンセリング、それに生活習慣の改善などを行います。ただし、症状や状態、経緯などによってさまざまです。うつ病は、感情や気分に関係する神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンが脳で不足することが原因だということがわかってきています。そのバランスを整えるために、まずは抗うつ薬と総称する薬の中から、患者さんの状態に適したものを選択します。これは服用して定期的に状態を診察する薬物療法で、憂うつな気分を改善したり、意欲を高めたりします。——抗うつ薬には多くのタイプがあると聞きます。田近医師:これまでにさまざまな種類の抗うつ薬が開発されています。その構造や、薬が体に与える効果の仕組み(作用機序)によって、開発年代順に、三環系、四環系、SSRI、SNRI、NaSSAといった5つのグループに大きく分類されますが、さらに新しいタイプの抗うつ薬も開発中です。患者さんの症状やこれまでの治療によって、どの薬が効いたか、などから適切と思われる薬を処方します。——「認知行動療法」とはどういう治療法ですか。田近医師:認知行動療法は、うつ病特有の考え方である「認知」のパターンを見直すことと、少しずつ行動を増やしていくことで気分の改善を図るカウンセリングの手法です。抗うつ薬と同等の効果があると言われています。一般的な認知行動療法では、1回1時間×10数回程度のセッションを行います。ただ、時間とマンパワーが必要な治療法であるため、すべての医療機関で行われているわけではありません。また、認知行動療法そのものは公的医療保険の適用が認められた治療ですが、自費診療として行なう医療機関も多くあります。——認知行動療法が公的医療保険の適用か自費診療かは、あらかじめ、医療機関のホームページ等で確認する必要がありますね。。次に、生活習慣の改善はどうすればいいでしょうか。田近医師:生活習慣では、無理がない程度の運動、具体的にはウォーキング、ストレッチ、筋トレなどを実践し、栄養のバランスが良い食事、睡眠の充実をはかります。セルフケアとして、意識的に継続して行いましょう。——思うように改善しない場合はどうするのでしょうか。田近医師:十分な量の抗うつ薬を使って治療を受けているのに症状が改善しないこともあります。そういった場合に、専門的な治療法の「修正型電気けいれん療法(m-ECT)」や「反復経頭蓋(ずがい)磁気刺激治療(rTMS)」を行う医療機関もあります。ただし、それらの治療の適応となるかは、より専門的な基準が設けられているので、かかりつけの医師に相談してください。精神科医は心の支え——うつ病からの回復にはどのぐらいの時間がかかるのでしょうか。田近医師:症状が個人によってさまざまであるため、3カ月~数年とかなりの幅があります。1カ月以上の休職が必要な場合もあるでしょう。また、一旦症状がよくなっても、再発することがよくあります。回復期は薬を減らしていく「減薬」を行いますが、服用をストップする「断薬」は、再発に注意しながら、より慎重に行う必要があります。また、症状は改善していても、再発が多い方の場合は、少量の抗うつ薬を比較的長期間、継続して服用したほうが良いこともあります。「薬は一生飲まないといけないのですか?」とよく聞かれますが、そこまで考える必要はありませんので安心してください。——うつ病で受診するタイミングはどうでしょうか。田近医師:先に話したように、「今日は憂うつだ」と思うことは誰しもあることで、そういった症状だけですぐにうつ病ということにはなりません。うつ病の診断基準には、抑うつ状態がほとんど毎日2週間以上続くということが含まれています。もちろん、それだけでうつ病と診断されるわけではありませんが、「症状が2週間以上続いているか」ということをひとつの目安と考えるといいでしょう。また、うつ病の症状は自分では気づかないことがあります。身近な人に「心の不調では?」などと指摘されたときには、その人の話に耳を傾けて、受診のきっかけとしてはどうでしょうか。日本では、うつ病に関わらず、精神の病気での受診率が低いという国際的な調査報告があります。心の症状も風邪や腹痛と同様に、仕事や生活に支障が出る前の早めの治療が有用です。「最初は精神科の受診に抵抗があったけれど、待合室や診察室もプライバシーを守る工夫がされていて安心。いまでは心の支え、味方の存在」という人も多くいらっしゃいます。聞き手によるまとめうつ病の診断基準は、気分の落ち込みが毎日2週間以上ずっと続く場合であり、受診のタイミングの目安にもなること、また、治療には、抗うつ剤を服用する薬物療法、考え方や行動を見直す認知行動療法、生活習慣の改善、磁気刺激による治療などがあるということです。心の不調が続くときは、できるだけ早めの受診を試みたいものです。(構成・取材・文品川 緑/ユンブル)
2021年07月29日※画像はイメージです家事に仕事に、子育てに日々忙しくて、つい自分の健康はおろそかにしがち。そんな週女の読者世代こそ気をつけたいのが、ちょっとした身体の不調。実は深刻なリスクがある、知られざる病気の「前兆」を医療のプロが徹底解説!■シミが急に増えた→「胃がん」年を重ねるごとに増えてきたシミ。紫外線ケアに気を使っているのに、急にどんどん増えてきたような……。『放っておくとこわい症状大全』(ダイヤモンド社)の著書がある、秋津医院院長の秋津壽男先生が指摘する。「そのシミは色が黒っぽく、イボのように少し盛り上がったりしていませんか? もしそうなら『脂漏性角化症』という皮膚の病気で、それ自体は良性腫瘍です。ところが、1~2か月のうちに急激に増えた場合やかゆみを伴うケースでは、胃がんや大腸がんなど消化器の腫瘍が隠れていることがまれにあるんです」脂漏性角化症ができるのは顔だけではない。背中や首、足などにもおよぶ。それにしても、なぜがんの兆候が肌に現れるのだろうか?「がんになると身体の免疫機能などが衰えていきます。すると、体内で異物や老廃物が処理しきれなくなり、皮膚症状として現れやすくなるのだといわれています」■皮膚のかゆみ・発疹→「悪性リンパ腫」じんましんでも虫刺されでもない謎のかゆみ。1週間以上、かゆみ止めを塗っても治らなければ、こんな疑いが。「白血球の中のリンパ球という物質ががん化して起こる病気に『悪性リンパ腫』というものがあります。日本では毎年、1万人に1人の割合で発症している“血液のがん”の一種です。その中に、かゆみや発疹といった皮膚症状を起こすタイプがあるんです」そう話すのは、医学博士で医学ジャーナリストの植田美津恵先生。がん細胞から特異な物質が生み出されることでかゆみや発疹が引き起こされるという説もあるが、詳しい原因はよくわかっていない。「ほかにも、貧血やアザができやすいなどの症状が多いと言われていますが、初期だと無症状というケースも珍しくない。しつこいかゆみで皮膚科にかかったけれど原因がわからず、内科の血液検査で悪性リンパ腫と発覚する人もいます。いずれにせよ思い当たる人、不安な人は、まずはかかりつけ医へ相談を」■2週間たっても口内炎が治らない→「口腔がん」寝不足だったり、舌を噛んだり、熱いものを食べてヤケドをしたり……。口内炎の原因はさまざまだけど、見た目がそっくりでまぎらわしい、実は怖い病気があるんです!「いつまでたっても口内炎が治らず、見た目にもくぼんだ部分が残っている場合は要注意。口の中の粘膜にできるがん、『口腔がん』を疑ったほうがいいでしょう。それがもし舌にできていたら、『舌がん』のおそれがあります」とは前出・秋津先生。目安として、2週間たっても治らなければ、がんの可能性を考えたほうがいいという。「普通の口内炎なら、健康な人であれば1日~2日で治ります。口内炎ができやすい人でも1週間ぐらいで治っていくのが自然です」悩ましいのは、口内炎なのか口腔がんなのか、医師の目で見ても判別が難しいこと。「口腔外科の専門医でなけ れば、見た目から判断するのは難しいでしょうね。治らない口内炎はリスクありと頭に入れておきましょう」■妊婦でもないのに乳汁が出る→「脳腫瘍」妊娠しているわけでもないのに乳首から乳汁が! 私の身体に何が起きているの!?「乳汁は本来、妊娠・分娩で乳房が張り、プロラクチンという乳汁分泌ホルモンが出されることで作られます。プロラクチンは脳内の下垂体という部分から分泌されていますが、ここに腫瘍ができると、妊娠とは無関係に乳汁を作り始めることがあるんです」と植田先生。下垂体腺腫と呼ばれる脳腫瘍の一種で、ほとんどが良性腫瘍だとか。「女性だけでなく、男性でもかかります。いきなり胸が大きくなり、乳汁が出るようになって検査したら、下垂体腺腫だったというわけです」治療は婦人科ではなく脳外科で行う。腫瘍が大きくなれば鼻からメスを入れる手術で除去しなければならないが、時間をかけて大きくなることも多いため、薬で症状を抑えつつ経過を見る方法もある。「もし乳汁に血や膿が混じっている場合は要注意。乳がんのおそれがあります」■いくら寝ても眠い、寝不足じゃないのに目の下にクマ→「甲状腺疾患」寝ても寝ても眠い。疲れが抜けない。無気力。一見、うつ病みたいな症状だけど? 秋津先生が解説してくれた。「うつと似ていますが、原因は異なります。“アクセルのホルモン”と呼ばれ、やる気につながる甲状腺ホルモンが不足すると、充電切れのような状態になります。こうして発症するのが『橋本病』。異物をやっつけるべき免疫が自分の甲状腺を攻撃するなど暴走して、調整機能に異常をきたし、甲状腺ホルモンが足りなくなってしまうのです」また、甲状腺ホルモンは多すぎても病気リスクになる。「橋本病とは逆で、甲状腺ホルモンが過剰分泌され発症するのが『バセドー病』。やたら元気になったり、汗っかきになったりします。原因はわかっていませんが、眼球が前方へ押し出される“眼球突出”を起こして、目が大きくなることも。そのため目の下のクマが強調され、寝不足でもないのに常時クマができているように見える人もいます」どちらの病気も30代~40代の女性に多いのが特徴だ。「遺伝的要因も一部にあるので、母親が甲状腺疾患だったという人は注意しましょう」■食べてもやせていく→「糖尿病」「例えば、ポテトチップスとコーラだけで夏中過ごしていたら、秋口から突然やせ始める。食べているのに、どんどんやせていく。これは『急性糖尿病』の症状なんです」と秋津先生。食事でとった糖質は体内で吸収され血糖に変わる。血糖は筋肉などを動かすためのエネルギー源だ。「ところが急性糖尿病になると、血糖がすべて尿に出てしまう。その結果、栄養失調のような状態になり、やせていくわけです」(秋津先生)血糖値の高い状態が長年続く『慢性糖尿病』の場合も同様に、「食べても食べてもやせていく」ことがある。「慢性糖尿病が悪化すると全身へ適切な栄養の供給ができなくなり、やせていきます。また血糖に変わるエネルギー源として脂肪が分解され、ケトン体という物質が分泌されます。これが増えると脱水症状を起こしたり、放置すれば昏睡状態になったりするなど、命にかかわるおそれもあります」(植田先生)■夜中だけトイレに行く回数が増える→「心不全」夜中に何度もトイレに起きてしまう……。読者世代には思い当たる人も多いのでは?「夜中だけトイレに何度も起きて、しかも足のむくみを伴う人は要注意。心不全のおそれがあります」(秋津先生)血管が詰まる病気などで心臓の力が弱まると、足にたまった水分を心臓まで引き戻す力も弱くなり、夕方になると足にむくみが生じるように。これが心不全の症状のひとつ。こうなると、たまった水分を腎臓まで運ぶことも難しい。「寝るときに身体を横にすると、たまっていた水分が腎臓に運ばれ尿が作られます。そうして夜間に不要な水分を排出しようとするため、尿量が増えるのではないかと考えられています」(秋津先生)ここで気をつけたいのは、あくまで“多尿”であって“頻尿”ではないこと。「頻尿の場合、トイレの回数が多くても、尿はあまり出ないことが多い。用を足すたびにまとまった量の尿が出るならリスク大です」(植田先生)■原因不明の腰痛→「うつ病」全国2800万人が悩んでいる国民病の腰痛。温めたり、マッサージをしたり、いろいろ試しているのに治らなかったら、こんな可能性が。「慢性腰痛の場合、身体より心の問題が痛みにつながっていることが最近の研究でわかってきました」と、植田先生。『ドーパミン』や『セロトニン』といった脳内の神経伝達物質には、痛みを抑制し、軽減させる働きがあるといわれている。これらは日常的にストレスを受けると分泌機能が低下し、痛みを抑えられなくなるという。「そもそもドーパミンやセロトニンは、不足すれば、うつ病を引き起こすといわれているもの。うつ病になると痛みをより感じやすくなり、悪循環に陥ってしまいます」適切な量の向精神薬や抗不安薬を服用することで、うつ病だけでなく、腰痛が軽減される効果も期待できる。「整形外科で治らなければ、1度、心療内科へ相談に行くことをおすすめします」
2021年07月19日コロナ禍で自宅が「汚部屋」「ゴミ屋敷」化するケースが増えているという「昨年の緊急事態宣言明けあたりから、片づけの依頼が引きも切らず。休む暇がありません」と話すのは、整理収納アドバイザーの西原三葉さん。西原さんは発達障害のひとつADHD(注意欠陥・多動性障害)の当事者。長年、片づけられずに悩んできたが、認知行動療法を受けて改善、現在は片づけのプロとしてさまざまな家庭を訪問している。クライアントはADHDか、その傾向がある(ADHDタイプ)主婦からの依頼がほとんどだという。■家事の呪縛に苦しむ女性「私自身もそうですが、特性として整理整頓や、段取り作業を苦手とする人が多い。特に家事はマルチタスク(同時作業)なので、要領よくこなせないと苦しんでいる主婦の方が多いんです。でもそれは自身の女性としてのある意味“恥部”だから、友人にもなかなか相談できません。同居する家族の冷たい視線や心ない言葉に長年耐え続けている人もいます」特にコロナ禍となって家族が家にいる時間が増え、主婦の家事、育児にまつわる作業量は格段に増えた。「妻、主婦、母なんだからやって当たり前、できて当然」。昭和に育った女性たちには、まわりからのそんな呪縛も多い。ADHDやADHDタイプの人は、常識、思い込み、当たり前といったことにとらわれやすく、自分をしんどくさせてしまっているという。「片づけが苦手」と悩む人の多くは、自分の性格なのだと考えているが、ADHDは「脳のクセ」。本人の性格や育った家庭環境も一般的には関係なく、脳機能の発達の凹凸(偏り)が原因だと考えられている。「不注意」「多動性」「衝動性」がその特性で、得意と不得意の差が大きく、生活に支障が出やすい。鬱病や依存症などの精神疾患を併発する人も多い。■巣ごもりが苦しい状況を加速「片づけたいのに、片づけられない」。やる気はあっても、できない、苦しい。ADHDの女性たちのストレスは、コロナで加速。心身の不調となって表れることもあるという。「例えば最近の相談だと、テレワーク中の夫に片づけや掃除をサボっていると責められて鬱になってしまったという人が。家族間の関係もうまくいかなくなり、子どもを強く叱るなど心配なケースもみられます」こういったタイプの人は、気がそれやすい、ちょっとしたことが気になって集中力が続かないケースが多い。コロナ前だったら、家族が出かけている日中に、ひとり、家事を進められたことも、在宅で家族が常にいるという状況では注意を持続することが難しいという声も多くある。自身もADHDタイプで臨床心理士の南和行さんは、「物事を短時間で計画的に行うことには不向きで、さらには、苦手なことを先延ばしにしたりするクセも。片づけは誰にとっても、気がのらないことですが、それがADHDやADHDタイプの人にとっては、特につらい作業。嫌いなことにはいくら頑張ろうと思ってもやる気が出ず、とりかかれないのです。わがまま、怠け者と言われ続けても、本人の意志だけで解決することは困難です」という。現在100人に3~7人はADHDであるといわれており、「グレーゾーン」(診断を受けていなかったり、診断を受けても確定されない層)を含めると、世の中にはかなりの「ADHD傾向」の人が存在する。その人たちの中には、同時に深刻な病を抱えているケースもみられる。■買いすぎ、ためすぎという病「食料のストックだけではなく、マスクやアルコール消毒液、ハンドソープ、トイレットペーパーなどを不安から大量に買い込んでしまって、置き場がない。あれこれ買ったものの管理できなくなって途方に暮れてしまうのです」(西原さん)また南さんは、「買い物依存症、物を捨てないで収集することにこだわる“ため込み症候群”といった精神疾患も考えられます。もし自身や家族に心当たりがある場合は、医療機関や発達障害者支援センターにサポートを求めましょう」とアドバイスする。片づけられない自分に落ち込んでいる女性が増えている一因には、SNSもあるのではと西原さんは推測。ブログやインスタにはたくさんの収納カリスマや、インテリア達人の投稿がアップされており、たくさんの「いいね!」やフォロワーたちの称賛のコメントであふれかえっている。そういったSNSは、ADHDやADHDタイプの女性たちにとっては目に毒でしかない。「人と自分を比べて傷つきやすい特性があるのが私たち。人に自慢できる部屋ではなくても、生活に困らない、衛生的に暮らせる部屋ならそれで十分。ネットで見る見栄えのいい部屋に、心をザワつかせないのも自分を救う策です」西原さんに自分をラクにする実践的な片づけテクを教えてもらった。■ラクにできる、「だけ」でいい片づけ■紙袋にまとめておくだけ!片づけ下手な人ほど、収納グッズを買って物を増やしがち。家にある紙袋の縁を内側に折り込めば、即席の収納ボックスに早変わり!この袋を使って分類していくと便利。■最初は“狭い場所”だけ!苦手な人が、いきなり全部のものを出して片づけるのは失敗のもと。冷蔵庫の1段、バッグの中など、狭い場所から始めると達成感が自己肯定感を高め、次の片づけにも意欲が継続。■一列に並べるだけ!物が多くて“無”にできない場所は、物を奥に寄せて一列に並べるだけでも、片づいて見える。ガス台上の調味料や玄関の靴、本棚の本など小さいところから始めてみよう。■5分間片づけしてみるだけ!まずは1日1か所、5分間の片づけでキレイを実感してみて。タイマーを使うのもおすすめ。少しずつ時間や片づけ範囲を増やし、毎日15分の片づけを習慣化すると◎。■買わない勇気を持つだけ!買い物は楽しいけれど、物が増えれば片づけがより苦しくなるもの。余計な物を増やさないため、買う理由について考えることも片づけの重要なステップ。衝動買いをよくしてしまう人は、購入前にクールダウンの時間を設けて。ストレスなどが原因の場合は、“ストレス自体を減らす”習慣を。■部屋は床を広く出すだけ!床が広々としているだけでも部屋がスッキリ見え、掃除も面倒でなくなる。バッグなどは床に散乱させず定位置を作り、何か置かなければいけないときは壁の一面に寄せる。■服はつるすか放り込むだけ!洗濯物をたたむのが苦手なら、洗濯物をできるだけハンガーでつるし、乾いたあと、そのままクローゼットへ。下着や部屋着はカゴに放り込むだけにするとグンとラクに。片づけはどうしても面倒だと思いがち。苦痛にならないよう、できる範囲からコツコツ始めていこう。教えてくれたのは……西原三葉さん●整理収納アドバイザー1級、ライフオーガナイザー1級、産業カウンセラー。ADHDに特化した認知行動療法を受けたり、さまざまな片づけ資格を取得する中で、長年の「片づけられない問題」を解決できるように。著書に『「ADHD」の整理収納アドバイザーが自分の体験をふまえて教える!「片づけられない……」をあきらめない!』(主婦と生活社)片づけコンサルティングAUBE代表(取材・文/山田 恵●写真提供/西原 三葉)
2021年06月13日大坂なおみ「2018年の全米オープン以降、長い間うつに苦しんでおり、その対処に本当に悩まされてきたというのが真実です」波紋を呼んだ大坂なおみの“会見拒否”は、衝撃の告白とともに新たな局面を迎えることに─。自身のことを内向的だと表現する大坂は、もともと記者会見が得意ではなかった。大勢のメディアを相手に話すことは、彼女にとって大きなストレスになっていたのだ。「5月開幕の全仏オープンを前にして、ついに会見に出ないことを宣言。実際に1回戦勝利後の会見に姿を現さず、罰金1万5000ドルを科されました。すると彼女は大会の棄権を発表。同時に、うつ病に悩まされてきたことを告白しました。きっかけは2018年の全米オープン。米国のスターであるセリーナ・ウィリアムズを破った試合では、容赦ないブーイングを浴びせられていましたからね」(スポーツ紙記者)周囲の声が、若きスターの心を人知れず蝕んでいた。「しばらくコートを離れる」とのことだが、その様子について知るものはごく少ないという。「現状については、関係者の間でも情報が限られているんです。本人の口からは何も語られていませんし……。憶測が飛び交ってしまっている状態ですね」(テニス関係者)■「テニスを離れる」は珍しくない今後について詳細を語らないままの大坂。彼女を長年、取材してきたテニスライターの山口奈緒美さんに、今回の休養について尋ねた。「テニスは“メンタルスポーツ”とも言われていて、記者会見ができないほどの精神状態なのであれば、“一度テニスを離れる”というのは通常の判断です。若くして大きな成功を手にした選手が、深刻なストレスやスランプで競技を離れてしまうというケースは過去にもありました」現在、世界ランクで唯一大坂の上に位置するオーストラリアのアシュリー・バーティは、15歳からプロツアーを戦い、特にダブルスで大活躍していたが、18歳で一度テニスから離れている。「2年たって復帰し、今ではナンバーワン。しばらく距離を置くというのはテニスでは考えられる話です」(山口さん)シングルスで国民の期待をともに背負う錦織圭も、6月2日の試合後、「1回ちょっと、テニスから離れて。早く治してほしいと思う」と精神面で悩む後輩への気遣いを見せた。メンタルケアのため、表舞台を一度離れることとなった日本のヒロイン。心配されているのは、開幕まで約50日となった東京五輪だが……。「大坂選手は出場すると思いますよ。今まで繰り返し強い思いを語ってきましたからね。4月にも国際テニス連盟の公式ウェブサイトで“私にとって、五輪出場はずっと夢だった”とコメント。祖国の大会に出ることは、彼女にとって人生の目標なんですよ」(前出・スポーツ紙記者)ただ現在は、コロナ禍でその開催自体が危ぶまれている。5月上旬に行われた会見で、大坂はそのことにも触れていた。「“もちろん開催してほしいと思っています”と述べながら、“もし人々を危険にさらすのであれば、そして人々が開催を居心地悪く感じているのであれば、私たちは今すぐに議論すべきです”とも発言。感染拡大の危険を冒してまで開催を強行することには、疑問を持っているようです」(同・スポーツ紙記者)■うつで「棄権」したのではないアスリートとしては待ち望んだ大会だが、開催国の人々の気持ちが優先されるべきだとの考えだ。五輪には、彼女にとってプラスな面もある。「オリンピックではテニスの4大大会のような会見の義務はありません。実際、直近のリオ五輪でも取材を受けなかった選手は大勢います。大坂選手にとっては、うつを悪化させる要素がないことで、参加しやすい環境なのは確かです」(同・スポーツ紙記者)それでも軽々しく口を開くことはない大坂。しかし、五輪出場には光も見える。「全仏オープンを棄権してすぐ“五輪には絶対出ます”とは言えないかと。精神的な問題を抱えているのであれば、1か月程度で簡単に戻ってこられるとは思えません。ただ、今回告白したのは“2018年からのうつの悩み”。棄権したのも“今、精神的に不安定だから”というわけではなく、“騒動になって周囲に迷惑をかけている”ことと“このまま続けると自分の健康が乱されてしまう”ことが理由。現在うつ状態でないのであれば、五輪に出られる可能性はあると思います。東京五輪は彼女の夢で、参加できるかはコンディションとの兼ね合いになりますね」(山口さん)気になる大坂の状態について、心療内科医の伊井俊貴先生にも話を聞いた。「うつ病というのは、精神的な落ち込みが2週間以上続く状態。“気分が落ち込む”程度ではなく、不思議なくらい気持ちがまったく反応しなくなり、“うれしい”“悲しい”といった感情がなくなってしまう。半年ほどの経過で症状がよくなることが多いですね。大坂選手の場合は2018年からずっとうつ病だったというより、症状があるときとそうでないときの“波”があるような状態かと思います」■うつの原因はメディア対応棄権を決断したのは、「このまま続けるとダメになる」とその周期を自分で予測できたからだとも。「五輪に向けて調子を整えることを目標にしていると考えた場合、現時点で無理をしないように負担を避けるのは、先を見越した正しい選択だといえます。大坂選手は、何がストレスになっているかを具体的に示したうえでその環境の改善を求め、それが叶わなかったときに初めてうつであることを告白。そして即座にそこから離れることを決断しました。今回の対応は、心理学的に見て最適なものです」(伊井先生、以下同)彼女が会見を拒否したことは、医学的に理解できる対応だという。「大坂選手が何に対してストレスを感じているかが重要。彼女にとってテニスをプレーすることはストレスになっておらず、原因は記者会見やメディアへの対応だとされていますよね。“うつなのになぜプレーできるんだ”という指摘は間違っています。彼女の“会見だけやめることはできないか”という要求は何もおかしくありません」夢の舞台である東京五輪のため、メダルへの布石ともいえる適切な対応をとった大坂。コートへの華麗なリターンを支えるには、その決断を静かに見守るべきだろう。
2021年06月08日行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は医師である夫の不倫に悩む女性の実例を紹介します。※写真はイメージです■やめたいけれど、続けなくてはいけない夫婦関係突然ですが、質問です。嫌な人間との付き合いが続くくらいなら、いっそのこと、やめてしまいたい……そう思ったことはありませんか?特に自分より相手のほうに問題がある場合は尚更です。これはどんな人間関係でも一緒。やめ方より続け方のほうがはるかに難しい。まず続け方ですが、何度も何度も話し合い、傷つけ合いながら、亀裂を埋め尽くそうと努力しなければなりません。しかし、2人の仲が元に戻る保証はどこにもありません。結局、徒労に終わるかもしれないと心配しながら頑張るのは億劫です。一方、やめ方ですが、例えば職場の上司や、地元の旧友、SNSの友達の場合は退職願いを提出したり、同窓会に顔を出すのをやめたり、電話は着信拒否、メールは受信拒否、LINEはブロックすればいいので簡単です。後日、「あいつはひどいやつだった」と吹聴されるかもしれません。しかし、もし相手と完全に縁を切るのなら、何を言われようが知ったことではありません。とはいえ、やめたくてもやめられない。続けるしかない場合もあります。例えば、血のつながった家族。例えば、親や兄弟姉妹、子どもであることを「やめたいからやめる」のは無理です。それでも血縁がもたらす共通点が尾を引き、なんだかんだで付き合いが続く。それが「腐れ縁」と呼ばれる所以です。今回、取り上げたいのは「血のつながらない家族」です。例えば、夫婦の場合はどうでしょうか?結婚する前は他人だった2人の間にトラブルが勃発したら……。結婚生活を続けるか、やめるかを迷うときに聞こえてくるのは「離婚しちゃったほうが楽なんじゃ」という悪魔の囁き。しかし、経済力の弱い女性の場合、「嫌いだから別れる」という単純明快な一本道ではありません。例えば、子どもがまだ小さい、お金の不安がある、そして親に合わせる顔がない──このような理由で「やめたいけれど、続ける」という判断をせざるをえない場合があります。行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談を行っていますが、今回の相談者・佳乃さん(36歳)もその1人。親の紹介で結婚した夫(42歳)の不倫が発覚し、専業主婦で4歳の娘さんを抱える彼女は人生の岐路に立たされていたのです。「男の人ってみんな同じなんですね……」筆者の事務所へ相談しに来た佳乃さんはそう嘆きますが、佳乃さんの父も夫とよく似たタイプ。父の不倫に苦しむ母の背中を見てきました。それでも佳乃さんの両親は今でも結婚生活を続けています。「それでも私は主人のことを今でも信じています」と佳乃さんは言いますが、母の姿を自分に重ね合わせているかのようでした。佳乃さんは父が経営する内科クリニックを手伝っていましたが、父の紹介で知り合ったのが夫。夫は別の総合病院に勤めており、人柄がいい内科医という評判でした。将来的には実家のクリニックを継いでくれる相手と結婚してほしい。そんな父からのプレッシャーを佳乃さんは長年、感じていたそうです。■医師の夫が看護師の女と不倫佳乃さんと夫の交際は順調に進み、結婚。しかし、結婚5年目に夫の不倫が発覚。相手は同じ病院に勤める看護師の女性でした。もともと夫は週末になると友人が経営している病院を手伝いに行くことが多く、その病院の近くにワンルームの部屋を借りていました。これは他の同僚医師も使っており、6人で家賃をシェアする形をとっていました。自宅に帰る気力がないときは、その部屋に寝泊まりすることを佳乃さんも了承していたのですが、その月は毎週のように宿泊していました。佳乃さんも「さすがに多すぎるのでは?本当に仕事なの!?」と訝(いぶか)っていたのですが、夫は佳乃さんより弁が立ち、強気な性格。何の証拠もなしに問い詰めても「だから何なんだ!」とシラを切るのは目に見えています。そこで佳乃さんは探偵事務所に調査を依頼。週末には病院から尾行し、部屋に入るところを確認する段取り。後日、担当者から報告書を渡されました。佳乃さんがおそるおそる報告書を開くと、そこには夫と女性がシェアルームに入り、翌朝、2人が部屋から出てくる写真が封入されていました。その決定的な証拠を突きつけ、夫に「これってどういうこと?」と問い詰めたのです。「ああ、莉子だろ?もう飽きたよ。盛り上がったのは最初だけだ。一時的に付き合っていたけれど、もう恋人じゃないよ。僕だって仕事や家への影響もあるから本気にはなれないし」夫は莉子(仮名・29歳)という不倫相手との関係をそんなふうに弁解しました。佳乃さんは「シェアルームの鍵を返す」という夫の言葉を信じ、今回の件を水に流すことにしたのですが……。■夫がまた「裏切り」も、離婚できない事情それから2か月後、佳乃さんのスマホにLINEが届きました。「○○ホテルの402だよ。早く来てね」と。送り主は夫でした。佳乃さんは夫とホテルに宿泊する予定はありませんでした。とっさに「莉子に送るLINEを間違えて私に送ったのね」と女の勘が働きました。佳乃さんは「誰に送るはずだったの?」と返事をするのを我慢し、すぐにまた探偵事務所に依頼しました。具体的には402号室の前に隠しカメラを設置し、待ち合わせの様子を撮影しようと試みたのです。佳乃さんの勘は的中。部屋に入ったのは女でした。後日、担当者に渡された報告書には2週間のうち3回、同じ女性がホテルの部屋に入り、3時間ほど滞在し、出てくる様子が映っていました。もし女性がデリヘル嬢なら気持ちの伴わない情事なので「見なかったこと」にすることも可能だったかもしれません。しかし、佳乃さんはその女性に見覚えが……そう莉子でした。つまり、夫は夫婦の間で交わした約束を早々に破っていたことが明らかに。夫の悪事を許し、夫の言葉を信じ、そして夫の改心を待っていた佳乃さんを「また」裏切ったのです。しかも前回の発覚から今回まで2か月足らず。舌の根も乾かぬうちに同じことが起こるなんて……夫は守るつもりで約束したのか、もしかすると「どうせ大事には至らないだろう。まぁ、大丈夫」と最初から破るつもりだったのではないか──苦しむ佳乃さんから報告を受けた筆者は首をかしげました。何より佳乃さんのことをいい加減に扱い、軽んじ、甘く見ている証拠です。しかし、佳乃さんには今すぐ夫を詰問できない理由がありました。もちろん、夫は再度、謝罪し、改心すると誓う可能性もありますが、万が一、逆の目が出たら……「何が悪い」と開き直り、「医者はみんな、そうなんだよ」と怒り出し、「誰のおかげで飯を食えているんだ!」と逆ギレしたら、どうなるでしょうか?どんなひどい暴言や悪口を言われようと佳乃さんは離婚することができません。年収2000万円を超える夫におんぶに抱っこ。まだ娘さんは4歳で夫に懐いています。何より夫は実家の家業の跡取り。父親に相談したら「絶対に別れるな、お前が我慢しろ!」と反対されるに決まっています。離婚という選択肢がない佳乃さんが「不倫しない約束」を守るのか・守らないのか、夫を問い詰めて白黒つけるのは極めて危険です。もし黒(約束を守るつもりがない)の場合、佳乃さんは今後、夫の不倫を見て見ぬふりをしなければならないことを意味するからです。もちろん、詰問の有無にかかわらず、黙認以外の選択肢がないという状況は変わらないかもしれません。しかし、佳乃さんがよかれと思い、自ら黙認するのと、夫に「黙れ!」と叱られ、仕方なく黙認するのとでは雲泥の差です。どちらにせよ夫が女遊びをやめないとしても、です。筆者の経験からすると後先のことを考えず、感情的に突っ走るのは極めて危険です。夫が約束を守るつもりがないかどうかわからない。曖昧なままお茶を濁しておいたほうがマシかもしれません。そこで筆者は「詰問の機会は今回が最後。そのつもりで」とアドバイスしました。実際のところ、白黒の確率は不明。人生はギャンブルではありません。丁半博打に挑むのは危険すぎます。そんなふうに佳乃さんが次の行動をためらっているうちに半年が経過していました。■突然、夫から知らされた衝撃の事実そんなとき、突然の訃報が飛び込んできたのです。夫が言うには、あの莉子さんが亡くなったと言うのですが、佳乃さんはもちろん、筆者も耳を疑いました。彼女は何の落ち度もない佳乃さんを平気で傷つけることができるほど無神経な女性です。最後の最後まで自ら名乗り出ようとせず、佳乃さんへ詫びのひと言も入れず、この世を去ったのです。「自分さえよければ、私はどうなってもいいと思っているんじゃないでしょうか」と筆者に死を報告した佳乃さんは静かに憤ります。「憎まれっ子、世にはばかる」ということわざがありますが、逆をいく結末に。莉子さんに一体、何があったのでしょうか?佳乃さんが夫を問いただして白状させたところ、最初のうちは「妻よりお前のほうが好きだよ」「妻とは離婚する」「何かあっても迷惑をかけない。お前を守るから」と甘い言葉を並べ立て、「遊びはイヤ!」と敬遠する莉子さんをつなぎ止めていたそう。筆者は「それを“離婚するする詐欺”って言うんですよ。不倫する男性がよく使う手口です」と解説しました。彼は妻と離婚し、私と一緒になるの!莉子さんが本気でそう思い始めた矢先、妊娠が発覚したのです。もちろん、莉子さんは子どもの存在を盾に、夫と結婚できると信じていたでしょう。しかし、夫はこのタイミングで梯子を外したのです。「妻の父は内科クリニックの院長先生なんだ。妻とは離婚できないし、そもそも別れ話をしたこともない。悪いけれど、子どもを産んでもお金は払うつもりもないし、正直、このまま産まれると都合が悪いんだ。この先もそういう機会はあるだろ?今回はあきらめてほしい」と。莉子さんはぎりぎりまで悩んだ末、泣く泣く人工中絶手術を受けたのですが、胎児を失った喪失感、人の命を救う仕事をしているのに、人の命を粗末に扱った絶望感に加え、夫に騙された虚無感に襲われたのです。何より2人が所属しているのは同じ科。夫はともかく莉子さんは合わせる顔がありません。心身とも不安定な状態で病院に足を向けるのも難しい状況だったそうです。莉子さんは「うつ病」と書かれた診断書を添付し、休職願いを提出。そして手術から直前まで休職中でした。そんな中、彼女は限界まで追い込まれ、自ら命を絶ったのです。■不倫の再発防止のため「違約金」を設定さすがの夫も莉子さんの逝去にショックを受け、憔悴しており、げっそりした様子。佳乃さんは「これで十分、お灸をすえたと思うのですが……」と言うのですが、確かに不倫相手の死亡は稀有な事情です。しかし、筆者は初めて遭遇したわけではありません。過去にあった同じようなケースでは、喪に服している間、夫は静かでした。しかし、ほとぼりが冷めたら、また元に戻り、別の女性を口説き始めたのです。やはり人間の本質はそう簡単に変わりません。夫は過去に佳乃さんを2度も裏切っているのだから、相手は違えど3度、4度と同じことが繰り返されてもおかしくはないでしょう。実際のところ、同じことが起こると困るのは経済的な理由で離婚できない佳乃さんのほうです。そのため、不倫の再発防止策を念には念を入れて作成する必要があります。莉子さんの死を受けて夫は佳乃さんに「何でもする」と白旗をあげているので、どのような条件を許すのかを佳乃さんが自由に設定することができます。まず筆者は「違約金を設定してはどうか」と提案。単に「不倫をしない」という言葉を信じるのは無理です。「再度不倫をしたら〇〇〇万円支払う」という形で違反した場合のペナルティを付け加えます。夫が払えないだろう金額なら怖くて違反することができないでしょう。佳乃さんいわく「1000万円」なら十分だとのこと。次に「帰宅したら常にスマホのロックを解除してもらっては」と助言。スマホは不倫の必須ツールです。佳乃さんが夫のスマホを見放題なら、夫は発覚を恐れ、ほとぼりが冷めても、女性と不倫したりできないでしょう。違約金が発生するのは発覚した場合だけです。発覚しやすい状況を作ることで「違約金を払えないから我慢するしかない」と夫にあきらめさせる効果もあります。最後にアドバイスしたのは「小遣い制」への移行。これは佳乃さんが全ての家計を管理し、佳乃さんが夫へ一定の金額を渡すという意味です。交通費やホテル代、プレゼント代……不倫にはデート費用がかかります。夫が小遣いの範囲でデート代を捻出するのが無理なら、妻以外の女性とデートするのを諦めるでしょう。「私が全部出すわ」と夫の分も払おうとする稀有な女性が現れない限り。これら3つの約束を誓約書に書き起こし、夫に署名捺印させ、佳乃さんが預かることに。夫は束縛され、自由を奪われ、息苦しい生活を強いられますが、自業自得です。最後に筆者は「きちんと水に流すことが大事ですよ」と言い添えました。悪いのは完全に夫ですが、佳乃さんも今回のことを忘れる努力をする必要があります。結婚生活を続ける上で、今後も意見が合わず、喧嘩になる場面があるでしょう。そこで佳乃さんが「不倫した分際で何よ!」と一蹴すると、夫は絶望し、コミュニケーションをとるのをやめ、家庭内別居の状態に陥ります。実際のところ、不倫発覚から数年後、性格の不一致で離婚することも多いです。佳乃さんがいつまでも根に持たず、きちんと夫を許し、前向きに進んでいくことを期待します。不倫はどちらか1人ではなく、2人の連帯責任です。今回の場合、不倫相手の死亡という特殊な事情でしたが、不倫相手の社会的地位が高すぎる、名前や連絡先、住所、勤務先等をどうしても特定できない、海外在住なので接触するのが無理などの理由で不倫相手に責任をとらせることが難しい場合もあります。いずれにせよ「夫のけじめ」は入念に行ったほうがいいでしょう。露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! !慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。公式サイト
2021年04月24日寝つきが悪くて夜中に目が覚める、生理になるとやたらと眠い、更年期障害と睡眠の関係とは?日本睡眠学会所属医師で医学博士、雨晴クリニック副院長の坪田聡(つぼた・さとる)先生が女性ならではの睡眠の悩みとその対処法を解説した『女性ホルモンが整うオトナ女子の睡眠ノート』(総合法令出版)が11月に発売されました。そこで、ウートピでは4回にわたって本書の内容を抜粋して紹介します。日々の体調を整える睡眠のコツを知ることができます。※文中のページ数は本書の該当ページです。詳しくは本書をご参照ください。女性の睡眠の特徴日本での調査によると、成人女性の41%が月経に関連した睡眠の変化を自覚しています。そしてその約9割が、月経前と月経中に眠気が強くなると答えています。夜の睡眠に関しても、生理前からあとにかけて睡眠の質が悪くなる人が多くいます。さらに、生理痛や月経前症候群があると、夜の睡眠がより強く妨げられることが多いようです。月経と関連する女性ホルモンには、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)があります。エストロゲンは月経から排卵までの間(卵胞期)に多く分泌されます。一方、プロゲステロンは、排卵から月経までの間(黄体期)にたくさん分泌されます。エストロゲンとプロゲステロンはともに、脳にある松果体(しょうかたい)に作用して睡眠ホルモン・メラトニンの分泌に影響を与えます。また、プロゲステロンは催眠作用があるガンマ・アミノ酪酸(ギャバ)の作用を増強して、日中の眠気を強めます。排卵から黄体期にかけて、体温が上がります。夜の体温が高いままだと眠気が減るので、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりします。夜の睡眠が悪くなると、睡眠不足のため日中の眠気が強まります。また、この時期は、最高体温と最低体温の差が小さくなります。体温の上下幅が小さくなると、睡眠と覚醒のメリハリが減って、夜はあまり眠れず日中はボーとした状態が続きます。さらに、睡眠時間帯が遅い方にずれやすいので、早寝早起きが難しく、夜更かしで朝寝坊の状態になります。月経に関連した睡眠の障害については、50ページ※で詳しく述べます。妊娠すると、女性ホルモンの急激な変化や胎児の影響などのため、睡眠にも変化が起こります。妊娠の前半では女性ホルモンの変化によって、眠気が強くなる傾向があります。一方、妊娠の後半になると、胎児の成長に伴う胎動や背部痛、頻尿、乳房の張りなどのため、不眠を訴えることが多くなります。出産して授乳するようになっても大変です。お母さんは赤ん坊が空腹になって泣くと、夜中でも目を覚まして、母乳やミルクを与えます。そのため、夜は小刻みな睡眠をとらざるを得なくなり、昼間もウツラウツラした生活をおくります。妊娠中や出産後の睡眠障害については、52ページ※をお読みください。50歳前後で閉経が訪れると、女性ホルモンの分泌が減るため、いわゆる「更年期障害」と呼ばれる症状が出てきます。主なものとして、顔や上半身の熱感やほてり、腰や手足の冷えがあります。睡眠に関しても、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりと、不眠が多くなります。閉経期には、子どもが親離れしたり、夫が退職して家にいる時間が増えたりするなど、女性にとって精神的なストレスが増える時期でもあります。このようなストレスが起こす睡眠障害が、閉経期の特徴でもあります。女性の睡眠の大切さ妊娠するとホルモン分泌や体形などが変化するため、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりすることが増えます。ある調査によると、妊婦さんはそうでない人に比べて、睡眠障害が約2倍に増えます。睡眠障害のひとつに「睡眠時無呼吸症候群」というものがあります。睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間の呼吸が止まってしまう病気です。もともと肥満女性が妊娠すると、鼻やノドから肺までの空気の通り道「気道」が狭くなりやすいので、睡眠時無呼吸症候群にかかりやすくなります。呼吸が止まるということは、血液中の酸素が減るということです。お腹の赤ちゃんは、お母さんの血液から酸素をもらって生きています。そのため、お母さんが睡眠時無呼吸症候群だと、子宮内での赤ちゃんが酸素不足になって、発育が遅れやすくなります。妊娠前後には、お腹の赤ちゃんのためにも、体重のコントロールと睡眠に気をつけてください。出産後、お母さんは赤ちゃんの世話で大変です。特につらいのが、赤ちゃんが泣いて十分に眠れないことです。睡眠不足が積み重なると、イライラして機嫌が悪くなったり、気分が落ち込んだりします。出産後の睡眠の乱れは、「マタニティーブルーズ」や「産褥期(さんじょくき)うつ病」の原因となることがありますから、十分に気をつけてください。昔から「寝る子は育つ」と言います。最近では、「眠らないと太る」ということも知られてきました。海外での研究によると、肥満度は7〜8時間眠る人が最も低く、それより睡眠時間が短くても長くても肥満度が高くなります。どのくらい違うかというと、7〜8 時間睡眠の人に比べて5時間睡眠の人は肥満率が50%アップし、4時間以下の睡眠ではなんと73%も上昇してしまいます。睡眠時間が短いと、満腹ホルモンの「レプチン」が減り、空腹ホルモンの「グレリン」が増えてしまいます。睡眠時間が5時間の人は8時間の人に比べて、レプチンが16%少なく、グレリンが15%も増えています。つまり、睡眠時間が短い人は、食欲が増して太りやすい体になってしまっている、ということです。これらのことから、特に女性では睡眠が大切なのです。
2021年01月27日●ガッキーと同じ足取り「新年の頭にネクストブレイク候補を発掘する」、マイナビニュース恒例の年始企画を今年も実行。年々、他サイトで似た記事も増えてきたが、ここでは「とびきりフレッシュな先物買い」という観点から10人の若手女優を紹介していく。セレクトのポイントは、最近の出演作で見せた可能性、出演予定のラインナップ、業界内の評価。次々に新星が誕生する女優業界で、今年ブレイクのきっかけをつかむのは誰なのか?○■世代屈指の演技派たちがついに来る1人目は、小学生時代から高い評価を得ていた蒔田彩珠(18)。10歳のころから是枝裕和監督作品の常連で『ゴーイングマイホーム』(フジテレビ系)、映画『三度目の殺人』『万引き家族』などに出演してきた。昨年は映画『朝が来る』で報知映画賞 助演女優賞を受賞したほか、映画『星の子』『#ハンド全力』にも出演。それぞれ河瀬直美、大森立嗣、松居大悟と実績十分の監督作であり、いかに業界内で認められているかがわかるだろう。今年は朝ドラ『おかえりモネ』(NHK)でヒロインの妹役を演じる。ヒロインは同年生まれの同じく実力派・清原果耶が務めるだけに2人の化学反応は必至で、知名度を実力に見合うレベルまで上げる一年になりそうだ。2人目も、同じく子役時代から実績十分で業界評価の高い小野花梨(22)。昨年は『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』(NHK)に出演したあと、『親バカ青春白書』(日本テレビ系)への出演で一般認知も高まりつつある。とりわけ終盤に見せたムロツヨシとのキスシーンはインパクト大だった。さらに中井貴一や鈴木京香ら大物に混じって『共演NG』、伝説の不良漫画を実写化した配信ドラマ『湘南純愛組!』(Amazonプライム・ビデオ)にも出演。早くも世代トップクラスのバイプレーヤーぶりを見せているだけに、今年はどんな役を演じるのか楽しみだ。3人目も、バイプレーヤーとしての資質を高く評価されている古川琴音(24)。昨年は朝ドラ『エール』(NHK)で主人公夫妻の娘、『この恋あたためますか』(TBS系)で漫画家志望の中国人アルバイターを演じたほか、『レンタルなんもしない人』(テレビ東京系)では同性愛の女性、『絶対零度 未然犯罪潜入捜査』(フジ系)では難病で入院中の元バレリーナと、いずれも難易度の高い役柄を演じた。今年は菅田将暉と有村架純の主演映画『花束みたいな恋をした』、若葉竜也の主演映画『街の上で』への出演が決定済。事務所の先輩である門脇麦、岸井ゆきのに続く貴重な20代バイプレーヤーとして引っ張りだこになりそうだ。○■第2のガッキーと16歳のクール美女4人目は、同じ所属事務所、『nicola』モデル、ポッキーCMなどから「第2のガッキー」と言われてひさしい南沙良(18)。昨年は『ピンぼけの家族』(NHK BSプレミアム)、『これっきりサマー』(NHK)、『うつ病九段』(NHK BSプレミアム)に出演したほか、映画『もみの家』では主演も務めた。今年は『六畳間のピアノマン』(NHK)、映画『太陽は動かない』などの出演が予定され、さらに来年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)への出演が早くも発表されている。2018年に映画賞の新人賞を総なめにしたこともあり、ルックスと同等以上に演技の評価も高く、NHKの出演作が多いことから朝ドラ出演の可能性も高い。5人目は、23歳にして人妻から母親、ハードな役柄を演じられるなど若き演技派の萩原みのり(23)。昨年は主演作の『転がるビー玉』をはじめ、『37セカンズ』『ステップ』『僕の好きな女の子』『13月の女の子』『アンダードッグ』『佐々木、イン、マイマイン』の映画7作に出演して経験を積んだ。秋には1話5分×26話のミニドラマ『Memories~看護師たちの物語~』(BS日テレ)で主人公の若手看護師を好演。今年は『お茶にごす。』(テレ東系、Amazonプライム・ビデオ)、映画『花束みたいな恋をした』『街の上で』への出演が予定されている。6人目は、16歳ながら息をのむような大人のムードを醸し出す茅島みずき(16)。13歳で初めて受けたオーディションでグランプリに輝き、14歳で若手女優の登竜門である『ポカリスエット』のCMに抜てきされ、『東京ガールズコレクション』でモデルデビューするなど、ポテンシャルの高さは特筆に値する。昨年は『不要不急の銀河』(NHK)、『メンズ校』(テレ東系)、映画『青くて痛くて脆い』、今年は1月から『ここは今から倫理です。』(NHK)に出演。佇まいの美しさからCM業界の期待も高いだけに、おのずと女優業のオファーも増えていくはずだ。●同世代女性からの圧倒的な支持○■『さくらの親子丼』出演の3女優7人目は、2017年8月の「全日本国民的美少女コンテスト」でグランプリに輝いた井本彩花(17)。受賞からわずか4か月後に『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)に出演し、早くから女優としての資質を評価されていた。昨年は『女子高生の無駄づかい』(テレ朝系)でオカルト趣味の女子高生、『ラーメン大好き小泉さん 二代目!』(フジ系)で成績優秀なクラス委員長、『さくらの親子丼』(東海テレビ・フジ系)で兄から性的虐待を受け難病に侵される少女と、実年齢に近い一方で難しい役柄を演じ続けた。特筆すべきは、大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)にお市役で出演したこと。兄妹愛と夫婦愛のはざまで揺れるこちらも難役であり、期待のほどがうかがえた。さらに、『オスカルイーツ』(テレ朝系)ではデカ盛り料理に挑み大食いぶりを披露するなど、バラエティでの才能も十分で、ますます活躍の場を増やしていくだろう。8人目も、キャリアわずか2年ながら難役のオファーが多い永瀬莉子(18)。昨年は『アンサング・シンデレラ』(フジ系)で1型糖尿病の入院患者、『さくらの親子丼』で父親から教育虐待を受ける少女、『七人の秘書』(テレ朝系)は盗撮被害と警察の脅しに苦しむ女子高生を次々に演じた。ただ、それ以上に業界内でひそかに注目されていたのは、恋や性に揺れ動く女子高生のリアルな心情を描いた『17.3 about a sex』(ABEMA)への出演。同じ『Seventeen』モデルの田鍋梨々花、秋田汐梨とともにトリプル主演を務めたほか、性に厳しい過干渉な母親役の藤原紀香とのシーンが注目を集めた。まだゲスト出演が多いものの、約2年で10作に出演するハイペースぶりで、一気の飛躍も期待できそうだ。9人目も、昨年『さくらの親子丼』に出演していた清水香帆(12)。同作では虐待を受けた父親を訴えて裁判に挑む少女役を熱演し、視聴者の涙を誘っていた。ただ、それ以上にインパクトが強かったのは、朝ドラ『エール』への出演。二階堂ふみが演じるヒロインの幼少期を演じたのだが、見事な歌唱シーンを演じたほか、父親役の光石研との感動的なエピソードで称賛を集めた。その他にも『LIFE!~人生に捧げるコント~』の「夜の連続テレビ小説 うっちゃん」に出演。キッズモデルであること、ダンスやピアノが得意であることなども含め、トップ女優になりそうなムードが漂っている。○■女優業に本格進出した「りんくま」最後の10人目は久間田琳加(19)。もともと同世代女性から圧倒的な支持を集めていたが、昨年は満を持してテレビに本格進出した。『ヒルナンデス!』(日テレ系)では水曜シーズンレギュラーとして生放送バラエティに挑み、『Do8』(フジ系)ではぺこぱ、四千頭身、3時のヒロインの若手芸人たちに唯一女優として参加してコントやトークに挑戦。その他にもバラエティへのゲスト出演が増えたほか、女優としても『マリーミー!』(ABC・テレ朝系)で主演を務め、瀬戸利樹と「夫婦なのに恋人未満」という微妙な関係のカップルを演じた。現役Seventeenモデルの「りんくまちゃん」として女性層の人気はもちろん、常に笑顔を振りまき、無防備に放たれる天然ボケで男性層の人気も急上昇しているだけに、ドラマ・バラエティともに出演本数が一気に増えるかもしれない。今年はどんな新星が飛び出し、どこまで人気を集めていくのか。ここで挙げた10人はその可能性を秘めた筆頭株だけに、一年間追いかけてみてはいかがだろうか。木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
2021年01月04日昨今、しばしば話題にのぼる「発達障害」とは、「知的障害」や「精神障害」とどう違うのでしょうか。また、それぞれの障害が分かる時期や遺伝の有無、どのような支援が受けられるのかについて解説します。知的障害は発達障害のひとつ発達障害とは、脳の先天的な機能障害により、おおよそ18歳までの「発達期」と呼ばれる時期に日常生活や社会生活などに何らかの障害が見られる状態のことです。 知的障害も発達障害のひとつで、その他にも、コミュニケーション障害や学習障害などの種類があります。知的障害の主な原因知的障害は脳の先天的な障害なので、基本的にしつけや環境などの後天的な理由によって起こることはありません。 知的障害が起こる主な原因としては、ダウン症候群と胎児性アルコール症候群、脆弱X症候群が挙げられます。なお、胎児性アルコール症候群は、妊娠中の母親の飲酒によって引き起こされるため、妊娠中は時期に関わらず飲酒は控えましょう。発達障害は成人後に分かることもある発達障害は知的障害を伴わないものもあるため、気付きにくいケースも少なくありません。例えばコミュニケーション障害は、単に人見知りなのかどうか判別しにくいこともあり、中高生になってから診断されることもあります。精神障害は後天的要因が多い発達障害や知的障害とは異なり、精神障害は後天的な要因から生じることが多いです。例えば、継続的に強いストレスを受けることで、精神障害のひとつである「うつ病」を発症することがあります。 人生において何らかの理由で気分が落ち込むことがありますが、うつ病は単なる「気分の落ち込み」とは異なり、脳の機能全体が落ち込み、体重減少や眠気などの身体的症状が出ることも少なくありません。知的障害・発達障害は遺伝する?知的障害や発達障害は、染色体異常や先天代謝異常などの様々な原因から引き起こされることがあります。しかし、遺伝的要素によって知的障害・発達障害が必ずしも起こるというわけではなく、遺伝によるものもあれば、突然変異的な異常によるものも少なくありません。また、親が知的障害・発達障害につながる遺伝的要素を持っているとしても、必ず子供に遺伝するわけではなく、たとえ遺伝したとしても症状として発現するわけでもないため、遺伝するとは言い切れないでしょう。知的障害・発達障害の判断はどこでする?知的障害や発達障害かどうかは、自己判断は危険です。必ず病院で相談し、必要に応じて検査を受けるなどして専門家に判断してもらうようにしましょう。知的障害・発達障害の支援知的障害や発達障害であることが分かったときは、自治体や国の支援を受けられることがあります。お住まいの地域の「発達障害者センター」や「障害者センター」に相談し、必要な支援を受けるようにしましょう。気になる点は保健所・病院で専門家に相談知的障害や発達障害が疑われるとき、また、気になる点があるときは、保健所や病院で専門家に相談するようにしましょう。適切な支援や療育を受けることで、適応能力を高め、生きやすさを向上できることがあります。
2020年12月26日※写真はイメージですストレスと向き合わなくてはならない今、真っ先にすべきこととは?そして、依存症にならないためにはどうしたらいい?心理のエキスパートおふたりがとことん語り合い、解消法を教えてくれました。■不安と上手に付き合う方法新型コロナウイルス感染拡大に伴い、“コロナうつ”とも呼ばれる精神的な不調をきたす人が増えている。芸能人の中にも、仕事が減少したことで、「自分に存在意義があるのか不安」といったことを漏らす人は少なくない。立冬が過ぎ、再びコロナが猛威をふるうとも言われる近時、出口の見えないウィズコロナの中で、私たちはどんな心持ちでいることがいいのだろうか?山下コロナによって、人々は「大きな変化」のただ中にいます。変化にはよい面も悪い面もありますが、不安を感じる人は気持ちが揺らいでしまいます。堀田人間は変化を嫌う動物ですから、変化が起きると不安も起きますよね。そして、不安は万病のもとでもある。一方で、不安で心配性であるほうが危険に対する準備がしやすく、日常のわずかな変化や違和感にも気がつきやすいというメリットがあります。不安は必ずしも「ネガティブ」なものととらえず「武器」としてとらえ上手に付き合っていくことも大切だと思います。山下人間は変化を嫌うと同時に「興奮したい」という欲求も持ち合わせていて、興奮があると不安が消えやすくなる。『図解ストレス解消大全』の中で書かれているように、「不安を興奮と言い換える」といったテクニックはとても大事なことだと思いました。堀田ハーバード・ビジネス・スクールのブルックスの研究ですね。彼の研究では、「脳はリラックス状態以上に興奮状態にあるほうが、ポジティブな状態だ」ということを明らかにしています。ブルックスは、不安な状態からリラックスした状態に落ち着かせるよりも、不安な状態から興奮状態に移行したほうが望ましいと唱えていますね。山下「朝日を浴びる」「起きたら楽しい記憶を1分間、思い出す」など、誰でもできる実践的なアクションが多数紹介されているので、私も勉強になりました。というのも、精神医学で治療する際は、「ストレスは減らせない」と言われています。例えば、イヤな上司が職場にいるという場合、状況や環境が人によって異なりますから一概にくくることができない。ところが、「ストレスホルモンを下げるために〇〇をしましょう」という具合に、科学的エビデンスに基づいた行動が示されているため汎用性が高い。■依存症とストレスの意外な関係性とは堀田ありがとうございます!山下先生は認知行動療法(うつ、不安、発達障害、各種依存症)を専門とされていますが、コロナが拡大して以降、相談者の数は増えたのでしょうか?山下実は、今年の春ごろの第1波が来た当初は減ったんですね。堀田そうなんですか!?山下東日本大震災のときもそうだったのですが、より大きなシビアな問題が起こると、自身で抱えている悩みの種が相対的に小さくなることで気持ちが楽になり、一時的に相談者も減少するようです。ところが、緊急事態宣言が明けて夏になるくらいから、先述したように興奮が薄れてきたことで、相談者が増えてきました。興奮がおさまってくると既存のストレスと向き合わなければいけなくなる。ただし、一般的にはストレスと依存症は関係ないと言われています。依存症はあくまで病気であって、だからこそ依存しているわけですから。堀田なるほど。ストレスはきっかけにはなるかもしれないけど、依存症とは直接的な因果関係はないとも言われていますよね。山下依存症になっているときに、ストレスが加われば加速するでしょう。「酒をやめろ」と、アルコール依存症の人に言うと、精神的な負荷がかかり、かえって飲みたくなってしまう。また、原因不明なことを「ストレス」や「自律神経の乱れ」という、あいまいな言葉で片づける節もありますね。堀田確かに、じんましんが出ると「ストレスのせいだよ」なんて言われるなぁ。ストレスを抱え込まないためにできることはたくさんあると思うのですが、アルコール、ギャンブル、薬物……そういった依存症にならないためには、何に気をつければいいでしょう?山下人がアルコールや薬物に依存してしまう原因はシンプルで依存物質の頻回かつ長期間の摂取です。お酒も、いきなり子どもがワインや日本酒をなめて「美味しい」と感じることはまずありえません。しかし、果汁を入れたり冷やしたり炭酸を入れたりして飲みやすくしたアルコール飲料を飲み続けると、いつしか甘くないビールや、炭酸が入っていないワインなども「美味しい」と脳が感じるようになってしまいます。そして、飲酒量が一定量を超えると、今度は離脱症状と呼ばれる「飲まないと眠れない」「酒が切れると手が震える」などの症状が出てしまうのです。心がけでどうにかなるわけではなく、メンタルが強い、弱いといったことも関係ありません。その依存物質がこの世にあり続けるからそうなってしまう。依存症の人に対して、「メンタルが弱い」というのは間違っているんです。堀田去る9月には、元TOKIOの山口達也が酒気帯び運転の疑いで逮捕されましたね。アルコール依存症とも言われていますが……。山下特に芸能界にいる人の場合、よきにつけあしきにつけ注目を浴びやすいのですが、彼らも病気の患者なんです。ただ石を投げるのではなく、一般の人も正しい知識を身につけることが大事です。「明日はわが身かもしれない」という視点を持ってほしいのです。現在、日本には依存症患者が100万人いると言われています。ただ、どこからが依存症なのか─というのは、人それぞれなんですね。■やけ酒やケンカが増えたら要注意堀田依存症の黄色信号をあげるとすれば何でしょうか?山下大好きな人とケンカが増えると危ないと自覚したほうがいいでしょう。堀田先生も書籍の中で「やけ酒はダメ酒」と強調していますよね。堀田東京大学大学院の松木則夫・野村洋の研究ですね。「やけ酒をすると嫌な記憶や気持ちがかえって強くなる」ことが報告されていて、アメリカ国立衛生研究所のホームズらの研究結果でも、「アルコールを常習すると嫌な記憶を消す能力が下がる」と指摘されています。飲みすぎは何ひとつメリットがないことが、科学的に証明されている。山下例えば、「宝くじがハズレました」と言われるのと、「当たりました!……すいません、やっぱりハズレてました」では、後者のほうが気落ちの落差が激しい。同様に、やけ酒は、そのときは嫌なことが消えて楽しいけれど、朝起きると再び不快な現実と向き合わなければいけない。「楽しい席でのお酒は残らない」とよく言われますが、つまり頭痛や吐き気といった二日酔いの正体は、沈んだメンタルがもたらす「うつ」がフィジカルに変換された症状とも言えるのです。堀田興味深い指摘です。山下また依存症の患者さんの中には、「自分はお酒を飲んだほうが腹を割って大事な話がしやすいから飲む」と話す方も少なくありません。そんな際に、「であるなら私もお酒を飲みながらあなたのカウンセリングをしたほうがよいのでしょうか」と尋ねると、みなさん「嫌だ」となる。これも患者さんが適当なことを話しているからではなく、「自身が依存症という病気であることに気がつけない」ことがもたらす病気の症状なのです。堀田ウィズコロナの最中、われわれを驚かせた事象のひとつが、相次ぐ芸能人の自死ですね。見えない恐怖は誰だって怖い。ぼんやりとした不安を抱えているとき、何が背中を押すかはわからない……。山下自殺の背景にアルコールが関係しているケースは本当に多い。アルコールは理性や判断を司る前頭前野の血流を低下させ死への恐怖心をも麻痺させるのです。アルコール依存症の有無にかかわらず、つらいときにお酒を飲むことは絶対にやめてください。堀田そのとおりですね。前頭前野は新しい脳である「大脳新皮質」にあります。理性や知性といった「考えること」に関係する脳の部分ですから、お酒を飲むと機能が低下してしまう。山下ストレス対処の最も簡単な対処法は時間稼ぎです。怒りでも空腹でも、時間がたつと必ずしぼんでいきますよね。つまり、何か嫌なことがあった際に、「お風呂に入る」「散歩をする」など、習慣的にやることを決めておくだけで変わってきます。自分で時間の流れを止めるアクションがあると歯止めになると思いますね。堀田あと、欲求を抑制する方法として、“気をそらす”こともあげられるかな。アメリカでは暴飲暴食を回避する方法として、おでこを指で叩くだけで食欲が抑えられるという研究もあります。ストレスは基本的に古い脳(脳幹)の働きによって引き起こされますから、新しい脳を使うように意識をそらすだけで、ブレーキが働く。山下私は患者さんに、「依存物質を摂取したくなったらまずは7秒我慢してください」と伝えています。そして、その7秒後も渇望が消えなければ「もう7秒待ってみる」。すると「7秒を繰り返してみたところ、その日は我慢できた」と話す方が一定数いらっしゃるのです。堀田まさに「怒りを感じたら5秒待とう」という、アンガーマネージメントに通じるところがありますね。山下堀田先生の本では、そういったアクションが多数紹介されている。時間の経過にただただ委ねないように、自分で流れを止める術を心がけてほしいですね。堀田よく読み込んでくださって、ありがたいなぁ~。さすが精神科の先生、心地よい……。山下先生と話していると、それこそストレスを感じない!(笑)■うわっー! となったらやってみて!今すぐ使えるストレス解消法●左の拳を握る怒りを覚えたら左の拳を握ると、攻撃的にならずに怒りを沈静化できる!人間の脳は、怒りを感じると左前頭部が活性化し、逆に右前頭部の活動は怒りから回避しようとする恐怖反応に関連しているそう。実は、左手をギュッと握ると、右前頭部が活性化することが科学的に証明されている──そのため、怒りを覚えたときは左手を力いっぱい握ればアンガーマネージメントになるというわけ。左手が、文字どおりあなたの怒りを左右する。●おでこをタッピングする暴飲暴食の欲求を減らす方法として、おでこをトントントンとタッピングする(指で叩く)だけで、湧いてきた食欲を解消できるという研究結果があるというからビックリ!指で自分の額を30秒ほどタッピングすることを4回繰り返すだけで、食欲が半分から1/3程度まで減退するそう。ストレスがたまって暴飲暴食をしたくなるとき、ダイエットが苦痛になって欲求にかられたときは、おでこをトントントンと叩いて制御してみてはいかが?●手浴をする温泉に出かけなくても、温泉に浸かったようなストレス軽減効果を得られるアクションが、手にお湯をつける「手浴」。お風呂に入ることが難しい患者さんのために医療現場で実践される「手浴」は、38度の温水で手を温めることで患者の痛みが緩和したり、前向きな言葉を発するなど病気の回復に対する「やる気」の向上が実証ずみ。手の血管には交感神経支配が集中しているため、手を温めると、いろいろな効果が得られるのだとか!取材・文/我妻アヅ子精神科医・山下悠毅さん・やました・ゆうき1977年生まれ。精神科医。ライフサポートクリニック院長。専門は依存症全般、パーソナリティー障害。さまざまな企業においてコーチングやマーケティングの研修講師としても活躍する。極真空手の選手としても知られる。著書に『いい子をやめれば幸せになれる』(弘文堂)など。明治大学教授・堀田秀吾さんほった・しゅうご1968年、熊本県生まれ。明治大学教授、言語学者。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく多角的な研究を展開。テレビ番組のコメンテーター、法律事務所や芸能事務所の顧問も務めるなど多岐にわたって活躍中。著書に『このことわざ、科学的に立証されているんです』(主婦と生活社)など。堀田さんの新刊『図解ストレス解消大全科学的に不安・イライラを消すテクニック100個集めました』(SBクリエイティブ刊、税込み1650円)左の拳を握ると怒りがおさまる、歯磨きをするとストレス減退などなど。最先端の心理学、脳科学などの諸分野で実験によって効果が証明されたストレス環境の中で心の元気を回復するための科学的かつ具体的アクション100事例を網羅した究極のストレス解消本!
2020年12月12日「子どもは好きだから」「1児を育てた経験があるから大丈夫」と思っていても、もしかしたら産後うつの一歩手前、さらには、すでに産後うつになっている可能性があります。他人事ではなく、少しでも辛いと思ったら周囲の人や専門家に頼ってほしいのが「産後うつ」です。 そもそも「産後うつ」とは?産後うつとは、出産後6〜8週の間に発症する「うつ病」のことをいいます。ここで間違えてはいけないのが、「出産後6〜8週の間に“発症する”うつ病」ということです。6〜8週の間に産後うつと“診断される”のが産後うつではありません。 疲れを感じていたとしても、育児をしているため仕方のないことだろうと頑張っているうちに病状が進み、重いうつ病になってしまうことは多々あります。もう産後から1年近く経っているから自分は産後うつではないだろうと思っていても、すでに発症しており、うつ病が進行している可能性もあるのです。 実際、2015〜16年に行われた国立成育医療研究センター調査では、産後1年未満に死亡した女性の死因で最も多いのが自殺という結果が出ており、要因が「産後うつ」であると考えられています。 誰でもなる可能性がある病気「うつ病」というのはよく聞く病気でありながらも、自分とは遠い存在であると思っている方も多いと思います。しかし誰でもなりうるのがこの病気です。今までの人生できっちりやってきたママが、赤ちゃんが思うように育児用ミルクを飲んでくれなかったり、夜泣きがひどかったりで困惑し、産後うつになってしまうこともよくあります。また、明るくくよくよしない性格だと自分も周囲も思っていた人がなってしまうこともあります。 「産後うつ」の恐ろしさとはうつ病の怖いところは、うつの状態かどうか本人はわからないことが多く、ただ頑張って疲れているだけと思っていたり、自分は思い込みやすい性格だと勘違いし、病気と認識せずに病いが進行してしまうところです。また、頑張り屋さんで、もともと前向きな性格な人ほど、周囲に自分の辛さを見せまいとし、また周囲もその人の変化に気づけず、うつを進行させてしまう場合もあります。 幸い「うつ病」であると気づくことができたとしても、非常に辛いのは、薬でラクになることはあっても完治しにくいこと、いつ治るか周りにも本人にもはっきりわからず、ただただ終わりの見えない辛い日々が続くことです。自分自身の存在価値をどうしても受け入れることができず命を絶ってしまうこともあります。 産後うつは、ホルモンのバランスや、こどもができたことによる大きな環境の変化によって起こります。繰り返しになりますが、誰にでもなりうる病気です。気分が沈む日が多い、疲労感・無気力感に囚われる、育児や家事に集中できない、望んだ赤ちゃんなのに愛おしく思えない、体が重く感じるなどがあれば、なるべく早く周囲や専門家に相談することをおすすめします。 【まずは相談してみてください】 ●よりそいホットライン(電話相談)0120-279-338(フリーダイヤル・無料)岩手県・宮城県・福島県からは0120-279-226(フリーダイヤル・無料) ●生きづらびっと(SNS 相談)LINEの友だち追加ID検索@yorisoi-chat(生きづらびっと)月曜日・火曜日・木曜日・金曜日・日曜日 17時から22時30分(22時まで受付)水曜日 11時から16時30分(16時まで受付) ●厚生労働省 相談先一覧 ●いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧) <参考>国立成育医療センター「人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状」著者:ライター メンタル心理カウンセラー・上級心理カウンセラー カトウ ヒロコメンタル心理カウンセラー・上級心理カウンセラー。また、フリーのWEBプロデューサー&ライターとして活動中。
2020年10月16日2020年10月8日に放送されたトーク番組『じっくり聞いタロウ〜スター近況(秘)報告〜』(テレビ東京系)に、俳優のいしだ壱成さんが出演。ネット上での誹謗中傷に悩み、『うつ病』になった過去を明かしました。いしだ壱成の告白に、名倉潤「周りの理解が必要」同番組でMCを務めるお笑いトリオ『ネプチューン』の名倉潤さんは、2019年8月からうつ病のリハビリのために数か月間休養していたことがあります。いしださんが、うつ病について「目が覚めた瞬間に、死ぬことと向き合っている感じでした」というと、名倉さんは「うつになると、衝動的にバンッてなるのが分かりますよね。景色のいいところでベランダから下を見て、今飛び降りたらどうなるんやろうとか、そういうことを考えてしまう」と、理解を示しました。うつ病の治療中に働くことができなかったいしださん。その期間は妻がパートで働いたり、もともとあった貯金を崩したりして生活していたそうです。いしださんの告白に言葉を失う周囲の出演者に向かって、名倉さんはこう主張します。いやいや、働けへんって!「ちょっとしんどいだけやろ」とか「ちゃんと寝たら治るわ」とか、そんな感じ…。だから、この病気って理解なんですよね、周りの方の。じっくり聞いタロウーより引用名倉さんの言葉を、いしださんは噛みしめるようにうなずきます。そして、休養中に何よりも心の支えになったのが妻だったことを告白。いしださんの妻は、うつ病についてしっかりと調べた上で、ただそばにいてサポートしてくれたのだそうです。そんなエピソードに対し、名倉さんは自身の経験を交えて、こう語りました。それね、すっごく大きいのよ。あの…なった人しか分からんけど、やっぱり周りでなった人のために勉強したほうがいいですよね。心の病気って大切にしないと、ほんまにトンッっていってまうからね。じっくり聞いタロウーより引用いしださんが素直な気持ちを話せるように、ところどころフォローしながら、自身の考えを明かした名倉さん。ネット上では、名倉さんの発言に対してさまざまな反響が上がっています。・家族を含め、周囲の人の理解が必要なんだと、改めて実感した。・「うつ病はなった人にしか分からない」って、本当にその通りだと思う。・1年経って、名倉さんが自分で当時の心境を語る姿にグッとくる。改めて妻の渡辺満里奈さんがそばにいてよかったと思った。・知識のない人が、憶測で「気持ちの問題」などというのが一番よくない。なった人にしか分からないつらさがあるから…。名倉さんは休養中に、妻でタレントの渡辺満里奈さんが、懸命に支えてくれたことを明かしていました。きっと、いしださんの実体験を聞いて、当時のことを思い出したのでしょう。「これぞ本当の夫婦愛」名倉潤夫妻が見せたやり取りに、胸がジーンうつ病の治療には、周囲の理解を含め、家族のサポートが必要不可欠です。もしも、周囲に同じような症状で苦しんでいる人がいたら、正しい知識をもって接したいと思わされますね。[文・構成/grape編集部]
2020年10月09日葉石かおりさん若年性更年期障害のために、さまざまな不調が起こり、人生の崖っぷちに立たされた経験のある葉石かおりさん。でも50代の現在、「あのつらかった日々がウソのよう♪」なのだとか。どうやって克服したの?葉石さんの経験をもとに、彼女がドクターと二人三脚で見つけた最新の女性ホルモンとの付き合い方を紹介します!■2週間もたたないうちに症状がなくなった「若年性更年期障害に気づかず、夫も仕事も失ってしまいました」と語るのは、酒ジャーナリスト&エッセイストとして活躍する葉石かおりさん。7月に『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)を出版したが、そこには女性ホルモンに振り回された葉石さんの壮絶な経験が描かれている。葉石さんは30代の半ばごろから、仕事中に顔汗がしたたり落ちたり、めまいがひどくなったり、感情の起伏が激しくなってきたという。「ちょっとしたことで怒りを相手にぶつけてしまい、感情がコントロールできないんです。まるで心に猛獣を飼っているようでした。私のひどい言動によって周りの人は離れていき、前夫とは離婚し、働いていた出版社はクビになってしまいました」フリーランスになってから、婦人科医の吉野一枝先生に取材する機会があり、取材後にカウンセリングと診療を受けた葉石さん。「血液検査の結果、若年性更年期障害と診断されました。30代でまさか更年期だとは思っていなかったので、ビックリしました」もともと月経前症候群(PMS)による落ち込みがひどく、死にたくなるような気持ちになることもあり、心療内科を受診したときは、「うつ病」と診断されたという。「そのときは精神安定剤を処方されましたが眠くなるだけで、イライラはおさまりませんでした。ところが、吉野先生から若年性更年期障害と診断され、低用量ピルを処方されると、2週間もたたないうちに今までの症状がウソのようになくなったのです」■女性ホルモンをコントロールして快適に生きられる女性の閉経の平均年齢は50歳で、更年期障害はホルモンが不安定になる閉経前後の45~55歳くらいで起こることが多い。主な症状は、ほてり、手足の冷え、めまい、頭痛、過度のイライラ、不眠、うつ症状などだ。しかし、最近では30代でも更年期と同じ症状が現れる人が増えており、若年性更年期障害と呼ばれる。「若い女性でも原因がわからない不調に見舞われたら、ホルモンバランスの乱れを疑って婦人科を受診したほうがいいです。我慢したり、婦人科ではないところを受診すると、私のように人生の大事な時期を台無しにしてしまう可能性があります。婦人科にネガティブなイメージを持っている人もいますが、現代は女性ホルモンをコントロールして快適に生きることができる時代です。そのためにも身体のことを何でも相談できる婦人科の先生を見つけることが大切です」葉石さんは40代は低用量ピル、50歳を過ぎてからはホルモン補充療法に切り替え、ホルモン量の低下と上手に付き合いながら、元気に過ごしている。「低用量ピルには種類があるので自分に合ったものを選んで飲むことができます。月経困難症なら保険もききます。ホルモン補充療法も更年期障害なら保険適用で、更年期障害の改善はもちろん、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や動脈硬化を防ぐ働きもあります。どうしても薬が苦手な人や、病気でホルモン補充療法ができない人は漢方薬を使うという方法もあります」日常生活では、自律神経を整えてストレスをためないことが、更年期障害を悪化させないことにつながるという。「私はヨガに出会って、深い呼吸ができるようになり、心が落ち着くのを感じています。腰痛も改善しました。リラックス効果があるアロマテラピーもおすすめです。また、私はお酒が大好きで(笑)お酒の魅力を紹介するのが仕事でもあるので、完全な“断酒”はムリ。若年性更年期障害でつらい時期はお酒でストレスを紛らわせていたのですが、精神も落ち着いた今は、おいしいお酒を適量飲むことを楽しみとしています」昨今はコロナ禍でストレスが強まり、更年期障害が悪化してしまう人も少なくないはず。気になる症状があれば婦人科へ行って、自分に合った対処法を見つけてもらおう。■葉石さんの主治医・吉野一枝先生からアドバイス葉石さんを15年にわたって診療してきた、よしの女性診療所・吉野一枝先生。更年期治療でクリニックを選ぶ際に注意点があるという。「婦人科のなかには薬での治療にまだ批判的な先生や、お産が中心で更年期の相談がしづらいクリニックもあります。診療メニューに更年期障害と入っているところやクチコミで安心できそうなクリニックを見つけてください。初診は対面がいいのですが、お薬の継続などの場合、最近ではオンラインによる診療ができるところも増えているので、地方から東京のクリニックを受診するといったことも可能になってきました」日本ではまだピルの普及率は低いが、世界的にはすでに普通のことだとか。避妊だけでなく、月経トラブルがある人には強い味方となる薬だ。「月経痛の緩和など、ピルの処方は症状に合わせてオーダーメードで行います。副作用として不正出血、吐き気、胸が張る、頭痛、下腹部痛などがありますが、大半は3か月程度でおさまります。医療は進化しているので、婦人科のかかりつけ医を見つけて、知識を身につけることが大切です」一方、ホルモン補充療法は更年期だけでなく、一生続ける人も少なくないそう。「女性ホルモンが骨粗鬆症、動脈硬化、膣萎縮、尿漏れなどのトラブルを予防してくれるため、80代、90代でホルモン補充療法を行っている人もいます。肌や髪を若々しく保つことにもつながります。ホルモン補充療法は乳がんの関係を不安視される方もいますが、明確にはなっておらず、しっかり理解すればリスクよりもメリットが大きいと考えられています」■女性ホルモンの不調かな?と思ったら……■1.まず婦人科へ女性ホルモンが不調の原因と考えられる場合は、婦人科での治療が基本となる。ほてり、手足の冷え、めまい、頭痛、過度のイライラ、不眠、うつ症状などがあれば婦人科を受診してみよう。内科や心療内科では女性ホルモンをコントロールする治療は行われないので、症状が改善しないことも多い。自分と相性がぴったり合う婦人科医を探すことも大切だ。「更年期障害の治療は、大きい病院で担当医が曜日によって変わるところより、じっくり相談できる個人クリニックのほうがおすすめです。女性ホルモンの減少によって起こる症状は十人十色。更年期治療もオーダーメードで、定期的にクリニックに通い、医師と相談しながら治療のアップデートをしていきましょう」(葉石さん、以下同)■漢方は食間に飲むのが基本■2.ホルモン補充療法ホルモン補充療法は、原則的にエストロゲンが低下した女性、閉経後の女性が対象。更年期障害、また閉経後の骨粗鬆症などに効果を発揮する。治療薬には、飲み薬、貼り薬、ジェル剤の3タイプがある。飲み薬より外用薬(貼り薬やジェル剤)のほうが、胃腸を通過しないため副作用は少ない。軽度の乳房のハリ、性器出血(使用を始めたころに起こりやすい)、頭痛などが起こることがある。「ホルモン補充療法の継続期間ですが、最終的な選択肢は自分にあります。私の周りでも更年期を過ぎ、不快な症状も出なくなったし、薬に頼りたくないからやめたという人も実際にいます。私はできれば長く継続したいと考えています」■3.漢方薬ホルモン補充療法に抵抗のある方、また血栓症や乳がん、子宮がんなどを患った方向け。「3大漢方婦人薬」と呼ばれる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が有名だが、体質によって処方が変わる。煎じて飲むタイプ、顆粒状、粒状などがあり、メーカーも多種多様。「漢方は食間に飲むのが基本で、忘れないことが大切。ホットフラッシュがおさまるなどの効果が期待できます」■4.アロマ自然の恵みであるエッセンシャルオイルは、リラックス効果があるものも多い。女性ホルモンに関係するアロマの代表格といえば、熱を冷まし、氣や血液の循環を促すゼラニウムが有名だが、実際に嗅いでみて合わないと思ったら無理して使うことはない。成分よりも、自分が好きと思う香りを選ぶのがいちばん。「私のおすすめはオレンジ・スイートです。熟した甘いオレンジを連想させ、香りを嗅いだ瞬間、全身に氣が満ち、前向きになれます」■ヨガはメンタル面にも効果がある■5.ヨガヨガは身体だけでなく、メンタル面にも効果がある。深い呼吸を意識的に行うことで、ホルモンバランスや自律神経が整えられ、リラックス効果を得ることができる。あらゆる年代の人ができ、ヨガ教室に通うだけでなく、オンライン動画も豊富なので、自宅で好きなときに行ってもいい。「気分が滅入ったとき、ヨガの呼吸法を行うと、イライラや不安感がスーッと引いていきます。更年期世代にはぴったりの運動法です」■6.お酒との付き合い方女性は男性に比べ肝臓が小さく、アルコールの影響を受けやすい傾向が。また年齢とともにアルコール代謝は低下していくので、更年期以降は注意が必要だ。「ダイエットも兼ねて休肝日は意識的に設けることをおすすめします」葉石かおりさん、吉野一枝さんの著書では、若年性更年期障害と診断され15年間、婦人科に通い続けて二人三脚で編み出した、女性ホルモンとの付き合い方を公開!(取材・文/紀和静)葉石かおりさんはいし・かおり。エッセイスト。一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション理事長。酒ジャーナリスト。ラジオレポーター、週刊誌の記者を経て現職。国内外でサケ・アカデミーを開講し日本酒の伝道師・SAKE EXPERT の育成を行う。吉野一枝さんよしの・かずえ。よしの女性診療所院長。産婦人科医。会社員を経て、32歳で帝京大学医学部に入学。臨床心理士の資格ももち、社会経験を生かした、女性の心の悩みに寄りそう治療に定評がある。講演、メディア出演などで女性の健康の啓発のために積極的に活動。
2020年08月22日2020年7月11日に放送されたトーク番組『サワコの朝』(TBS系)に、タレントの渡辺満里奈さんが出演。夫であるお笑いトリオ『ネプチューン』の名倉潤さんとのエピソードを明かしました。渡辺満里奈「私しか治せないと思った」名倉さんは、2019年8月からうつ病のリハビリのために2か月ほど休養し、2020年現在は仕事に復帰しています。番組で、渡辺さんは当時を振り返り「公表する前は不安もあったけれど、同じような症状で悩むたくさんの人から励ましの言葉をもらった」と感謝の言葉を述べました。さらに、うつ病であることを名倉さんが知った際の反応については…。(先生から)「これはうつ病の症状がありますね」っていう風にいわれて。その時に本人が「すごくほっとした」って。いつもできることができなくなったりとか、つらいって思ってたことが、自分がいけないんだってやっぱりすごく思っていたんだけれども、「そういう病気だったんだって思ったら、なんかすごいほっとした」っていう風に、本人はいっていたんですね。サワコの朝ーより引用名倉さんはこれまで体験したことのない症状に不安を覚えたのでしょう。当時、うつ病のことが分かって安心したことを渡辺さんに伝えたそうです。番組の進行を務める阿川佐和子さんに「渡辺さんは、夫の病気が分かってどうだったんですか?」と尋ねられると、渡辺さんは「すごく不安で怖かった。少なからず自分を責めた時もあった」と当時の心境を明かしました。しかし、夫の休養期間中にそばで支えることで、渡辺さんは「自分が一番夫のことをよく観察している立場なんだ」と気付いたといいます。使命感もあるんだと思うんですけど…その時は「私しか治せない」って思いましたね。「いつ仕事を辞めてもいいよ」って。それはいっていたんですね。本当につらかったら、もう仕事を辞めても大丈夫だよって。なんとかぜい沢しなければ生活もできるよ、って。それだけが人生じゃないよねって。「大丈夫、いつ辞めてもいいよ」っていって、自分でも本気でそういう風に思えた時に、覚悟が決まったかなって。サワコの朝ーより引用渡辺さんは療養中の名倉さんに対し、前向きな姿勢を崩さず、これまで通りの態度で接したのだそうです。そして、弱いところを見せない性格の名倉さんが抱えていたストレスや不安などを、妻としてしっかり聞くように努め、安心して話し合える状況を作りました。渡辺さんが明かした当時の様子に対し、視聴者からはさまざまな反響が寄せられています。・渡辺さんすごいな…。よくここまで対応したよなぁ。・素敵な考え方だと思う。夫婦はどちらかがつらい時に寄り添える関係が理想。・同じ経験がある。自分も夫がうつ病になった時に「仕事は辞めていいよ」と声をかけた。・自分が夫だったら「私しか治せないと思った」なんていわれたら泣く。名倉さんはこんな妻がいて、心強かったよね。本当につらい時に、変わらない態度で接してくれる妻の存在は、名倉さんにとって大きな心の支えとなったことでしょう。夫婦として、家族として1つの大きな壁を乗り越えた2人の絆は、さらに強いものになったはずです。[文・構成/grape編集部]
2020年07月11日のしかかる「コロナうつ」や「社会不安」……。不安でこの先どうしたらいいかわからない、自分はダメな人間かも……と、思い悩んでいませんか?でも、答えは自分が意外とわかっているもの。誰かに相談しなくても、自分で自分をカウンセリングすることができるんです! 不安が解消され、心が穏やかになりますよ。■自分の本心を引き出す新型コロナウイルス拡大の影響で、心の不調に悩む人が増えている。コロナうつや社会不安がのしかかったためだ。「コロナが原因というより、コロナをきっかけに、もともとあった不安が大きくなって問題が表面化した人が多い印象です。例えば、今までパートナーに感じていた『この人でよかった?』という迷いが増幅し、それが夫婦間の危機やコロナ離婚に発展してしまっています」こう語るのは、心理療法士で音楽療法家の橋本翔太さん。不安が大きくなると人は誰かに相談したがるし、中にはスピリチュアルに頼る人も出てくる。橋本さんはこの点についても警鐘を鳴らした。「誰かに相談して答えを求めがちな人には、『私は大したことがない人間で、あなたの言うことを聞いたほうがうまくいくと信じています』という無意識の気持ちが潜んでいます。『あの人のアドバイスがあれば私は大丈夫』と思ったままでいると、いつしか『私はダメな人間だ』という気持ちが強化されてしまう。自己肯定感の欠如につながってしまうのです」不安が晴れないもうひとつの理由はエネルギーの向く方向。特に女性の場合、自分をさておいて別の誰かを意識し、尽くしながら生きていることが多い。「自分よりまず家族を優先」「姑の機嫌をうかがう」「ママ友の目が気になる」と、自分ではない誰かにエネルギーが向きがちだ。だから、悩みが袋小路に入ってしまう。「それだけでなく、今はコロナについて気になる情報が外部にたくさんあるので、エネルギーを“自分自身”に戻すことが大事です」そこで実践してほしいのが不安や悩みを自分で解決する「ぬいぐるみカウンセリング」。詳しい流れは次のページを参照していただきたいが、まずはぬいぐるみを1体用意する。設定は「あなたが親友であるぬいぐるみの相談に乗る」というもので、このぬいぐるみは、あなたと全く同じ不安や悩みを抱えている。ぬいぐるみを活用する理由は、自分を第三者として認識するため。顔があると擬人化しやすいし、また、見慣れたぬいぐるみだと親しみやすいため、親身にアドバイスしたくなってくるもの。椅子など、ぬいぐるみを座らせる場所を用意するのも重要だ。ぬいぐるみを抱いた状態だと、親友へのアドバイスというより子どもをあやすスイッチが入ってしまうのがその理由。■自分をいちばんよく知っているのは自分イメージとしてわかりやすいのは、「ファミレスで友達の相談に乗る」というシチュエーションである。ぬいぐるみの相談に乗るあなたは、同時に「自分はどうするべきか?」を真剣に考えているというわけ。「これを行うと、驚くほど自分の口からアドバイスが出てきます。実は、あなたの中に『自分はこうしたい』『本当はこう思っている』という答えがあるのに、それを言語化できていなかっただけなのです。普段の生活でそういう質問を投げかけられる機会ってほとんどないですからね」例えば、「職場の後輩を見ているとイライラして人間関係がうまくいかない」と悩んでいたとする。あなたは「後輩のどういうところにイライラするの?」とぬいぐるみに質問し、今度はぬいぐるみ側に座って「私が指導しても返事をしないんだよね」と答えを返す。このやりとりの中で「返事がないから後輩が嫌だったんだ」と初めて自分の本心に気づくのだ。このときに大事なのは声を出すということ。「ワークを実践した方々からは『自分の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった』という感想を多数いただきました。声に出すことで自分でも気づいていなかったことをポロッと口にし、そんな自分にハッとする。でも、声を出さず頭の中だけでやっていると想定内のことしか起きません」アドバイスに私情が入っていないというのもメリットのひとつ。親友から相談を受けるという設定なので、「子どもに悪い」「ママ友から変に思われる」といった気遣いのつけ入る隙がないのだ。例えば「夫との離婚を迷っている」と周りを巻き込むような悩みを抱えていた場合。でも、設定上は自分ではなくぬいぐるみの悩みなので、他者へ気を遣わずにアドバイスできる。それは自分だけにフォーカスしたあなたの本心だ。また人から受けるアドバイスより自分からのアドバイスのほうが腑に落ちるのもこのワークの特徴である。「ほとんどの人は自分の芯や価値観ができあがっています。だから、アドバイスされても『う~ん、そうは言っても……』と口答えしたくなりがち。でも自分からのアドバイスには口答えできません。『私って意外と自分のことをわかっていたのね』と自信回復にもつながります」カウンセリングの手順を見て気恥ずかしさを感じる人がいるかもしれない。でも、ペットの犬や猫に「今日の晩ごはんは何がいいと思う?」などと話しかけた経験はないだろうか?これをぬいぐるみに置き換えると、実はそのまま自己対話である。すでにみなさんもワークに近いことを経験しているのだ。「そういった日常の延長線上にあり、より深いものにしたのがぬいぐるみカウンセリングです」答えは自分がいちばんよく知っている。ぬいぐるみを使って、これからどうしたらいいか、自分の力で掘り下げてみよう!教えてくれたのは……橋本翔太さん臨床心理学専攻教育学修士/心理カウンセラー、音楽療法家。音楽教員を経て現在の活動を開始。日本にとどまらずシンガポールを中心に南アジア圏でも活動中。『聴くだけうつぬけ』(フォレスト出版)など、著書多数。YouTube「橋本翔太の心理学+音楽療法+栄養療法」も好評配信中。取材・文/寺西ジャジューカ
2020年06月11日※写真はイメージです2019年は、「ひきこもり」という社会問題に関する、大きな事件や出来事が続く年だった。20年以上にわたってひきこもり問題を取材し、1000人を超える当事者の取材に当たってきたジャーナリスト・池上正樹さんも、「昨年は、エポックメイキング(新時代を切り開くほど画期的)な年だった」と語る。その筆頭が、全国的なひきこもり実態調査の結果が、内閣府によって発表されたことだ。■ひきこもりは「115万人の2倍はいるだろう」と専門家長らくの間、ひきこもりは更生すべき青少年の問題だと語られ、“大人のひきこもり”──定義としては40歳以降──は、対策するための予算や根拠法がないため、その存在を消し去られてきた。しかし、’19年3月に発表された、内閣府による実態調査の結果、40歳から64歳を対象にした「広義のひきこもり」が、全国で推定61万3000人もいるとわかったのだ。平日の昼間、多くの人々が仕事や学業に精を出すさなか、暗い部屋でひとり塞ぎ込む。定職に就かず、親が甘やかし続けるため、本人は怠けて部屋を出ない──。これが、マスメディアを通して語られ、世間で醸成(じょうせい)されてきた、ひきこもりのイメージだろうか。しかし、調査データによると、当事者たちがひきこもりに陥ったきっかけのトップ5は下記の通りだった。1:退職した(36.2%)2:人間関係がうまくいかなかった(21.3%)3:病気(21.3%)4:職場に馴染めなかった(19.1%)5:就職活動がうまくいかなかった(6.4%)(※参考:内閣府『生活状況に関する調査 (平成30年度)』より)また、正社員として働いたことがある人は73.9%、契約社員、派遣社員又はパート・アルバイトとして働いたことがある人は39.1%にのぼる(複数回答可の本人質問)。“怠けて働かない”という世間の抱く偏見には、まったく根拠がない。内閣府のデータは、そう示していたのだ。15歳〜64歳までを合わせた全国の推計は、実に115万人にもなる。この数字について、池上氏はこう分析する。「深刻な状況にいる人ほど、自身をひきこもりだと自認していない、または、そう答えたくないケースが極めて多いです。この調査は本人と家族への質問なので、おそらく当事者であっても、申告しなかった人も多いはず。長年の取材による勘でいえば、実際はこの数字の倍は存在する可能性があると思います」’98年に『社会的ひきこもり』(PHP新書)を上梓し、ひきこもりという言葉が世に広まるきっかけを作った精神科医の斎藤環氏も、「『ひきこもり』という言葉がスティグマ(個人に不名誉や屈辱を引き起こすもの)なので、偏見を恐れて申告しない人は多い。少なくとも2倍はいるでしょう」と語る。そもそも、「ひきこもり」とは特定の人物を指す名詞や、病気や症状の総称ではなく、“状態”である。■ひきこもりは“怠けている”のか厚労省の『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』では、以下のように定義されている。《様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交友など)を回避し、原則的には6ヶ月以上にわたって概(おおむ)ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である》会社でのパワハラやセクハラ、過労やいじめによって傷つけられた人。あるいは、病気やPTSD(心的外傷後ストレス障がい)などのトラウマによって、身体の自由がきかなくなってしまった人。家庭環境のコミュニケーションがうまくいっておらず、身動きがとれない人まで……。なんらかの理由で自分を守るため、安心できる自宅に退避して、そこが居場所となっている。そんな“状態”の人たちを無理に連れ出そうとしても厳しいに決まっているし、何より、どんな人生を送っていようが、他人が口出しするべきでないのではなかろうか。「ひきこもる人のなかには例えば、ブラック企業でパワハラを受けたり、過労に追い込まれていたり、または、虐待による後遺症で大人になってからPTSDが発症し、自分でもコントロールができなかったりするケースもある。それを“怠けている”とくくるのには、相当のズレがありますよね。“働かないし、社会に迷惑をかけている。だから、外に引き出すべき。そうすることは、親の責任である”というのは、誤った幻想です。少なくとも115万人もの人が追い込まれている状況を、本当に自己責任として片付けられるのか。これだけ多くの人がなぜ、社会経験がありながらも、ひきこもらざるをえなかったのか。その点に着目して、社会の側の検証をするべきだと思います」(前出・池上氏)115万人いれば、115万通りの“状態”がある。だから当然、就労させるためのサポートセンターを用意して、無理やりに働かせようとすればすむ話ではないのだ。そして、いざ働こうと思っても、履歴書に空白期間があると、途端に話が進まない、という事例が相次いでいるという。「そもそもハローワークやサイトなどの求人には、行ってみたら詐欺まがいの仕事だった、というひどい例を筆頭に、ブラック求人、空求人も横行している。八方塞がりといえる状況になっているんです」(池上氏)■当事者と家族がどんどん孤立していく現状’19年5月28日、神奈川県川崎市で通り魔による殺傷事件が起こった翌日、川崎市は会見を開き、容疑者に関する情報を発表。長い期間、就労せず外出も少ない生活で「ひきこもり傾向」にあったことや、50代の容疑者が80代の叔父と叔母から小遣いをもらっていた、との報道をもとに、80代の親がひきこもる50代の子を支える『8050問題』が大きな注目を浴びた。また、テレビのワイドショーでは、ひきこもり当事者を犯罪者予備軍かのように語るタレントが続出。ネット上でも特に問題視されていたのが、事件直後の『ひるおび』(TBS系)におけるコメントだ。「こういうモンスターを作り上げる前に、もっと早く何とかできた」「どんどん甘やかしてたわけでしょう。それがこういう恐ろしい人をこしらえてしまった」(落語家・立川志らく)「ひきこもりの高齢者が61万人もいる。全部が悪魔になるとは思わないが、予備軍になるような人が、もしかしたらいるかもしれない」(日本女子体育大学・溝口紀子教授)また、発言力の強いダウンタウンの松本人志による、『ワイドナショー』(フジテレビ系)での、ひきこもり当事者をまるで“不良品”とみなすかのようにとれる発言もあった。こうしたコメントにより、世間からの迫害の目が強まり、ネット上では「死ぬならひとりで死ね」などといった誹謗(ひぼう)中傷が飛び交った。当事者とその家族の間では不安が広がり、事件発生後は、当事者団体『特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会(以下、家族会)』に、朝から晩まで、ひっきりなしに電話がかかってきたという。「不安から体調が悪化して、入院をした当事者もいたほどです。当事者や家族からも非常に多くの連絡が来て、内容は“うちの子も事件を起こすんじゃないか”という心配や、“犯人と同一視されて世間からの目が怖い”というような相談が多く寄せられました」(池上氏)この事件の余波が静まる前に、さらなる事件が発生。’19年6月1日、東京都練馬区で元農水事務次官(当時76歳)が、無職の長男(当時44歳)を刺殺した。一部報道によると、容疑者は事件直後、「川崎市の20人殺傷事件を知り、長男も人に危害を加えるかもしれないと思った」という趣旨の供述をしていたという。公判ではその件に関する言及はなかったが、当事者への不安、そして世間の恐怖を無駄に煽(あお)ったメディアの責任は極めて重いといえるだろう。その結果、日本全国で当事者と家族が地域で孤立し、誰にも助けを求められず、家族間の殺傷事件や孤独死などが数多く発生しつつあるのが現状だ。そして、この一連の流れは、「2000年代前半にひきこもりのバッシングが始まった時期の出来事と酷似している」と、前出の斎藤氏はいう。自身の新著『中高年ひきこもり』(幻冬舎)でも触れているが、’00年に起こった2つの事件が、世間を大きく騒がせた。1つめは、男性が9歳の少女を約10年間にわたって監禁し続けていたことが発覚した「新潟少女監禁事件」。2つめは、17歳の少年がバスを乗っ取り、3人の死傷者を出した「西鉄バスジャック事件」だ。斎藤氏によれば、これらの事件は「ひきこもりの厳格な定義には当てはまらない」というが、多くのメディアで「ひきこもりによる犯罪」だと報じられ、その存在が大きく注目されることに。それまでは1万部程度の売上げだった斎藤氏の著書『社会的ひきこもり』が、既刊としては異例の10万部を超えるベストセラーになったというから、当時の注目度を察することができる。メディアのバッシングも、「現在とは比較にならないほどひどかった」といい、リベラル寄りの大手新聞社さえ、社説で「ひきこもりは贅沢病である」という旨の記事を書いていたとか。当時と比べると、メディアのひきこもりに対する認識に変わった点はあるといえるが、まだ十分ではないのも事実だろう。■暴力的支援団体への疑念川崎市、練馬区の事件に比べると、そこまで話題にはならなかったが、「ひきこもり」という社会問題の文脈でみると、非常に大きな意味を持つ事件もあった。’19年11月、静岡県浜松市の新東名高速自動車道で、1人の男性が車から飛び降り、亡くなったのだ。警察は自殺と処理しているこの一件だが、静岡新聞には「亡くなった男性は、神奈川県の自立支援施設に向かう途中だった。同施設の職員2人が前の座席に同乗し、後部座席には男性が1人でいたという」と報じている。この事件、ひきこもり問題の当事者や関係者の間では、暴力的なひきこもりの自立支援団体が関与している、との見方が強い。ひきこもり当事者を強引に引き出し、自立支援を謳(うた)う“暴力的支援団体”に詳しいジャーナリストの加藤順子さんは、『Yahoo!ニュース 個人コーナー』で、下記のような記述をしている。《しかし、このニュースは瞬く間に、ひきこもりの当事者や関係者の間で話題になった。高速を走る車から飛び降りようと思ってしまうほど、男性が追い詰められていたであろう状況が容易に思い浮かび、長距離を新幹線ではなく、施設の車で連れて行くという点と併せて、事故が、「引き出し屋」による手法を彷彿(ほうふつ)とさせたからだろう》《昨年12月に、連れ去り被害に遭った東京都内の男性(30代)は、「自分も、車に乗せられている間に、飛び出せないかと思っていた。同じ施設の被害者の人も、LINEに同じことを書き込んでいた」と話す。他人事ではないと、被害者たちは事故のニュースに衝撃を受けている》また、斎藤氏も同様の見解を示している。「10年以上前から、家族が当事者に相談しないまま、共同生活型のひきこもり支援事業と契約してしまい、拉致監禁行為や暴力的な行為を受けてしまう事件が後を絶ちません。家族に対して“早くなんとかしないと、通り魔になるよ”などと言って不安を煽り、数百万円の手付金を払わせる。非常に悪質です。今回の事件もそういった“暴力的支援団体”が当事者を無理やり施設へ連れ出す過程で、逃げ出そうと飛び降りたのでは、と考える人は多いです」(斉藤氏)さらに、斎藤氏によれば、テレビなどのメディアがこうした団体を好意的に番組で取り上げたことで、その活動を助長してきたという。「テレビメディアはひきこもり当事者の生態を映したい。しかし、まともな支援者であれば、被支援者を絶対に売らないので取材を断る。そこで、メディアに露出をして信用度を高めたい暴力的支援団体が、カメラを同行させて、放送させる。結果的に死者が出たり、後で訴えられることもありますが、未だに似た例が後を絶ちません」実名を挙げての注意喚起やBPO(放送倫理・番組向上機構)への通報もしているが、’20年1月にも同様のケースが民放キー局で放送された事例があるという。なぜか。「結局は視聴者の反響が大きいんでしょうし、BPOは、こういった指摘を加味しない。『TOKYO MX』の番組で優勝賞品が届かなかった案件など、“やらせ”に関しては厳格な姿勢をとりますが、人権問題に関してはあまり相手にしてくれません。暴力的支援団体の活動を放送することは、拉致監禁行為や身体・行動制限を流しているといえるわけで、それを肯定的に世に出すのはおかしい、と指摘をするのですが、“虚偽はない”とのことなんですね。報道しているだけ、ということかもしれませんが、行為を助長しているのは明らかです」(斎藤さん)■ひきこもり当事者と予備軍に、一筋の光をただ、幸か不幸か、この一連の事件発生を機に事態が進展したこともあった。根本匠・厚生労働大臣が、家族会と面会し、意見交換を交わすこととなり、報道陣に向けて「引きこもり状態にある方が相談しやすい体制を整備するとともに、安心して過ごせる場所をつくる」とのメッセージを発した。また、昨年7月31日には、首相直轄のプロジェクトとして、内閣官房に『就職氷河期世代支援推進室』が設置された。プログラム関連予算は、’20年度の概算要求が1344億円という大規模な事業で、ここに「ひきこもり(8050等の複合問題)支援」も支援対象として組み込まれたのだ。ひきこもり当事者の“状態”を加味せず、ただ正規雇用を目指すという点には問題もあるが、問題が認識されたという事実は大きい。さらに、時系列は前後するが、’19年1月、これまではひきこもり支援の対象年齢を34歳までとしていた東京都が上限年齢を撤廃し、所管を青少年政策の部局から、福祉部局へ移している。以前は石原慎太郎都政の時代に発足した『青少年・治安対策本部』がひきこもりの支援にあたっていた。すなわち、治安を良くするために更生する対象であるとしてきたのだから、“犯罪者予備軍”として扱ってきたのは、メディアだけではなかったのだ。◆◆◆こうした「ひきこもり」の問題を語るとき、あなたはどんな立場から物事を考えるだろうか。読者の中には、現在つらい立場におかれ、「自分もいつ、ひきこもることになってもおかしくない」と感じる人もいるのではないか。’87年生まれの筆者もその一人で、大学時代の’08年、リーマン・ショック後の極めて採用数が少ない時期に就職活動を行い、内定がもらえず、2年間にわたって就職留年をした経験がある。周囲が内定を得ていくなか一社も通らず、自分には価値が無いような気がして、気力が無くなっていった時期があった。なんとか就職した後も、ややブラック気味な職場に疲れ、約2年半勤務したのちに退職。約1年間、実家でニートのような、それこそ、ひきこもりのような生活をしていた時期もあった。昔からとてもかわいがってくれていた大好きな祖母は、娘である母に「お小遣いをあげるのが孫のためになるかわからない」と相談していたようで、働いていない自分をよく思っていないのだろう、と心を痛めた苦い記憶もある。このように、ひきこもりに近い状態だった時期、朝が来ることに毎日おびえていた。就職活動をしても、空白期間があると、すんなりとは話が進まない。そして朝がくると、人々が学校や会社に行く。社会活動を営んでいる世間に比べ、自分には価値がない、と感じてしまう。また、家族と顔を合わせないためにも、朝日がのぼるたびに部屋に戻り、じっとしていたのだ。この感覚は、ひきこもりの当事者に話しても、共感してもらえることが多い。別の理由で、朝日におびえる人もいるだろう。ブラックな会社で働いているため、出社するのが怖い、また、病気に悩む人が、自分のできないことばかり気になって、絶望する場合だってあるだろう。夜明けの眩しさにおびえるのは、あなただけじゃない──。まずは、この記事によってひとりでも多くの人にそう感じてもらえるとともに、読者がひきこもりに関する社会の動向を把握し、当事者とその家族を正しく理解するための一助となったら本望である。(取材・文/森ユースケ、取材協力/『ひきこもり新聞』編集長・木村ナオヒロ)【PROFILE】池上正樹(いけがみ・まさき)◎通信社などの勤務を経て、現在フリーのジャーナリスト。『KHJ全国ひきこもり家族会連合会』広報担当理事。1997年から日本の「ひきこもり」界隈を取材を長く続ける。著書に『ルポ「8050問題」高齢親子〝ひきこもり死〟の現場から 』『ルポひきこもり未満』(集英社新書)『ひきこもる女性たち』『大人のひきこもり』など。TVやラジオにも数多く出演。斎藤環(さいとう・たまき)◎1961年、岩手県生まれ。精神科医。筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、ラカンの精神分析。『ひきこもり』診療の世界的な第一人者として、治療・支援ならびに啓蒙活動に従事。著書に『中高年ひきこもり』『社会的ひきこもり』『家族の痕跡』『母は娘の人生を支配する』『「社会的うつ病」の治し方』ほか多数。
2020年05月18日2019年8月から約2か月間、うつ病のリハビリのため休養に入っていた、お笑いトリオ『ネプチューン』の名倉潤さん。同年10月には復帰し、再びテレビ番組で活躍するようになった名倉さんですが、休養発表当時は多くのファンから心配の声が寄せられていました。名倉さん不在の間、『ネプチューン』を支えていたのは、原田泰造さんと堀内健さん。2020年5月11日放送のラジオ番組『伊集院光とらじおと』(TBSラジオ)に出演した堀内さんが、当時の思いを語りました。堀内健「責任感じちゃいました」番組MCを務める伊集院光さんから、名倉さんが休養に入った当時の話を振られ、「責任を感じた」と明かした堀内さん。続けて、その理由も語りました。いつも楽屋で俺と泰造ばっかしゃべってて、潤ちゃんいつも自分の鏡を見て自分の世界に入ってるような感じで新聞読んだりしてたから。慣れてきちゃって、会話が減ってきちゃったから「もっと会話すればよかったな」と思って、ちょっと責任感じましたね。伊集院光とらじおとーより引用普段から寡黙な名倉さんだったため、当時はまったくうつ状態にあることに気付かなかったという堀内さん。それは原田さんも同じだったようで、名倉さんから相談を受けた時は2人とも、とても驚いたといいます。2人に相談した時点では名倉さん自身もうつ状態であることを自覚しておらず、原田さんのすすめで病院へ行くことに。その後、名倉さんの休養を経て、再び3人で活動できるようになったことは誰もが知るところ。伊集院さんは名倉さん休養までの過程を聞き「本当によかったよね」と語っていました。うつは周囲のサポートが欠かせないうつ病は、誰がいつ発症してもおかしくないほど、身近な病気です。しかし当事者は、自分が発症していることに気付かないケースも多いといわれています。名倉さんは幸い、2人に相談したことで、早い段階で病院へ行くことができましたが、もしもあのまま我慢し続けていたとしたら、より深刻な状態になっていたかもしれません。また、見た目に分かりやすく症状があらわれるわけではないため、周囲がうつ病に気付きにくい場合も。堀内さんが「責任を感じる」と語るように、相手のうつ状態に気付くためには、日々のコミュニケーションも大切なのだと改めて思わされます。【ネットの声】・今回のラジオを聞いて、初めて知ったことも多かった。会話って大事なんだな。・「責任を感じる必要はない」とは無責任すぎていえないけど、休養までが早かったのは2人がいたからこそだと思う。・もしも自分の精神状態がおかしいと感じたら、すぐに相談しよう。名倉さんの精神状態に気付けなかったことで、責任を感じてしまう堀内さんの気持ちも分かります。しかし、名倉さんが原田さんや堀内さんにすぐに相談できたのも、そしてすぐに受診を進めることができたのも、3人の信頼関係があってこそ。うつ病の怖さや注意点だけでなく、改めて『ネプチューン』の3人の絆の強さに気付かされます。[文・構成/grape編集部]
2020年05月11日参加者と運営者の声から知る、自助会の役割と可能性――『発達障害者の当事者活動・自助グループの「いま」と「これから」』本書では、2000年初めごろに立ち上げられた3つの自助グループの取り組みと課題、そして展望が寄稿されています。当事者活動・自助グループの活動内容、参加者の声がまとめられているほか、支援者の立場、研究者の立場からも論考されています。また、座談会などの様子も掲載されており、参加者だからこそ分かる自助グループの課題感や、今求められていることなどが当事者目線で語られています。発達障害の当事者にとって、大切な居場所である当事者活動・自助グループを多角的に論じている本書は、運営に携わる支援者だけでなく、これから活動に主体的に関わっていきたいと考えている保護者、当事者活動・自助グループに参加してみたい当事者の方にも役立つ内容になっています。現場で起こる「これどうすればいいの?」を解決!『知的障害・自閉症のある人への行動障害支援に役立つアイデア集65例』近年、国によって研修のカリキュラムなどが整えられ、経験則や精神論にたよらず、体系化された知識をもとに支援者を育成できるようになりました。とはいえ、実際の支援現場では、研修で身につけた知識、技法だけでは乗り切れない不測の事態が起こることもあります。本書は、そんな不測の事態にどう対応すればいいのか、また、そもそもそういった事態が起こらないようにするためにはどうしたらいいのかについて筆者の経験をもとに、さまざまなアイデアが紹介されています。具体的には、主に「支援の心構えや下準備」「環境設定」「かかわり方」の3つのテーマで、イラストや実際の写真を用いて、計65個にもおよぶ実例が紹介されており、支援者の方にとって非常に参考になる内容になっています。子育てをするなかで生じるモヤモヤの解決法を紹介『ママでいるのがつらくなったら読むマンガ』この本では、年間150回、全国50か所でママ向けコーチング講座を開催している、ひろっしゅコーチこと著者の山崎さんが、子育てのなかで生じるモヤモヤした気持ちを解決する方法を紹介しています。本書では、「かかわり」に焦点があてられており、家族や他人、子ども、そして自分とのかかわり方について、大切にしたい意識や注意したいポイントなどが漫画で分かりやすく解説されています。子どもとのかかわりの部分では、「どれだけ自分が愛したかではなく、どれだけ子どもが満たされたかを意識することが重要」と語るなど、視点を変えてくれるような著者の言葉がたくさん詰まっています。子育てをするなかで「なんかうまくいってないな」と感じている方におすすめの一冊です。「これから」に備えて「いま」できること『知的障害/発達障害のある子の育て方』本書は、知的障害や発達障害のある子をもつ保護者向けに書かれたもので、障害への理解を深め、子どもと適切なかかわりができるようになることを目的としています。監修をつとめているのは、自身も発達障害の傾向がある筑波大学医学医療系の教授と准教授で、そのため当事者の観点と医学的な観点の両方から、知的障害や発達障害について解説されています。本書では、4人の発達障害のある子どもの生活例をもとに、知っておきたいポイントや、家庭での対処法のヒントなどが説明されています。基本的に1テーマにつき、見開き1ページの構成で、非常に読みやすくなっています。内容は、パニックを起こしたときの対応法や、子どもが友達と仲良くできない場合の対処法など、人とのかかわり部分はもちろん、就学先や就労先、活用できる制度なども紹介されており、障害のある子の今後の見通しを考えるうえで非常に参考になる一冊になっています。「親なきあと」を考える『障害のある子の住まいと暮らし』障害のある子のいる親や家族にとって、「親なきあと」は共通の課題です。本書では、数ある課題のなかでも「住まい」にスポットをあてています。それは、住まいが決まればお金の問題や日常の支援の対策なども見えてくるからです。近年、障害のある人の住まいの場は、制度の変化や地域の取り組みなどによって、さまざまな選択肢が広がっています。しかし、自分の子どもはどこに住めるのか、そのためにどんな準備が必要なのか、親の悩みは増えているのです。本書では実際に、全国16実例を施設の実名や写真付きで紹介しながら、近年の障害者の住まいの傾向や、制度の変化などについて分かりやすくまとめています。障害のあるお子さまをおもちの保護者の方が、「親なきあと」問題を考えるうえで非常に参考になる一冊です。小中学生の約13%がうつ傾向!?『子どものうつがわかる本』うつ病は、大人だけの心の病気だと思われがちですが、近年の研究では子どももうつ病になることが判明しています。北海道大学病院精神科の調査によって、小学生の約8%、中学生の約23%にうつ傾向があることが分かっています。本書は、こうしたあまり知られていない「子どものうつ」にスポットをあて、要因や対処法について解説しています。子どものうつは、成長過程にさまざまな問題を引き起こすため早めの対処が肝心ですが、同時に、子どものうつの兆候を見つけるのは気をつけていてもそう簡単ではないという事実があります。本書ではこの問題を解消すべく、うつ病の基礎知識と、子どものうつに気づくための具体的なサインについて解説すると同時に、家庭でできる対処法や、実際に子どもがなったときに頼れる医療機関や団体などについても紹介しています。子どもが安心して過ごせるための丁寧なかかわり方を、この本を通して考えたいですね。
2020年05月06日NHK『東洋医学ホントのチカラ』メインディレクターの山本高穂さんいま“ツボ押し”や“お灸”や“ヨガ”などの東洋医学に注目が集まっています。今年2月にNHK総合で放送された特番『東洋医学ホントのチカラ~冬のお悩み解決SP~』も、放送後に多くの反響があったといいます。なぜ東洋医学が話題となっているのか、また、東洋医学と新型コロナウイルス対策との関連性などについて、番組の制作にメインディレクターとして携わった山本高穂さんにお話をお聞きしました。■東洋医学が世界的にブームのワケ──NHKが東洋医学を大きく取り上げるのは珍しいように思うのですが、今年の2月に放送された『東洋医学ホントのチカラ』が初めてでしょうか?いえ、実は2018年9月に、同じシリーズの第一弾を放送しています。その放送後、NHKに寄せられた問い合わせ件数が1300件を超えるなど大きな反響があったので、第二弾も企画し、今年の2月に放送しました。おかげさまで、第二弾も好評でした。──そんなに反響があったのですね。個人的には、東洋医学は効くのか効かないのか、よくわからない面があるのですが、山本さんが興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?私自身も当初は「東洋医学って、ホントに効くの?」という疑問を持っていました。ただ、3年近く前に『クローズアップ現代+』という番組でうつ病の取材をしていたところ、脳科学を専門とする研究者が、東洋医学の鍼灸治療でうつ症状を改善する研究を行っていることを偶然知り、興味を持ったのがきっかけでした。さっそく調べてみると、ハーバード大学や米軍、また、イギリスなどヨーロッパの医療機関でも、鍼灸やヨガなどが治療で使われるなど、東洋医学が世界的にブームだと分かったんです。──なぜ、いま東洋医学は世界的に注目されているのでしょう?ひとつは「西洋医学では解決が難しい痛みや症状の改善が期待できる」ことがあると思います。例えば、更年期障害や慢性痛には特効薬はありませんし、症状や悩みの度合いも人それぞれです。東洋医学は、そうした一人ひとりに向けた改善法を施すことができる強みがあります。もうひとつは「西洋医学よりもセルフケアに取り入れやすい」というメリットです。“ツボ押し”や“ヨガ”などは疾患の予防や症状の緩和だけでなく、医療費の削減にもつながると期待されています。実際、欧米での東洋医学の導入には、こうした医療経済的な側面もあるとのことです。──西洋医学ではなかなか解決しない悩みの代表が、だるさ、手足の冷え、ほてり、イライラなどの“女性の不定愁訴”だと思いますが、東洋医学は効果的なのでしょうか?私は医学の専門家ではありませんので詳しくはお答えできませんが、中高年の女性における不定愁訴の主な原因は、女性ホルモンの減少に伴う「更年期障害」だと聞いています。西洋医学的には、ホルモンを補充するなどの治療法がありますが、東洋医学的には、漢方薬や鍼灸による症状の改善を狙います。東洋医学の治療の基本として、「身体のバランスを整えることが大切」とよく言われますが、鍼灸の刺激は、ホルモン分泌などをコントロールする自律神経を調節し、改善を図っていると考えられています。──「女性のツボ」として、『三陰交』や『関元』が知られていますが、それらのツボを押すときのコツのようなものはありますか?セルフケアの“ツボ押し”でもっとも大切なのは、「決して押しすぎないこと」だと多くの専門家から聞いています。ツボを押すとき、「強く押して痛みを感じるくらいでないと効果が出ない」と思いがちですが、“痛気持ちいい”程度の強さで効果が期待できるそうです。■“舌清掃”が重大な疾患の予防につながる可能性──東洋医学には、“ツボ押し”以外にどんなセルフケアがありますか?例えば、インドの伝統医学『アーユルヴェーダ』の健康法のひとつに、舌に付着する舌苔(ぜったい)を取り除く“舌清掃”があります。番組で紹介したセルフケアは、1日2回、起床後すぐ(朝食前)と夕食のあとに、歯磨きをしてから舌専用ブラシなどで舌の掃除を行うものです。インドでは、お腹の不調を整えるなど健康維持によいとされ、古くから行われています。また最近では、口臭を予防する方法として欧米を中心に広く推奨されています。ちなみに、今回の取材をきっかけに、私も毎日行うようにしています。──舌の掃除がお腹の不調に効くとは知りませんでした。科学的にわかっていることなのでしょうか?実は、番組取材がスタートした当初は、お腹の不調を改善する可能性を示した先行研究は見つかったものの、改善のメカニズムについては、詳しく解明されていませんでした。そこで、番組で科学的な効果を確かめることができないかと思い、アーユルヴェーダの専門家と口腔(こうくう)学の専門家に協力して頂き、プロジェクトを立ち上げました。まず、お腹の不調を訴える方々12名にご協力を頂き、専門家から舌清掃の指導を受けてもらいました。そして、4週間にわたって自宅で舌清掃を行ってもらい、口内フローラ(口の中の細菌の集まり)の変化を分析しました。その結果、ほとんどの方の口内フローラの環境が改善、つまり悪玉の細菌が減少しました。さらに、お腹の不調に関する自覚症状も同様に改善したことがわかったのです。専門家からは「舌清掃の健康効果を検証していく上で大きな意義をもつ」という評価をいただきました。──舌の細菌や口内の環境が、お腹の不調と密接に関係していたなんてビックリですね。口腔内の細菌と病気との関係は、いま世界で特にホットな医学研究テーマになっているんです。例えば、歯の表面だけでなく舌苔にもいる歯周病菌は、がんやアルツハイマー病を引き起こす原因のひとつであることがわかりつつあります。よって、今回取り上げた“舌清掃”は、お腹の不調だけでなく、こうした重大な疾患の予防につながる可能性もあると、専門家も注目しています。──東洋医学に関する番組を制作するなかで、いちばん驚いたことは何でしょうか?ディレクターとしてもっとも印象に残っているのは、米軍で行われている鍼灸治療の取材です。世界の科学の最先端をリードするアメリカのなかでも、特に先進的な研究姿勢で知られる米軍で東洋医学が行われているなんて、信じ難いものでした。しかし、米軍では鍼灸を科学的に検証し、効果が示された方法を積極的に実践していました。実際の治療現場も取材したのですが、確かに鍼灸は基地で働く人々にとって欠かせない治療法となっていたんです。背景にあったのは、米軍のみならずアメリカ全体で大きな問題となっている『オピオイド(鎮痛薬)』の乱用です。全米での死者数が年間数万人以上と深刻化していることから、中毒症状を引き起こしやすい鎮痛薬をなるべく使わない代替手段として、鍼灸やヨガなどに注目が集まっているのです。こうした薬物を使わない治療法やセルフケアを積極的に取り入れていく動きは、風邪でも薬を求めてしまう私たち日本人にも今後、重要になってくると思います。■自粛でたまったストレスは“ツボ押し”で解消を──最後に、現在の新型コロナウイルスに関することをお伺いします。ウイルスの流行によって、世間では「免疫力」が注目されていますが、東洋医学で免疫力を上げることはできますか?「免疫力」という魅力的な言葉に、私たちは飛びつきがちです。しかし、これはいわゆる医学用語ではない、と専門家から言われています。身体の免疫の仕組みはとても複雑で、何かの治療で免疫系のシステムが働きやすくなったとか、病気にかかりにくくなる、というような厳密な科学的根拠は限られていて、また、実際の臨床においてもその検証は難しいとされています。ただ、一般論としては、過度のストレスや睡眠不足、バランスの悪い食事などが免疫系の働きを低下させることが知られています。ですので、“ツボ押し”でリラックスしたり、ヨガなどで質のよい睡眠を得られたりすることは、免疫系の働きを維持することに繋がるのではないかと思います。また、最新の生理学研究では、ツボへの鍼灸刺激がストレス反応をコントロールする神経系を調節し、ホルモン分泌を経て免疫システムに影響することなどが、明らかになりつつあります。日本では、古くから足の『三里』というツボにお灸をすると健康にいいとされてきましたが、その効果やメカニズムは実証されつつあると聞いています。──新型コロナウイルスにかからないようにするために、人との接触や手洗い以外に、何か注意点がありましたら教えてください。私はあくまでも医療・科学ジャンルの番組制作を担当しているテレビディレクターなので、感染症対策については、専門家のお話に耳を傾けていただければと思います。 ただ、この状況が長期化するなかで、心身の健康を保つことが重要なことは言うまでもありません。特に、外出の自粛による運動不足や、閉じこもることでメンタルストレスを抱えてしまうことは、様々な病気を引き起こすリスクになります。番組で紹介した東洋医学のセルフケアは、こうした健康リスクを緩和する手段のひとつとして期待されているんです。運動不足や慣れない在宅ワークでこわばりがちな筋肉へのツボ刺激やヨガのほか、心理的ストレスに効果があるとされる『百会』などのツボを押すこともオススメです。舌清掃に関しても、口はウイルスの侵入経路のひとつなので、その環境を整えることは大切とのこと。ぜひ、東洋医学のセルフケアを取り入れて、外出自粛を乗り切っていただければと思います。《PROFILE》山本高穂(やまもと・たかお)◎NHKエデュケーショナル 科学健康部シニア・プロデューサー。1997年、ディタクターとしてNHK入局、NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー、制作局 科学・環境番組部チーフ・ディレクターなどを経て2019年より現職。主な担当番組:特集番組『東洋医学ホントのチカラ』、NHKスペシャル『病の起源・うつ病』、同『謎の海洋民族 モーケン』、『クローズアップ現代+』、『ダーウィンが来た!』、『サイエンスZERO』など多数。《INFORMATION》いま、東洋医学の驚きの効果が最新科学で解明されはじめ、世界で注目されています。この本は、冷え症、頭痛、こり、うつ、ストレス、便秘、頻尿、美容などに効果が期待できる東洋医学のセルフケア術をたっぷり収録した1冊です。自粛続きの運動不足によるこりやストレスの解消にぜひお役立てください。
2020年04月20日2020年4月現在、新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るっています。日本国内でも緊急事態宣言が発令され、学校の休校や、飲食店の休業、不要不急の外出自粛などが要請。在宅勤務に切り替えるなど一日中家にこもるようになったことで、中には心身に変調をきたしてしまう人もいるようです。SNS上でも「よく眠れない」「食欲がなくなった」といった声も多数見受けられました。『コロナうつ』を予防する11か条うつ病に関する学術研究を行っている『日本うつ病学会』は、同月7日に国際学会の提言の日本語訳版を公開。その内容が話題です。提言では、人間が心穏やかに過ごすために役立つ、重要な脳のメカニズムの1つが『体内時計』であるといいます。うつ病や双極性障害のようなこころの病気を患っている方は、体内時計が健康な方よりも乱れやすいことが研究によってわかっています。実際に、これまでの生活スタイルが変化せざるを得ない状況に陥ると、体内時計が正確な時を刻めなくなり、その体内時計の乱れがうつ状態(もしくは躁状態)の出現などの気分悪化につながりやすくなるのです。反対に、毎日を規則正しく過ごすように気をつけることは、ストレス下であっても体内時計を正確に働かせ、気分を安定させるためにとても役立ちます。日本うつ病学会ーより引用『体内時計』が正確に働くように努めると、ストレスをやわらげることができるとのこと。この記事では、提言でまとめられた『規則的な日常生活を送るための11のポイント』を紹介します!※写真はイメージ1.毎日の『日課』を設定する自宅待機や在宅勤務であっても、自分で毎日決まって行う『日課』を設定すると、体内時計が安定して働くようになります。2.毎日同じ時刻に起きる毎日、決まった時刻に起床することは、体内時計が安定して働くためにもっとも大切なポイントです。3.毎日一定時間を屋外で過ごす密閉・密集・密接の3密の状況を避け、できれば1人で屋外で過ごしましょう。体内時計の時刻合わせには、朝の光が欠かせないそうです。屋外に出るなら午前中の早い時間帯が望ましいといいます。4.外出ができないなら、窓辺で日光浴するもし、外に出られない状況だとしても、少なくとも2時間は窓際で過ごして太陽の光にあたり、心を落ち着ける時間を持ちましょう。5.毎日の仕事、勉強などの活動は時間を決める在宅での仕事や勉強、家事など毎日行う活動は、できるだけ同じ時刻に、時間を決めて行うようにしましょう。6.毎日運動する毎日、同じ時間に運動することをおすすめします。7.毎日同じ時間に食事をする同じ時間に食事をすること。食べたくない時でも、その時間が来たら少しでもいいので何か口にしましょう。8.人との交流を図る電話やオンラインのビデオ通話などを使って、人とコミュニケーションの機会を持つようにしましょう。LINEのような文章だけの会話であっても、リアルタイムにメッセージが行き交うものであればよいとのこと。毎日同じ時刻に誰かとコミュニケーションを取ることを日課にするとなおよいといいます。9.昼寝はしない昼寝は、夜の深い睡眠の妨げになるそうです。日中の昼寝(特に、午後遅くの昼寝)は避け、もしどうしても眠い時は最大でも30分以内に抑えましょう。10.夜間に明るい光を浴びないブルーライトは、睡眠に不可欠なホルモンを減らしてしまうといいます。夜間は、できるだけブルーライトなどの明るい光を浴びるのは避けましょう。ブルーライトは、コンピューターやスマートフォンのディスプレイにも含まれます。11.起床と就寝の時間を決める自分に合った起床と就寝の時間を決め、一貫してその睡眠リズムを保つようにしましょう。※写真はイメージネット上では、この提言に対し「すごく参考になる」「これは守らなきゃ」「毎日運動するって意外と難しい」などのコメントが寄せられました。「毎日運動して」といわれると、ハードルが高く感じる人もいるようですが、朝にラジオ体操をするなど、軽いストレッチから始めてみるのもいいですね!健康的な生活を送り、前向きに物事を捉えることが、この非常時を乗り越える何よりの秘訣かもしれません。できることから、試してみてはいかがでしょうか。[文・構成/grape編集部]
2020年04月16日都内の公園では、庶民の楽しみを奪う貼り紙が「90代の母親が認知症で介護施設に入所しているのですが、お見舞い禁止でもう1か月面会できていない。次に会ったとき、顔を忘れてしまっていないか心配で落ち着きません」(都内の60代男性)「定年後に再雇用された契約社員なので業績悪化で真っ先にクビを切られそうで不安です。妻がぜんそく持ちで感染すると重症化のおそれがあるため、ずっと酒も飲みに行っていません」(札幌市の大手百貨店で働く60代男性)■在宅勤務できない人の負担新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため、政府が大規模イベントの自粛を呼びかけてから間もなく1か月がたつ。外出の自粛、一斉休校と息苦しさは増すばかりで、多くの人が我慢の限界に立たされている。政府の感染症対策専門家会議は3月19日、これまでの取り組みの成果について「引き続き持ちこたえているが、一部の地域で感染拡大がみられる」と表明。感染ルートがわからない新規感染者が増えている地域があると指摘し、いつか、どこかで、「オーバーシュート(爆発的な患者急増)を起こしかねない」と言及した。その先に見えるのは医療体制の崩壊だ。オーバーシュートが起きたイタリアやスペイン、フランスなどは、数週間かけて都市を封鎖したり、強制的な外出禁止措置や生活必需品以外の店舗閉鎖など「ロックダウン」を強行した。一方で専門家会議は、感染が確認されていない地域では学校活動の再開などを認めた。しかし、国内全域で考えると安心・安全な生活はほど遠い。窮屈な生活が続けば、たとえ感染を防げたとしてもストレスは蓄積されていく。関西福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学、メンタルヘルス)は「接客業など在宅勤務できない人が心配」と語る。「特に問題なのはクレーマー対応。ドラッグストアの従業員は“またマスク売り切れかよ!どうしてくれるんだ”などと迫られています。うつ状態に陥りやすいし、尾を引きそうな側面もある。理不尽に怒鳴られたり、近くのものをバンッと蹴られたりした情景が、2~3週間たったところでパッとよみがえることがあるんです。フラッシュバックというPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状で、長引くリスクがあります」(勝田教授)コロナ関連の品切れや品薄にかぎっては、店舗や従業員に責任はないだろう。ピリピリムードは電車内のトラブルも生んだ。リモートワーク(在宅勤務)に切り替えられる職種は限られ、都市部では多くがいまも満員電車に乗っている。サラリーマンやOLたちの心も穏やかではないはず。■うつ病、不安神経症、不眠症心を蝕むのは、それにとどまらない。精神科医で国際医療福祉大学大学院の和田秀樹教授は、外出自粛による経営悪化などがうつを招くと指摘する。「お客さんが全然来なくなって来月の支払いができなくなり、うつになるのはコロナに限らずありえます。経営悪化や営業不振に悩んで自殺する人もいますから」(和田教授)旅館でも、飲食店でも、売り上げが大幅に減ると資金繰りは苦しくなる。あらゆる業種で売り上げ急減の悲鳴が上がっており、緊急融資ですべて解決するとは思えない。「終わりが見えないのがいちばんつらい。入ってくるはずのお金が入ってこないだけですごく不安になりますよね。中小・零細企業の個人事業主は給料も払わないといけないし、胃が痛くなるような状況にすでに追い込まれている。それでなくとも日本人は気が弱いとよく言われます。世界中で借金を返すために銀行強盗をする国って日本だけらしく、きまじめな国民性ゆえに心配です」(和田教授)現場の声を聞くため都内のカラオケパブを訪ねると、客はひとりもいなかった。80代の男性店主は、「ひどいもんですよ。売り上げが8割減って、どうしようもないんで女房の指輪を売ってお金にしたんですが、購入時と比べて価格がめちゃくちゃ落ちていてがっかりしました」こうした個人事業主はごまんといるだろう。追い込まれると、どのような病気になる可能性があるのか。前出の和田教授は、「うつ病も含め、不安神経症など気分の落ち込みにかかわる病気です。不眠を訴える人も出てきています。ほかに『不潔恐怖』という神経症があって、汚いと思うものに手を触れられなくなることがある。以前診察した患者さんはトイレ掃除ができないため便座が汚れきってしまい、腰を浮かせて用をたしていたそうです。いまマスクを奪い合う姿をみていると、ちょっとそうした病的なものを感じます。何に触るのも怖いという人もいます」と説明する。持病のある家族や高齢者と暮らす人は、外出先でウイルスをもらってこないよう気を配る。過敏な人も多い。感染すると重症化しやすいとされる高齢者の精神状態はどうか。老年精神医学が専門の前出・和田教授は「多くの高齢者は相当ビビりきっています」と明かす。「スマホやパソコンなどを駆使できない情報弱者なのでテレビの情報ぐらいしか入ってこず、あおられ続けて不安なんでしょう。家族から外出しないように言われているケースもあるし、“社会全体が殺伐として雰囲気が悪いから外出する気になれない”と話す患者さんもいます」しかし、自宅にこもりっぱなしの生活にはリスクがある。「外出しないせいで歩けなくなり、認知症が進む危険性もある。日に当たらないと『セロトニン』という神経伝達物質が減ることがあり、うつになりやすくなってしまう。高齢者は若い人と比べて神経伝達物質が少ないから、外に出ないことでうつになるリスクが高いんです」と和田教授。気分の落ち込みによって免疫機能が低下し、かえって感染症にかかりやすくなる側面もあるという。■実は傷ついている子供たち心配なのは大人だけではない。突然、休校になって自宅待機を強いられている小・中・高校生もあぶない。春のセンバツ出場をたたれた球児たちは「夏の甲子園を目指します」と言うしかなかった。新潟青陵大学大学院の碓井真史教授(臨床心理学)は、「何でもないように見えて、実は傷ついている子もいるんです」と訴える。「卒業式が中止・縮小されたり、新年度のクラス替えを控えて“最後の時間”を奪われた子がいます。先生やいまのクラスが大好きな子ほど喪失感は大きい。繊細な子、変化についていくのに少し時間がかかる子にも目を配って、周囲の大人が話を聞いてあげてほしい」スクールカウンセラーでもある碓井教授は、“がんばりやさん”の子どもが置かれがちな状況にも目を向ける。「能力もやる気もあるから周囲の大人から頼られやすいんです。しっかり者のお姉ちゃんが留守宅で毎日、小さな弟や妹の面倒を見ていたりする。“小さなお母さん”として頑張るわけですが、そろそろ“いつもありがとうね”と特別に褒めて、アイスの1本でも買ってあげてはどうでしょうか」子どももメンタルを病むことはあるが、親からすればいきなり精神科を受診するのはハードルが高い。広島市の小児科医院『女医によるファミリークリニック』の竹中美恵子院長は、そんな親のために日本小児科医会が養成する「子どもの心」相談医としても活動する。「ストレスがひどく、壁を物で叩いて穴をあけてしまうお子さんがいます。外で遊ばないから体力があり余って、夜、眠れない子もいます。逆にやる気が出なくて、ずっと寝ている子もいるようです。寝てばかりというのも不健康ですよね。あるいは、うんざりするほど宿題が出ていてストレスの要因になっているケースもありました」同じ勉強時間であっても、学校で先生に教えてもらうのと、自分で宿題をやるのとでは「必要とする集中力が異なる」(竹中院長)という。外で遊べば大人から白い目で見られ、ささやかな楽しみだった週末の外食もなくなった。部活動の大会中止などで目標を失った子もいる。しかし、仕事に加えて子どもの面倒に頭を悩ませる親は少なくない。イライラすることもあるだろう。竹中院長は、「子どもが自宅にいるので急にお弁当づくりが増えた母親はストレスを感じています。なかなか仕事へ行けなくなったシングルマザーは収入が減り、“食べ物の味がしないのでよく食べられない”と精神的に参っている。体重がどんどん落ちて肉体的にも危ない状態です」と実態を明かす。追い込まれた親はどうすればいいのか。前出の勝田教授は「孤独はメンタルヘルスの大きなリスク。周囲から支援のない孤独はさまざまな疾患のリスク要因になる」と指摘。前出の碓井教授は、「親がどっしりと構えられれば望ましいが、できなくても自分を責めないでください。まずは親が自分の心を守ること。近所の人や友人がグチを聞いてあげるなどフォローしてあげてほしい」とアドバイスする。ウイルスと同様、厄介な“敵”が自分や家族の中に潜んでいるかもしれない─。
2020年03月23日コロムビア・ローズ「あのとき、なぜこうだったのか?」を当時、注目を集めた有名人に語ってもらうインタビュー連載。当事者だから見えた景色、聞こえてきた声、そして当時言えなかった本音とは……。第5回は『東京のバスガール』で人気を博した初代コロムビア・ローズ。わずか10年の活動後に電撃引退を表明した。その背景には何があったのか。そして、最近あった“変化”についても語ってもらった──。「娘が友人と食事をしてると、近くの席から“コロムビア・ローズってまだ生きてるの?”って聞こえてきたそうなのよ。だから娘は“まだ生きてると思いますよ”って隣から口を挟んだそうでね」そんな冗談を交え、明るく話すのは初代コロムビア・ローズ。今年1月で87歳になった。■社名を背負ってデビューした「覆面歌手」『東京のバスガール』や『どうせひろった恋だもの』といったヒット曲を持ち、第7回紅白歌合戦から5回連続で出場した経歴の持ち主だ。当時、何より印象的だったのは“覆面姿”でのデビュー。「無我夢中で、覆面が嫌とか考える余裕もなかった。ただ、覆面をつけて仕事をしている間は帰郷できず、知人にも会うことができなかった。誰かに偶然会えないかと、上野駅まで行ったこともありました」群馬県桐生市出身のローズは、’51年に『コロムビア全国歌謡コンクール大会』の決勝に進出。優勝し、デビューを決める。のちに五木ひろしや都はるみなどがデビューするきっかけとなる大会だ。「決勝の当日は別の仕事が入っていたのですが、NHK前橋支局の当時の局長さんが“行ってきなさい”と背中を押してくれました。あれがなかったら、今はなかった」デビューのため母親と上京。最初はレッスンや愛知県の中部日本放送(CBCテレビ)でのラジオの公開録音の仕事でスタート。本格デビュー前のため、覆面をつけて素性を隠し、当初は『ミスCBC』として出演した。テレビ放送が、まだスタートしていない時代の苦労話を披露する。「濃いレンズのサングラスや覆面をつけて出演していました。当時は録音したテープを切ってつなげる技術がなく“一発録り”をしないといけなかった。咳払いも、余計な声を出すのもダメ。でも、公開録音の司会がお笑いの方で、面白くって、私、つい笑ってしまって。プロデューサーが頭を抱えてね。来ているお客さんに謝って、最初から録り直しをしていました」’52年4月、『娘十九はまだ純情よ』という曲でコロムビア・ローズとして、『日本コロムビア』の社名を背負い正式にデビュー。しかし、デビュー後も覆面はつけたまま。雑誌『平凡』に《コロムビア・ローズはいつ仮面を脱ぐのでしょう?》という懸賞企画も掲載。“謎の歌い手”として人気を博したローズが覆面を脱いだのは’52年10月の東京・日比谷公会堂でだった。■ローズが覆面を脱いだきっかけの曲とは「そのときに歌ったのが『薔薇の素顔』という曲でした」覆面歌手から素顔の“ローズ”へと変わり、さらに人気を集めた。紅白初出場は、それから4年後の’56年のこと。ただ、ローズの代表曲『東京のバスガール』は歌えなかったそうで……、その理由は。「バス会社の宣伝になっちゃうというのよ。それでダメだったんです。当時のNHKはとても厳格だったの」’57年の紅白出場時にはこんなトラブルもあった。「『日劇』から紅白が行われる『東京宝塚劇場』に向かったんだけれど、紅白用の衣装を車のトランクから出すのを忘れたまま、運転手さんがお茶を飲みにどっか行ってしまったの。私は『バスガール』の衣装のままで……」刻一刻と出番が迫るなか、運転手が戻ってきた。すぐさま着替えて『どうせひろった恋だもの』を歌ったところ、「焦っていたこともあって、いつもとは違う強い表現での歌い方で、逆に審査員からの評価が高かったみたい(笑)」映画やドラマの主題歌だけでなく、銀幕デビューに舞台までこなしていた。休みなく働き、1か月で4曲レコーディングすることも。レコーディングの現場ではこんなこともあったという。「私とデュエットをしていた方が何度も失敗をするんです。バンドのひとりにバイオリニストだった黒柳徹子さんのお父さんがいたのですが、その様子を見て“それでもプロか!”と怒鳴ったんです。すると、すんなり決まったことも。当時の現場にはすごく緊張感がありました」当時、仲がよかったのは、「同じコロムビアの歌手で神楽坂はん子ちゃんとは、一緒に岡山へ旅行に行ったこともありました。彼女は花柳界の出なので気配りが行き届いていて、泊まる旅館にご祝儀を出したり、すごいなぁって」ほかに、こんな思い出も。「浅丘ルリ子ちゃんが小さいときに一緒の列車で地方局開局の仕事に行ってね。行き先の宿でも同じ部屋だったの。かわいい、しっかりしたお嬢ちゃんでした」活動10年目となる’61年に突然の引退。何があったのか?「私の心が弱かったんですよ。でも、強い母親がいたから、10年も駆け続けられた」当時は“体調を崩した”、“一身上の都合”などと発表したが、実際は違っていた。「大阪でコンサートをやれば、移動だけで1日かかってまた仕事。ほかにも映画に舞台に、とにかく忙しかった。そのためか、今でいう“うつ病”のような状態になっていたんだと思います」■免許返納に悩むローズマネージャーとして支えてくれた母親に、自宅で“辞めたい”と告げた。「第一線で走り回って、もうたくさんだって思っていた。ただ、母からは “絶対という言葉は使っちゃダメ”と言われたんです。私には歌しかないし、歌をやめたら何もなくなってしまうと心配したんでしょうね。でも、引退後にも仕事のオファーをいただきましたが、全部お断りしました」地元・桐生での穏やかな生活の末に結婚。2女に恵まれ、現在は娘たちと一緒に暮らす。そんなローズの生活にある変化があった。今年、ローズが送った年賀状には……。《やっとゴールド免許証取得です。これで返納つらいですが仕方ないですね》’79年には芸能界に復帰し、現在は月に1回、千葉と埼玉で歌謡教室を開く。これまで車で通っていたのだが……。「最近の高齢者ドライバーによる、相次ぐ事故のニュースを見て、家族や歌仲間が心配するのよ。免許を返納したほうがいいって……」今回の免許更新で、念願のゴールド免許となり、運転を“納める”ことを決めた。「最後の運転は、今年1月にローズ会の新年会で千葉へ行った旅行です。運転ができなくなってどうかって?気楽なものですよ。決めたことですから、もう何も思いません」大好きだったという車の運転ができなくなることにも踏ん切りがついているようで、あっさりしたもの。じゃあ免許はもう返納したの?「知人は返納しないで身分証の代わりに持っているって言うのを聞いたの。それで持っていれば3年後の高齢者講習のときに、また車に乗れるじゃない。それが楽しみ。だから返納をやめようと思ったら娘が“お母さん、年賀状に返納するって書いたのにルール違反よ”って厳しくて(笑)。実は、まだ迷っているのよ」ハンドルを握ることはなくなったが、これからもマイクを持ち、歌い続けてほしい。
2020年03月13日「主人の母を介護していた10年前から血圧とコレステロール値が高くて薬を飲んでいました。でも5年前に、町の保健センターの人に勧められて歩くようになってからは、薬に頼らなくても血圧が安定し、コレステロール値も改善。子どもたちからも『年のわりに若いよ』と言われるんです」こう語るのは、中之条町で暮らす主婦の遠田敏子さん(70)。群馬県の北西部に位置する人口約1万5,000人の中之条町。この小さな町で行われている研究から生まれた歩き方が生活習慣病を予防し、健康寿命まで延ばすとして世界から注目を集め“中之条の奇跡”とまで呼ばれている。そんな話を聞いた本誌記者はさっそく中之条町を訪ねてみた。長野県と新潟県に接する県境の町に入ると、腕を大きく振ってウオーキングしている男性や坂道をスタスタと姿勢よく歩いていく女性グループなど、とにかく歩いている高齢者をよく見かけるように。研究を主導している東京都健康長寿医療センター研究所・社会参加と地域保健研究チーム専門副部長の青柳幸利先生が解説する。「’00年から20年にわたって5,000人を超す人を対象に調査を行ってきました。その結果、1日8,000歩、うち20分間だけ早歩きをすると、さまざまな病気を予防できることがわかったのです」次の有病率を見てほしい。毎日の歩数が2,000歩未満の人に比べて、8,000歩・20分の早歩きをする人は死因の上位を占める、がんの有病率が4分の1、心疾患が12分の1、脳卒中が15分の1に。生活習慣病の糖尿病や高血圧、動脈硬化の予防もできたという。【うつ病】2,000歩未満:6%→平均8,000歩・20分:1%【認知症】2,000歩未満:7%→平均8,000歩・20分:0%【心疾患】2,000歩未満:12%→平均8,000歩・20分:1%【脳卒中】2,000歩未満:15%→平均8,000歩・20分:1%【がん】2,000歩未満:8%→平均8,000歩・20分:2%【骨粗しょう症】2,000歩未満:18%→平均8,000歩・20分:3%【高血圧症】2,000歩未満:48%→平均8,000歩・20分:12%【糖尿病】2,000歩未満:16%→平均8,000歩・20分:4%※「平均8,000歩・20分」は、歩数が7,000〜9,000歩かつ早歩き(中強度運動)が15〜25分未満の人を指す。「1日8,000歩・20分の早歩きをすることで代謝は活発になり、心肺機能はアップ。体温が上がって免疫も高まります。ほかにも、足の筋肉が刺激されることで血流が改善して血圧が下がったり、血糖値を下げる効果もあるんです。いまだに1日1万歩のウオーキングが体のためになると、思い込んでいる人は少なくありません。しかし、私たちの研究では1日1万歩だと、かえって体が疲弊してしまい、免疫力が下がって病気にかかりやすくなる可能性があることもわかりました」(青柳先生)「女性自身」2020年3月17日号 掲載
2020年03月05日いまや日本人の国民病ともいえる「肩こり」。とりわけ女性の悩みは深く、厚生労働省の調査によれば、「腰痛」や「手足の関節が痛む」などを抑え、女性の体の悩みの第1位(平成28年「国民生活基礎調査の概況」より)となっている。ちょうどいまの時期は、冬の寒さでこわばり「肩こりが悪化した」と感じる人も多いだろう。また「肩こりのせいで頭痛やめまいが……」という話を聞いたことがある人も少なくないのでは?でも、ちょっと待って!そのつらい“肩こり”は、じつは“首こり”の可能性が高いのです!「悪化することで頭痛やめまいを引き起こすというのは、肩こりではありません。それは“首”がこっているのです」そう語るのは、40年以上首の研究と治療にあたってきた、松井病院、東京脳神経センター理事長の松井孝嘉先生。40年以上にわたり“首”の筋肉に着目し続けてきた松井先生によれば、こうした“首こり”の患者は年々増えているという。「“首こり”の主な原因は2つ。ひとつは『長時間うつむいていること』で、もうひとつは『むち打ちの既往があること』です。なかでも近年増加しているのは前者です。パソコンやスマホの普及によって、この10年ほどで“首こり”の患者さんは増えたと感じています。とくに女性は、もともと男性より首の筋肉量が少なく、首がこりやすい傾向があります。家事や育児は下を向いて行うものが多いので、子育て経験者の多くは、首がこっていると考えられます」こうしたうつむき姿勢を続けていることで、まず発症するのが「首こり病(頸筋症)」。「これは、首の筋肉に疲労が蓄積し、筋肉痛やハリを起こしている状態のこと。顔や頭を動かすと痛みが生じたり、うまく動かせなかったりしますが、この時点ではあくまで『筋肉の疾患』。そのため、治療も鍼灸や温灸などが中心となります」しかし、この「首こり病」を放置してしまうと、悪化して「頸性神経筋症候群」に。“首こり”の本当の恐ろしさはここからだ。「首の筋肉に異常をきたし伸縮性を失うと、頸椎を通る自律神経が圧迫され、自律神経が不調を起こします。このように、首こりがもとで神経に異常をきたすのが『頸性神経筋症候群』です」自律神経は呼吸や消化のほか、脈拍や血圧、体温調整など「生命維持」のために必要な機能を調整する働きをもち、その働きが悪くなれば全身に悪影響を及ぼす。「そのため、頸性神経筋症候群になると全身に症状が現れます」現段階で判明している、頸性神経筋症候群が引き起こす症状は次の通り。■頭痛「頭痛の大半を占める『緊張性頭痛』は、長時間うつむいていることで頭半棘筋が緊張し、それにより大後頭神経が圧迫されて起こります。ただし、頭痛には脳梗塞や脳出血によるものもあるので、自分で原因を判断しないよう気をつけましょう」(松井先生・以下同)■めまい「平衡機能は、内耳や視覚のほか、首の筋肉(筋センター)からの情報が脳幹や小脳に伝わることで保たれています。そのため、首がこると平衡がうまくとれず、めまいを起こすのです。耳鼻科で治らなかっためまいはこの『頸性めまい』である可能性が大」■うつ症状「うつには精神疾患としての『うつ病』のほかに、首の異常によって自律神経が不調をきたし引き起こされる『頸性うつ』があります。うつ病は精神科の領域になりますが、頸性うつは抗うつ剤をいくら飲んでも治りませんので、まずは『首こり』を疑ってみて」■更年期障害「更年期障害が原因とされる『のぼせ』や『イライラ』には、ホルモン補充療法が行われることが多いですが、そうした処置で症状が改善するのは4割程度ともいわれています。症状の改善が見られない残り6割の大半は『首こり』が原因だと考えられます」ほかにもこんなにたくさんの症状が!■自律神経失調症■パニック障害■むち打ち症■慢性疲労■血圧不安定■機能性食道嚥下障害■機能性胃腸症■過敏性腸症候群■便秘症■多汗症■不眠症■ドライマウス■ドライアイ■起立性調節障害「ストレスのせいだと思って心療内科に行ったり、女性ホルモンの低下を疑って婦人科に行ったりしても症状が改善しなかった人が、“首こり”を治療したことで快方に向かった例は後を絶ちません。やむくもにいろいろな病院で診療してもらう前に、まずは“首こり”の予防を心がけてみましょう」まさに、首こりは万病のもと!「女性自身」2020年3月10日号 掲載
2020年03月04日現在、全国に100万人いると推測されるひきこもり。近年、中高年層が増加しており、内閣府は昨年初めて、40歳以上が対象の調査結果を公表した。一般的には負のイメージがあるひきこもり。その素顔が知りたくて、当事者とゆっくり話してみたら……。※写真はイメージワケあり女子さん(32)のケース32歳にしてバツイチ、不登校、うつ、ひきこもりなど、世間でマイナスだと思われることをこれでもかというくらい経験してきたワケあり女子さん。波乱に満ちた過去を振り返って、彼女自身、「よく頑張った。よく生き残ってきたと自分に言ってあげたい」と、しみじみ話す。彼女と出会ったのは、『不登校新聞』の編集会議だった。私は見学させてもらったのだが、彼女の「学校や教師への不信感」「もっと自分を解放していい」という内容を語るときの凜(りん)とした口調が印象に残った。この人は相当な苦悩を抱えてきたに違いないと感じたのだ。ワケあり女子さんは現在、教育関連の仕事に就いたばかり。これからきっと彼女の経験が生きるに違いない。「ようやく人生が落ち着いた気がする」そう言って笑う彼女の目が輝く。誰から見ても「美人」。だが、今まではそれも生きづらさにつながっていた。■存在を消そうと決めた小学生時代福井県福井市で生まれた彼女は、小学校のときから勉強が好きだった。父は勉強ができることを喜び、自由にさせてくれたが、親戚や祖母からは「女の子は勉強なんてしなくてもいい」と言われたこともある。地方にはありがちなことかもしれない。彼女が子どものころ、父は起業に成功したが、あまり家に帰ってこなくなった。母はひとりで仕事と育児のストレスを抱え、イライラは娘への八つ当たりになった。一方で娘を自分の生きがいにしようともしていた。利発でかわいくて勉強ができる彼女は、学校では自他ともに認める人気者で、「キラキラしていた」そうだ。両親はその後、仲直りの妥協点を探ったのか、田舎に家を買う案が持ち上がった。ワケあり女子さんは「引っ越したい」と真っ先に言った。「私が引っ越したいと言えば、両親の仲がよくなるんじゃないかと。子ども心に空気を読んだんですよね」8歳のけなげな決断だった。一家3人は、福井の最北端の町に引っ越した。転校初日、教室に入って挨拶した瞬間、「よそ者が来たぞ」という空気を感じた。「私、本名がキラキラ系なので、下手なことを言うといじめられると感じ、存在を消そうと決めたんです。おとなしくて頭のいい優等生で通したからいじめられなかったけど、友達はできなかった」小学校時代の写真は、すべてつらそうな表情で写っているという。地元の中学に進んだが、学校のあり方も授業内容も画一的でつまらなかった。高校レベルの「くもん式」を続けながら、「もっといい教育を受けたい」と願っていた。受験対策のプリントも物足りないから、さっさと終わらせて教科書を読んでいた。それが教師の気に障ったようだ。「私は私でやる気をなくして、プリントもやらず、時間が来るとプリントをゴミ箱に捨てて出ていくという暴挙に出ました。教師からしたらイヤな子ですよね(笑)。みんなの前で説教されたんですが、“そういう態度だと藤島高校に行けないよ”と、県でいちばんの進学校の名前を出したんです。私がその学校に行きたいと決めてかかっていることに腹が立って、3日くらい怒りがおさまりませんでした」自分の意志を確認もせず、頭のいい子=県随一の進学校と決めつけられることが耐えられなかった。その気持ちは非常によくわかる。■都合のいい国民になりたくない結局、藤島高校に入学したのだが、すぐに息が詰まるような気がしたという。もとは藩校だったその高校は文武両道を謳(うた)っており、部活は必須。しかも大学受験を視野に、授業は毎日6限までびっしりで、その後、部活がある。家の遠い彼女は帰宅時間が9時か10時。それから予習をし、十分な睡眠をとれないまま登校する日々だった。「心身ともにつらかったですね。本来の自分がどういうキャラだったか見失ってもいました。家では両親が険悪だし、気持ちはどんどん落ちていく。とうとう高校1年生の夏休み前に学校に行けなくなり、そのまま休み明けも行けなかったんです」うろたえたのは両親だった。朝になると部屋に入ってきて、布団を剥(は)がそうとする。近所や親戚の目を考えると、「自慢の娘が学校へ行けなくなった」などということは、あってはならないことなのだ。「夏休み明けは自室から出られませんでした。ずっと布団の中で寝ているか泣いているか。アトピーがひどくなって痛いのにひたすら掻(か)きまくって、患部がじゅくじゅくして。その後は抜毛症、ひたすら髪の毛を抜いていました。そのころの記憶がいまひとつはっきりはしないんですが」あとから分析すると、子どものころから優秀だった彼女は、勉強が好きだから勉強し、自分の能力を磨いて社会に還元したいと信じていた。そこまではまぎれもない事実。だが、ある日、ふと気づいてしまったのだ。「私は国家にとって都合のいい国民を量産するシステムに踊らされているだけではないのか」目の前の壁がガラガラ崩れていくのが見えた。大きすぎる衝撃に絶望感だけが残った。下宿したり親戚の家に住んだりしたが、結局、学校へは行けず留年、そして中退。18歳のとき実家に戻って、またひきこもった。「絶望も3年間やると、底つき感があるんですよね。絶望に疲れ切ったというか。18歳も終わりごろになって、同級生は大学進学や就職をしているのに、私は中卒のままでいいのか、とも思って」本を読みあさったり、少し外に出てみたりもした。だが、大学へ行こうとすると、また「国家にとって都合のいい国民になる」という葛藤もあった。それでも、進学以外に自分を立て直す方法が見つからなかったと振り返る。「だから考え方を変えたんです。おもしろい人に会いたいから大学へ行く、と」家にいると周りの人たちの目が気になる。そこで彼女は環境を変え、ひとりで東京へ向かった。高卒認定をとってそのまま大学受験に突っ走るつもりだった。■自立しなければいけないと悟った日「19歳で東京に出てきて、ひとり暮らしを始めました。とにかく匿名性がうれしかった。真っ昼間、外出しても近所の人だって誰も気にしない。こんな世界があるのかと開眼しました」高卒認定はその年のうちにとり、予備校にも通い始めた。そこで2歳年上の予備校生と恋に落ち、彼の実家で一緒に暮らすことになる。「彼の親は、私の事情を知って心配してくれたようです。ご両親にはよくしてもらいました」だが彼女はカルチャーショックを受ける。彼の両親はともに大卒で教養があった。本棚にはたくさんの本が並び、一家でクラシックやジャズを聴く。自分の実家とは文化度が違う。しかも、彼女は「嫁のような」立場。彼の実家の暮らし方に合わせるしかない。「ここで彼の子どもを産めば立場は強くなる。その決定権を握るのは私だと考えたとき、ハッとしたんです。自分の立場のために子どもを産もうなんて、どうかしてると思いました」彼女にとって、この経験は「まずは自立するべきだ」という確認になった。やる気が低下していた彼の尻を叩いて勉強させ、翌年、彼を無事、合格させた。そして彼女は彼との関係を保ったまま実家へと戻る。なぜ彼を先に合格させるべく叱咤激励(しったげきれい)を続けたのかについては、「今となっては謎(笑)」だそう。女性には誰も「女とはこうあるべき」と刷り込まれた価値観がある。その価値観が彼女にそうさせたのではないかと思ったが、彼女はすでにそれには気づいていた。その価値観を認識したうえで、「自分らしい生き方」を模索し続けてきたのだという。実家に戻ってようやく受験に本腰を入れた。自分のためだけに勉強しようと本気で思えたのだ。そして翌年、慶應大学に合格。若い新入生にキラキラしたものを感じたが、演劇のサークルに入り、自分を表現する術を身につけていった。前の彼とは別れ、大学の先輩と恋愛もした。■上司のパワハラでフラッシュバック就職活動を始めたとき、彼女は26歳。面接ではひきこもっていたことも堂々と話し、とある大企業に採用された。「同期が1000人もいるような会社でした。おもしろい人がいっぱいいて楽しかった。4月に入社して6月まで研修で、それから本格的に仕事を始めて。9時、10時まで残業ということもあったけど、頑張れると思っていた」ところが9月に母がくも膜下出血で倒れ、生死の淵をさまよう。行ったり来たりの生活を続け、とうとう体調を崩したが休暇は認められなかった。「産業医に診断書を出してもらったんですが、上司は、“妊娠じゃないよね”“将来に響くよ”と。“明日、出社しなかったら家まで迎えに行くよ”と言われました。そのとき、不登校のころに先生が来てパニックになったことを思い出して……行けないのに行けと言われてつらくてたまらなかったあの時代を」なんとか帰宅し、「自分でも聞いたことのないような声で」泣いたという。尊厳を損なわれたとはっきり感じた。今まで頑張っていろいろなことを乗り越えて人生を立て直したのに、その努力を踏みにじられた気持ちだったのではないだろうか。不登校の経験をもつ者を入社させるなら、それについて上司は少しでも勉強するなり医師の判断を仰ぐなりしなければ、彼らは人生で何度も傷つけられることになる。■夫から言われた言葉がずっと頭に残って…うつ病と診断された彼女は、休職して9か月ひきこもる。その期間に、付き合っていた先輩と結婚、猫を飼った。やっぱり不登校者やひきこもりはダメだと言われたくない一心で、彼女は必死に自分を立て直そうとしたのだ。「ごく普通に接してくれた夫も、うつ病に深い理解があるわけではなかった。“現実に職場にうつ病の人がいたら迷惑だからね”と言ったことがあって、その言葉がずっと頭に残ってしまったんです」その後、復職して頑張ったが、月に1度くらいはどうしても出社できない日がある。PTSDの症状だったが、当時は、そのことを知らずに苦しんだ。2年後、新任の上司からも「周りはあなたをよく思っていない」と言われた。サボっているわけではないのに周囲から悪く思われていることに大きなショックを受けた。さらに先輩が異動して、仕事の負担が倍になり、ついに緊張の糸が切れた。■ようやく自分を再構築しつつある離婚、そして転職。シェアハウスに引っ越し、さらにもう1度転職し、今、ようやく彼女は公私ともに落ち着いた生活をするようになった。「いろんなことがあったので、自分の年表を作ったんです。それを見ながら当時の気持ちを分析、ようやく自分を再構築しつつある気がしますね。母は私を娘というより、同じ女と見て張り合うことがあった。16歳でひきこもったとき、“悲劇のヒロインぶって”と言われたんです。母との関係、教師との関係、上司からのパワハラも含めて、いろいろあったけど、誰も憎んではいません。憎悪は悪意ですから、私は悪意をもった人間になりたくない」ワケあり女子さんは頑張りすぎる自分をようやく自分で認められるようになったと微笑(ほほえ)んだ。「世間から見て」キラキラしてなくてもいい。もっと柔軟に生きればいいのだ。彼女の話を聞いて、人は何のために生きているのかという永遠に解けない課題を思い起こした。美人で賢く生まれたら、それを武器にうまく人生を渡っていく女性も少なからずいると思う。だが、彼女はまっすぐすぎた。よくも悪くも不器用なのかもしれない。まっすぐだったからこそ躓(つまず)き、まっすぐだからこそ再構築もできた。最初に『不登校新聞』の編集会議で出会ったときも、彼女は学校への不信感を述べてはいたが、決して単なる悪口ではない。全体主義の教育が個性をつぶすという理にかなった発言だった。彼女の人生は過去を踏まえて、また、ここから始まる。文/亀山早苗(ノンフィクションライター)かめやまさなえ◎1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに、恋愛、結婚、性の問題、また、女性や子どもの貧困、熊本地震など、幅広くノンフィクションを執筆
2020年02月07日年の瀬になると、やはり気になるのが「来年の運勢」ですよね。気になる2020年の運勢を、数字をキーワードに徹底解読。アメリカ数秘術界の第一人者、キャロル・アドリエンヌさんが、数秘術で2020年を読み解きます。数秘術って?「数秘術」とは、西洋占星術や易学等と並ぶ占いの一種。年月や名前の数字から固有の計算式に基づき、数字が持つ先天的な運命や、宿命を読み解くものです。元は紀元前6世紀頃に起こったピタゴラス学派の教えを受け継ぎ伝えられてきた、とも言われています。今回は、世の中全体にどういう流れが起こるのかを表す数字である「ユニバーサルイヤー」と、それぞれの人に課せられたその年のテーマを表す数字である「パーソナルイヤー」の2つのキーワードを元に2020年を紐解いていきます。パーソナルイヤーから読み解く2020年の運勢数秘術では、「パーソナルイヤー」という数字で、あなたの2020年の運勢を読み解くことができます。まずは、パーソナルイヤーを算出方法し、あなた自身の運気に注目してみましょう。---生まれた月と日の数字に2020のそれぞれの数字を足してください。その合計の数を一ケタになるまで足していきます。その一ケタの数字が2020年のあなたのパーソナルイヤーです。例えば、11月27日生まれの人の場合は:1 + 1 + 2 + 7 + 2 + 0 + 2 + 0 = 15 (1 + 5) = パーソナルイヤー6---※パーソナルイヤーは、生まれた月に関係なく、1月1日から始まり12月31日に終了します。あなたのパーソナルイヤーの数字はいくつでしたか?数字ごとに今年のテーマを解説いたします。パーソナルイヤー 1新しい9年サイクルの始まり先見の明があり、勤勉で一本気な「22」のエネルギーのもと、2020年のあなたは地位を向上させるでしょう。それによって、住まいのクオリティがアップする気配も。また、仕事面においては自身のビジネスを模索し始めるかもしれません。◎2020年の目的探求する。革新を起こす。コミット。ロールモデルになる。善きリーダー。◎2020年の人間関係のテーマ独立と依存の問題の解決。新たなはじまり。◎2020年気をつけたいこと先延ばし。楽観主義。手抜き。パーソナルイヤー 2友情、頼れる関係、新しいつながりが生まれる1年に自分のことよりも、人への協力や援助が多くなりそう。気持ちの面では優柔不断になりがちで、自分でもうんざりすることもあるかも。仕事と生活のバランスをうまくとりたいと思う気持ちが強まりそうです。詐欺行為や詐欺師に注意しましょう。◎2020年の目的感受性と対人関係能力を高める。平和を愛しマインドフルネスを実践すると良い。◎2020年の人間関係のテーマ愛、理解、ギブ&テイク。健全な関係。優柔不断。◎2020年気をつけたいこと自信喪失。害のある人間関係。怠慢。カルトまたは犯罪組織。パーソナルイヤー 3新境地を開く1年にユニバーサルイヤー「22」のパワーを受け、仕事・趣味を通して大きな幸運や収入を得られそうです。成功のカギとなるのは、常識的な考え方や想定外の解決策、助けとなってくれる人との出会い。ちょうどいいタイミングでこれらの恩恵を預かれるでしょう。◎2020年の目的イマジネーションを駆使し、夢を現実に。◎2020年の人間関係のテーマ恋愛や再婚、子育て、ソーシャルメディアの有効活用。◎2020年気をつけたいこと口自慢の仕事下手。嫉妬。羨望。うそ。借金で首がまわらない。パーソナルイヤー 4障壁を乗り越える1年に2020年は仕事をバリバリする年になりそう。自分の置かれている状況は、あなたの内なる信念や思考が映し出されたものなのだと理解できるようになりそうです。一時的に我慢をすることもありますが、やがて非凡な才能が開花するはずなので、期待していて。◎2020年の目的あなた自身の経験やスキルに合わせた方向性。◎2020年の人間関係のテーマ賢い選択。結婚をする。仕事相手を決める。勉強会やセミナーへの参加。◎2020年気をつけたいこと手抜き。粘り強さ。決めつけ。破産。パーソナルイヤー 5新たな環境を目指す1年に不自由な決まりごとや、古い目標を変えようと動き出す年になりそう。その行動力で、一生のうちに叶えたいと思っていることも達成してしまうかもしれません。2020年の最後には、今とはまったく違ったあなたに変わっていそうです。◎2020年の目的知識と経験を深め、「諦めない精神」を高める。◎2020年の人間関係のテーマ約束と自由の関係を探る。依存症や性的な問題の可能性。◎2020年気をつけたいこと悪い兆しを見て見ぬ振り。アドバイスに従わない。パーソナルイヤー 6愛情や結婚、家族などの縁が強い1年に家庭にまつわることで手一杯になりそう。義務と献身の1年に。結婚式や子どもの誕生、卒業、両親の世話、別居などがキーワードになりそうです。◎2020年の目的社会の一員として、ほがらかで優しく、働き者で。◎2020年の人間関係のテーマ自分にも他人にも穏やかに。家庭、子育て、夫婦にまつわる事柄。◎2020年気をつけたいこと共依存。コントロールしようとする。ストレス、心配症、不安感。パーソナルイヤー 7精神的な成長がある1年に今年の「22」の果敢なチャレンジ精神を通して見ると、物事は一見思い描いたとおりではないかもしれません。自らの直感に従って進むべき場所へ向かうことを学びましょう。興味をひかれることは科学的プロジェクト、探検、自分探しのような、非日常的なものでしょう。◎2020年の目的発見する。理解する。目に見えないものへの信仰を深める。◎2020年の人間関係のテーマ会えなくなる可能性。心の愛。孤独。スピリチュアルへの憧れ。◎2020年気をつけたいこと孤独感、孤立感。隠し事。働きすぎパーソナルイヤー 8大きなチャンスと財政面の拡大がありそうな1年にあふれんばかりの野心に富んだ2020年、願ってもないチャンスや大躍進、盛り上がりを見せるでしょう。その様子にあやかりたいという人たちも出てきます。ビジネスの拡大に伴う費用や、旅行、新居などの出費が増えそうです。急成長、経済の低迷、または判断力の低下、犯罪行為などで混乱を招かないよう気をつけましょう。◎2020年の目的有名になる。障壁を克服する。目標の達成。◎2020年の人間関係のテーマ費用のかさむ争い。盛大な結婚式。仕事上での対立。◎2020年気をつけたいこと働きすぎ。ストレス。過大な目標。パーソナルイヤー 9奪われたかと思えば、与えられるの繰り返しの1年となるでしょう。理屈より情熱が優先されます。自分自身を含め、人にゆるしを与えるときでもあります。あなたの9年間サイクルは千秋楽を迎えますが、魂の大きな成長を課す「22」は、また違った考え方を用意しているでしょう。◎2020年の目的取り組んできていたことを終わらせる。ケリをつけて、手放す。◎2020年の人間関係のテーマ情熱。謙虚さ。無条件の愛。壁を乗り越える。◎2020年気をつけたいこと依存症。未熟さ。うつ病。不信心。。監修者:キャロル・アドリエンヌアメリカの数秘術界の第一人者であり、世界的なスピリチュアル・カウンセラー。ライフ・コーチ、ワークショップ講師などとして活躍。ゲスト・スピーカー、セミナーの主宰・コーディネイターとして、世界10ヶ国以上での講演を行っている。
2019年12月28日※写真はイメージです疲れが取れない、身体がだるい、という症状は、メンタルが原因の場合も多い。年々増えているといわれる「うつ病」。明確に診断できる疾病ではないため患者数の扱いには慎重を期するが、うつ病を含む気分障害患者数は、2008年には104万人以上(厚生労働省による患者調査)。たしかに、友人・知人、家族、職場で、うつ病患者はもはや珍しくもなんともない。とはいえ、疲労や身体のだるさから即、自分が「うつ病では?」とは疑いにくい。精神疾患に対する思い込みや偏見もいまだに多いので、すぐに精神科を受診する人は多くはない。■医師がうつ病かどうかを見極めるポイント「あきらかに自分で心あたりのある人は別ですが、内科で診てもらって異常も疾患も見つからないから、と精神科に来る人も多いですね」(六番町メンタルクリニック・海老澤尚先生・以下同)疲労感やだるさが、うつ病によるものかどうか見極めるには次のような点が基準になるという。「うつ状態でもっとも特徴的なのは、気分の落ち込み、憂うつな気分が見られること。これがあるかどうかが、見極めのポイントとなります。わけもなく悲しくなったり、死にたくなったり、笑えない、自然と涙が出てくるなどの症状は、うつ状態特有のもの。きっかけとなる環境の変化や出来事が自覚できていれば診断はしやすいのですが、なかには自分がうつ状態であることを自覚できない人もいます」うつ病にかかりやすいのはまじめできちんとしている人が多く、決して心が弱い人がかかるわけではない。その性格ゆえに、仕事に打ち込みすぎたり、休みをとらなかったりして悪化させてしまうケースも多い。その場合は、家族や周囲の人間の助けも必要。次のページに記したチェックリストに当てはまる様子がうかがえたら、受診をすすめたい。「うつ病と診断されたら、まずは休むこと。こうして環境改善をしながら、適切な投薬で徐々に回復していきます」休養と服薬が治療の基本となるが、うつ病になりやすいものの受け取り方や考え方を修正するのも効果的。せっかく回復しても、そこが変わらないと、再発の可能性も高くなってしまう。「うつ病になりやすい人は、『自分のせいだ』とか『もっとやるべき』といったように、自責感が強い傾向があります。こうしたものの受け取り方、考え方を変えていく『認知行動療法』という治療法もあります」本人の希望や医師の判断で、一定のプログラムが組まれ、臨床心理士の面接、指導のもとに行われるのが一般的だ。ハードルが高く感じる精神科や心療内科だが、今は「メンタルクリニック」「心のクリニック」などといった名前で行きやすい工夫もされている。が、やっぱりデリケートな分野。人に気軽に「おすすめの病院ない?」とは聞きにくいので、なかなか情報が得にくい。いい病院はどうやって選ぶといいのだろう。「医師と患者も人と人ですから、やっぱり相性があります。合わない医師に診てもらっても、満足はできないでしょう。自分に合う医師を探すには、病院のHPなどでその病院の診察方針や考え方を調べてみて、そこで好感を持てるかどうか。自宅からあまり遠くないところがいいでしょうね。メンタルの病気は、頻度は多くはなくても長期の通院が必要な場合が多い。つらいときほど病院に行きづらい、となってしまうと本末転倒です」■自分に合う病院を探す心療内科は行きやすいが精神科は行きにくい、という声も聞こえてくるが、この2つの診療科の違いはどこにあるのだろう。簡単に言うと、心療内科は「心因性の身体症状を診る科」。つまり、胃が痛いとか、身体が重いとか、頭が痛いなど、身体疾患がないのに症状があるケース。このほかにも、何か思い当たる心理的背景があって、身体症状が出ている場合もあてはまる。理由なく身体の不調が続いている場合もこちらの科だ。一方、「精神科」は「心(脳)の症状を診る科」。気分が落ち込む、人間関係で悩みがある、やる気が起きないなどといった症状はこちらといえる。「両方の科を掲げている病院も多いので、自分で判断がつかない場合はどちらもカバーしてくれる病院を受診すると安心です」(海老澤先生)【うつ病かも!? チェックリスト】うつ状態にあるかどうかをチェック!以下の項目に7個以上当てはまったら危険ゾーンです。・身体がだるく疲れやすい・わけもなく悲しい・わけもなく涙が出る・笑えない・死にたくなる・何もやる気が起きない・何にも意味を見いだせない・だるくて起き上がれない・なんでもネガティブ・眠れない、眠りが浅い・自分を責める■女性は人生に3度、うつ病の危険がうつ病の患者数は、女性が男性の2倍、という事実を教えてくれたのは、日本女性心身医学会理事で産婦人科医の甲村弘子先生。女性の健康を心身医学的な視点からサポートすることを信条としている。「女性は一生を通じて女性ホルモンに左右されるうえ、人生のステージの変化が大きい。20歳前後の若年期、出産後、そして閉経をはさんだ更年期と、女性は一生のうちで3回、うつ病になりやすい時期があります」(甲村先生・以下同)20歳前後は将来に対する不安感があり、自立の時期で環境も激変する時期。産後はホルモン変動が激しく、子育ての不安や負担というメンタル面での負荷も高い。そして閉経をはさんだ前後10年の更年期も、女性ホルモンの減少と生活環境の変化により、心身の不調を起こしやすいのだ。「更年期のうつ病に関しては、もともと持っている気質(素因)、女性ホルモンの影響、周りを取り巻く環境、この3つの状況が大きく関わり合っています。誰もがということではありませんが、3つの要因が重なってしまうと、うつ状態になりやすいと言えます」女性のうつには女性ホルモンの影響が大きいので、婦人科の治療で効果が期待できるケースは多い。「本当に重篤な精神疾患が疑われる場合は精神科に紹介しますが、心身医学的な対応と適切な治療で、ずいぶんとよくなります。『必ずもとの自分に戻れますよ』と言うと、みなさん本当にホッとされますね」甲村先生が実践している心身医学的な対応とは、どのようなものなのだろう。「まずは患者さんの話を聴く。これは『傾聴』というもので、『ふむふむ。なるほど』と相手の話に耳を傾ける。そして、決めつけたり、否定したりせず、まずは『そうですね。そのように感じているのですね』と、相手をあるがままに中立的立場で受け入れるのです(受容)。さらに、『頑張っているのに、うまくいかないのですね』などと、相手の立場に立って、相手の気持ちや感じ方に共感して理解することが大切です」この後、診断にうつっていくわけだが、「最後に要約と確認をします。『つまり○○ということですね』と、相手の話のポイントをまとめて返すのです。こうすることで、時間経過を持った患者自身の物語を、医師と患者が共有することになるのです」こんなふうに医師が自分の訴えをじっくりと聴いてくれたら、どれほど救われるだろう。「誰かに話すという行為だけで、たとえ問題そのものは解決しなくてもずいぶんとラクになるものです。うつ病になる人は、いい母やいい妻を頑張ろうとするあまり、〇〇しなくてはならない、〇〇できない自分はダメだと考えがち。例えば、体調が悪いのに『夕飯を作らないと』と思い、できずにお惣菜を買うと『作れなかった』と自分を責める。そうではなく、『体調が悪いなか、お惣菜を買って夕飯を準備できてよかった』と、とらえることもできるわけです。ものごとのとらえ方をプラスに変えていくことが大切です」うつ状態などの更年期の心身の不調には、こういった対応に加えて、ホルモン補充療法も効果がある。「更年期は女性ホルモンであるエストロゲンが減少するせいで、さまざまな不調が現れるので、このホルモンを少し補ってあげるのです。ぜひ知ってほしい治療法です」■ホルモン補充療法とは?女性ホルモンと言われるエストロゲンの低下をホルモン製剤によって補う治療法。「若いころと同じ水準にもどすのではなく少し補うだけで、症状は軽くなります」(甲村先生・以下同)飲み薬のほか、貼り薬、塗り薬もあり、ライフスタイルに合わせて補充方法を選択できるのも魅力だ。「効果がとても高いのに、日本ではあまり普及していないのは残念。乳がんの発生率が上がると言われていますが、ほんとにわずかな数字で、定期的に乳がんをチェックしていれば問題ない程度です」■婦人科をもっと活用しよう月経不順や妊娠・出産分野が専門、というイメージがある産婦人科では、女性の心身の不調全般も診てくれる。就職や出産など人生の節目に、自分に合った産婦人科医を見つけて「かかりつけ医」としておくのはおすすめ。なんでも相談できるので心強い。「親子2代で通ってくれる患者さんも大勢います。家族関係や体質などの情報も把握でき、信頼関係も築きやすいですね」(甲村先生)《識者PROFILE》海老澤 尚先生◎六番町メンタルクリニック院長。精神科医。不安症、不眠症治療など、多岐にわたる診療経験があり、ひとりひとりの心の悩みに寄り添い職場での悩みやストレスにも理解が深い。甲村弘子先生◎日本女性心身医学会理事。産婦人科医。メンタルを含めた女性の健康を一生を通じてサポートしてくれる心強い存在。こうむら女性クリニック院長。
2019年11月28日健康診断では何の問題もなかったのに、最近、やる気が出なかったり、カラダが重かったり、肌荒れや頭痛も…。もしかするとそれは、必要な栄養が不足している“栄養型うつ”のせいかも?「“うつ”という言葉は、うつ病とうつ状態が混同されて使われていることが多いですが、実は意味が違います。うつ病とは脳の機能障害が原因の病気の名前で、一方、抗うつ薬が必要な場合から、財布をなくしたり、失恋による一時的な気分の落ち込みまで、憂うつな状態すべてが、うつ状態です」とは、精神科医の奥平智之先生。「うつ状態の一つで、栄養の摂取不足や吸収不良などの問題でココロやカラダに不調が起きるのが、“栄養型うつ”です。例えば、疲れやすかったり、食欲が出なかったり、イライラするなど情緒不安定だったり…。それらの原因がタンパク質やビタミン、ミネラル不足である場合があるんですね。食事を改善して、足りていないと思われる栄養を補ったら、うつ状態や不調がすっかり良くなります」奥平先生が“栄養型うつ”を改善するためにすすめているのが、具だくさんのスープと味噌汁。「まず基本となる栄養素は、タンパク質とビタミンB群です。全身のあらゆる組織や酵素、うつ状態に関わる脳内ホルモンなどは、タンパク質からできているからです。また、全身の細胞でエネルギーを作るのに、ビタミンB群や鉄なども欠かせません。スープや味噌汁だと、煮ることで食材が柔らかくなって消化・吸収しやすくなりますし、カサも減ってたくさん食べられます。スープに溶け出た栄養も無駄なく摂ることができます」具だくさんスープ&味噌汁の基本ルールルール1:タンパク質は2種類以上。基本の栄養素、タンパク質はたっぷり摂る。なのでタンパク源は2種類以上で、必ず動物性を1種類入れる。1食あたりのタンパク質量の目安は20~25gほど。そのためには肉や魚介約100gに、卵1個、豆腐や大豆などをプラスして。ルール2:にがりでマグネシウムを補充。ストレスが多いと、脳内ホルモンや細胞でエネルギーを作るのに不可欠なマグネシウムの必要量が増えるので、うつ状態だと不足しがちに。補給には吸収されやすいにがりがおすすめ。スープに数滴垂らすだけでOKなので、必ず加えよう。ルール3:酸味でミネラルの吸収率アップ。クエン酸、リンゴ酸、アミノ酸…。酸と一緒に摂ると鉄や亜鉛、マグネシウムなどミネラルの吸収率がアップ。アミノ酸であるタンパク質たっぷりのスープに、酢や柑橘類、トマトなど酸味のある食材を足して効率よくミネラルを吸収させて。ルール4:避けたい食材を知っておく。胃腸に炎症が起きていると栄養がうまく吸収できない。炎症の原因となる小麦に含まれるグルテン、乳製品のカゼイン、食品添加物を使った調味料や加工食品、リノール酸などのオメガ6のアブラも極力控えたい。食品の原材料名で確認を。4種類の具材を組み合わせる基本となるタンパク質と、以下の食材を組み合わせてビタミン、ミネラル、食物繊維を補おう。海藻類わかめ、海苔、もずく、めかぶなど海藻類は水溶性食物繊維に富む。マグネシウム源としても貴重。スープに旨味が出るのでお好みで。キノコ類腸の動きを促す不溶性食物繊維が多いのがキノコ類。添加物や重金属などカラダに有害なものを吸着し排出するデトックス効果も。野菜腸が健康だと栄養の吸収力が上がる。食物繊維が豊富な野菜で腸内環境を整えて。抗酸化力の高い緑黄色野菜も取り入れよう。タンパク質ビタミンB1が豊富なのは豚肉。鉄や亜鉛が多いのは牛の赤身肉。青魚はビタミンDが摂れるので腹わたごと使う。卵も万能食材だ。おくだいら・ともゆき精神科医、日本栄養精神医学研究会会長、山口病院(埼玉県)精神科部長。著書に『栄養型うつを治す! 奥平式スープ』(エイ出版社)ほか多数。※『anan』2019年11月20日号より。写真・中島慶子(by anan編集部)
2019年11月19日