安価で、さまざまな料理に使える豚肉は、食卓に乗る機会が多いですよね。豚肉に多く含まれているビタミンB1は、ブドウ糖をエネルギーに変えるときに必要な栄養素なのです。ただし、豚肉は加熱すると固くなってしまう悩みがつきものです。ご家庭でも柔らかくする工夫を実践されているかと思いますが、実は豚肉を柔らかくするテクニックは、ひとつやふたつではありません! 今回はそれぞれの方法をご紹介していきます。■豚肉を柔らかくしたい!固くなる原因とは?豚肉が固くなってしまう要因には、豚肉の筋繊維・タンパク質・水分が大きく関わります。それぞれの原因について見ていきましょう。・筋繊維豚肉は筋繊維と脂肪からできており、この筋繊維が強い部分は食感が固くなります。このため、繊維を切った肉ほど、柔らかく仕上がります。・タンパク質豚肉を加熱すると、筋肉のたんぱく質が熱によって変性を起こし、縮みます。タンパク質は一度変性を起こすと元に戻らないので、加熱によって縮んだ豚肉を柔らかく戻すことはできません。一方、煮込み料理は、長時間かけて加熱するため、タンパク質の組織がほぐれやすく、柔らかいのです。・水分豚肉には適度な水分が含まれており、この水分によって柔らかさが保たれています。肉を焼いたときに出てくる肉汁は、もともとタンパク質が持っていた水分なので、たくさん流れるほど肉の潤いが失われて固くなってしまいます。そこで、豚肉の水分を保つ力を高めるカギとなるものがph(ペーハー)値です。食品などを用いて豚肉のph値を上下させる、つまり豚肉を酸性やアルカリ性にすることで保水され、加熱してもジューシーに仕上がります。■豚肉を柔らかくする方法以上のことから、豚肉を柔らかくするキーワードは、筋繊維とタンパク質、そして水分です。この3つを攻略する方法をご紹介します!・筋繊維を切る筋繊維による固さを防ぐ方法が、筋切りです。豚肉の赤身と脂肪の境目にある、白く半透明に走っているものが筋なので、焼く前に肉の筋の3~4ヶ所に包丁の刃先で突き刺すようにして切り込みを入れましょう。ステーキ用の厚みのある肉の場合は、裏側からも切り込みを入れます。柔らかくしようと大きく切り込みを入れてしまうと肉汁とうま味が流れ出てしまうので、できるだけ小さな切り込みにしましょう。筋切りすることによって、肉の反り返りや焼き縮みも防ぐことができ、見た目も良く仕上がります。・ミートハンマーなどで叩く肉を叩くことで筋繊維が切られます。厚切り肉を1枚まるごと調理する場合はミートハンマー(肉たたき)で軽く叩きましょう。ミートハンマーがない場合は、お菓子作りで使う綿棒や空き瓶でも代用できますよ。最も簡単な方法は包丁の背で叩くことです。全体が均一の厚みになるように叩き、繊維をつぶしましょう。叩いたあとは手で形を整えてくださいね。こちらも、柔らかくしようと力任せに叩きすぎてしまうと組織が壊れて肉汁が出てしまうので注意しましょう。大切な風味や歯ごたえもなくなってしまいます。・冷凍したお肉はゆっくり解凍するまとめ買い、安売りなどで豚肉がたくさんあるときは、冷凍保存することもありますよね。実は、冷凍した豚肉を解凍する方法も重要です。電子レンジの解凍機能や湯煎などで急速に解凍すると、肉汁が一気に流れてしまい、水分が減ってしまいます。ゆっくり解凍するには、使う半日前くらいに冷凍庫から冷蔵庫に移しましょう。豚肉の厚みや量によって解凍時間は変わるので、様子を見ながら行ってくださいね。常温で解凍すると傷んでしまう恐れがあるので必ず冷蔵庫で解凍しましょう。・お肉を漬け込む食材や調味料を漬けこむことで、豚肉を柔らかくしてくれる効果が見られることがあります。柔らかくしてくれる食材や調味料は、ph値を上下させて保水性を高めるものと、タンパク質を分解させて柔らかくさせるものの2種類があります。漬け込む食材はのちほどご紹介しますね。・小麦粉や片栗粉をまぶしておく小麦粉や片栗粉をまぶしておくことで、肉汁の流出を防いでジューシーに仕上げてくれます。さらに、豚肉の表面に薄い層ができるため、熱の当たりが弱くなる点もポイントです。粉をまぶしてから焼くと、あとから加える調味料が絡みやすくなるのも、嬉しい効果ですね。■豚肉を柔らかくしてくれる漬け込み食材豚肉を柔らかくしてくれる漬け込み食材のうち、スーパーなどで簡単に手に入るものを13種類紹介します! 種類によっては漬け込みすぎると柔らかくなりすぎるものもあるので注意しましょう。・玉ねぎ玉ねぎには、プロテアーゼと呼ばれるタンパク質を分解する酵素が含まれています。さらに、豚肉の風味を良くしてくれる嬉しいはたらきも! 方法は、すりおろした玉ねぎに豚肉を1~12時間ほど漬け込みます。または薄切り肉と一緒にスライスした玉ねぎを漬けこむと、そのまま具材として活用できますよ。・大根大根にもプロテアーゼが含まれています。大根おろしをステーキやトンカツに添えることが多いですが、柔らかくするためには漬け込みに使いましょう。大根おろしを豚肉に漬け込む方法なら簡単ですよね。30分~1時間ほど漬け込みましょう。・舞茸舞茸にも同様にプロテアーゼが含まれています。酵素のパワーが発揮できるように細かく刻んで水と一緒に豚肉に漬け込みましょう。酵素は熱によってはたらきが失われてしまうので、生の舞茸を豚肉と一緒に炒めるだけでは効果を発揮できません。あらかじめ漬け込むようにしましょう。・牛乳牛乳にも肉の繊維をほぐすはたらきがあります。刻む処理などが不要ですぐに使える点が便利ですよね。さらに、牛乳に含まれるタンパク質や脂肪球には臭いを吸着する作用がありますので、豚肉の臭み消しにも効果的です。30分以上漬け込みましょう。・ヨーグルトヨーグルトに含まれる乳酸も、肉質を柔らかくしてくれます。また、ヨーグルトに漬け込むことで全体の味がまろやかになり、牛乳と同様に臭みを取るはたらきがあります。30分以上漬け込みましょう。・マヨネーズマヨネーズにはお酢が含まれるため、豚肉のタンパク質に作用して柔らかくなり、さらに乳化した油が豚肉をコーティングして保水してくれます。調理前にマヨネーズを揉みこんだり、表面に塗ったりして30分ほど置くようにしましょう。・生姜生姜も同様にタンパク質分解酵素が含まれています。豚肉料理の定番「生姜焼き」は、焼いた豚肉に合わせた生姜ダレをかけるのではなく、あらかじめ生姜のしぼり汁を入れた漬け汁で下味をつけることが大切です。30分ほど漬け込みましょう。・パイナップルお肉を柔らかくする果物としてよく知られているパイナップル。こちらはブロメリンと呼ばれる酵素によってタンパク質を分解します。さらに、パイナップルは酸性の食品なので、豚肉のph値を変化させ、ダブルパワーで豚肉を柔らかくしてくれます。ほかの酵素と同様に、熱を加えると効果が失われるので、酢豚の豚肉もただパイナップルと一緒に炒めるのではなく、下処理で生のパイナップルの果肉や果汁に漬け込むことが肝心です。パイナップルを丸ごと買うと、中心に芯がありますよね。この固くて食べられない芯の部分を活用してみましょう。ざく切りにした芯を綿棒などで叩いてつぶし、肉にまぶして20分ほど置きます。パイナップルのタンパク質分解酵素の力は強いので、漬け込みすぎると肉が溶けたり繊維がボロボロになったりするので気をつけましょう。なお、缶詰のパイナップルは加熱処理がされているので、タンパク質分解酵素が失われています。ジュースも濃縮還元タイプは加熱処理されていますので、漬け込みに使う場合はストレートタイプを選ぶといいですね。・キウイキウイにはアクチニジンと呼ばれるタンパク質分解酵素が含まれています。ゼラチンゼリーにキウイフルーツを入れると固まらないのは、この酵素によるものです。お肉に漬け込むときは、キウイフルーツを細かく刻むかフォークなどでつぶしてまぶすと効果的です。薄切り肉なら15分、厚切り肉なら2~3時間漬け込むといいですよ。パイナップル同様に柔らかくする力が強いため、長時間漬け込むと豚肉が溶けてしまうので注意しましょう。・炭酸水・炭酸飲料炭酸水や炭酸飲料に漬け込むことで豚肉が酸性になり、柔らかくすることができます。スペアリブや豚の塊肉をコーラで煮込むレシピをよく見かけるのはこの効果を利用したものです。ただし、香りや風味が豚肉に移りやすいので、ステーキやトンカツなどシンプルな味付けの料理には無糖の炭酸水をおすすめします。15~30分ほど漬け込みましょう。・お酒アルコールも、豚肉のph値を下げて柔らかくしてくれます。料理酒が一般的ですが、ビールや赤ワインに漬け込むと風味がよくなる効果も期待できますね。1時間ほど漬け込みましょう。・塩麹塩麹も、プロテアーゼなどの酵素によってお肉を柔らかくしてくれます。食塩よりもマイルドな塩辛さで下味の役割もできますよ。30分から2時間ほど漬け込むようにしましょう。ひと晩漬け込むと茶色に変色することがありますので注意してください。量が多すぎると塩辛くなってしまうので少量使うようにしましょう。塩麹は焦げやすいので、ステーキや炒め物にするときは軽くふき取るといいですよ。・ハチミツハチミツに含まれるブドウ糖は、果糖が肉の中に浸透することで固くなるのを防ぎ、さらに加熱するとブドウ糖と果糖が固まることによって豚肉をコーティングして、肉汁の流出を防いでジューシーに仕上げてくれます。豚肉の下味にハチミツを加えて揉みこむか、表面にハチミツを少量塗ってしばらく置くようにしましょう。ハチミツの量が多すぎると甘くなってしまったり、焦げやすくなったりするので注意してくださいね。■豚肉を柔らかくする調理方法ここまで、調理前の下処理や漬け込みによって柔らかくする方法をご紹介しましたが、調理の方法も大切です。ポイントをおさえて、下処理や漬け込みの効果を十分に発揮した柔らかい仕上がりを目指していきましょう!・まず脂身から焼く厚切り肉の場合、まずは肉を立てて脂身から焼いていきましょう。トングを使うといいですよ。適度に脂身が抜けて食感が良くなります。・弱火でじっくり焼く強火で焼くと肉汁が流れ出てしまいます。さらに、生焼けの原因になることも。弱火でじっくりと焼くようにしましょう、肉の表面が固まる前に動かすと肉汁が流れるため、焼くときにはむやみに触らず、何度もひっくり返さないようにしましょう。・調味料は最後に加える炒め料理では、調味料は最後に加えるようにしましょう。豚肉を柔らかくしてくれる調味料がある一方、醤油など塩分が多い調味料は、調理の最初に加えると浸透圧によって豚肉の中の水分が流れ出てしまいます。■豚肉が柔らかい!おすすめレシピ3選以上のように、豚肉を柔らかくするには下処理や漬け込み、それに調理の方法が肝心です。ここでは柔らかくする方法を活かしたレシピをご紹介します。・やわらかトンカツ豚肉料理で定番のトンカツですが、事前に肉を叩いておくことで柔らかく仕上がります。叩いたあとは手で元の大きさに整えることを忘れないようにしましょう。材料(4人分)豚ロース肉4枚塩コショウ少々 小麦粉 大さじ2 卵 1~2個 パン粉 1~1.5カップ揚げ油 適量キャベツ 1/8個キュウリ 1/2本トマト 1個レモン 1/2個 ケチャップ 大さじ4 トンカツソース 大さじ2 練りからし 小さじ1~2下準備豚ロース肉は脂身と赤身の境を包丁の先でたたき、まな板に置き、ラップをかけ肉たたき又はビン等でたたき、元の豚肉の2.5~3倍の大きさ位までのばす。ラップを取り、手で押しながら元の大きさ位の形に整える。<衣>の卵はよく溶き、卵白がプルプル固まっている場合は網を通しておく。キャベツはせん切りにして冷水に放ち、ザルに上げしっかり水気をきる。(すぐに食べない場合は、抗菌ビニール袋などに入れ冷蔵庫に入れておくといいですね。)キュウリは斜め薄切りにする。トマトはヘタをくり抜き、8つのくし切りにする。作り方手順1:豚肉の両面に塩コショウをし、全体に薄く小麦粉をつけ、溶き卵、パン粉と<衣>をつける。手順2:170℃の揚げ油に静かに入れ、ジュワジュワと言っていた泡がシュワシュワと小さな泡になり、美味しそうなキツネ色になれば油から上げ、油をきる。手順3:器にキャベツ、キュウリ、トマト、4つに切ったレモンを盛り合わせ、食べやすい大きさに切ったトンカツをのせる。よく混ぜ合わせた<合わせソース>をかける。好みでキャベツにマヨネーズなどをかけても。卵をしっかりと溶きほぐすことで衣がきれいにつきます。揚げ物は火の通りが分かりにくいので、泡の大きさや音に注意してみましょう。・やわらか!塩麹豚のおろしステーキ塩麹を下味に使うことで、柔らかく仕上がります。塗ってからラップに包めば、少量の塩麹でもまんべんなく豚肉に染みわたりますよ。みりんとしょうゆでさっと煮た大根おろしのソースでさっぱりといただけるレシピです。材料(2人分)豚肩ロース肉(ステーキ用) 2枚塩麹 小さじ2~3シイタケ(生) 2個赤パプリカ 1/4~1/2個ブロッコリー(塩ゆで) 4房塩コショウ 少々サラダ油 適量 大根おろし 1/2カップ しょうゆ 大さじ2 みりん 大さじ2下準備豚肩ロース肉は筋を切り、塩麹をぬってラップに包み、1時間以上冷蔵庫に入れておく。シイタケは石づきを切り落として汚れを拭き、2~4等分に切る。赤パプリカは種とワタを取り、食べやすい大きさに切る。作り方手順1:フライパンにサラダ油を弱めの中火で熱し、豚肩ロース肉の塩麹をサッとぬぐって焼き、表面においしそうな焼き色がついたら返し、同様に焼く。手順2:フライパンの空いた所でシイタケ、赤パプリカも焼き、塩コショウをする。同時に焼けない場合は、シイタケ、赤パプリカを焼いてから豚肩ロース肉を焼いて下さい。手順3:手順1、手順2とブロッコリーを器に盛る。フライパンに<ソース>のしょうゆとみりんを入れてひと煮たちさせ、大根おろしを加えてサッと煮、豚肩ロース肉にかける。塩麹は焦げやすいので、キッチンペーパーなどを使って必ずぬぐってから焼くようにしましょう。焼くときは、ご紹介した柔らかくする調理方法をぜひご参考くださいね。・やわらかヒレ肉のポークピカタ豚肉を叩き、さらに小麦粉と卵でコーティングすることで柔らかく仕上がるピカタです。粒マスタードを塗っているので、パンチのある味わいが楽しめますよ。材料(2人分)豚ヒレ肉(カツ用) 6~8枚塩 適量粒マスタード 少々小麦粉 適量溶き卵 1個分オリーブ油 大さじ3ルッコラ 1/2袋下準備豚ヒレ肉に塩を振り、すりこ木等でたたいて厚さ7~8mmにのばして、両面に粒マスタードを薄くぬる。溶き卵は網に通してバットに流す。(お肉はラップをのせてたたくと衛生的です。)ルッコラは根元を切り落とし、食べやすい長さに切る。作り方手順1:豚ヒレ肉に小麦粉をまぶし、溶き卵をからめて3分置く。手順2:フライパンにオリーブ油を中火で熱し、手順1を並べる。焼き色がついたら弱火にして返し、火を通して器に盛り、ルッコラを添える。小麦粉は薄くまぶすようにしましょう。弱火で加熱することで豚肉が柔らかく仕上がり、卵の焦げ付きも防げます。■ポイントをおさえた下処理&調理で豚肉をもっと柔らかく!豚肉を柔らかくするには、事前の下処理と調理方法の両方が大切です。少し手間はかかりますが、食感が良くなるとリーズナブルな豚肉もリッチな料理に変身してくれるでしょう。ご紹介したように、豚肉を柔らかくする漬け込み食材や調味料はたくさんあります。ご家庭で常備しているものを活用してもいいですし、ちょっと実験気分で普段使わないものを使って漬け込んでみると、新しい発見があるかもしれませんよ。トンカツやステーキのほかにもさまざまな豚肉料理のレシピがありますので、ぜひ、柔らかくする方法を活用して料理してみてくださいね。<参考>・ 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「ビタミンB1の働きと1日の摂取量」 ・ 駒沢女子大学・駒沢女子短期大学「キウイフルーツによるタンパク質消化促進効果について」 ・ 株式会社 明治「ヨーグルト 明治の食育おすすめレシピ」 ・ キューピー「キューピーマヨネーズ裏ワザレシピ」 ・ J-stage 調理 と科学(7)大阪市立環境科学研究所 附設栄養専門学校 瓦家千代子著「肉の調理」
2021年06月30日