「読書」について知りたいことや今話題の「読書」についての記事をチェック! (1/7)
文:八木 奈々写真:後藤 祐樹みなさんは、誰かに“贈り物”をしたことはありますか…?普段お世話になっている知人や、大切な家族。友人、恋人、もう二度と会えないかもしれないあの人……。溢れるいとおしい気持ちや言葉に詰まるほどの感謝の気持ちを“贈り物”という形で示すことはとても素敵なことですよね。今回、私がおすすめしたいのは、“本”の贈り物。“物語”というのは贈る側にも贈られる側にも、さまざまな可能性を見せてくれます。贈り手の心をまっすぐに表現し、贈られた人の心に寄り添う……。そう、本の贈り物はラブレター。本を読みながらふと思い浮かんだあの人に、その物語を贈ってみませんか……? どんな言葉を並べるよりも想いが伝わる一冊があるかもしれません。1. 原田マハ『スイートホーム』町の小さな洋菓子店“スイートホーム”を営む香田家をとりまく家族の物語。他、全9編からなる心温まる短編集。絵に描いたような幸せとはきっとこういうこと。街も人も非の打ちどころが一切なく、善人と美味しいものしか登場しません。もちろん良いことばかりではないけれど、悪いことばかりでもない。道中に広がるスイーツの香りにパティシエの振る舞い、看板娘たちの楽しい会話で、気づいた時には“幸せ”が伝染していく。もちろん私たち読者にも。若干の胸焼けを覚えるほどの理想的な幸せの物語。幸せから始まって幸せで終わる。……あ、もしかして今、つまらなそうって思いましたか?一度、思い出してみてください。純粋に日常を描いた真っ直ぐな絵本を楽しんでいたあの頃を。刺激がない物語は、ときに、それ以上の“衝撃”を私たち読者に届けてくれます。誰かのやさしさに触れたい時、寄り添ってほしい時に読みたい、いや読むべき、大人のためのおとぎ話。読後は大切な誰かに、そして自分自身にエールを送りたくなること間違いありません。いいじゃないですか。みんなが幸せになる物語。2. 瀬尾まいこ『君が夏を走らせる』突然1歳の女の子の面倒をみることになった16歳不良少年のひと夏の奮闘記。中学駅伝をテーマに描かれた同著者の「あと少し、もう少し」の走者のひとり、太田君が主役の本作品。駅伝を経て成長し、努力したものの実らず。何者にもなれぬ思いを抱いていた少年が子守を通して変わっていきます。大きな事件が起きるわけでも驚くような展開もありません。でも、それなのに、自身と重なるはずのない少年と同じスピードで呼吸をするようにあっという間に読み終えてしまいました。まさか1歳と16歳のふたりに泣かされるなんて……。よく笑いよく泣き、日々の行動ひとつに振り回され、必死に向き合い、育つ命の尊さを目の当たりにする……。子育て経験がある人はきっと共感の嵐。物語の終わりがふたりの別れの時だと分かっているからこその読み終えたくない気持ちと、一緒に見守り、読み進めてあげたい気持ちで葛藤しました。瀬尾まいこさんの作品はどこまでもあたたかく、こんなはずじゃなかったときも、今できる最善の先に明るい未来がたくさんあると信じさせてくれます。きっと、あなたも、ぜんぶ大丈夫。3. 益田ミリ『スナック キズツキ』心に傷を負った人だけが辿り着ける、アルコールを出さない不思議なスナック キズツキ。ママはお客の愚痴を聞き、踊ったり歌ったり一緒に叫んだり……。豊かに見えるあの人も、無神経に思えるあの人も、通りすがりの彼も、機嫌の悪そうな彼女も、みんな誰かの大切な人。誰かの些細な一言で傷ついたとき、腹が立つこともありますが、その誰かもまた他の誰かに傷つけられていて、自分もまた気づかないうちに他の誰かを傷つけているかもしれない……そんな“キズツキ”の連鎖が描かれていく中で、作中に散りばめられた胸を撫でるママの心遣い(言葉)に励まされ、現実で引っかかっていた出来事がストンと自分の中に落とされていく感覚を覚えました。そう、まるで自分自身がスナックキズツキを訪れられたかのように…。もしあなたが自分の“傷”に気がついたら、もう少し自分に優しくしてあげてもいいのかしれません。誰のことも傷つけずに生きていくなんて不可能。つまり、たまには自分も傷つくということ。でも、それでも大丈夫みたいだと前を向けるそんな一冊でした。身近な誰かに“ちょっと読んでみて”とあなたもすすめてみたくなるはず。アルコールなしで、“今日もおつかれさん”。■本の贈り物に想いを託して……今回は私が実際に大切な人に贈ったことのある3冊を紹介させていただきました。3作とも何が起こるわけでもない、私たちのすぐ近くでもありそうな日常の物語。なんでもない日の贈りものは少し勇気がいりますが、普段口下手な人こそ、おしやべりな“本”の贈り物に、想いを託してみてはいかがでしょうか……?みんな誰かの大切な人。あなたも、わたしも。
2025年04月11日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹三寒四温を超えて、春の気配がそっと顔を出す今日この頃。そんな季節の移ろいのように、私たちの心を揺らす物語が世の中にはたくさんあります。今回は、そんな今だからこそ読みたい、“春”の季節にぴったりな小説をご用意しました。そう、たとえるなら季節と物語のマリアージュ。温かな希望と冷たい現実が交差する“文字”の世界は、今春もきっとあなたの胸を打つはずです。↓ 春の花粉対策に ↓1. 中島京子『花桃実桃』人生後半戦、40代ってもっと大人だと思っていた……。勤務先から肩たたきにあったアラフォー独身女性が亡き父のアパートを相続し大家となったことで、個性あふれる入居者と交流し世界を広げていく本作。悲しげなウクレレ弾きやら騒がしいシングルファーザーの一家やら幽霊(?)、とにかく一筋縄ではいかない訳アリの住人たち。いそうでいない。でも確かにいる。……そんなふわっとしていながらもどこか現実的な不思議な世界観にいつしか惹かれていきます。作中で発揮される主人公の独特のセンスとどこか客観的に描かれる登場人物たちの機微が読書心をくすぐる一冊でした。中島京子さんの物語を読むと、日本語の面白さを改めて再確認します。ほっこり温かい物語の中に、とても、とても大事なことが詰まったこの物語。いい意味で頭を使いすぎないので、疲れたときに何も考えずに楽しく読めるのも魅力的です。いつか40代になった私がこの物語を通して何を感じるのか……今から楽しみで仕方ありません。2. 宮下奈都『ふたつのしるし』正反対とも言える、ふたりの“ハル”の視点で交互に進んでいく本作品。年齢も出身も違うふたりが出会う奇跡を描いた三十年余りの歳月の物語です。……いい、とてもいい。そう零さずにはいられない温かいにもほどがある読後感でした。ふたりがそれぞれどのように過ごしていたのか、どんな心境の変化や成長があったのか。それらをすべて文字で語るのではなく私たち読者に委ねてくれます……。その隙間がとにかく心地よく美しいのです。さすが宮下さん。そして最終章で明かされる全く別の人生を歩んできたふたりを結んだ“しるし”。「時には遠回りしてもいい」そんな言葉をそっと投げかけてくれているような気がしました。本作を恋愛小説と捉えるか否かによって、その最終章の印象もガラリと変わります。もちろん、どう読むかはみなさま次第。日々の生活から逃げ出したくなってしまったとき、あなたの両手の中にも誰かがくれた“しるし”が輝いているかもしれません。……いつかのあなたが、そして私が、そう思えていたら……いいですよね。3. 恩田陸『三月は深き紅の淵を』“一冊の小説”がコンセプトの四作の独立した中編小説からなるこの作品。ひとり一晩のみ貸すことが許された幻の稀覯書をめぐるどこか不気味で謎めいた物語。読み始めたら最後、気づいた頃には頭ではなく体ごと支配されていました……。語り合う。探し求める。命を落とす。書き継がれ読み継がれるたったひとつの物語が無限に連なり、広がっていく綻び。これを“読書体験”と呼ばずして何というのでしょうか。物語のための物語としての秀作。ひとつ話を読めば興味は深まり、またひとつ読めば謎が更に深まります。よくある叙述トリックでがありません。「週末の夜の東京駅は、ほのかなセピア色をしている」……この一文と夜行列車の場面が私は特に印象的でした。恩田さんに町と旅について書かせたら右に出る者は居ないのかもしれません。正直、頭も心もフル回転で使いますが、本が好きな方には絶対に読んでいただきたい。そう、“本”が好きな方には……。■春風を感じて読書しませんか冬の寒さから解放され始めるこの季節。春の訪れに心を躍らせる反面、新しい環境に身を置くための準備や、仕事にプライベートに考えることも多くなりがちな春だからこそ、深呼吸をして、柔らかい春風を全身で感じながら心を整える読書を楽しんでみませんか?また、来年の春に会いたくなる一冊と出会えるかもしれません。
2025年03月14日フリーアナウンサーの青木裕子が12日、自身のインスタグラムを更新。【画像】青木裕子、TBS同期と久々の再会「しみじみしてしまいました」読書についての考えや最近のお気に入りの本を紹介した。「読書に何を求めるかは時々で変化して、そこから何か得ようと思ったり、読んだものが私をつくっていくなんて考えたり」と、読書への向き合い方の変遷を語った青木。さらに「本棚を見るとその人がわかると言われてゾッとして、『好きな本は?』という質問はなんて悪趣味なんだろうと思ったり」と、本と人との関係性についても独自の視点を綴った。 この投稿をInstagramで見る 青木裕子official(@yukoaoki_official)がシェアした投稿 この投稿には、多くのいいねが寄せられた。
2025年03月11日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹絵本は子供のためのもの? いいえ、そんなことありません。心細いとき、もやもやが晴れないとき、アイデアのヒントが欲しいとき、誰かに叱ってほしいとき、絵本はいつでも私たちの味方です。ひらがなが多く、読みづらさもあるかもしれません。でも、思い出してみてください。子供の頃の私たちの頭の中は大人になった今よりもずっとアイデアにあふれ、好奇心の赴くままにページをめくり、温かい物語に包まれて眠りについていたはず……。もう一度、なんの疑いも持たずに絵本の世界に身を委ねて、大人になった私たちだからこそ感じることができるメッセージを受け取ってみませんか。今回は、絵本作家さんの個展やトークショーに足を運ぶほど絵本好きな私が密かにお守りにしている3作品をご紹介させていただきます。1. スーザン・バーレイ/作.絵 小川仁央/訳『わすれられないおくりもの』このタイトルとこの装丁。見覚えのある方も多いのではないでしょうか。賢くて、頼りになるアナグマが、ひとり長いトンネルの向こうに旅立つところから始まるこの物語。悲しみに暮れる森の動物たちはそれを紛らわすように、冬の間アナグマの思い出をそれぞれ語り合います。居なくなってから気づく身近にあったものの大切さ、知らず知らずのうちに残してくれていた宝物。それらはその場に居るみんなの心を温め、そして春が来る頃には……。いなくても、いる。心を灯す大切なあの人を思い出させてくれるとても温かい物語です。子供にも分かるような簡単な言葉で語られていくからこそ胸に響くものがあります。可愛い絵の中にある目には見えないメロディー。描かれる冬から春の一連の流れもとても美しく、私はこの物語を涙なしで読了できたことは一度もありません。幼い頃にこの本を読んで、母に“いなくならないでね”“大好きだよ”とひどく泣きついた記憶があります。きっと私だけじゃないはず……。いつか出会う大切な人に贈りたい一冊です。2. 斎藤倫.うきまる/作 吉田尚令/絵『はるとあき』装丁の可愛さが目を引くこの一冊。決して出会えない“春”と“秋”の手紙のやりとりを描いた物語。秋ってどんな子? と冬に聞けば“あたたかい”と言い、夏に聞けば“つめたい”と言う。全然違うじゃない。自分でちゃんと確かめたい……でも、出会うことはできない。「じゃあ手紙を書こう、桜の花びらを添えて。」好きなものが一緒だったり、考えていることが似ていたり、生まれも育ちも違うはずなのになんだか似ている。素敵な物を見つけたときにあの子が好きそうだなと思い出せる人がいるのってなんて幸せなことなんでしょうか。たとえ会えなくても、心の中に存在しているだけで、自分を肯定してくれる人。その人をより大切にしたくなる物語です。詩人でもある作者の言葉と柔らかく描かれる自然の絵が心に残る一冊でした。余談ですが私自身、吉田さんの絵が好きで個展にお邪魔したことがあります。とても丁寧な方なのはもちろん、目の前で描かれる生の絵が素晴らしすぎたので、もしタイミングありましたらみなさまも、ぜひ。3. ショーン・タン/作.絵 岸本佐知子/訳『セミ』あなたが住んでいるその世界は胸を張って正常だと言えますか?人間と共にオフィスで働く“セミ”は17年間欠勤なし、ミスもなし。誰からも認められず、愛されず、立派な家もなく、ただただデータを入力をする日々。17年間、コツコツと……。同僚たちは見下して叩いて蹴って馬鹿にしてきます。上司は見て見ぬふりどころか、こき使いっぱなし。そんなセミが退職することになっても、もちろん誰も何も言いません。最後の仕事を丁寧に終えたセミはその足でビルの屋上へ向かいます。……誰の心にも残る、“静かで過激な”問題作。世間の歪んだ部分を見えないふりして、なんてことない顔で過ごしている人間の姿は、ときどき理解し難いものがあります。だからといって“セミ”になりたいわけではない……、いや、この作品を読んだらなりたくなるかもしれません。セミが可哀想な物語のように思えるけれど、置かれている状況に気づかない私たち人間のほうがずっと哀れだというメッセージを私はこの作品から受け取りました。美しくて悲しい絵の説得力。無機質にも感じられる反面、ひどく愛嬌のある鳴き声……。絶望にも希望にも感じられました。苦味の残る読後感でしたが、また読みたい、また読んであげたい、そう思ってしまいました。この物語に出会ってから、“セミ”は私の大切な心の友達です。■励まし、鼓舞し、叱ってくれるあなたのための絵本を見つけて子供のためではなく自分のために読む絵本。優しく励ましてくれるのも、鼓舞し勇気をくれるのも、ときにあのときと同じように叱ってくれるのさえも、“絵本”なのかもしれません。いつかの自分のために、お守りのような一冊をみつけて本棚に置いてみてはいかがでしょうか。
2025年02月28日(この記事はアフィリエイトを含みます)多くの成功者が読書習慣をもっているように、本が好きになることにはメリットがいっぱいです。しかし、YouTubeやゲームに囲まれたいまの時代、どのように読書習慣を育んでいけばよいのでしょうか。本稿では、麻布中学・高校教諭の中島克治氏や児童文学評論家の赤木かん子氏、そして『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』著者で、子どもたちの読書習慣の普及に取り組むヨンデミー代表の笹沼颯太氏など、第一線の専門家たちの知見をもとに、子どもの読書習慣づくりの具体的な方法をお伝えしていきます。新学期を迎えるこの時期だからこそ、ぜひ実践していただきたい読書指導のエッセンスが詰まっています。読書習慣は何歳までにつければいいの?読書習慣をつけるなら「できるだけ早いうちから」が正解です。時間にゆとりがある小学生時代までに、本と親しむ機会をたっぷり与えてあげましょう。中学生以上になると、子どもたちの多くは受験勉強や部活動などに時間をとられて忙しくなり、読書にじっくり勤しめる余裕がなくなってしまうからです。麻布中学・高校国語科教諭の中島克治氏は、「子どもが本当に時間を気にせず本と向き合えるのは小学生まで」「なるべく幼い頃から子どもが親しむことができるように導いてあげてほしい」と語っています。また、子どもが読書にハマるオンライン習い事ヨンデミーを運営する笹沼颯太氏も、小学校低学年で読書に目覚め、4年生の頃にはどっぷりと読書にハマったひとり。小学生時代に読書習慣をつけたからこそ、東大に合格したと断言しています。読書という習慣を身に着けるのが、小学生ではなくもう少し遅い時期だったらまた違う人生を歩んでいたかもしれません。すべては「あの時期に本を読んでいた」ことから。そう思うと、小学生時代の読書の意義って、計り知れないと感じます。(引用元:AERA with Kids Plus|「教科書は配られた日にすぐ読んだ」東大在学中に起業した24歳が、読書にハマって変わったこととは?)心ゆくまで自由にたくさんの本と戯れることで、子どもは楽しく読書習慣を身につけられるのかもしれません。笹沼氏も「遊び」感覚で本を読んでいたと語っています。読書習慣を身につけさせたいなら、小学校低学年までがベストタイミング。しかし、お子さんのいまの状況に合わせた適切なアプローチが必要です。まずは、お子さんの読書習慣がどの段階にあるのか、確認してみましょう。わが子の読書習慣ステージはどこ?まずは、いまのお子さんの読書習慣ステージについて考えてみましょう。以下の3つのステージのどこに当てはまりますか?□ステージ1:まだ自分からは本を手に取らない読み聞かせは熱心にしているが、子どもはまだひとり読みをしない本を読むよう促しても、子どもはすぐに飽きてしまう文字を読むこと自体に苦手意識がある□ステージ2:好きな本は読むが、ジャンルが限られている特定のシリーズばかりを読んでいるマンガは好きだが、文字の多い本は避けてしまう読書時間は確保できているが、内容の幅が狭い□ステージ3:本を読み始めたが、本選びに悩んでいる学年相応の本を読めているが、さらなるステップアップを目指したいいまの読書を受験や学習に結びつけたい良書と言われる本がよくわからないお子さんの読書習慣ステージが確認できたら、次は、それぞれのステージに合わせた具体的なアプローチ方法をご紹介します。専門家たちの実践的なアドバイスを参考に、子どもに合った読書習慣づくりを始めてみましょう。【ステージ別】子どもに読書習慣をつけるための方法【ステージ1:まだ自分では本を手に取らない子】【ステージ2:特定のジャンルに興味をもち始めた子】【ステージ3:読書習慣が定着し、次のステップを目指す子】――それぞれのステージに合わせた効果的なアプローチ方法をご紹介します。ステージ1:本との出会いを演出する最も効果的な方法は、書店や図書館に定期的に連れて行くこと。子どもがたくさんの本に出会える環境づくりから始めましょう。実際に大量の本に触れてみる経験をしないことには、子どもにとっておもしろい本もつまらない本もわからないからです。小さな子どもを本のある環境に自由に解き放ってあげると、本棚をじーっと眺めたり、指先で表紙に触れたり、めくってみたり、大きな図鑑を抱えるように取り出して「これ読んで」とせがんできたり。まるで、お店のおもちゃコーナーにでもいるような感じで本に接しているんですね。そんなわが子の姿を見守りつつ、親も気になる本を手に取ってみる。図書館や書店でいろいろな本と遊べる親子時間を、ぜひ過ごしてみてください。前出の中島氏が言うように、子どもは自然に好奇心を刺激されて本の世界に近づいて行くはずです。また、まだひとり読みに抵抗がある子どもなら、「試し読み」の読み聞かせをしてあげましょう。筑波大学附属小学校国語科教諭の白坂洋一氏は、「子どもが読みたくなる、面白そうだと思える工夫をすることが大切」と述べ、全文ではなく最初の一部分だけ語り聞かせるよう推奨しています。Amazonなどの無料試し読みで読んだ話の続きが気になって、本を購入してしまったことはありませんか?それと同じ原理を利用するのです。続きが気になって、自分から本を読むようになるでしょう。Point書店や図書館で子どもが自由に本を探索できる時間をたっぷりとる親も一緒に本を手に取り、本との出会いを楽しむ親子時間を過ごす読み聞かせは「試し読み」から始めて、続きへの興味を引き出すステージ2:好きな本を思う存分に乱読させるこのステージでは、子どもの興味を最大限に尊重することが大切です。児童文学評論家の赤木かん子氏は、子どもに自由に乱読させることを推奨しています。具体的には、公共図書館に連れていって、子どもが持ってきた本は何でも「ああいいよ、いいよ」といって読んであげる……本屋さんに行って、その子が欲しいというものを「ああいいよ、いいよ」といって買い与える……という姿勢です(引用元:STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|「つまらない本」を知ることも大事。図書館での“3千冊の乱読”から子どもが養う大事なもの)コツは、子どもが好きな本を好きなように読ませてあげること。逆にやってはいけないことは、親が選んだ本を子どもに読ませようと頑張ってしまうこと。たとえば子どもが図鑑ばかり欲しがっていたら、「いま、この子はこういう分野に興味があるんだな」と受け止めましょう。「たまには違うジャンルの本を読ませたい」という気持ちは脇に置いて、まずは子どもの「好き」を思う存分に満たしてあげることが、長期的な読書習慣につながります。「たまには違うジャンルの本を読ませたい……」と思うこともあるかもしれませんが、興味のないものを強制されるのは子どもにとって苦痛なだけ。大人でもそうですよね。誰しも好きなことはたとえ止められてもやりたいものです。幼いうちから好きな本に好きなだけ没頭する幸せな時間をたっぷり過ごしていれば、自ずと本の虫になるでしょう。Point子どもが選ぶ本は否定せず、好きなだけ読ませてあげる同じジャンルばかりでも心配せず、興味の対象として受け止める親の意見は控えめにし、子どもの「好き」を最優先するステージ3:読書体験を共有し、世界を広げる読書習慣が定着してきた子どもには、親子で同じ本を読み、感想を共有する時間をもってみましょう。「この場面、どう思った?」「このキャラクター、おもしろいよね」など、気軽な会話から始めると◎です。自分の感想や考えを親に認めてもらえることで子どもの自己肯定感が高まると、心理カウンセラーの中島輝氏は断言。本のなかの多様な価値観について話し合うことで、視野を広げるきっかけにもなりますよ。特に小学校中学年から高学年にかけては、友だち同士で本の感想を話し合う機会をもつことが効果的。「自分はこの部分がおもしろかった」「ここが感動した」といった感想の共有は、子どもたちの読書体験を豊かにし、新しい本との出会いのきっかけにもなるはずです。*4教育評論家の親野智可等氏も、インターネットでほかの読者の感想を探したり、好きな有名人のおすすめ本を読んでみたりするのもよいと提案します。読みたい本を探す体験は、子どもの世界を広げ、自分自身の好みや興味を知るきっかけになるでしょう。ただし、子どもの本の選択に際して気をつけたいのは、親からの強制を避けること。親野氏が強調するように、「そんな本を読むの?」といった否定的な声かけは避け、子どもが自由に本を選べる環境をつくることが、「本が好き」という気持ちを育てる土台となります。*5Point親子で同じ本を読み、「おもしろかった場面」など気軽に感想を共有する同年代の友だちと本の感想を話し合う機会をつくるインターネットの感想や有名人のおすすめ本など、新しい本との出会いを広げる厳選!子どもを本好きにするアイデアがつまった書籍最後に、子どもを本好きにするためのメソッドが学べる書籍を4冊ご紹介します。これらの本には、まだ本を手に取らない子どもから、より良い本を求める子どもまで、さまざまなステージに対応したアドバイスがつまっています。【編集部おすすめ書籍1】『12歳までに身につけたい かしこくなる読書の超きほん(未来のキミのためシリーズ)』赤木かん子著(朝日新聞出版)未知の世界を知るツールとしての本のこと・図書館の使い方・本の読み方・レポートの書き方・本の歴史とつくり方まで、役立つ情報が詳しくわかりやすく紹介されています。各章の始めにパッと内容がつかめるマンガがついているので、親子で一緒に読んでみましょう。実践的なメソッド例:マンガで楽しく学ぶ読書の基本スキル図書館の効果的な活用方法わかりやすいレポートの書き方テクニック本の歴史から学ぶ読書の意義親子で一緒に読み進める学習法【編集部おすすめ書籍2】『子どもを読書好きにするために親ができること』白坂洋一著(小学館)本記事でご紹介した内容も含め、国語教師であり父親でもある著者が、自ら実践している効果的なメソッドを伝授。本に興味がない子がどのように読書習慣を身につけ、人として大きく成長していくかが具体的にわかる実例も豊富に紹介されています。実践的なメソッド例:段階的な読書習慣の形成方法本に興味がない子どもへのアプローチ法年齢に応じた本の選び方ガイド日常的な読書環境の整え方小学生向け推薦図書246冊の活用法【編集部おすすめ書籍3】『子どもを本好きにする10の秘訣』高濱正伸, 平沼純著(実務教育出版)「子どもにどんな本を読んであげればいい?」「図書館や本屋に連れて行ったあと、どうすればいいのかな?」そんな問題を解決したい親御さんにイチオシの本。本書の著者だけでなく、子どもたちや親たちが選んだおすすめ本満載の「8分野291冊のブックリスト」は、必見の価値ありです。実践的なメソッド例:図書館で10冊借りて選ばせる効果的な方法書店で本を同時に2冊買う戦略的アプローチ読み聞かせの実践テクニック避けるべきNGワードとその代替表現8分野291冊のブックリストの活用方法【編集部おすすめ書籍4】『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』笹沼颯太著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)「本よりも動画に夢中なわが子。どうすれば読書の楽しみに目覚めさせることができるのだろう?」そんな切実な親の疑問に応えてくれます。小学生全学年対象の「レベル別100冊」のブックリストつき!実践的なメソッド例:表紙だけ見て「どんな本?」予想ゲーム「さすがは読書家だね!」などの効果的な声かけ読書に集中できる時間と環境づくり新ジャンルへの段階的な導入方法アフターゾロリ問題への対処法『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』著者の笹沼颯太氏より、特別メッセージをいただきました。↓↓↓~STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ読者のみなさまへ~読み聞かせはたくさんしてきたはずなのに、いまやすっかりYouTubeに夢中……。本を読むどころか、国語や算数の文章題も、教科書自体も苦手……。そんなお悩みを多くの保護者の方から聞きます。「子どもにとって読書は大事」ということは、誰も否定しないほどに広まっていますが、「子どもにとって読書は “必要” なのか」、必要だとしたら「なぜなのか」という問いに正面から答えられる人は多くないと感じています。『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』では、そもそもなぜ子どもたちにとって読書が必要なのか。読書を軸とした教育・子育てとはどういうものなのか。それらを踏まえたうえで、実際に子どもが読書にハマるためのサポートはどうすればいいのかについてまとめました。お子さんと本・読書への向き合い方に悩んでいる人は、ぜひ手に取っていただければと思います。笹沼氏が代表を務めるヨンデミーは、小学生向けのオンライン読書教育サービス。プロ講師が本の要約や読解のコツを指導し、思考力・表現力を育みます。利用開始から3か月で、1週間あたりの読書平均日数が5.3日に!?受験や将来の学びにも役立ちます。さあ、お子さんの読書力を伸ばしましょう。いまなら30日間無料体験中!***子どもに読書習慣を身につけさせるコツは、おもちゃで遊ぶような感覚で本を読む楽しさを経験させてあげること。まずは親子で気軽に本選びを楽しみ、子どもの「好き」を大切にしながら、一歩ずつ読書の世界を広げていってください。新学期からの新しい習慣づくりに、ぜひお試しください。文/上川万葉(参考)*1STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|我が子に“読書好き”になってほしいなら。ぜひ身につけさせたい「読み癖」とは*2AERA with Kids Plus|「教科書は配られた日にすぐ読んだ」東大在学中に起業した24歳が、読書にハマって変わったこととは?*3STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|「つまらない本」を知ることも大事。図書館での“3千冊の乱読”から子どもが養う大事なもの*4EDUPEDIA|読書が好きになる~先生・親ができること~(白坂洋一先生教育技術×EDUPEDIAスペシャル・インタビュー第35回)*5ベネッセ教育サイト|親野先生に聞いた!子どもが本を読むようになるヒントとは
2025年02月24日元メジャーリーガーの上原浩治が19日、自身のインスタグラムを更新。【画像】上原浩治が本格芋焼酎「霧島」をロックでいただく!読書をしている写真とともに、「読書 で、心を落ち着かせる…ことが出来ない」とユーモアたっぷりに投稿した。 この投稿をInstagramで見る Koji Uehara(@koji19uehara)がシェアした投稿 ファンからは「東野圭吾さんの本はどれも面白いですよね!」といった声や、「これまだ読んでないので読んでみます!」という反応が寄せられ、ファンの間でも読書熱が高まっている様子だ。投稿には多くのいいねが集まり、上原の気さくな人柄が伝わる一幕となった。
2025年02月18日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹今夜はバレンタイン。多くの人を魅了して止まないチョコレート。そんなチョコレートの香りがする物語を通じて、バレンタインの夜をひとり、楽しんでみませんか……?今回は、タイトルに“チョコレート”が添えられた、甘くてほろ苦い……だけではない、味わい深い小説を紹介させていただきます。なぜこの物語に、このタイトルなのか……。一度読んだ方も、まだ読んでいない方も、挿絵や装丁/タイトルの意味を考えながら物語の世界に向き合ってみてください。今の自分にしか気づけない新しい発見があるかもしれません。1. ロアンド・ダール『チョコレート工場の秘密』某有名映画の原作でもあるこの作品。奇想天外、荒唐無稽なアイデアとワクワクする展開。大人社会の欺瞞と傲慢に対する痛烈な皮肉が同居する物語でもあります。決して長くはない紙幅を、個性豊かな各キャラクターの描写にしっかり使っているため、感情移入が容易にできました。工場に入るまでに結構なページを割いていますが、全く長さを感じず、むしろ私はそこが一番好きなパートかもしれません。何よりこんな世界を思い描ける頭脳が欲しい……。何回読んでも、物語を知っていても楽しめます。ウンパッパルンパッパたちの脚韻や訳者の講演部分で話されていた姓名の翻訳の仕方などのテクニックも、大人になった今、再読したからこそ気づくことができ、訳者の柳瀬尚紀さんが著書に書いておられた「日本語は天才だ」の言葉の意味を再認識できました。読後、この世界の続きを想像して胸を弾ませる人は私だけじゃないはず。児童書ではありますが、大人にこそ響きます……何も考えずに手放しで楽しみたい夜にぜひ。2. 乙一『銃とチョコレート』小さな町で暮らす少年が大人へ近づく冒険と成長を描いた本作品。中盤からまさかの裏切りの連続……当初児童書として描かれたものなので、文章はひらがなが多く読みにくさもありますが、よくある王道少年探偵団ものとは大きく異なり、大人でも充分に楽しめます。巧妙なトリックや唸らせる展開というのは多くないのですが、とにかくテンポが良く一気に読めました。登場人物全員に裏があり、その裏の姿が明確になったとき、この物語は本当の顔を見せる……帯に書かれたこの言葉にこそ裏がある始末。子供の頃にこの本に出会っていたらきっとミステリーを好きになるきっかけの一冊になったと思います。“銃”と“チョコレート”……果たしてどんな関係があるのかと思いながら読み進めましたが、読み切った後にひと息ついて、納得。裏の裏のその裏まで緻密に考えられていました。とにかく難しいことは考えず、童心に返ってこの作品を“純粋に”楽しんでみていただきたいです。児童書だからと侮ることなかれ。3. 町田そのこ『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』まるで、金魚鉢の中で泳ぐ魚のように現状の閉寒感に息が詰まりそうだったり、何かしら生きづらさを抱えている登場人物たちが、悩み苦しみながら、そこから踏み出したり、あえてその場に踏みとどまったりしながら生き抜く強さを描いた全5作からなる連作短編小説。その短編たちがどこかで繋がっているという一冊です。どの話も“ただ生きる”ということの難しさを私たち読者に訴えかけてきます。町田そのこさんの小説は柔軟剤が混じっているのではないかと思うほど、いつも読後は柔らかい気持ちになるのが印象的。本作品も本当に素敵な連作短編で繋がり方もすべての章での比喩表現も大好きでした……。これがデビュー作というから驚きです。特に、私は4作目の“溺れるスイミー”が刺さりすぎて一瞬息が詰まりました。群れにいたいと望むのにいられない……わかりすぎて苦しかったです。どんな状況の中にあっても誰かに愛されたり優しくされた記憶を抱いてみんな生きていく。泳いでいく。切なくて悲しいはずなのに優しい気持ちになる読み心地でした。ひとりの夜、胸の奥が落ち着かない夜にぜひ、この中のひとつの短編に触れてみてください。■チョコと楽しむ、読書時間じつは、本当の意味で“面白くない物語”なんて、私はこの世にひとつもないと思うのです。少なくとも私は、どんな作品でも面白がることができる人でありたいと思っています。ぜひ皆さんも、チョコレートでも食べながらさまざまな作品に浮気して、読書時間を楽しんでみてください。
2025年02月14日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹とくに、これといった理由はないけれど、うまく眠れない夜ってありますよね。「次の日、朝が早いから、疲れているから」と寝に急いでみればみるほど、どんどん目が冴えてしまい、余計な考えごとをしてしまったり、新しい悩みが浮かんできて不安になってしまったり……。そんな誰にでもある“負の”眠れない夜は無理に自分を寝に追いやらず、“眠らない”夜を自ら選択して過ごすのも悪くないと思うのです。今回は、読み始めたら眠れなくなるような、興奮必至の少し刺激的な物語たちを紹介させていただきます。余計なことを考えてしまう暇もないほど眠れない読書体験をあなたに。1. 今村夏子『あひる』本作は、3つの家族が織りなす優しくて温かくて残酷な短編集。どの短編も微妙な異物感が平穏なはずの暮らしに危うさを運んできます。切なくなったり、笑いそうになったり、笑うのは不謹慎かと思い直したり……。いろいろな感情が忙しく、頭の中、そして心の中をグルグルと回っていきます。今村氏は、何かが足りない人を描くのが本当に上手いのです。誰もが既視感を感じる幼少期の思い出“のようなもの”。無意識にあるいは意図的に蓋をしていたのかもしれない日常のしこりを増幅して目の前にさりげなくポンと置かれたような感覚に陥りました。人が死んだり大きな事件が起きるわけでもありません。むしろ、些細な日常の積み重ねがじわじわと心に残り、読み進める程に言いようのない不安や切なさが滲んできます。物語自体は静かに終わるのに私たち読者の心には妙なざわめきが残る感覚……。今村氏の作品は、登場人物の内面を直接描くのではなく、言葉にされない余白や行間に感情を宿らせるのが魅力なのです。何気ない日常の奥に潜む違和感を見つめ直したくなる、そんな余韻のある一冊でした。ページ数も少ないのでさくっと今村氏の世界を味わいたい人はぜひ。2. 君嶋彼方『君の顔では泣けない』青春小説でありながら、単なる成長物語にはとどまらない本作。男女の体が入れ替わってしまうという使い古された設定のように思えますが、これは唯一無二の真新しい“男女入れ替わり作品”です。物語の冒頭は“年に一度だけ会う人がいる。夫の知らない人だ。という一文から始まります。この一文から始まる物語に読者は皆、息をのむことになります。入れ替わったことに伴うドタバタや入れ替わった者同士の愛が主題ではなく、元少年のヒロインを中心にその後の半生がじっくりと生々しく描かれていくこの作品。家族や友人との関係性が一変する様子は切なくて、ぐっとくると同時に、泣いてはいけないんだと自分に言い聞かせながら読み進めました。……だって物語の中の彼はきっと泣いていないから。他人になってしまった家族、家族になってしまった他人。人が生まれ、人に生かされ、人として生き、また人に生かされる。人生において“誰かと入れ替わってよかった”と思えることがもしあるのだとしたら……。読後は自己とは何か、他者との境界とは何かといった深く答えのない問いが胸の隅に残りました。たんなるフィクションの域を超えて人間の本質や社会のあり方まで考えさせられます。改めていい物語、そしていいタイトル。読んだというよりも読まされた一冊でした。3. 藤原伊織『テロリストのパラソル』本作は、江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞した異色のハードボイルド小説。物語は、アルコールに溺れる主人公が偶然遭遇した爆破事件をきっかけに巨大な陰謀に巻き込まれていくという展開なのですが……本作の最大の魅力は緻密に組み立てられたミステリー要素だけではなく、主人公の内面を深く掘り下げた文学的な筆致にあると感じています。事件の真相を追うスリリングな展開が続く一方で、主人公の過去と葛藤が巧みに織り込まれており、普段こういった作品をあまり読まない私でさえも、ただのサスペンスにはとどまらない奥行きを突き付けられました。藤原氏の洗練された文体は硬派でありながらも読みやすく、読後は単なる謎解きの爽快感とは異なる静かで熱い余韻が残ります……。社会の影に生きる男の人生を描きながら、時代の空気や人間の技が巧みに表現されているこの作品。ハードボイルドやミステリー作品が好きな方はもちろん、骨太な人間ドラマを求める方にもぜひおすすめしたい一冊です。次のページをめくらずにはいられない興奮を味わってみてください。■眠れなくてもいいんです今回は、少し角度を変えた3作品を紹介させていただきました。装丁からは想像できないような物語、新しい感情に出会える物語。もちろん睡眠はとっても大切ですが、本当に眠れない日は、眠らなくても大丈夫。暖かいミルクでも飲みながら眠れない理由を物語のせいにしてしまいましょう。
2025年01月31日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹叶うなら今すぐ記憶を消してもう一度読みたい一冊、皆さまにもありますか?こうして書評を書かせていただいたり、なんとなく自分が今までに読んできた本の記録を見返していると、できることなら記憶を消してもう一度最初に読んだ時のあの感動を味わいたい……と強く思うことがよくあるのです。もちろん二度三度と読み返すことで新たな発見があったりと、何度でも楽しめるのが本の魅力のひとつでもありますが、“初見の感動”はもう二度と戻ってきません。そう、子供時代の純真無垢な心が戻ってこないのと同じように。それほど一冊の本との出会いというのは尊いものなのだと私は思うのです。今回は、年間平均200冊以上を読む私が、今すぐに記憶を消してもう一度読みたい小説を、3作品紹介させていただきます。もし、まだ読んでない本がありましたら、初見の感動を思う存分、堪能してみてください。1. 貴志祐介『新世界より』上/中/下私が迷わず記憶を消したいと一番に頭に浮かんだのがこの一冊。とにかく面白いです。もう何度も読み返していますが、本作を越える衝撃に出会いたいと日々思うほど、初めて読んだときの強い快感が忘れられずにいます。物語の舞台は千年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町。管理され、醜悪なものが徹底的に排除された、美しきユートピア。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力」を得るに至った人類が手にした“確かな”平和……。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。上中下巻と長篇のSF小説となっており、上巻は濃密で広大な世界観を描くための序章、背景からしっかりと描かれていくので少し退屈してしまうかもしれませんが、中盤からは怒涛の展開、本を捲る手が止まらなくなります。読み進めていく中で何度も倫理観が揺らぐ感覚に陥り、ある種のホラーかもしれないとも思えるこの作品。初見の方はとにかく心して楽しんでください。脳が気持ちいい疲労感に包まれるはずです。2. 歌野晶午『葉桜の季節にきみを想うということ』ネタバレを避けてここで本作について言えることがあるとするならば、「誰もこの物語の結末を“当てる”ことは決してできない」ということ。初見の方なら必ず、なんの違和感もなく、息を吸うように、“騙され”ます。ああ、まだ読んでない方が本当に羨ましい……。これぞ小説だからできる仕掛け。もちろん世界観が音を立てて崩れるどんでん返しも痺れますが、装丁のイラストとタイトルの意味を理解してしまった瞬間の衝撃は、今でも忘れません。似たような設定や仕掛けのある物語はたくさん読んできましたが、それらとは大きく違っていて、自分の固定概念を覆されるようなスピード感で、読み手の想像力の限界を尽くさせてくる感覚。主導権を握られてしまい悔しさ半分、本作に出逢えた歓喜半分の読後感でした。正直、殺人が殺人を呼ぶような猟奇的な事件や起きるわけでも、怒涛の展開に慌てて思考を巡らせるわけでも、印象の強い登場人物がいるわけでもない物語ですが、難なく読ませてくる歌野晶午氏の筆力に圧巻。是非、事前情報なしで読んでいただきたいです。いつかこの物語を私が忘れたころにもう一度読み直したいと思います。忘れられればですが……。3. 辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』瞬殺された母と疾走した娘。親友と呼ぶには距離のできた幼馴染がその娘の行方を追う本作品。“だれに”とかではなく、いろいろな人物に少しずつ共感できた……いや、できてしまいました。登場人物の女性たちは、互いに蔑みや嫉妬がありつつも、いわゆる“ドロドロ”とは違う。彼女たちはなんだかんだお互いを気遣い、都度、許したりもしていて、思春期の女友達や見え隠れする不穏な関係が、まさに“ありのまま”に描かれており、昔感じたような不快感さえ蘇ってきます。人が何を口に出し、何を口にださないのか。30代という特別な年齢の女性を巡る内面の物語。そして、この本のタイトルでもある、ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ……。この言葉に込められた意味を知ったとき、あなたは想像を超える衝撃と感動で全身満たされること間違いありません。物凄く不器用で、なおかつ物凄く深い母親の愛がこのタイトルに詰まっているのです。ただお互いに愛し、必要としていただけだったのに……。一章と二章で視点が大きく変わるのですが、物語の根底にあるのは複雑な女性同士の格差や母娘関係にあるため、男性にとっては難しいと感じるテーマかもしれません。辛くて悲しいけれど、もう一度初めて読んだ頃に戻って出会いたいあたたかい一冊です。■感動体験をくれる1冊の本との出会いを今年もまだ読んでいないというあなたが本当に、本当に、羨ましい3作品です。伏線回収や大どんでん返しなど、何度読んでももちろん楽しめますが、やはり初回の感動はもう二度と味わえません。一冊の本と出会うというのは、そういうこと。もう二度とない感動をより多く味わうために、私は今年も毎日欠かさず本との出会いを探し続けます。
2025年01月17日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹12月も半ば。寒さ本番とはいえ、人が集うイベントも多いこのシーズン。澄んだ空気にイルミネーション、テレビに映る街には素敵な景色があふれているはずなのに、何かに追われるように毎日を過ごしてしまってはいませんか……?年末にかけて何かと慌ただしくなる今だからこそ、あえて誰もいない、誰も見ていない、静かな場所でひとり、物語の世界に浸ってみるのもいいかもしれません。今回は、限られた時間でも充分に楽しめる、読みやすくて優しい物語をご紹介させていただきます。ぜひ、忙しさを言い訳にせずほんの数分でも自分に時間をプレゼントしてあげてください。1. 凪良ゆう『流浪の月』本作の発表当時は、驚きと興奮で出版社と世間をザワつかせた2020年の本屋大賞受賞作。圧倒的な筆力に心が震えました……。心に傷を負った9歳の少女と19歳の青年が2カ月のときを共に過ごし、心を通わせた、その自由であたたかくて穏やかな時間は、やがて世間から“女児誘拐事件”と呼ばれることに。それから15年。事件の被害者として腫れ物のように扱われてきた女性と、加害者として陽の当たらない道を生きてきた男性。この物語の中で描かれているのは、世間の“常識”の範疇にはない、被害者と加害者、男と女の関係性。「事実と真実の間には、月と地球ほどの隔たりがある」重たく物語のテーマがのしかかってきます。ふたりの男女がお互いを思いあうこと、その全てがこの一冊に詰まっています。著者の紡ぐ言葉は突き放しているように思えて、あたたかく、優しく感じました。傷だらけになりながら相手を思う、言葉の通り、全身全霊をかけた“優しさ”の全てがここにはあります。読後はふたりの幸せを願うとともに自身の幸せについても考えたくなるそんな一冊でした。個人的にはアニバーサリー仕様の装丁がお気に入りです。2. 新堂冬樹『虹の橋からきた犬』本作は、ペットロスからの希望を描く物語。主人公は仕事人間で、「ワンコのために仕事を放棄するのか」と部下を叱責するテレビ制作会社の社長。そんな主人公がひょんなことから隣に住む老人の犬を飼うことになり、人間として大切な何かを取り戻していきます。でもそんな日々の中で愛犬の具合が悪くなり……。簡単に言葉にしたくない、そんな読書体験でした。大きな事件が起きる訳でも、怒涛の展開や裏切り、どんでん返しがあるわけでもない本作品ですが、いわゆるお涙頂戴の物語ではありません。著者の実体験を交えて描かれたこの作品は、飼い主と愛犬の関係性、心情、見た景色に感じた匂い、そのあらゆる描写が疑似体験できてしまいそうなほど詳細に、丁寧に、描かれています。「人生を犠牲にし、人を傷つけてまで手に入れる夢など欲しくはなかった」作中にあるこの言葉を読後に思い出し胸が痛くなりました。でもそれと同時に優しさにあふれた物語。とくに、過去に愛犬を看取った経験のある方にはぜひ、読んでいただきたい。普段あまり読まないジャンルでしたが、出会えてよかった一冊。あとがきもお見逃しなく。3. 寺地はるな『大人は泣かないと思っていた』本作は、思い描いていた大人像と現在との乖離について考える7つの連作短編集。当たり前ですがどの登場人物にも人生があり、感情や背景、それらに対する考え方も違う。全員が“生きている”と感じる物語でした。“らしさ”や“こうあるべき”“こうあらねばならない”という呪縛、世間の目。もっと気軽に生きられたらいいのにと思う反面、できるだけ“普通でいたい”“馴染んでいたい”と上手く生きることを望んでしまうのも大人。ひどい、と思っていても作り笑いを崩さず穏便に済ませ、我慢して黒い塊を飲み込んでしまう。どうせ後から泣くなら震える手で小石を投じてから泣いてやろう……と、そんな気持ちになる読後感でした。寺地さんの作品はページを閉じた後にいつも自分の深いところにある何かを手のひらで包みたくなるような気持ちになります。共感とも違うのですが、自分でも気づいていなかった深い傷を、肯定するでも否定するでもなく、ただ静かに手を添えてくれるような。ひとつの集落を舞台にした短編集ですが、どの章にも、切り取って覚えておきたい寺地さんの紡ぐ素敵な言葉達があります。ほっとひと息つく時間が愛おしくなったら、ぜひ。■今年もありがとう、おつかれさま、自分誰かのためではない、自分のためだけに使う時間が一日の中にほんの少しあるだけでも、想像以上に心は満たされるもの。この一年、充分がんばってきた自分に、「おつかれさま、今年も有難う」と声をかけたくなる読書時間をお過ごしください。編集部のイチ推しアイテム
2024年12月13日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹夏から秋、冬、と季節が変わり一気に肌寒くなってきた今日この頃。みなさんが途端に欲しくなるものはなんですか……?私が今、欲しいのは、あたたかいお鍋にあたたかい飲み物、あたたかい毛布。そして、あたたかい物語。今回は寒さでキュッと固くなってしまった心ごと解してくれるような、どこか懐かしく、あたたかい気持ちになれる物語を厳選してご紹介させていただきます。あたたかいお部屋で、ホットミルクでも飲みながら今日この瞬間まで頑張った自分を甘やかしてあげてください。1. 西加奈子『舞台』自分を“演じる”こともある。そんな自分も愛してほしい……。いつも人目を気にして生きてきたことで本来の自分を見失った主人公が旅行先のニューヨークにて盗難にあうところから物語は始まります。突然の無一文、携帯もない、英語もままならない、そんな主人公はなりふり構わず死に物狂いでニューヨークの街を徘徊し、徐々に自分を取り戻していきます。“いやいやそんな奴いないだろ”の一行後に、“あ、自分もこういう思考に陥ることよくあるな……”と青くなるような生々しい人間性の描写。いつしか主人公と“自分”をひどく重ねて恥ずかしくなっていました。太宰治の「人間失格」をオマージュして描かれたという本作は、主人公の自己防衛からなる言動の数々が魅力のひとつ。中にはこの思想に共感しすぎて首が取れるほど頷いてしまう人もいるかもしれません。だからこそ、ラストの展開には大きなため息がでますし、物語を読み進めながら自分自身と対峙し、自分の、いや誰かの心にまで寄り添いたくなるのです。巻末にある、早川真理恵さんと西加奈子さんの特別対談も必読です。2. アレックス・シアラー『チョコレート・アンダーグラウンド』選挙で政権を勝ち取った“健全健康党”によって突然チョコレートを禁止された国民。誰がこんな世界を想像できるでしょうか……。ありそうでなかったその法律。大人の無関心によって生まれた暴走する権力者に、子供たちとそれに影響された大人たちが自由を求め、抵抗し、勇気を出して立ち向かう物語です。一度読み進めたら止まらず、500ページを超える大作ではありますが、時間を忘れて物語に没頭できること間違いなしの痛快ストーリー。ただ、本作にあるチョコレートがもし別のものだったら……なかなか笑えませんよね。そう、これは諷刺作品でもあるのです。私も10数年ぶりくらいに再読しましたが、大人になって読むからこそわかる皮肉とユーモア、そして怠慢と無関心の恐ろしさ。冷静と興奮が隣り合わせに描かれていくのが妙にリアルで、読みながら何度も声が出てしまいました。こんなに良くも悪くもワクワクしたのはいつぶりでしょうか。たかがチョコレート、されどチョコレート。「すべての人に、自由と正義とチョコレートを!」3. 江國香織『とるにたらないものもの』日常で使用する何気ない“モノ”にも自分だけの記憶や想いが潜んでいると思うと、なんだか愛おしく感じませんか……?本作は石鹸、フレンチトースト、書斎の匂い、輪ゴム、ゆで卵など……とるにたらないけれど暮らしの中で欠かせない“モノ”への愛おしさを綴った短編エッセイ集です。江國香織さんの特有のユーモアセンスと、読み手にも温度が伝わる有形無形の“モノ”への愛着。見慣れたものからささやかに送られるメッセージと、それに囲まれて生きる安堵感がきっと貴方にも蘇るはずです。“エッセイ”という括りにとどめておくにはもったいないほど詩的な作品で、作中の言葉が少し古臭い感じもとても好き。「青信号が“すすめ”だからゆっくり見られない」という発想は、良く考えれば非常に単純なことなのに目から鱗でした……。不意打ちで大好きな安部公房の名前が出てきたのも嬉しかった。とにかく、文章が、言葉が、視点が、距離が、本当に素晴らしい。過去や日常を綴った私の延長線上にもあるようなテーマばかりなのに私の延長線上ではとても綴れないような、“暖かくて冷たい”言葉たち。そう、あたたくて、つめたい。ふっと心の糸が緩むようで心地の良い読書時間でした。■心をあたためるなら、読書で冬本番に近づくこの季節。体を温める方法はたくさんありますが、心をあたためるなら読書一択。お守りのような一冊があるだけで凍えた心も嘘みたいに解けて落ち着きます。あなたの秋の読書時間が、少しでも暖かいものになりますように。
2024年11月15日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹衣・食・住、読書。……といっても過言ではないほど私の日常に欠かせないのが本を読むということ。どんなに朝が早い日でも、どんなに夜が遅い日でも、体調が優れなくても、ほんの数分の移動時間でも、隙を見つけては読みかけの物語に毎日、触れてきました。といっても目が疲れてしまったり、肩や首がすぐに痛くなってしまったり……。本を読むというのは、すごくシンプルなことでありながら身体への負担も少なくはありません。そんなとき、かゆいところに手が届く便利な読書グッズ。たった少しのアイデアで、さらに快適な読書体験を味わうことができるかもしれない……と思うとそれだけで胸が高鳴りませんか?使わないなんて、もったいない。今回は、私が実際に愛用して良かった、物語を彩る便利な読書グッズの一部をご紹介させていただきます。みなさんの読書時間がより素敵なものになるきっかけになれますように。※本記事で紹介している商品は、読者の皆さまにイメージをもっていただきやすいよう編集部が選定したものであり、八木奈々さんの私物または推奨する商品ではございません。1. 読書灯暗いところで本を読んだら目が悪くなる……そう分かっていても一点に集中した灯りのもとで読む物語には、特別な魅力があるもの。とにかくお洒落な灯りをもとめてはいくつもの読書灯を試してきましたが、今は旅行などにも簡単に持っていける手軽な充電式のものに落ち着きました。家の本棚には随分と前に一目ぼれした「Lumiosf」のブックランプが置いてあり、最近は花瓶にいれて灯すチューリップ型のLEDライトも購入。もう足りてるのに……と思いながらもついつい惹かれて購入してしまいます。今、この世界には目の前の物語と私しかいない……それが愛おしく思えるほど集中できる空間での読書はかなり依存性が高く、素敵な時間です。2. 香り(CULTI/THE(ベルガモット.煎茶.グアヤク))他玄関、リビング、寝室……部屋によって香りを変えている人は多いのではないでしょうか?私もそのひとり。香りというのは家でも外でも、記憶のなかに強く残るもので、以前どこでその本を読んだのか、香りと共に物語を思い出すことも少なくありません。外出時には自身の好きなアロマを持ち歩くのもおすすめです。強い香水などにしてしまうと本にまで香りがついてしまうので個人的にはおすすめできませんが、香りを変えて読む物語は、ときに全く別の味がするもの。視覚だけではない嗅覚でよむ読書体験、きっと貴方もはまって抜け出せなくなります。3. しおり(collection / 44種)外出時の読書は、本に挟むタイプの可愛い栞(しおり)を使っていますが、お家での読書では“スワンタッチ”一択。可愛さよりも機能性重視です。最大の魅力はページを捲ると同時に勝手に追いかけてきてくれるのでそのまま寝落ちしてしまっても大丈夫ということ。寝に入るギリギリまで物語の中に潜り込んでいたい私にとっては大切な必需品です。他にもページを閉じるときに自動で栞を挟んでくれる“アルバトロス”や、一度本にはめてしまえば栞が挟まってくれる“ページキーパー”などの類似商品もたくさんあります。何も考えずにただただ好きな物語の中で寝落ちしたい、そんな夜にぜひ。4. ブックダーツ/スリップメモ本を読んでいると記憶に残しておきたい感情との出会いが幾度もあります。携帯のメモ帳に残してみたり、読書日記をつけてはいるものの、やはりその瞬間、その時の興奮のまま、本そのものに何かの印を残しておきたくなることもあります。そんな時におすすめなのが、“ブックダーツ”や“スリップメモ”。本に直接書き込むことに抵抗がある方はもちろん、図書館で借りた本などにも使用できます。久しぶりに読む本を開いたとき、しるしを見て、過去の自分が何を想ったのか考えてみる時間もまた、いいものです。読書って楽しい。5・ブックカバー(collection/62 種)/ブックバンド(collection/18 種)鞄の中に本を入れておくと気付いたらページが折れてしまっていることありませんか……?大切な本。涙の跡がついてしまったり、珈琲をこぼしてしまったり、そんな読書中のハプニングさえもその一冊との大切な思い出として楽しむ気持ちは素敵ですが、叶うなら長く、綺麗な状態を保っていたいもの。ブックカバーやブックバンドをするだけでも本に触れてない時の予期せぬトラブルは大幅に防げます。今はあらゆるサイズのものが販売されていますし、どれも本当にデザインが可愛いので毎朝の洋服を選ぶようにカバーやバンドを着せてみてはいかがでしょうか。物語の内容とリンクさせて選ぶのも、あえて外して選んでみるのもまた粋なものです。6. 読書枕/ビーズクッションこれは言わずもがな、必需品……ですよね?もし使ってない人がいるなら今すぐにでも購入して頂きたいです。しっかり横になれる大きなクッションも魅力的ですが、膝にかかえるものや腕の中に抱えられるもの、首の後ろや腰を支えるもの、さまざまな形が硬さがあります。好みの形や固さ、自身の読書ライフをおくる姿勢にあった枕と出会えたときは心から感動しました。同じ姿勢で気づけば数時間……というのも珍しくないのが読書というもの。読後しばらく動けないなんてことにならないように、体を労われるグッズは大切です。持ち運べる小さいビーズクッションもあるので、許される限りリラックスして物語の中に浸かって見てください。7. バスブックスタンド/サムシング冒頭でもお話した通り暇さえあれば一文字でも多く物語の世界に触れていたい私。読書欲がたまっているときは、お風呂も例外ではありません。浴槽におけるステンレス製のブックスタンドを見つけてからは時折使ってはフラフラになるまで長湯してしまっています。ただ、湿気が影響してページが少し捲りづらかったり、自然と皺や折り目もつきやすくなってしまうので、傷んでもいい古本や勉強中の資格本などを読むのがおすすめです。ちなみに余談ですがサムシングという片手で読書ができる便利なアイテムを使うと、ドライヤーをしながらでも片手間に本を楽しむことができるのでおすすめです。手が疲れないかと言ったら嘘になりますが、溢れてくる読書欲には勝てません。一刻も早く本が読みたい、そんなときにぜひ。8. ブックスタンド/フリップクリップ魅せる収納を叶えてくれるブックスタンドはインテリアとしても人気ですよね。私自身、家の本棚のレイアウトにはかなり拘っているのですが、シンプルながらも無骨な、あくまで本の装丁を際立たせるデザインが私はお気に入りです。そしてもう一つ、本を読みながら作業をしたいとき、本を開いておいておくためのブックスタンドもあります。おもにレシピ本など、料理をするときに私は使います。見開きにした時に折り目が本についてしまうのが気になる方も少なくはないと思いますが、最近のブックスタンドやフリップクリップは土台がしっかりしていたり、強い力がかかりすぎないものも多いので、安心してください。また、お洒落な本棚周りのグッズも多数あるため、これを機に本棚を自分好みに整理してみてはいかがでしょうか?9. マロブラブックホルダーTHE・機能性重視のこのアイテム。少し大きめの本を読むときや、ソファーなどに寝っ転がって本を読みたいときに重宝します。慣れてくると手や首、肩などがほぼ全くと言っていいほど疲れずに長時間の読書を楽しむことができます。そう、どんなに重たいあの本でも。テンションを上げるために見た目の可愛さはもちろん重要ですが、本好きとして一番大切にしたいのは、いかに快適に物語の中にのめり込めるか。本を読むときはどうせひとりです。ひとりであるべきです。周りの目など気にせず目の前の一冊ととことん向き合いましょう。10. 耳栓私は可能な限りの無音の中で本を読むことに若干の拘りがあります。というのも、本好きの方には多いかもしれませんが、許される限り現実から離れたところで物語の世界を堪能したいのです。脳内で物語の中の生活音や登場人物の声を想像する時間も含めて大切な時間。耳栓をはめた瞬間、世の中の喧騒がほんの少しだけ遠くに行くあの感覚……そして両手に収まった物語……。このときに感じる快感がもはや私の性癖なのかもしれません。収納ケースがついてるものや使い捨てのものもたくさんあり、値段的にも手頃に購入できるのでぜひ騙されたと思って一度試してみてほしいです。ほんの少しのことですが、大きな魅力を生み出します。今回はいつもと角度を変えたテーマの記事にしてみました。この他にも電子書籍のタブレットをはじめ読書グッズの種類はさまざま。みなさんのライフスタイルに合った便利グッズを上手く活用して、自分の心を最優先した読書ライフをお過ごしください。※本記事で紹介している商品の一部には、アフィリエイトリンク(広告)が含まれております。
2024年11月01日魅了屋(神奈川県横浜市)は、このたび新商品「SUZUME HYAKU MADE ODORI WASUREZU(雀百まで踊り忘れず)」という名前の読書記録カードを発売いたします。この製品は、読書から得た知識やインスピレーションを記録し、自分の人生に活かすための新しいツールです。全体像(画像は縦折り)【商品の背景】「雀百まで踊り忘れず」ということわざは、幼い頃から学んだことが年を重ねても生きる、という意味を持っています。この読書記録カードは、その言葉の通り、読書を通じて得た知識や学びを未来の自分に役立つものとして定着させたいという思いから企画されました。忙しい現代の中で、ただ読むだけではなく、得た知識をどう日々の生活に活かすかを考えることで、読書の価値をさらに深めることができます。【「SUZUME HYAKU MADE ODORI WASUREZU(雀百まで踊り忘れず)」の特徴】「SUZUME HYAKU MADE ODORI WASUREZU」読書記録カードは、三つ折りのシンプルなデザインで、持ち運びやすさと書きやすさを兼ね備えています。コンパクトながら、あなたが読書から得たインスピレーションや知識を記録するための充実したスペースを提供します。1. 三つ折りカード形式で使いやすい三つ折り構造で、カードはコンパクトにまとめられ、バッグやポーチに収まるサイズ感です。読み終えた後や気になったフレーズを見つけたときに、手軽に取り出してメモできるよう設計されています。また、しっかり広がるため、記録するスペースが十分に確保されており、使いやすさも抜群です。毎日持ち歩きたくなる便利さと、シンプルなデザインであなたの読書ライフに寄り添います。2. 記録欄が充実「SUZUME HYAKU MADE ODORI WASUREZU」には、本の題名や著者、日付、ページ数など、基本的な情報を記録できる欄が設けられています。また、心に響いたフレーズや印象に残った言葉を自由に書き留めるスペースも完備しています。ふとした一言を逃さず記録することで、後から見返したときに当時の感動や学びがよみがえります。シンプルで自由度が高いため、気軽にメモを残すことができるのが魅力です。3. 「自分ならどう活かす?」のアンサーをこのカードは、「自分ならどう活かす?」という問いを通して、読書で得た知識を日々の生活にどう結びつけるかを考える機会を提供します。単なる記録ツールではなく、自己成長を促すきっかけを与えるためのスペースが設けられています。読んだ本の内容を自分のものとして消化し、実生活に役立てることで、読書がもたらす学びがより深まります。【読書の価値をさらに高めるツールとして】「SUZUME HYAKU MADE ODORI WASUREZU」は、読書を単なる知識収集の手段としてではなく、自分の人生を豊かにするための実践的なツールとして捉えた、新しい形の読書記録カードです。記録した言葉やフレーズは、将来の自分を支えるかけがえのない財産になります。読書から得た知識を忘れず、活かすための一歩として、このカードが役立つことを願っています。【商品情報】商品名 : SUZUME HYAKU MADE ODORI WASUREZU(雀百まで踊り忘れず)掲載サイト: 種類 : 横折りまたは縦折り5枚入り 300円(税込)横折りまたは縦折り10枚入り 500円(税込)発売日 : 2024年10月28日販売場所 : 魅了屋公式オンラインショップ(BASE) 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2024年10月29日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹読んでみたはいいものの、想像以上に読後の不快感が残り、後悔した……。そんな経験はありませんか?読後に物語の一節がやけに頭に残っていたり、忘れたい描写が色鮮やかに思い出されたり、面白いが故に恐ろしくリアルに感じてしまうホラー、ミステリー、トラウマ作品を紹介させていただきます。もう二度と読みたくない読書体験で、一緒に後悔してみませんか…?1. 李琴峰『生を祝う』出産=幸せ……ではない。新しい命が誕生することは必ずしも幸せなんてことはない。人間はこの世に生まれた時点で人生という名の無期懲役だ。誕生の意思は親ではなく子供に確認するべきだ。“合意出生制度”。胎児に遺伝や環境などの要因から“生存難易度”が伝えられ、本当に生まれるかどうかの判断が委ねられる近未来の制度を軸に物語は進んでいきます。もし、出生を拒んだ胎児を出産した場合、親は罪に問われる。我が子に会いたくてたまらない母親に突き付けられる出生拒否。冷静に考えればあり得ない設定にも思えますが、技術さえ追い付いてしまえば実現してしまいそうな生々しさと説得力があり、半ば強引に物語に惹きこまれていきました。さまざまな妊婦の視点で物語が描かれているためか、男性嫌悪の傾向が少し強すぎるようにも感じましたが、読みやすいボリュームながら世界観の精度が高く、苦しいのに一気読みしてしまえます。もし、こんな世界が現実になったらどんなことが待っていると思いますか……? 自分の意思として生まれた世界のほうがよっぽど怖いように思えるのはに私だけなのでしょうか……。2. ジャック・ケッチャム『隣の家の少女』なぜ読了できてしまったのだろう……。これほどこの感情を強く抱いた物語は、他にありません。ここでおすすめしておいてこんなことを言うのもなんですが、私は、もう二度と読みません。苦痛と共に生き、“本当の苦痛”を知っていると語る主人公。青春小説のような回想シーンから始まるものの中盤から非情な虐待と暴力に心が削られていきます。狂気に沈んでいく心情、複雑な感情の移り変わりの描き方があまりにも巧みで、本を持つ手の震えが止まりませんでした。トラウマ、監禁、暴行、洗脳、拷問……冒頭から終盤まで一度も光なんて見えません。それどころか、黒く、暗く、もう戻れないところまで染まっていき……。正直、こうして今、思い返して文字に起こすのも戸惑うくらいには後悔しています。でも、もし私が同じ空間に生きる子供だったら、同じことをしてしまっていたのかもしれないと思うと心の底にすらなかった何かがえぐり出されたような気持ちになりました。何より恐ろしいのは、この作品が“実話”を元にして描かれた物語だということ。読む際は自己責任でお願いします。3. 我孫子武丸『殺戮にいたる病』たった一言で全てがひっくり返る大どんでん返しミステリー……と各所で謳われている本作品。物語は次々と猟奇的殺人を重ねるシリアルキラーを追う形で進み、冒頭犯人が警察に捕まるところから始まります。犯行を重ねる少年、息子がシリアルキラーだと疑い始める母、定年退職をした元刑事の三人の視点で描かれていくのですが……。真の犯人が冒頭で明かされているのに、どのようにして“どんでん返し”に繋がるのか。そんな疑問を抱きながら読み進め、時系列のピースがはまった瞬間……体中に電流が走るような強い衝撃に襲われました。凄まじい人物トリックとトラウマになるほどグロテスクな描写。理解し難い欲求をもつシリアルキラーも、息子を過保護に心配する母親も、かなり常軌を逸しており翻弄されつつ読み進めました。そして最後の最後で明かされる事実。ところどころに違和感を覚えつつも殺害シーンに引っ張られほぼ思考停止なまま最終ページまで読んで呆然自失。解説まで読んで無理やり落とし込みました。これは再読してスッキリしたいのですが……まだその勇気が出ません。グロ描写が苦手な人は要注意です。■光を見れるかどうかは自分次第今回紹介した三作品は角度は違うものの、どれも私が人に安易に“おすすめできない”作品達です。でも、一度は最後まで読めてしまった物語。ただの胸糞小説とは違います。希望も正解もないラストのその後の世界に思考を巡らせ、光を見れるかは私達次第です……ね。■読書タイムのおともに秋に読書するなら、環境を整えるところから。ベッドやソファでくつろげるようなアイテムを用意して、万全の準備をして充実した読書タイムを……。テンピュールのベッドウェッジミナペルホネンのブランケット
2024年10月18日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹理由はないけど、泣きたい日。あなたにもありますか……?悲しい、寂しい、辛い……誰かに話を聞いてほしいだとか、大きな悩みがあるとか、そんなことではなく、ただ、ほんの少し疲れた日。目まぐるしく過ぎていった一日の終わりのため息と一緒に、日常とは少し離れた物語の世界に身を委ね、涙を流す時間。思わず泣ける作品も素晴らしいですが、思わぬ作品で泣いてしまう瞬間もまた、いいものです。今回は、理由の説明はできないけれど……なぜか、読後泣いてしまっていた。そんな私の心に長く残っている三作品を紹介させていただきます。泣いてすっきりして笑って、みなさんが明日からもがんばれますように。染井為人『正体』凶悪犯か、無実の青年か……。当時27歳の夫と妻27歳、2歳の息子が惨殺された。逮捕されたのは18歳の少年。無実を訴えるも控訴もできず死刑判決を受け……そして脱獄。この作品は、さまざまな場所で潜伏生活を送りながら捜査の手を逃れ必死に逃亡を続ける彼を追う488日の物語。……彼の本当の目的は。冤罪とは。罪とは……。何を話してもネタバレになってしまいそうなほど、一瞬一瞬、一文字一文字が“鍵”となっていきます。終盤まで逃亡する彼の視点で描かれることは全くなく、周りの人間の視点だけで進む構成となっており、そのため、彼の口から現在の心境や恐れが直接語られる場面はほぼなく、読者の想像にそのすべてが委ねられます。……そう、すべて。でも、だからこそ予想外な結末に切ない余韻、辛い読後感が長く残るのです。誰がこんな結末を想像できたでしょうか……。のめり込んで軽快に読める各章の面白さと、それに反するほど重いテーマをずっしりと感じられる重厚な読後感。読んでいる間はずっと彼のことが怖かった……。関わる人を惹きつける、彼のやさしさの“正体”が知りたかった。映画化されることも決まっていますが、ぜひ先に活字で味わっていただきたい。涙の種類が変わってきます。井上真偽『アリアドネの声』「無理だと思ったらそこが限界」……この言葉の意味が読む前と後でガラリと変わる本作品。巨大地震で地下施設に閉じ込められてしまった女性を救う救助劇なのですが……。その女性は“見えない、聞こえない、話せない”3つの障がいを抱えていました。迫りくる崩落、浸水、火災……。命のタイムリミットは6時間。便りの綱は一台のドローン。臨場感あふれる救助描写と、一秒も記憶に留められないドローンの難解機能説明にただただ圧倒されていきます。でも、考えてもみてください。目が見えず耳も聞こえない人を遠隔で安全地帯に誘導するなんて“無理”ですよね。危険地帯となった地下から、それもたった一台のドローンで救い出すなんて“無理”ですよね……。そんな誰もが諦めてしまいそうなほど難関な救出。中盤で生じた疑惑が晴れた瞬間があまりにも鮮やかで、鳥肌が立ちました。そうなるに至った覚悟と恐怖と不安を自分のことのように想像して胸に熱いものがこみ上げてきます。みなさんならどう誘導しますか……? ラストに見えた絶景はこの先もずっと忘れることなく私たち読者の胸に残ることでしょう。規格外の感動を味わえました。出会えてよかった一冊。桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』“こんな人生、ほんとじゃないんだ”。図書館の返却棚でふと目に留まった、“ラノベ三大奇書”のひとつでもある本作品。盛大なネタバレともいえる1ページ目から物語は始まっていきます。変わった性格の転校生とのかかわりを通して、主人公が少しずつ成長していく物語……といえば聞こえがいいでしょうか。青春の、特に塩辛く淋しい部分を凝縮したような味がしました。ただ気をつけてください……。青春小説のような顔をしながら、意識の隅にたしかにあった何かから容赦なく殴られるような痛みを感じさせてきます。この物語の登場人物はみんな、心のどこかが壊れているのです。でも、それは普通のこと。この物語は、自分のことを“人魚”だと言い張る少女が、バラバラ死体になるまでの物語……。正直、心の状態が健康な人にしかおすすめできません。途中で何度かもうここまでか……、もうダメかも、という瞬間があり、今振り返っても苦しくなるような200ページでした。こんなにもさらっと読めて、こんなにも辛く温かい200ページは初めてです。鬱展開ではあるものの、胸糞小説ではない。痛みと愛を余すことなく書ききった名作。……好きって絶望だ。■心を揺さぶられ涙して、最後に優しさが香る物語たち今回は、私の涙腺を揺らした作品たちの中から、それぞれ角度の違う三作品を紹介させていただきました。どれも苦しい、辛い、だけで終わらず、読後に優しさを感じることができます。周りの目を気にせず物語の世界に浸れることは素晴らしいことです。日常とは遠いところですっきりしたいときに、ぜひ。■読書タイムのおともに快適な睡眠環境を提供するためにデザインされた優れたサポートアイテム「テンピュール」のベッドウェッジがおすすめ。睡眠時だけでなく、さまざまな使い方ができ、たとえば背中を支えて読書やテレビ鑑賞を快適にしたり、足を持ち上げればむくみの軽減や血行促進に役立てたりすることもできます。
2024年10月04日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹「新潮社」「講談社」「幻冬舎」に続いて第四弾となる、“本選びのすゝめ”。今回は、文芸のみならず、ラノベや漫画などエンタメにも特化している「KADOKAWA」の魅力をお届けしたいと思います。少し話は逸れますが、本を好んで読んでいる人ならば、好きな本の傾向が偏ってくるのは至極当然のこと。でも、図書館の返却棚や古本屋でふいに出会う、“好きから少し離れた本”になぜか心惹かれ、読んでみたら期待以上……なんて経験はありませんか?なんとなく手にした一冊が、お気に入りの一冊になる快感。そう、本も人も中身が大事。今回は、そんな“本の内面”に私が思わず惚れた「KADOKAWA」の作品を紹介させていただきます。1. 直島翔『テミスの不確かな法廷』本作の主人公は、幼いころに発達障がいと診断され、スペクトラム症(ASD)、注意欠如/多動症(ADHD)、の特性をもつ裁判官。自身の特性と上手く付き合いながらさまざまな事件と向きあっていく新感覚のリーガルミステリーなのですが、よくある“ソレ”とは訳(わけ)が違います。主人公の視点で描かれた3つの事件が収録されている連作短編集となっているこの作品では、その全編を通して、彼の観点や、衝動を抑えるためのルーティンなど、発達障がいゆえの苦悩が細かく描かれていきます。脳の指令なのか、自分の意思なのか、自分の行動がたまに制御できなくなってしまったり、怒り、悲しみ、喜びなどの感情を読み取ることが難しく、今を生きるだけで精一杯……裁判官なのに。そんな彼が不確かな中から真実を見抜くのです。彼だからこそ見える世界や、感じることの語彙が胸に……いや、喉に刺さります。魚の小骨のように簡単には取れてくれません。症状が出始めると読み手であるこちら側まで鼓動が速くなりますが、周りの人たちが少しずつ味方になっていき、最後の最後には、明確ではないけれど確かに、心のどこかにポッと灯りが見えたような気がしました。不確かに、確かな灯りが。2. 浅倉秋成『家族解散まで千キロメートル』家の片付けの最中に、倉庫から出てきた見知らぬ仏像。ニュースで流れていた青森の神社から盗んだご神体にそっくりの“ソレ”。父の犯行を確信した家族が千キロメートル先の青森を目指す……。このあらすじを聞いて、今、あなたが抱いた感情、想像できた結末、それらを遥かに上回る、疑心暗鬼の恐ろしい家族ドライブが始まります……。結婚する姉と完ぺきな夫、お金命の兄、迷惑しかかけない父、無の母。……え、この一家、普通じゃない……? 普通の家族って、なんですか?気づかないレベルで張りめぐらされた伏線の回収や読ませる力、文字の上で転がされる感覚。これぞ浅倉秋成先生。特にこの作品では“家族”とはなんなのかという問いを私たち読者の脳裏に頼んでもいないのに深く埋め込んできます。次々と家族を襲う事件。解決への疾走。こじれる疑念。シリアスもスリルも笑いもあり、特に前半は読みやすいのですが、後半、物語が目まぐるしく二転三転して、ようやく着地したかと思ったら……。価値観と物語がふたつともひっくり返るダブルどんでん返しは初めての読後感でした。読み終わったら、表紙の絵にもう一度だけ目を向けてみてください。3. 岡部えつ『怖いトモダチ』この表紙は小説版ではなく、漫画版のものです。「彼女はいい人?それとも……悪魔?」この作品のテーマは自己愛性パーソナリティ障がい。その特徴は自尊心が驚かされると攻撃をする、自分を正当化するためなら嘘もつく、己を褒めて貰えるように上手く仕向ける、などなど。あれ、もしかして、思い当たる節がありますか……?ある人はその人を崇めて、ある人はその人をサイコパスだと憎む。人によって正反対の印象をもたれる“彼女”を軸に物語はじっとりと体内に纏わりつくように進んでいきます。作品としてわかりやすく障がいと“ソレ”を重ねていますが、本当にそれだけなのでしょうか。表面上の人間性は見る側が好きに解釈したものにすぎません。でも、それを踏まえてもなお、物語の中にいる「トモダチは怖い」という一言ではとても説明がつかないほど、おぞましいのです。実際の被害者が読めば終始あるあるの物語でしょうし、絶妙に組み込まれる加害者の言葉に殺意を覚える人もいるかもしれません。ただ……ここまでわかりやすく掘り下げて書かれていても加害者のタイプに遭ったことのない人には“怖い”という感情は芽生えないのかもしれません。余談ですが、この作品は小説と漫画の2展開で出版されており、それぞれ結末が異なるためどちらも合わせて読むことをおすすめします。……さて、ここで問題です。二番目に怖いトモダチは誰でしょう。わかった方から、逃げてください。■いつもと違う作品に浮気してみて今回は、少し角度を変えた三冊を紹介させていただきました。ぜひみなさんも装丁やタイトル、作家さんだけで読む本を決めず、さまざまな本に浮気してみてください。冒頭にも書きましたが、図書館の返却棚や古本屋は手軽に本を手に取れるのでおすすめです。刺激的な出会いがありますように。
2024年09月20日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹みなさんは、原作がある作品の“映像化”について、どう思いますか?原作といっても、『半沢直樹』のように小説が原作となっているもの、『ドラゴン桜』のように漫画が原作となっているもの、なかには『バイオハザード』や『ストリートファイター』のように、ゲームが原作になっているものなど、さまざま。そしてそのどれもが、もれなく賛否両論わかれています。ですが、仮に原作とあまりにかけ離れていても、好きだった描写が無くなっていても、やはり面白い物語というのは面白いまま。少なくとも映像化される作品にはそれだけの“魅力”があり、原作と違う部分は、それなりの“理由”があるのです。別物として割り切って、作品を味わってみることで、今まで以上にその物語を楽しむことができるかもしれません。今回は、過去に映画化されていて、かつ原作の良いところが大きく衰えることなく反映されていると私が感じた、大好きな作品たちを紹介させていただきます。原作と映画、どちらか一方だけでは気づけなかった物語のさらなる魅力に心躍らせることができるでしょう。1. 東野圭吾『プラチナデータ』2013年に映画化されたこの作品。これまで私が読んできた東野圭吾作品とはいい意味でまた違った世界観をもっていて、読後の印象が今も強く心に沁みついています。物語はDNAからプロファイリングをするシステムと、それを巡った事件を描いたSF推理サスペンス。登場人物のキャラクターが強いなとは感じていましたが、読後、映画化を前提に書き始められた物語だと知って腑に落ちました。ただ、原作と映画、かなり違うのです。決定的に違うのは、原作ではメインの事件が「連続婦女暴行事件」なのに対し、映画では「連続幼児誘拐事件」だということ。他にも教授の性別が変わっているなど、いくつかありますが……そう、とにかく本作品は、原作と映画でかなり違います。でも、それでもなお、主人公の放つ力は偉大で、本を読むように映画を楽しむことができました。これは10年以上も前の作品。時が経った現代はDNA鑑定が当たり前となっているからこそ、あと少し、もう少し先の未来では、本当に国民全員がDNAで管理される時代が来るのかもしれない……と、急に空恐ろしくなりました。ひと言で言うと、SFを感じさせないSF作品とでもいいましょうか。すべてを知り得ないから惹かれる……知ってしまえば愛は終わる。東野圭吾、さすがです。余談ですが、原作のエピローグの最後が個人的には大好きです。2. 貴志祐介『青の炎』「問題は、自分に、そのリスクを取れるかどうか……」。2003 年に映画化された本作品。この作品は、ホラー小説家としてデビューした著者が4作目にして挑んだホラーテイストのない倒叙ミステリー作品。主人公は家族の平穏を守るために完全犯罪に手を染める17歳の青年。なぜ殺さなければならないのか、他の選択肢はなかったのか、そんな疑問をこちら側に一切もたせないほど感情移入しやすい状況を作り、私たち読者を平気で物語の奥深くに引き込んでいきます。その面白さから映画化されるのが透けて見えるような作品で、期待していただけに残念……とはまったくならず、個人的には映画もかなり期待以上。主人公の彼女の性格が大きく変わっていたり、原作にない場面が映画に追加されたりもしていますが許容範囲ですし、その他はほぼ原作に忠実に描かれています。完全犯罪と謳うくらいですから、戦略を練る場面や実行に移す場面がもちろんあるのですが、そこでの心情の描き方が原作でも映画でもお見事。読者の文字を追う、もしくは映像から受け取るスピードが、まるで主人公の鼓動の高鳴りと連動するかのように速くなっていきます。20年以上経っても凄まじい臨場感があり、ここまで心を揺さぶる倒叙ミステリーはそうありません。ただ、決して古臭さを感じるような作品ではないので、原作も映画も、まだ見ていない幅広い世代の方にぜひ触れていただきたいです。青の炎……来年の夏、きっとまた必ず読みます。3. 首藤瓜於『脳男』2013 年に映画化された本作品。脳男……このタイトルに魅了されてあっという間に読了したのが映画化される約2年前。“驚異的な知能と肉体を持ちながらも感情だけが欠如された男と連続爆弾犯”……これだけで当時の私には十分すぎるほど魅力がありました。物語序盤の“まだ分からない”状態はとてもギクシャクした感触で、脳男が誰なのか、あるいは何なのか、何者でもないのか、ほとんど何も見えないまま物語は進んでいきます。その後に明かされる真相を知ってもなお残る違和感に何度、苛立ち、震え、ワクワクさせられたか。映画では、大筋は原作に添いながらも人物設定や途中の展開、そして結末には大きな改変も見られます。ただ……その全てが悔しいほどに面白い。物語の重要人物でもある爆破犯が原作では男性の単独犯だったのに対し、映画では若い女性に変わっていたり。居なかったはずの仲間が増えていたり。原作ファンとしては若干引っかかるところもありましたが、そんなこと気にならなくなるほどに見応えのある映像作品でした。映画ではカットされた名場面を原作で楽しむこともできますし、映像だから魅せられる息が止まるようなアクションシーンや泣きたくなるようなグロシーンを堪能する事もできます。そして何度も言いますが、そのどちらもが、もれなく面白い。そしてもれなく、狂ってる。ダークヒーローに会いたくなったら、また戻ってきます。■ハマらなくても全力で楽しんでもちろん楽しみ方は人それぞれですが、私は映画を観てから原作を読むと、どうしても登場人物が映画のキャストとイコールになってしまうことが多いので、“原作を先に読む”ことにしています。一生のうちに読める、観れる作品は限られているのですから、自分にハマってもハマらなくても、全力で楽しみに行くのが吉。固い頭を柔らかくして丸ごと楽しんじゃいましょう。
2024年09月06日「読書習慣を身につけさせたいのに、スマホやゲームばかり……」こんな悩みを抱えている親御さんは少なくないのではないでしょうか。子どもと本の関係に頭を悩ませていませんか?もしお子さんが「紙の本」に興味がもてないのであれば、電子書籍などのデジタルを活用するという選択肢もあります。じつは、デジタルデバイスを使った読書には、子どもたちにとって意外なメリットがあるのです。今回は、デジタル時代の新しい読書スタイルと、それが子どもたちにもたらす効果について詳しくご紹介します。お子さんの読書習慣づくりに、新たなヒントが見つかるかもしれませんよ。読書量が多い子ほど「4教科の偏差値平均」が高い本を読むことで身につく力や、読書習慣があることによって広がる可能性について、こどもまなび☆ラボではたくさんの記事として紹介してきました。みなさんも、読書の重要性を知っているからこそ、わが子が自ら進んで本を読むことを望んでいるのではないでしょうか。特に、読書と学力の因果関係についてはさまざまなデータが公表されており、ベネッセ教育総合研究所の調査によると、「読書量が多い子どもほど4教科(国語・算数・理科・社会)の偏差値平均が高い」ことが実証されています。さらに、国立青少年教育振興機構青少年教育研究センターが実施した調査では、「子どもの頃の読書量が多い人は、そうでない人よりも意識・非認知能力や認知機能が高い傾向がある」と結論づけています。具体的には、自己理解力・批判的思考力・主体的行動力の3つの能力が高まるそう。自己理解力:「今の自分が好きだ」「自分には自分らしさがある」などの自己肯定感を包含批判的思考力:「ものごとを順序立てって考えることが得意だ」など客観的、多面的、論理的に考える力、自分あるいは他者の意見をまとめる力、コミュニケーション力を包含主体的行動力:「分からないことはそのままにしないで調べる」など何事にも進んで取り組む姿勢や意欲(引用元:国立青少年教育振興機構|子どもの頃の読書活動の効果に関する調査研究~「読書離れ」の実態と、「読書好き」を育てるヒント~)※太字は編集部で施したこのように思考力や行動力、自己肯定感が高まるなど、学力面以外でも読書の効果は計り知れません。そのため、幼いうちから絵本の読み聞かせに力を注いだり、図書館で何冊も本を借りたりと、子どもが本を好きになるようにあらゆるアプローチをしてきた親御さんも多いはずです。その結果、読書が好きになった子もいれば、成長するに従ってゲームやスマホなどに夢中になり、読書への興味が薄れてしまった子もいるでしょう。このまま社会のデジタル化が進めば、アナログな「紙の本」を読む子どもは減少し続けるかもしれません。しかし、デジタル機器を使った読書ならどうでしょうか?紙の絵本もデジタル絵本も、幼児の内容理解に差はない!とはいえ、デジタルメディアより紙の本のほうが、やはり効果があるのでは?という考えも拭えませんよね。しかし、実際にそれらを比較した研究データを見てみると、意外な結果に驚かされるでしょう。東大大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(東大CEDEP)とポプラ社の共同研究プロジェクトとして、紙とデジタルの絵本の読み聞かせを比較したところ、「紙とデジタルでは絵本の内容理解に差はなく、幼児は初めて出会ったデジタル絵本でも紙の絵本と同じように楽しむことができる」という結果が出たそうです。またこの調査結果について、東大CEDEP特任教授の佐藤賢輔氏は、「デジタル絵本は子どもの発達に良くないのでは、内容を理解できないのでは、内容よりも機器の操作やナレーションなどデジタル特有の特徴の方に注意が行ってしまう」といった心配はほとんどないと結論付けています。(カギカッコ内引用元:東大新聞オンライン|デジタル社会の今、読書は大事?東大CEDEP×ポプラ社「子どもと本」の関係を研究する)さらに学年が上がると、電子書籍を利用する子どもは増え、その利点を実感しているというアンケート結果も出ています。平成30年度に実施した文部科学省委託の「子供の読書活動の推進等に関する調査」によると、電子書籍を読んだ子どもは以下の点をメリットだと感じているようです。持ち運びや入手にあたっての利便性ひとつのデバイスで複数の本が読めるキーワード検索などでわからない言葉をすぐに調べられる文字を大きくすることができる(上記参照元:文部科学省|子供の読書活動の推進等に関する調査研究 報告書概要版)以上のことからも、デジタルデバイスという手に取りやすく操作性が高いツールを使うことは、子どもにとって効率的な読書法として浸透しつつあると考えられます。おすすめの「デジタル絵本&デジタル児童書サービス」近年では、デジタルならではの利点を活かしつつ、従来の紙の本の魅力も損なわないよう工夫されたサービスが増えています。そんな、デジタル絵本と児童書の世界への入り口となる2つのサービスをご紹介しましょう。■デジタル絵本なら「絵本ナビプレミアム」デジタル絵本なら「絵本ナビプレミアム」月額1,480円(税込)がおすすめです。約4万冊の絵本が楽しめるサブスクリプションサービスで、人気作品や季節の絵本など、豊富なラインナップが魅力です。子どもの年齢や興味に合わせて絵本を選べる機能も便利。年間2,000万人が利用する絵本・児童書の情報サイト「絵本ナビ」が運営しているだけあって、動画見放題(絵本ムービー)、絵本コンシェル(無制限)といったサービスも充実しています。■デジタル児童書なら「Amazon Kids+」デジタル児童書を探すなら「Amazon Kids+」のラインナップが充実しています。ハリー・ポッターシリーズ全巻や、日本・世界の名作、児童文庫、学習マンガや科学の本など、とにかく児童書の品揃えが豊富で、ベストセラーから最新作まで幅広い!Kindleアプリを使えば、スマートフォンやタブレットでいつでもどこでも読書を楽しめます。デジタル書籍サービスを「4年間」愛用してみた!じつは、筆者の娘も電子書籍愛用者です。きっかけはコロナ禍でした。当時小学5年生の娘は暇を持て余し、ゲームやタブレットばかり……。そこで、筆者自身が長年愛用していたアマゾンの電子書籍リーダー「Kindle」を、子ども用にともう1台買い与えたところ、暇つぶし以上の効果を発揮したのです。一般的なタブレットやスマホではなくKindleにした理由は、「読書専用デバイス」であることから操作がシンプルで、「本を読む」ことに特化しているから。また、購入した「キッズモデル」には、子どもに最高の読書体験を提供するためのさまざまな特典が付いていたことも決め手になりました。本体のセットに含まれている「Amazon Kids+」というサブスクリプションは、1,000冊以上の子ども向けの本がなんと1年間読み放題!上述したように、児童文学の名作から歴史・科学などの学習コンテンツ、子ども向けの現代小説など豊富なラインナップが揃っているので、「読みたい本がない」ということはまったくありませんでした。ちなみに、Kindleが届いてから各種設定を完了させ、娘が実際に使い始めるまで30分弱。娘はすぐに自室にこもり、読みたい本を自分でダウンロードしてどんどん読み始め、何時間も夢中になって「本選び」と「読書」をしていたようです。といっても、読書に集中するというよりも、新しいデバイスに触れたことや、スムーズな操作性に導かれて好奇心が刺激された結果、「これから私はこんなにたくさんの本を選んで、読むことができるんだ」というワクワク感を味わっていたように感じます。また、端末自体はネットにつなげていましたが、「読みたい本を探す→ダウンロードする」「知らない言葉をその場で調べる」程度のネット利用だったので、状況に応じてネットワーク接続を不可にすることもありました。データをダウンロードしてしまえば、ネットにつながっていなくても読書を楽しめるので、外出先や移動中でも重宝しています。画像:デジタル書籍を夢中になって読む筆者の子ども受け身の読書→デジタル書籍を乱読→主体的な読書もともと紙の本を読むこと自体には抵抗はなかったものの、積極的に読書を楽しむタイプではなかった娘。「友だちがおすすめしてくれた本」や「図書室で人気がある本」には興味を示しても、「次はこの本を読みたい!」「こういうジャンルの本が好き!」といった強い意思はありませんでした。親としては「本をまったく読まないわけではないけど、読書に対して受け身の姿勢が気になる……」とモヤモヤした気持ちを抱えることも。しかし、「Kindle」で読書をするようになってからは、いままで読まなかったジャンルの本も積極的に読むようになりました。これはいわゆる「乱読」では?と思われるかもしれません。しかし、児童文学評論家の赤木かん子氏のインタビュー記事『「つまらない本」を知ることも大事。図書館での“3千冊の乱読”から子どもが養う大事なもの』では、「つまらない本を知らないと、『この本はおもしろいんだな』ということがわかりません。子どもには膨大な時間がありますから、乱読することで感覚やものを見る目を養わせましょう」と赤木氏は述べています。「乱読」にもプラスの効果が十分にある、と言えるということですね。1,000冊以上の本を乱読しながら、「読みたい本を自分で選ぶ練習」ができる点も、電子書籍の魅力でした。とにかくたくさんの本に触れることで、自分なりの感性や選ぶ力が磨かれたはずです。また、子どもが選んだ本は親もチェックできる設定になっているので、「へ〜、こういう内容に興味があるんだ」「結構難しいジャンルにも挑戦してるな」など、娘の意外な一面を知ることもできました。まさに「乱読」を楽しんでいる姿を目の当たりにして、受け身の読書から能動的・主体的な読書へと変化する様子を感じたのを覚えています。画像:子どものKindle画面(上)と親の管理画面(下)4年間使い続けた結果、「本は気軽に楽しむもの」として定着!現在、Kindleを使用し始めてから4年が経過しました。そのあいだに中学校に入学したため、部活や塾などで忙しくなり読書する時間は減ってしまいました。ですが、読みたい本があれば「お母さん、あの本Kindleで買ってくれる?」とお願いされたり、私が読んでおもしろかった本を娘の端末に共有してあげたりと、デジタル書籍の利点を活かした使い方を継続しています。何よりうれしいのは、読書へのハードルが下がったことにより、ちょっと興味があれば「とりあえず読んでみようかな」とすぐに読み始める習慣がついたこと。デジタル書籍だけでなく、紙の本も同様に、興味があればすぐに手にとる姿をよく目にしています。もちろん中学生らしく、スマホやゲームに夢中になる時間もありますが、それらと同じ位置にいまも「読書」があるのは、デジタル書籍に慣れ親しんだおかげであるのは間違いありません。書店や図書館に出向いて本を選ぶ時間や、購入する際の費用、本棚のスペースなどを考慮すると、紙の本では負担が大きいと感じますが、デジタル書籍をうまく活用すればそれらの問題も解決できますね。また、Kindleには親が設定・管理できる「ペアレンタルコントロール」というサービスがあり、端末のロック機能や1日の使用時間の設定、子どもの年齢に適したコンテンツのみが表示されるようにするなど、安心して使えるように親が設定できます。何をどれくらい読んだかなど、週単位、3か月単位で使用状況を可視化できるのも便利です。さらに、親が購入した本を共有できる「コンテンツ追加機能」を使えば、親子のコミュニケーションを深められますよ。実際に数年間使ってみて実感したのは、親がしっかりと管理をしたうえで使用すれば、デジタル書籍は子どもにとって、より広い世界を知ることができるツールになるということ。膨大なデジタル書籍のなかから、おもしろそうな本を自分で選ぶ「判断力」や「決断力」、わからない言葉の意味をその場ですぐに検索して解決する力、いつもとは違うジャンルの本を読んで知識を広げようとする「探究心」や「知的好奇心」など、いつの間にか身についた力は、いずれきっとお子さんの人生の糧になるでしょう。***長年、紙の本に親しんできた親世代は、デジタル端末を使った読書に対して抵抗感があるかもしれません。「最初から子どもにとっての本は紙媒体に限ると決めつけるのではなく、紙かデジタルか、子どもの好みやメディアの特徴に応じて、読書の形を選べるようになったらよい」と佐藤氏が述べるように、お子さんにとって最適な読書環境を与えるきっかけとして、デジタル読書も選択肢に入れてみませんか?文/野口燈(参考)株式会社ベネッセホールディングス ニュースレター|【小学生の読書に関する実態調査・研究】読書は学力が低い子どもたちに大きなプラス効果 「自分で調べる」「話題が増える」幅広いメリットが明らかに国立青少年教育振興機構|子どもの頃の読書活動の効果に関する調査研究~「読書離れ」の実態と、「読書好き」を育てるヒント~HugKum|デジタルは「子どもの本離れ」を救う︎電子書籍サービスで読書量が増加東大新聞オンライン|デジタル社会の今、読書は大事?東大CEDEP×ポプラ社「子どもと本」の関係を研究するHugKum|「読み聞かせ」子どもの発達の関係性、「デジタル」が子どもたちにもたらす影響など【東京大学×ポプラ社】が驚くべき研究成果を発表文部科学省|子供の読書活動の推進等に関する調査研究 報告書概要版STUDY HACKER 子どもまなび☆ラボ|「つまらない本」を知ることも大事。図書館での“3千冊の乱読”から子どもが養う大事なもの絵本ナビ|絵本ナビプレミアムAmazon|Amazon Kids+
2024年08月30日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹ひと口に“ホラー”といっても幽霊、ゾンビ、怪奇現象、さらには人間の心の闇や孤独など、怖いと感じるものは人それぞれ。得体のしれない何かに襲われる恐怖は、もちろん現実では味わいたくないけれど、なぜか覗いてみたくなるもの。一度読み始めてしまったら、もう戻れない。そう分かっていてもなお、ページを捲ってしまう。今回はそんな活字が震えて見えそうなホラー小説を紹介させていただきます。映画やドラマ、アニメにドキュメンタリー。どんな恐ろしい映像作品よりも鮮やかに、“活字”怖があなたの脳裏に映し出されることでしょう。1.貴志祐介『天使の囀り』「天使の囀りが聞こえる」と謎の言葉を残し愛する恋人が自殺……。それも一番本人が恐れていたはずの死に方で……。その後、謎の死の調査を行った人々も次々に怪死を遂げてしまう。ホラー小説でありながらミステリー要素も強めの本作品。アマゾンの生態系や神話に関する部分は衒学的に、“天使”を精査するために用いられることで、その正体がSFではなく地に足の着いたものだと認識させられます。……そう、それがとにかく気持ち悪いのです……。轟くそれらの描写は今思い出すだけでも鳥肌が体中を駆け巡ります。こんなにも読む手を止めたくなった作品は他にありません。人間は過去に実際に見聞きしたものや、想像できる範疇でしか脳内に描くことができないはずなのに、この作品では自身から産まれた創造とは思えないほどグロテスクな脳内映像が再生されてしまいます……。読み進めているうちに“いやいやないだろう……”と、“あるのかも……”の境界があやふやになっていき、気づけばラスト1ページ。思わぬ角度から差し込まれる恐怖を覗いて観たい方はぜひ、自己責任で。なんにせよ、間違いなく映像化してほしくない作品No.1。何度も言いますが、グロ注意です。2.小野不由美『残穢』一度読み始めてしまったら、読み進めるのも、読まないのもキツイ。そう、この作品を一言で表すなら……キツイ。物語は小説家である主人公 “私”、のもとに一通の手紙が届くところから始まります。「今住んでる部屋で、奇妙な音がするんです。」……“私”と手紙の主である学生の久保さんはその真相を探っていくのですが……。調査すればするほど深まる謎、迫りくる違和感、じわじわと浸食されていく恐怖、活字から確かに聞こえる音、ずっと整わない呼吸……。突然ワッと驚かすような直接的な怖さはあまりないので冷静に恐ろしい物語と向き合うことができます。……とはいえ、この作品はモキュメンタリー。しっかりとボディに効いてくるので、いつもホラー作品を観たあとに引きずってしまう方、とくに一人暮らしの方は要注意。読後はそれらが実体験かの如く、映像や音が脳裏にこびりついてしまいます。穢れは感染し拡大する。そして繋がっていく。果たして、自分が今住んでいる土地には、今立っているこの場所には、どんな人や物が在ったのか……。読んでいる間よりも読み終わった後のふとした瞬間にじわじわ手を伸ばしてくるタイプの絡みつく恐怖を味わいたい方はぜひ。こちらも自己責任でお願いします。3.アンナ・カヴァン/山田和子訳『氷』本作品は、巨大な氷に覆われて破滅に向かう世界で“少女”を追い求める男の物語……とでもいいましょうか。楽しさはすぐ不和に……その逆もしかり。とにかく読み手の感情を一瞬たりとも安定させてくれません。主人公の幻覚らしきシーンがナチュラルに混ざってくるため、場面の移り変わりも多く序盤は少し迷子になるかもしれませんが、気づけば残り数ページ。こんなにも不穏で不安定な恐ろしい物語を、するすると読めてしまえた自分に読後は寒気を覚えました。この作者はきっと暖かい毛布で眠ったことがないのだろう……そう思わずにはいられません。世界は常に君に刃を向けているよ、味方じゃないよ、というのを私達読者にじっくり教えてくれるのですが、不思議と絶望はしません。むしろ気持ちよささえ感じてきてしまいます。なぜでしょうか。人間誰もがもつ“孤独感のツボ”のようなところに“それら”となって刺さってくるからかもしれません。本作品の主要人物は“私”、“少女”、“長官”の三人だけ。逃れられない世界の結末と少女の絶望が並行して描かれることに1967年の作品とは思えないほど生々しい、セカイの息吹を感じます。フランツ・カフカが好きな方にはぜひ触れていただきたい冷たい一冊です。■夏はやっぱりホラーで恐怖の魅力と新たな発見を夏と言えばホラー……。いったいだれがいつ言い始めたのでしょうか。涼しくなりたいからといって安易に手に取ってしまえば後悔するかもしれません……。でも、紙面に並べられただけの活字から、こんなにも五感が刺激されるのはホラー作品ならでは。読み手である自身が勝手に作り出した恐怖の形と向き合ってみたら、新しい扉が開けるかもしれません。
2024年08月23日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹みなさんはこれまでの人生で、“一度読んだら忘れられない本”に、何度出会えましたか……? 世の中は、一生をかけても読み切れないほどたくさんの書籍であふれかえっています。もちろん、それだけの物語があれば、似たようなテーマや、ありきたりとも言える設定の作品も多々ありますよね。しかしそんな中に、記憶に深く残る作品と、そうでない作品があります。これは読み手の人生観や置かれた状況にも大きく左右されますが、“有り来たり”の中にも読む前に構えていた感情を大きく捻じ曲げてくる、衝撃的な展開の作品が存在します。今回は、私が個人的に“このテーマでこうきたか……”と不意を突かれ、忘れられなくなってしまった3つの作品を紹介させていただきます。テーマにそぐわず読みやすい作品をセレクトしたので、読書初心者の方もぜひ軽率に、上質なトラウマ体験を味わってみてください。村田沙耶香 『殺人出産』あなたには命を懸けて殺したい人はいますか……? この物語の世界では条件を満たせば殺人が合法化されます。その条件とは子供を10人産むこと……。10人の子供を産めば、一人殺すことができるという、現代に生きる私達からすれば異様ともとれる殺人出産システムが当たり前となった世界で物語は進んでいきます。莫大な時間を削ってでも誰かを殺めたい気持ち、少子化対策のため……? 読者という俯瞰的立場だからこそ気づけるメッセージがこの作品にはたくさんあります。誰かにとっては都合がよくて、誰かにとっては受け入れたくない世界。これは私達の現実でも同じなのではないでしょうか。そんなことを考えながら読み進めていると、自分が今、なんの疑問ももたずに生きているこの現実の世界は本当に正しいのだろうかとハッとさせられました。本作品は表題の「殺人出産」のほか、カップルではなくトリプルで交際する人々、性行為をしないことを前提とした夫婦、自然な死が無くなった世界、の3つの短篇で構成されています。そう、4篇すべてのテーマが衝撃的。生と死、性と史。読者の常識や価値観、正義をあざ笑うかのように、村田沙耶香氏は物語を淡々と紡ぎます。どうしたらこんな歪んだテーマが思いつくのか。彼女の頭の中を一度でいいから覗いてみたい。山田詠美『血も涙もある』「私の趣味は人の夫を寝取ることです。」ギョッとする一文から始まるこの作品。不倫をしている男女と、されている妻の三人の視点が、それぞれ切り替わりながら物語は進んでいきます。不倫がテーマとはいえ、重さや不快感はさほどなく、いや、あるのはあるのだけれど、その言葉から連想される嫌悪感やドロドロ感、悲劇的なものは全くなく、恐ろしいほど読みやすい。強いてあげるとすれば、ここまで登場人物の誰にも共感できない物語は他にないかもしれないということくらい。共感も理解も納得もできない、できないけれど、憎めない。だって私も……。不倫が良くないということは言うまでもありませんが、道徳に外れたことをうっかりしてしまうのが人間というもの。作中にでてくる“自分はすっかり古くなってしまった鍵穴”この表現にグッときてしまった私は道徳から外れている人間なのかもしれません。正義を振りかざさない三者それぞれのモラル。敏感に感じ取ってしまうのも、近すぎる距離と愛のせいなのだろうか。心が搔きまわされ、自分でも分からない感情の沼に沈んでいきます。不思議なもので、読んでいる間はあらゆる感情がたくさん浮かんでくるのですが、読み終えた瞬間に雑念がすっと消え、頭の中に何もなくなる感覚を味わいました。あんなにざわついていた筈なのに……。これぞ、山田詠美。倉井眉介 『怪物の木こり』出だしから主人公が平然と人殺しをしていくこの作品。しかも職業は弁護士。悪徳弁護士……? いえ、サイコパス弁護士。用済みになったペットボトルを捨てるように人を殺します。ある日、そんな主人公の前に斧を持った仮面の殺人鬼が現れるところから物語は進んでいきます。そう、本作品は、簡単に人を殺す裏の顔をもつ“サイコパス弁護士”と、人の頭をかち割り脳みそを奪う“脳泥棒”のお話。サイコパス VS 殺人鬼。どちらが怪物なのか、どちらも怪物なのか……。あまりにも残虐で、兎に角ぶっとんだ設定と個性的すぎる登場人物のおかげでスラスラと読み進められましたが、時折まぜこまれた絶妙にリアルな世界観が気持ち悪く、そこがまたこの作品の怖さを増幅させます。設定の勝利。正直物語の途中から先が読めるのですが、それこそ作者の思うツボ。先が読めるように描かれています。もちろん、先が読める=面白くない、ではなく。彼が選んだ道が彼をどう導くのか、続きが気になるところでエンド。気がついた頃には、悲惨な物語のその先を自身で作り上げてしまっていました。読者が一番のサイコパスなのかもしれない……。読後に残った、喉奥からくる“違和感”のようなものを、あなたならどう表現しますか……?■食わず嫌いをせずにいろいろなジャンルを試してみて冒頭で「トラウマ」という表現を使いましたが、個人的に大好きな三作品です。本には「ないジャンルは存在しない」といわれるほど、さまざまなジャンルの作品があります。読んだことのある設定だな……というだけで物語を避けずに、同じような設定のものをあえてたくさん読み漁ってみるのも面白いかもしれませんね。
2024年08月09日秋イベント「紅葉図書館」が、2024年10月5日(土)から11月3日(日・祝)まで、軽井沢星野エリアにて開催される。紅葉&読書の秋を満喫するイベント「紅葉図書館」「紅葉図書館」は、赤く色づくカエデや黄金色のカラマツの木に囲まれる約2,000平米の広場で開催される、紅葉と読書を楽しむイベント。期間中は、広場のゆるやかな起伏に沿うように作られたベンチ兼本棚が並び、紅葉の中読書を楽しむことができる。秋テーマの約500冊本棚には、自然や旅にまつわる本に加え、「芸術の秋」や「食欲の秋」など秋にちなんだテーマに沿った約500冊が並ぶ。週末には移動書店も広場に出店するので、本の購入も可能となる。加えて、自宅で眠る本を新たな持ち主へと受け渡す「本のリレー」も実施。次に手に取る誰かへ向けたメッセージを添え、専用の本棚に入れ、気に入った本があれば代わりに持ち帰ることができる企画となっている。また、ゆったりと快適に読書を楽しめるようなアイテムの貸し出しも実施。ハンモックやブランケット、クッションなどを借りることができる。広場にはハンモックを取り付けるためのフックが用意されているので、お気に入りの場所にハンモックを設置し、心ゆくまで読書が可能だ。読書のお供に「メープルナッツラテ」もさらに、読書のお供にぴったりな秋限定ホットドリンク「メープルナッツラテ」も販売。「紅葉図書館」の近くにあるカエデの木にちなみ、メープルシロップを使用した1杯だ。ドリンクと一緒に味わえるカエデ型クッキーも添えている。【詳細】「紅葉図書館」期間:2024年10月5日(土)~11月3日(日・祝)時間:10:00~17:00場所:軽井沢星野エリア内「星野温泉 トンボの湯」前の広場料金:入場無料※雨天中止、飲食物は状況により変更の可能性あり■「メープルナッツラテ」600円販売場所:カフェ ハングリースポット
2024年07月27日・何これ、めっちゃ便利。・勉強がはかどるわ!・イライラが解消された。・これ作った人は天才だな。そんなコメントが寄せられたのは、SNSで話題となったあるアイテムです。あなたは、本や参考書を読んでいる途中でページが閉じてしまい、イライラした経験はありませんか。かといって、本が閉じないように手で抑えていると、片手がふさがってしまい、面倒ですよね。そんなイライラを吹っ飛ばしてくれるアイテムがこちらです。こちらは、コクヨ株式会社が販売する『本に寄り添う文鎮』という商品です。開いたページに乗せておくと、開いた状態で維持してくれます。また、開いた本に沿った形状なので、本を傷める心配もありません。従来のように本を手で抑えておく必要もないので、さまざまなシーンで役立ちます。両手が空くことにより、これまで以上に、集中して読書ができますね。また、本を見ながらノートを取ったり、パソコンで作業をしたりできるので、勉強や仕事もはかどるでしょう。『本に寄り添う文鎮』は、人気商品のためオンラインショップや文具店などでは、品切れになっていることも多いようです。もし、見つけたらぜひ手に取って見てください。きっとあなたの読書をより快適にしてくれますよ!本に寄り添う文鎮(真鍮製:ゴールド):税込5500円本に寄り添う文鎮(鉄製:グレー):税込2200円本に寄り添う文鎮(鉄製:ブラック):税込2200円[文・構成/grape編集部]
2024年07月22日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹デビュー作『告白』をはじめ、数々のヒット作を生み出している作家・湊かなえ。多くの小説がドラマ、映画化もされているため、名前や作品をご存じの方も多いのではないでしょうか……。私が思う湊かなえ氏の最大の魅力は、なんといっても最後まで読ませる構成力。人間の内にある心理描写に長けており、誰にでも起こり得るような出来事を題材としているからか、物語に入り込みやすいのも特徴的です。だからこそ、映像作品だけではなく、ぜひ、小説で読んでいただきたいのです。ヒット作の傾向から「イヤミスの女王」としても有名な湊かなえ氏ですが、読後に残る、なんともいえない不快感に魅力を感じる人がいる一方、「不快な気持ちにはなりたくない……」と読むことを避ける人がいることもまた事実です。そこでここでは、湊かなえ作品の中でも強い不快感なしで楽しめる物語や、しっかりとテーマを打ち出している名作も織り交ぜてご紹介させていただきます。ジャンルに縛られず、読後の感情が大きく異なる3作品をセレクトしたので、ぜひお楽しみください。1.『豆の上で眠る』“お姉ちゃん、あなたは本物なの?”というセリフが衝撃的な、姉妹を題材にしたこの作品。物語は姉の失踪事件から始まります。二年の失踪期間を経て姉は戻ってくるのですが……。妹“だけ”が感じるたしかな違和感。家族とは。“本物”とは。冒頭から不穏な空気が満載で、読み進めていくあいだも心が重く苦しい。“イヤミス”の定義を、仮に、読後の居心地の悪さが続く物語とするならば、この作品は「THE・イヤミス」。誰も死なない代わりに、誰も救われることがなく、途中で結末が分かったとしても、なお、騙されていく。真実にたどり着いたとき、足元からくずれ落ちたのもつかの間、読後一瞬だけ芽生えた妙な高揚感が恐ろしくなり、軽い自己嫌悪に陥りました。でも、あの高揚感が忘れられません……。血のつながりに思い出の共有、相手への信頼、そして愛情。それらのどれかひとつにでも疑問を感じるだけで、こんなにも脆く崩れ去ってしまうものなのだろうか。私は、全てに納得の行く答えが見つからなかったとしても、本当の、本物の家族にはなれると信じたい。私だけは、信じていてあげたい。2.『贖罪』本作は、本屋大賞受賞後、第1作目の連作ミステリー小説。物語は、穏やかな田舎町でひとりの少女が殺害されるところから始まります。事件の直前まで彼女と一緒に遊んでいた4人の女の子は、容疑者と言葉を交わしていましたが、誰も犯人の顔を思い出せず事件は迷宮入りに。そして、被害者少女の母親が幼い4人に投げつけた激情の言葉は、彼女たちの運命を大きく狂わせていくのです……。十字架を背負ったまま成長した4人に降りかかる、悲劇の連鎖。15年間もの呪縛と、衝撃の真相。一度放ってしまった“言葉”は、もう取り消すことはできない。それがその人の一生を狂わせることになっていても……。ひとつの殺人事件が章ごとに異なる視点からモノローグ形式で綴られているため、読者は物語に置き去りにされることなく読み進めることができます。湊かなえ氏が描く重圧かつどうしようもない絶望の積み重ねは、なぜか色鮮やか。まるで、真っ赤な彼岸花がびっしりと咲いている中で息が出来なくなっていくみたい……。暗い物語ではありますが、最後には暗く長いトンネルの終わりが私にも見えたような気がしました。……まあ、見えただけ、なんですけどね。3.『山女日記』本作は、8篇それぞれの登場人物が少しずつリンクしていく連作長篇集。さまざまな事情や鬱々とした気持ちを抱えた女性たちが“登山”を通して自己対峙していきます。頂上に着いたころ、問題が解決していなくても、自分の足元にある小さな花や目の前に広がる美しい景色のもつ力に否応なしに前を向いている女性たちが清々しく、まるで自身の体験かのように物語の中へと引き込まれていきます。もうお気づきの方もいるかもしれませんが、ザックの水に毒は入っていませんし、登山靴に仕掛けもありません。もちろん登山中に殺人も起こりません。……そう、この作品に“ミステリー要素はありません”。でも、これは紛れもなく湊かなえ作品。女性の心理描写の生々しさはさすがとしか言いようがないですし、鬱屈としたものを抱えて周りに不快なエネルギーを撒き散らす人間と、そんな人間から見た絶妙にイラつくフィルターを通した世界を描くのが最高に上手すぎます。イヤミス系の作品は苦手だけれど、湊かなえの作品に興味のある方は、ぜひ読んでいただきたい。読後、ダナーの登山靴を調べたのは私だけじゃないはず。■“湊かなえワールド”へ足を踏み入れてみませんか?この他にも、魅力的な作品はたくさんあります。一度、湊かなえワールドにハマってしまったら抜け出せないといっても過言ではありません。また、作者と物語にギャップがあるのも個人的に好きな点なので、サイン会などに足を運んでみるのもおすすめです!! みなさんの読書が捗りますように。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年07月12日読み進めていくうちに、事件の真相が明らかになっていく、ミステリー小説。読者は「この登場人物が怪しい」「こんな結末は想像していなかった」などとハラハラドキドキしながら、楽しんでいるでしょう。ミステリー小説好きが栞を作ると?つれづれ(@turan1315731453)さんも、ミステリー小説を読むことが多いという、1人。読書の中でも、ミステリー小説のような不穏な空気がただよう内容が、好きなのだそう。そんなつれづれさんはある日、ミステリー小説を読むのにピッタリという、栞を手作りしました。Xで栞を紹介すると「真似したい」「こんな栞があったら欲しいな」といった、たくさんの反響が上がっています。一体、つれづれさんは、どんな栞を手作りしたのか…。Xに投稿された1枚をご覧ください。事件ならぬ、読書の現場で血が流れている…!赤い栞の一方が、流血の形になっています。人命に関わる事件や事故の発生が多い、ミステリー小説に使えば、よりストーリーに感情移入できそうですね!本を購入した時にもらえる栞や、市販品は「平和なものばかり」とつづっている、つれづれさん。ミステリー小説の雰囲気にマッチした『不吉な栞』が欲しかったため、手作りしました。材料は学習に使う、赤い半透明の暗記シート。流血の形になるようにカットしただけといいます。ミステリー小説好きならではの発想に、たくさんのコメントが寄せられました。・これは、天才のアイディアですよ!・本のイメージにマッチしていて、読むのがよりはかどりそう。・読書中の雰囲気が爆上がりしますね!最高です。X上で評判のいい、栞の力作。しかしつれづれさんは、子供に見せたところ、まさかの感想が…。※写真はイメージ「これって、かき氷?」確かに、イチゴ味のシロップが流れている様子に見えなくもありません。また、つれづれさんの子供は、栞を茶色にして、パーティなどで見る『チョコレートファウンテン』型でも面白そうと、提案したようです。かき氷やチョコレートの発想には、笑い声を上げる人や、ぜひ見てみたいという声も。今度はどんな栞を作ってくれるのか、つれづれさんのアイディア作品から目が離せませんね![文・構成/grape編集部]
2024年06月30日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹出版社別で出会う本選びのすゝめ、第三弾。今回は書籍の出版のみならず、企業ブランディングにも特化する「幻冬舎」さんの魅力をお届けさせていただきます。※ 画像はイメージです。誰もが一度は耳にしたことがありそうな村上龍さんの『13歳のハローワーク』や木藤亜也さんの『1リットルの涙』、他にも下村敦史さんの『同姓同名』など、さまざまな話題作を取り扱う「幻冬舎」さんですが、今回はそんな中でも比較的読みやすい“短編集”と“エッセイ”にジャンルを絞ってご紹介させていただきます。ぜひ、「幻冬舎」さんにしかない魅力を味わってみてください。1.益田ミリ『ちょっとそこまでひとり旅だれかと旅』図書館で目にすると必ず手に取ってしまう益田ミリ氏の作品たち。ほのぼのとしたイラストや物語の中にもピリッとひりつく言葉が潜んでいて、毎度、本の厚み以上の満足感を得られるのが印象的。一度読んだら忘れられないフレーズを私の中にもたくさん残しています。もちろん本作品も、一気読みでした。「昨日まで知らなかった世界を、今日の私は知っている。」という一説から始まる、いわゆる旅エッセイですが、旅エッセイとは思えないほど俯瞰した角度から描かれていて、ワクワクしている感情の描写さえ、極めて冷静かつ、癖になる言葉たちで描かれていきます。地図も写真もなく、名所がたっぷり載っているわけでもないけれど、ガイドブックを見ているよりもソコに行ってみたくなるし、食べてみたくなる。ほんの少しの想像力をもてば、旅先の空気に触れているような気さえしてきてしまいます。さすが、益田ミリ。ざっくりとした旅の費用が書かれているのも有難い。まだ知らないはずの旅先のできごとや、ちょっとした呟きに、わかるーっと共感しながら読んでしまう人も少なくはないはずです。私もいつか、ちょっとそこまで。2.尾形真理子『試着室で思い出したら本気の恋だと思う。』高校生の頃、装丁とタイトルに惹かれて購入したこの作品。路地裏にひっそりと佇むセレクトショップで一着の服を買う5人の女性の短編恋愛小説。倦怠期や不倫、さまざまな恋の悩みをもつ女性たちが、セレクトショップで繰り広げる“すきま”の時間。同じ試着室の鏡を通して自分の気持ちと向き合っていく主人公たちの物語はどれも驚くほどに前向きで、必死で、少し×××……。共感できる恋も、できない恋も、どちらにも感情を揺さぶられる二日酔いのような感覚に苛まれると同時に、暖かい気持ちが全身を駆け抜けました。彼女たちの“その先”が知れないもどかしさからなのか、結末を委ねられた安心からなのか、次に私が恋をするときは、この短編集のエピローグみたいな恋がしたいと恥ずかしげもなく思えてしまったほど。眩しすぎるくらいに、すがすがしいほど大人の恋たち。読後は今までよりも少しだけ素直に、丁寧に、周りの人や自分の気持ちと向き合おうと思える一冊でした。そう、「可愛くなりたいって思うのは、ひとりぼっちじゃないってこと。」3.小川糸『なんちゃってホットサンド』今年の2月に発売された小川糸さんの最新エッセイ。コロナ禍の一年間のことが日記帳で綴られていくのですがもうこれはエッセイというより、小川糸さんそのもの。いい意味で、特別感心するような発見や刺激のない他人の人生を丸窓から覗いているような感覚に浸れます。執筆活動が忙しいに違いないのに、味噌や石鹼、アイスクリームに梅干しなど、なんでも手作りしてしまうバイタリティーをみて感心すると同時に、『ツバキ文具店』のぽっぽちゃんのあの暮らしの丁寧さは、小川糸さんの実生活がベースになっていたんだ……と驚いたのもつかの間。ライオンのおやつは『エンドオブライフ』を先に読んでいたら書けなかったのかもしれないこと、ベルリンの話が無くなったり、ペンギンさんが出てこなかったり。とにかく小川糸さんの作品を読んでいればいるほど分かるアレコレと、“小川糸”という人間そのものがこの作品にはたくさん詰まっています。それと同時に、どのページから読んでも楽しめるほど日常の切り取り方が絶妙で面白く、並んだ言葉もすっと頭に入ってくるため、初めて小川糸さんの文章に触れる方にもおすすの一冊です。読後は暮らしを愛する気持ちが戻ってくるので、日々の生活がちょっと荒れてきたぞ……と思ったら、ぜひ。■あらすじも知らずに衝動買いしてみるいかがだったでしょうか。今回は、「幻冬舎」さんから短編とエッセイに絞ってご紹介させていただきました。余談ですが、つい先日、このテーマに引っ張られて幻冬舎文庫を2冊、あらすじも知らないまま衝動買いしてしまいました。読む前からワクワクするこの感覚、久しぶりです。みなさんの日常にも、刺激的な本との出会いが広がりますように。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年06月28日本をどこまで読んだかという目印を付ける、しおり。しおりは、シンプルな紙製のものから、金属や布製のものまでいろいろなデザインがあります。あなたは、どんなしおりを使っていますか。クリエイターが発明した、しおりがすごい!これまでさまざまな自作のアイディア作品を公開し、たびたび反響を集めている、クリエイターのミチル(@mitiruxxx)さん。ミチルさんは、本を開くのが楽しみになる、しおりを発明しました。話題を呼んだこちらの作品をご覧ください!なんと、しおりに描かれた傘をさす子供が、文字という雨をしのいでいるではありませんか!本を読んでいると、夢中になり時間を忘れてしまうことがあるでしょう。文字の中で傘をさす子供を見ていると、本の世界に浸る私たち自身を象徴しているようにも見えますね!ミチルさんの作品には、10万件の『いいね』とたくさんのコメントが寄せられました。・挟む場所によって、小雨だったり土砂降りだったりするの最高。・発想が天才すぎる。・めっちゃ欲しい。頼むから販売してくれ。・そんな発想をできるのがすごいわ。読む時は『文字』を浴びて、読み終えたら傘をさしてしのぐ、という発想が素敵ですね。このしおりを本に挟めば、物語から現実に戻るための、道しるべのような存在になるでしょう。[文・構成/grape編集部]
2024年06月23日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹梅雨や台風、ゲリラ豪雨など、年間を通して雨の降る日は幾度かあります。恵みの雨という一面がある一方で、憂鬱な気分になったり、外に出るのが辛くなる人も多いのではないでしょうか。でも、寂しいときも嬉しいときも、そのときの心の向きに寄り添ってくれる、何者にでもなってくれるのも、雨。騙されたと思って、雨の音に耳を傾けながら本を開いてみてください。雨はときに、小説のなかの決まった物語さえを、大きく変えていきます。なぜ作者はここで雨を降らせたのか……。物語のなかにある“雨”の意味を考えて読むのも、描かれていない“雨”を想像して読むのも、楽しいものです。今回はそんな雨が印象的に描かれている作品を紹介させていただきます。今、降る雨とリンクさせながら読む物語はいつもよりも色濃く映るはず。この機会に、家のなかで楽しめる雨小説に酔ってみませんか。1.市川拓司『いま、会いにゆきます』6月の雨の日、亡くなった妻が帰ってきた……記憶は失っているけれど。2004年に実写映画化され、海外でもリメイクされた今作品。病気を抱えた父と息子のもとに訪れた切なくて優しい奇跡の物語。いろいろな本を読んでから出会うと、より、本作から溢れ出すおとぎ話のようなピュアな言葉達に心が浄化されてゆくのを感じます。純愛小説なんて興味ない! という人にこそおすすめです。というか、絶対に読んだ方がいい。語り手目線で物語が進んでいくのですが、終盤に明かされた真実のおかげで、妻はどれほど嬉しく満ち足りた時間を過ごしていたのだろうかと、この作品を冒頭から包み込んでいた大きな愛にハッとさせられ、不覚にも涙が頬を伝いました。“亡くなった人が帰ってくる”というありきたりな展開に収まらず、一度読み終えた後でも、別の結末、別の幸せを求めて、何度でも読み始めてしまいます。手のぬくもり、会話のリフレイン。いま、会いにゆきます。2.道尾秀介『龍神の雨』梅雨の季節を彩った雨の一冊。物語の最初から最後まで、土砂降りが続く小説が他にあっただろうか。読んでいるあいだはずっと心が締め付けられるような気持ちが続きます。それぞれの継母、継父と暮らす2組の兄弟が、万引き犯と被害店舗の従業員という形で繋がっていく本作品。人間誰しもが抱いたことがあるであろう、“あのときアレがなければ……”“あのときこうしていれば……”という後悔めいたものを主軸に、“道尾色(みちおしょく)”濃いめで描かれており、締め付けられる胸を労わりながら読み進めました。どこかで雨が降って、そこに人がいて。傘をさすのか、濡れて歩くのか、立ち止まって首を縮めながら雨が止むのを待つのか……。そんな正解のない小さな選択が、ただの“雨”が、4人の運命を侵してゆきます。物語最後の言葉が心に深く刺さり、私のなかにも消えない“毒”として残りました。この不条理をどう消化するのかが、私たち読者への宿題なのかもしれません。鳥肌必須の解説も、ぜひ。3.水野敬也『雨の日も、晴れ男』ふたりの小さな神様のいたずらで主人公・アレックスは不条理な出来事に遭遇し続ける運命となります。しかし、職場をクビになろうと、家が燃えようと、妻子が出ていこうと、アレックスはその出来事のなかにポジティブなものを見つけ出す天才でした。同著者の“夢をかなえるゾウ”で学んだ人生を豊かに生きる方法がここにも盛り込まれています。どんなときでも前向きに生きること、笑うことがいかに人生に必要か、他人を喜ばせることが自身の喜びだといえる彼の生き様から、神様たちは大事なことに気づかされていきます。超絶ポジティブ男の生き様から学ぶ人生は、いい意味でしょうもない。しょうもなくて、素晴らしく愛おしい。彼のようになることはできないけれど、正直なりたくはないけれど、少しでも自分のなかに彼の欠片がいてくれたら……。とても読みやすい物語なので、気分が沈んだり、集中力が続かない雨の日でもサクサクと読めます。読み終わる頃には少し降る雨が綺麗に見えるかもしれません。“神様は、人を不幸にすることも、幸福にすることもできない。ただ、出来事を起こすだけ。”■雨の日こそ読書雨だから天気が悪いと決めつけず、自然の雨の音をBGMに、物語の世界観をより一層、色濃く味わってみてください。また、雨の日に会えますように。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年06月14日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹#21の“新潮社編”に引き続き、出版社別で選ぶ本選びのすゝめ、第二弾。多くの方が一度は耳にしたことがある大手出版社でありながら、野間賞・江戸川乱歩賞・講談社漫画賞などの各賞の顕彰事業や、「本とあそぼう 全国訪問おはなし隊」による読書推進活動などの文化事業も積極的に進めている「講談社」さんのおすすめ本を、今回は紹介させていただきます。写真はイメージです。小説・教養・ジャーナリズム・ファッション・絵本・漫画アニメ・ゲーム等、圧倒的に幅広いジャンルの書籍を扱ううえに、メディアミックスにも強い「講談社」さん。あまりにも多くの話題作を取り扱っているので、今回はあえて一癖ある、あらすじ通りにはいかない物語達で揃えてみました。ぜひ、「講談社」さんにしかない魅力を味わってみてください。1.パリュスあや子『隣人X』2023年12月に映画化もされている本作品。惑星難民となった宇宙人が日常に紛れるようになった世界という設定から、一見、フィリップ・K・ディック氏を彷彿とさせるSF的な物語かと思い読み進めていましたが、むしろSF色はさほど強くなく、現代の日本にある多くの社会問題を、海外に住んでいる作者ならではの視点で私達読者に投げかけてきます。登場する3人の女性の性格がどこか似ていることに気持ち悪さを覚えた前半から、納得の後半。すぐ横にいる人は異星人と似て非なるものという比喩表現だと考えると、怖いほどスラスラと“日常”に物語が入ってきます。そう、日常に。そんな現代の生きづらさとSF要素が絶妙に絡みあい、エンタメ性と批評性を兼ね備えたこの作品。私達にとって“普通”とは何なのでしょうか。私は、あなたは、あの人は、“普通”なのでしょうか。ただひとつ言い切れることは、この物語がまぎれもなく今の日本の話であるということ。そう、宇宙人も含めて。2.五十嵐津人『不可逆少年』デビュー作『法廷遊戯』で話題となった弁護士作家、五十嵐津人氏の2作目となる本作品。“殺人犯は13歳”という帯と、印象的な装丁に惹かれ購入しましたが、大当たり。いや、考え方によっては最高の大はずれかもしれません。少年法の理念と運用の間に横たわるジレンマの存在は昨今のニュースなどでも広く知られていますが、五十嵐津人氏の視点はそこに留まりません。未成年である犯人の異常性や狡猾さをクローズアップしていくのかと思いきや、事件そのものよりもそれを取り巻く人間の感情が主題となって物語は進んでいきます。同情する点も多い少年少女ではあるが、共感はできない。いや、できなくて良かった。毎行、予想とは違う角度から攻めてくる展開に、物語がどう繋がるのかが読めず、ページを捲る手が止まりませんでした。もし、これらが身近で起きたとき、私は何を否定できるのでしょうか。そんな考えが頭をよぎった後、慌てて表紙を伏せました。表紙の彼女と目が合ってしまうような気がして。3.似鳥鶏『推理大戦』アメリカ・ウクライナ・日本・ブラジル……。“特殊能力”をもつ名探偵たちが世界中が欲する“聖遺物”を賭けて「推理ゲーム」を行う、という少年漫画のような設定のこの作品。個人的にはこのあらすじだけでかなり心掴まれました。たとえるなら、ミステリー版アベンジャーズ。各章で名探偵らのキャラクター造詣を深める謎解きがあり、それを踏まえたうえで終章で展開される多重推理には、言葉通り“酔い”しれました。もう、読むたびに推し探偵が変わってしまう自分が不安になるほど全員が魅力的なのです。ひとつの小説に留めておくのはもったいないほど。聖遺物をめぐる大戦は、むしろサブ要素かもしれません。そして賛否両論覚悟で書いたとしか思えない衝撃のラストの展開に唸らされました。きっと読後に抱いた感情さえも作者の手のひらの上。贅沢に騙される読書体験でした。ミステリーが苦手な人もエンタメ作品として楽しめると思います。“無駄に面白い”あとがきも必読です。■顕彰事業も。講談社の魅力は多彩なコンテンツ力とデジタル戦略本選びのすゝめ【講談社編】、いかがだったでしょうか?講談社出版の作品には、他にも『十角館の殺人』や『窓際のトットちゃん』などがあります。冒頭にも書いた講談社さんが展開する顕彰事業や文化事業にも注目してみてください。知れば知るほど面白い出版社別の世界、続編もお楽しみに。読書のお供におすすめ↓首・肩の疲れに。読書しながらネックマッサージャーで癒されてみては?↓↓ 読書のあとは、アイマスクで目に疲れをためないように ↓■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年05月31日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹誰だって、体調や気持ちによって心の許容範囲は変わってしまうもの。本当はもっとやさしい気持ちでいたいのに、普段ならなんでもないことが気になってイライラしてしまったり、いつもなら許せることにまでつい口が出てしまったり……。そんな自分の振る舞いを思い出し、自己嫌悪。他人にも、自分にも、やさしくできない……そんなとき、考えるのをやめて寝てしまうのもいいですが、物語の中に助けを求めるのもおすすめです。写真はイメージです。↓ リビングにひとつあると癒されます ↓文字や絵を目で追っているだけで呼吸がしやすくなることもありますし、ときに本のなかの登場人物達が、心がざわつく原因を一緒にさがしてくれたり、だめな自分を愛せる生き方を教えてくれます。今回は、人にやさしくできないときの処方箋になるような本を紹介させていただきます。きっとあなたも、読後、それなりの昨日と、ダメダメな自分と、行きたくない明日が、ほんの少しだけ大事なものに思えるかもしれません。1.フランツ・カフカ『絶望名人カフカの人生論』『変身』などで知られるチェコ出身の作家、フランツ・カフカ。本作は、生前、作家としてあまり評価されていなかったカフカが残した日記やノート、手紙などから言葉を集めた名言集のような一冊です。なにもそこまで……と言いたくなるほどのカフカ自身の強烈ともいえるほどのネガティブさに共感しつつも、くすっと笑えてしまうユーモアさとシュールさ。理不尽な世の中に対してもはや開きなおったカフカの愚痴は、私たち読者と一緒に絶望してくれながらも、寄り添い、許して、包み込んでくれます。そう、気持ちが後ろ向きなときに、無理して前を向こうとしなくていいのです。誰かの言葉に傷ついてもいいのです。傷つくことは素敵なことなのです。「いつだったか足を骨折したことがある。生涯でもっとも美しい体験だった」この言葉の意味も読めば分かります。恐ろしくネガティブな言葉から元気をもらえるのは、カフカが現実から目を背けて言い訳ばかりしているように思えて、実は誰よりも正面から世の中とも自身とも向き合っていたからなのかもしれません。読後はネガティブな自分さえ愛おしく思えました。2.西加奈子『うつくしい人』こうありたい自分でいるために、自分を偽ることは誰にでも多少ありますが、それが度を越えると本当に生きづらいもの……。この作品では、自分がどうか以上に他人にどう思われるかを気にしていながらも、他者を見る目がどこまでも卑屈で傲慢な女性目線で進んでいきます。現代に生きる人にとって感情移入しやすい設定だからこそ、序盤は胸が痛くなる描写も多いですが、安心してください。生きる環境を変えた主人公の心が人との触れ合いの中で少しずつ解けていくのと連動して、私たち読者の絡まった心も柔らかくなっていきます。この世の全ての人の感情を知っているのではないかと疑いたくなるほど流暢な西加奈子さんの文章力には毎回言葉を失います。憧れや、妬み嫉み、作られた自分からも解放されて、ただ、素直になれたらいい。頭ではわかっていても、ただの“自分”でいることは難しい……。自分が嫌いだと平気で言えてしまうほど自分を諦めている人にこそ読んでいただきたい。“自分で不幸になれる人は、自分で幸福にもなれる”。みんなみんなうつくしい、うつくしい人。3.瀬尾まいこ『おしまいのデート』5つの短編が収録された本作品。“デート”ときくと恋人同士がするものというイメージが強いですが、この作品では祖父と孫、元不良と老教師、仲が良かったわけでもない同級生の男同士、公園で犬を飼うOLと男子学生……といった恋愛関係にあるふたり以外のデートが描かれています。どれもさらっと読める短編なのですが、凝った設定と個性的な登場人物たちが面白く、物語一つひとつの満足感はとても高いです。切なくて、寂しくて、あたたかい……瀬尾まいこさんが描く世界はどんなときに触れても私たち読者を誰ひとり置き去りにすることなく優しく招き入れてくれます。そして何より、タイトルにもある、別れとも、さようならとも違う、“おしまい”。絵本の最後にある“それ”と同じ言葉。読後に芽生えた気持ちが自身のものとは思えないほどうつくしくて一生大事にしたいと思えました。この物語の中で出会えた登場人物たちが今も幸せでありますようにと“おしまい”のあとを願いながら、丁寧に本を閉じて、深呼吸。……この一冊に出会えてよかった。■心のSOSに気づくために処方箋のような一冊を人にやさしくできないときや、些細なことでイライラしてしまうのは、見逃してはいけない自身からのSOS。本ならば、誰かの迷惑になることもありませんし、あなたの心を煩わせるものに触れる必要もありません。負の感情に覆いつくされる前に、今、ぽっかり空いた心にぴったりとハマる、処方箋のような一冊が見つかりますように。「……おしまい。」↓首・肩の疲れに。読書しながらネックマッサージャーで癒されてみては?↓↓ 読書のあとは、アイマスクで目に疲れをためないように ↓■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年05月17日ITシステム開発の株式会社エスペラントシステム(本社:千葉県流山市、代表取締役社長:中村 健二)は、5月9日より読書習慣を身につけるための一助となることを目指す電子書籍サブスク『読書館(どくしょかん)』の令和6年度トライアル版について申込み受付を開始します。今回より教員または教育委員会担当者が簡単に読書館の機能を確認できる『読書館トライアルLight(どくしょかんとらいあるらいと)』を選択可能としています。読書支援サービス「読書館」は、GIGAスクール端末の普及で実現可能となった児童生徒ひとり1台の端末で「いつでも、どこでも、読書」を実現する、新しい読書手段のひとつとして教育機関に提案してまいります。電子書籍サブスク『読書館』◆読書館URL: 今回、提供を開始する読書館の令和6年度トライアル版は、利用者(読者)が正規版と同様に、本の閲覧機能をはじめとして、マーカーのメモ機能や感想文の記入/掲載などを体験できますので導入後の利用方法などの検討がしやすくなります。また、要望の多かった、教員や教育委員会の担当者が簡単に機能確認できる『読書館トライアルLight』を選択できるようになりました。読書館トライアルLightは、児童生徒のユーザ権限で利用体験できるものです。【トライアル版概要】2種類のトライアル版◎読書館トライアル :管理運用面を含む実運用のトライアルが可能◎読書館トライアルLight:児童生徒の使い勝手を確認<読書館トライアルLight>利用期間 :1ヶ月(最大3ヶ月)利用アカウント数 :1アカウント 児童生徒ID(×1)コンテンツ種類 :限定コンテンツ対象 :教育委員会、学校(学校長、教頭、ICT担当、図書担当、教員)利用料 :無償申し込み方法 :トライアル版申し込みサイト利用可能な機能(権限) :児童生徒権限 ※管理画面に入れません。利用可能な機能(サイト):学校サイト、ビューア(マーカー、メモ等)、マイページ機能(ニックネーム設定、読書履歴等)、特集ページ閲覧、POP閲覧、感想文執筆トライアル提供物 :読書館アイコン画像、URL情報、アカウント情報(CSV)<読書館トライアル>利用期間 :1ヶ月(最大3ヶ月)利用アカウント数 :41アカウント 児童生徒ID(×40)+教員(×1)コンテンツ種類 :限定コンテンツ対象 :教育委員会、学校(学校長、教頭、ICT担当、図書担当、教員)利用料 :無償申し込み方法 :特約店経由またはトライアル版申し込みサイト利用可能な機能(権限) :児童生徒権限、教員権限利用可能な機能(サイト):学校サイト、ビューア(マーカー、メモ等)、マイページ機能(ニックネーム設定、読書履歴等)、管理画面、特集ページ作成・閲覧、自作コンテンツ掲載・閲覧、POP掲載・閲覧、感想文執筆・掲載 等トライアル提供物 :読書館アイコン画像、URL情報、アカウント情報(CSV)※トライアル版の管理機能や掲載コンテンツ数には制限があります。<詳細・トライアルのお申し込みはこちら>◆トライアル版の詳細および申込みサイトURL: 【読書館について】読書館は、子どもたちが読書習慣を身につける一助になることを目指して開発された電子書籍による読書支援サービスで、学校教育に携わるスタッフが選書した約16,000冊が、“いつでも、どこでも、読書”を実現する新しい読書環境を提供するものです。また、本を読むだけに留まらず、地域の書籍や自作コンテンツの読書館への掲載、特集ページ作成、ポップによる装飾、感想文の執筆&掲載など、利用者による“参加型”の電子書籍サービスでもあり創作意欲の向上も期待できるものです。<主な特長>◎約16,000冊が読み放題~小規模校にも公平に読書機会を提供◎洋書が読める◎自治体・学校別の独自サイト設定◎低コストで常時読書機会を提供◎貸出という概念が無いので、本の返却待ちが無い◎閲覧人数に制限がないので、クラス全員が同じ本を読める◎簡単操作~「読む」ボタンを押下するだけで本が読めるので、教員負担が少ない◎読むだけではない『参加型サイト』機能◎地域の書籍を掲載◎教員や児童のオリジナル文集や作品集を掲載◎特集・POPを設定◎「ハート」のお気に入りボタン◎読書量の分析~個人の読書履歴◎感想文の記録◎読書中に本に個人のマーカーやメモを記入◎新感覚の視覚的本探しUI『ワードサーフィン(R)』を搭載【エスペラントシステム 概要】社名 : 株式会社エスペラントシステム設立日 : 1979年5月1日所在地 : 本社 千葉県流山市前平井61番地 ESSビル代表者名: 代表取締役社長 中村 健二事業内容: コンピュータシステムの設計、システム開発、インフラ環境構築、保守運用、電気工事、LAN敷設工事、クラウドサービス、人材派遣等URL : 株式会社エスペラントシステムは、1979年より主にコンピュータシステムの設計、システム開発を行っているIT企業です。電子書籍関連事業には2010年から取り組み、デジタルコンテンツ配信や閲覧、管理、クラウドなどの周辺技術の経験を豊富に持っています。そのバックグラウンドを応用して、子どもたちに読書習慣を身につけてもらう為の機会創造として読書支援サービス『読書館』プロジェクトを立ち上げました。また、SDGsについても注目(注力)しています。紙を使わない電子書籍の普及により、貴重な地球資源の保護に繋がります。これもまた、読書習慣同様、子どもたちの未来に貢献する活動の一環であると考えています。いつでも、どこでも、読書に親しめる新しい読書インフラ(=読書手段の選択肢の1つとして当たり前になること)を目指し、読書館は子どもたちと一緒に成長してまいります。 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2024年05月09日