31音にこめられた実感 子育てまっさかりの女性歌人たちが詠む短歌
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子育て中の女性と短歌は、とても相性がよいのです。5・7・5・7・7文字の31音で完結する短歌には、短いながらにさまざま感情や情景が込められています。今回は、育児や家事をしながら言葉をつむぐ現役ママさん歌人たちが詠んだ、子育てをテーマにした短歌を紹介します。短歌のなかにはまさに「子育てあるある」がたくさん詰まっていました。
子育てはネタの宝庫!?
はじめに紹介する、春野りりんは、水彩で描くイラストのような作風が持ち味。昨年出版した歌集『ここからが空』(本阿弥書店)は、わが子の成長をよろこぶ、素朴で心温まる1冊です。そこに載っている短歌を数首、ご紹介します。
「幼稚園 受験願書にひろびろと 長所欄あり 花の種をまく」 春野りりん(『ここからが空』)
「手をあげて こたへる児あり 診察に ほかの患者のよばれるたびに」同上
「母親はムスカ大佐、父親はオバマと登録されたるケータイ」同上
病院でほかの患者が呼ばれても手をあげて返事をしてしまう…そんな愛らしい時期はひとときしかありません。
作者がそうした、かけがえのない蜜の期間を大切にしていることが、短歌から見て取れます。「現在」にしかない、時間のきらめきが魅力的です。
特別じゃなくていい。日常こそが、かけがえない日々
中井守恵は、仙台在住。2014年に角川短歌賞次席に選ばれ、50首連作「あかるい春」で、息子と過ごす日常風景を詠い、注目されました。
「震災を 思い起こせば その刹那 「きらきら星」を子は歌いだす」中井守恵(『短歌人』2016年1月号)
「蟻を追う 息子のうなじを眺めれば しののめ色になりゆくこころ」同(『短歌』2014年11月号)
「たいせつにたたむ靴下 草原に恐竜二頭が描かれていて」同上
蟻を追いかけたり、靴下を畳んだりという何気ない生活を通して、赤ちゃんから子どもに少しずつ変わっていくわが子をいとおしく見つめる母親の姿が印象に残る歌ではないでしょうか。