31音にこめられた実感 子育てまっさかりの女性歌人たちが詠む短歌
子育てはキレイごとだけじゃない、母の葛藤を詠んだ短歌
次に紹介する森尻理恵は、地球物理学の研究者。子育てと研究を両立する日々を詠った歌集は読みごたえがあります。キレイごとだけにとどまらず、ワーキングマザーの葛藤をありのままに表現しています。
「何もかも ママのせいだと子は泣きぬ 例えば庭が暮れゆくことも」森尻理恵(『グリーンフラッシュ』)
「黒で絵を描く子は心が病んでいるとテレビは言えり さあて困った」同上
「子をなして ハンディー負うは女ゆえ 君が決めよと同業の夫」同上
「抱き方の下手なるわれによりすがり 泣く子に不思議な温かさあり」同上
小さくても子どもは1人の人間。それゆえ、人が人を育てる過程には、ときに修羅場をさけて通れないこともあるでしょう。しかし、たとえ抱き方が下手であってもやはり、子どもは「ママが大好き」なのです。
焦りや不安などの気持ちを素直に認めて短歌にしている面に、とくに共感しました。
歌集は育児書や育児体験記のような実用書ではありません。
しかし、ママさん歌人たちの作品には、ハウツー本でも得られないようなリアリティーがあり、他人にはおいそれと語れないような育児への不安や本音、そしてわが子への思いが込められていました。
「「赤ちゃん」と かつて赤ちゃんだった子が 寄って行くなり 桃咲く道を」川本千栄(『樹雨降る』)
ここに描かれている赤ちゃんも、やがて子どもになり、その後大人へと成長していきます。一瞬ごとに変化していくわが子の姿に、歌人たちは今日も、ことばをつむぎます。
(有朋さやか<フォークラス>)