心配になるのは幸福のバリエーションを少ししか知らないから【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第22話】

2017年5月16日 17:00
 

紫原明子 ライター
紫原明子


私のお腹から生まれてきた瞬間の夢見は「え……もう? もう出なきゃいけないんですか?」という戸惑いの表情を浮かべていた。というのも、大人の事情で彼女には、そもそもの予定日より2週間ほど早く、人工的に陣痛を起こして出てきてもらったのだ。

私の母は、二人目の孫となった夢見の顔を見るなり「なんとまあ、控えめな顔ねえ」と言った。控えめな顔って表現もどうかと思うけど、言いたいことは分かった。この子は私の子どもの頃のように、ホウキをもって男子を追いかけたり、殴り合いの喧嘩をしたり、そういうことはしないんだろうなと感じた。新生児ながらに、遠慮深そうな顔をしていたのだ。

そして、現実にそんな風に育っていった。幼稚園に迎えにいくと「今日は滑り台の上に座ってニコニコしながら空を見てましたよ〜」とか「部屋で絵を描いてましたよ〜」とか、とにかくやたら、単独行動の報告ばかり受けるのだ。何となく心配になって「娘には友達がいないんでしょうか?」と尋ねると「友達がいないわけではなくて、一人が好きみたいです」と言われ、なるほど、と思う。

一人が好きならまあいいか……とはいえやっぱり少し気にかかる。何しろ夢見は、自分が楽しくおもちゃで遊んでいるところに友達がやってきて「それ貸して」と言われれば「いや、見ての通り今これで遊んでるでしょ、だから待ってて」とか言わずに、すぐにホイホイと手渡してしまうのである。いくら一人が好きでも、幼い頃に「貸して」「貸さない!」とかの痛々しいやりとりを経験していかなければ、大人になって、この世知辛い東京砂漠を生き抜く強さは身につかないんじゃないか?

人の輪の中で、必要以上に我慢したり、飲み込んだりせずに、やりたいことを、やりたいようにやる。そんな強さを、この子はちゃんと身につけていけるのだろうか。親として、備えさせてやれるのだろうか……?

ところがそれから10年近く経ち、気がつけば夢見は、私が何を指導するまでもなく自分自身の力で、いつの間にやら相当なタフネスを身につけていたのだ。

「私、靖国神社に行ってみたいな〜」

夢見がウキウキでそう言い出したのは、2週間ほど前の土曜日のことだった。最近は歴史好きが高じて東京裁判を題材にした小説を書いている夢見。

「私は決してネトウヨじゃないからね!」と言い添えつつ、取材をかねて、どうしても靖国神社に訪れたいと言う。ところがその日の私には別件があり、連れていけないよと言うと、「オッケー。じゃ、一人で行ってくる」と即断。塾が始まるまでの時間を利用し、地下鉄を乗り継ぎ、一人で意気揚々と靖国神社へ向かったのであった。


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