連載記事:新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記
熟成肉と腐った肉は、熟女と腐女子くらい違う【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第37話】
ある日の夕飯に、スーパーで買った安い焼肉用の牛肉を焼こうとトレーからラップを外すと、一瞬ほんの少し、酸っぱい臭いが漂った。
(もしやこの肉……腐っている?!)
そんなはずない。だって買ったその日に冷凍して、二日後には冷蔵庫に移して、じっくり時間をかけて解凍したんだから。でも、さっきは確かに微妙な臭いがした。念のため、改めて肉を嗅いでみる。
酸っぱいと思えば酸っぱいが、生肉の臭いなんて大抵みんなこんな感じだと思えばこんな感じ。ま、しっかり焼けば大丈夫だろう。気を取り直して粛々と焼肉の準備を整える。
とはいえ、何も知らずに食べさせられるのは娘に悪いから、念のため娘の意志を確認しておこうと、カセットコンロをセットしながら尋ねた。
「もしも今日のこの牛肉が腐っていたら、どうする?」
「どうする?って、腐ってたら食べられないでしょ」
さも当たり前のことのように答える娘。
「だけど考えてみて。牛肉は腐りかけが最も美味しいという説もあるよ」
「ママ、腐った肉と熟成肉は違うよ」
「そうかな」
「腐女子と熟女くらい違う」
ぐうの音も出ない正論に打ち負かされ、まずは私が毒味を担当することになった。試しに肉を1枚焼いてみて、焼肉のタレにつけて食べる。うん、肉はどうやら大丈夫そう。
その代わり、やたらフルーティな焼肉のタレに、疑惑の矛先が移った。甘くて、少し酸っぱくて、少し発酵したような香り……。
焼肉のタレって発酵してたっけ? 考えてみればこのタレはいつ買っていつから冷蔵庫に入っていたのだったか、ちょっと思い出せない。
「タレが腐ってるんじゃない?」
私の様子を伺いながら娘が言う。う~ん、と頭を捻っていると、娘が付け加える。
「ま、一番腐ってるのは私だけどね」
「さっきから誰がうまいこと言えと」