虐待・ネグレクトとしつけの境界線って? 専門家に聞く【子どもを怒鳴ってしまった…これって虐待!?(前編)】

目次

・一般的な境界線は? 東京都発行の児童虐待予防パンフに見る「虐待」
・「虐待かどうか」ママたちが気になるのはなぜ?
・子どもを「かわいい」と思えない時があっても当たり前
・怒ることはしつけではない…虐待としつけの境界線
・子どもの存在を否定・無視することは「心理的虐待」
虐待・ネグレクトとしつけの境界線って? 専門家に聞く【子どもを怒鳴ってしまった…これって虐待!?(前編)】

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「大きな声で子どもを怒鳴ってしまったら、児童相談所の人が来た。近所の人に通告されたみたい…」。

ママ友の飲み会で、このような笑えない話が出ることも決して珍しくない昨今。つい子どもを怒鳴ってしまい「自分のしていることは虐待ではないか!?」と不安になっているお母さんも少なくないのではないでしょうか。

「どこまでが虐待で、どこまでがしつけ?」という疑問を解消すべく、都内で1991年より虐待防止に向けて電話相談を始めとした支援をボランティアで続けている、民間団体の「子どもの虐待防止センター(CCAP)」にお話をうかがってきました。

■一般的な境界線は? 東京都発行の児童虐待予防パンフに見る「虐待」

一般的には虐待とはどのような状況をいうのでしょうか。東京都発行のパンフレット「みんなの力で防ごう 児童虐待」(2017年度版)によると、虐待は、

1.身体的虐待 
2.性的虐待 
3.ネグレクト(養育の放棄または怠惰) 
4.心理的虐待


という4種類があります。2016年度の東京都の統計データでは、約10,000件の中で、心理的虐待が55.0%、身体的虐待が24.7%、ネグレクト19.5%となっています。


そして、実母による虐待は53.8%、実父によるものが38.7%となっていて、お父さんよりもお母さんの虐待が多いようです。

また、同パンフレットによると、虐待は子どもたちに次のような「深刻な影響」があるとされています。

*発育・発達の遅れなどの身体症状。
*情緒不安定、感情抑制、強い攻撃性などの精神症状があらわれることがある。


■「虐待かどうか」ママたちが気になるのはなぜ?

お話をうかがったのは20年近く子育ての電話相談をボランティアで受けてきたMさん。「虐待としつけの境界線はあるのでしょうか?」という冒頭の質問に対して、やさしい口調で次のような返事がありました。

Mさん:電話相談でも「これって虐待ですか?」とたずねるお母さんはいて、皆さんものすごく心配していらっしゃいます。でも、虐待かどうか、その境界線を引いて仕分けすることに、どれくらい意味があるのかな、とはちょっと思います。


思いがけない答えが返ってきて、ハッとしました。なぜ自分たち母親は「虐待の境界線」が気になるのでしょうか? 法律に触れるようなことは犯していないはずだし、子どもも元気に育っている。

それなのに心配なのは、「自分の子育てはこれで大丈夫」という判断基準がない不安からでしょうか? 「虐待じゃない。しっかり子育てをしているよ」というお墨付きを誰からかもらいたいという気持ちなのでしょうか?

「自分は虐待の境界線を知って、どうしたかったんだろう?」。そんな気持ちとともにインタビューは進みました。

Mさん:私はまず、相談してきた方に「あなたはどう思う?」とお母さんの思いを聞いています。あるいは、「虐待ではないかを判断する立場ではないけれど、あなたが、自分がしていることをあまり良いことだと思っていなくて、今、困っているように感じられるのだけど…」と話すんです。

── 虐待かどうかという答えを出さないんですね?

Mさん:たとえ「それは虐待ではありませんよ」と言われても、「良かった。
ホッとしました」と言って終わるものではありませんよね。モヤモヤを抱えているから電話をかけてきているので、しっかりその思いを聞かせていただきます。そして「少しスッキリしました」と言って電話を切ってもらいたいと思っています。

── 確かに、「虐待ではありませんよ」と誰かが保証してくれても、お母さんたちの「自分の子育てはこれで良いのか」という心配がなくなるわけではないですもんね。

■子どもを「かわいい」と思えない時があっても当たり前

Mさん:子どもがかわいく思えないと、自分のことを母親失格のように感じてしまうお母さんも多いのが気になっています。だだをこねて泣き叫んでいれば、かわいく思えない時だってあって当然なのに、「ダメな親だ」と自分を責めてしまうのです。

── その気持ちよくわかります。私も、遠くから眺めている時と寝ている時はかわいいのになあ、と思うこともしょっちゅうです。


Mさん:お母さんにとって、子どもは大事な存在で、だからこそ精一杯努力しているわけです。でも努力が報われなかったり、ギリギリの状況になったりした時はかわいく思えなくても普通なんだ、と自分を許してあげていいと思います。

── 子どもをかわいくないって思う気持ちがあってもいいんですね。

Mさん:大事だから放りだせないし、もっと子どものために良くしてあげたいし、だけどうまくできないからイライラもするし、腹も立つ。そして、そういう自分を責めてしまうんです。そんな時は寝顔を見て「かわいい!」というので十分だと思います。


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