連載記事:イクメン脳研究者が教える“脳から考える子育て”
親の「算数苦手」脳は子どもに遺伝する?【イクメン脳研究者が教える“脳から考える子育て” 第1回】
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「子どもが自分に似て、算数が苦手になったらどうしよう」
「わが子には、算数嫌いになってほしくない」
子どもが成長するにつれて心に沸々と湧き上がる、文系ママたちの悩み、切なる願い…!
「“文系脳”の親から生まれた子どもは、やっぱり“文系脳”になるの?」
「憧れの“理系男子”や“リケジョ(理系女子)”に育てるのは絶望的?」
「親が苦手でも、生活習慣で改善できるものなの?」
そんな文系脳のパパママの疑問(もしくは叫び?)を、脳の成長・老化について研究している東京大学・薬学部教授の池谷裕二先生にうかがいました。ご自身もふたりの娘さんの子育て真っ最中の池谷裕二先生の視点・言葉には、子育てのヒントがたくさんあふれています。
池谷裕二先生 プロフィール
研究者、薬学博士。東京大学・薬学部教授。専門は神経科学および薬理学で、脳の成長や老化について研究している。『海馬』(新潮文庫)、『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス)など著書多数。近著に『パパは脳研究者』(クレヨンハウス)がある。プライベートでは二児の父。
■遺伝だけではない!? 算数が苦手な原因、実は…
―― まず、単刀直入にお聞きします。親の「算数苦手」は子どもに遺伝するのでしょうか?
池谷先生:たしかに遺伝子の影響はある程度あります。
算数だけでなく、絶対音感や読み書き、第二言語の習得、スポーツなどにも遺伝子の影響があることがわかっています。
でも、もっと大切なのが、「環境による影響」です。小学校低学年時の担任の先生が「算数苦手」だと、そのクラスの子どもたちは、その後も算数の成績が低迷するといったデータが実際にあります。先生の「算数って難しいよね」などの発言があったと推測されます。
―― ええ!? 環境による影響も大きいのですね。遺伝と環境による影響、割合としてはそれぞれどれくらいでしょうか?
池谷先生:半々くらいですね。8、9歳くらいまでは感受性が高いので、環境による影響に気をつけてください。特に女の子は「女の子って算数苦手だよね~」といった周囲の何気ない言葉から、「私は算数が苦手」という自己暗示をしてしまいがち。
その後、算数が得意な先生にならってもなかなかリカバーできない傾向があります。
■何気ない「ママが算数苦手だったから…」発言はNG!
―― 親の接し方によっても影響があるということですね。算数が苦手なママはどうすればいいのでしょうか?
池谷先生:親が「私は算数が苦手だから…」と思っても絶対に言わないことが大切。少なくとも、幼児や小学校低学年の子どもよりはできますよね。劣等感からはじめると何事もうまくいきません。ここは堂々としていましょう。
―― 子どもが計算を間違えたりしたら、「ママが算数苦手だから、あなたもそうなのかもね」と言ってしまいそうです。
池谷先生:それだけは絶対にやめましょう(笑)。
ぐっとこらえてください。わざわざ幼児教室などに通うことはありませんが、もしママが算数苦手だとしたら、算数が得意な人と子どもが接する機会を持てるといいですね。
たとえば、パパが算数得意なら、土日はパパと一緒に積み木や数あてっこ遊びをするとか。算数が苦手ではない児童館の先生やおじいちゃんなどと遊ぶのもいいと思います。