小さな“君”と歩んだ日々…母の日にこそ読み返したい号泣必至の名作『君の春』
春は旅立ちのとき。
新生活を迎え、まだ体になじまない制服姿やスーツ姿の学生や新社会人を目にするたびに、当時、不安と希望を胸に抱いた若かりし日々の自分を思い出す大人たちも多いかもしれません。
目の前に続く未来への道を進むのに、精一杯だった青春と呼ぶべきひととき。
背中を見送る親の気持ちを想うより、未来が待ち遠しかったあの頃。
しかし、年月を経て、「見送られる側」から「見送る側」の親の立場となったとき、ワクワクしたはずの”旅立ちの春“は全く違う光景として目にうつるのです。
そんな親目線の“春の旅立ち”を描いたにしむらアオさんの漫画
『君の春』は、母親として子を想う気持ちとともに、自分自身の旅立ちを見送ってくれた母親への想いが不思議と交錯するストーリーに仕上がっています。
■なんてことのない日々のぬくもり…君がくれた幸せのかけらたち
『君の春』は、巣立っていくわが子を前に、親子で共に歩んできた日々を振り返る母親のモノローグから始まります。
「子どもなんてそんなに好きじゃない…」、そう思っていた昔の自分を見事に裏切ってくれた“君”との出会いから始まった母親として生きるステージ。
自分以上に大切な存在と巡り合えた幸せをかみしめながらも、初めての育児に戸惑い、迷い、そのなかで変化していく母親の心情や親子の距離感が印象的に描かれています。
はかなくて、壊れそうだった小さな“君”をただただ守ってあげたいと願っていた日々。
しかし成長するにつれ、そんな親心がもしかしたら間違っているのでは…と気づき、少しずつ手を離し、見守ることを学んだ時間。
どれも“君”がくれたかけがえのない経験だったのです。
「小さな君を抱っこして眠れなかった夜」も、
「小さな君の手を引いて歩いた道」も、あとですごく大事になる、そしてうんと懐かしくなることを、育児に奮闘する今の自分に伝えたいメッセージのように心に響きます。
赤ちゃんと2人で過ごす生活のなかで、ときに孤独や不安といった感情に支配され、ままならない育児に心が砕けそうになるだってあります。
だけど、何気ない日常の隙間に、そこはかとなく輝く、まるでギフトのような瞬間が母親の心が救うこともまた事実なのです。
小さなわが子を胸に抱いて感じた幸福のひととき。
今まで知ることもなかったような穏やかな幸せが、確かに母親の心に刻まれていくのです。