■家庭でできる「世界基準」の子育てとは
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――家庭でできることは、どんなことがあるのでしょう?
ボークさん:リベラルアーツ的思考力の素地を作っていくことは、小さな子どものうちからできます。
子どもが主体性を持って、話したり、何かに取り組んだりすること。それこそがリベラルアーツなのですから。
家庭では、毎日の会話で、十分にできます。習慣化することが大切です。1回やった、では習慣になりませんから、毎日、続けるのです。
――具体的に、どのような会話をするといいのでしょう?
ボークさん:何かについて
「なんでそう思うの?」という素朴な疑問を声にすればいいだけです。
「日本の英語教育は世界でも誇れるものです。日本で高校を卒業すれば、日常会話や仕事でも通じます。ただ『話す』『聞く』が足りないから、日常で例えば教科書を家庭でお母さんと読んでみたりするだけでもいいんですよ」(ボーク重子さん)
対話は、難しいことではありません。「今日、幼稚園で何をやったの?」とか「今、冷蔵庫にこれしかないんだけど、晩ご飯、何が作れるかな?」とか何でもいいんです。「このご飯、もっとおいしくするには、どうしたらいいと思う?」とか。
――質問をすることが家庭でのリベラルアーツの培い方では大切なのですね。
ボークさん:対話で大切なのは2つだけ。
●1つ目は、考える機会を与えること。
その引き金になるのが、こちら側からの質問。質問されると考える。もっと成長して大きくなったら、自問という方法もあるけれど、それができるようになるまでは、他者が質問することで考える機会を作ってあげればいい。
●2つ目は、表現する機会と安全な環境を与えること。
質問されて考えて、自分なりの考えを持てたとして、それを相手に伝わるようにするには、外に出す機会がないと習慣化しません。そして子どもが自分の考えを表現しやすい環境が大切になってきます。
最初は、たどたどしい説明かもしれないけれど、「そうなんだ、そんなふうに考えたのね? どうしてそんな風に考えたんだろう?」と質問を挟んだりするうちに、徐々に論理的に考えられるようになります。そして、徐々に論理的に、他者に伝えられるようになります。
■正しさにとらわれて親が裁判官になってはいけない!
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――子どもとの対話で注意すべきことはありますか?
ボークさん:大切なのは、子どもが自分の考えを外に出すときに、聞き手がジャッジ(判断・批判)してはいけないということ。「なんでそんな風に思ったの!おかしいんじゃない?」などと、
親が裁判官になってはいけません。
親が裁判官になってしまうと、子どもは、「親にとって正しい答え」を言おうとしてしまうからです。そうすると、親の顔色をうかがうようになって、自分で考えることをしなくなります。
聞き手は、子どもがどんな突飛な発想で答えても、ユニークな言葉を選んでも、正誤を突きつけない。
何を言ってもいいんだという環境をまずは作ってあげることが重要です。
そうでないと、子どもに、「ここは安全な場ではない」と思われてしまいます。安全な場だという認識が持てて初めて、子どもは自分なりの考えを安心して聞き手に伝えることができるのです。
――ボークさんご自身もそのような対話を実践してきたのでしょうか?
ボークさん:じつは、私はもともと指示待ち人間でした。「結果を早く出せることが優秀で、それが評価の基準だった時代の教育」で育ったので、アメリカに移住したあとは、人と対話することを恐れていました。
「自分の発言が間違っていたらどうしよう」、「こんなことも知らないのと思われたらどうしよう」、「私の質問で相手を傷つけたらどうしよう」といった感じで思っていたのです。
だから、当時の私と同じように、「どんな対話をすればいいのかしら」とプレッシャーを感じるママがいてもおかしくありません。でも、一番重要なのは
子どもに興味関心を持つこと。好奇心があれば、自然と質問は出てきます。
私自身の子育てを振り返れば、「今日、学校で何したの?」など、いろいろと質問をしただけでした。たくさん質問してもらえると、子どもは「自分に興味を持ってもらえている」とうれしい気持ちになります。
「やりなさい」「こうしなさい」と指示するように話すのでなく、子どもに興味を持つことで生まれる質問を大切にしていました。
――ボークさんが子育て中に対話でよく取り上げた話題は何ですか?
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ボークさん:身近なことが多かったですね。晩ご飯のメニュー決めなどは、本当に身近で小さな子でも関心が持ちやすいと思います。
たとえば、「冷蔵庫に人参とジャガイモと玉ねぎとお肉があるけれど、これで何が作れると思う?」と親が聞くとします。子どもがカレーと答えたら「そうね、カレーもいいね。カレーができるね」と返事してあげればいいのです。
もしも、家族の誰かがランチにカレーを食べていて、晩ご飯もカレーになってしまうのを避けたかったり、体調を崩していてカレーがふさわしくなかったら、「カレーなんて○○だからダメでしょ」と否定してしまわずに、「カレーの他にも何か作れるものはないかな?」とか「カレーもいいけれど、他にこの材料で食べたいメニューはないかな?」と、新たに質問を投げかけるのです。
即座に否定してしまっては、「わかってもらえない」「伝わらない」と子どもは不安を抱えてしまうだけです。
でも子どもにとっては親に「カレーはどう?」と提案するには、不安があります。なぜならママに「できないやつ」と思われたくないから。
そのためには大事なことはパパとママがロールモデルになることなんです。
グローバル社会を生き抜くためスキルを付けるために、家庭での親子の会話がとっても重要だと話すボーク重子さん。
次回は、子どもが「自分で考えて自分で問いをみつけて、自分の意見を言う」ために必要となってくるパパとママの対話についてお話を伺います。
またワンオペ育児と言う言葉が聞かれる日本の現状について、ボーク重子さんは「驚きとショックで震えた」と語ります。そんなボーク重子さんが日本のママに伝えたいこととは?
■今回のお話を伺ったボーク重子さんのご著書
『世界基準の子どもの教養』(ボーク重子/ポプラ社 1,600円(税抜き))
ボーク重子(ぼーく・しげこ)さん
ICF認定ライフコーチ。アートコンサルタント。
福島県出身。米・ワシントンDC在住。子育てと並行して自身のキャリアも積み上げ、2004年に念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年にワシントニアン誌上でオバマ前大統領(当時は上院議員)と共に「ワシントンの美しい25人」の一人として紹介される。『心の強い幸せな子になる0〜10歳の家庭教育「非認知能力」の育て方』(小学館)、『「全米最優秀女子高生」を育てた教育法 世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)のほか、近著に『世界基準の子どもの教養』(ポプラ社)がある。
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