こども政策・少子化対策、若者活躍を担当する、辻清人内閣府副大臣。ご自身も2人の小学生のお子さんを育てる現役子育て世代。子育て支援策は、市区町村がメニューの充実を加速させていますが、自治体の財政力の差に影響されることも懸念されています。地方からは、「本来、国の役割では?」という声も聞こえます。そこで、辻副大臣に、国が進める子育て支援策について伺いました。
お話を聞いたのは…
辻清人 内閣府・こども家庭庁 副大臣1979年9月7日東京都出身、45歳。4歳から17歳までをカナダで、25歳から32歳までをアメリカで過ごす。京都大学経済学部卒業、米コロンビア大学公共政策大学院修了。米戦略国際問題研究所(CSIS)研究員。TOKYO自民党政経塾7期生。
※辻の表記は一点しんにょう。
>>辻清人公式HP
―辻副大臣はこども政策もご担当されていますが、今、国として子育て支援策の柱というのは、どこに置かれていますか。
辻副大臣:まずは全体としての底上げですね。こども家庭庁を設立した理由にもなりますが、昨年、こどもに対する政策経費を、2028年度までの3年間で3.6兆円を投じることを決めました。「こども未来戦略」で掲げた3年間の集中的な「加速化プラン」を実施していくことになります。
―これまでに比べてかなりの増額ということになりますね。
辻副大臣:そうですね。スウェーデンは、GDPの16%程度を使っているので、それに比べるとまだまだかもしれませんが、日本も10%の大台に上げるということにしています。子育ての中心は家庭であり、地域や学校だと思いますが、国としては、困窮家庭へのセーフティネットも必要という認識の上、それだけではなく、中間層の方々でも子育てはやはり大変だと思うのです。出産から始まって、育児休業を取得するのも保育園を探すのも大変ですよね。そういったライフステージごとに、こども家庭庁を中心にしっかり支援していくことが必要だと思っています。社会も生活スタイルも変わり、子育ても100年前とは違いますから。
―具体的にはどのような内容ですか。
辻副大臣:児童手当支給の所得制限を撤廃し、また、従来中学生までであった支給対象年齢を高校生年代まで拡充するとともに、3人以上のこどもを養育する家庭への第3子以降を対象とする多子加算額を月額3万円に増額しました。ひとり親家庭を対象とした児童扶養手当についても、就労収入の上昇等を踏まえた所得制限の見直しを行うとともに、生活の安定のため特に支援を要する多子世帯への多子加算額を拡充しました。令和7年からは、こども3人以上の世帯への大学等の授業料等の無償化の拡充を行うべく、令和7年度予算案を提出しています。
―地域によってばらつきがないように、子育て世帯全体に関わる政策の実施ということですね。
辻副大臣:私の選挙区は東京ですが、地方から「東京は財源があるからできるけれども、我々は財源がないからできない」とよく言われます。その不公平感がないように、国が一定程度水準をしっかり上げることは必要だと思っています。一方、地方が独自の政策をやりたいということに対して、他との足並みが揃わないからやめてくださいとは、もちろん言いません。むしろそれをやっていただいて、例えば東京や大阪が独自のことを試みて、それが国全体でやるべきことというふうに横展開するベストプラクティスの政策が今後出てくるかもしれないとも思います。ですから、地域の創意工夫というのは、国としては奨励したいと思っています。例えば、医療費は、色々な自治体でいち早く無償化の促進をしていますが、国としての政策とぶつかりませんし、仮にぶつかったとしてもそちらを優先するということはやっていこうと思っています。
―医療費を無償化は、子育て世帯には大きいですよね。こどもって、本当によく病院にかかるし、予防接種も自費だと結構高いですからね。
辻副大臣:そうですね。例えばこども政策に手厚い北欧などでも、こども政策に必要な経費がどこかというと、やはり医療なんですね。ただ、今、国の施策として足りないところには重点的に行っていきますが、それ以降、国がどこまでやっていくかということについては、社会のあり方を見ながら、常にその時々のニーズを把握していかなければと思っています。
―子育ては確かに大変で、財政的にも時間的にも苦しい時もありますが、その一方で、子育てに専念することも含め、女性が社会にいることの方が優先され、そのための子育て支援をあまりやり過ぎてしまうと、では親の役割は何かとか、親子を離す方向へ持っていくことで良いのかということに疑問を感じることもあるんです。その中で、国が行う子育て支援が、国の考え方を表す一つになると思うのですが、その点はいかがですか。
辻副大臣:こども家庭庁を作ったのは、まさに「こどもまんなか」で、こどもにとって良いことをしようということです。例えば、待機児童が発生しない体制づくりや、男性の育児休業取得率、これは最近3割を超えましたけれども、最終的に8割超えにするといった目標を設定しています。しかし、行政側として、人間がこうあるべきだっていうことを押し付けたいわけでもありません。社会はこうあるべきとか、家族のありようにまで国が口を出すことは極力やりたくないんです。一方で、「こうしたい」ということに関しては、なるべく実現できるようにしたい。私も公職に就く人間ですが、1人の親としては、「こどもと一緒にいたい」という親の気持ちはやっぱりあるんですよね。
―政治家だとプライベートは犠牲になって当たり前のように思われてしまうところもありますが、子育て現役世代の政治家の方は、今は、積極的に子育てに参加しているという話も聞きます。
辻副大臣:職業に関係ないと思いますが、24時間、こどもをどこかに預けて、では親として楽しいかといったら、決してそうではないと思うんですよね。朝早く起きることも面倒かもしれないけれど、その面倒なことを全部取り除くようなことに国が手を出すのはやはり良くないと思うんです。
―私も20歳になったこどもをこれまで育ててきましたが、こどもから学び成長させてもらうこともとても多かったと思っています。そういう部分をもっと声を大にして言わなければ、と思います。
辻副大臣:人って、誰かを助けたい、誰かのために役に立ちたいという気持ちがあると思うんです。その対象の一つがこども、とも言えるのではないかと思っています。
子育て現役世代の辻副大臣だからこそ、リアルタイムで感じる親としての思い。それを政策に反映されることを期待したい。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。