再開発が進み、この20年で10万人もの人口が増えた港区。「キラキラ」とした街がたくさんある一方、今やマンション住民が9割にも上る中、それはそれで子育てには大変な面もあります。清家愛港区長に、港区の子育て支援について、お聞きしました。
お話を聞いたのは…
港区 清家愛区長1974年生まれ、港区東麻布生まれ。青山学院大学国際政治経済学部、国際政治学科卒業(現代ロシア論・袴田茂樹ゼミ)。産経新聞の記者として7年、主に社会部で事件、行政取材を担当。結婚・出産と仕事の両立に悩み、退社。フリーランスになるも、待機児童のため西麻布で子育てに専念。保育園にも幼稚園にも入れない港区の現状はおかしい!と、ブログ上で現場の声を集め、行政に提言する「港区ママの会」を発足。2011年4月、港区議会議員選挙5位初当選。3期連続トップ当選で、4期13年区議を務め、2024年6月港区長初当選。
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―まずは、港区の基本的な子育て施策の方針からお聞きできますか。
清家区長:『世界一幸せな「子育て・教育都市」』を重点施策の一つに掲げています。親の就労の有無に関係なく、また子どもに障害があるなしに関係なく、そしてどの国籍の子でも、等しく良質な保育サービスと教育にアクセスできる環境を整備したいと思っています。
―具体的にはどのようなことを進めているのですか。
清家区長:例えば、今年1月に、病気回復期等のお子さんをお預かりする病児保育室を、新たに麻布十番に開所しました。また、一時保育なども、なかなか必要な時に見つからないという状況があることから、今年度からマッチング型のベビーシッター利用料の補助を開始します。港区では、乳幼児の一時預かりの「お断りゼロ」を目指しています。
―港区議会議員時代も含め、そのあたりは、区長ご自身の「お母さん目線」で取り組まれているのですか。
清家区長:そうですね。自分が港区議会議員になったきっかけでもあるのですが、子育てをするようになって、「地域に戻る」というのがありますよね。今、高校3年生の娘の子育ての中で、港区の場合は再開発が進み、タワーマンションが増えて、ほとんどが核家族、そして区外から来た人で、「実家」がない状態。当然のことながら保育園も不足していましたし、まずは、「実家のような子育ての体制」が必要だと思いました。
―私にも20歳の息子がいて、生まれた当時は本当に保育のサービスが少なくて、私のようなフリーランスはほとんど使えないものでした。
清家区長:今は、女性も働くことが当たり前になっていますが、仕事の事情だけでなく、母親は、子どもの預け先がないと病院にも歯医者にも、美容院にも行けないということにもなりますよね。
―本当にそうです。自分のことは後回しで、歯なども相当痛くなって、やっと歯医者に行く、みたいな。
清家区長:そういう人は多いと思います。区議会議員の時も、母親の目線での保育サービスの制度を作ってきましたが、結局のところ、制度はあっても使い勝手が命だったりするんです。
―利用者目線で制度を作っていくということですね。
清家区長:そうですね。私は麻布で育ちましたが、麻布でも外に出れば、子どもたちが自由に遊んでいるところを近所の人たちが見てくれるような豊かな環境がありました。でも、今はそういうものがない中で、雨の日なんか本当にどうやって遊ばせればいいんだろうみたいな感じですよね。それだけで、お母さんたちは追い詰められられてしまう。昔と子育ての環境が違うんだっていうところから、制度を組み立てていく必要があると思っています。お母さんが辛くなったら子育てが辛くなってしまう。それは子どもの育ちにも影響が出てしまうんです。
―今は、子育て支援といえば、無償化がトレンドとなっています。港区は平均所得も、全国の約3倍で、高所得者も多い中、それでも所得制限なしの無償化施策を進める理由についてはいかがですか。
清家区長:児童や生徒が安心して学習に取り組み、学びを深め、個々の能力を大きく伸ばせる教育環境を整備するために、所得制限を設けないことにしていますが、「子どもが安心して学べる環境」は義務教育として、憲法でも保障されています。ですから、ここは本来、国としてやるべきことだと思っています。一方、港区も、やはり少子化は進んでいて、色々対策をやるのも、個人的には遅すぎると思っていますが、しかし、少しでも少子化のスピードを下げるためにも、やらなくてはいけないことだと思っています。その中で、子育てのコストが、そのリスクにならないようにしたいと思っているのです。
―子育てには確かにお金がかかりますが、高所得者にとっても、リスクにならないようにということですか。
清家区長:若い人たちは、それでも今、精一杯なんだと思うんです。経済的な安心感がないと、子どもをもとうとなかなか思えないですよね。港区は確かに、子どもを私立に行かせるご家庭も多く、それはそれぞれでいいと思っていますが、それでも、誰でもが、この先何が起こるかわからない。シングルマザーになるかもしれないし。そういった時にも、子どもはちゃんと育つよ、という仕組みを、社会がきちんと持っていないといけないと思っています。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。