11歳がユーチューバーに!動画作りがもたらした驚きの変化
将来の夢ランキング上位にユーチューバー!
小学生の将来の夢ランキング上位に「ユーチューバー」がランクインするようになって久しい今日この頃。
念のためどういった”職業”なのかを簡単に説明しましょう。「YouTube(ユーチューブ)」という動画サイトでは個人でも自由にアップロードできるプラットフォームがあり、ブログのように好きな動画を投稿、公開することができます。内容は法や公序良俗に反しないものであればなんでもよく、おもしろければ世界中から数万、数千万という閲覧者を集めることも可能。動画には広告バナーをはりつけることができ、閲覧者数や視聴時間数に応じて広告収入を得ることもできるのです。もちろん、数万という閲覧者数を稼がなくては生活できるほどの収入にはなりませんが、継続的におもしろい動画を投稿する人気のユーチューバーの中にはこの動画投稿だけで年に数億も稼ぐ人もいて、子どもたちから見れば“おもしろいことをして大金が稼げる仕事”に見えるのが、人気の理由かもしれません。
さて、動機はどうあれ、ユーチューバーとして自分のチャンネルを持ち、動画を制作・配信するのはけっこうおもしろそうです。実際にユーチューバーデビューしたばかりのマレーシア在住のレオくんと、制作を手伝うお母さんのAYAさんにお話を聞きました。
今年の5月にユーチューバーデビューしたばかりのレオくんとお母さんのAYAさん。マレーシアでの生活の様子をほのぼの配信中(写真:AYAさん提供)
ゲームに没頭する息子を憂い、番組づくりを提案
実はユーチューブ用の動画制作をレオくんにすすめたのはAYAさん。11歳のレオ君はマインクラフト(マイクラ)などのゲームにハマるお年頃。ゲームやネットに没頭することが多く、あまりほかのことに興味を示さなくなったことを憂えてのことでした。レオくんが日本の人気ユーチューバー・ヒカキンさんに憧れていたため、「ユーチューブ番組を作ってみようか?」と提案したのです。それまで本も読まず、ひたすらネットにかじりついていた息子が、きらきらと目を輝かせ、「やってみたい!」と飛びついたことは言うまでもありません。
まずは2人でどんな番組を作るかを相談しました。ありきたりなマイクラ中継や工作といったものはやめて、マレーシアに住んでいるレオくんらしいものはなにかをじっくり話し合い、レオくんの希望を最優先に、無理のない範囲で続けられる、マレーシア生活の様子を紹介するほのぼの番組に決定。
タイトルの『ごくもじゃTV』は、家で買っているプードルの毛が「すごくもじゃもじゃ」、つまり“極もじゃ”だからだそうです。
ウケ狙いではない、ホンモノのほのぼの動画
さて、初めての投稿は「ニトロパフを食べてみる!」に決定。パリパリの小さなケーキのようなパフに液体窒素(のようなもの)がしみこませてあって、食べるともくもくと煙が…という、日本では見かけたことのないお菓子「ニトロパフ」。どうやらこちらはロサンゼルスの人気店の看板メニューのようですが、なぜかマレーシアでは屋台で気軽に食べられます。レオくんがそのおもしろお菓子にトライした体験記でした。インターナショナルスクールに通うレオくんゆえ、おしゃべりは主に英語で、AYAさんが日本語の字幕をつけています。
たとえばフルーツの王様といわれるドリアンを食べる動画では、ドリアンの味や食感について、地元のフルーツ屋さんで食べながら紹介。ドリアン動画というと大げさに「うわぁ~っくさい!!」というリアクションのものがほとんどですが、レオくんは食べ方の注意や「匂いは最初びっくりするかもしれないけど、おいしいからぜひ食べてみて」という内容で、淡々としています。
オーバーリアクションでウケを狙う番組が多い中、実にほのぼの。ふつうにパクパク食べている様子から「ちょっと食べてみようかな…」という気持ちにもなりそうです。
1本の長さは4~5分程度と短くまとめますが、見た目ほど簡単ではなく、せりふを考え、音楽を決め、と1か月に1~2本作れればいいほう。著作権にもきっちり配慮し、音楽やアニメーション、動画なども有料アプリからダウンロードできる著作権フリーのものを使用しています。撮影はAYAさんが担当しますが、“ネタ”を仕込んでいるわけではないのでハプニングなどを撮りそこなうこともしばしば。なかなかうまくいかないことも多いのだといいます。
『ニトロパフを食べてみる!』からの一コマ。屋台で気軽に買えるお菓子、あやしげなニトロパフの作り方も撮影。
なにこれ気になる!
おお、これおいしいのね?ぐっ、とイイネな表情、が、次の瞬間…
しばらくすると息子に劇的な変化が…
ユーチューブ番組作りを始めてから、レオくんは生活を惰性で過ごすことがなくなり、一瞬、一瞬に気を配るようになったそう。ネタ探しのため、積極的にいろいろな人の話を聞くようになり、楽しいことはなにか、やりたいものはなにか、自分の気持ちを“共同制作者”であるAYAさんによく話してくれるようにもなりました。以前と比べコミュニケーションがぐんと増え、互いに向き合えるように。いつもなにげなくしていることも、番組制作を通して見てみるととても新鮮に感じることもあると言い、生活が楽しくなった、とAYAさんも話します。
ユーチューブは主に学校の友だちなどが閲覧してくれていて、話題になるのも楽しい様子。「アナリティクス(分析)」を見ると、どの国から閲覧されたかがわかりますが、マレーシアや日本だけでなく、インドやアメリカなど世界中からその動画を見にきてくれていることがわかり、それもうれしいことのひとつ。
反面、「Dislike(“いいね”の反対)」がついたときはちょっと落ち込んでしまったそうですが、これも「すべての人に好かれるということは世の中ではありえない、いろいろな反応があるものだ」ということをレオくんが身をもって知るいい機会になっているとAYAさんは考えています。
「親子の思い出として、いつかレオが大人になった時に2人で懐かしく、笑いながら観られたらすてきだろうな。
こんなコトやったね!と達成感を感じられたらいいなと思っています」というAYAさん。
確かに、高学年になり、反抗期を迎え、中学生になると部活などで忙しくなり一緒に時を過ごすことが少なくなってくる子どもたち。親が教えるのではなく、子どもの自主性に任せながらもここまでじっくりとお互い向き合って一緒に作業をするということは貴重な時間に違いありません。
人気ユーチューバーの番組内容はとかく奇をてらったものが多く、実はあまりいい印象がなかった筆者。しかしこんな効果があるのなら、子どもにもおすすめかもしれない、と思ったのでした。
<文・写真(特記以外):フリーランス記者岩佐 史絵>