覚えられない息子と忘れられない娘。対極の凸凹のある2人を見て気づいたのは…
今、何をしていたのかを覚えておけない息子
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わが家には自閉症スペクトラムと診断された小学1年生の息子と小学4年生の娘がいます。息子は不注意優勢型ADHDの特性が強く、娘はアスペルガーの特性が強いという特徴があります。
さて、先日息子の勉強を見ていたときのことです。
文字を書き間違え、「あ!間違えちゃったから、えーっとどうしよう...。そうだ!消しゴムで消せばいいんだった!」と言いながら、息子が筆箱から消しゴムを取り出しました。今までは文字を書き間違えるだけで「ママ、どうしたらいいの?」と半泣きで助けを求めていた息子。そんな息子も自分で解決策を見つけられるようになったんだなと、私は微笑ましく見守っていたのです。
ところが、消しゴムを手に取った息子はそれをじっくりと眺めた後、何を思ったか紙のカバーをはずしました。
そして匂いを嗅いで満足げにうなずいたかと思うと、今度はカバーを消しゴムに装着し、ゆっくりと筆箱に戻したのです。
えっ!?間違えた文字を消すんじゃなかったの!?という衝撃と共に観察を続けていると、息子は間違えた文字には見向きもせず、何事もなかったかのように、続きのマスに文字を書き出しました。
驚きを隠せぬまま「いやいやいやいや、何のために消しゴムを出したの?」と息子にたずねてみると…
「え?消しゴム?う~ん、そうだった!文字を消そうと思ったんだった・・・でももう続きを書いちゃったし、まあいいや!ね?」と朗らかな回答で押し切られてしまいました。結局消しゴムが本来の目的で使われることはなかったのです。
これは、お姉ちゃんである娘とは正反対。文字を一つ書き間違えただけで激怒し、自分を罵る娘の姿を見てきた私にとって、対照的な息子の朗らかさは少し微笑ましかったりもします。
しかし「今どんな目的で何をしていたのかを覚えていられない」という特性は、今もこの先も息子の人生に大きな影響を与えていくことになるのだろうなと不安な気持ちに駆られます。
過去の出来事がフラッシュバックし忘れられずに苦しむ娘
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一方、アスペルガー傾向の強い娘は、過去の出来事を忘れることができずに悩んでいます。
何年も前に〇〇君に押されたことが許せない、あの時〇〇と言い返せば良かった、できなかった自分が許せない、など、数年前の出来事であっても、さも今目の前でその出来事が繰り返されているように感じてしまうのです。そして、その記憶が頭をよぎった途端に激高し、再び傷つき恥をかき、怒りを噴出させるのです。
これは同じような特性を持つ私自身も長年苦しめられてきました。今でも30年以上前の記憶に縛られ、思いだすたびに「どうして忘れられないんだろう」「忘れることができればどれほど楽だろう」と苦しい気持ちにさいなまれていました。
そんな特性を持つ娘と私とは正反対の息子。
しかし、息子の「覚えられない」という特性もまた、日常生活のさまざまな場面でトラブルを生んでしまい、彼を苦しめる要素になるかも知れないなと感じています。
正反対の娘と息子。2人を見ていて思うこと
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息子は、忘れ物を取りにいったはずなのに気がつけばピアノを弾いていたり、ズボンを半分はいたまま本を読んでいたりすることがあります。さらには、喋っている間に自分が何を話そうとしていたのかを忘れることもあります。
周囲の人には「大丈夫!そんなこと、普通の人でもあるよ!」と言われることも多いのですが、不注意優勢型ADHDの特性が優位な息子の場合は、朝起きてから夜眠るまでずっと、これが続いているのです。
息子を観察していると、彼の世界では過去や未来というものがあまり認識されておらず、「今目の前にあるものが世界のすべて」という捉え方をしていることに原因があるような気がします。
先程の消しゴムの例でいうと、「文字を間違えた」ことは「消しゴムを取りだす」という動作を行ったことですでに過去のものとなり、今現在の彼の世界にあるのは「手に持った消しゴム」だけなのです。それを眺めているうちに「カバーを外したい」「匂いを嗅ぎたい」「カバーをつけたい」という欲求が次々と湧き出て、それをこなして行くことで世界は進んでいきます。
やがて「手に持った消しゴム」への興味はなくなり、筆箱に戻したところでノートと鉛筆に気づくと「何かを書かなくては」と焦り手を動かし始めます。しかしそのときにはすでに「文字を間違えた」という過去はきれいさっぱりと彼の世界から消えているのです。
「今、目の前にあるものが世界のすべて」という捉え方をする息子と、「過去が現在進行形で繰り返される」娘。
タイプの異なる二人を育てていると、同じ自閉症スペクトラムという診断がおりていても、表出する特性はこうも違うものなのかと驚かされることがとても多くあります。
娘に効果のあった工夫のしかたが、息子では混乱の原因になってしまうことも珍しくありません。兄弟といえど、一人ひとりの様子をよく観察しながら、その子に合ったサポートの方法を考えることの重要性をひしひしと感じます。
子どもたちが自分の特性を理解できるように
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いずれ子どもたちが自分の力で歩き出すときに、どんなことが必要になるでしょうか。
身の回りのことを自分でできるようになっておくこと、お金の使い方を知ること、他人とのコミュニケーションの取り方を身につけておくこと。
いろいろあると思いますが、私は「自分の特性を理解し、工夫する術を知っている」ということがとても重要だと考えています。
私自身も長い間、他人も自分と同じような感じ方・捉え方をしていると当然のように思っていました。そして、自分は他人より能力が低いために、人と同じように振るまえない出来損ないの人間だと思っていました。
でも、子どもたちが発達障害と診断されて学んでいくうちに、情報の認知の仕方も処理のしかたも人それぞれで、同じやり方で同じ結果が残せなくても、それは自分がダメな人間だからではないと知ったのです。
自分がどんなタイプで物事をどう処理しているのかを知る、苦手を工夫で補えることを知る、というのは、自分を否定せずに生きていくうえでとても大切なことだと思うのです。そんな思いから、私は普段から子どもたちとそれぞれの特性についてお話しをすることにしています。
「お姉ちゃんは過去のことが忘れられなくて苦しんでるんだよ。でも、いつも細かいことをたくさん覚えていてくれて、すごく助かっちゃうよ!頼りになるよね!」
「弟は覚えられなくていつも面白いことになっちゃうよね~!困ることも多いけど、気分をケロッと切り替えられるからそこはとってもいいところだよね!」
こうすることで、娘が辛い過去を思い出してるときに息子が頭をなでてあげたり、息子が今何をすべきかを忘れた時は、娘がさりげなくヒントを出してあげたり、お互いに助け合うことができるようになってきました。
ダメなところを否定するのではなく、苦手な部分はさり気なくサポートをし合える。家族でそれができるようになれば、今度は親しいお友だちや親戚と手を差し伸べあう。そんな風に子どもたちの世界が広がって行ってくれればいいなと思います。
皆様のご家庭でも、お父さん、お母さん、お子さま、おじいちゃん、おばあちゃん。
それぞれどんなタイプで、どんなおもしろい面やちょっと困った面があるのか話し合ってみませんか?
自分を知る、身近な家族を知ることが、子どもたちの世界が広がる第一歩になるといいですね。